『彼女が水着にきがえたら』:1989、日本

中国マフィアのボスは手下たちを集め、朝鮮戦争の頃に起きた事件について語った。38年前、1人の戦争成金が軍払い下げのDC3をチャーターし、ソウルから厚木に向かったが、湘南沖で墜落した事件があったのだ。DC3には数十億円相当の宝石が積まれていたという。一方、OLの田中真理子は友人の石井恭世から、ゴールデンウィークにパーティーへ行かないかと誘われる。金持ちの息子がクルーザーで開くパーティーにコネを付けたのだという。真理子は知らない人の船に乗ることに抵抗感を示すが、恭世からしつこく誘われ、「きっとあるよ、いいこと」と言われて承諾した。 真理子は恭世と共に浦安マリーナへ行き、彼女の知人である山口に会った。山口が所有する50フィート級クルーザーのアマゾン号が、パーティーの会場だ。一方、その近くにいた吉岡文男は船長の大塚と共に、30フィート級クルーザーのツバメ号を眺めていた。その夜、ツバメ号はアマゾン号の近くを航行する。大塚は吉岡がアマゾン号を羨ましがっていると考え、「レースやるだけが能じゃないぞ。慎重になりすぎるんだよ。たまには山口見習ったらどうなんだ」と女に対して積極的になるよう告げた。 翌朝、アマゾン号の客たちは、それぞれのマリンスポーツを楽しむ。真理子と恭世は、他の数名と共にスキューバダイビングを始めた。クルーザーから随分と離れた場所まで来たところで恭世が不用意な行動を取ったため、2人は他のメンバーとはぐれてしまった。一方、ツバメ号には高橋裕子がヘリコプターでやって来た。3人は湘南沖に沈む財宝を探していた。海中を泳ぎ始めた真理子と恭世は、DC3の残骸を発見した。真理子は持参したカメラで残骸を撮影した。 恭世は水深35メートル地点に来ていることを真理子から指摘され、パニック状態になる。慌てて浮上しようとする彼女を追い掛けた真理子は、カメラを海底に落としてしまった。真理子は恭世を落ち着かせ、一緒に浮上した。裕子は大塚の「今夜6時、クラブ・ヒッチ」という言葉を聞き、ヘリコプターで飛び去った。スキューバダイビングをやろうと海に飛び込んだ吉岡は、真理子と恭世を目撃した。2人はツバメ号に引き上げられた。2人がアマゾン号の客だと知った大塚と吉岡は、顔を見合わせて笑った。 アマゾン号まで真理子と恭世を送り届けた大塚は、山口に「お前んとこのインストラクター、目え付いてんのか」と言う。すると山口は、「若い女の子とクルーズできただけでも幸せと思え」と言い返す。すぐに大塚は「そんな憎まれ口を叩く暇があったら、船舶免許を取れ」と告げた。真理子は吉岡に好感を抱いた。クラブヒッチに赴いた吉岡は、仲間の浦野たちに「急ごう、早く」と言う。「どうしたんだ、いつもはめんどくさがるくせに」と浦野が笑うと、大塚は「デカいんだ、今夜の獲物は」と告げた。 その夜、真理子はクルーザーの男女があちこちでカップルになっているのを見て、拒否反応を示す。真理子は恭世の元へ行くが、彼女も男と仲良くやっていた。山口は真理子を船室に連れて行き、彼女をベッドに誘う。真理子は部屋を飛び出し、恭世を連れて逃げ回る。そこへ吉岡たちが乗り込み、真理子と恭世を小型ボートに乗せて連れ去った。山口は部下に指示し、後を追わせた。大塚は余裕で逃亡しながら、真理子に好意を寄せる吉岡に「決めろよ、今夜中に」と耳打ちした。 上陸した吉岡たちは待機していた裕子の車に乗り込み、追っ手を振り切ってクラブ・ヒッチに到着した。店に入ると、マスターが真理子と恭世の写真を撮影した。吉岡は店を出て真理子と2人きりになり、会話を交わす。だが、いい雰囲気になってキスしようとしたところへ恭世が来て、邪魔されてしまった。吉岡たちが店に戻ると、山口が大塚と楽しく飲んでいた。パーティー会場から吉岡たちが参加女性を連れ去り、それを山口が部下に追い掛けさせて勝敗を付けるというゲームを、彼らは何度も繰り返しているのだ。 恭世はゲームの道具にされたことを軽く受け入れるが、吉岡が助けてくれたと思っていた真理子は幻滅した。彼女が「人をオモチャにして面白いんですか」と怒鳴ると、裕子は「それが悪いけど、すっごく面白いの」と言う。誰も悪びれる様子を見せないので、真理子は腹を立てる。しかし彼女が「煙草を吸わないで」と言うと、吉岡たちは一斉に煙草を吸う。壁に飾られている古い飛行機の写真に気付いた恭世は、「これ、今日見た。