『キカイダー REBOOT』:2014、日本

総理大臣の田部慎之介は様々な分野で活躍するロボットを生み出すため、国と企業が一体となったアークプロジェクトを立ち上げた。主任研究員を任された光明寺信彦は、ロボットではなくアンドロイドを作り出そうと考えた。光明寺が内部に良心回路を組み込んだジローを作ると、科学者のギルバート・神崎はマリという自作のアンドロイドと勝手に戦わせる。神崎は良心回路の弊害でジローの判断が遅いと指摘し、戦闘能力ではマリの方が上であることを見学していた椿谷国防大臣に説明した。最初から軍事利用が目的だったことを知った光明寺は激昂し、「ならば私にも考えがある」と口にした。椿谷は神崎に、光明寺の説得を約束した。
光明寺の死から1年が経過し、娘のミツコは弟のマサルを連れて墓参りに訪れた。ミツコは周囲に父親のことを話しておらず、親族は冷淡な娘だと陰口を叩く。大学生のミツコはネットジャーナリストを自称する服部半平に付きまとわれ、父のことを質問される。服部は光明寺が研究中に事故死したのにニュースにならなかったこと、計画が続行されていることに疑問を抱いていた。しかしミツコは相手にせず、その場から走り去った。
マンションに戻ったミツコは、ゲームに没頭するマサルに話し掛ける。しかしマサルは彼女を無視し、自室に移動した。服部が来たのでミツコが呆れていると、マサルの部屋に2人の男が乗り込んで拉致しようとする。助けようとしたミツコも屋上へ連れ出され、武装した集団にマシンガンを突き付けられる。そこへジローが現れ、一味を圧倒した。ミツコたちを庇ったジローは銃弾を浴び、キカイダーの姿に変身した。一味は巨大ロボットを差し向けるが、キカイダーに倒された。服部が屋上に来ると、シローは姿を消した。ミツコは目の前で起きた出来事について話さなかったが、服部は巨大ロボットの部品を発見した。
神崎は戦いの様子をモニターで確認し、邪魔をしたのが行方不明になっていたジローであることを椿谷に知らせる。椿谷は彼に、マサルを早急に確保して光明寺ファイルを入手するよう命じた。神崎はマリがジローより優れていることを主張するが、椿谷は「私は光明寺君が描いていた物の先が見たいだけだ。君が彼に勝とうが負けようが、私の知ったことではない」と述べた。研究所を後にした椿谷はマリから「なぜ彼にお任せしないのですか」と問われ、「彼には思想が無い」と答えた。
服部は自分のマンションにミツコとマサルを連れ帰り、テレビのニュースを確認する。工事関係者の過失によって重機が転落する事故が起きたと報じられていたため、服部は何かの陰謀だと確信した。ミツコは警察に話すべきだと言うが、服部は本当のことを喋っても相手にしてもらえないと説いた。彼は鍵を掛けて隠れているようミツコに指示し、雑居ビルでジャンクパーツを売る本田宗五郎を訪ねた。服部がロボットの部品を見せると、本田の顔色が変わった。
ミツコはマサルを連れてマンションを抜け出し、光明寺の恩師である前野究治郎にメールを送った。そこへ男たちが現れて2人を包囲するが、ジローが駆け付けて救い出した。彼はミツコに、スマホを使ったせいで場所を探知されたことを教えた。「機械と一緒にいるなんて気味が悪い。それに、どうせ父の差し金でしょ。付いて来られたくない」とミツコが拒絶すると、ジローは「この体、止まるまで君たちを守る。光明寺博士に言われていた任務だから」と告げ、背中の強制シャットダウンシステムで機能が停止することを教えた。
本田は部品を分析し、「相当やべえトコに首突っ込んでるみてえだな」と口にした。田部は椿谷を呼び寄せ、「今度のは、やり過ぎだ」と注意した。「ロボット開発にご執心なのは、なぜだ?なぜ武装が必要なんだ?」と彼が質問すると、椿谷は口をつぐんだ。田部に「国民は今、ロボット開発など望んでいないよ。それより人間の利益だよ」と言われた椿谷は、研究所へ戻って怒りを示す。彼は神崎に、「開発を急ぐ。アークプロジェクトのチーフになってもらう」と告げた。
ミツコとマサルがバスに乗ると、ジローも付いて来た。マサルはジローに好奇心を抱き、質問したり体に触れたりする。マサルが今後の行動について尋ねると、ジローは「時間を稼ぐために徒歩や地方の交通機関を使う。今夜は野宿する」と述べた。神崎は光明寺の対抗心を燃やし、ハカイダーを起動させた。ジローは野宿している最中にギャグを言い、マサルは大笑いした。次の日、別の場所で野宿した際、ミツコはジローに「あんなに笑ってるマサル、初めて見た。たぶん、貴方は父が作ったアンドロイドだから、間接的でも父に守られている気がするんじゃないかな」と語った。
ミツコはジローに、父が単なる仕事人だったこと、大切にされたという記憶が無いことを話す。感謝の言葉をミツコが口にすると、ジローは「この体止まるまで、君たちを守る」と告げた。するとミツコは、幼少期に父からプレゼントされたロボットと同じ台詞だと気付いた。彼女はジローの「君たちを守ることが、僕に与えられた任務だ」という言葉を聞き、寂しげに「そうだよね。貴方は、あの人が作った機械だったもんね」と漏らした。
椿谷はマリからジローやマサルたちの現在地を突き止めたと知らされ、彼女に仕事を一任した。兵士たちがマサルを拉致しようとすると、ジローが立ちはだかった。しかし兵士が怯えた様子を見せると、ジローは躊躇を示した。そこにマリが現れ、「敵を前に躊躇するとは、やはり貴方は不完全なアンドロイド」と馬鹿にする態度を取った。ジローはキカイダーに変身し、マリと戦う。マリはキカイダーを圧倒し、マサルの体内にあるデータが必要なだけなので、おとなしく保護されるよう要求した。
キカイダーはマリに惨敗を喫し、止めを刺されそうになった。ミツコは自分たちが同行することを承諾し、攻撃を中止するよう懇願した。マリは了承し、ミツコとマサルを連れて立ち去った。ジローは千切られた右腕を持って山の中をフラフラと歩くが、力尽きて倒れ込んだ。そこに前野が通り掛かり、ミツコからの連絡で待っていたこと、なかなか来ないので捜していたことを話した。彼は良心回路が自分の思想から始まったことを明かし、「君は私と光明寺君の研究成果の結晶というわけなんだよ」と口にした。
ジローが「僕は不完全な機械だ」と口にすると、前野は「完全とは何かね。案外、不完全でいることが完全であることかもしれないぞ」と説くが、ジローには理解できなかった。前野は彼に、「いずれ君は、何かを守るために何かを捨てなければならない時が来るだろう。それは、とても人間的なことなんだよ」と述べた。マサルは研究所で手術を受け、埋め込まれていた光明寺ファイルのチップが摘出された。椿谷は神崎に、「アークプロジェクトを完成させてくれ。いや、我々の本当の目的、ダークプロジェクトの幕開けだ」と告げた。
神崎はハカイダーの前に立ち、「私の研究は消させんぞ。私の生み出す全てを認めさせてやる。破壊だ」と口にした。修理を終えたジローが起動すると、そこは本田の店だた。本田の連絡で駆け付けた服部は、ジローを見て「本当に動くんだな」と興奮した。服部は本田に、アークプロジェクトや光明寺ファイルに関する調査結果を語った。ミツコとマサルを心配するジローに、服部は2人とも無事だと教える。一方、神崎は手術によって、自らの脳髄をハカイダーに移植した…。

