『カノジョは嘘を愛しすぎてる』:2013、日本

坂口瞬、大野薫、矢崎哲平、篠原心也による4人組バンドCRUDE PLAY(クリュード・プレイ)は絶大な人気を誇り、アルバムはV3を達成した。クリプレは当初、篠原心也ではなく小笠原秋を含めた4人の幼馴染によって結成されたバンドだった。しかしデビュー直前に秋が離脱し、代わりのベーシストとして心也が参加したのだ。秋は「AKI」という名義でサウンドクリエーターとして活動し、クリプレの全ての楽曲を手掛けている。だが、彼は自分の音楽が簡単に消費される現状に、充実感を抱くことが出来ずにいた。
クリプレはV3の祝賀パーティーへ秋を連れて行くため、ヘリコプターで迎えに来た。心也は「それ、4人乗りなんで。後は幼馴染で楽しんで下さい」と言い、気を遣ってタクシーを使う。瞬たちがヘリコプターで浮かれる中、秋だけは沈んだ表情をしていた。クリプレを担当している音楽プロデューサーの高樹総一郎が迎えに来ても、秋はパーティー会場へ向かわずに立ち去った。彼は帰宅し、パソコンに向かって作曲活動に没頭した。彼は『世界平和』という仮タイトルの歌を作ろうとしているが、まるで進んでいなかった。
翌朝、秋が目を覚ますと、高樹が手掛ける人気歌手の茉莉が来ていた。「出来た、私の曲?」と茉莉に訊かれた秋は、「言ったよね、もう二度と高木のボスとはやらないって」と告げる。茉莉が「秋は私の恋人でしょ」と言うと、彼は「もう、これ以上は無理だ。お前があいつと寝てるとこを想像しただけで気が狂いそうになる」と語る。秋は茉莉が高樹と寝ていることを知っており、「鍵は置いといて」と告げて家を出て行った。
秋は川辺で趣味のラジコンヘリを飛ばすが、誤って壊してしまった。リモコンを叩き付けようとして思い留まった彼は、ふと思い付いたメロディーを適当な歌詞に乗せて口ずさんだ。その鼻歌を、たまたま野菜を自転車で運ぶ途中に通り掛かった八百屋の娘・小枝理子が耳にした。秋の鼻歌に聞き惚れていた彼女は、ダンボール箱の野菜を落としてしまった。秋はマッシュルームを拾い上げ、理子を見つめて「一目惚れって信じますか」と告げた。
秋は「すいません、冗談なんですよ」と慌てて取り繕い、その場から去ろうとした。すると理子は、「信じます。だって今、私、一目惚れしちゃったです」と言う。秋が戸惑っていると、彼女は「一目惚れっていうか、今の鼻歌、鳥肌立った。名前教えて下さい、私は小枝理子って言います」と語る。秋は咄嗟に、「小笠原シンヤ」と偽名を使った。秋は理子の名前も良く覚えておらず、「頭がマッシュルームみたい」という印象しか持たなかったが、デートの約束をした。
秋から電話でデートのことを聞いた瞬は、「あんまり無茶すんなよ」と軽く告げる。秋は「大丈夫。頑張って、彼女をメチャクチャ好きになる」と笑う。秋の行動を知った高樹は否定的な態度を示し、「相手が可哀想だろ」と言う。秋は反発し、「音楽と関係の無い繋がりが欲しいんだよ」と述べた。秋が待ち合わせ場所であるタワーレコードへ行くと、理子はセーラー服で現れた。相手が高校生だったことに秋は当惑するが、しかもクリプレの大ファンだと知って唖然とした。
クリプレについて「知ってますか」と理子から問われた秋は、「あんまり音楽聴かないんで」と嘘をついた。そこへ、理子の幼馴染である君嶋祐一と山崎蒼太がやって来た。祐一は秋に強いライバル心を示し、「彼氏って、オヤジじゃん」と言う。理子は2人を突き飛ばし、秋の腕を掴んで逃げ出した。理子は興奮した様子で「あれから、ずっと忘れられなくて、あの鼻歌」と言い、大声で歌い出そうする。慌てて秋は彼女の口を塞ぎ、「俺、歌が怖いんだ。たぶん憎い」と告げる。秋が涙をこぼすと、理子は「大丈夫です。私が守ってあげる」と抱き締める。秋は彼女にキスをした。
理子は祐一と蒼太に秋が「歌が憎い」と言っていたことを話し、「言えないな、歌が大好きなんて」と漏らす。彼女は2人とバンドを組み、ボーカルとギターを担当しているのだ。秋は訪ねて来た茉莉から、高樹について「私のことを見つけてくれたの、あの人だったの」と告げられる。秋は「ありがとう、おかげで自分の気持ちがハッキリ分かったよ。彼女が出来たんだ。僕が曲を書かなくても、守ってあげるって言ってくれたんだ。僕はそんな彼女を大事にしようと思う」と彼女に語った。
理子、祐一、蒼太の路上演奏を聴いていた高樹は、拍手で近付いた。高樹は理子に「どうしよう、俺、天才見つけちゃった」と言うが、それは茉莉をスカウトした時と同じ言葉だった。高樹は3人を会社に呼び、デビューの話を持ち掛けた。「まだ楽器を始めたばかりで」と蒼太が困惑すると、高樹は「カメラの前で弾くフリさえしてれば、後はプロの人たちが代わりに弾いてくれる。クリプレだってそうだぜ。自分で弾いているのなんて心也だけだ」と述べた。