飛行機だったんだ」と口にした。その途端、吉岡たちは騒然となり、恭世を質問攻めにした。 恭世が「この写真、何なの?」と尋ねると、大塚は「発見者だ、知る権利はあるわな」と述べた。彼らは38年前の出来事について説明し、墜落したDC3の唯一の生き残りであるパイロットのニック・ウィルソンが湘南に住み着いたこと、この店に良く飲みに来ていたことを語った。ニックは6年前に死んだが、臨終の際に財宝のことを話したのだという。大塚は保険会社からDC3の引き上げ権を手に入れ、6年に渡って山口と争いながら財宝を探し続けて来たのだ。 真理子は大塚の話を誇大妄想と決め付け、恭世と一緒に店を去ろうとする。大塚の目配せを受けた裕子は、真理子と恭世を引き留めようとする山口に「離しなさいよ」と告げる。彼女は真理子たちに「電車無いんでしょ、送るわ」と言い、車に乗せた。裕子は「気が変わったら電話して」と真理子に名刺を渡し、大塚たちが宝を手に入れたら50億の船を買って100億円の宝を探そうと考えていることを教えた。 後日、吉岡は大塚から「強姦してでもポイントを聞き出せよ」と指示され、会社か出て来る真理子たちを待ち伏せした。上司と話している真理子より先に恭世が会社から出て来て、吉岡を見つけた。恭世が強引に吉岡を連れ去った後、山口が会社にやって来た。彼は真理子を見つけ、花束を差し出して「お話がありまして」とレストランへ連れて行く。すると、そこでは吉岡と恭世が食事をしていた。吉岡たちは分け前を巡り、交渉をしている最中だった。吉岡は真理子の前で意地を張り、彼女を侮辱するようなことを言ってしまう。腹を立てた真理子は山口から「一緒に潜ってくれますね」と誘われ、「喜んで」と返答した。 翌日、吉岡、大塚、恭世はツバメ号に乗り、ポイントへ向かう。「引き上げた宝って、確実に私たちの物るね?」と確認する恭世に、大塚は「墜落した機体には保険が掛けてあった。香港の保険会社だ。連中、宝があるなんて知らないから俺を飛行機マニアだと思って、たった100万で引き上げの権利を売ってくれた」と話す。一方、真理子から昨夜の約束をホゴにされた山口は、出社する彼女を説得しようとするが、「会社休めません」と断られた。 吉岡と恭世がポイントへ行くために潜っていると、大塚の待機しているツバメ号がボートに乗った連中に襲撃された。吉岡たちが浮上すると、大塚はツバメ号から落とされて大怪我を負っていた。全治1ヶ月で入院した大塚の元へ、山口がやって来た。吉岡は山口の仕業だと決め付けて激怒するが、裕子たちに制止された。吉岡が無線で助けを呼んでいたため、山口はDC3が沈んでいる大まかな地点を知った。彼は部下たちを引き連れて海へ行き、大塚が襲われた周辺を捜索させた。 吉岡も浦野と共にDC3を探すが、人員も予算も山口が圧倒していた。真理子は大塚の見舞いに訪れ、病室にいた裕子と話す。吉岡のことが忘れられない真理子は、裕子から「手伝ってほしいんだ」と持ち掛けられる。裕子は言葉巧みに気持ちを変えさせようとするが、真理子は「会社、休めないんです」と告げる。しかし翌日、真理子は会社を休み、吉岡の前に現れた。真理子は吉岡を連れて海に潜り、DC3を見つけたポイントへ向かう。だが、そこにDC3の残骸は無かった。 吉岡と真理子と共に大塚の病室を訪れ、悔しそうな態度を見せる。すると大塚は笑顔を浮かべ、「宝はもう1つあるんだよ」と口にした。彼は封筒を差し出し、「これをな、中華街でアンティック・ガレージという店をやっているジョン・リーという男に届けろ」と指示した。吉岡が開封しようとすると、大塚は「中は見ない方がいい。お前たちのためだ。何も聞くな、喋るな。危険だからな」と述べた。 吉岡は真理子を車に乗せ、中華街へ赴いた。封筒を受け取ったジョンは、「七里ヶ浜に行け。海岸近くでサンゴ礁という店をやっているハロルド・ダックという男に、これを渡せ」と述べて封筒を渡した。吉岡たちが店に行くと、封筒を見たハロルドは「俺と大塚は、捕鯨船時代の仲間だ。何も心配することは無い」と口にした。彼は吉岡に封筒を渡し、「披露山へ行け。頂上で江の島に向けて車を停め、この手紙を読め。ただし、お前だけ読め。危険だからな」と言う。真理子を連れて披露山へ赴いた吉岡が手紙を開くと、「その娘がお前の宝だ。その娘には媚薬入りのスープを飲ませてある。それにこの夜景だ。いいお友達になる前に、さあ口説け」と記されていた…。

