『化石の荒野』:1982、日本

雨の夜、警視庁捜査一課の仁科草介が自宅マンションに戻ると、2人の侵入者がいた。仁科は2人と格闘するが、取り押さえられて薬を注射された。彼が意識を取り戻すと拳銃を握らされており、近くには見知らぬ外国人男性の射殺死体があった。そこは仁科の部屋ではなく、被害者の使用している賃貸マンションだった。殺されたのはジェームス・ハンスというアメリカ人貿易商で、仁科の拳銃で殺されていた。仁科は拳銃を握り、部屋を後にした。
警視庁では記者会見を開かれ、新聞記者の峰島悟や清水、荒井、藤沢たちが集まった。捜査責任者の野川敬造は仁科の拳銃で殺されていること、彼の指紋しか検出されなかったこと、行方不明になっていることを話した。仁科は大学からの友人である峰島を電話でホテルに呼び出し、「俺はやってない」と告げる。峰島は彼に、ハンスが進駐軍の将校だったこと、退役してからも頻繁に来日して各地の山を登っていたことを教えた。
峰島は尾行者がいることを明かし、「敵は逃亡者になった俺に用があるんだ」と峰島に述べた。「行くのか、奴らの中に」と問われた彼は、「こっちから出向いた方が早い」と口にした。仁科が廊下に出ると雪江千沙という女がいて、同じエレベーターに乗り込んだ。彼女は「まさか会えるとは思わなかったわ。お昼のテレビで見たんです。一度も会ったことが無いのに、もう随分と前から知ってたような不思議な気持ちだったわ。貴方、無実ね。私に出来ることがあったら電話下さい」と話し、先にエレベーターを出た。
仁科がホテルのロビーで待っていた尾行者の男に接触すると、その仲間である2人も近付いた。仁科は車に乗せられ、目隠しを要求された。仁科が連行された場所には山沢雪彦という男が待っており、3人の尾行と追跡と調査を依頼したいと告げる。彼は次期総裁選の立候補予定者である中臣晴義の映像を見せ、その息子である克明が調査対象であることを話す。克明は警視庁生え抜きのエリートだが、最近になって退職していた。
克明が2人の部下を連れて各地の山を登っているので、尾行して行動を報告してほしいというのが山沢の依頼だった。山沢は成功報酬として五千万を提示し、克明が徳島県剣山にいることを告げた。仁科は山沢が用意した拳銃を携帯し、剣山へ向かった。彼は克明と部下たちを尾行するが、気付かれて発砲を受ける。反撃しようとする仁科だが、克明に殴り倒されて拳銃を突き付けられた。克明は余裕の表情で、「慣れないことは、するもんじゃない」と言う。しかし彼は仁科を殺さず、「冤罪を晴らしたいだろう。そのチャンスをやるよ。それで俺たちのことは忘れろ」と告げて立ち去った。
山沢は部下から、克明が東京へ向かったことを知らされる。彼はホテルで仁科と会い、すぐに外へ出ようとする。しかし廊下に出た仁科は女性従業員に見つかり、慌てて口を塞いだ。仁科と山沢は車で逃走を図るが、何台ものパトカーに追跡される。山沢は港で待ち受けていたヘリコプターに車を吊り上げてもらい、、パトカーの追跡を逃れた。東京へ戻った山沢は「追跡が終わる度に麻酔分析を受けてもらう契約でしたね」と仁科に言い、薬を注射して眠らせた。
意識を取り戻した仁科に山沢は「しばらく克明が休暇を取るらしいんですよ。その間はフリーです」と言い、2日後の面会を告げた。仁科は高級クラブで顔馴染みのホステスと接触し、中臣は良く来るが息子は数度しか顔を見せていないことを聞く。中臣の私設秘書を務める高桑が店に来るのを目撃した後、仁科は千沙に電話を掛けた。仁科は千沙のマンションを訪れ、「高桑っていう男を知ってるね?」と質問する。「今度の事件と関係あるんですか」と訊かれた仁科が「いや」と否定すると、彼女は「じゃあ、ただの顔見知りにしといて」と言う。千沙は各地の刑務所を巡って油絵を描いており、網走へ行った時には仁科が産まれた漁村に立ち寄ったことがあると話す。
「あの浜辺で、たった一人で生きて来たんでしょ」と言われた仁科は、子供の頃に見た風景を思い出した。千沙は「今夜はここで休んで下さい」と言うが、仁科は峰島の元を訪れることにした。峰島は仁科に、ハンスが来日する度に接触していた人物の中に平井剛一という男がいたことを教える。写真を見せられた仁科は、「こいつが俺をハメた山沢たちのボスだ」と言う。平井は日本ウラニウム鉱社の社長で、中臣とは戦時中に上官と部下の関係だった。昭和31年に平井は中臣の援助で会社を設立したが、最近になって関係を断っていた。
