『渇き。』:2014、日本

深夜、大宮のコンビニで店員の川本浩、飲食店従業員の安田彩花、専門学生の小山順平という3人の死体が発見された。ナイフで突き刺された死体を発見したのは、通報で駆け付けた警備員の藤島昭和だった。大宮署の刑事は藤島から事情聴取し、彼が大宮北署の元刑事だったこと、1月に依願退職して関東第一警備保障に就職したことを知る。彼は妻と別れ、マンションも娘も持って行かれている。医師からは統合失調症や躁鬱病と診断され、不眠症の薬も飲んでいる。
後輩刑事の浅井は笑いながら藤島に声をかけ、不良グループの若者たちを撮った数枚の写真を見せる。しかし藤島は、どの男にも見覚えが無い。別れた妻の桐子からの電話で、藤島は娘の加奈子が家に戻っていないことを知らされる。藤島がマンションへ行くと、桐子は娘の部屋へ行くよう促す。藤島が加奈子の部屋に入ると、そこには覚醒剤があった。桐子は知らなかったが、藤島は神経科の内服薬も発見した。藤島はクローゼットで高そうな服を見つけるが、「バイトはしていない」と桐子は告げた。
藤島は加奈子が男と並んでいる写真を発見するが、桐子はそれも知らなかった。娘について何も知らない桐子を、藤島は非難した。藤島は「俺が捜す」と言い、警察に電話しようとする桐子を「警察に言ったら加奈子はどうなるんだ」と制止した。彼は加奈子の高校時代の友人である森下恵美と長野智子に会い、話を聞く。しかし恵美は「携帯は繋がらない」と軽く言い、あまり興味の無さそうな態度を示す。智子の方は、ずっと黙っているだけだった。藤島が覚醒剤を見せると恵美は激昂し、智子を連れて走り去った。
藤島は神経科クリニックの辻村医師を訪ねるが、カルテの閲覧を拒まれた。中学時代の友人たちと連絡が取れたことを桐子から知らされ、藤島は会いに出掛けた。藤島がツーショット写真を見せると、彼女たちは同級生の緒方誠一だと告げる。だが、緒方は中学時代に飛び降り自殺していた。付き合っていたのかと藤島が訊くと、彼女らは「ヘタレで苛められっ子で、付き合ってるわけないじゃん」と笑った。さらに彼女らは加奈子が誰とでも仲良くしていたと話し、遠藤那美や松永泰博の名前を挙げる。卒業アルバムで松永の顔を見た藤島は、浅井に見せられた写真の中に彼がいたことを思い出した。
3年前、元野球部員の瀬岡尚人は、同級生の島津たちから苛められていた。そんな彼は、自分にも優しく接してくれる加奈子に恋をした。屋上で苛められていた時も、加奈子が囁くと島津たちは立ち去った。「また君に助けられた」と瀬岡が言うと、加奈子は「うるさいのに消えてほしかっただけ。ここは私とあいつの場所だから」と言う。瀬岡は、緒方の葬儀で加奈子が遺体にキスしていたのを思い出した。加奈子は「初めて会ったのも、ここ。私を見て言ったの。消えたいんだろ、君もって。酷くない?私だけ残して、勝手に一人で」と話す。瀬岡が「緒方みたいになれないかな、僕は」と口にすると、彼女は「何言ってんの」と笑った。
藤島は加奈子の中学生時代の担任教師である東里恵と会い、娘のことを尋ねる。東は藤島に、加奈子は自分に責任があるかのように緒方の死を一人で抱え込んでいたこと、その頃からヤク中の遠藤や松永と付き合い始めたことを語った。遠藤は薬と手を切れず、1年前に死んでいた。藤島は浅井に電話を掛け、小山の関わっていた不良グループのリーダーが松永であること、石丸組の下で薬を売り捌いていることを知った。すぐに彼は、松永が加奈子を引っ張り込んだのだと確信した。
藤島は桐子のマンションに泊めてもらうが、セックスを拒まれると暴力を振るった。かつて藤島は、桐子の浮気相手に暴力を振るったことがあった。その時、桐子は藤島を睨み付け、「死んでよ、アンタなんか」と言い放った。3年前、ある日を境に瀬岡は人気へと変貌した。大怪我を負って登校してきた島津は「汚ねえよ。俺は負けねえからな、あんな奴ら」と言い、松永たちに襲われたことを話す。瀬岡は松永と話したことも無かったが、加奈子のおかげだと悟った。
藤島は松永の母親を訪ねるが、「知らないよ、あんなクズ」と言われる。藤島は彼女に暴力を振るい、「親なら責任取れよ」と非難した。彼は松永の一味に車で拉致されるが、そこへ不良グループが襲い掛かって来た。暴行を受けて気絶した藤島が目を覚ますと、松永の一味が倒れていた。そこへ浅井が来て、松永が仲間にも石丸組にも追われていること、そのゴタゴタに藤島が巻き込まれたことを話した。藤島が立ち去ろうとすると、浅井は桐子がマンションを出て行ったことを教えた。
藤島は恵美を捕まえ、「あいつはどこだ、お前と一緒にいたジャブ中だ」と詰め寄った。恵美は彼をスタンガンで攻撃し、「アンタの娘が長野にヤク打って、メチャクチャにしたんだ。騙して、脅して、ウリまで。全部、加奈子のせいだ」と怒鳴って走り去った。藤島は若い女をマンションに連れ込むが、石丸組の若頭である咲山たちに襲撃される。咲山は女に発砲し、藤島に「どこだ、お前の娘が隠した物は」と尋ねる。藤島が覚醒剤を渡すと、彼は「シャブに用は無い」と告げた。
藤島が「何なんだ、お前ら」と口にすると、咲山は「知らないんだな。自分の娘が何をしたのか」と言う。彼は藤島に拳銃を近付けるが、先に加奈子を殺すと告げて立ち去った。藤島がマンションを出ると恵美が待っており、智子から渡してほしいと頼まれたコインロッカーの鍵を渡す。それは加奈子が智子に預けた物だという。恵美は藤島に、小山が殺されてから智子が「自分も殺されるかも」と怯えていることを話す。誰が小山たちを殺したのか藤島が訊くと、恵美は「たぶん、加奈子」と答えた。
恵美は藤島に、智子が加奈子に憧れていたこと、言われるままにシャブ漬けにされたこと、ウリまでやらされたのに好きだったことを話す。藤島が恵美に案内させて智子の元へ行くと、彼女は惨殺されていた。彼は恵美を現場に残し、警察が到着する前に逃亡した。藤島は駅のコインロッカーを開け、封筒を手に入れた。中身を確認すると、恵美や緒方が中年男に犯されている様子を撮った写真が入っていた。若い男女を犯している面々の中には、現職刑事も含まれていた。
3年前、瀬岡は加奈子に誘われ、松永や遠藤たちも来るというパーティーに参加した。瀬岡は薬を飲まされて両手を縛られ、男たちに輪姦された。彼は車に乗せられ、公園に捨てられた。那美と不良グループの仲間は家を飛び出した瀬岡を車で拉致し、激しい暴行を加えた。那美は輪姦の写真を見せ、もしも誰かに密告したらバラ撒くと脅した。瀬岡は那美がアパートへ戻るのを待ち伏せ、バットで殴り掛かった。彼は那美を脅し、加奈子の居場所を聞き出した。
藤島はファミレスのテーブルに写真のコピーを入れた封筒を置き、浅井を呼び出した。藤島は写真を見た浅井に電話を掛け、長野の携帯を調べると最後の着信履歴が大宮北署だったことを指摘する。事件を知りながら握り潰したのだろうと藤島が問い詰めると、浅井は笑って受け流した。浅井が話している間に、刑事たちは逆探知で藤島の居場所を割り出した。しかし藤島は駆け付けた刑事たちを蹴散らし、車で逃亡した。彼は浅井の乗る車に突っ込み、その場を後にした。
藤島は辻村の元へ乗り込み、彼が少女を抱いている現場写真を突き付けて説明を要求した。すると辻村は加奈子に誘われたこと、彼女がチョウという実業家と結託していることを告白した。さらに彼は、加奈子が藤島に暴行されたと言っていたことも明かす。クリニックを出た藤島は咲山たちに拉致され、暴行を受けた。咲山は藤島に、加奈子がチョウを裏切って写真を持ち出したこと、それを客の男たちに送り付けたことを話す…。