監督は馬場康夫、原作はホイチョイプロダクション(現在は「ホイチョイ・プロダクションズ」)、脚本は一色伸幸、製作は三ツ井康&相賀昌宏、エグゼクティブプロデューサーは村上光一&堀口壽一、プロデューサーは河井真也&茂庭喜徳、撮影は長谷川元吉、水中撮影は中村宏治、照明は森谷清彦、美術は山口修、録音は北村峰晴、編集は冨田功、ジェットスキースタントは前田一龍、ボートスタントは三石千尋、助監督は小林要、製作担当は大橋和男、監督補は門奈克雄、音楽はサザンオールスターズ。
出演は原田知世、織田裕二、伊藤かずえ、竹内力、伊武雅刀、田中美佐子、谷啓、佐藤允、坂田明、白竜、安岡力也、山口晃史、平久保雅史、中沢清六、岡本達哉、デニス・コナー、馬場彰、深見博、松石健、川井研一郎、藤岡大樹、三浦忠度、間田憲輔、大村浩之、皆川衆、今井雅之、松岡一[門がまえに月]、渡辺司、辻久也、山崎義治、鈴木祥仁、幸崎智、白岩久尚、増田義彦、芹沢良明、ピーター・ストーン、金子恭子、高橋直、羽田圭子、田浦健策、玉井美香(現・叶美香)、辻あきひろ、村野怜子、厚木久代、前田ゆかり、田口真理子ら。


『私をスキーに連れてって』に続くホイチョイ3部作の第2作。
原田知世だけが続投で、それ以外の出演者は総入れ替え。物語も前作とは無関係。
真理子を原田知世、吉岡を織田裕二、恭世を伊藤かずえ、浦野を竹内力、山口を伊武雅刀、裕子を田中美佐子、大塚を谷啓、組織のボスを佐藤允、ジョンを坂田明、クラブ・ヒッチのマスターを白竜、ハロルドを安岡力也が演じている。
吉岡の役名は、コピア(現在は合併してキヤノンファインテック)に勤務していたホイチョイの同名メンバーから取られている。

前作の『私をスキーに連れてって』でスキーのブームを作り出したホイチョイが、「冬がスキーなら、今度は夏のレジャーでブームを生み出そう」ということで作ったのが、この映画である。
そんなわけで、スキューバダイビングや水上オートバイ、水中スクーターといったマリンスポーツが、今回の映画でホイチョイが仕掛けた流行である。
また、プロダクト・プレイスメントがこれでもかと行われており、例えばツバメ号にはバドワイザー、ウィンドサーフィンの帆にはポカリスエットのロゴシールが貼られている。

