『感染列島』:2009、日本

フィリピン北部山岳地で新型インフルエンザが発生した。派遣されたWHOメディカルオフィサーの小林栄子たちは防護服に身を包み、 感染を最小限に食い止めようとする。だが、感染源である鶏は、既に村の外へと持ち出されていた。鶏を積んでいた船に乗った男が発症し 、クシャミによってウイルスは拡散された。3ヶ月後の2011年1月3日、神倉章介が営む東京都いずみ野市の養鶏場で鳥インフルエンザが 発生した。神倉の娘・茜は恋人の本橋研一と歩いている最中、そのニュースを知った。
同じ日、いずみ野市立病院では、いつものように救命救急医の松岡剛や安藤一馬、宮坂、看護師の三田多佳子や鈴木蘭子、看護師長の 池畑実和といった面々が仕事に従事していた。真鍋秀俊という患者の診察に当たった松岡は、インフルエンザの検査で陰性と出たため、 安静にしていれば治ると告げた。しかし翌日、真鍋は新型インフルエンザの疑いがある患者として運ばれてきた。その日も安藤がキットで 調べたところ、陰性だった。真鍋の妻・麻美も感染して運ばれていた。真鍋が激しく喀血し、安藤はその血を顔に浴びた。
救急救命センターにはタミフルが運ばれ、職員は飲むよう指示を受ける。院内感染対策主任の高山良三医師は、発熱などの症状が見られた スタッフは直ちに報告するよう告げた。研修医の小森幹夫は、松岡や安藤たちの元へタミフルを運んで来た。安藤たちは真鍋の処置をする が助からず、1月5日の3時28分に死亡。松岡は麻美に泣いて非難された。5日の朝、武蔵秋山駅の駅員が発症して倒れ、仙台ではバスに 乗っていた男性客も倒れた。いずみ野市立病院では院内感染者が出て、安藤も倒れた。
6日、内閣官房関係省庁連絡会議が開かれ、厚生労働省の感染症情報管理室長・古河克也は「日本でフィリピンの時と同様の事態が発生 すれば、64万人が死亡すると推定されます」と語った。厚生労働大臣の田嶋晶夫が「いずみ野市を封鎖しろっていうことかね」と否定的な 態度で言うと、感染症課の課長・水内雅治が「早期の措置が必要です」と即座に意見を述べた。彼は「ウイルスに合致したワクチンの完成 は、新型が発生してから6ヶ月後です」と告げた。
神倉は島根畜産大学獣医学教授・仁志稔の検査に立ち会うため、いずみ野市保健課職員・田村道草の運転する車で養鶏場へ赴いた。登校 した茜は、陰湿なイジメを受けた。8日、松岡の元恋人である栄子が、感染症予防研究所ウイルス第三部長の岡田清人と共に病院へやって 来た。彼女はスタッフを集め、病院の隔離を告げた。院長の深見修造が「一般患者はどうなる?」と反対するが、栄子は厳しい態度を 取った。彼女は病院が厚生労働省の管理下に置かれること、今後は感染症予防研のスタッフも治療に当たることを語った。
院内の一部を隔離病棟とするという決定に対し、高山は強い不快感を示した。彼は栄子のサポートを申し出るが、目的は彼女を監視する ことだった。しかし栄子の要求で、松岡が彼女をサポートすることになった。安藤の容体が急変し、松岡が賢明に処置したものの、9日の 早朝に死亡した。
5日後、病院には大勢の患者が押し寄せ、松岡は外に設置されたテントでも診察を行っていた。全ての患者を入院させたいと求める松岡に 、栄子は鋭い口調で「もっと現実を見てよ」と言う。1月14日の段階で、感染者は2310人、死亡者は856人になった。栄子は松岡を連れて 養鶏場へ行き、仁志に話を聞く。仁志は「防護ネットは完璧で、外からウイルスが運ばれてきた可能性は考えにくい」と語る。
養鶏場の近くで不審な人物が目撃され、松岡が追い掛けた。防護服とマスクに身を包んだ男は、松岡に銃を突き付けた。しかし松岡が医者 だと知ると、マスクを外して顔を晒した。男は鈴木浩介という無名の研究者で、検体を捕まえに来ていた。彼は「この感染症は、本当に 新型インフルエンザか?先生のトコの検体を調べさせろよ。その気になったら連絡しろ」と言い、名刺を渡して立ち去った。
松岡は栄子に、「院内感染が始まったのは2度目に患者が来た時だ。発症2日目からしか感染していないことになる」と言う。彼は、今回 の感染症が新型インフルエンザとは別の病気ではないかと考えていた。病院では専従スタッフが不足しているため、栄子は自ら人選する ことにした。松岡は医師や看護師に厳しく当たる栄子に対し、「ウチのスタッフを信じてやってくれ」と言う。栄子はスタッフを集め、 「専従スタッフの人選は自薦にします」と挙手を求めた。「お願いします、力を貸してください」と彼女が頭を下げると、スタッフの中 から次々に手が挙がった。
21日、古河や水内たちの元に、「72時間後に地域封じ込めを行うことが決定した」という閣議の結果が通達された。感染者が増加して いく中、麻美の症状は回復していた。しかし医師や看護師の忙しさは変わらず、多佳子も夫の英輔や娘の舞に会えないまま勤務を続けて いた。神倉は大勢の犠牲者が出た責任を感じ、納屋で首を吊って自殺した。しかし感染予防研は、アメリカ予防センターとWHOの検査 報告を共同協議し、新型インフルウイルスではないと発表した。感染は飛沫感染だが空気感染であり、未知のウイルスかどうかさえ 分からないという。
今回の感染症は、養鶏場とは無関係だったことが明らかになった。病院を訪れていた茜は、「みんな人殺し」と叫んだ。「ブレイム」と 名付けられたウイルスは、日本だけで発生していた。交通機関が各所で停止し、社会基盤の崩壊が始まった。栄子は退院した麻美が何か 知っていると感じ、松岡を連れて彼女の家へ赴いた。すると麻美は、父の立花修治が東南アジアのアボンという小さな国で医者をしている こと、正月に帰国して家に来たことを話す。その時、今から思えば具合が悪かったという。
麻美によれば、立花とはアボンに戻ってから連絡が取れないという。アボンは国連にも加盟しておらず、WHOでも実情は掴めていない 状態だった。次々に犠牲者が増えていく中、松岡は密かに病院の検体を持ち出し、鈴木に渡した。「ウイルスを見つけてください」と頼む 松岡に、スズキは「可能性はわずかじゃない。100パーだ」と告げる。松岡は感染源を確定するため、仁志に協力を求めた。
松岡と仁志はWHO西太平洋事務局のクラウス・デビッドに協力してもらい、アボン共和国メダン島へと飛んだ。立花の診療所に侵入した 松岡がパソコンを調べると、ミナス島のエビ養殖工場で働いている少女を診察した時のことが記されていた。ミナス島に上陸した松岡が 工場に入ると、瀕死の感染者が大勢いた。彼らが近寄って来たため、松岡は慌てて脱出した。癌を患っている仁志は、島に留まって治療に 当たることにした。松岡は手に入れた検体を持ち、日本へと帰国した…。

