『決戦は日曜日』:2022、日本

2016年。衆議院議員の川島昌平が地元の小学校で講演会を開くことになり、私設秘書の谷村勉は水たまりを歩かせないよう彼を背負った。谷村は体育館まで川島を運びながら、4歳の娘について質問された。谷村は娘を自慢し、私立の小学校に通わせる考えを明かした。すると谷村は、「受かったら何でも一つ言うこと聞いてやるよ」と約束した。
2019年。川島が脳梗塞で倒れて入院し、衆議院の解散で総選挙が行われることになった。川島が出馬できないため、県連の池田たちは地盤を引き継ぐ候補について話し合うが意見がまとまらなかった。そこで池田たちは、川島の娘でネイルサロン経営者の有美を担ぎ出すことにした。川島の選挙事務所には秘書の谷村、濱口祐介、田中菜々、向井大地、議員の父に指示されて修行に来ている岩渕勇気が集まっていた。そこへ有美が県連の議員たちと共に現れ、事務所を片付けた方がいいと告げた。彼女は当選に向けて熱く語るが、谷村たちは少しズレていて欧米感があるという印象を抱いた。
濱口たちは有美を指導する必要があると考え、その仕事を谷村が任された。谷村は自信満々で引き受けるが、翌日に電話を掛けても有美は全く応答しなかった。しかし彼女は何食わぬ顔で迎えの車に乗り込み、何度も電話を掛けたのは分かっていたのかと訊かれて「もちろん」と答えた。有美は谷村と岩渕を伴い、相手を選ばずに戸別訪問を行った。出馬会見を開いた彼女は、原稿の「各々」という文字を間違えて「カクカク」と呼んだ。彼女は間違いに気付かず、何度も「カクカク」と口にした。
有美は記者から少子化対策について意見を求められ、「結婚しているのに出産しないなんて怠慢ですよ。人として機能していないわけですから」と軽く答える。彼女は「私も結婚していないんですけどね」と冗談めかして付け加えるが、そのコメントが報じられて炎上した。しかし有美は全く気にせず、リプライが多いことを喜んだ。事務所に抗議デモの面々が押し掛けると、彼女は差し入れを渡した。地方議員の便宜を図ってもらっている建設会社の社員が事務所を訪問すると、濱口が川島の代理として応対した。建設計画について相談された濱口は、そのまま続行するよう促した。地方議員が今回の選挙の難しさを口にすると、濱口は金を渡して協力を要請した。
谷村は有美に、総決起集会で後援会の面々に詫びを入れるよう求めた。しかし有美は無視して挨拶し、嘘泣きで自分は被害者だと訴えた。後援会長の宮本と2人の幹部は憤慨するが、有美は全く悪びれなかった。炎上目当ての配信者にSNSで過去発言を追及された有美は、相手の挑発に乗って殴り掛かった。この一件はテレビでも大きく報じられ、宮本たちは怒って乗り込んで来た。しかし有美は「貴方たちに世話してくれなんて言ってない。嫌なら後援会を辞めたらいいんじゃないですか」と冷たく告げ、宮本たちは退任した。
谷村は池田たちの叱責を受け、有美に互いの意思疎通が重要だとだと告げる。彼が「我々の要望を伝えたい」と言うと、有美は何でも話すよう要求した。谷村が遠慮がちな口調で問題点を次々に挙げると、有美は腹を立てた。有美が集会を開くと、会場はガラガラだった。彼女は事務所の屋上へ行き、出馬を取り止めると言い出した。有美は「政治家が変わる必要がある」などと熱く演説するが、谷村たちは本気で相手にせず、適当に受け流した。
谷村は説得役を指示され、仕方なく屋上へ赴いた。谷村は憤慨する有美に対し、政治家になるには言動を改める必要があると説いた。有美が「言うことを聞いてくれないなら、ここから飛び降りる」と言い出すと、彼は「どうぞ」と軽く告げる。その間に岩渕たちは、事務所の下にエアマットを用意した。有美が困惑していると、谷村は彼女を突き落とした。谷村は有美に、川島が後を継いでほしいと思っていると嘘を吹き込んだ。地盤を託されたのだからてほしいと谷村が頼むと、有美は渋々ながら受け入れた。有美は谷村に指示され、仕方なく宮本たちに謝罪した。
公示日。谷村は岩渕から「どうなりますかね」と問われ、「昨日の時点で勝負は付いてる。ほぼほぼ受かる」と教えた。そんな中、川島のミサイル開発口利き疑惑が週刊誌で報じられた。それは何年も前の出来事で、秘書も後援会の面々も周知の事実だった。しかし有美は何も知らなかったので、谷村たちは落ち着き払って話す様子に戸惑った。谷村たちは有美に、記者には「秘書に一任していたので分からない」とコメントするよう指示した。もちろん嘘だったが、向井が責任を被ることを引き受けた。「嘘なんでしょ、バレたらどうするの」と有美が尋ねると、誰も返答しなかった。有美は病院へ行き、川島を厳しく非難した。
川島の容態が悪化すると、濱口と県連の議員たちは死後を想定して話し合った。彼らは企業からの金の配分を巡り、激しい口論になった。有美が来て「ウチの父を何だと思ってるの」と憤慨すると、彼らは「自分の立場が分かってないのか」「我々が党本部からの公認を貰ってやったんだ」と怒鳴り付けた。父が自分に跡継ぎを任せたわけではないと知り、有美は谷村を問い詰めた。真実を知った彼女が「辞める」と言い出すと、谷村は「無理です。やっていく選択肢しかありません」と冷静に告げた。その直後、川島の容態は改善した。
有美は記者の平野に、事務所の問題を記事にするよう依頼した。しかし平野は事務所とズブズブの関係なので、谷村たちに有美のリークを報告した。有美は谷村から注意され、こんな形で利用されるのは納得できない。だから選挙に落ちたらいい」と協力を要請する。谷村が断ると、彼女は他の記者に情報をリークすると言い出した。すると谷村は「事務所は告発を否定し、貴方が精神的に不安定だと説明する。貴方に不利な情報をリークする」と脅し、諦めるよう諭した。
谷村は娘を連れて、川島の見舞いに赴いた。2016年の約束について「まだやってもらってないんですが」と彼が言うと、川島は娘が私立の小学校に行きたくないと言い出したらどうするかと質問する。彼は「周りは将来のことを考えて、行ったらいいって言うよな。それは結局、自分が思い通りにしたいだけなんだよな。やっぱり俺は、自分の娘の幸せが一番の幸せなんだな」と話し、谷村の娘が嫌なら辞めていいと思っていると話す。彼は谷村に、「その時は、お前も受け入れてくれよな」と告げた。
事務所でコーヒーを飲んでいた谷村は、選挙スタッフの2人が「このコーヒーはマズい」「機械が壊れてるんじゃないか」と言い合う声を耳にした。「味、おかしくないですか」と確認された谷村は、「こんなマズいことになってんのに、良く平気でいられるよねえ」と語った。谷村は有美に、選挙に落ちるための協力を申し入れた。彼は有美が覚醒剤常習者という嘘の情報を広め、事務所で喚き散らす音声を録音してネットに上げる。有美は集会で外国人の排除を訴え、他の候補者の選挙演説を妨害した。当然の如く有美は大炎上するが、コアな層に気に入られて支持率は一向に落ちなかった…。

