『KAPPEI カッペイ』:2022、日本

ミシェル・ノストラダムスは「1999年の7の月、人類は滅亡する」と予言した。この世は退廃し、秩序は乱れ、悪がはびこる世界になる。その時に備え、日本のある島では滅亡に向かう人類の救世主になるべく、殺人拳を身に付けようとする少年たちがいた。そして2022年、師範は無戒殺風拳を会得して終末の戦士となった弟子たちを集め、「ついに指令を出す時が来た」と告げた。彼は「いずれ終末は来るかもしれない。来ないかもしれない」と言い、解散を宣言した。
終末の戦士である勝平は、スギちゃんのような恰好で東京の街に出た。人々から奇異の目で見られた彼は、短いスカートを履く若い女性に視線を向けた。島で修行に明け暮れた終末の戦士たちは、女という生き物を知らずに成長した。師範は勝平たちに、女には触れてはならぬと命じていた。大学生の入間啓太が不良2人組の難癖でカツアゲされそうになる現場を目撃した勝平は、助けに入った。警官の柳田は後輩のテルオと共に、現場へ駆け付けた。彼は勝平を見ると連れて物陰に隠れ、「あれは本物」と呟いた。勝平が無戒殺風拳で不良2人組を撃退すると、柳田は見て見ぬフリをして立ち去った。
啓太は勝平に礼を述べ、学友の新井久美子や矢木徹たちと花見をする現場へ連れて行く。勝平は啓太の友人たちに囃し立てられ、無表情でビールを一気飲みした。彼は啓太に「俺には使命がある。この世に終末が訪れた時、俺は必ず、またお前の前に現れる」と語り、その場を去ろうとする。そこへ啓太の女友達である山瀬ハルが遅れて駆け付けると、勝平は頬を赤らめた。勝平は逃げるように走り去り、啓太は彼が落とした荷物を拾って後を追った。
勝平は啓太のアパートで風呂に入り、チクチクする胸の痛みは何なのかと考える。修行中に師範から教わった過去を振り返った彼は、これが恋なのかもしれないと考えた。勝平は啓太に、恋とは何なのかと尋ねた。彼が「女に触れたことも無い」話すと、啓太は自分と同じ童貞だと笑顔を浮かべた。勝平は啓太の言葉で、ハルが同じ正智大学に通っていることを知った。大学へ遊びに来ないかと誘われた勝平は、「啓太を悪から守る」という名目で付いて行くことにした。
勝平は啓太が講義を受けている間、学食で待つことになった。彼が初めてのカレーライスに感動していると、ハルが来て話し掛けた。彼女はアクション映画が好きで、勝平がアーノルド・シュワルツェネッガーの真似をしていると思い込んだ。勝平が「映画を見たことが無い」と言うと、ハルは懸賞で当たったアクション映画の鑑賞券をプレゼントした。久美子から昼飲みのメールが届くと、ハルは勝平を誘った。居酒屋には久美子と徹がいて、講義を終えた啓太も後から合流した。
久美子が「なかなか恋人と会えない。付き合っているかどうか分からない」と漏らすと、ハルはサプライズで会いに行こうと持ち掛けた。勝平たちも同行し、久美子は恋人が暮らすアパートを訪れた。インターホンを鳴らしても応答は無かったが、勝平は室内にいる男女の声を耳にした。彼が怪力でドアを外すと、久美子の恋人は女とセックスの最中だった。初めてセックスを見た勝平は、「これが人間の交尾」と口にした。久美子は「そういうことね」と漏らしてアパートを去り、ハルたちは後を追った。
勝平は泣き出す久美子を見て、師範が言っていた失恋だと理解した。彼は「自分は童貞で恋も失恋も良く分からないが、お前が悔しんでいることは良く分かる」と語り、デニムの端を破って「これで涙を拭いな」と差し出した。ハルは勝平に、「自分が男だったら困ってる人たちを助けるヒーローになりたいと思ってる。小さい頃から男の子たちとヒーローごっこをするのが好きだった」と語る。勝平が「いつか終末が来たら、一緒に戦おう」と言うと、「週末」の意味で捉えたハルは笑顔でOKした。
勝平はハルに恋人がいるかどうかが気になり、啓太に尋ねた。啓太が「知らない」と答えると、勝平は大学でも気になってハルを捜しに行く。同じ頃、街では守という男が不良2人組の前に現れ、「虎の殺風をまとう男を知らないか」と質問した。2人組がカツアゲしようとすると、守は無戒殺風拳で撃退した。勝平はハルが先輩の堀田と楽しそうに話す様子を見て、師範が言っていた「先輩マジック」のことを思い出す。勝平は堀田に激しい対抗心を燃やし、その言動を模倣した。
勝平はハルが堀田と付き合っているのかどうかが気になるが、本人に尋ねることは出来ずに立ち去る2人を見送った。しかし師範の言葉を思い出した彼は「戦わずに逃げるのか」と自分を奮い立たせ、後を追って「2人は付き合ってるのか」と大声で尋ねた。堀田は笑いながら単なる先輩と後輩だと答え、ハルは彼に恋人がいることを告げた。安堵した勝平の元に守が現れ、解散から2週間ぶりの再会を果たした。守は屋上に勝平を連れて行き、「お前の恋は叶わない」と通告した。
勝平が「お前に何が分かる」と反発すると、守は「俺たちは必要のない人間なんだ。戦士としてしか生きられない俺たちに、何の魅力がある?」と言う。「俺と一緒に、この世を終末に変えねえか」と守が誘うと、勝平は即座に断った。守は先輩戦士の英雄がこの世を終末に変えようとしていることを教え、せいぜいお前は恋に溺れ死ぬがいい」と嘲笑した。ハルを侮辱された勝平は腹を立てて戦いを挑むが、守の攻撃を受けて窮地に陥った。守が落とした写真に気付いた勝平は、彼も恋をしたのだと気付いた。
勝平は写真を破る素振りを見せ、真相を明かすよう守に迫った。すると守は、名古屋でダンサーの美麗に恋をしたことを打ち明けた。彼は美麗のダンサーチームに入れてもらうが、彼女は天才ダンサーの和也に惚れていた。守は自分を見てもらうため、ダンスの練習に励んだ。しかし美麗の和也に対する態度を見た彼は、師範が言っていた片思いだと悟った。その苦しみから逃れるために、守は「ここが終末なら、俺の才能に美麗は気付くはずだ」という結論に辿り着いたのだ。
勝平は「好きな女の幸せを願うのもまた、終末の戦士だ」と説き、守を倒した。一方、堀田に片思いしているハルは、久美子から「覚悟は決まった?」と訊かれて「うん」と答えた。啓太が帰宅すると、勝平が守を治療して連れ込んでいた。彼は守を勝手に居候させて、一緒に英雄を捜索することにした。啓太は都内で起きている強盗事件の発生場所と時間を調べ、彼らに教えた。勝平はハルが堀田に告白することを徹から聞き、街へ飛び出した。
勝平は夜の公園でハルを見つけ、「何かいいことでもあったのか」と声を掛けた。ハルは泣いており、堀田に告白して振られたことを話す。勝平は「好きな人に思いを伝える。山瀬の勇気は素晴らしい」と慰め、眠りに落ちた彼女を支えて翌朝まで見張る。一方、殺風を感じた守が夜の校舎へ出向くと、終末の戦士である正義が北中連合の武智など複数の不良中学生を率いて窓ガラスを割っていた。45歳の正義は、終末の戦士の中で最も正義感に溢れる男だった。
この世を滅ぼそうとしているのかと問われた正義は、この支配から卒業したいだけだと答える。解散後に茨城県へ行き着いた彼は街に溶け込めず、カラオケスナックから聞こえた尾崎豊の『卒業』に心を奪われたのだ。守は正義を倒そうとするが、背後から武智にバットで一撃を食らった。勝平は帰宅した守から話を聞き、正義たちの元へ向かった。勝平は正義の攻撃を軽くかわし、彼を倒した。しかし強盗事件の犯人は、正義ではなかった。
勝平は殺風を感じ、正義と守を伴って現場へ向かった。彼らが到着したのは、ハルのバイト先であるファミレスだった。ハルは覆面強盗が来たこと、同僚が捕まえてくれたことを勝平に話した。その同僚は英雄で、普通の男としてハルに接していた。勝平たちは驚くが、英雄はハルの前では終末の戦士であることを否定した。店の外に出た英雄は、もう終末の戦士ではないと勝平に告げる。彼は終末など来ないと言い放ち、「俺たちはエロジジイに騙されていた」と告げる。解散が発表された直後、英雄は師範がデリヘルに電話を掛ける姿を目撃した。激高した英雄は師範を倒し、島で大爆発を起こしていた…。