監督/脚本は瀬々敬久、オリジナルストーリーは平野隆&下田淳行、脚本協力は松田環&島田朋尚&齊藤美如、プロデューサーは平野隆、 企画は下田淳行、共同プロデューサーは青木真樹&辻本珠子&武田吉孝、製作委員会統括は加藤嘉一、協力プロデューサーは鈴木俊明、 撮影は斉藤幸一、編集は川瀬功、録音は井家眞紀夫、照明は豊見山明長、美術監督は金勝浩一、美術は中川理仁、VFXスーパーバイザー は立石勝、助監督は李相國、医療監修は森毅彦(慶應義塾大学医学部血液内科)、音楽は安川午朗、音楽スーパーバイザーは桑波田景信。
主題歌「夢の蕾」レミオロメン 作詞・作曲:藤巻亮太。
出演は妻夫木聡、檀れい、藤竜也、佐藤浩市、国仲涼子、田中裕二(爆笑問題)、池脇千鶴、カンニング竹山、光石研、キムラ緑子、 嶋田久作、金田明夫、正名僕蔵、ダンテ・カーヴァー、小松彩夏、三浦アキフミ、夏緒、太賀、宮川一朗太、馬渕英俚可、田山涼成、 三浦浩一、下元史朗、諏訪太朗、梅田宏、山梨ハナ、武野功雄、仁藤優子、久ヶ沢徹、佐藤恒治、松本春姫、山中敦史、山中聡、山本東、 吉川美代子(TBSアナウンサー)、山中秀樹、鴻明、法福法彦、梁瀬満、永井努、杉内貫、高嶋宏行、日下部千太郎、黛英里佳、 野嵜好美、千雅、坂口真紀、澤山薫、津田聖子、松本江世、森山静香、山崎進哉、鹿野京子、田中美晴、高木稟、川瀬陽太、田付貴彦、 大槻修治、笠菜月、伊藤猛ら。


『DOG STAR』『MOON CHILD 』の瀬々敬久が監督と脚本を務めた作品。
松岡を妻夫木聡、栄子を檀れい、仁志を藤竜也、安藤を佐藤浩市、 多佳子を国仲涼子、英輔を田中裕二(爆笑問題)、麻美を池脇千鶴、鈴木をカンニング竹山、神倉を光石研、実和をキムラ緑子、立花を 嶋田久作、高山を金田明夫、田村を正名僕蔵、クラウスをダンテ・カーヴァー、宮坂を宮川一朗太、蘭子を馬渕英俚可、深見を田山涼成、 田嶋を三浦浩一、杏子を小松彩夏、小森を三浦アキフミ、茜を夏緒、研一を太賀が演じている。