監督は中島哲也、原作は深町秋生『果てしなき渇き』(宝島社刊)、脚本は中島哲也&門間宣裕&唯野未歩子、アソシエイトプロデューサーは村野英司、協力プロデューサーは伊集院文嗣、製作は依田巽&鈴木ゆたか、プロデューサーは小竹里美&鈴木ゆたか、撮影は阿藤正一、照明は高倉進、美術は磯見俊裕、録音は矢野正人、VFXスーパーバイザーは柳川瀬雅英、VFXプロデューサーは土屋真治、VFXスーパーバイザー&CGディレクターは増尾隆幸、編集は小池義幸、音楽プロデューサー 金橋豊彦、音楽はGRAND FUNK INC.。
出演は役所広司、小松菜奈、中谷美紀、オダギリジョー、國村隼、清水尋也、妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、森川葵、黒沢あすか、青木崇高、高杉真宙、中島広稀、葉山奨之、星野仁、佐々木麦帆、渡辺大知、派谷恵美、竹厚綾、篠原ゆき子、星野園美、葛木英、シェパード太郎、板橋駿谷、櫻井聖、志村玲那、日下好明、古舘寛治、康芳夫、品川徹、松浦りょう、加藤夢乃、三村和敬、城戸愛莉、斉藤遥海、上村海成、佐谷戸美奈、佐原モニカ、姫野れみ、来夢、中村織央、ケヴィン、柳俊太郎、亀山陽、大平峡也、佐藤大樹、立花亜野芽、cmma、友田彩也香、山口沙紀、maya、比嘉バービィ、黒田恵未、DJ CELLY、岩瀬萌ら。