監督・脚本は坂下雄一郎、製作総指揮は藤本款、プロデューサーは深瀬和美&若林雄介、製作は藤本款&加瀬林亮&坂本香&篠田学&荒木宏幸&松下幸生、撮影は月永雄太、照明は藤井勇、録音は島津未来介、美術は福岡淳太郎、編集は上野聡一、音楽は渡邊崇。
出演は窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈、小市慢太郎、音尾琢真、小林勝也、たかお鷹、今村俊一、原康義、石川武、松井工、久松信美、平原テツ、田村健太郎、駒木根隆介、前野朋哉、斎藤志郎、江藤修平、俵木藤汰、足立智充、草川直弥、小泉光咲、鈴木聡、井並テン、斉藤マッチュ、蟹江アサド、金谷真由美、野中隆光、若松泰弘、早坂直家、鵜澤秀行、飯田芳、星野恵亮、青柳信孝、松木大輔、弘中麻紀、望月綾乃、鈴、塚本幸男、中野順一朗、吉田慎次、坂口辰平、中川慧、依田哲哉、大谷幸広、謝花弘規、吉野実紗ら。


松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画プロジェクトの『東京ウィンドオーケストラ』と『ピンカートンに会いにいく』を手掛けた坂下雄一郎が、監督&脚本を務めた作品。
谷村を窪田正孝、有美を宮沢りえ、岩渕を赤楚衛二、田中を内田慈、濱口を小市慢太郎、向井を音尾琢真、川島を小林勝也、渡辺をたかお鷹が演じている。
窪田正孝と宮沢りえは、これが初共演。
プロデューサーは『湯を沸かすほどの熱い愛』の深瀬和美&若林雄介。