仁科は山沢たちの行動から、「克明らの行動を追ってる内に、俺が胸の中の何かに突き当たるのを待ってるんだろう。麻酔分析も、たぶんそのためだ」と推測する。それが何かは不明だったが、幼少時代のことが関係あるのではないかと彼は考える。仁科は終戦の翌年に誕生し、母は出産直後に無くなった。父は戸籍にも載っておらず、仁科は祖父に育てられた。仁科は長野県駒ヶ岳へ行き、克明たちを尾行する。仁科は山小屋で休憩中の克明に拳銃を向け、事の真相を教えるよう要求する。しかし克明は仁科が自分を殺させないと分かっており、余裕の態度を見せた。
仁科は克明に殴り掛かるが、反撃を食らう。戻った部下たちの発砲を受けたため、仁科は逃走する。彼はロープウェイで下山しようとするが、途中で停止してしまう。連絡を受けた従業員の立花育子は乗客に対し、機械の故障だと説明する。しかしゴンドラから下を見た仁科は、パトカーが来ているのを目撃した。克明は警官の到着を確認して車で去り、その様子を山沢が観察していた。仁科は育子に非常用の脱出装置を用意するよう要求し、ロープを使って原生林へ降り立った。
平井を張り込んでいた峰島は、彼が自衛隊の第一空挺団の団長である坂本英夫と密会する現場を撮った。彼が同僚に坂本のことを尋ねていると、千沙が訪ねて来た。原生林から抜け出した仁科は、峰島と連絡を取った。峰島は同行を求める千沙を伴い、ドライブインで仁科と会った。彼は克明が調査した山で何体かの白骨が発見されていること、中臣の圧力で警察からは発表されていないことを仁科に話す。峰島は坂本の特殊部隊にいた男と接触し、中臣親子が終戦直後に消えた爆撃機のパイロットを捜索していることを突き止めていた。
店に警官の山崎と岩下が入って来たため、峰島は経営者の田山恵子に話し掛けて注意を引き付ける。仁科がドライブインを出る様子を見た恵子は、彼が指名手配犯だと気付いた。仁科は峰島から厚木基地にいた軍人のリストを見せられ、「半分は俺が当たる」と告げた。彼は終戦当時に厚木基地の警備隊長だった松木安男と接触し、50万円を渡す。仁科は松木に、飛び立ったまま消息を絶った爆撃機に関する情報提供を求めた。
爆撃機の目的地は鹿屋基地で、吉宗和也中佐以下5名が乗っていた。政府は極秘物資として5千キロの金塊が積み込んでおり、それをソ連に運んで和解工作に使うつもりだった。しかし鹿屋基地に着くと終戦を迎えたため、吉宗たちは厚木へ向かった。だが、なぜか翌日にはオホーツクに不時着し吉宗たちは消息不明で金塊は発見されないままだった。その金塊を何とか見つけ出そうとしていたのが、厚木基地作戦部付将校の坂本、陸軍情報部の中臣と平井の3人だった。
仁科が松木と別れた後、峰島を人質に捕まえた山沢から電話が入る。仁科は千沙に電話を掛け、「何も変わったことは無いか」と訊いた。問題は無いと確認した彼は電話を切り、拳銃の準備をする。千沙が電話を切った後、玄関のチャイムが鳴った。彼女が警戒しながらドアを開けると、笑顔の克明が立っていた。仁科は平井の元へ乗り込み、拳銃を構えた。すると中臣は、「本当に君は、生まれる前の経緯を祖父さんからもお袋さんからも聞いておらんのか」と困惑する。
平井はオホーツクに不時着した吉宗たちが仁科の家で一泊したこと、翌朝には姿を消したことを話す。その時、家にいたのは仁科の母親だけだった。3日後、中臣、坂本、平井が訪ねて吉宗たちの行き先を訊いても、彼女は何も知らないと答えた。しかし中臣は仁科の母親が何か知っていると睨み、密かに観察を続けた。ところが翌年には仁科を出産し、命を落とした。引き取ることになった祖父に目を付けたが、死ぬまで何も話さなかった。
そこで中臣たちは仁科が祖父から何か聞いているのではないかと考え、観察の対象に据えた。それと並行し、彼らは吉宗のグループが金塊の分配をめぐって殺し合いになったはずだと推測し、日本全国で発見された白骨の調査も実施した。しかし中臣が公安を牛耳るようになると白骨の発見が公表されなくなったため、特殊部隊を使って調査していた坂本は激怒した。克明がFBIから戻るとお払い箱にされた平井も、やはり中臣に憤慨した。そこで彼は、進駐軍が金塊を探し回った時の指揮官であるハンスに接触した。克明はプロを雇い、坂本は特殊部隊を使っていたので、対抗するために平井は仁科を使おうと決めたのだ。
仁科は平井を脅して山沢に連絡させ、深夜の球場で峰島の引き渡しを要求する。平井は山沢と部下たちに、用済みになった仁科と峰島の始末を命じた。仁科は平井や山沢たちを殺害し、峰島と共に逃亡した。弱音を吐いた仁科は峰島から「少し休め」と促され、千沙の部屋へ行く。すると部屋には克明が待ち受けており、千沙が自分の妹だと話す。さらに彼は「ここにいる3人とも、お袋は違うが兄弟だ」と言い、「どうだ、俺と組まんか」と持ち掛ける。仁科が拒否すると、克明は「今度会う時は、また他人だ」と笑って立ち去った…。

