『風を見た少年 The Boy Who Saw The Wind』:2000、日本

ハンベルの町では、冬至祭だというのに景気はサッパリで、商人も少年アモンの母マーゴも暗い顔をしている。町は黄金龍帝国の復活を 目指す独裁者ブラニックに制圧され、彼の軍隊である金蛇隊が武装して巡回している。少年アモンはペットのミリューと外で遊んでいる間 に、眠り込んだ。目を覚ますと、彼の家が燃えていた。父のフリッツが火を放ったのだ。彼は「大丈夫、全部、燃やしたよ。悪魔には 渡さないさ」とマーゴに告げ、アモンを車に乗せて国境へ向かう。
金蛇隊が車を追跡し、攻撃して来た。フリッツはアモンに、「誰かが光遊びを見せてくれと言っても、絶対にやってはいけない」と告げる 。彼は運転を誤り、車ごと崖下に転落した。ブラニックが手下を引き連れ、現場に到着した。彼は天才物理学者であるフリッツを生け捕り にしなかったことで、部下を責めた。両親を亡くしたアモンの元に、フリッツの助手ルチアが駆け寄った。アモンはルチアに連れられ、 黄金龍帝国の空飛ぶ軍艦に乗り込み、そして眠った。
かつて両親と一緒に町を歩いていた時、アモンは瀕死のミリューを発見した。彼が両手をかざすと、そこから黄金の光が放たれ、ミリュー の怪我は完治した。驚いたフリッツはアモンに光遊びをさせ、それを使ってエネルギーを開発する実験をルチアと共に繰り返した。ついに エネルギーが目標値に達した頃、ブラニックが部下を引き連れて現われる。彼は新しいエネルギーを使った兵器を作れと命令するが、 フリッツは拒絶した。彼は全ての研究データを焼き払い、亡命を企てたが、事故死してしまったのだ。
だが、研究データは残っていた。ルチアがブラニックのために、密かにデータを保管していたのだ。ブラニックはルチアに「何があっても 微粒子爆弾を完成させてくれ。黄金龍帝国を復活させ、私が世界の王となるために」と告げ、帝国の科学大臣に据えることを約束した。 一方、目を覚ましたアモンは、窓の外を飛ぶ金鷲の声を耳にした。アモンが甲板に出ると、金鷲は「お前の力を彼らに使わせてはいけない 。お前には風が見えるはずだ。目を閉じて、風の音を良く聞くんだ」と告げた。
目を閉じたアモンを見つけた兵士が触れようとすると、電撃で弾き飛ばされた。アモンは金鷲に「ごらん、古(いにしえ)の風の民が見た 、黄金色(こがねいろ)の風だ」と言われ、目を開ける。その風に吹かれたアモンは、軍艦から空中に身を投げ出されてしまう。だが、 金鷲に「お前は飛べる。さあ、両手を広げて。風に乗るんだ」と言われたアモンは風を操り、空を飛んで着地した。
いつの間にか眠り込んだアモンは、3日後に目を覚ました。そこは洞窟で、巨大な熊ウルスが食料を持って来た。アモンが降り立ったのは 心臓の島と呼ばれる場所で、ウルスは島の主人だった。彼は洞窟までアモンを運んでくれたのだ。ウルスはアモンに、風の民の描いた壁画 を見せ、「彼らは我々と話をして、鳥と共に空を飛んだ」と言う。洞窟には笛が落ちていた。それを拾い上げたアモンは、演奏してみせた 。するとウルスは「それは風の民にしか吹けない」と告げた。同じ頃、ブラニックは黄金龍帝国の誕生を宣言していた。
ウルスはアモンに、風の民のことを語り始めた。風の民は、物を持つことも貯めることもしなかった。だが、ある日、木の実を一人占め しようとする若者が現れた。すると、みんなが彼の真似をするようになり、いつしか空を飛ぶ者はいなくなった。彼らは自分の食料だけ では満足できなくなり、奪い合うようになった。やがて武器を持つ面々が現れ、自分たちを「黄金龍」と呼んだ。彼らは風の民を滅ぼして 王国を作り、さらに領地を広げようと戦いを繰り返した。しかし、やがて彼らは南に現れた部族に滅ぼされた。
アモンは急に「飛んでみたくなったんだ。僕には風が見えるんだよ」と言い、夕陽に向かって崖からジャンプした。アモンは風に乗って空 を飛ぶが、ウルスが「早く降りろ。風の民は太陽が沈むと飛べない」と警告した。少女マリアは、川で気を失って倒れているアモンを発見 した。アモンは川に墜落し、下流まで流されたのだ。そこは隣国・ナバーンの外れにあるイルカ岬だった。
マリアはアモンを家へと連れ帰った。彼女は母親のモニカと2人で暮らしていた。モニカは「帰るところが無ければウチでいてもいいよ」 と優しく声を掛けた。元気になったアモンは、村の男たちのザビ漁に参加した。ザビとは巨大な魚で、それは村人たちにとって大切な食料 だ。初めて参加したアモンは全く役に立たなかった。夕食の時、彼が「何だかザビが可哀想で」と言うと、モニカは「これを食べなきゃ 飢え死にしちゃう。全部食べなきゃ申し訳ない」と言う。マリアの父と兄は、ザビ漁で命を落としていた。