使用される楽曲がユーミンからサザン・オールスターズに変わっているが、歌が流れている間は写し出される映像が背景と化し、話が前に進まないってのは前作と同じだ。
ただ、「話の中身は二の次で、とにかく流行発信」という目的が明確だった前作に比べると、今回は少し「物語やドラマを作ろう」という意識が増しているようだ。
しかし、それがプラスに作用しているかというと、答えはノーである。

口下手で不器用だった前作の矢野に比べて、今回の吉岡はキャラとしての好感度が落ちる。吉岡だけじゃなく、その仲間たちも含めて、かなり不愉快な連中で、それが本作品にとって大きなマイナスになっている。
メインの男を前作と違うキャラ造形にしようってのは理解できるけど、だからって「ヒロインをゲームの対象にする」ってのは無いわ。
それは前作における矢野の仲間たちなんて比較にならないほど軽薄で嫌悪感の強い奴になっている。
前作における矢野の仲間たちは、矢野が女性とカップルになるかどうかの賭けをしていた。しかし、それは仲間内での賭け事だったし、無関係の人に迷惑を掛けるようなことはやっていなかった。それに対して今回の吉岡たちは、何も知らないパーティー参加者の女性たちを騙して、ゲームの道具として扱っているのだ。
しかも「人をオモチャにして面白いんですか」と言われて全く悪びれないどころか、全員で煙草を吸って嫌がらせをするんだから、すげえ不愉快だぜ。

真理子に怒鳴られても悪びれずに嫌がらせをするシーンは、「自分たちは何も悪いことをしておらず、むしろ真理子がシャレの分からない不愉快な女」という描写になっているんだけど、どう考えたって吉岡たちの方が不愉快な連中だよ。悪ふざけが過ぎるぞ。
それに激しいチェイスで女性に怪我をさせてしまうことだって考えられるのに。これっぽっちもシャレになっていない。
だけど、この映画だと、最後まで彼らの行為は肯定されたままなのだ。
それを笑って受け入れるのがバブルのノリってことなんだろうけど、到底受け入れ難いわ。
ただ、真理子も吉岡に惚れちゃって、なし崩し的に彼らの行為を許しちゃってるんだよな。
なんだよ、そりゃ。

あとさ、「宝は見つからなかったけど、もっと大事な宝を手にいれました」って、それが陳腐かどうかは別にして、もう話のオチでしょ。
だけど、まだ財宝を巡る話が、そこから続いて行くんだよな。
それは構成として、あまり格好がよろしくないよ。
「キスしてめでたしじゃないのか」と吉岡が漏らしている辺りからして、意図的にそういう構成にしているのかもしれないが、だとしたら、「3人を元を巡って手紙を受け取って」という手順に時間を割くのは、やめた方がいい。ただの余計な寄り道になっちゃってるので。
そんなところでダラダラと時間を費やすより、さっさと宝を手に入れようとする手順へ移った方がいい。

っていうか、前作よりも話のスケールを大きくしたかったのか、「朝鮮戦争の頃に海へ沈んだ財宝を探す」という海洋アドベンチャー映画の要素を持ち込んだのは大きな失敗だ。そういう現実離れしまくったネタは、このシリーズには邪魔なだけ。
「流行発信映画」としては、もっと観客が身近に感じられる内容でなくちゃいけない。
前作の終盤にある「猛スピードで車を走らせて横転」とか、そういうのも要らないと思っていたしね。
等身大の若者たちの、身の周りにある出来事にしておくべきだ。
そこに、ちょっとだけ冒険の要素を取り込めば、それで充分だったのよ。

財宝探しで悪党グループに追われるとか、そういうのは、明らかにやり過ぎだ。普通に「マリンスポーツで楽しんで、恋をして」ということでいいでしょうに。
トレジャーハンティングなんて、ホントに邪魔なだけだよ。
前作であまりに中身の薄っぺらい映画を作ったことで「今度は中身のある映画にしよう」と思ったのかもしれないが、アドベンチャーやサスペンスの要素を持ち込んだところで、やっぱり薄っぺらいんだから、無意味なんだよな。
むしろ、『私をスキーに連れてって』よりもバブリー度数が遥かに上がっており、それに伴って内容の薄っぺらさも増しているんじゃないかと思えるぐらいだ。

(観賞日:2013年8月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会