監督は下山天、原作は石ノ森章太郎、脚本は下山健人、エグセクティブプロデューサーは井上伸一郎&白倉伸一郎、製作は安田猛&有川俊&平城隆司&和田修治&小野口征&木下直哉&前山寛邦、スーパーバイザーは小野寺章(石森プロ)、プロデュースは嵐智史&小川泰明&佐々木基、キャラクターリファインデザインは村枝賢一、アクション監督は田渕景也、VFXスーパーバイザーは美濃一彦(ツークン研究所)、撮影は小林元、美術は岡村匡一、照明は堀直之、録音は豊田真一、編集は下山天&難波智佳子、アクションコーディネーターは江澤大樹、音楽は吉川清之、。
主題歌「ゴーゴー・キカイダー REBOOT2014」歌・演奏:ザ・コレクターズ、作詞:石森章太郎、作曲:渡辺宙明、編曲:渡辺宙明&ザ・コレクターズ。
出演は入江甚儀、鶴見辰吾、佐津川愛美、高橋メアリージュン、原田龍二、本田博太郎、石橋蓮司、長嶋一茂、伴大介、中村育二、池田優斗、山中聡、荒川真、岩上弘数、安田聖愛、那海、梶原みなみ、広川いく、遊木康剛、若尾夏希、市川真木綿、後藤健、難波一宏、北島美香、西野大作、西澤愛菜、星野光代、町田政則ら。