マリアは機織を学んでいた。村の女は機織で稼いでいる。「もっと上手になって、布が高く売れるようになったら欲しい物がある」と マリアは言う。彼女が欲しいのは人形だった。大潮で漁が休みになったアモンは、「何でも手伝う」とマリアに告げる。すると山の民の所 へ行くマリアは、アモンを女装させて連れて行く。アモンのせいで到着が遅れたため、干物や塩を並べて商売を始めても全く客が来ない。 しかしアモンが笛を演奏すると、たちまち客が集まってきた。
アモンは少しずつたくましくなり、村の生活にも馴染んでいく。そんな中、ブラニックやルチアたちは、プロペラ機で心臓の島に接近した 。そこに隠されている財宝を手に入れるためだ。しかし強風のため、プロペラ機は着陸できない。そこで彼らは、イルカ岬から川を遡って 島へ向かうことにした。ルチアはナバーンと戦争になることを危惧するが、ブラニックは「いい機会だ」と不敵に笑った。
雨の日、ブラニックの軍隊が船で上陸し、ナバーンを攻撃した。村を守るため、海の民は封印されていた武器を手に取った。しかし圧倒的 な戦力の違いを見せ付けられ、海の民は村を捨てて撤退を開始した。モニカを見つけたマリアは、アモンを振り切って駆け寄ろうとする。 それを発見した兵士が銃を乱射した。アモンが慌ててマリアを捕まえるが、モニカは銃弾を浴びて死亡した。
眼前でモニカを殺されたアモンは激怒し、「やめろー!」と叫んだ。すると体から強いエネルギーが放出され、兵士や軍艦を吹き飛ばす。 一瞬にして、彼は軍隊を崩壊させた。上空から戦況を見ていたブラニックは、攻撃を中止し、生きたままアモンを捕らえるよう命令を下す 。アモンは悲しみに暮れるマリアを連れて山を越え、森の中で男たちと遭遇する。リーダーのタバルが「明日になれば金蛇隊が来るだろう 。早く離れた方がいい」と警告すると、アモンは「一緒に連れていってくれませんか。帰る所を無くして」と述べた。
タバルや副リーダーのタバルたちがハンベルの町へ行くというので、アモンとマリアは付いて行くことにした。その途中、マリアは 「イルカ岬に帰りたい」と寂しそうに漏らす。するとアモンは風を捕まえ、「空で遊ぼう。海でイルカたちと遊んだように」と彼女を誘う 。アモンがマリアの手を繋いで空を浮遊する様子を目撃し、タバルたちは驚いた。一方、ルチアはブラニックに、「あの少年の力が必要 です。小さなエルネギーホールを大量に生み出す光遊びこそ、微粒子爆弾の核になります」と告げた。
ハンベルへ向かう途中、タバルの一行には仲間たちが次々と合流した。ハンベルに到着した彼らは、協力者である医者サリシュミの家に 赴いた。村は女や子供はいない。みんな黄金龍帝国に捕まったのだ。タバルたちは、家族を取り戻すためにレジスタンスとなっていた。 彼らは冬至の祭りの後、一斉蜂起して家族を取り戻す計画を立てていた。アモンとマリアも、戦いに加わることを決めた。
アモンとマリアは、レーニックに連れられて町を歩いていた。しかしレーニックの不用意な発言を金蛇隊に聞かれ、マリアが捕まった。 アモンはマリアを奪還しようと車を追い掛けるが、拘束されてしまった。ブラニックはアモンが首から下げている笛に気付き、心臓の島へ 案内するよう要求した。アモンは、タバルたちに家族を返し、ラバーンを二度と攻撃しないという交換条件を突き付けた。
アモンはルチアから光遊びをするよう促されるが、父との約束があるため断った。しかしルチアに「私を信じて。仲間を助けたいんでしょ 。捕虜になっている仲間も、貴方が協力してくれれば出られるわ」と言われ、光遊びで実験に協力することを承諾する。しかしアモンの 放つ光エネルギーが持続しないため、ルチアは苛立った。ブラニックはアモンに案内させ、心臓の島に降り立った。洞窟に入ると笛が光り 、洞窟の巨大壁画が浮かび上がる。しかしブラニックは「こんな落書きを見に来たわけじゃない。太古のごみなど焼き払ってくれる」と 言い放ち、空飛ぶ軍艦の火龍砲で島を焼き尽くした。
ブラニックは「イルカ岬を攻撃しろ、この軍艦の威力を見せてやる」と部下に命じた。しかし厚い雲に覆われているため、砲弾の威力が 拡散されてしまう。冬至の前まで雲に覆われてしまうことを知ったブラニックは、ルチアに「冬至の日にナバーンを吹き飛ばす。それまで に微粒子爆弾を完成させろ」と命じた。ルチアは拷問されたレーニックの姿をアモンに見せ付け、光遊びをするよう脅す。だが、アモンは 「出来ないよ」と拒否した。
ルチアは、爆弾を完成させることが出来なければ、ブラニックに処刑されてしまうと恐れていた。彼女はアモンに麻酔を打ち、手術して脳 と心臓を摘出しようとする。その時、ゲリラ隊が科学技術局を襲撃した。ルチアはアモンにメスを突き付け、「どうしてこの子を助けるの 。空飛ぶ軍艦も火龍砲も、フリッツが作ったものなのよ。この子の力も微粒子爆弾を作るために使われる」と言い出すが、レーニックに 射殺された。ゲリラ隊はアモンとレーニックを救出するが、マリアは軍事管理局の牢に入れられたままだった。一方、ブラニックは爆弾の 製造が不可能になったにも関わらず、「空飛ぶ軍艦の動力プラントをナバーンに投下して爆発させる」と宣言した…。

