『ケイゾク/映画 〜Beautiful Dreamer〜』:2000、日本

定年退職を10日後に控えた警視庁捜査一課弐係の係長・野々村光太郎は、退職金で不倫関係から足を洗って若い愛人・雅と再婚することも 決まっていた。彼が浮かれていると、管理官の塩川正義が人事の発令に来た。彼は野々村に「本日付で係長待遇への降格人事となる。 新しい弐係長が来ることになった」と告げる。何もしていないので、退職金のスリム化で降格人事になったと言われ、野々村はガックリ する。そこへ新任の係長として赴任してきたのは、弐係出身の柴田純だった。
柴田が着任して早々、婦人警官の今井夏紀が面会希望者の到着を報告した。15年前に沈没した第七神竜丸の生存者である磯山早苗と、その 娘である章子だ。早苗は精神に異常をきたしているらしく、フランス語ばかり話した。章子は柴田たちに、事情を説明した。15年前、 厄神島へ向かう途中で、第七神竜丸に乗っていた9人の内の2人が死亡した。原因は未だに不明だ。厄神島の周辺では謎の遭難事故が しばしば発生している。
章子は柴田たちに、早苗宛てに届いた手紙を見せた。それは厄神島への招待状で、差出人は事故で亡くなった霧島夫妻の長女・七海だ。 古くからの父の友人や事件の捜査に協力した人々を招いて、パーティーを開きたいと書いてある。七海は特別チャーター船のルビコン号も 、既に手配していた。早苗がどうしても行くというので、心配になった章子は警察に同行してほしいのだという。野々村は、庶務宛てに 同じ招待状が届いていたことを思い出した。
柴田が行きたい人に挙手を求めると、立候補したのは彼女だけだった。そこで捜査一課弐係の真山徹、遠山金太郎、近藤昭男、野々村、 捜査一課一係の木戸彩たちで、くじを引くことにした。最初に引いた真山が当たりを引き、柴田と一緒に島へ行くことに決まった。当日 、船着き場に現れた章子は、母親が倒れたので自分だけで行くことを告げた。船には他に、第七神竜丸の生存者であるエッセイストの 長谷川裕子、弁護士の瀧山吉弘、不動産会社社長の栗原宏悦、建築家の内藤亜希雄、七海の父親の弟子・喜多一尋、第七神竜丸の乗組員 だった仁平智が乗り込んだ。
一行が厄神島に到着すると大きな城があり、そこで七海が待っていた。彼女は食事を用意していたが、すぐに「早速、余興を始めると いたしましょう」と言う。七海は柴田と真山を除く7名にトランプを配り、「間もなく、一番数字を引いた人の命が消えます」と告げる。 キングを引いた栗原に、彼女は「貴方の命が消えます」と予言した。栗原は「バカバカしい、帰る」と立ち去ろうとするが、血を吐いて 死んだ。七海は「先程の料理に毒は入っていません」と笑った。
柴田は手品用のトランプが使われ、七海がトリックを使っていたことを指摘した。すると七海は余裕の笑みで「私がいつ、栗原さんに毒を 仕込んだんでしょうか。犯罪は立証されなければ罪にならない」と言い放つ。彼女は「私の父と母は、貴方たちに殺された。救命ボートに 乗せてもらえずに」と、生存者たちを非難した。瀧山が「ボートが足りなかった。霧島夫妻が自分たちで犠牲になると立候補したんだ」と 釈明しても、彼女は信じなかった。
七海が真実を話すよう要求すると、長谷川たちは黙り込んだ。すると七海は「では一人一人、死んでもらうことにします」と宣告した。 証拠が無いので、柴田たちも逮捕は出来ない。長谷川たちは島を出ようとするが、船が消えていた。それぞれの部屋に戻った直後、悲鳴が 上がった。駆け付けた柴田たちは、窓の外を転落する長谷川を目撃した。しかし落下したはずの場所へ行っても、死体は見つからない。 七海は不敵な笑みを浮かべ、城から姿を消した。
仁平の提案で、翌朝になってから島を脱出する方法を考えることになった。眠っていた柴田が夜中に目を覚ますと、父が部屋の隅に座って いた。柴田は少女時代を回想した。翌朝、喜多は部屋から一歩も出たくないと主張し、朝食の場に来ない。船を見つけるため、真山は自分 と柴田でジャングル、章子と仁平で海沿いを捜すよう指示した。柴田たちはジャングルで道に迷った。その間に七海は喜多の部屋を訪れ、 自首を求めた。喜多に拒否されると、彼女は「では、この部屋ごと消えてもらいます」と告げた。
一方、野々村たちは、公園のゴミ箱に捨てられていた壺坂邦男警部補の生首を発見した。朝倉祐人が絡んでいると確信した野々村は、木戸 に「我々の命を懸けた最後の戦いになるだろう」と決意を示す。翌朝、木戸は島へ向かうため船着き場に赴くが、まだ野々村が姿を見せて いなかった。木戸は近藤に煙草を買って来るよう告げ、船に乗り込んだ。船が出港すると、木戸の前には斑目重友が現れた。
柴田と真山は、ジャングルで章子と仁平、瀧山、内藤と合流した。城に戻った仁平は、海沿いに壊れたボートがあったことを報告した。 部屋に戻った柴田たちは、それぞれの所持品が1つずつ無くなっていることに気付いた。喜多を捜そうとすると、彼の部屋が丸ごと消えて いた。さらに、海の向こうに見えていた島も消えていた。真っ暗な部屋を調べると、そこに無くなった所持品があった。部屋の奥には喜多 の死体が転がっており、その向こうには七海の首吊り死体があった。彼女の足元には、「NO17」という文字が書かれていた。七海が 自殺ではないと確信した柴田は、やがて事件の真相に辿り着いた…。

