『県庁おもてなし課』:2013、日本

1987年、春。高知県商工労働部観光振興課の清遠和政は県庁の役人たちに対し、パンダ誘致による観光発展計画を訴えた。彼は政策企画課の中浜龍次郎たちの前で、「必ず西日本一の観光スポットになる」と熱弁を振るった。しかし職員たちから全く相手にされないどころか資料課へ左遷され、清遠は辞表を提出した。13年後の夏、神戸の王子動物園にやって来たパンダが大人気となり、それは観光客の増加に繋がっていた。。一方、高知県では観光客数の減少が4年連続で続いていたが、観光振興課の職員たちは何の危機感を抱かずに「パンダを見に行こうか」などと呑気に話していた。
さらに12年後、春。最大の課題は観光であり、体制を強化すべきだという知事の声を受け、高知県庁観光振興部に“おもてなし課”が発足した。そのメンバーは課長の下元邦宏、職員の掛水史貴、近森圭介、小泉恭子という4名だ。しかし下元たちは、何から始めればいいのか全く分からない状態だった。掛水はネットで調べた情報として、有名人を観光特使に任命する自治体が多いことを告げる。他の面々も賛同したため、掛水は県出身の作家である吉門喬介に連絡を取った。観光特使になってほしいと依頼すると、吉門は快諾してくれた。
それから34日後の朝、アパートを出た掛水は、いつものように自転車で県庁へ向かう。自分の前をママチャリで走っていた女性がいたので掛水は追い抜こうとするが、むしろ引き離されてしまった。県庁に到着した彼はママチャリを見つけ、乗っていたのが明神多紀という女性だと知った。おもてなし課に赴いた掛水は、吉門からの電話を受けた。吉門に「特使の依頼を引き受けてから34日目。最初のアプローチから1ヶ月も放置していたら話しが流れたと思われても当然だよね」と言われ、掛水は激しく狼狽した。
掛水は吉門に、観光特使の名刺の裏に観光名所の無料クーポンを付ける作業を進めているものの、討議に時間が掛かっているのだと釈明した。それなりに動いていることを説明する。吉門は途中経過を報告すべきだと要求し、民間感覚が不足していることを指摘した。さらに彼は、「そのクーポンは失敗するよ」と言う。彼は無料でなく割引にしろだの、損失を補填しろだのという話になるはずだと指摘するが、その通りの状況になっていた。
吉門は掛水に、「観光促進を本当に考えているのなら、公務員ではない若い女性を外部スタッフとして入れること」と助言する。さらに彼は、パンダ誘致論について調べるよう促した。掛水は職員たちにパンダ誘致論のことを尋ねるが、年配の連中は関わることを避けようとして何も話してくれなかった。資料課へ赴いた掛水は、そこでアルバイトをしている多紀と出会った。多紀がパンダ誘致論に関する詳しい資料を迅速に用意してくれたので、掛水は感心した。もうすぐ資料課のバイトが終わり、次の仕事も決まっていないことを知った掛水は、おもてなし課に多紀を入れることにした。
掛水と多紀は、パンダ誘致論の発案者である清遠と会うことにした。清遠は現在、民宿“たかとお”を拠点に観光コンサルタントの業務を行っていた。清遠の娘である佐和が、民宿を実質的に切り盛りしている。電話を掛けても取り次いでもらえないので、2人は民宿へ出向く。すると2人が県庁の人間だと知った佐和が、いきなり激昂してバケツの水を浴びせて来た。掛水は多紀の盾になり、一人で水を浴びた。掛水が名刺を渡して欲しいと頼んでも、佐和は冷たい態度で拒絶する。しかし吉門の紹介だと聞くと、彼女は名刺を受け取った。多紀は、吉門の名前で佐和の表情が変化したことに気付いた。
県庁の人間が来たことを知った清遠は、おもてなし課のホームページをチェックした。すると工事中のコンテンツばかりで、まるで内容が無かった。呆れた清遠だが、掛水と会う約束を取り付けるよう佐和に指示した。翌日、掛水と多紀は民宿を訪れ、清遠と会った。清遠は観光コンサルタントとしての自分に対する依頼であること、料金が高額になることを確認する。誰の入れ知恵なのかと彼が尋ねるので、掛水は吉門の名前を出した。すると清遠は意味ありげな表情で、佐和に視線を向けた。
後日、清遠は県庁へ赴き、おもてなし課の面々と顔を合わせた。清遠がプラン採用1つに付き500万円を要求すると、下元は「企画を見て、県で検討してから」ということで了承した。すると清遠は「高知県は自然しか無い。交通の便が悪く、企業誘致にも向かない」と語った上で、発想の逆転を説いた。彼が提案したのは、手付かずの自然を利用する「高知県レジャーランド化構想」だった。用意された資料に目を通した下元は、掛水たちの前で「これは買わんとしゃあないやろ」と呟いた。
掛水と多紀は車で民宿へ向かう途中、吉門と遭遇する。掛水が目的地まで送ろうとすると、吉門は「一緒でいい」と告げる。多紀が清遠との関係について尋ねると、吉門は「昔は親子だった、今は違う」と告げる。清遠と母が子連れ同士で結婚したが、後に離婚したのだと彼は説明した。車が民宿に到着すると、佐和は「なんでアンタが喬にいを連れて来るがね」と掛水に腹を立てて平手打ちを浴びせた。佐和は走り去るが、吉門は「どうせ、そこら辺にいるよ」と軽く言う。しかし掛水は「ほっとくわけにはいかんでしょ」と、後を追った。県庁のやり方を佐和から非難された掛水は、土下座で謝罪した。
民宿を後にした掛水は、多紀から「佐和さんを追い掛けたりするき、吉門さんが迎えに行けんようになったがやないですか」と空気の全く読めない行動を咎められる。掛水は「吉門さんのこと、よう分かっちゅうみたいやないか。ファンやったって言うとったもんな」と、嫌味を込めた言葉を浴びせた。多紀が「降ろして下さい。電車で帰りますき」と要求すると、掛水は車を停めた。掛水が駅で降ろして去った直後、吉門から電話が入った。事情を知った吉門は掛水を「バカか」と罵り、すぐに戻るよう命じた。掛水が戻ると多紀は泣いており、「佐和さんは歩いて帰れる距離でも追い掛けたのに、私はここに置いていけるがでしょ。もうええです」と言う。掛水は彼女を抱き締め、「もうええことにせんといて。すごく大事な物を無くした気がする」と口にした。
下元は予算について観光振興部長の山内正成に陳情するが、「財政が厳しい。金を使わんと頭を使って何とかせえや」と冷たく告げられる。掛水と多紀は実態調査のため、日曜市へ出掛けた。そこで2人は清遠と遭遇し、吾川スカイパークへ案内される。掛水は清遠に促され、パラグライダーを初体験した。その夜、掛水と多紀は民宿に誘われ、夕食を取ることになった。吾川スカイパークで感じたことを清遠から問われた多紀は、施設が男たちの山小屋みたいであり、トイレが酷すぎて女性は敬遠するだろうと語った。
その後も掛水と多紀は様々な観光スポットを巡り、実態を調査する。そんな中、下元は職員たちを集め、「県の見解が出た。これが結論や。計画については、実質調査と実現性の検討を続行」と告げる。つまり、却下はしないが結論は出さず、何も前に進まないということだ。さらに下元は、上層部が清遠を外すことを決定したと明かす。決定権を持つ人間たちは清遠と同世代で、追い出した相手が斬新な計画を持って乗り込んで来るのが我慢できないのだろうと下元は話す。掛水たちは激怒し、抗議すべきだと主張する。だが、そこに現れた清遠は、自分も了承したことだと告げる。力不足を謝罪する下元に、彼は「20年前とは全然違う。アンタのおかげです」と礼を述べる。「こんなに惜しまれて去れるなんて、幸せ者です」と清遠は言い、県庁を後にした…。