総監督は大森一樹、アニメーション監督は篠原俊哉、原作はC.W.ニコル、脚本は成島出、製作総指揮は佐藤東里、製作は増田久雄、 プロデューサーは糟谷豊&小沢十光&空閑由美子、アソシエイト・プロデューサーは臼井正明&安崎康博、 キャラクターデザインは前田実、作画監督は前田実&村田雅彦&田村一彦、色彩設計は歌川律子、絵コンテは篠原俊哉、 美術は荒井和浩、撮影監督は長谷川肇、編集は関一彦、録音監督は瀬川徹夫、音楽は寺嶋民哉、演奏はチェコ・フィルハーモニー室内 管弦楽団、指揮者はMario kiemens。
主題歌はREBECCA「神様と仲なおり」作詞/NOKKO、作曲/土橋安騎夫、編曲/REBECCA。
声の出演は安達祐実、内藤剛志、前田亜季、戸田恵子、夏木マリ、あおい輝彦、原日出子、原田大二郎、つのだ☆ひろ、石田太郎、 有川博、山谷初男、緒方文興、田野恵、 鈴木泰明、石川静、清川元夢、東美江、津田英三、坂井寿美江、松本大、むたあきこ、堀田智之、萩原えみこ、菊池銀次郎、大原さやか、 石丸純、阿部光子、渡辺謙太、成田隆弘、増田敦、熱田秀男、今井耕二、山岸功、花輪英司ら。