第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の小説『果てしなき渇き』を基にした作品。
監督は『パコと魔法の絵本』『告白』の中島哲也。
脚本は中島哲也と『パコと魔法の絵本』の門間宣裕、『三年身籠る』の唯野未歩子による共同。
藤島を役所広司、加奈子を小松菜奈、東を中谷美紀、辻村を國村隼、瀬岡を清水尋也、浅井を妻夫木聡、那美を二階堂ふみ、恵美を橋本愛、智子を森川葵、子を黒沢あすか、咲山を青木崇高、松永を高杉真宙が演じている。

オープニング、断片的な映像が次から次へと洪水のように流れ出し、無駄にゴチャゴチャしている。細かいカットのコラージュは、映画に入り込むことを妨害しようとする。
その後、タイトルロールに入ると、タイトルデザインもBGMも、スタイリッシュでハードボイルドなアクション映画のようになっている。
しかし実際の内容は全く違うわけで、そんな雰囲気にした理由が分からない。
違和感を狙ったとしか思えないが、その意図は何なのか。

オープニングからの短いシーンだけでも、そのタイトルロールになった時点で「そこまでの内容と雰囲気が全く違う」と感じるが、そこから話が進んでいくと、ますます違和感は強くなるわけで。
タイトルロールから期待するモノとは、まるで違う雰囲気を醸し出し、まるで違う内容を描くわけで。
それは決して、嬉しい裏切りではない。何しろ、重くて暗くて不愉快でモヤモヤする話が描かれるのだから。
それを普通に見せられるだけでもキツいのに、タイトルロールで軽妙な雰囲気を作っているもんだから、ますます不快感やモヤモヤ感が強くなってしまうわ。

とにかく説明不足が甚だしくて、内容を把握するのが容易とは言い難い。
なんでもかんでも詳しく説明すればいいというものではないが、「それにしても」と感じる。
映画を面白くするための作業ではなく、ただ分かりにくくして物語に入り込むのを妨害しているだけにしか思えない。
ミステリーであるなら、それなりに謎があるのは大いに結構だ。しかし本作品の場合、ミステリーとして隠しているということではなく、ミステリーを味わうための前提となる説明が足りていない。

現在の物語と3年前の物語を何度も行き来しながら描く構成も、「今はどっちなのかが分からない」ってことは無いけど、ただ無闇にゴチャゴチャさせているだけに思える。少なくとも、話の厚みや面白さには繋がっていない。
3年前の事件を描く必要が無いのかというと、そうではない。ただ、3年前の事件が発生した段階で、既に加奈子は「それ以前に起きた出来事がきっかけで行動している」という状態にある。
なので、3年前の事件を現在と並行して描けばOK、というわけでもないんだよな。
まあ、その辺りは「原作のボリュームが厚く、それを1本の映画に収めるために苦労した」ってことなのかもしれないけど。

