『彼のオートバイ、彼女の島』:1986、日本

橋本巧は音楽大学の学生だったが、アルバイトで原稿の輸送をしていた。彼が働いている全日本急送は、ボスの小野里が仲間の沢田や村田、沼瀬たちと作った小さな輸送会社だ。ある日の仕事終わり、巧は追い掛けて来た沢田から「妹の責任を取れ」と言われ、パンチを浴びた。「どうすればいいんですか」と巧が言うと、沢田は「別れりゃいいってもんじゃねえんだぞ。2、3日待ってやるから、ゆっくりと考えろ」と鋭い口調で告げた。
帰宅した巧はカワサキの650RS-W3に乗り、信州への一人旅へ出掛けた。オートバイを停めて景色を眺めていた巧は、白石美代子という女性と出会った。美代子はオートバイに興味を示し、巧に話し掛けた。彼女は巧とオートバイの写真を撮影した。「写真送るわ」とメモ帳を渡されたので、巧は自分の住所を教えた。もう少し一緒にいたと気持ちもあったが、巧は美代子と別れてバイクを走らせた。旅に出た理由が、1人の女性のことを考えるためだったからだ。
巧は草に寝転び、沢田の妹・冬美のことを回想した。彼女との出会いは、バイク雑誌の投稿欄にあった「お願い!大っきなバイクのうしろに乗っけて!」という呼び掛けだった。巧は冬美に葉書を出し、彼女をバイクの後ろに乗せてハイウェイを走らせた。すると親友の小川が女友達を後ろに乗せ、2人とも全裸の状態でバイクを走らせていた。巧は負けずに服を脱ぐが、「脱げ」と要求された冬美は嫌がった。巧は白糸の滝へ行き、冬美と肉体関係を持った。冬美にとって、巧が最初の男だった。泣いている彼女に、巧は「後悔してんのか」と訊く。すると冬実は、笑おうとしても上手く笑えないのだと語った。
巧が再びオートバイを走らせていると、大雨が降り出した。ひなびた共同浴場を見つけた巧は、オートバイを停めて飛び込んだ。無人に見えた浴場には、女性の先客がいた。振り向いた女性は美代子だった。彼女は「混浴よ」と笑顔で言い、平然と裸をさらした。彼女は近くの宿に宿泊しているのだという。共同浴場から上がった巧は、宿まで送って行くことを持ち掛けた。オートバイの後ろに乗った美代子は、嬉しそうに「もう最高」と声を発した。
東京に戻ってすぐに、巧は冬実と別れた。巧は沢田から決闘を要求され、小野里たちが立ち会った。深夜、巧と沢田はオートバイに乗り、鉄パイプを握って対決した。何だか良く分からない内に、巧は沢田をオートバイから叩き落として勝った。アルバイトを辞める覚悟をしていた巧だが、沢田は「恨みっこ無しの決闘だから辞めなくていい」と言った。それは後から冬美が巧に教えてくれたことだった。
冬美と別れて1週間後、巧は彼女に会った。思い出の店であるスナック「道草」に呼び出されたのだ。冬美は巧が病院に預けておいた沢田の治療費を返しに来たのだった。しかし男として受け取れないと考えた巧は、道草のママに「ツケを支払って、後はパーティーだ」と言い、他の客たちに「今夜は全部、俺のおごり」と告げた。冬美は店のステージに立ち、彼女の詩に巧が曲を付けた歌を歌い始めた。
巧は店に来ていた小川から、「どうして別れたんだ、あんないい子と」と訊かれる。「退屈なんだよな。泣くことと、料理作ることしか知らないんだ」と巧は答えた。冬美は歌いながら泣き出してしまい、店を飛び出した。「追ってやれ。お前が行かなきゃ俺が行くぞ」と小川が言うと、巧は「勝手にしろ」と冷たく告げた。小川が出て行った後、ママは巧の態度を批判し、彼に渡された金を返した。
巧は美代子と文通し、電話でも話した。お盆に瀬戸内海の島へ帰郷するという美代子は、巧に「島へ来ない?」と誘った。美代子よりも島に興味を抱いた巧は、その誘いに乗った。オートバイで伯方島へ辿り着いた彼は、美代子と合流した。16歳で小型免許を取得したという彼女を、巧は小学校の校庭でオートバイに乗せて練習させてやった。巧は美代子の実家を訪れ、彼女の父である康一郎と会った。美代子は母を幼い頃に亡くしていた。3人は盆踊りの会場へ行き、康一郎は櫓に上がって歌った。巧は3日間の滞在を終え、島を去ることにした。「オートバイに乗れるようになりたい」と話す美代子に、彼は「素質はある」と告げた。
夏が終わり、巧は全日本急送のアルバイトに戻った。怪我が治った沢田も、仕事に復帰した。美代子から電話を受けた巧は、彼女を迎えに行く。アパートに戻ると、合い鍵を持っている小川が待っていた。小川は「食いに行こう」と誘い、巧と美代子を道草へ連れて行く。冬美が楽しそうに歌っているのを見て、巧は驚いた。ママは彼に、冬美が専属歌手になったことを教えた。冬美は小川が曲を付けた歌を披露していた。小川は巧に、彼女と同棲していることを明かした。巧に話し掛けた冬美は、以前とは違い、とても明るかった。
小川は巧を連れ出し、「黙って2時間ほど、俺の後ろに付いてオートバイで走ってくれ。こいつで四輪を狙う」とスパナを見せた。彼は車の流れが少ない時、追い抜きざまに右のフェンダーミラーを叩き折る作戦を話した。「折ったら飛ばすから、すぐ後ろに付いて走ってくれ。ナンバーを見られたら困るから」と彼は言う。そんなことをやろうとした理由を巧が尋ねると、小川はオートバイをテーマにした曲を作っている時に思い付いたのだと説明した。
巧は小川の後を走り、彼が車のフェンダーミラーを叩き折ったのを確認して、笑いながら走り去った。道草の前まで戻って来ると、一台の250CCバイクが後ろから現れた。乗っていたのは美代子だった。実は2人の後をずっと走っていたのだという。巧は彼女の胸倉を掴み、「小型免許しか持ってないと言ったじゃないか。危ないってことが分からないのか」と激怒した。小川は彼に、美代子の運転技術を既に確認していることを語った。
道草に入った後も不機嫌な巧に、美代子は中型免許を取得したことを話した。「一緒に走りたくて」と免許証を見せられた巧は、彼女を外へ連れ出してキスをした。巧は美代子を誘って、2人でツーリングに出掛けた。ツーリングから少し経った頃、巧と美代子は沢田たちと一緒にサーキットへ出掛けた。美代子は沢田に促され、彼のオートバイに試乗させてもらった。沢田はサーキットを走る美代子の様子を眺めながら、巧に彼女のオートバイ歴を尋ねた。「3ヶ月ぐらいです」という答えを聞き、沢田は「死ぬぞ」と口にした…。