C.W.ニコルの小説『風を見た少年』を基にした長編アニメーション映画。
監督や脚本家に代わって企画のプレゼンや交渉を行うために映画プロデューサーの増田久雄が発足させたエージェント会社 「クリエイターズ・エージェンシー」の第一回企画作品。
その後、増田はクリエイターズ・エージェンシーの理念を受け継いだジャパン・クリエイティブ・マネージメントを設立している。

アモンの声を安達祐実、ブラニックを内藤剛志、マリアを前田亜季、ルチアを戸田恵子、モニカを夏木マリ、フリッツをあおい輝彦、 マーゴを原日出子、タバルを原田大二郎、金鷲を石田太郎、ウルスを山谷初男、レーニックをつのだ☆ひろ、サリシュミを有川博が担当 している。
REBECCAが10年ぶりに再結成して主題歌を担当しているが、NOKKOの声が全く出ていない。
チェコフィルハーモニー室内管弦楽団の演奏を、チェコの首都プラハのドヴォルザーク・ホールで録音するという、ものすごく無駄な ところに金を使っている。
バブル景気は、とっくに弾けていたはずなんだけどね。

冒頭、賑わっている町で、遊具で空を飛んでいる子供たちを見たハトが「バカだなあ、あいつら。人が空を飛べるわけがないのに」と喋り 、銅像が「お前らがバカなんだよ。人は昔、自由に空を飛べたんだ「こいつが、空を飛んだんだ。特別な仲間さ。俺たちと違って、魂が 遠くへ行った」と話してタイトルロールが表示される。
この導入が、既にキャッチーじゃない。
惹き付けられるものを感じない。
何より失敗していると感じるのは、その「現在」と、回想として描かれる「過去」の風景に、全く違いが見えないことだ。

アモンの一家が車で逃亡する段階で、この家族に関するデータは、ほとんど提示されていない。
まだアモンの名前しか分からない。
なぜ家族が追われるのか、父は何者で何を燃やしたのかも分からないし、それどころか両親の名前さえ不明だ。
さらに、この映画の世界観も良く分からない。どうやら町の人々が快く思っていない軍事体制下だということは分かるが、ものすごく 情報量が乏しい。

最初に「兵士に追われて車で逃げる」というサスペンス・アクションを持って来ることで、観客を引き込もうという狙いがあったのかも しれないが、この構成は大失敗だった。
まず最初に家族関係を紹介し、アモンが不思議な力を持っているとか、それをフリッツがルチアと共に研究しているとか、ブラニックが エネルギーの兵器利用を企んでいるということを説明しておく手順にすべきだった。
そこを回想形式にして、初めて両親がアモンの能力に気付いたところから描いてしまうことで、「なぜ今までアモンは両親の前でその力を 発揮することが無かったのか」という疑問が生じるし、実験シーンが一度だけなのに「とうとうエネルギーが目標値に達したんですよ」と 言っているのも描写が不足していると感じる。
これはいずれも、現在進行形で描けばクリアされる問題だ。「過去にフリッツはアモンの能力に気付き、何度も実験を行ってきて、 ようやく目標値に達したシーンがそこで描かれている」という形に出来るからだ。

回想が描かれる中で、ブラニックが部下を引き連れて現われると、彼の「フリッツ博士は新しいエネルギーを使った兵器を作れという私の 命令を拒否した〜」というナレーションが入るが、そこを彼の言葉による説明だけで処理するのは、あまりにも不恰好だ。
そこは、どう考えてもドラマとして描くべきでしょ。
だから、やっぱり最初にそういうのを説明してから逃走に移るべきなのよ。
回想形式にしたのは、デメリットしか無いぞ。

軍艦で金鷲を見たアモンは、簡単に部屋から甲板へと出ているが、誰も警備がいないのかよ。すげえ杜撰だな。
アモンが空を飛ぶ時も、ブラニックとルチアと兵士1名がボーッと見ているだけってのは手抜きでしょ。
そこは、アモンが逃げようとしていると感じたブラニックが、兵士に捕まえさせようとするとかさ。何の妨害も無く、アモンがブラニック たちを全く気にせず、まるで2人だけの世界の如くに金鷲と喋って空に舞い上がるってのは、その場面から高揚感を減退させている。
あと、金鷲は「お前には風が見えるはずだ。目を閉じて、風の音を良く聞くんだ」と語るけど、「見えるはず」と言っておいて「目を 閉じて良く聞くんだ」って、どっちやねん。

