『鑑識・米沢守の事件簿』:2009、日本

警視庁特命係の杉下右京と亀山薫は、東京ビッグシティマラソンでの大規模な爆破テロ予告を受けて事件解決に奔走していた。そんな中、 顔認証システムでマラソンの映像をサーチしていた鑑識課の米沢守は、そこに元妻・知子の姿を発見する。彼は事務局へ行き、事件の捜査 だと嘘をついて知子の個人情報を得た。米沢は彼女が真鍋という苗字になっていること、台東区の涼風荘というアパートに暮らしている こと、警察の外郭団体・青少年防犯協会(青防協)に勤務していることを知った。
その夜、米沢は涼風荘の前まで行くが、知子には会わずに立ち去った。翌朝、米沢は涼風荘で女性の死体が発見されたという知らせを 受けた。現場へ行くと、そこには知子の死体があった。捜査第一課の伊丹憲一、三浦信輔、芹沢慶二が捜査に当たっており、青酸化合物に よる自殺だと告げた。現場には「悔しい。こんな結果に終わって、残念でならない」という遺書が残されていた。ホクロが無いことに 気付いた米沢は、密かに髪の毛を採取して血液型を調べ、元妻とは別人だと分かって安堵した。
翌日、千束署刑事課の刑事・相原誠が米沢を訪ねてきた。相原は米沢が事務局で知子について調べたことを知っており、彼女との関係を 質問してきた。米沢が事情を説明すると、相原は死んだ知子が自分の別れた妻だと話す。彼は「数日前、相談したいことがあると電話が あった。内容は会ってから話すということだった。まだ相談もしていないのに自殺するのはおかしい」と疑問を持っていた。
米沢は組織犯罪対策部組織犯罪対策5課長・角田六郎に、ネットで薬物を売った人間を特定する方法について尋ねた。「ネットカフェを 利用した場合、追跡は不可能に近い」と角田は言う。直後、米沢に相原から電話が入った。相原は「自殺じゃないと証明しに行きます。 青防協に行って、知子の怨恨の線を探ります」と告げた。慌てて米沢は相原の元へ行き、青防協へ同行することになった。
米沢と相原は青防協経理課課長・天野達之と面会し、知子が恨まれるようなことは無かったかと尋ねた。だが、思い当たることは無いと いう答えだった。米沢たちは知子の同僚・高橋早苗に話を訊くが、特に変わった様子は無かったという。そこへ天野から電話が入り、米沢 と相原は彼の元へ向かう。すると天野は、理事長の設楽光治朗が多くの女性職員にセクハラをしており、知子も被害者だったことを語った 。米沢はセクハラを苦にしての自殺だと考えるが、相原は「スッキリしない」と漏らした。
次の日、米沢は伊丹たちから、「自殺で処理した案件に首を突っ込んでるらしいな。刑事部長の耳にも入ってるぞ」と告げられる。設楽が 抗議してきたのだという。伊丹たちは、設楽が元警察キャリアだったこと、山梨県警の本部長だった頃に部下へのセクハラを起こして左遷 されたことを語った。米沢が相原と連絡を取ると、千束署にも圧力が掛かっていた。相原は「理事長が知子を殺したに違いない。これから 直談判に行きます」と告げて電話を切った。
米沢が青防協へ行くと、既に相原は理事長室へと押し掛けていた。米沢は「相原を納得させるため」と理由を付け、設楽にアリバイを訊く 。すると知子の死亡推定時刻に、彼は仙台へ行っていた。青防協を後にした相原は、「理事長をセハクラで訴える」と言い出した。米沢は 「これは私にとっても事件です。捜査させてもらいます」と協力を申し出た。だが、彼は警視庁刑事部長・内村完爾と参事官・中園照生に 呼び出され、「これ以上、余計な真似はするな」と釘を刺された。
相原から「知子のアパートにいます」という電話を受け、米沢は涼風荘へ赴いた。すると相原は、知子が付けていた日記を捜索していた。 米沢は盗聴器を発見するが、残念ながら指紋は採取できなかった。彼は角田から、ネットで薬物を売っていた牧田という男の情報をリーク してもらった。米沢は相原と共に関東信越厚生局麻薬取締部捜査第一課へ行き、担当者と面会した。牧田のパソコンのデータが初期化 されており、復旧に出すことを聞かされた米沢は、「それ、私がやります」と告げた。
米沢は自宅でパソコンを復旧させ、メールのやり取りをチェックした。すると、知子から牧田に、青酸カリを注文するフリーメールが 送られていた。だが、なぜか1グラムはアパートへ、9グラムは曙ビルの上野東私書箱センターに送るよう指示しており、5月10日までと いう日付指定もあった。相原によると、5月10日は知子から電話があった日だという。米沢は、誰かが知子に成り済まして注文のメールを 送ったのではないかと推理した。
米沢と相原は、設楽の協力者が知子を殺したのではないかと考えた。そこで2人は早苗と会い、青防協に理事長の味方がいないかどうか 尋ねた。だが、早苗は「理事長の味方なんかいない」と言い、警察の天下り先である青防協への不満を口にした。米沢と相原がセクハラの ことを言うと、早苗は知子がセクハラを受けていたことに驚きを示した。「彼女からそんなことを聞いたことが無かったし、理事長は若い 子が好みで、手を出すのは、せいぜい30歳までよ」と早苗は言う。
米沢と相原は設楽に呼び出され、青防協に赴いた。早苗が、米沢たちに話を訊かれたことを喋ってしまったのだ。理事長室の盗聴器に 気付いた米沢は、「確かなアリバイがありました。彼女へのセクハラはありませんでした」と土下座した。2人は天野に会い、嘘をついた ことを問い質した。彼は「大勢の女性職員から相談を受けていた。あんな人が理事長をやるべきではない」と憤懣を吐露した。
その夜、相原は米沢に、早苗から重要な情報を聞いたことを話した。知子の死後、彼女の私物を早苗は天野に渡していた。だが、それは 相原の手には渡っていない。相原は「手掛かりがあるはず」と言い、青防協に侵入することを告げる。米沢も彼に同行し、青防協に侵入 した。すると、天野が知子の私物を取り出していた。米沢たちが問い詰めると、天野は「貴方たちに渡すつもりだった」と言い、知子の 横領の証拠となる預金通帳を差し出した。だが、米沢は作為的な指紋に気付き、天野が犯人だと確信する…。