監督は大林宣彦、脚本は関本郁夫、製作は角川春樹、原作は片岡義男、プロデューサーは森岡道夫&大林恭子、撮影監督は阪本善尚、美術デザインは薩谷和夫、音響デザインは林昌平、照明は高野和男、録音は稲村和己、編集は大林宣彦、音楽監督は宮崎尚志。
主題歌『彼のオートバイ、彼女の島』作詞:阿久悠、作曲:佐藤隆、編曲:清水信之、唄:原田貴和子。
出演は原田貴和子、渡辺典子、竹内力、高柳良一、田村高廣、三浦友和 、根岸季衣 、峰岸徹、尾崎紀世彦、中康次、山下規介、望月真美、小林稔侍、泉谷しげる、尾美としのり、小林聡美、岸部一徳、入江若葉、新井康弘、柿崎澄子、掛田誠、小林のり一、タンクロー、川村昌弘、林優枝、大山大介、中川竹明、栗田恭子、佐藤エリ、青島健介、平川紀子、舛田麻由美、二階健、福岡保子、宮崎順二、大蔵弾、坂本雅哉、野々山ゆかり、牧山景一、川野貴章、百瀬由美、伊藤伸一ら。
語りは石上三登志。


片岡義男による同名のオートバイ小説を基にした作品。
脚本は『狂った野獣』『ダンプ渡り鳥』の関本郁夫、監督は『金田一耕助の冒険』『ねらわれた学園』『時をかける少女』『少年ケニヤ』『天国にいちばん近い島』と過去に5作も角川春樹と組んで来た大林宣彦。
ちなみに大林宣彦と関本郁夫は、前作『姉妹坂』に続いてのコンビだ。

美代子を演じた原田貴和子は、言わずと知れた角川三人娘・原田知世の姉である。
これが日本での映画デビュー作(これ以前に1986年にスペイン&イタリア&日本の合作した『アフガニスタン地獄の日々』で映画デビューは終えている)。
冬美を演じたのは角川三人娘の渡辺典子で、巧役は爽やかな二枚目俳優だった頃の竹内力。敬一を高柳良一、康一郎を田村高廣、沢田を三浦友和、道草のママを根岸季衣、小野里を峰岸徹、村田を尾崎紀世彦、沼瀬を中康次、道草でピアノを弾いている桃田を山下規介、小川の女友達を望月真美が演じている。
冒頭で巧に記事を渡す事故現場の新聞記者役で小林稔侍、その記事を新聞社で受け取る記者役で岸部一徳、ラスト近くにドライブインへ入って来て事故のことを話す男役で泉谷しげるが出演している。