ウルスが風の民や黄金龍の民について語るシーンは、無駄に時間を使っているとしか感じない。
そんなことより現在のシーンを充実させてくれと。
そこは明らかに原作者の主張を語るためのモノなんだけど、それが鼻に付くし、あまりにもメッセージ色が強くなりすぎている。 娯楽色の中で、さりげなく盛り込まれているのではなく、そのメッセージを声高に主張する中で娯楽性が損なわれていると感じる。
あと、原作が書かれた1979年当時ならそうでもなかっただろうけど、映画が公開された2000年だと、もはや宮崎駿アニメの遅れてきた フォロワーにしか感じられないのよ。

アモンはウルスの話を聞いた後、急に「「飛んでみたくなったんだ」と言い出し、落下してマリアに助けられる。 ここの展開が、呆れるぐらいにマズい。
ウルスは単に昔話を語るためだけの扱いで、さっさと消えてしまい、せっかく軍艦から逃げ出したアモンは、そこでウルスと交流を深める ことも無く、また飛んで、また落下して、また助けてもらう。
前半の早い段階で、同じパターンを二度繰り返すというのは、構成としてマズすぎるでしょ。
そこは例えば、ウルスの住処の近くに海の民の村があって、空を飛んでいたアモンが村を発見してマリアたちと仲良くなるという形でいい じゃないか。なぜ、そこで「落下して助けてもらう」という形にするのか。っていうか、ウルスを出さなきゃいいでしょ。最初からアモン が村に辿り着く展開にして、村長なり長老なりが、風の民や黄金龍の民のことを語る形にしておけば済む問題でしょ。
ザビ漁の場面なんかも全く不要なんだけど、風だけじゃなくて、海とか山とか、自然の全てを網羅しようとしたのか。
そりゃ欲張りすぎだ。

ブラニックたちは心臓の島へ赴き、強風でプロペラ機が着陸できないために、イルカ岬から川を遡って島へ向かうことにする。
そこは、いちいち「島を目指すが上陸が不可能だから岬へ向かうことにした」という無駄な手順を踏まなきゃいけなくなっている わけだ。
そんなの、最初から「心臓の島にマリアたちの住む村がある」という設定にしておけば、スムーズに進行できたはずでしょうに。
しかも、ブラニックはホントなら、海の民の村を攻撃する必要性は無いんだよね。川を下って心臓の島へいくのが目的であって、ナバーン を滅ぼしたり制圧したりするのが目的じゃないんだから。
ところが、なぜかブラニックは「ちょうどいい機会だ」ということでナバーンの攻撃を決定する。で、攻撃目標は「ナバーン」という国 だったはずなのに、なぜか戦いは村の面々との戦いだけに矮小化されてしまう。
わざわざ、そんな小さな村を攻撃して何の意味があるのか。

例えば「村に何かがあって、それをブラニックが奪おうとしたから村人たちが抵抗する」というのなら分かりやすいけど、村の面々も、 攻撃を受けて反撃する理由に乏しい。
だって、ブラニックたちは村を手に入れたり村人を皆殺しにしたりするのが目的じゃないんだから。
ブラニックにしろ村人たちにしろ、戦う理由が希薄なのだ。
そんな戦いでは、こっちも気持ちが入り込まない。
まさか、そこに「意味の無い戦争の愚かしさ」というメッセージを汲み取るべきなんだろうか。

ハンベルへ向かう途中、落ち込むマリアを見たアモンは「空で遊ぼう。海でイルカたちと遊んだように」と誘うが、ここで彼が風の力を 使うのは、ものすごく唐突だ。
「一緒に空を飛べばマリアを元気付けることが出来るだろう」という一人合点な考えには納得しかねるし、それにタバルたちも見ている のに、安易に空を飛ぶのかよ。
お前、海の民の村では一度も飛ばなかったじゃないか。

