『監禁探偵』:2013、日本

ある夜、向かいのマンションの部屋に視線をやった亮太は、異常事態を感じ取ってカメラを構えた。亮太が窓から部屋に忍び込むと、そこには何者かに殺害された女性が倒れていた。女性に触れた亮太が血まみれの手を見て動揺していると、ドアの向こうにアカネという女が立っているのが見えた。アカネが悲鳴を上げようとしたので、亮太は慌てて体当たりを食らわせた。アカネは壁に頭をぶつけて意識を失い、目を覚ますと、亮太の部屋に担ぎ込まれていた。彼女はベッドに寝かされ、手足を縛られていた。
アカネが悲鳴を上げようとすると、亮太は彼女の口を塞いで「静かにしていれば危害は加えない」と告げた。アカネが「人殺し」と言うと、亮太は「違う。俺はやってない」と否定した。部屋で何をしていたのか彼が訊くと、アカネは「玲奈を訪ねに来たの」と答える。亮太が疑って詰め寄ると、アカネは「彼氏と喧嘩して車から降ろされちやったから、携帯も財布も全て車の中」と説明する。亮太が玲奈との関係を質問すると、モデル仲間だとアカネは告げた。
アカネが警察に電話しないのかと尋ねると、亮太は「黙ってろ」と苛立った口調で言う。するとアカネは、彼の心境をズバリと言い当てた。「どう言い繕ったところで、貴方はもう善意の目撃者とかじゃない」とアカネが指摘すると、亮太は「真犯人が捕まるまで、お前をここから出さない」と告げた。彼は死体が発見されるまで数日の余裕があるはずだと考えており、「その間に俺が真犯人を捕まえて警察に突き出す」と述べた。
アカネは亮太を見下したような態度で、「本当に玲奈のことを殺してないなら、堂々と本当のことを言えばいいじゃん」と言う。「アンタは誰、何者?」という質問に亮太が返答を拒むと、アカネは室内の様子などからカメラマンの助手であること、玲奈の関係者であることを言い当てた。指紋が残っていることに気付いた亮太は、慌てて玲奈の部屋に戻ろうとする。アカネは「真犯人がいるのなら、何か物証を残してるかも」と告げた。
亮太は玲奈の部屋に入り、自分の指紋を拭き取った。彼は玲奈のパンストを脱がせて右腕に装着し、室内を探る。彼はバッグの中の手錠や、コートのポケットに入っていたスマホを発見した。一方、アカネはベッドを揺らし、亮太のカメラに手を伸ばした。写真を調べた彼女は、亮太が玲奈の部屋を盗撮していたことを知った。アカネは亮太が戻って来る前にベッドの場所を戻し、おとなしくしていたように装った。亮太は玲奈が首の右側をナイフで突き刺されていたことを告げ、「犯人は左利きだ」と述べた。彼はアカネの右手の中指の皮膚が硬くなっていることから、そちらでペンを持っているので右利きだと見抜いていた。
亮太はアカネがカメラを調べていたと気付いており、彼女の左手に手錠を掛けた。アカネの身体能力の高さから、亮太は右利きの彼女が玲奈を殺したのではないかと疑念を向ける。アカネは自分も亮太も殺しておらず、真犯人が別にいると語った。彼女は亮太が持ち帰ったスマホを調べれば何か分かるかもしれないと告げ、スパイウェアをダウンロードするよう促した。アカネの指示を受けた亮太は、自分のパソコンを玲奈のスマホと同期させた。
スケジュール帳を確認したアカネは、玲奈が広尾で誰かと会う約束をしていたことを知った。撮影が朝10時から入っていることを知った彼女は、8時までに解決する必要があると亮太に告げ、パソコンを操作させるよう要求した。亮太は手錠で片脚を固定した上で、彼女の要求を飲んだ。アカネはスケジュール帳の数字について、時刻ではなくナンバープレートだろうという推理を口にした。東日本陸運局のサイトをハッキングした彼女は、関東一円の高級外車に絞ることにした。