石ノ森章太郎が原作を担当し、1972年7月から1973年5月に掛けて放送された東映の特撮テレビ番組『人造人間キカイダー』をリブートした作品。
監督は『マッスルヒート』『SHINOBI』の下山天、脚本は『天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピック ON 銀幕』『特命戦隊ゴーバスターズVS海賊戦隊ゴーカイジャー THE MOVIE』の下山健人。
ジローを入江甚儀、神崎を鶴見辰吾、ミツコを佐津川愛美、マリを高橋メアリージュン、服部を原田龍二、本田を本田博太郎、田部を石橋蓮司、光明寺を長嶋一茂、椿谷を中村育二、マサルを池田優斗が演じている。
TVシリーズでジローを演じていた伴大介が、前野役で出演している。

タイトルに「リブート」と付けちゃってるセンスに違和感を抱く本作品の企画は、KADOKAWAの代表取締役専務である井上伸一郎が東映の取締役企画製作部長である白倉伸一郎な話を持ち掛けたところから始まっている。
彼らは映画としてのヒーロー物の作り方を一から再構築しようと思ったらしいが、こんな映画に仕上げるぐらいなら再構築なんてしなくて良かった。
脚本を作るのに2年の歳月を費やしたらしいけど、時間を掛ければ良い物が出来るとは限らないんだなあと、改めて認識させられた。

褒めるべきポイント、評価できるポイントが皆無に等しい作品なのだが、まずはシナリオが酷いことになっている。
まずは導入部、「お前は不完全な機械だ」という神崎の言葉を聞いたジローが「僕は機械だ」と呟く。
この時点では「まさか、そういうことじゃないよな」という疑念に留まるが、後半に入って神崎が「破壊だ」と口にしたところで確信に変わる。
劇中ではキカイダーもハカイダーも、その名前で呼ばれることは無い。そこで、セリフを使ってダジャレとして、キカイダーとハカイダーに自分の名前を言わせているのだ。
これが喜劇ならともかく、そうじゃないんだから、正気の沙汰とは思えない。

ところが、絶対に喜劇じゃないはずの作品なのに、製作サイドが喜劇と勘違いしているとしか思えない描写が他にも色々と盛り込まれている。
例えば、ジローがザ・ドリフターズのファンだという設定。これはTVシリーズが『8時だョ!全員集合』の裏番組だったことを意識しての設定なのだが、だからって「志村、後ろ」という台詞をジローに言わせることは無いだろ。
この映画、そういうユルさは微塵も必要が無いはずだぞ。
あと、「だっふんだ」も言わせているけど、それは『8時だョ!全員集合』じゃなくて『志村けんのだいじょうぶだぁ』で誕生したギャグだろうに。つまりドリフじゃなくて、志村けんのギャグってことになるのよ。
ユルいノリを入れているだけでも大間違いなのに、そういう雑なトコまであるんだよな。

ミツコは墓参りのシーンで、親族から「父親のことを周囲に話していない」と陰口を叩かれる。大学では親友4人から合コンに誘われるが、まるで興味を示さず断る。
で、服部の取材を拒絶した後、列車で帰宅するシーンで「いつか白馬の王子様が来てくれる。そんな希望に現代の女性がしがみつくのは何故?私はそうは思えない。現実の男の人たちが見ているのは、スマホの画面と手が届く範囲の幸せ。それなら私はアニメや漫画の中にいる王子様に夢馳せていた方がいい」というモノローグが入る。
それを全てモノローグで片付けるってのは、ものすごく不格好。
序盤の描写を少し増やすだけで、モノローグを排除しても事足りるのに。

ただし、過剰なモノローグを入れていることよりも、もっと大きな問題がある。
それは、そんなミツコの設定を説明する必要も無いってことだ。
どうやらジローとの恋愛劇に繋げようという狙いがあったらしいが、とてもじゃないが上手くリンクしているようには思えない。
どう考えたって、ジローは「ミツコを平坦な現実から別の世界へ連れて行ってくれる王子様」じゃないだろ。別の世界には連れて行ってくれるけど、それは幸せな世界じゃないんだし。
それと、もっと言っちゃうと、そもそもジローとミツコの恋愛劇そのものが邪魔なのよ。
っていうか根本的なことを言っちゃうと、もはやミツコというキャラクター自体が後半に入ると「要らない子」になるのよね。

