『キッズ・リターン 再会の時』:2013、日本

シンジはボクシングの試合に出場するが、TKO負けを喫した。控室に戻った彼は、所属ジムの会長である沢田から「今月中にロッカー開けてくれればいいから」と告げられる。シンジは「お世話になりました」と頭を下げ、ジムを辞めた。マサルは5年の懲役を終えて、刑務所を出た。シンジは工事現場で警備員のアルバイトを始め、松本という中年男とコンビを組む。松本はギャンブル狂で、仕事の最中も競馬中継をラジオで聴いている。
マサルは組長の室沢を訪ねるため、マンションへ赴いた。すると室沢は既に組を解散しており、「残ったのは、このマンションとシマ内の半分だけ。オヤジも地元帰って、老人ホーム入っちまうしよ」と話した。室沢は残っている子分のユウジが戻ってくると、マサルに「飯でも食って来いよ」と促した。ユウジはマサルから組のことを問われ、「どうにもなんないっすよ。警察の締め付けがキツくて、何も出来ないっす。シマ内とか言っても、シノギ半分以上減ってるし」と諦めたように告げた。
仕事を終えたシンジは松本と共に、顔馴染みのマナミが営む洋食屋へ赴いた。松本は洋食屋で夕食を取る時も、ギャンブルのことばかり考えていた。松本はシンジに何度も千円単位の賭博を持ち掛けており、2千円の借りがある。彼はシンジとマナミの関係も、賭けの材料に使おうとする。ユウジはマサルをアパートの一室へ案内し、自分の恋人だと知らせずに風俗嬢の女を世話しようとする。しかしマサルは「今日は帰るよ」と言い、アパートを後にした。
翌日、マサルはユウジを伴い、みかじめ料の回収に赴いた。すると闇カジノの店長は、まるで足りない金額しか用意しなかった。マサルに詰め寄られた店長は、室沢の弟分である崎山の指示だと釈明する。マサルは店長を殴り倒し、次に来る時までに用意しておくよう要求した。松本は腑抜けた交通整理をしていたせいで、チンピラの車が鉄柵にぶつかってしまった。チンピラが松本に凄んでいると、マサルの車が通り掛かった。行く手を塞がれたマサルは車を降り、チンピラを殴り倒した。シンジはマサルに気付き、声を掛けた。
シンジは仕事が終わった後、マサルと飲むためにマナミの店へ行く。ボクシングを続けているのか問われたシンジは、「この前、辞めたんです。上手く言えないんですけど、試合するのが嫌になって」と語る。「新人王まで獲ったんじゃないか」とマサルが言うと、彼は「格上の相手が多くて。勝てるような相手じゃないんですよ」と吐露した。するとマサルは、「それじゃ噛ませ犬じゃないか。いつからそんなになっちまったんだ。格上だろうが、格下だろうが、倒しちまえよ。潰しちまえばいいんだ。お前、強かっただろ。チャンピオンになってくれよ」と語る。彼は店を出てシンジと別れる際、「俺が言うのも何だけど、見返してやろうぜ」と口にした。
次の日、室沢は崎山への手紙をマサルに預け、ユウジに案内役を指示した。シンジはジムを訪れ、沢田に頭を下げて再入会させてもらう。トレーナーの小林は「ホントにいいのか?」と心配するが、シンジの気持ちは変わらなかった。マサルはユウジに案内され、崎山の事務所があるビルに到着した。崎山は株式会社を作り、ビジネスを手広く展開していた。マサルは崎山と会い、室沢の手紙を渡す。室沢は手紙を破り捨て、「少ないけど」とマサルに札束を差し出す。マサルは受け取りを拒否し、「これからは、この辺を俺が仕切らせてもらうんで、よろしくお願いします」と告げた。崎山が「先代が投げ出したシマだぞ」と言うと、彼は「ウチのオジキが引き継いだシマですから、筋だけは通させてもらいます」と述べた。
シンジは新人王を狙う後輩ボクサーからスパーリングの相手を頼まれ、一方的に打ち込まれる。沢田は7戦無敗の相手とシンジの試合を承諾し、ウエイトはこちらで合わせるのでファイトマネーを上積みしてほしいと要求する。マサルは金を徴収するため、ゲームセンターへ赴く。店長が崎山や警察の指示を理由に支払いを拒否すると、マサルは殴り付けて「潰すぞ」と凄む。小林はシンジに、試合の相手が7戦無敗でウエイトも1つ落とさなきゃならないと聞かされる。しかしシンジは全く迷わず、「やります」と告げた。
シンジは試合に臨み、マサルは会場へ応援に駆け付ける。マサルは判定勝利を確信するが、シンジは判定負けを喫した。マサルはマナミの店でシンジと会い、「次は勝てるよ」と励ました。相変わらず腑抜けた仕事ぶりの松本は、また車を運転していた男とトラブルを起こしてクビになった。シンジはボクシングに集中するため、同じタイミングでバイトを辞めることにした。マサルは室沢から、オヤジの兄弟分だった九州の広瀬を手伝いに行かないかと提案される。いずれシマを継がせてもいいと広瀬が言っていることを、室沢は説明する。彼は「ここにいても先は見えてるし、ちょっと考えてくれ」とマサルに話した。
松本はシンジがボクシングのためにバイトを辞めると知り、「これで終わりだから」と2千円を渡した。シンジはトレーニングに集中し、試合に備える。沢田はシンジと日本ランカーの試合を組み、小林に「絶対に勝たせろ。ランクインすれば、次はいい金になる」と告げる。小林が「ジムの経営だけじゃなくて、高木のこともちよっと考えてやってくれませんか。また噛ませじゃないですか」と抗議すると、沢田は全く悪びれずに「例え噛ませでも勝ちゃいいんだよ」と述べた。
室沢は崎山の元を訪れ、世話になった男の葬儀にも出なかったことを「義理欠きすぎじゃねえのか」と諌めた。彼は立ち去る時、「マサルが目障りなのは分かってるけど、手を出したら刺すぞ」と脅した。シンジは日本ランカーに勝利し、雑誌の取材を受けた。それをマナミの店でシンジから聞かされたマサルは、自分のことのように喜んだ。その後もシンジは勝利を重ねて日本タイトル戦が決まるが、網膜剥離が判明する。一方、崎山はマル暴の刑事と結託し、室山に罠を仕掛けて銃刀法違反で逮捕に追い込む…。