アカネはアドレス帳の名前を検索するが、該当する車は無かった。スケジュール帳のアルファベットを見ていた亮太は、犯人と玲奈がSM趣味で繋がっていたのだと推理する。アカネは画像検索アプリを使い、蜂谷光彦という人物を探り当てた。グーグルで検索すると、蜂谷は広尾にあるイギリス大使館の広報担当者だった。スマホには写真フォルダと別に、幾つものQRコードを保存したフォルダもあった。QRコードを調べたアカネは、それが男性のアドレスになっいることを知る。
アカネは亮太に、玲奈がコールガールの組織に入っているという噂を明かし、QRコードは顧客データだと告げる。アカネが留守電を確認すると、「なんで電話に出ない?逃げたのか。俺を破滅させる気じゃないだろうな」と怒鳴る男の声が録音されていた。アカネが朝食を要求したので、亮太は近くのコンビニまでシリアルと牛乳を買いに出掛けた。亮太は野田という中年女性の店員に代金を支払い、慌てて部屋に戻る。アカネはパソコンに向かい、作業を続けていた。
アカネはトイレに行くこと、シャワーを浴びることを要求し、亮太は文句を言いながらも従わざるを得なかった。蜂谷が玲奈の部屋に来て死体を発見し、車で去る様子わ2人は目撃した。焦る亮太に、アカネは「蜂谷がホントに玲奈の客なら、通報しないはず。電話するなら、コールガール組織の方だよね」と口にした。QRコードを調べたアカネは、CMにも出ている女優の滝川紗栄子が玲奈の客だったことを知る。事務所のサイトをチェックすると、紗栄子は左利きだった。
インターホンが鳴ったので亮太がドアを開けると、刑事2人が立っていた。刑事は不審人物がうろついていると通報があったことを説明し、聞き込みに回っているのだと告げた。近隣住民から悲鳴が聞こえたと通報があったと言うので、亮太はヘッドホンをしていたので外の音は聞こえなかったと述べた。刑事が返った後、アカネは紗栄子が河原でドラマ撮影をしていたこと、待ち時間なら犯行が可能であること、マネージャーが実行犯の可能性もあることを亮太に話した。
アカネは亮太に、テレビ局へ行って紗栄子と接触し、「このマンションでハンカチを落としましたよ」などと言って反応を見るよう指示した。亮太が外に出て携帯を掛けると近くから発信音が聞こえ、彼は慌ててマンションから走り去った。アカネは手錠を外し、シャワーを浴びて道具を作った。ベッドに戻った彼女が手錠を掛けてパソコンを触っているとドアが開き、サングラスの女が入って来た。女は「貴方があの子の新しい彼女?亮ちゃんはまだ子供ね。手錠なんかで安心しちゃダメなのに」と言い、部屋を出て行った。女の様子を見ていたアカネは、左利きだと気付いた。
女が去った直後、亮太が焦った様子で戻って来た。彼は「警察じゃない男に追い掛けられた。蜂谷は秘密クラブの方に連絡をしてたんだ。蜂谷じゃなきゃ、お前だ。警察は来ないと分かってたから、呑気にシャワーなんか浴びられたんじゃないのか」と語る。「お前は最初から俺をハメようとしてた。テレビ局へ行って来いと言ったのは、外にいる仲間に俺を始末させるためだ」と、彼はアカネに詰め寄る。アカネは冷静に態度で、「貴方こそ、誰が真犯人か分かってるんじゃないの。貴方は誰かを庇ってる。さっきから何度か掛けようとしてた電話。その人に掛けようとしてたんじゃないの」と、先程の女を念頭に告げる…。