監督は三宅喜重、原作は有川浩「県庁おもてなし課」(角川文庫刊)、脚本は岡田惠和、製作は堤田泰夫&市川南、共同製作は池田宏之&内藤酵治&藤島ジュリーK.&堀義貴、&小林一彦&武本慎一郎&羽牟正一&池上博幸&山崎浩一郎、エグゼクティブプロデューサーは籏啓祝&山内章弘、チーフプロデューサーは重松圭一、プロデューサーは山崎倫明&沖貴子&服部宣之&前田光治、ラインプロデューサーは森太郎、プロダクション統括は佐藤毅、撮影は山田康介、美術は金勝浩一、録音は豊田真一、照明は川辺隆之、編集は普嶋信一、音楽は吉俣良。
主題歌『ここにしかない景色』関ジャニ∞、作詞・作曲:A.F.R.O.、編曲:大西省吾。
出演は錦戸亮、堀北真希、船越英一郎、小日向文世、高良健吾、関めぐみ、甲本雅裕、松尾諭、生田智子、志賀廣太郎、大島蓉子、石井正則、相島一之、田辺愛美、西村雄正、阿部丈二、松山メアリ、鈴木アキノフ、山下哲平、田口乙葉、山本清和、掛水一彦、吉良佳晃、久保彰彦、小松秀吉、徳弘雅志、長崎豊彦、城下秀二、藤澤志帆、山野真也、山野祐介ら。