瞬、薫、哲平はスタジオで楽器の練習に励み、次の曲は自分たちの演奏で録音しようと思っていた。しかし高樹は笑いながら、「冗談言うな。金出してド素人の演奏聴かされる客の身になってみろ。可哀想だろ」と言う。彼は秋に、女子高生シンガーをプロデュースするよう持ち掛けた。秋が拒むと、そこに心也が来て代役に名乗りを挙げた。スタジオで理子の歌声を聴いた心也は、「彼女は僕が貰いました。僕が宝物にします」と高樹に告げた。
会社を出た秋は、高樹にスカウトされた高校時代のことを回想する。デビューCDの発売に他の3人が喜ぶ中、秋だけは自分たちの演奏ではないことに気付いた。高樹は秋を別室に呼び、「まさか自分たちの演奏でプロになれると思ってたわけじゃねえだろ」と告げる。秋は高樹に、自分の代役に会わせてほしいと頼んだ。自分より1つ年下の心也がベースを演奏する様子を目にした秋は、「僕の代わりに彼をクリプレに入れて下さい」と高樹に頼んだ。
秋は橋の上から理子に電話を掛け、「僕を守るって言ったよね。何から?」と問い掛ける。「貴方を傷付ける全部から」と答えた理子は、すぐに近くにいた秋を見つけて駆け寄った。秋は彼女を抱き締め、「大事にする」と告げた。後日、秋はクリプレが初めて新曲を披露する歌番組を収録するため、瞬の車でテレビ局へ向かった。瞬から理子に嘘をついていることを指摘された秋は、「本当のことを言おうと思ってる」と述べた。一方、理子は祐一&蒼太と共に、クリプレの番組収録を見学する目的でテレビ局を訪れていた。
秋はテレビ局のトイレで祐一と遭遇し、理子たちのバンドが高樹にスカウトされたことを知った。彼は高樹に会い、理子のことを話した。理子が秋の交際相手だと知った高樹は、笑いながら「ただの偶然だよ」と言う。「理子を使って何する気だよ」と秋が訊くと、高樹は「仕事だ。音楽という嗜好品を言葉巧みに売り付ける金儲け」と答える。「理子だけはアンタのオモチャにさせない」と秋が反発すると、彼は「こんなとこで遊んでていいのか?心也は宝物にするって言ってたぞ」と述べた。
クリプレの新曲を聴いた理子は、秋の鼻歌と同じだと気付いた。そこへ秋が現れて「ごめん、嘘ついてた」と言い、正体を明かした。理子は「小笠原さんは嘘なんかついてないと思います。初めてあの鼻歌を聴いた時、私には悲鳴みたいに聞こえて。私の心にちゃんと届いたの。それで守ってあげなきゃって。だから私にとっては、誰よりも正直な人です」と言う。秋は彼女を自宅に招き、「知ってほしいんだ、ホントの僕を」と告げる。理子はクリプレのデビューCD『卒業』を見つけて「この曲、好きです」と言い、軽く口ずさんだ。秋はギターで伴奏し、初めて理子の本格的な歌声を聴いた。
秋は理子を家の前まで送った帰り、メロディーを思い付いた。彼は急いで帰宅し、理子のための曲を作った。秋は瞬に、「デビューの時に思ったんだ、クリプレを去ることだけが、僕に出来る音楽への良心だって。でも逃げたんだよ、結局。今度は逃げたくない」と話す。彼は高樹に頭を下げ、理子のバンドをプロデュースさせてほしいと頼む。しかし高樹は「今さらデビューのスケジュールは変えられない。それに心也のデモは、もう上がっている」と言い、秋の要望を却下した。
会社を去ろうとした秋は心也と遭遇し、「クリプレとしてデビューして5年。君は君で悩んでたかもしれないけど、僕は僕でずっと居心地が悪かった。ずっと自分のバンドが欲しいと思ってた。渡さないよ、君には」と告げられる。理子、祐一、蒼太は校内放送で体育館に呼び出されるが、行くと大勢の記者が集まっていた。それは3人が「MUSH&Co.」というバンド名でCMキャラクターに決まったことを発表するサプライズ会見だった。そのニュースをネットで知った秋の元に理子が現れ、抜け出してきたことを話した。
理子は秋に、「知らないとこで、どんどん話が決まっちゃって」と戸惑いを吐露する。「理子はデビューしたくないの?」と秋が尋ねると、彼女は「私はただ歌うのが好きなだけで」と語る。秋は「大丈夫。僕が理子の歌を守るから」と言い、「僕の歌を歌ってほしいんだ。今さ、音楽がすげえ楽しいんだよ。理子のおかげ」と告げる。秋は社員の長浜美和子が戦略を説明している会議の場に乗り込み、高樹にデモCDを渡して「一回聴くだけでいい」と告げた。
練習のためにレコード会社を訪れた理子は、茉莉に声を掛けられて緊張する。会社を出て行く茉莉を見送った理子は、秋が来るのを目にした。茉莉と秋の様子を見た理子は2人の関係に気付き、ショックを受けた。秋は高樹から、写真週刊誌が撮った自分と理子のキス写真を見せられた。高樹は「これが世に出たら理子の未来がどうなるか分かるか。1つだけ方法がある。こいつで取引する」と言い、かつて握り潰した秋と茉莉のツーショット写真を見せた。「茉莉は条件付きで納得してくれた。理子と別れろって」と彼は言う。スタジオで歌う理子の様子を覗き見た秋は、高樹の提案した取引を了承した…。