監督は及川拓郎、原作は我孫子武丸&西崎泰正(『監禁探偵』 実業之日本社『漫画サンデー』)、脚本は小林弘利&及川拓郎、製作は林裕之&小西啓介、企画は山口敏功、プロデューサーは柴田一成&小笠原宏之、ラインプロデューサーは戸山剛、撮影は早坂伸、照明は神谷信人&福長弘章、美術は高橋努、録音は西岡正己、編集は松竹利郎、音楽は石川光&Nebu Soku。
主題歌はピロカルピン『時の抜け殻』作詞:松木智恵子、作曲:松木智恵子、編曲:ピロカルピン。
出演は三浦貴大、夏菜、甲本雅裕、落合モトキ、村杉蝉之介、津田匠子、神崎詩織、高橋K太、赤山健太、ガンジー、小林恵里、小林風花、清水彩花、瀬古あゆみ、安藤彩、河口えり、松ゆりえ、春園幸宏、根木裕介ら。


漫画サンデーで連載されていた同名漫画(作:我孫子武丸、画:西崎泰正)を基にした作品。
『純喫茶エルミタージュ』『シャッフル』の及川拓郎が監督を務めている。
脚本は『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』『シグナル〜月曜日のルカ〜 』の小林弘利と及川監督による共同。
亮太を三浦貴大、アカネを夏菜、警視庁の刑事を甲本雅裕、万引き犯を落合モトキ、蜂谷を村杉蝉之介、野田を津田匠子、玲奈を神崎詩織が演じている。

最初に思ったのは、何とかして我孫子武丸に脚本を担当してもらうことは出来なかったのかなあってことだ。
仮に監督や誰かと共同の形を取ったとしても、とにかく我孫子武丸が参加していれば、こんなドイヒーなシナリオが仕上がることは無かったはずだ。
ミステリーのはずなのに、謎解きが恐ろしく雑。亮太とアカネの推理はズバズバと的中するし、都合の良すぎる展開で情報も集まる。
ところが、そうやってサクサクと推理を進めているくせに、それが真犯人には全く結び付かないという驚きの展開が待ち受けている。

序盤、亮太は盗撮魔っぽい設定として観客に示される。ただ、冒頭で部屋に散乱した写真が写し出されるが、盗撮の常習犯ならそんな乱雑なことはしない。もっとキッチリと整理しているはずだ。
ネタバレだが、亮太は盗撮魔じゃないので、盗撮魔っぽい行動から外れるのは間違いとも言えない。
だけど盗撮魔じゃないにしても、撮った写真を部屋に散乱させているのは、やっぱり不自然だ。
むしろ、そこは「亮太は盗撮魔」と観客に思わせるための演出で、それなのに盗撮魔っぽさに欠けた行動になっていると感じるぞ。

亮太は玲奈の部屋に視線をやって、異常を感じてからカメラを構えるのだが、それは行動として変だろ。
その後、彼女の部屋に侵入しているのも報道カメラマンか何かならともかく、そうじゃないんだからさ。
わざわざマンションの壁を登って、ベランダから侵入するという、かなり手間の掛かることをやるんだぜ。侵入して、何をするつもりだったのかと。
そこで何か起きていたとして、何も出来ないでしょ。
あと、なんで玲奈の部屋の窓が都合良く開いているのかも引っ掛かるし。

亮太がアカネに体当たりを食らわせ、部屋に連れ込んで監禁するのもキテレツな行動にしか思えない。
向かいのマンションから自宅まで女を運び、自分の部屋に連れ込むって、かなりリスキーな行動だぞ。そんで両手足を縛って拘束したくせに、悲鳴を上げようとするまでは口を塞いでいないし。
亮太の行動は、最初から支離滅裂だ。
それと、亮太がアカネに体当たりを食らわせた後、「アカネが目を覚ますと」という風にアカネの視点で描くのは違うなあ。そこは一貫して男の視点から描いた方がいいよ。

アカネは監禁されて目を覚ました直後、死体の近くで血まみれの手を眺める男や死体の様子を思い出し、「人殺し」と叫ぶ。
でも、後から分かることだけど、彼女は最初から亮太が犯人じゃないことを知っていたはずなので、そのシーンは整合性が取れない。
亮太を騙したり利用したりするために「人殺し」と叫んでビビらせる目的なら、叫ぶ行為だけは理解できるけど、回想を入れることで「本当に彼を犯人と思っている」ということになるわけで。
それが観客を騙すための仕掛けだったとしても、「本人もそう思っている」という描写になってしまうので、完全に反則だ。

アカネの「玲奈を訪ねに来たの」という台詞は、日本語として変だ。
それ以外にも、日本語の使い方としては間違っちゃいないけど、台詞としては素直に聞き入れることが難しいと感じる箇所が多い。
「いかにも用意された台詞を喋ってます」という、舞台劇なのかと思ってしまうような会話劇になっているのよね。
だったら、いっそのこと開き直って、もっと舞台劇に寄せちゃった方が、まだマシになったんじゃないかと思ったりもする。
ただし、あくまでも「マシになる」というだけで、それで面白くなるわけじゃないけどさ。

拘束から逃れようと体をクネクネさせるアカネの胸や脚をアップで写すのは、サービスショット的な意味合いがあるのかもしれない。
ただ、お色気サービスを入れようとするなら、もっと分かりやすくした方がいいわけで。お色気サービスとしては、ものすごく中途半端。
あと、そうやって体をエロくクネクネさせる様子を見ても、亮太が動揺したり欲情したりすることは皆無なので、演出としては完全に外しているし。
その後の「シャワーを浴びたアカネが下着姿になったり、その上にワイシャツ一枚を羽織っただけの姿になったりする」という部分は、ちゃんと亮太が恥ずかしがっているし、ものすごく分かりやすいけどね。