監督は清水浩、原案はビートたけし、脚本は益子昌一&清水浩、エグゼクティブ・プロデューサーは森昌行、プロデューサーは加倉井誠人、アソシエイト・プロデューサーは川城和実&井澤昌平&太田和宏&吉田多喜男、ライン・プロデューサーは小宮慎二、撮影は鍋島淳裕、照明は三重野聖一郎、美術は尾関龍生、録音は久連石由文、編集は太田義則、ボクシング指導は梅津正彦、音楽は遠藤浩二。
出演は平岡祐太、三浦貴大、ベンガル、杉本哲太、池内博之、倉科カナ、中尾明慶、市川しんぺー、小倉久寛、坂田聡、國本鐘建、清水伸、相馬有紀実、ガンビーノ小林、「ジョンミョン、清水優、池上幸平、小林俊、奥野瑛太、オレノグラフィティ、町田宏器、佐藤修、木村章司、升田貴久、黒石高大、中川雄太、和宇慶勇二、山中敦史、柊子、蒻崎今日子、田口可奈子、染谷裕正、戸辺俊介、沼波大樹、岩崎和義、九良賀野喜一、浜田大介、塩崎沙織、松木大輔、小路さとし、関口あきら、黒田隆太、小口忠寛、佐々木修平、松浦慎一郎、小松崎敏、石渡洋介、浦田佐敏、川合将平、森拓也、蔵野哲士、三村晃樹、堀内戦治ら。


1996年に公開された北野武監督作品『Kids Return キッズ・リターン』の10年後を描く映画。ただし前作と共通している出演者はいない。
監督は『生きない』『チキン・ハート』の清水浩で、『Kids Return キッズ・リターン』では助監督を務めていた。
脚本は『むずかしい恋』『さまよう刃』の益子昌一と清水監督による共同。
シンジを平岡祐太、マサルを三浦貴大、沢田をベンガル、室沢を杉本哲太、崎山を池内博之、マナミを倉科カナ、ユウジを中尾明慶、松本を市川しんぺー、小林を小倉久寛が演じている。

この映画のために、平岡祐太は3ヶ月のボクシング特訓を積んでいる。
とは言え、わずか3ヶ月でボクサーの動きを習得するのは、そう簡単なことではない。
しかし劇中で何度も描かれる試合のシーンでは、少なくとも素人が見たらボロを全く感じないぐらいの動きは見せている。
その対戦相手には、第22代WBA世界スーパーバンダム級王者の佐藤修、第29・34代日本スーパーバンダム級王者の木村章司、第25代OPBF東洋太平洋ライトフライ級王者の升田貴久、第35代日本スーパーライト級王者の和宇慶勇二という顔触れが揃っている。

前作『Kids Return キッズ・リターン』は、最後の「俺たち、もう終わっちゃったのかなあ」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」というシンジとマサルの会話で、綺麗に終わっていた。
ある意味では「まだ彼らの物語は終わっていない」ってことになるが、その後の人生を創造させる余韻を残すからこそ、綺麗な着地になっているのだ。
そんな前作を見た上で「続編を見てみたい」と思う人は、たぶん皆無に等しいんじゃないだろうか。

じゃあ前作を見ていない人はどうなのかっていうと、だったら「今までの物語」を知らないわけだから、そもそも続編に対して興味を抱く可能性は低いだろう。
そんな風に考えると、「この映画は誰に向けて製作されているのか?」という疑問が湧く。どういう観客層を狙って作られているのサッパリ分からない。
そもそも、前作は「北野武監督がバイク事故から復帰して初めて撮った映画」ってのも大きな意味をもっていたわけで。
そこも考慮すると、ますます本作品の意義が見えなくなる。誰も求めていない続編なんじゃないかと。