監督は平野隆、原作は若杉公徳『KAPPEI』(白泉社 ヤングアニマルコミックス)、脚本は徳永友一、企画プロデュースは平野隆、プロデューサーは辻本珠子&刀根鉄太&宇田川寧、共同プロデューサーは大脇拓郎&田口雄介、撮影は小松高志、照明は蒔苗友一郎、美術は金勝浩一、録音は田中博信、編集は森下博昭、VFXスーパーバイザーは小坂一順&道木伸隆、スタントコーディネーターは吉田浩之、音楽は遠藤浩二&黒木千波留、音楽プロデューサーは溝口大悟、主題歌『鉄血†Gravity』は西川貴教 featuring ももいろクローバーZ。
出演は伊藤英明、上白石萌歌、小澤征悦、山本耕史、古田新太、西畑大吾(なにわ男子)、大貫勇輔、森永悠希、浅川梨奈、倉悠貴、橋本じゅん、関口メンディー、鈴木福、美麗をかなで(3時のヒロイン)、岡崎体育、大トニー(マテンロウ)、アントニー(マテンロウ)、林家ぺー、林家バー子、吉岡睦雄、木下百花、松尾そのま、アレクサンダー、神戸浩、玄田哲章(ナレーション)、コーシロー、金芝慶太、東景一朗、弓諒羽、村田凪、和田住功汰、村中玲子、竜のり子、今吉祥子、左近充萌結、斉藤千穂、大槻修治、鈴木雄一郎、裕樹、谷口翔太ら。