加奈子の部屋で白い粉を見つけた藤島は、それを舐めて「シャブだ」と気付く。
この「舐めることで麻薬だと認識する」という描写って、そろそろ終わりにしませんかね。
実際のところ、そんな方法で麻薬の確認をしていないことは、今や多くの人が知っているはずで。
この映画の場合は特に、そういうトコのリアリティーが重要なんじゃないかと思うのよ。そこを荒唐無稽な描写にしてしまうと、他の全ても絵空事みたいになっちゃうんじゃないかと。

っていうか、「ひょっとすると中島監督は、そういう意識で本作品を撮ったのか」と思ってしまったりするんだよね。
劇中には暴力やらレイプやら麻薬やらといった要素が盛り込まれるだけでなく、物語としても残酷で痛々しい内容のはずなのだ。
ところが実際に観賞すると、描かれている内容の割には、あまり「痛み」ってのが伝わって来ないなあという印象なのだ。
飾りの多い映像演出や、共感できない面々ばかりが出て来るってことも影響しているんだけど、冷めた意識で「全てが空虚な物語」とさえ感じてしまう。

緒方が男たちに輪姦されて自殺し、その復讐として加奈子は松永たちに接近したはずだ。
それなのに、なぜ瀬岡を陥れて緒方と同じ目に遭わせるのか、その理由がサッパリ分からない。
そりゃあ瀬岡は「緒方のようになりたい」とは言ったけど、「だから同じ目に遭わせる」ってのはメチャクチャな話で。
智子をヤク中にしてウリをやらせる理由も、やはりサッパリ分からない。
「復讐を果たすためなら犠牲が出ても構わない」という考えだと解釈すべきなのかもしれんけど、それは苦しいなあ。

かつて加奈子が藤島にレイプされていたことが、後半になって判明する。
だが、その出来事と、「加奈子が智子や瀬岡を陥れるなどして裏社会の大物になり、チョウを裏切って追われる立場になる」という行動が、上手く結び付いてくれない。
「レイプされたから、そんな風になりました」という方程式が、どう頑張っても組み立てられない。
そのせいで、加奈子は「得体の知れない怪物」と化している。

「得体の知れなさ」ってのは、悪人の恐ろしさを表現する上で効果的に作用することもある。
しかし本作品の場合、そういうケースには該当しない。
そもそもミステリーなわけだから、「加奈子の動機がサッパリ分からない」ってのはマズいんじゃないかと。トリックやアリバイ崩しの部分にミステリーの要素を求めている内容ならともかく、そうじゃないんだし。
殺人事件の犯人探しについては謎解きの醍醐味が用意されていないし(何しろ犯人は終盤になって初登場するのだ)、そうなると動機の部分に謎解きを求めることになるわけで、そこが「ワケが分からん」では困るのよ。

藤島は全く共感を誘わない主人公であり、じゃあ周囲に共感を誘うキャラクター、感情移入できるキャラクターがいるのかというと、それも見当たらない。この映画は、不愉快な連中の吹き溜まりになっている。
深作欣二監督作品のように、「ワルたちの争い」を描く面白味や爽快感、悪党の魅力が感じられるわけではない。単純に、不愉快で嫌悪感のある連中でしかない。
そんな映画を見せられて、こっちは何をどう感じ取ればいいんだろうか。
中島監督は「共感できない映画」ってことを認めた上で、それでも共感できる部分を見つけ出してほしいと考えていたらしいけど、どう頑張っても無理だわ。

配給したギャガは公開初日から18日間に限り、高校生と大学生は1000円で鑑賞できるキャンペーンを実施した。
だけど大学生はともかく、これを高校生に見てもらおうと積極的に動くセンスは、「醜悪」と表現してもいいぐらいだ。
それは決して、「中高生が麻薬に手を出している内容だから」とか、「麻薬や強姦や殺人などが盛り込まれた、かなり過激な内容だから」ということではない。単純に、この映画だからだ。内容の過激さに比べると、映像的には随分と緩和しているしね。
ただ、そうであっても、レイティングがR15+になっているのは、どうなのかと思うけどね。
映倫ってエロに対する規制は厳しいのに、それ以外の部分はユルいよな。

(観賞日:2015年12月14日)


2014年度 HIHOはくさいアワード:第6位

 

*ポンコツ映画愛護協会