監督は堤幸彦、脚本は西荻弓絵、製作は児玉守弘&阿部忠道&大月俊倫、企画は原田俊明、プロデューサーは植田博樹&田上節朗& 濱名一哉、協力プロデューサーは中澤敏明&大川裕&森山敦、企画協力は蒔田光治、撮影は唐沢悟、美術は佐々木尚、照明は石田健司、 録音は井上宗一、編集は上野聡一、サウンドプロデュースは志田博英、VFXスーパーバイザーは曽利文彦、アートコンセプトは青木ゆかり 、音楽は見岳章。
主題歌「クロニック・ラヴ -Remix Version-」作詞:中谷美紀、作曲:坂本龍一、編曲:坂本龍一、歌:中谷美紀。
出演は中谷美紀、渡部篤郎、鈴木紗理奈、竜雷太、泉谷しげる、大河内奈々子、泉ピン子、小雪、生瀬勝久、徳井優、伊丹幸雄、矢島健一 、有福正志、高木将太、村井克行、峯村リエ、片桐はいり、田口トモロヲ、酒井敏也、三角八朗、大川浩樹、野添義弘、多田亜沙美、 永田杏奈、天本英世、清水よし子、西尾まり、梨本謙次郎、デビット伊東、Bro.KORN、KERA、犬山犬子(現・犬山イヌコ)、徳山秀徳、 津田延代、小島莉子、後閑まや、小西舞、華月ともこ、谷津勲、サバ男、モッコリブロンソン、山本光洋、藍義啓、凛龍、高杉航大、 今村明美、重水直人、徳井広基、トニー・セテラ、ゲーリー・モーガン、サムエル・ポップ・エニング他。


1999年にTBS系列で放送されたTVドラマの劇場版。
柴田役の中谷美紀、真山役の渡部篤郎、木戸役の鈴木紗理奈、野々村役の竜雷太、壺坂役の泉谷しげる、近藤役の徳井優は、TVシリーズ のレギュラー。遠山役の生瀬勝久と塩川役の伊丹幸雄は、TVシリーズ後に放送された特別篇からの登場。
劇場版のゲストは、章子役の大河内奈々子、七海役の小雪、長谷川役の片桐はいり、瀧山役の田口トモロヲ、喜多役の酒井敏也、内藤役の 三角八朗、栗原役の大川浩樹、仁平役の野添義弘、野々村の妻役の泉ピン子など。
監督はTVシリーズでも演出を務めた堤幸彦。

キャラ紹介や人物関係の説明などは、全く無い。TVシリーズを見ていなかった観客に対する配慮は皆無の、不親切な設計だ。
完全に、TVシリーズを見ていた人だけをターゲットとして作られているってことだろう。
私が勝手に呼んでいる「コミューン映画」に属する作品である。
もしも、これで「TVシリーズを見ていない人にも楽しんでもらおう」「TVシリーズを見ていない人でも楽しめるはず」と製作サイドが 考えていたとすれば、とてつもなく頭が悪いか、完全なるキチガイか、どちらかである。

