『勝手に死なせて!』:1995、日本

帰りの遅い娘・うららを心配していた能見忍の元に、夫の達彦が勤める会社から電話が入る。海外に赴任中だった達彦が交通事故で死亡したというのだ。日本へ搬送された遺体を引き取るため、忍は空港へと向かった。
ところが、達彦の遺体が謎のカップルによって奪われてしまう。車で逃げるカップルを追いかけ、忍は何とか遺体を取り戻す。達彦の親族は葬儀場へすぐに持ち込もうとするが、忍は遺体をひとまず自宅に運び込んだ。そんな中、親族は勝手に葬儀社を呼び、葬式の準備を始めようとする。
しかし、忍は生前に達彦が望んでいた通り、自分とうららだけで葬式を出すことに決める。思い出の画廊で葬儀をしようとする忍だが、親族は遺体を盗み出して自分達主導の葬式を出そうとする。そこへ空港にいたカップルが現れ、再び遺体を奪おうとする…。

監督は水谷俊之、脚本は砂本量、企画は本村好弘、プロデューサーは野津修平、撮影は長田勇市、編集は菊池純一、録音は堀内戦治、照明は豊見山明長、美術は都築雄二、音楽はアトリエ・シーラ。
主演は名取裕子、共演は立河宜子、山田辰夫、石橋けい、山路和弘、大杉漣、大島蓉子、山下容莉枝、光石研、風間杜夫、石井光三、エド山口、東静子、武田有造、菅原大吉、草薙良一、浅見小四郎ら。


死体争奪戦を描いたコメディ。「死体を奪い合う」という基本設定は面白い。上手く膨らませれば、ブラックユーモアの効いた娯楽作品になっただろう。
ところが、物語が進むにつれて妙にセンチな部分が目立つようになっていき、なんともヌルいコメディに仕上がっている。

達彦の遺体を前にして親族が悲しみを表現する場面があるのだが、それがひどく中途半端。誰も彼の死を悲しまず、世間体を気にして葬式の形にばかりこだわっているという姿を強調すべきだったのでは。どうせその場面を除けば、達彦の死を悲しむ様子など見せないのだから。

娘が反抗的な態度を取るという設定は、何の味付けにもなっていない。そもそも娘の存在価値さえ感じられない。実は達彦が赴任先で男を買いあさっていたという設定も無意味。
キャラクターに関する不必要な設定は多いが、キャラクターの個性は弱い。

忍の考えた葬式の形が奇抜すぎるのはマイナスだろう。それによって、遺体の奪い合いという部分の突飛さが薄れてしまった。カップルの行動目的をなかなか明かさないのもマイナス。
むしろ最初から遺体を奪おうとする理由を明かしておいた方が、対立軸が鮮明になって面白くなったはず。

通夜の場面を中盤に持ってきたのは失敗だろう。通夜が終わった時点で、忍と親族との遺体の奪い合いの線が消えてしまう。実際、親族が遺体を盗み出そうとするのは前半の一度だけで、後半は出てくる意味がほとんど感じられない。

遺体の奪い合い以外の要素が多くの部分を占めすぎており、しかもその部分には精彩が無い。肝心の奪い合いの場面でも、スピード感やドタバタ感が弱い。全くノリの良さが感じられず、どこかノンビリした雰囲気さえ感じられるのだ。

こういったタイプの喜劇では、ハッタリを生かすためにも、視聴者に設定のバカバカしさを突っ込む余裕を与えないよう、トコトン突っ走ってしまうことが必要なのだ。
例えば奪い合いの方法やスケールがどんどんエスカレートしていくような展開があれば、もう少し面白くなったと思う。

 

*ポンコツ映画愛護協会