監督は長谷部安春、原作は西村寿行(角川文庫版)、脚本は丸山昇一、製作は角川春樹、プロデューサーは黒澤満&紫垣達郎、製作補は和田康作、撮影は森勝、照明は渡辺三雄、録音は福島信雅、美術は中村州志、編集は鈴木晄、疑斗は高倉英二、音楽監督は萩田光雄、音楽プロデューサーは高桑忠男。
主題歌「化石の荒野」作詞:阿久悠、作・編曲:萩田光雄、歌:しばたはつみ。
出演は渡瀬恒彦、浅野温子、夏木勲、川津祐介、宍戸錠、鹿賀丈史、佐分利信、郷^治、范文雀、大木実、田中明夫、垂水悟郎、加藤武、室田日出男、青木義朗、角川春樹、阿藤海(阿藤快)、竹田かほり、山西道広、遠藤征慈、江角英、片桐竜次、成瀬正、友金敏雄、椎谷建治、伊吹徹、重松収、伊藤紘、浜口竜哉、飯田浩幾、レオ・メネゲリー、氷室浩二、檀喧太、加藤大樹、荻原紀、二家本辰巳、城野勝巳、戸塚孝、森岡隆見、郷内栄樹、高橋正昭、新井一夫、加々良一和輝、前島良行、国宗篤、速水隆、竹井みどり、斉藤克美、堺美紀、内藤杏子ら。


西村寿行の同名小説を基にした作品。
監督は『エロチックな関係』『皮ジャン反抗族』の長谷部安春、脚本は『野獣死すべし』『ヨコハマBJブルース』の丸山昇一。
仁科を渡瀬恒彦、千沙を浅野温子、克明を夏木勲、峰島を川津祐介、山崎を宍戸錠、清水を鹿賀丈史、中臣を佐分利信、山沢を郷^治、恵子を范文雀、坂本を大木実、平井を田中明夫、吉宗を垂水悟郎、松木を加藤武、荒井を室田日出男、野川を青木義朗、藤沢を角川春樹、岩下を阿藤海(阿藤快)、育子を竹田かほりが演じている。
たった1つしか台詞の無い記者として鹿賀丈史や室田日出男、ドライブインの1シーンしか登場しない警官として室田日出男や阿藤海を使っているんだから、贅沢なことで。

角川春樹事務所が東映と提携して製作した、いわゆる角川映画である。なので、いつものようにメディア・ミックス戦略が展開され、多額の宣伝費が投入された。
しかし角川映画は、全てヒットしたわけではない。コケた映画だって何本もある。
1作目の『犬神家の一族』以降、最も配給収入が低かったのは、それまでは『スローなブギにしてくれ』の3億9千万円だった。
この映画は、それを下回る2億6千万円の配給収入に留まっている。
宣伝費だけで2億3千万円を使っているので、完全に赤字である。