一見さんからすると、とにかくワケの分からないことだらけである。
最初の5分間で色んな奴らが登場して何か喋ったり行動したりするが、何一つとして把握できない。
そいつらが誰なのか、どういう関係性なのか、過去に何があったのか、何一つとして分からない。
それは「時間軸をバラバラにしてあって、後から説明する」ということではない。
それ以降も、説明はすっ飛ばして話を進めていく。

すぐに柴田と真山の2人だけが離島へ行き、そこで事件が発生するので、捜査一課弐係のキャラや人間関係は 大きな障害にならないのかと思いきや、そいつらも途中で登場する。
しかし、冒頭で手榴弾を持っていた泉谷しげるの生首が発見されて「壺坂先輩だ」と言われるが、壺坂が何者なのか、なぜ手榴弾を持って いたのかは全く分からない。
野々村が「朝倉」と叫ぶが、朝倉が誰なのか分からない。

木戸が船に乗る理由も、どこへ行くのかも分からない。
船に乗って来た男が何者なのかも、なぜ男が木戸を撃つのかも分からない。
しかも、それらのキャラや出来事は、島で発生した事件とは何の関係も無いのである。
それだけでなく、途中で柴田の過去を巡る不可思議な映像が挿入されたり、真山に「養女だからホントの父親に会いたい」という思いを 語るシーンがあったりするので、ますます一見さんは付いていけなくなる。

一方、島で起きた事件についてだが、柴田たちが「証拠が無いから七海を逮捕できない」と言うのは分かるが、なぜ七海に尋問したり、 監視したりしようとしなかったのか分からない。
後半に入り、真山は生存者たちを誘い出してロッカーに拘束したり、襲って来た仁平にいきなり拳銃を向けて脅してからボコボコ にしたり、「あの世で罪を償えば?」と殺すようなことを言ってから威嚇発砲したりするように、刑事としてあるまじき行動を平気で 取る。
そんな奴なのに、「証拠が無いから七海を放置しておくしかない」というトコだけルールを順守しようとする。
それは整合性が取れていないと感じる。

こっちにマトモなヒントの与え方をしないまま、柴田は事件の謎解きに入る。
彼女が謎解きを語っても、「なるほど、あの時のアレは、そういうことだったのか」という爽快感は全く味わえない。
本格ミステリーとしての面白さは皆無と言っていい。
犯人の設定も、ちょっと無理があるように思える。
ずっと姉貴を恨んでいた女が、その姉貴と手を組んで犯人への復讐を果たそうってのは、どうなのかと。

とは言え、どうせミステリーなんて最初から、本作品では重要なものと位置付けられていない。
まあハッキリ言っちゃうと、島の事件はオマケみたいなものだ。
長編映画としてTVシリーズの続編を作るために、何か新しい事件を用意しなきゃ形にならないだろうってことで、とりあえず用意されて いるに過ぎない。
本当に監督が描きたかったのは、一見さんにはワケの分からない部分である。

残り30分で事件が解決され、残りの尺はどうするのかと思ったら、そこからは柴田が死んだ父親や親友と、真山が壺坂や殺された妹や斑目 の姿になった朝倉たちと、それぞれ会話をするという様子が延々と描かれる。
それは、そこまでの事件とは何の関係も無い、それぞれの過去に関わる人々の幻影が登場する映像だ。
ただひたすらに、ワケが分からない。
それって、一見さんだけじゃなくて、TVシリーズを見ていた人でも、果たして面白いと思えるのか、満足できるのか、大いに疑問だ。

その残り30分の心象風景みたいなシーンは、『ツイン・ピークス』や『エヴァンゲリオン』の模倣に感じられる。
『ツイン・ピークス』はTVシリーズのマニアックなファンしか分からないような映画を作ったら見事にコケた作品で、『エヴァ』は 主人公に「逃げちゃダメだ」と言わせておいてクリエイターが最終回で逃げちゃった作品だ。
それを真似して、面白い作品になるとは到底思えないんだけど。

ちょっと調べたところ、どうやら本作品って、TVシリーズ最終回で意識不明に陥った柴田の見ている夢の中身という設定らしい。
夢の中で事件が起きて解決しようと、退屈な禅問答を繰り返そうと、だから何なのかと。
ひたすらに、どうでもいいわ。
もはやTVシリーズのファンのことさえ考えていない、単なる監督の自慰行為になっている。
カルト映画を狙ったのかもしれないけど、ただの失敗作だと断言しておこう。

(観賞日:2012年2月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会