若杉公徳の漫画『KAPPEI』を基にした作品。
『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』や『老後の資金がありません!』など、数々の映画を企画・プロデュースしてきた平野隆が、初めて監督を務めた作品。
脚本は『ライアー×ライアー』『劇場版 ルパンの娘』の徳永友一。
勝平を伊藤英明、ハルを上白石萌歌、英雄を小澤征悦、正義を山本耕史、師範を古田新太、啓太を西畑大吾(なにわ男子)、守を大貫勇輔、テルオを森永悠希、久美子を浅川梨奈、徹を倉悠貴、柳田を橋本じゅん、和也を関口メンディー(EXILE / GENERATIONS)、武智を鈴木福、美麗をかなで(3時のヒロイン)、堀田を岡崎体育が演じている。

最初から最後まで、ずっと外し続けているコメディー映画である。
わざとスベリ笑いのようなネタを重ねて、オフビート的なノリを狙っているわけではない。真正面からストレートに笑いを取りに行って、しっかりと外している。
この手の映画って、少し強引にでも観客を巻き込むような勢いとパワーが必要だと思うのよね。とことんまで振り切ったり突き抜けたりしないと、寒々しいことになってしまうと思うんだよね。
でも、そういうおバカなパワーが足りてないのよ。

「主人公は真面目にやっているのにピントがズレている」というのを軸にして笑いを生み出そうとする方法が、コメディーとしてダメなわけではない。
大枠だけを捉えれば、使っている笑いの方程式は間違っちゃいないはずだ。
ただ、間の取り方やタイミング、台詞の話し方や表情など、細かい部分で、ことごとく計算ミスをやらかしているんだよね。
その結果として、どうしようもなく笑えないコメディー映画に仕上がってしまったんだろう。

改善策は色々と考えられるが、例えば「もっと熱血モードを高める」という方法がある。
それに伴って、勝平のリアクションも大げさにする。何かに気付いたり思い出したりした時、感情の高ぶりを全身で大きく表現する。
そして映像にけケレン味を付けて、過剰なぐらい派手に飾り付けるのだ。
あるいはTVアニメ『北斗の拳』の次回予告のように熱の入り過ぎているナレーションを付けて、映像との相乗効果を狙うという手もあるだろう。

簡単に分かるだろうけど、そんな方法を採用した場合、下手をすると原作から大きく逸脱する恐れもある。
だけど「映画として面白いか否か」ってことを考えると、それも止む無しではないかと思ってしまう。
あと私は未読なんだけど、ひょっとすると「ノリも含めて原作を忠実に実写映像化したら、面白く仕上がらない」ってことじゃないかという気もするんだよね。
そう思ったのは、原作を読んでいる若杉公徳の過去作『デトロイト・メタル・シティ』のケースがあるからだ。

勝平が何かに気付く度に、師範から「恋」「失恋」「先輩マジック」などについて教わった過去を振り返る。
その回想シーンは何度も挿入されるので、たぶんギャグのメインと言ってもいい重要ポイントと捉えているんだろう。
しかし残念ながら、完全に上滑りしている。全てがつまらなくて、ただテンポを悪くするだけの回想シーンになっている。
もっと根本的なことを言っちゃうと、もはや師範が「解散」と通告する導入部からして、既にコメディーとしては外しているからね。

「世紀末は来なかったが、別の危機が訪れて戦いになる」みたいな展開は訪れないので、クライマックスに向けて高まるような展開が無い。
では代わりに何をクライマックスに持って来るのかというと、「勝平と英雄が2人ともハルに惚れて、順番に告白する」という要素だ。
その前には恋のライバルとして勝平と英雄が戦うシーンがあるけど、そこに観客を引き付けるような力など無い。ずっと脱力モードが続き、マッタリとしたテンポが上がることは無い。
それが意図的だとしても、結果としては作戦ミスに終わっている。

ただ、そもそも長編映画には向いていない題材だったんじゃないかという気もするんだよね。
これってジャンル的にはコメディー映画になるんだけど、実質的には「ギャグ映画」なんだよね。「そんなジャンルなんて存在しないだろ」と言いたくなる御仁もいるだろうけど、福田雄一作品は全てギャグ映画だ。
その手の作品は、せいぜい30分程度が限界だ。約2時間という長さを引っ張り続けるのは、かなり困難と言える。
なので1つの大きなストーリーで構成するのではなく短いスケッチを幾つも並べ、チェンジ・オブ・ペースなどを使い、言い方は悪いけど誤魔化しながら最後まで持って行くしか手は無かったんじゃないかと。

(観賞日:2024年2月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会