とにかく雑な作りで、「観客にツッコミを入れてもらうために作ったのか」とバカな邪推をしたくなるぐらいだ。
まず序盤、真鍋が病院に運ばれてきた段階で、既に「本当に新型インフルエンザなのか」と疑問が沸く。
何しろ真鍋は発症したばかりなのに、口からだけでなく、目からも出血しているのだ。
それってエボラ熱の典型的な症状に見えるんだけど。
だけど、そこにいるのは医療のスペシャリストばかりのはずなのに、なぜか誰も不審を抱かないんだよね。

あと、新型インフルエンザだったとしても空気感染するんだから、目と鼻と口を一刻も早く&徹底して防護すべきだろうに、なぜか無防備 に歩き回っている奴らがいる。
いいのか、そんなことで。
で、最初の感染から14日が経過するまで、そこに携わる専門家が誰も「神倉や松岡が感染していないのだから、これは新型インフルでは ない可能性が高いのではないか」という意見に至らない愚かしさ。
みんなバカばっかりなのか。

内閣官房関係省庁連絡会議のシーンで、古河が「フィリピンの時はWHOによって封じ込めに成功した」と言っている。
いやいや、じゃあ、舟に乗せられていた鶏は何だったのか。そこからウイルスが広まる様子が、冒頭で描かれていたはずでしょ。封じ込め に成功してないはずでしょ。
っていうか、そのフィリピンの鳥インフルエンザって、その後の展開に全く関係が無いのね。そこから日本に感染したわけ じゃないのね。
だったら、そのシーンは何のために用意されたものなのか。

あと、色々とエピソードを盛り込みすぎ。養鶏場が投石されて娘がイジメを受けるとか、そんなの要らないから。
それって「ウイルスによるパニック」との関連が薄いし。娘と恋人のエピソードって、全て排除してもいいよ。
松岡と栄子の恋愛劇も同様。「恋愛劇も入れておこう」というのはハリウッド映画的な考え方なのかもしれないけど、それを除外するだけ で、少しはスッキリするだろうに。
そこに時間を使わずに済む分、他の描写に尺を回すことも出来るし。

既に院内感染が発生しているのに、病院を隔離している様子は無い。栄子が来て、ようやく隔離が指示される。
最初の感染者と接触していたのは松岡で、その時は防護していなかったのだから、その彼が普通に他のスタッフとマスクやゴーグル無しで 喋ったり会ったりしているというのは、あまりにも杜撰な管理体制と言わざるを得ない。
しかも、それは栄子が来た後も続いている。
彼女は病院全体の管理を命じたのに、なぜ松岡をそのまま放置しておくのか。既にウイルス感染している可能性だってあるのに。

栄子は松岡を連れて養鶏場へ行くが、松岡がやるべき仕事は、そういうことじゃないでしょ。患者の治療でしょ。
で、何をしに行ったのかと思いきや、仁志に話を聞くだけ。それなら電話で済むだろ。
「複数の人間が各分野で懸命に活動し、何とかパンデミックを食い止めようとする」という群像劇にすべき題材なのに、ヒーロー至上主義 で松岡だけに何から何まで活躍させようとするから、おかしなことになる。
松岡は救急救命医としての領域を超え、色んなことに手を出している。

で、後半に入ると、とうとう松岡は外国にまで飛ぶ。
いやいや、それはアンタのやるべき仕事じゃないから。感染源の特定ってのは、もっと別の部署の人間がやるべき仕事だから。
なんで現場で治療に専念すべき救急救命医が、その仕事を放棄してアボンへ行ってるんだよ。
それよりも、今そこにいる患者を治療してやれよ。
あと、わざわざ海外へ行く暇があったら、国内の各地で感染が広がっている様子をキッチリと描き、スケール感を醸し出してくれ。
海外へ行ったからって、スケール感は全く出ていないぞ。

「交通機関が各所で停止、社会基盤の崩壊が始まる」というテロップには、バカバカしさしか感じない。
しかも、町にはゴミが溢れ、落書きが増え、道の真ん中で物が燃やされたりしているけど、なんだ、そりゃ。
感染者が増えて清掃が追い付かないとか、そういうことなのか。それと、ウイルスのせいで暴動が発生しているってことなのか。
病院や周辺の光景と比較して、「荒廃した都市」の映像は異様で、まるで他の国のようだ。