敵はマサルを拉致しようとする際、窓から2人が突入するという無駄に派手な方法を取る。
マサルは学校に通っているんだから、1人になる登校時や下校時を狙えば簡単だろう。わざわざ窓を突き破った上、大勢の兵隊が屋上には待ち受けているのだが、そこまでの人員を使う必要性があるのかと。
そんなに目立つ行動を取ったら、目撃者が警察に通報する可能性もあるだろうに。仮に国家の力でマスコミや警察の動きを押さえることが出来たとしても、ネットで情報は間違いなく拡散するはずで。
諸々の問題を考えると、阿呆にしか思えない。
もちろん、派手なアクションシーンを入れたいという事情は分かるが、そのせいで「敵がボンクラ」という印象になってしまったら、それは大きなマイナスでしょ。
そういうのを上手く処理するために、2年という脚本作成の時間があったんじゃないのか。

ジローは銃弾を受けて変身する際、「スイッチ・オン」と言う。
しかし彼は本来の姿がキカイダーで、ナノ結晶ディスプレイというモノで人間の姿を表示している設定だ。
だったら、変身するのはナノ結晶ディスプレイを外すってことだから、むしろ「スイッチ・オフ」だろ。
それと、変身した彼は「ここからは機械的に行こうか」と言うけど、そこまでの戦いも機械的だったぞ。そういう台詞は、人間っぽい戦いをしておかないと成立しないだろ。
大体さ、変身前と変身後で、戦闘能力が変化している様子も見えないし。

田部から「国民はロボット開発など望んでいない。それより人間の利益だ」と言われた椿谷は、「冷静なロボットが必要だ。開発を急ぐ」ってことで、神崎をアークプロジェクトのチーフに就任させる。
「神崎がプロジェクト推進のリーダーになる」という筋書きにするため、かなりギクシャクした形を取っている。
っていうか、そんなことしなくても、光明寺が死んで神崎が後を継いだ設定でいいでしょ。あと、「じゃあ今までは誰がチーフだったのか」と言いたくなるぞ。
それと、チーフに就任した神崎に対してマリが「おめでとうございます、プロフェッサー・ギル」と言うのは無理があり過ぎだろ。
TVシリーズのプロフェッサー・ギルと重ねたいのは分かるけど、なんで急に呼び名が変わっちゃうんだよ。

神崎は死んだ光明寺に対して強いライバル心を抱いており、「私が奴に負けるだと。ふざけるな。私が奴の世界に君臨してやる」と口にしている。そして彼は光明寺への対抗心だけで、自らハカイダーになることを決める。
なんでだよ。動機が弱すぎるわ。
それもあって、ハカイダーという本来なら魅力的なはずのキャラクターが、すっかり陳腐な奴になっている。
「プロフェッサー・ギルとハカイダーをイコールで繋ぐ」という仕掛けも、ちっとも面白味に繋がっていないし。

ハカイダーになった彼は、ジローに「ダークに生まれし者はダークに帰れ」と呼び掛ける。
だけど、ジローはアーク・プロジェクトの産物であって、ダーク・プロジェクトの産物ではないので、その台詞は意味不明だぞ。
そんでジローに拒否されると(そもそもダークに帰るという意味が良く分からないが)、ハカイダーは「ここで消去されるか自分でシャットダウンするか、どちらか選べ」と言う。
ようするにハカイダーは「キカイダーを始末する」という目的だけで動いているんだけど、それは組織の指示じゃなくて私怨から来る行動なのよね。
なんかね、すんげえカッコ悪いよ。

椿谷がマサルを捕まえようとするのは、彼の体内に研究データである光明寺ファイルが埋め込まれているからだ。
そんな大事な物を我が子の体に埋め込むって、そりゃあミツコが光明寺の愛を感じられなくても当然だわ。実際、愛があれば、そんなことはしないよ。
で、マサルが研究所に来ると椿谷は光明寺ファイルを摘出し、あっさりと解放する。
いやいや、殺さねえのかよ。だったら、いきなり荒っぽい手口で拉致しようとするのではなく、とりあえず「体内に重要な研究データが埋められており、それは国家のために必要なので摘出させてくれ」とお願いしてみたらどうなのかと。それでダメなら金を積むとか、とにかく荒っぽい手を使う前に出来ることは幾らでもあっただろ。
あと、ファイルを摘出したらミツコとマサルを解放するってのは変だろ。2人は外に漏れるとヤバい情報を色々と知っちゃったんだから、口を封じないとマズいたろ。