大林宣彦監督と言えば、数々の若手女優を脱がせてきたことで有名な人だ。この映画では、渡辺典子は下着姿にすることしか出来ていないが、原田貴和子を入浴シーンで全裸にさせることに成功している(映像はモノクロだが)。
そこで彼女がオッパイや尻を見せる必要性があるのかというと、まるで無い。「入浴している」ということさえ見せれば、それで事足りる。
大林監督は女優を脱がせる時に必ず必然性を説く人だが、彼の映画でヌードに必然性があるケースなんて、ほとんど無い。監督がヌードの必然性について思い違いをしているか、必然性が無いことを分かった上で女優を脱がせるために嘘を並べ立てているか、どっちかだ。
まあ、どういう裏があるにせよ、男子からすると、若手女優のヌードが拝めるんだから、こんなに嬉しいことは無い。分かってくれるよね(byアムロ・レイ)。

冒頭、8ミリカメラで撮影したように加工したモノクロームの映像が表示され、「思えばあの頃は随分デタラメな毎日を送っていたものだ。それが若さのせいだとはとても言えないだろう」というモノローグが入る。沢田が巧を殴り付けて責任を取るよう詰め寄るシーンは、まるで昔の日活の青春映画のような雰囲気だ。
のっけから、大林監督の得意とするファンタジー&ノスタルジーのテイストが強く出ている。
だが、そういう持ち味は、この作品と相性が良くなかったように感じられる。
まず、「過去を振り返る」という形で物語を始めたこと、わざわざナレーション担当者を竹内力ではなく別人(石上三登志)にしていることによって、描かれる物語が遠くにあるように感じてしまう。そうじゃなくて、もっと「現代の若者のリアルな青春模様」として描写した方が良かったんじゃないか。

この映画に必要なのは、若者の青臭さではないかと思う。大林監督は大人に成り切れない精神性をずっと持ち続けている人だが、ちょっと本作品が欲している精神性とはズレがあるように感じる。
必要なのはファンタジーじゃなくリアリティーであり、リアリティーの中で青春のほろ苦さ&瑞々しさを描き出すべきではないかと。
そういう意味では、この映画で必要だったのは『HOUSE』の大林監督の感性よりも、『オレンジロード急行』の大森一樹や『の・ようなもの』の森田芳光の感性ではなかったかと。
大林監督に合っているのは、たぶん中学生や高校生の青臭さで。
でも本作品が描くべきは、もう少し上の、モラトリアムの青臭さなんだよな。

冒頭がモノクロームで始まって、オープニング・クレジットが終わる辺りで映像がカラーに切り替わる。しかし、巧が景色を眺めているシーンでは、再びモノクロに戻っている。
モノクロのまま回想シーンに入り、巧が冬美を乗せてオートバイを走らせている途中でカラーになるが、すぐにモノクロへ戻る。
そのようにカラーとモノクロをコロコロと行ったり来たりするのだが、使い分けの基準が全く分からない。過去と現代で分けているわけでもないし、オートバイに乗っているかどうかで区別しているわけでもない。
確実に言えるのは、カラーとモノクロを混在させていることが、何の効果にも繋がっていないということだ。現実感を失わせるだけだ。

巧が景色を眺めているシーンになると、「しかし僕の夢はモノクロームだ。これはいわば、モノクロームの夢の物語だ」というモノローグが入る。浴場で美代子と再会すると、「こんな嬉しい偶然は無い。僕はまるで物語の中にいるようだった」というモノローグが入る。
そういう語りによって、ますます物語を「絵空事」の世界へ向かわせている。
それと、「風が彼女を運んできたようだった。夏はもうすぐそこまで来ていた」などといった文学的なナレーションは、原作の文章をそのまま持ち込んでいるのかもしれないけど、ちょっと疎ましい。
いっそのこと、モノローグは全て排除してもいいぐらいだ。

巧は冬美のことで沢田に詰め寄られ、彼女について考えるために旅に来たはずなのに、美代子と再会して「こんな嬉しい偶然は無い」と能天気に喜んでいる。
回想シーンでは、巧が冬美に荒っぽく接し、彼女の処女を奪って泣かせたことが描写されているのに(それが悲しみの涙ではないにせよ)、別の女と仲良くなって浮かれているってのは、ものすごく不誠実な奴にしか見えない。
「苦しいはずの旅が楽しい旅に変わった」と語っているが、苦しそうになんか見えなかったし。
そりゃ「辛い旅の道中、わずかな安らぎを感じる」とか、その程度ならOKだが、完全に冬美のことを忘れて楽しんでいるからね。