監督は長谷部安春、原作はハセベバクシンオー、脚本は飯田武、製作は上松道夫&鈴木武幸&水谷晴夫&亀井修& 水野文英&吉田鏡、プロデューサーは松本基弘&上田めぐみ&香月純一&西平敦郎、アソシエイトプロデューサーは伊東仁&遠藤英明& 土田真通、エグゼクティブプロデューサーは亀山慶二、企画は梅澤道彦&中曽根千治、撮影は上林秀樹、編集は只野信也、録音は高野泰雄 、照明は大久保武志、美術は伊藤茂、音楽は池頼広、音楽プロデューサーは津島玄一。
主題歌はエレファントカシマシ『絆』作詞:宮本浩次、作曲:宮本浩次&YANAGIMAN、編曲:YANAGIMAN&エレファントカシマシ。
出演は六角精児、萩原聖人、水谷豊、寺脇康文、市川染五郎、紺野まひる、片桐はいり、伊武雅刀、鈴木砂羽、益戸育江、川原和久、 大谷亮介、山中崇史、山西惇、神保悟志、片桐竜次、小野了、志水正義、久保田龍吉、半海一晃、奥田恵梨華、樋口浩二、伴美奈子、 渋谷桃子ら。


テレビ朝日のTVドラマ『相棒』の劇場版『相棒-劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン』のスピンオフ映画。『相棒』 シリーズの脇役キャラクターである米沢守にスポットを当てている。
劇場版の公開に合わせて発行されたハセベバクシンオーの小説『鑑識・米沢の事件簿〜幻の女房〜』が原作。原作者の父親である長谷部 安春が監督を務めている。彼は2009年6月14日に死去したため、この映画が遺作となった。
『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』という表記もある。
米沢役の六角精児は、これが初主演作。右京役の水谷豊、亀山役の寺脇康文、美和子役の鈴木砂羽、たまき役の益戸育江、伊丹役の 川原和久、三浦役の大谷亮介、芹沢役の山中崇史、角田役の山西惇、内村役の片桐竜次など、TVシリーズのレギュラー陣も登場。
他に、相原を萩原聖人、天野を市川染五郎、知子を紺野まひる、早苗を片桐はいり、設楽を伊武雅刀が演じている。