監督は小泉徳宏、原作は青木琴美『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(小学館 Cheese! 連載)、脚本は吉田智子&小泉徳宏、製作は石原隆&畠中達郎&都築伸一郎&市川南&加太孝明、プロデューサーは土屋健&石田和義、アシスタントプロデューサーは坂上真倫、ラインプロデューサーは巣立恭平、撮影は柳田裕男、照明は宮尾康史、サウンドデザインは大河原将&浅梨なおこ、録音は小宮元、編集は森下博昭、美術は五辻圭、ビジュアルデザインは箭内道彦&大島慶一郎、ヘアメイクディレクションは古久保英人、スタイリストは中兼英朗、音楽は岩崎太整、音楽プロデューサーは亀田誠治。
出演は佐藤健、三浦翔平、大原櫻子、反町隆史、相武紗季、勝村政信、谷村美月、窪田正孝、水田航生、浅香航大、吉沢亮、森永悠希、飯田基祐、竜跳、今井堅心、西尾景子、麻生淳子、土田真里恵、川村彩花、佐藤芽、酒井瞳、佐藤智幸、札内幸太、マックスウェル パワーズ、菊井亜希、佐藤満美、安田洋子、上村圭将、M.E.N、SHUNA、アイドリング!!、Sherry、風間亜子季、夏江紘実、早坂あい、田嶌友里香、中村綾乃、広瀬ゆうき、鮎川桃果、相楽樹、小松美月、松田梨紗子、中嶋義広、前島風、西塚真吾、木谷雅、軽部真一(フジテレビアナウンサー)、加藤綾子(フジテレビアナウンサー)ら。


青木琴美の同名漫画を基にした作品。
監督は『タイヨウのうた』『FLOWERS フラワーズ』の小泉徳宏。脚本は『僕等がいた』前後篇の吉田智子と小泉徳宏の共同。
秋を佐藤健、瞬を三浦翔平、理子を大原櫻子、高樹を反町隆史、茉莉を相武紗季、理子の父親を勝村政信、美和子を谷村美月、心也を 窪田正孝、薫を水田航生、哲平を浅香航大、祐一を吉沢亮、蒼太を森永悠希が演じている。
劇中に登場するバンドのCRUDE PLAYとMUSH&Co. は、実際に劇中歌でCDデビューした。

青木琴美には『僕は妹に恋をする』と『僕の初恋をキミに捧ぐ』という作品もあって、いずれも映画化されている。そして、いずれもポンコツ映画だった。
だから、この映画がポンコツに仕上がるのは、もはや必然と言ってもいいのかもしれない。
たぶん原作がポンコツということではなくて、「少女漫画ならOKだけど、実写映画にするとキツい」ってことなんじゃないかと思う。
漫画って、実写に向いている物もあれば、そうじゃない物もあるからね。