それでも続編を製作するなら、「同じキャストを起用する」ってのが当然の筋だろう。
本来は北野武が再びメガホンを執った方がいいとは思うけど、監督や脚本が異なっていても、それだけで大きな傷とは言えない。しかしキャスティングに関しては、前作と同じメンツを起用しないと話にならない。
ところが、そこは必須事項のはずなのに、別の俳優を起用しているのだ。
そりゃあ前作から10年後の物語だから、年齢が合わないという事情はあるだろう。
でも、だったら17年後の物語にすればいいんじゃないのかと言いたくなる。

ともかく、何よりも重要なのは「マサルは金子賢、シンジは安藤政信」という前作のメイン2人を揃えることだ。ここが決まらない限り、他の部分がどれだけ上手く行ったとしても、この映画を全面的に否定していいぐらいだ。
そんなのは当然で、全くの別人が「10年後のマサルとシンジ」として登場しても「いや、お前ら誰だよ」と言いたくなるでしょ。
これが同じ映画の中で「10年後」に成長するとか、そういうことなら別人でもいいけどさ、そういうことじゃないんだから。
企画の意味を考えた時に、前作と同じマサルとシンジじゃないと作る意味が無いでしょうに。いや前述したように、同じキャストだったとしても意味は見出せないけどさ。

内容の方も、かなりドイヒーなことになっている。
シンジとマサルは、いずれも幸福や充実感とは程遠い生活を送っている男として登場する。苦味はあるものの瑞々しさを感じさせた前作のエンディングを、台無しにするような設定である。
前作のラストで「まだ始まっちゃいねえよ」と言っていた連中が、それから10年が経過しても「まだ始まっちゃいねえ」状態のままって、どういうことなのよ。
まるで成長していないじゃねえか。前作での体験が、何の役にも立たず無駄になってるじゃねえか。

そりゃあ、10年が経っても冴えない人生を送っているのは、それぞれ仕方の無い事情があるという設定なのかもしれんよ。だけど、理由を用意すればOKってことでもないのよ。
わざわざ誰も望んでいないような続編を製作しておいて、その内容が実質的には前作の焼き直しみたいな状態ってのは、どういうことなのかと言いたくなるのよ。シンジとマサルが前作と似たようなことを繰り返すって、何なのかと。
前作と同じキャストを揃えて、同窓会的な意味合いが強い作品に仕上がっているのなら、まだ分からなくはない。でも、そうじゃないのに、リメイクみたいな状態ってのはダメでしょ。
それに「実質的なリメイク」と捉えても、映画の評価が上がるわけではないし。

松本が何かに付けて「バカヤロー」「コノヤロー」と怒鳴り、調子を合わせたマナミまで「バカヤロー」と言ったりするんだけど、何のつもりなのかと言いたくなる。
もしかして、北野武をイメージしての演出なのか。だけど『アウトレイジ』シリーズじゃないんだからさ。映画の雰囲気に合っておらず、無理に荒っぽい言葉を使わせている印象を受けるぞ。
ヤクザの世界も描かれているけど、そっちは静かなトーンで描いておいて、松本だけが飛び抜けて騒がしいキャラなのよね。そこが違和感を生じさせている。
っていうか、そもそも松本って、そんなに必要性が高いキャラでもないし。

シンジの「格上の相手が多くて。勝てるような相手じゃないんですよ」という言葉に対してマサルが「それじゃ噛ませ犬じゃないか」と返した時、「そうでもないだろ」と疑問を抱いた。
新人王を獲得した選手なら、それなりに才能はあるはずだ。
だから上のランクを狙いに行くってのは普通に考えられるケースだし、そのためには自分より格上の相手と戦うのも当然だろう。
ただ、そんな風に思っていたら、沢田が電話でマッチメイクするシーンや小林との会話によって、ホントに噛ませ犬扱いされていたことが判明する。

そこはシンジの「自分の力だけではどうにもならない不運な境遇、恵まれない人生」ってのを表現したかったのかもしれんけど、違和感があるんだよね。
繰り返しになるけど、シンジは新人王を獲得しているんだから、上のランクを狙える可能性があるはず。世界はともかく、ちゃんと育てれば日本タイトルぐらいは獲れる可能性もあるんじゃないかと。実際、劇中でも日本タイトル戦が決まっているし。
だったら最初から、そこを目指せば良かったんじゃないのか。ジムに日本王者が誕生すれば、それによって練習生も増えて、経営にもプラスのはずだし。
ビジネスのためにジム生を利用するにしても、上を狙える可能性が最も高い奴を使うのは引っ掛かるわ。
まあしかし、繰り返しになるけど、どんな内容にしたところで「要らない続編」であることは変わらんけどね。

(観賞日:2017年8月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会