マリはキカイダーと戦う際、最後まで変身しない。
そりゃあ見た目が人間でも中身はアンドロイドなんだけど、やはり変身した方がいい。変身しないことによって、「キカイダーが変身しない状態のマリにさえ負ける弱い奴」に見えてしまうのだ。
っていうか仮にマリが変身していたとしても、簡単にキカイダーが負けたら「そこに負けるような奴がラスボスに勝てるわけねえだろ」と感じるわけで。
ってことは、変身しないマリに負けるってのは、それ以上にマズいことなのよ。

キカイダーがマサルを拉致しようとするマリに惨敗を喫するのは、決して弱点を突かれたからではない。
例えば「良心回路のせいで攻撃をためらったから負けた」とか、そういうことでもない。普通に戦って、普通に負けている。
兵士を倒すのを躊躇したのは良心回路が原因であり、そこは「判断が遅くなった」と言える。しかしマリとの戦いでは、良心回路のせいで判断が遅れたという描写は無いのだ。
圧倒された後で躊躇のシーンがあるけど、その時点では既に負けているからね。

ミツコは「この体止まるまで、君たちを守る」というジローの言葉を聞いて、幼少期に父からプレゼントされたロボットと同じ台詞だと気付く。
トラックで逃げる時もジローは同じ言葉を喋っていたのに、2度目で気付くってのは見せ方として間違っている。
もっと間違っているのは、ミツコが「幼い頃に父から貰ったロボット」とジローを重ねるってこと。そうなると、ジローはミツコにとって恋愛対象ではなく、自分たちを守ってくれる父のような存在でもなく、「大切なロボット」ってことになっちゃうでしょうに。それはジローとミツコの関係性として、明らかに間違っているでしょ。
そうじゃなくて、そこで恋愛劇を構築したいのなら、「機械なのに、人間のように思えてくる」という進め方をすべきじゃないのか。

キカイダーのキャラクター・デザインは変更されているが、基本的な設定はTVシリーズから踏襲されている。「良心回路が内蔵されている」という、キカイダーにおける最も重要と言うべき要素も当然のことながら引き継がれている。
ところがどっこい、その意味合いはTVシリーズと大きく異なっている。
TVシリーズの良心回路は不完全な物であり、そのせいでプロフェッサー・ギルの笛を聞くと苦しむという設定だった。
そして不完全な良心回路の存在は、ジローを正義と悪の狭間で苦悩させることになった。

しかし今回の良心回路は、「不完全な物」という設定が取り除かれている。
そんな新しい良心回路は、映画の中でどんな風に使われるかというと、「キカイダーが敵にトドメを刺せずに苦悩する」という形だ。
いやいや、良心回路って、そういうことじゃないでしょ。
もちろんリブートだから、意図的に新解釈を持ち込んだ可能性はある。
ただ、新解釈を持ち込んだ結果として、良心回路が「単に邪魔な装置」ということになってしまったら、それは『人造人間キカイダー』を全否定するようなものだろうに。

光明寺は神崎に、「ジローに組み込んだ良心回路に、新世代アンドロイドの未来を託すんです」と言っている。
つまり良心回路というのは、アンドロイドによる平和な未来を信じた光明寺の強い願望が込められた装置なのだ。
ところがジローは終盤、敵にトドメを刺すために、良心回路を外す。「そんな物があるからリミッターになって思い切り戦えない。邪魔だから要らない」ってことになっているのだ。
それは生みの親である光明寺の願いを台無しにする行為になっちゃうでしょうに。

前野がジローに、「いずれ君は、何かを守るために何かを捨てなければならない時が来るだろう」と告げるシーンがある。
後の展開を考えると、それは「みんなを守るために良心回路を捨てる」ってことなんだろう。
だけどさ、前野は良心回路が自分のアイデアであり、キカイダーは自分と光明寺博士の研究成果の結晶だと語っているのよ。
だったら、まるで彼が良心回路を捨てることを容認しているかのような展開にするのは、どう考えたってダメだろうに。