スピンオフの主人公が米沢ってのは、キャラとして弱いんじゃないか。
スピンオフ映画というのは、元になった映画の主人公を食うぐらいの存在感があったキャラじゃないと厳しい。
米沢は、そこまで存在感が際立っていたわけでも、絶大な人気を誇っていたわけでもないはずだ。
あくまでも「個性的な脇役たちの中の一人」に過ぎないはずなのに、企画として無理があったんじゃないか。

あと、事件が序盤の1つだけで、それ以降は新たな事件が発生しないというのも厳しいものがある。
事件の裏に潜む大きな陰謀が見えてくるわけでもないし。
米沢が元妻のことを語るシーンが何度かあるので、そっちのドラマを描こうという意識があったのかもしれないが、 そこに厚みは無い。
映画ならではの大物ゲストが出演するわけでもないし、テレビの2時間スペシャルで充分でしょ。

被害者が米沢の元妻と瓜二つであるという設定に、あまり意味を感じない。
じゃあ瓜二つじゃなかったら捜査しなかったのかというと、たぶん相原から協力を求められたら捜査していただろう。
「元妻の面影を見ているから、必死に捜査する」というわけではない。むしろ、元妻じゃなかったと判明した時点で、米沢の気持ちは クールダウンされている。
たまに彼が元妻の妄想を見るシーンがあるが、それは邪魔なだけだし、効果的に作用しているとは言い難い。

相原は米沢に押収品を見せてもらい、そこを立ち去った後で「今から青防協へ乗り込む」と電話を掛けてくる。
だが、立ち去る時に「今から青防協へ行く」と言えばいいだけのことだ。
米沢たちは早苗を勤務の後で甘味処へ連れて行って話を聞くが、その場で聞けばいい。
天野から電話が入ってセクハラのことを言われるが、それも青防協を訪問した時に言えばいい。
その辺りは、その場で処理すればいいのに、無意味に場面を変えていると感じる。

相原は知子が自殺だということに納得できずに青防協へ行くが、勤務先でのトラブルが原因かどうかも分からないし、怨恨の線かどうかも 分からないのに、最初からそう決め付けている。
このキャラが、あまりにも直情的でバカすぎる。
米沢のキャラを考えると、やや強引にでも話を引っ張って行くような相棒がいいだろうという考えだったのかもしれないが、アクティヴ なのと何も考えないのは違うぞ。
彼は単に暴走しているだけだ。

序盤で米沢は相原に「我々は物証が全て」と言っているが、実際に彼が犯人を突き止めるまでに取った方法は、「物証を一つずつ丹念に 集めていく」というものではない。
おまけに、物証を手に入れるために夜中に青防協に忍び込むという行動まで取っている。
そこは犯罪に手を出しちゃマズいでしょ。
あと、犯人を落とす手口も、「嘘をついて相手に自白させる」という方法で、物証なんてシカトだ。主人公が鑑識課員である意味が薄い。
しかも、特定した犯人じゃなくて別の奴が真犯人だったという始末。
なんじゃ、そりゃ。

完全ネタバレだが、犯人は早苗だ。
で、彼女が犯人だと判明する場面は、ものすごく御都合主義に満ち溢れている。
まず、理事長室の前に職員たちが集まっている時点で不自然だ。
米沢たちが天野を追及する間、設楽が人払いをせず、ドアも開けっ放しにしたままというのも不自然。
また、その話の途中で、急に早苗が口を挟むのも不自然。
「お喋りキャラだから」ということで納得するのは無理。

あと、右京と亀山が何度もチラチラと顔を出すが、ほとんど事件捜査に絡むことは無いんだし、目移りするだけで邪魔でしょ。
一応、右京が渡した志ん生の落語CDがヒントになって、米沢が「架空のブログを設定して犯人に自白させる」という手口を思い付くん だけど、前述したように、それだと米沢が鑑識課員である意味が薄くなるでしょ。
そこは鑑識課員らしい方法で解決してほしかった。

(観賞日:2010年12月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会