ルチアはブラニックに「あの少年の力が必要です。小さなエルネギーホールを大量に生み出す光遊びこそ、微粒子爆弾の核になります」と 言うが、それを語る前の段階で、なぜブラニックはアモンを生きたまま捕まえろと命じたのか。
あれだけ甚大な被害をもたらしたのだから、利用価値が無ければ抹殺すればいいわけで、利用価値があると思ったから生け捕りを命じたん じゃなかったのかよ。
微粒子爆弾の核になることを知らなかったのに、生け捕りにするよう命じた理由は何だったのか。

アモンが最初に「光遊び」として使ったのは治癒能力だったのに、それ以降は、風を捕まえて空を飛ぶ能力になり、その風を使って戦車や 軍艦を吹き飛ばす能力が発揮される。
それって光じゃなくて風の使い手でしょ。
なんか能力設定が、すげえアバウトだと感じる。光なのか風なのか、どっちなんだ。
一応、風の能力を使う時は輝いているから、「光」の能力だという表現が出来ないわけじゃないけど、そこは光か風か、どっちか1つに しておけよ。
あと、マリアが捕まった時、アモンは車で追い掛けるんだけど、なぜ、その時は空を飛んで追い掛けないのか。なぜ、軍艦を吹き飛ばした ようなパワーで敵をやっつけないのか。
「君の力が狙いだ。我慢しなさい」と制止するタバルの手を振りほどく時は、電撃を使ったのに。
っていうか、たまにアモンは電撃まで使っているけど、それって風の力は無関係だろうに。
何でも有りなのかよ。

アモンはルチアに求められて実験に協力するが、光パワーが持続せずに中断し、心臓の島へ向かうシーンになる。
ここでは、「心臓の島へ行く」という目的と「光遊びでエネルギーを生み出す」という目的が混在してしまっている。
そこは一つずつ片付けろよ。まず心臓の島へ案内する約束をしたんだから、そっちを描けよ。
っていうか、その展開になると、「光遊びのエネルギーで微粒子爆弾を作る」という話は完全に放り出されてしまうんだよな。

そもそも「島の財宝を手に入れる」「微粒子爆弾を作る」という2つの目的を設定したことが間違いなのよ。
最初から島の財宝ってのは削除して、村を狙うのも「アモンの力が爆弾作りに必要だから、彼を捕まえるために襲撃する」という形にして おけばいいんじゃないのか。
ブラニックが黄金龍の民の末裔だという設定も全く要らないし。
大体、財宝の一件なんて、それが壁画だと知ったブラニックが島を破壊して、それがオシマイなんだぜ。
そんな軽薄な処理で終わるぐらいなら、最初から財宝を捜す話なんか入れるなよ。

おまけにブラニックは「イルカ岬を攻撃しろ、この軍艦の威力を見せてやる」と言い出すが、なんだ、そりゃ。
行動理由がそれなのかと。
ただ軍艦の威力を見せるためだけに約束を破って岬を攻撃するって、なんという重みの無い悪役なのか。
彼はアモンに「お前が先に約束を破ったのだ。洞窟の案内もこのザマだ」と告げるが、島への案内は約束を守っただろうに。財宝が壁画 だったのは、別にアモンの責任じゃねえぞ。
言ってることがメチャクチャだ。
見事なぐらい悪役としての魅力が皆無だな、このキャラ。

そんなブラニックに協力するルチアのキャラ造形も、かなりボンヤリとしている。
序盤で「何があっても微粒子爆弾を完成させてくれ」と言われた時は、彼の手に触れる態度や表情からして愛人キャラっぽいんだけど、 途中から、ブラニックに怯えたり、彼の命令に対して消極的な態度を示したりするシーンが出てくる。
ブラニックに脅されて「殺されるから」という恐怖で行動するようになる。
後半に入ると、やや精神的にヤバくなってくるが、それもキャラの動かし方として違和感が強いし。
最初に愛人キャラとして悪玉の本性を見せたのなら、最後までそれを徹底しろよ。

ルチアはアモンにメスを突き付け、「どうしてこの子を助けるの。空飛ぶ軍艦も火龍砲も、フリッツが作ったものなのよ」と言い出すが、 そういう設定だったのかよ。
だったら、なぜフリッツは、アモンの光遊びの時だけ、フリッツへの協力を拒んだのか。
その辺りの設定が全く分からない。
っていうか、その設定、要らないだろ。どうせ全く無意味な設定になっているんだから。
そのことでアモンが「父は悪党の手伝いをしていたのか」と苦悩する展開も無いし。