秋と理子の出会いのシーンは、この映画における踏み絵のようなモノである。
そこを「なんて素敵な出会いのシーンだろう」と思うか、「なんてバカバカしい出会いのシーンだろう」と思うかによって、それ以降の展開に対する受け入れ方が大きく変わって来る。
なぜなら、これは2人の出会いのシーンで顕著に現れているような感覚に満ち溢れた映画だからだ。
素敵なシーンだと思えたのなら、この映画の世界観にドップリとハマることが出来るだろう。
バカバカしいと感じたなら、たぶん本作品を楽しむのは無理だろう。

秋の鼻歌に聞き惚れて理子が「鳥肌が立つ」とコメントするのは、かなりセンスがおかしいという印象を受ける。
そこは「秋の口ずさんだメロディーがチョー素敵」か、もしくは「秋の歌唱力が素晴らしい」ということじゃないと「鳥肌が立つ」ってのは成立しない。
だけど、メロディーが特に素晴らしいとは思えないし、そんなに歌が上手いわけでもない。
そのせいで、一目惚れのシーンが、ますます陳腐なことになっている(あっ、陳腐って言っちゃったね)。

例えば、理子が祐一と蒼太を突き飛ばして秋に「逃げます」と言い、彼の腕を掴んで逃げ出すシーンなんかも、いかにも少女漫画的な描写と言っていいだろう。
そういうのが悪いとは言わない。どれだけ荒唐無稽であろうも、その世界観に観客をスッと入り込ませることが出来ていれば何の問題も無い。
重要なのは、いかに観客をその世界観に引き入れることが出来るかってことだ。
そういう力が本作品に備わっているのかというと、答えはノーだ。

少女漫画を原作にした映画は何本も作られているが、その中でも本作品は、相当にハードルが高い。
もしくは「門戸が狭い」という表現の方が適切かな。
ファンタジー作品には「ハイ・ファンタジー」という分類があるけど、言ってみれば、この映画はある種の「ハイ」なのだ。
それなのに、この映画は良くも悪くも、普通の青春恋愛劇のように撮られている。
そうじゃなくて、もっと少女漫画の中でもクドい方の味付け、ある意味ではバカバカしい世界観ということを示すための意匠が必要だったんじゃないかと思うのよ。

秋が大声で歌い出そうとした理子の口を塞いで「俺、歌が怖いんだ。たぶん憎い」と告げると、理子は「どうして泣くの?」と問い掛ける。
「何言ってんの、泣いてないよ」と秋が言うと、彼女は「でも、これから泣くでしょ」と口にする。
秋の目から涙がこぼれ、「ちょっと待って、最悪。見ないで」と彼は言う。彼が涙を拭いていると、理子は「大丈夫です。私が守ってあげる」と抱き締める。そして秋は彼女にキスをする。
このシーンなんかも、ただ段取りだけを淡々と処理するんじゃなくて、もっと飾り付けに凝らないとキツいのよ。

バンドの演奏を本人ではなく上手いスタジオ・ミュージシャンに任せるってのは、昔は珍しくも無かったことだし、過去には影武者2人がボーカルを担当していたミリ・ヴァニリがグラミー賞を受賞してしまうような出来事もあった。
ただ、2013年という時代において、バンドの演奏を別人に担当させるってのは、あまり商売として上手いとは思えない。CDやテレビ番組の演奏はともかく、ライブはどうするのかという問題がある。
それにネットが普及している時代だから、誰かが気付くと、あっという間に拡散してしまうだろう。作曲を別人が担当するゴーストとは違って、ライブに行けばギターやドラムから音が出ていないことに気付く人は出て来るだろうし。
それとも、クリプレって全くライブをやっていない設定だったりするのか。
あと、茉莉は影武者が歌っている設定だったりするのかと思ったら、違うのね。
だったら相武紗季はミスキャストだろう。そこは本当に「歌手」として説得力のある人を起用しないとダメだわ。

デビューCDを聴いた時に、秋を除く3人が誰も「自分たちの演奏じゃない」と気付かないのは、あまりにもマヌケだ。理子がユーミンを知らないってのも、設定を作り過ぎていると感じる。
音楽が好きなのにユーミンを知らない女子高生が日本中で1人も存在しないのかと問われたら、そりゃあ存在するかもしれない。ただ、そこに現実感は無い。
そもそも濃い味付けの少女漫画だから、「ホントの現実」という意味でのリアリティーを追及する必要は無い。
ただし、ある程度は現実社会との接地点を用意しておかないと、そこで描かれる物語も登場人物も、全てがバカバカしく思えてしまうのだ。
この作品は接地点が少なすぎて、許容できる限度を遥かに超越している。