亮太は玲奈の部屋を探って戻ると、わざわざアカネの左手の拘束を解いた後、手錠を掛けるという意味不明な行動を取る。
そもそも、それは殺害現場で見つけた重要な証拠品なのに、そんな目的で安易に使うなよ。ホント、こいつの行動は何かに付けて違和感を抱かせるのよ。
ちょっと調べたら、どうやら原作とは大幅に内容もキャラ設定も変更しているみたいなんだよね。その影響で、亮太の行動が奇奇怪怪な状態になっちゃったのか。
でも、大幅に改変するなら、それに合わせてキャラの行動も整合性が取れるようにすべきでしょ。

完全ネタバレだが、アカネはフリーの私立探偵だ。だから、彼女の推理力が鋭いのは、まあ色々と御都合主義もあるが良しとしよう。
でも、亮太の方も「首の右側をナイフで突き刺されていた。だから犯人は左利き」とか、「アカネは右手の中指の皮膚が硬い。そちらでペンを持っているから右利き」とか、なかなかの洞察力を披露するのは、素直に受け入れ難い。
そもそも、そういう推理が出来るってことは、ものすごく冷静ってことでもある。ついさっき死体を発見したばかりなのに、あっという間に落ち着いているってことだ。
盗撮していた部屋に忍び込んだり、アカネを拉致して拘束したりというボンクラな行動を取っていた奴と同一人物とは、到底思えない。
だからといって、もちろん「実は途中で別人に摩り替っていた」などという驚愕のドンデン返しが用意されているわけではない。単純に、キャラの統一感が無いだけだ。

他にも色々と粗い箇所は多くて、例えばアカネがQRコードを調べると「滝川沙栄子」のデータが出て来るのに、彼女の所属事務のサイトをチェックすると「滝川紗栄子」の表記で、つまり「沙」と微妙に表記が違うんだよね。
そこに何か意味があるならともかく、まるで意味が無いのよ。ってことは単なるミスでしょ、それって。
あと、事務所のプロフィールに「特技・特徴」の欄があるが、特技はともかく特徴って違和感があるわ。そんで、その項目に「ピアノ、習字、左利き」と書かれているのも違和感。
特技であるピアノと習字に並べる形で、「左利き」とか書くかね。そんなの、女優の仕事を取る上で重要な要素とは思えんぞ。

アカネは「朝8時までに事件を解決しないと死体が発見される」と亮太を焦らせるようなことを言っておいて、「朝御飯食べに行きたい」と呑気な事を言い出す。
もう犯人の目星が付いているならともかく、まだ全く分からない状態なのに、そんなことを言うのだ。
一応、そこには「食べないと作業効率が落ちる」という名目があるけど、無意味な緩和にしか思えない。
そこに限らず、基本的にユーモラスな雰囲気を盛り込みつつ進めたいという狙いがあるようで、それは決して悪くないけど、結果としては失敗している。

アカネからテレビ局へ行くよう指示された亮太が部屋を出た後、「どこかに携帯で電話を掛けると、近くで発信音が鳴る。慌てて逃げる」という展開があるのだが、何が何やらワケが分からない。後から「あの時、そういうことがありまして」という説明があるのかと思いきや、それも無い。
亮太は部屋に戻ると、アカネに「外で追い掛けられた」と言うけど、実際に追い掛けられるシーンは描写されていない。
前述した「電話を掛けたら近くから聞こえて、慌てて走り出す」というシーンがあるだけだ。
言葉で「こういうことがあった」という説明があってから振り返っても、そういうシーンには全く見えない。

亮太が誰かを発見し、追われて逃げ出すという様子を全く見せないってのは、手落ちにしか思えない。
ただ、実は該当するシーンを描写できない事情がある。完全ネタバレだが、亮太は組織の一員なのだ。
だから、たぶん「亮太は組織に電話を掛けて、近くで音が鳴ったので、組織の差し向けた男が自分を狙っていると察知し、逃げ出した」ということなんだろうと思う。
だけど、分かりにくいこと山の如しだわ。
大幅な改変で亮太をコールガール組織の一員にしたことが、マイナスにしか作用していないぞ。