前半は「何となくフワッとしているな」という印象を受ける。
一応はコメディーっぽく作られているし、政治や選挙を風刺する狙いがあるようには感じられる。ただ、それを考えると、もっと有美のキャラは誇張した方がいいはずだ。
「素人で選挙や政治について何も分かっていない」というキャラ造形ではあるが、その表現が中途半端なのだ。しっかりと振り切っていないから、ギャグとしても風刺としても煮え切らないモノになっている。
極端なことを言うと、「そんな奴、おらんやろ」とツッコミを入れられるぐらいのキャラでいいと思うのよね。そこで変にリアリティーを持たせても、何の意味も無いんだから。そこでバランス感覚を働かせても、プラスは無い。

「素人だからこそ既存の政治家では言えないことをズバリと言う」とか、「しがらみに縛られず自由に動ける」という形で、有美を政治家として持ち上げるようなことは無い。
その言動には、「政治家であるか否か」という以前に、人間として大いに問題がある。
しかし彼女が何も反省せず、改善は見られないまま、いつの間にか「こういう人が当選すべき」といった感じの方向に話が転がっていく。
「腐敗や汚職にまみれていないから、政治を変えてくれるかも」という期待を抱けるわけでもないし、その描き方には全く賛同できない。

「バカな候補者のせいで秘書が振り回されて苦労する」というドタバタを喜劇として描くなら、有美が「何も分かっていないのに自信満々で、バカなことを繰り返しても全く悪びれない」という奴でも構わないかもしれない。
しかし有美の言動のせいで谷村は周囲から叱責を受けることもあるが、そんなに「翻弄されて大変」という描き方はされていないんだよね。
何が起きても基本的には落ち着いた様子だし、有美の言動を冷めた態度で見ていることもある。
なので、ちょっと作品の演出方針が良く分からない。

中盤辺りからは、有美の不愉快な言動がパタリと減る。そして、彼女を都合良く利用して操ろうとする秘書や議員の醜さばかりが強調して描かれるようになる。
これによって有美は「被害者」の立場になり、そこまでに蓄積していた不快指数は一気にゼロと化す。
だけど、彼女を「周囲が操るために利用される存在」として描くなら、最初からその方向で良かったんじゃないかと。
ただし、どっちにしても、そんな展開に入ると笑いはゼロで、ただ醜悪な連中に対する不快感が強いだけの話になっちゃうんだけどね。

粗筋でも触れたように、谷村は有美に協力するようになる。しかし、あまりにも唐突で、違和感が強い。
娘のことで気が変わったのは、理屈としては分かる。だけど、それまで彼は有美が苦しんだり辛い思いを抱えたりしているのも間近で見ているのに、全く気にする様子は無かったのだ。それどころか、彼女を脅して言うことを聞かせようとしていたのだ。
全くブレずに「卑劣で腐り切った秘書」としての仕事を全うしていた奴が、川島の見舞いをきっかけにして急激に変化するのは、話の進め方として上手くない。
「目が覚めた」と感じさせるドラマが弱いので、掌返しの説得力が無い。

映画のテーマやメッセージを考えると、谷村の反応って大きな要素だと思うんだよね。
だからホントなら、もっと揺らや迷いがあった方が良かったんじゃないかと。
前半から「これは違うんじゃないか」と疑問を抱きつつも仕事をこなす毎日が続いて、「政界の常識は非常識」と感じ、「間違っているから正すべきだ」と行動に出る展開にした方がいいんじゃないかと。
谷村のリアクションが淡々としていて基本的に熱を感じないのは、演出として違うんじゃないかと。

有美は型破りな言動で炎上するが、支持率は上がる。これをギャグとして描くのはいいとして、ヘイト発言で支持者が増えるのはブラックジョークにもなっていない。ただのダメなシナリオになっている。
「落選するための行動を開始したのに、ことごとく失敗する」という展開に入っても、1つも笑える箇所が見つからない。
この映画の致命的な欠点は、コメディーとしての力が全く足りていないってことだ。その原因は脚本よりも、演出の部分が圧倒的だ。
坂下雄一郎は政治に対する憤りを抱いており、強く訴えたいメッセージがあったのだろう。
ただ、その思いが生真面目すぎたせいで、喜劇に昇華できなかったのではないだろうか。

(観賞日:2023年6月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会