ブラニックはルチアが殺された後、空飛ぶ軍艦の動力プラントをナバーンに投下して爆発させると言い出す。
おいおい、もう微粒子爆弾の製造が不可能になったのに、まだ計画を強行する意味がどこにあるんだよ。
っていうか、そこで「その前に蜂起する」というところへ話を持って行く構成もダメでしょ。冗長になってしまう。ゲリラ隊が襲撃したら 、そのままクライマックスのバトルに突入しろよ。
いや、それ以前の問題として、アモンが捕まっているのがどうかと思うぞ。マリアを助けるための行動で、そのまま最終決戦に突入する方 がいいよなあ。
ただ、それだと「アモンの光遊びが微粒子爆弾に必要」という設定の価値が無くなってしまうので、微粒子爆弾に必要な力を持っている のはマリアという設定にすればいい。
で、アモンは風の使い手という能力に限定すればいい。

アモンが救出された後、唐突にレジスタンスの一人イオニスが「アモンは奴らの手下なんだ、信用できない」と言い出すが、そういう風に 反感を持つ奴らを配置するなら、もっと早い段階でアモンへの敵対心を示せよ。今さら遅い。
そんで「僕の力はみんなを苦しめてしまう」とアモンが言い出すけど、それも悩みが間違ってるし。別にアンタの力が彼らを苦しめてる わけじゃないからね。そんなこと、誰も一言も言ってないから。
アモンは「僕さえいなけりゃモニカおばさんだって死なずに済んだ」と言うけど、それも違うし。
村が攻撃されたのはアモンを狙っての行動じゃないし、モニカは娘を守って殺されたんだし。
その論理はメチャクチャだ。

そんなことより、「俺の顔ちゃんは、アモンの父親が作った兵器で殺された」と言われたことに苦悩しろよ。
そこは「今さら、初めての苦悩という手順を踏むのかよ。苦悩するなら中盤辺りでやっておけよ。そして苦悩した末に自分なりの答えを 出せよ」とツッコミを入れたくなるし。
その後、アモンは成長して親になったミリューと再会しただけで「ありがとう、僕も負けないよ」と、あっさりと晴れ晴れしい表情に なっているけど、何がどうなって悩みが解決したのかサッパリ分からない。

レジスタンスが一斉蜂起する中、光を集めたアモンが、逃げ惑う人々に「ブラニックを倒すには今しか無い。僕らの力で倒そう」と心で 訴え掛けると、なぜか民衆が彼に率いられる形で戦うが、そこにも全く説得力が無い。
実際にアモンが体を張って彼らと戦い、「俺たちも戦わなきゃ」と奮い立たせるわけじゃないし。
兵士たちが倒れて苦しんでいるのがアモンの力によるものだとは理解していない様子だし、なぜ立ち上がるのか。
それまでに、アモンと町の人々の触れ合いは全く無かったんだから、彼らの大半にとってアモンは「誰なんだよ、お前は」という状態の はずだし。

アモンが名も無き兵士に撃たれて死ぬのは、あまりにも唐突だし、何の盛り上がりも感傷も無い。
おまけに、その段階で空飛ぶ軍艦は健在で、まだブラニックは攻撃しようとしているんだよな。
で、どうやって処理するのかと思ったら、霊魂となったアモンがブラニックに憑依し、攻撃命令を中止させるというオカルトな展開に。
あまりにもアホすぎるアンチ・クライマックスだ。

しかも、そこで急に、子供の頃のブラニックが「あの頃、私は孤独だった」と呟き、「そういう悲しい過去があるから、孤独でいることが 怖いから強い力を手に入れようとしたのだ」というキャラなのだとアピールする。
そんでアモンが彼に「大丈夫、怖くなんかないよ」と優しく声を掛けるという、腰砕けな結末。
そんで最後はマリアが「アモン。私、忘れないよ」と笑顔で終わるのだが、おいおい、最初の冬至祭りのシーンに戻れよ。
回想形式で作っておいて、現在のシーンに戻らないままクロージングって、粗すぎるぞ。

(観賞日:2010年12月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会