有川浩の同名小説を基にした作品。実際に高知県庁に存在する部署「おもてなし課」をモデルにしている。
同じく有川浩の原作を基にした『阪急電車 片道15分の奇跡』の岡田惠和(脚本)と三宅喜重(監督)が、再びコンビを組んでいる。
掛水を錦戸亮、多紀を堀北真希、清遠を船越英一郎、知事を小日向文世、吉門を高良健吾、佐和を関めぐみ、下元を甲本雅裕、近森を松尾諭、吉門の母親を生田智子を演じており、お遍路の夫婦役で志賀廣太郎と大島蓉子、アナウンサー役で石井正則、山内役で相島一之が出演している。

まず導入部で引っ掛かるのが、「パンダ誘致論は素晴らしいアイデアだった。それを相手にしなかった県庁の連中は愚かだった」という見せ方になっていることだ。
役所の人間が観光促進のために何もしなかったことを非難するのは別にいいんだけど、「パンダを誘致して観光客を呼び込もう」というアイデアが、高知県にとって本当に正解だったのかどうかは甚だ疑問があるぞ。
神戸では動物園にパンダが来たことで観光客が増加したというニュースが流れるけど、だからって高知県が同じことをやっていたら観光客が順調に増加したかどうかは分からないでしょ。
そりゃあ観光促進の1つの方法ではあるだろうが、それが正しいのなら、どの都道府県もパンダを誘致すりゃいいということになってしまうでしょ。だけど観光促進って、そんなに簡単なものじゃないはずでしょ。

「民間感覚が必要だ」ということで多紀がおもてなし課に加わるのだが、その直後には清遠が参加する。つまり、そこで民間感覚を持った人物が加わるわけだ。
しかも清遠には観光コンタルティングの経験や知識があり、彼の主導で計画の準備が進むので、「民間感覚を持った人物」としては多紀よりも強い力がある。
清遠がいれば、多紀の存在価値は低い。彼女は掛水との恋愛劇のためだけに出て来ているような状態になってしまう。
ぶっちゃけ、彼女がいなくても、それほど支障が無く物語は転がって行くのである。

色んな登場人物を充分に使いこなせていないのだが、特に小泉恭子が何の役にも立たず、何のために存在しているのか全く分からない状態になっているのはダメだろ。
おもてなし課のメンバーの中で彼女だけは、まるで存在意義が無いのだ。
登場してから全く目立たない時間帯が続くので、どこかのタイミングで1ヶ所だけ彼女が活躍するシーンを用意してあるのかと思ったが、最後まで無意味な存在で終わってしまった。
だったら、別にいなくてもいいだろ、この人。

清遠が提案する「高知県レジャーランド化構想」は、ものすごくザックリとした大枠の部分しか教えてもらえない。
おもてなし課の面々は資料を読んで素晴らしいと感じ、下元は「これは買わんとしゃあないやろ」と言うのだが、何が彼らの心を掴んだのかは全く分からない。
具体的な構想が伝わって来ないので、こっちは腑に落ちない気持ちのままで物語の進行を見守らなきゃいけない羽目になってしまう。