冒頭、帰宅した仁科は、何か不審を抱いたような様子を見せる。そして奥のドアが少し開いているのに気付き、警戒しながら大きくドアを開けて向こうを見る。
ところが、なぜか電気を付けようともせず、奥の部屋を調べようともせず、拳銃をテーブルに置いて浴槽に行くのだ。
いやいや、明らかに「誰かいるかも」と思っていたよね。実際、ドアが半開きという異変があったよね。
だったら、もう少し調べるべきじゃないのか。せめて電気ぐらいは付けろよ。

仁科は浴室から戻った途端、侵入者に拳銃を突き付けられているけど、それは「仁科の行動が不用意だったから」としか思えないのよね。
これが「帰宅した仁科が何気なく拳銃をテーブルに置き、浴室へ行った」ということなら、そうは感じなかったと思うのよ。
何の違和感も抱かなかったのなら、自宅へ戻って油断するのは当たり前のことだからね。
だけど、明らかに警戒心を抱くべき状況が見つかって、実際に少しだけ警戒する様子は見せたので、簡単に警戒心を解くってのがボンクラにしか見えないのだ。

拳銃を突き付けられた仁科は、相手に殴り掛かる。もう1人も加わって襲って来て、激しい争いになる。
これで仁科が2人を叩きのめすことが出来ていれば、最初のミスは帳消しになっただろう。だけど、結局は取り押さえられて、薬を打たれてしまう。
そうなると、そこで中途半端に格闘シーンを見せている意味が全く無い。
あえて意味を求めるなら、「ますます仁科のボンクラぶりが助長される」ってだけだ。
でも、そんな効果を狙っていたわけじゃないでしょ。

仁科がハンスの死体を確認すると、すぐにカットが切り替わって記者会見のシーンに移行する。なので、仁科が「自分が殺人犯に仕立て上げられた」と知って、どう感じたのかは全く分からない。
無表情の仁科が写っただけだからだ。
普通は少しぐらい焦ったり動揺したりして良さそうなモノだが、見事なぐらいの無反応なのだ。
ハードボイルドを狙っていたんだろうってのは分かるのだが、それにしても主人公の感情が全く見えないのはマイナスにしか思えない。

「窮地に追い込まれた主人公が、潔白を証明するために必死で行動する」ってことなら、そういうタイプのサスペンス・アクションとして受け止めることが出来る。
「怒りに燃える主人公が、罠に陥れた奴らに反撃しようとにする」ってことなら、そういうタイプの復讐劇として受け止めることが出来る。
でも本作品の場合、罠に落ちた主人公がどう感じているのか、何をどうしたいのか、そこがイマイチ見えて来ないのだ。

何より痛いのは、「ボンクラのせいに、やたらと気取っている」という風にしか見えないってことだ。
前述したように、仁科はハンスの死体を見つけても、まるで動揺する様子を見せない。峰島と密会した時も、必死で「俺は無実だ」と訴えるわけではなく、落ち着き払っている。彼は常に冷静沈着で、クールに振る舞っている。
でも、実際に彼がやっていることはヘマだらけだし、ちっともイケてない。
なので、それでもクールな態度を取り続けるのが、ものすごくカッコ悪いのである。

前述したように、のっけから仁科はボンクラな行動で罠に掛けられている。だが、それで彼のカッコ悪さは終わらない。
その後も、克明を尾行するけど、簡単に見つかって拳銃を突き付けられる。ホテルの廊下を出た直後、従業員に気付かれる。
ホテルを出た途端、パトカーの追跡を受ける。駒ヶ岳では克明に拳銃を向けるが、殺せないことを見抜かれて何も聞き出せない。
そこで殴り掛かるが、それによって情報を聞き出せるわけでもない。それどころか、すぐに反撃を受けるし、部下たちの発砲まで受けて逃走する羽目になっている。

仁科がやらかすヘマの幾つかは、派手なアクションシーンを描くための餌として使われている。
例えば四国のホテルからパトカーに追跡されるのは、何十台ものパトカー軍団に追われるカーチェイス&ヘリコプターでの脱出を描くためだ。
だけど、ちっとも高揚感に繋がっていないし、むしろ次々にパトカーが事故を起こす様子はマヌケっぽい印象が強い。
しかも運転するのは仁科じゃなくて、山沢なのよ。それは違うでしょ。
主人公が助手席で見物しているだけのカーアクションって、どういうつもりなのかと。