車が横転したまま放置されているとか、路面電車が路上で放り出されているという様子もあるが、どういうことなのよ。
まるで「感染者がゾンビ化して暴れるようになった」という物語のような状態になっている。そこだけ異様。
パンデミックのシミュレーションをした結果、そういうことになったのか。だとしたら、そうなるまでの経緯を描いてほしい。
流れが無くて、唐突にそういう場面だけ持って来られても違和感しか抱かない。
あと、都心部のシーンで、外を歩いている人が誰もいないってのも、急激な荒廃に感じる。

他の優秀な医者が発見できなかったウイルスを、なぜ鈴木が発見できたのか、それも全く分からない。
そこはさ、デタラメな理由でもいいから、「調査し、ウイルスを発見する」という経緯を描くべきなのよ。
だけど、何しろ松岡以外の奴らはみんな扱いが悪くて、鈴木なんて彼視点のシーンも全く用意されていない程度で処理されるから、そんな 奴がウイルス発見者になるという筋書きに納得できないのよ。
ウイルス発見者って、この映画の内容を考えれば、群像劇の主要キャストの一人になるべきキャラだぜ。
調べている様子が終盤になって描かれると、たちまちウイルスを発見しているってのは、あまりにも雑な処理だわ。

最初の感染者である立花は、何も知らない一般人ならともかく、専門的な知識がある医者であり、アボンに戻った時点で新型ウイルスへの 感染を知っている。さらに、娘が感染しているんじゃないかと心配もしている。
だったらウイルスのことが分かった時点で、娘なり日本の関係者なりにそのことを知らせようとすべきじゃないのか。
そういう行動を取った様子が全く無いぞ。
「私が日本に行ったことで感染が広がっていなければいいんだが。この病の研究をするために、この手記が役に立つことを願っている」 と手帳に書いている暇があったら、さっさと知らせろよ。

回復したのは麻美だけでなく、他にも回復した患者がいることを松岡は語っている。
だとすれば、死んだ患者と助かった患者の差は何なのか。そこには全く触れられていない。
大体さ、回復した患者もいるのなら、死んだ患者と何が違うのかを調べれば、それが治療や感染の食い止めに繋がるはずなのに、それを 調査しようとする奴が誰もいない。
あと、なぜ日本だけで感染が広がるのか理屈が分からない。
立花は飛行機で日本と東南アジアを往復しているはずで、機内に外国人は乗っていなかったのか。

途中、武蔵秋山駅の駅員や仙台のバスの乗客が感染して倒れている様子が挿入されたが、そこから他の場所でもパンデミックが起きている 様子が描かれることは無い。
ようやく1月16日のシーンで大阪が写り、「全国で1日の救命要請が50万件を超える」とテロップが出るが、全国的にパンデミックが発生 しているという印象は皆無。
19日には「第一感染者死亡から2週間後、感染は日本列島全域に拡大」とか「世界各国が日本からの退避勧告を発令」と出るが、広島を 走る救急車が写るだけ。
かなりスケールのデカい設定があるのだが、そこに映像やドラマが全く追い付いていない。

それだけの大きな出来事になってくれば、もう国のトップも動いているだろうに、たまに保健課の面々が写るだけ。
総理大臣は一度も登場しないし、政府のブレイン的な役割を果たす医療のエキスパートも出て来ない。
その辺りにも主要キャストを置いて、いずみの市立病院の様子と並行して、そっちが感染を食い止めるために動く様子を描くべきじゃ ないのか。
全てを松岡と栄子の周囲で描こうとするから、すげえスケール感が小さくなってしまう。
ほとんど病院内部の出来事しか描かないんだったら、院内感染だけに絞り込んで物語を構築すれば良かったのに。

前半は、ただ「感染が拡大し、医者たちは次々に患者が死んでいく中で無力な様子をさらけ出す」という様子を延々と見せられる。
それでも、その一方で専門家が感染源へ少しずつ近付いたり、感染の拡大を止めるための計画が進行したりということが描かれればいいん だが、そういうことも無い。
で、ウイルスが発見されても、半年後までワクチンが作られないということで、それ以降も医者が何も出来ずに患者の死を看取るという 様子が描かれるだけ。
松岡をスーパーマン的に様々な場所で活動させたのに、それは無いだろ。

しかも、ウイルスが発見された後になって、多佳子、栄子、茜を感染させ、茜以外は死なせるという構成には萎えるわ。
そりゃあウイルスが発見されても、それで戦いが終わりじゃないってのは、現実だろうとは思うよ。
だけど、そんな救いの無い現実を見せて、誰が得をするというのか。
そこまでに、さんざんリアリティーに欠ける事柄を放り込んでいて、そこだけリアリティーを持ち込もうとしても意味が無い。
ウイルス発見をクライマックスにして、それ以降のことはテロップかナレーションで処理してしまえばいいんじゃないの。

(観賞日:2011年9月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会