マリがジローに、「アンドロイドに人間らしい感情を持たせるため、試験的に貴方には良心回路が組み込まれていました。アンドロイドとして残るべくは、この私だったということです」と告げるシーンがある。
つまり良心回路ってのは、「完璧なアンドロイド」と「そうでないアンドロイドを分ける重要なポイントのはずだ。
そうであるならば、ジローはアンドロイドとして不完全であろうとも、人間らしい感情を持ち続けるために、良心回路を捨てちゃダメでしょ。例えば「既に人間的な感情を手に入れたので、もう回路に頼る必要は無い」ということならともかく、そうじゃないんだから。
ハカイダーに「良心回路を遮断し、心を否定したんだ。光明寺を否定したんだ」と指摘されたキカイダーは「違う。心を守るために、僕の心を消したんだ」と反論するけど、つまり心を消してるじゃねえか。
まあ実際に心を消したようには見えないので、それはそれで困りものだが。

「完璧なアンドロイドを倒すため、あえて人間の感情を捨て去る」ってのは、そいつが最初から「いかにも人間らしいアンドロイド」であったり、あるいは本物の人間であったりした場合、ちゃんと筋が通る。
しかしジローの場合、「止めを刺すことを躊躇する」という以外で、「いかにも人間らしいアンドロイド」という様子は薄いのよ。
それよりも「不完全な機械」へのコンプレックスの方が遥かに際立っている。
だから良心回路を外すのは、流れとしては「完全に機械になりたい願望を実現するため」ってことになっちゃうのよ。

終盤には、服部が「人間は思い通りに生きられない不完全な生き物」と話すシーンが用意されている。
なので、それを聞いたジローが「良心回路のせいで自分は不完全だけど、だからこそ人間に近いのだ」と認識し、そういう自分を受け入れて生きて行こうとする流れになるのかと思ったんだけどね。
そういう、いかにも伏線っぽいシーンを入れておいて、完全に無視してしまうのね。
ただ、そもそもジローは「人間になりたい」と願っているわけじゃないので、どう頑張っても綺麗に回収することは出来ない伏線ではあるんだよな。

キカイダーが良心回路を捨てて戦うのは、まるでスッキリしない展開だ。
しかし、じゃあ敵にトドメを刺せないまま終わってもいいのかというと、それはそれでスッキリしない。カタルシスを観客に与えるためには、良心回路が邪魔な存在であることは確かだ。
ようするに、良心回路の設定が根本的に間違っているってことなのよ。
なんで「良心回路は邪魔な装置」という、TVシリーズや漫画版を全否定するような設定にしちゃったのかなあ。

ハカイダーが暴走して研究所を破壊する時、マリは何もせずに傍観している。
で、ハカイダーは止めに来たキカイダーと戦うんだけど、マリは何をしているのかというと、何もしていない。そもそも、存在が完全に消えているのだ。火災に巻き込まれて壊れたとは思えないが、とにかく再登場しないまま映画は終わってしまう。
だから、マリの存在は途中で放り出されたようになってしまう。
っていうか、最初から微妙なポジションではあったんだけどさ。

一方、そのままだとミツコも放り出された状態になるので、「空港へ行く途中で引き返す」という行動を取らせる(彼女は弟を置き去りにして留学するという、冷たい行動を取ろうとしていたのだ)。
だけど、そうやって彼女をクライマックス・バトルの場に行かせたところで、何が出来るわけでもないでしょうに。
ちなみにマリは、ラストシーンで再登場している。
どうやら続編に繋げようとしているみたいだけど、この出来栄えで2作目に続けるのかよ。

アクションシーンの占める割合は多いけど、東映の特撮ヒーロー映画では仕様となっている。それは「ドラマの薄っぺらさをアクションの連続で誤魔化す」という意味合いが強い。
「映画としてのヒーロー物の作り方を一から再構築している」にしては、そこは同じパターンなのね。
で、そのアクションシーンは、やたらとスローモーションを多用している。でもスローを使い過ぎて、アクションシーンの面白味を削いでいる。ラストバトルもスローの使い過ぎで台無しだし、変なタイミングでも平気でスローになるし、そもそもメリハリに欠けるし。
今まで触れなかったけど、演出の方も酷いのよ。

(観賞日:2015年12月29日)


2014年度 HIHOはくさいアワード:第5位

 

*ポンコツ映画愛護協会