大原櫻子は「オーディションで選ばれたシンデレラ・ガール」という触れ込みだが、出来レースの可能性が高いんじゃないかと思っている。この手のオーディションって、ガチで行われるケースの方が珍しいし。
ただし、仮に出来レースであろうとも、大原櫻子を起用したのは大正解だ。この映画で、真っ当な意味で称賛できる数少ないポイントが、彼女の存在だからだ。
秋の伴奏で理子が歌うシーンで気持ちを掴まれるのは、全てが陳腐だった映画に、ようやく「本物の説得力」を感じることが出来るからだ。
決して「超美形」というタイプではないけど可愛い部類には余裕で入るし、「平凡な女子高生だけど歌ったら凄いんです」という理子のキャラにもピッタリだし。

佐藤健は本作品と同じく音楽業界を舞台にした漫画原作の映画『BECK』に出演していたが、あの作品と同じように、皮肉な問題が生じている。
『BECK』の場合、原作では批判の対象となっていた「金やコネを利用してスターに成り上がる」というバンドの形を、映画版で描かれた佐藤健たちのバンドが体現してしまうという皮肉な状況に陥っていた。
この映画の場合、高樹が語る「音楽という嗜好品を言葉巧みに売り付ける金儲け」というやり方に秋は反発しているが、「そういう金儲けをやろうとしたのが、この映画でしょ」という皮肉な問題が生じている。
CRUDE PLAYとMUSH&Co. をCDデビューさせたことも、大原櫻子を売り出したことも、そもそも本作品自体にしても、そういうことでしょ。

「いつでもどこでも簡単に音楽が手に入る世界。その軽さが、音楽をただ消費されてくだけの物にしてる。でも、そんな世の中に向けた音楽の売り方も確実にあって」というモノローグや秋の様子からして、そういう「簡単に消費される音楽」を物語としては否定的に描こうとしていることが伝わって来る。
だけど、この映画そのものが「簡単に消費される存在」として作られているわけで。
この映画を作っているのは、そういう感覚の面々でしょ。

これって結局は「秋と理子の物語」だから、他の連中が2人を目立たせるための背景になるのは仕方が無いというか、理解できる。 ただし、それにしても扱いが雑すぎるわ。
例えば茉莉は「秋と付き合っているけど仕事のために高樹と寝ている」という役回りだが、お世辞にも充分に活用されているとは言い難い。彼女と秋、高樹の関係も、放り出されたままで終わってしまう。美和子、祐一、蒼太といった面々は、全くと言っていいほど存在意義が無い。
理子の両親は1シーンしか登場せず、実家が八百屋という設定も全くの無意味になっている。
クリプレの面々も、瞬は「秋の親友」ということで出番も多いが、同じく親友であるはずの薫と哲平は「メンバーの1人」というだけに留まっている。
心也は「クリプレに居心地の悪さを感じていた。秋の才能に嫉妬していた。理子を宝物にしようとする」といった要素があるが、これまた茉莉と同様、ネタを撒いたままで回収しないまま映画が終わってしまう。

クリプレの曲が、あまり魅力の感じられない凡庸な曲になっているのは、「そういう曲でもヒットする」という風に音楽業界を風刺する意味があるのかと、最初は思った。だけど全て秋が手掛けている設定だから、それじゃマズいはずだよね。
ってことは、風刺の意味は全く無いんだろう。
だけど皮肉なことに、劇中で唯一、心也が手掛けた設定になっているMUSH&Co. のデビュー曲『明日も』がダントツで魅力のある楽曲なんだよな。
っていうか、そこは秋の手掛けた曲という設定にしておかなきゃダメだ。「理子が心を込めて歌うデビュー曲」って、ものすごく重要なはずなのに、なんで心也の曲にしてあるんだよ。

終盤、理子はロンドンへ発つ直前の秋に合奏を持ち掛け、自分はギターを弾きながら歌い始める。
そこで歌われるのが、劇中で初披露となる『ちっぽけな愛のうた』ってのは、どういうセンスなんだよ。
その前に「瞬が秋の家から盗み出したデモCDを理子に渡し、それを聴いた理子が泣く」というシーンがあるので、そのCDに入っていた曲なんだろう。でも、理子が聴いているシーンでは音が流れないので、合奏シーンが初披露となるのだ。
そこはさ、「2人にとって思い入れのある曲、大切な曲」ということが観客に対して音として伝わる形にしておかないと、何も心に響かないのよ。
知らない曲を急に演奏されても、ピンと来ないのよ。

(観賞日:2015年2月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会