山沢は仁科を罠にハメた理由について、「尾行のプロであり、射撃の名手であり、身体頑健にして、行動力・忍耐力・判断力のいずれもスーパークラスであること。こういった人材は、警察にしかいません。しかしスカウトするには現職の警察官だと問題があるので、ああいった芝居を打ったんです」と説明する。
だけど、それが説得力のある理由とは、到底言い難い。
実際、別のトコに理由はあるのだが、その説明に仁科が全く疑問を抱いている様子を見せないので、そこが引っ掛かったまま映画を見せられる羽目になってしまう。

仁科は山沢から仕事を依頼されて成功報酬を提示されると、何の迷いも無く引き受ける。
だけど、それを引き受けたからって、身の潔白が証明されるわけではない。ただ海外への逃亡資金を提供してもらえる約束を交わしただけだ。
自分を陥れた連中への怒りを全く示さず、依頼された仕事を簡単に引き受けるのは、どうにもスッキリしない。
そこは淡々と行動するよりも、「本当は腸が煮えくり返る思いだけど、引き受けざるを得ないから仕方なく」という形にしておいた方が、観客が主人公に入り込みやすいんじゃないかと。

仁科が千沙に電話を掛けたのは、「何か関係あるんじゃないか、何か知っているんじゃないか」と睨んだからなのかと思いきや、そうではないのね。
「自分の無実を信じてくれたから」ってことなのね。
で、それならそれで、彼女のマンションで休息を取ればいいものを、すぐに「他にも俺を信じてくれる奴がいる」と言い出し、峰島の元へ行くためにマンションを去ってしまう。
だから千沙を訪ねるシーンは、かなり不自然なモノになってしまう。

そもそも「彼女が仁科の生まれ故郷を訪ねたことを話す」という時点で、強引さが否めない。
もちろん、どうせ後で物語に絡んでくる要素なんだろうってのは予想できるし、その通りになるけど、すんげえ唐突なのでね。
その後には峰島と話した仁科が「俺が胸の中の何かに突き当たるのを待ってるんだろう」と口にするシーンがあり、どうやら彼の幼少時代ってのが今回の一件に大きく関係しているらしいってことが匂わされる。
そのこと自体は一向に構わないが、見せ方が上手くないから、ギクシャクした印象になっているのよ。

仁科がドライブインを去る時、経営者の田山恵子は彼が指名手配犯だと気付く。
で、どこかへ電話を掛けようとする様子が描かれるので、もちろん警察に連絡するんだろうと思ったが、その後は全く触れられない。彼女の通報によって、仁科が警察に追われる展開は無いのだ。
だから、そのシーンが何のためにあるのか意味不明な状態になっている。
ひょっとすると、「撮影はしたけどカットした」ということかもしれないが、だったら恵子は仁科に気付くシーンも削除すべきだし。

平井の説明によって、仁科が巻き込まれたのは「金塊の情報を知っているのではないか」と思われていたからってことが判明する。
だけど、金塊の情報を知っているんじゃないかと思ったのなら、なんで何年にも渡って観察するだけで済ませていたのか。
すぐに接触するなり、脅しを掛けるなりという行動を取れば良かったんじゃないのか。
しかも、今になって平井が「中臣や坂本に対抗するために手下として利用する」というのは、ちょっと意味が良く分からないし。

終盤に入ると、仁科、克明、千沙が異母兄弟ってことが明らかになる。
だけど、それが明かされてもサプライズの効果なんて全く感じないし、「だから何なのか」と言いたくなってしまう。そういう真実が明かされたことが、物語の展開に何の影響も及ぼしていないのよ。
仁科は克明から「自分とは異母兄弟で、中臣が父親」と告げられて、それによって敵を攻撃しようとする気持ちに逡巡が出るわけでもない。千沙との関係や彼女への感情も、それによって変化が起きるわけではない。その設定があろうとなかろうと、その後のストーリー展開は何も変わらないのである。
だから、極端に言っちゃうと「意味の無い要素」と化しているのだ。
そこに何の因縁も葛藤も無いから、最後に用意されている兄弟対決も全く盛り上がらないし。

(観賞日:2017年3月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会