回想シーンの冬美は、とても脆くて弱い女に見えた。だから、巧が旅先で美代子と知り合って心を弾ませているってのは、印象が非常に悪い。巧が振られて一方的に傷付いているとか、そういうことなら構わないけど。
っていうか、「東京に戻ってすぐに冬美と別れた」という語りが入るので、別れて旅に出たわけじゃないのよね。沢田が詰め寄ったのは、妹との交際について怒っているってことなのよね。
つまり巧は冬美と交際している最中に他の女と出会って楽しくなっているわけで、ますます酷い奴に思えるぞ。
ただウブだった女の処女を奪って捨てただけじゃねえか。

っていうか、そもそも冬美に関する回想シーンなんて、無くてもいいんじゃないかと思うんだよな。それって、ただ巧に対する不快感を煽ることにしか繋がっていないんだから。
しかも演じているのが角川三人娘の渡辺典子なので、メインのヒロインである原田貴和子がいるのに、キャラクター配置のバランスとしても悪くなるし。冬美って、もっと小さな扱いに留めておいた方がいいんじゃないかと。
いっそのこと、「巧が前の女と別れた」という設定に台詞で触れるだけにして、冬美が登場しない形にしてもいいぐらいだ。その場合、沢田が冬美の兄という設定を削除して、決闘シーンを無くしてもいいし。
むしろ、「女と別れて旅に出た」という形で巧が信州へ行き、そこで美代子と出会うという流れにして、現在進行形の男女の関係に集中した方が良かったんじゃないかと思ったりするんだが。

信州から戻った後も、巧は冬美に関して「退屈なんだよな。泣くことと、料理作ることしか知らないんだ」と冷たく告げる。
テメエが処女を奪ってモノにしておいて、そういう理由で身勝手に捨てちゃうのかよ。そんで後から彼女のことを、そんな風に悪く言うのかよ。
この男、サイテーじゃねえか。
そんで「男というのはワガママなもので、一つの物語を葬ると、もう次の物語が始まっている」というモノローグが入り、彼が美代子と楽しそうに電話で話す様子が描かれる。
冬美が小川との交際を始めて明るくなり、それによって巧の身勝手や冷たさはボカされる形になっているけど、こいつって何一つとして共感できないクソみたいな男だぞ。

小川が「作っている曲のインスプレーションを得るために、車のフェンダーミラーをスパナで叩き折る」という犯行を口にすると、巧は喜んで後ろを走る。
実行犯は小川だし、巧は後ろを走っているだけだが、でも犯行を止めようともせず、ノリノリで付いて行く。
その犯行に関して後からしっぺ返しを食らうことも無く、反省したり後悔したりすることも無く、正当化されたままで放置されている。
そこは小川の方がクソだけど、でも巧もクソだよ。

美代子がオートバイに乗って3ヶ月ぐらいだと知った沢田は、「死ぬぞ」と巧に告げる。それから彼は「オートバイに掛けては天才に近い。お前なんか全然敵いっこ無い素質なんだよ。彼女を死なせたくなかったらオートバイから降ろせ」と言う。
だけど、「なぜオートバイに乗せていたら美代子が死ぬのか」という説明が全く含まれていないと思うんだけど。
「オートバイに掛けては天才に近い素質がある」という説明と、「だから彼女は死ぬ」ってのは、言葉の方程式として成立してないでしょ。
あと、美代子がオートバイに魅了され、どんどんハマっていくというのも、上手く表現されていないんだよな。そこは、もっと充実した描写が欲しいところで、美代子がオートバイに魅了され、その熱が高まっていくという部分の説得力が薄いので、巧と彼女の「そんなにオートバイに乗りたいのかよ。死ぬぞ」「カワサキが好きなのよ。後悔しないわ」という会話も、陳腐なものになってしまう。

美代子は巧が知らない内に大型免許を取得し、彼のカワサキを盗んで島へ帰ってしまう。
酷い女だ。
しかも、しばらくして巧が島へ行くと、美代子は「ずっとこの島で待ってたんだぞ」と口にする。
いやいや、他人のオートバイを勝手に盗んでおいて、その言い草は無いだろ。まず謝れよ。
なんで「巧が島へ来るのが遅い。だから巧が悪い」みたいなことになってんだよ。泥棒を正当化してんじゃねえよ。

その後、巧と美代子が島のツーリングに出掛けると、「こうして2人は風になった。そして僕は確信した。彼女は単に彼女ではなく、島は単に島ではなかったのだということを。彼女が島で、その時、僕はオートバイだった。今や彼女は僕だった。僕は彼女だった。僕たちは同じ1つの人間だった」というナレーションが入る。
だが、まるで意味不明だ。
特に「彼女は単に彼女ではなく」から「僕はオートバイだった」の部分に関しては、もはや奇怪と言ってもいい。

(観賞日:2013年11月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会