『完全なる飼育』:1999、日本

ある日、女子高校生の樺島邦子はランニング中に何者かに襲われ、アパートの一室に連れ込まれる。彼女を誘拐したのは岩園貞義という中年男。岩園は邦子に対して、決してレイプ目的で誘拐したのではないと告げる。
岩園は以前、好きになった女をレイプして結婚まで持ち込んだが、当然のように結婚は破綻した。そのため、岩園は今度は「完全な愛」を手に入れるため、邦子を監禁して自分を愛してくれるように飼育することを考えていた。
岩園の住むアパート“花風荘”には、他にも住人がいる。学校に行かずにAVばかり見ている大学生の津田乙彦、暴力バーに勤めているみどり、競輪場の清掃員をしている川又、どんな物でも売ってしまうセールスマンの森山、そして口うるさい管理人の吉川咲子。
岩園は邦子の注文を全て受け入れ、懸命に尽くす。やがて邦子はアパートから逃げようともしなくなり、一緒に温泉旅行にまで行くような関係になった。やがて2人は肉体関係を持ち、同棲している恋人同士のようになるのだが…。

監督は和田勉、原作は松田美智子、脚本は新藤兼人、製作は古里靖彦&有吉司、企画は中沢敏明、プロデューサーは渡邊範雄、撮影は佐々木原保志、編集は奥原好幸、録音は北村峰晴、照明は金沢正夫、美術は間野重雄、衣裳は藤木伊佐子、音楽プロデューサーは十川夏樹。
出演は竹中直人、小島聖、北村一輝、渡辺えり子、沢木麻美、塚本晋也、永島克、石井苗子、あき竹城、佐藤慶、泉谷しげる、ガッツ石松、有福正志、松村克巳、宮川俊二、三浦賢二、曽根英樹、久保田莚子、竹嶋康成、緋田康人、市川朋美、乃木涼介ら。


松田美智子の実録小説「女子高校生誘拐飼育事件」を映画化した作品。
つまり、実際にあった事件を基にしているわけだ。
岩園を竹中直人、邦子を小島聖、アパートの住人を北村一輝、渡辺えり子、沢木麻美、塚本晋也、泉谷しげるが演じている。

「文字表示で“何日目”と出した方が良かっただろう」などといった細かいポイントは幾つもあるが、それどころでは済まないポンコツぶりだ。
演出のマズさは強烈だが、脚本もヘボだ。

この作品は、肝心な部分で口を閉ざす。
岩園にとって監禁する相手が邦子でなければならなかった理由は何なのか、以前に邦子との面識はあったのか、そういった数々の疑問に対して、この映画は何も語ろうとはしない。
邦子がどうして岩園に対して心を許すようになっていくのか、それも全く見えてこない。おそらく、「自分に献身的に尽くしてくれる男に心を許すようになった」といった理由はあるのだろうが、それは私の推測であり、映画から読み取れる答えではない。

岩園のアパートには、他にも住人が暮らしている。
しかも外出がちというわけでもないし、管理人までいる。
そんな場所に気絶させた女を連れ込もうとすればバレる可能性が高いから、普通はやらないだろう。しかし、なぜかバレない。

邦子は最初から生意気な態度を見せており、そのために監禁した直後から「岩園が邦子に尽くす」という図式が出来上がっている。
しかし、そこは「途中から立場が逆転してしまう」という風に描くべきではなかったのか。

邦子は処女という設定なのだが、誘拐された当日に「レイプして早く家に返しなさい」と言ったり、かなり挑発的な言動や行動を繰り返す。
やがて彼女は岩園とセックスに至るのだが、最初の性行為からあえいでいる。
あれじゃあ、ただの淫乱女じゃないか。
岩園は女子高生を飼育したのではなく、淫乱女の本性を暴いただけじゃないのか。
たぶん、彼女が処女というのはウソなのだろう。
そうとしか思えない。

邦子は誘拐された当初から、あまり怯えた様子も見せず、どこか堂々としている。
逃げようという素振りを見せないわけではないが、あまり必死になっているようには見えない。
たぶん、最初から逃げる気など無かったのだろう。
そうとしか思えない。

監禁される中で、邦子は「あなたを虜にしてここから逃げ出す」などと言い出し、なぜか岩園に飼育合戦を持ち掛ける。
訳が分からない。
ここから逃げ出す方法は、他にも幾らでもあるはずなのに。
たぶん、この女は阿呆なんだろう。

アパートの住人達は、ほのぼのした雰囲気を作り出している。
そこだけを抜き出せば、ほとんど『めぞん一刻』の世界である。
岩園と邦子の関係にもシリアスなテイストは薄いので、おそらく今作品は一風変わったコメディーなのだろう。
ただし、全く笑えないが。

岩園は邦子に対して「完全な愛が欲しい」と言う。
しかし、この映画に愛など無い。
あるのは中途半端なエロティシズムだけだ。
この作品が描きたいテーマなど最初から存在せず、ただエロを見せたかっただけなのだろう。
そして、完成したのは出来損ないのポルノ映画だった。

中直人は頑張ってキャラクターを演じた。
小島聖は頑張って脱ぎまくった。
しかし、その頑張りを、この作品は見事に空回りさせる。
後に残るのは、時間を無駄にしたという虚しさだけだ。

 

*ポンコツ映画愛護協会