長編小説である原作の全てを映画に盛り込むのは至難の業、というか不可能な作業であるからして、どこに重点を置くか、何を抽出して何を削り落とすのかってのは、監督や脚本家の判断だ。
そこはセンスが求められる作業だが、まさか恋愛ドラマに重点を置いて、主人公の仕事や人間的成長を削り落とすとは思わなかった。
っていうか私は読んでいないのだが、ひょっとすると原作もそういう内容なのか。
だとしたら監督や脚本家に責任は無いんだろうけど、たぶん違うんじゃないかという気がするんだよなあ。

そもそも「重点を置いて」と前述したけど、恋愛ドラマだって決して充実した内容になっているわけではない。
多紀がいつ頃から、掛水のどこに惹かれるようになったのかサッパリ分からないし。
それと、この2人の恋愛劇よりも、吉門と佐和の恋愛劇の方が遥かに引き付ける力が強いんだよね。掛水と多紀の恋愛劇は、付け足しのようなモノになっている。
だったら恋愛劇は吉門と佐和に任せて、掛水に関しては恋愛劇よりも優先すべき事柄があるんじゃないかと。

恋愛劇よりも掛水に関して優先すべき描写は、おもてなし課としての活動と、民間感覚に触れたことによる変化や成長だ。しかし、そこがスッカスカなのだ。
高知県レジャーランド化構想が企画されたのなら、その実現に向けた行動を充実した描写にすべきだろう。ところが掛水は、ほとんど何もしていない。やったことと言えば、多紀と芋天を食べたり、パラグライダーに乗ったりするだけ。
その後も幾つもの観光スポットを巡るが、それはデートや遊びにしか見えんぞ。
そして映画としては、ただ観客に観光スポットを紹介するためだけのシーンになっている。

掛水は実態調査と称して観光スポットを巡っているのだが、それが計画の進行に全く結び付いていない。
そこで具体的に何を調査したのか、何を感じたのか、どういう風に構想を具体化させていこうと考えたのか、そういうことは全く描かれていない。
具体的な情報としては、多紀が「施設のトイレは酷かった」と言うだけ。それ以外の意見は、何一つとして提示されない。
だから、掛水たちの実態調査が構想実現のための役に立っている、計画が前に進んでいるという印象は、これっぽっちも受けないのだ。

っていうか実際に、高知県レジャーランド化構想は一歩も前に進んでいないのだ。県の上層部が調査の続行を指示し、実質的には放置する形になってしまう。
この映画の恐ろしいところは、ホントにそこで話がストップしてしまうということだ。
普通なら、「そこから前に進むために何をすべきか」と主人公が考え、何か行動を起こすことで状況が変化する、という展開にするだろう。
しかし本作品では、掛水たちは何もしないし、だから高知県レジャーランド化構想は何も進まないままで映画は終わってしまうのだ。

高知県レジャーランド化構想にストップが掛かった後、掛水は「役人も仕事がしてえ」と叫ぶ。
だが、誰も仕事をするなとは言っていない。そこで「役人も仕事がしてえ」と叫んでしまうのが、相変わらず役所体質が抜け切っていない証拠だ。
清遠との交流によって感化され、民間感覚を取り入れたのかと思いきや、何も変わっちゃいない。
仕事がしたいなら、すればいいのだ。予算の都合で構想が止まったのなら、「では予算が無い中で何がやれるのか」を考えればいい。
どうしても高知県レジャーランド化構想を進めたいのなら、そのために何が必要なのかを考えればい。

っていうか、そもそも高知県レジャーランド化構想にストップが掛かる前から、お前は仕事らしい仕事なんて全くやっていなかったじゃねえか。だから「役人も仕事がしてえ」と叫ばれても、何をほざいているのかと言いたくなるぞ。
最終的に掛水は、吉門がゲストとして呼ばれたテレビ番組に小説のモデルとして登場し、郷土愛を訴えるんだけど、口だけなら誰だって言えるんだよ。
郷土愛を持った人間が、おもてなし課の職員として何をやるのか、何をやったのかを描くべきでしょうに。
結局、おもてなし課って最後まで、「形だけを整えて中身が何も無い」というハコモノ行政から何も抜け出せてないじゃねえか。

(観賞日:2014年12月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会