亮太とアカネが、互いに「テレビ局へ行かせたのは外の仲間に襲わせるためだろ」「誰かを庇っているんでしょ」と疑いを向けるシーンがある。
アカネが犯人じゃないことは最初からバレバレだから、そっちの追及は無視してもいいだろう。
ただ、アカネは直前に現れた女を念頭に「誰かを庇っているのでは」という疑念を提示しているのに、そう言った直後に「リストを検証していたら、大物俳優や経団連役員などが含まれている。玲奈は日本を引っ繰り返すかもしれない名簿を手にしていたが、扱いに困っていた。組織はそれが部屋にあるか確認したいはず」などと言い出し、すぐに別の方向へ話を進めちゃうんだよね。
だから、そこの会話が無意味になってしまう。

亮太はアカネから「玲奈が組織の顧客名簿を保険にしていて云々」と聞かされると、「安全のためにスマホを部屋に戻し、何も無かったにすべし」と言い出す。
かなり無理のある展開に思えるが、それはひとまず置いておくとして、アカネが「乗ってあげる」と握手のために差し出すのは左手だ。
確か彼女は右利きの設定だったはずで、そこで左手を差し出すのは変でしょ。
「実は左利き」とか、何か意味があるならともかく、そうじゃないし。しかも、そこで左手を彼女が出したのに、亮太はスルーしているし。

劇中の大半は亮太の部屋が舞台で、彼とアカネの2人芝居が続くのだから、そのやり取りで観客を引き付けなきゃいけないのに、そこに力が無い。互いの腹を探り合う心理戦の妙も、ヒントを集めて犯人に近付いて行く謎解きの醍醐味も、会話劇の面白さも、ホントに何も力が無い。
そもそも謎解きに至っては、そこまでの経緯なんて無関係に、唐突に犯人が登場するのよ。そんで捕まった後で彼女が「こういう動機で云々」と説明するまで、犯行動機も全く分からないままだし。
そりゃあミステリーの面白さなんて、あるはずもないでしょ。
犯人が明らかになった後で、「あの時のアレは、そういうことだったのか」という巧みな伏線回収があるわけじゃないんだから。

犯人が明らかになっても、まるでスッキリしない。
まずグラサン女が登場した時点で候補が1人しかいないってのは、大きなネックだ。しかも、その1人でさえ存在感は薄い。
完全ネタバレだが、犯人はコンビニ店員の野田なのよね。で、野田って亮太がコンビニへ買い物に行くシーンで、チラッと登場しただけだからね。
で、彼女はアカネが1人になった時に現れて少しブツブツ言っただけで立ち去るのに、後で再び侵入し、今度は殺そうとするんだよね。
だったら最初に殺そうとすればいいはずで、1度目は何もせずに去った意味が不明。あと、施錠されていたはずなのに、どうやって入って来たのかと。

野田は「万引き男に暴行された時、亮太が取り押さえて助けてくれた」というのを取り調べで話すけど、それは回想シーンの挿入で初めて明らかにされることだ。彼女が無理心中で息子を亡くしていること、その息子が戻って来たのが亮太だと思い込んでいることも、そこで初めて明らかにされる。
劇中には、野田と亮太の関係性や犯行動機を示すヒントなんて何も無い。
それに、息子だと思い込んでいるなら、亮太が買い物に来た時、普通に客として対応するのは変だろ。
あと、「玲奈は向かいの部屋に住んで息子を誘惑していたから殺した」と言うけど、盗撮していることまでは知らないはずなんだし、ものすごく無理があるぞ。

事件解決の後で双方の素性が明かされるが、これも無理筋だわ。
アカネが私立探偵という設定はともかく、亮太の組織に雇われて監視していたという設定は、バカバカしさしか感じない。
アカネにしても、身辺警護の依頼を受けたのに、部屋に侵入してきたオバサンに簡単に殺されるって、あまりにもボンクラすぎるだろ。
亮太がアカネの素性について「ある意味、最初から(気付いてた)」と言い、その根拠として「モデル仲間ってのが嘘臭い」と言うが、これも無理があるわ。
そんなに鋭敏な推理力を、あの段階で発揮できるわけがないだろ。そんなに利口な人間なら、アカネを監禁するようなバカなことはやってねえよ。

(観賞日:2015年8月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会