『鴨川ホルモー』:2009、日本

二浪して京都大学に入学した安倍明は、天下を取ったような気分だった。しかし、そんなノリノリの気持ちも5月までしか続かなかった。 葵祭でエキストラのアルバイトを同級生の高村幸一と一緒にやる頃には目標を失い、やる気を失っていた。バイト代を貰って帰る途中、 2人は京都大学三回生の菅原真と竜造寺富子から、「京大青竜会」というサークルの新勧コンパに誘われた。何のサークルかと尋ねると、 菅原は「ごく普通のサークルなので参加してほしい」と告げた。
1週間後、安倍は居酒屋「べろべろばあ」で開かれた新勧コンパに軽い気持ちでに参加した。彼と高村の他には、楠木ふみ、芦屋満、双子 の三好兄弟、松永、紀野、坂上が参加していた。高村のTシャツをバカにする芦屋の態度に、安倍は苛立った。楠木を見た彼は、大木凡人 のようなルックスだと感じる。そこへ遅れてやって来た新入生の早良京子を見て、安倍は彼女の鼻筋に強く心を惹かれた。
コンパには参加した安倍だが、入会する気は全く無かった。下宿へ戻る途中、安倍は泣いている早良と遭遇した。帰りの電車が無くて 歩いて帰ると彼女が言うので、安倍は「下宿が近くだから自転車を貸す」と申し出る。安倍は彼女を部屋に招き入れ、会話を交わした。 トイレに行っている間に、早良は寝てしまった。翌朝、安倍を覚ますと彼女はおらず、「私、青竜会に参加するつもり。ご一緒できると 素敵ですね!」という手紙が残されていた。
安倍は青竜会への入会を決め、高村を強引に誘った。部室に行くと、既に楠木、芦屋、早良、三好兄弟、松永、坂上、紀野が入会を決めて 集まっていた。菅原は新入生の面々を、保津川下りやピクニックに連れて行った。宵山当日の7月16日、新入生は新風館へ集合するよう 指示された。新入生たちが待っていると、菅原と上回生たちは揃いの浴衣で現れ、「付いて来てください」と歩き出した。
菅原たちが8時ちょうどに交差点で立ち止まると、立花美伽の率いる龍谷大学フェニックス10名、清森平の率いる京産大玄武組10名、 柿本赤人の率いる立命大白虎隊10名が現れた。各大学の会長は互いに名乗り合い、それだけで撤収した。全ての面々は「べろべろばあ」 へと赴いた。菅原たちは新入生に対し、神様たちを慰める夏の祭典、ホルモーの存在を語り始めた。4つの大学の学生たちがリーグ戦形式 で実施する競技、それがホルモーだ。
菅原たちは、「1人に100匹ずつの鬼が与えられ、手足のように操る。そのためにオニ語を覚える必要がある」と説明した。翌日から、 安倍たちはオニ語や振り付けなどの訓練を積む。第480代目会長・鈴鬼玄斎の模範演技ビデオも見せられた。そんな中、安倍は芦屋たち から納涼会の幹事を任された。高村に入会動機を尋ねられた芦屋は「色々とミラクルがあったんだよ」と言葉を濁し、チラッと早良に視線 を向けた。リーダー気取りの芦屋に、安倍は皮肉を飛ばして笑った。
4ヶ月が経過した12月8日、安倍たちは菅原の指示で吉田神社に集合した。そこで代替わりの儀が行われるのだという。一部は女人禁制 となっているため、楠木と早良は待たされ、男だけで境内へ赴いた。菅原と上回生たちは「伝統の舞を奉納する」と言い、歌に合わせて 踊り出した。上半身を脱ぎ、舞が終わると、女たちも境内に足を踏み入れた。安倍たちが振り向くと、鬼の群れが出現していた。
春が来て、第500代目京大青竜会の面々は2回生に進級した。女だから救援専門で戦えないことに、楠木は愚痴をこぼした。6月3日、 立命館衣笠キャンパスで初戦が開催されることになった。これまでは10連敗中だが、芦屋が圧倒的な戦闘力の高さを発揮し、勝利は目前と 思われた。だが、緊張した高村が全く役に立たないどころか失態をやらかし、敗北を喫してしまう。試合の後、安倍と芦屋は競技中の行動 を巡って殴り合いの喧嘩になり、高村は無言のまま姿を消した。
安倍の下宿を訪れた菅原は、隊を全滅させた高村には神からの懲罰が与えられることを語った。安倍は菅原に頼まれ、高村の暮らす寮へ 赴いた。すると、高村はチョンマゲ姿になっていた。驚く安倍に、高村は「両手が勝手に動いて、この髪型にした」と語る。その高村は 安倍に、かなり前から早良と芦屋が交際していること、みんな知っていることを聞かされる。ショックで下宿に閉じ篭もっていた安倍は、 高村から京産大との試合を9人で勝利したと知らされる。芦屋が大活躍し、ヒーローになったのだという。
安倍は脱会を菅原に申し出るが、「脱会は簡単じゃないし、復帰するまでオニが付きまとう」と告げられる。菅原は「芦屋と別のチーム やったら脱会なんて言わんな」と言い、第17条の規定を教える。定められた期限までに発議があった場合、チームを分割して競うことが 出来るというものだ。そのためには5人の賛同者を集める必要がある。そこで安倍は、高村に協力を求めた。楠木と三好兄弟も賛同し、 これで5人が集まった。
しかし菅原は安倍に、「店長からクレームが出た。地獄の線が抜けても知らんぞって」と述べる。直後、彼らは空に巨大な黒い物鬼が出現 するのを目にする。店長によれば、17条はホルモー精神から外れた規定であり、大きな災いをもたらすという。黒鬼の尻の穴に、地獄の エナジーが供給され続けているらしい。それを回避するには、17条に勝つしかないという。その夜、新チームのメンバーの部屋には、邪悪 なオニが出現した。各大学の会長たちが会議を開き、「開いてしまった尻の穴を塞ぐ必要がある。神々が納得するだけの極上のホルモーを 披露するしかないのでは」という結論に達した。そこへ安倍たちが現れ、京大青竜会内部で紅白戦を行いたいと申し入れた…。

監督は本木克英、原作は万城目学、脚本は経塚丸雄、製作代表は迫本淳一&北川直樹&木下直哉&内田康史&赤松智&久松猛朗&町田智子 &鈴木大三&尾越浩文、製作は野田助嗣、プロデューサーは矢島孝&野地千秋、撮影は江原祥二、編集は川瀬功、録音は中路豊隆、照明は 土野宏志、美術は西村貴志、VFXプロデューサーはクワハラマサシ、VFXスーパーバイザーは村上優悦、キャラクターデザインは 佐々木一樹、VFX/造形ディレクターは岡野正広、振り付けはパパイヤ鈴木、サウンドデザインは岸田和美、音楽は周防義和、 音楽プロデューサーは小野寺重之。
主題歌はBase Ball Bear『神々LOOKS YOU』 作詞・作曲:小出祐介、編曲:Base Ball Bear&玉井健二。
出演は山田孝之、栗山千明、濱田岳、荒川良々、石橋蓮司、パパイヤ鈴木、石田卓也、芦名星、佐藤めぐみ、甲本雅裕、笑福亭鶴光、 斉藤祥太、斉藤慶太、渡部豪太、藤間宇宙、梅林亮太、和田正人、趙民和、三村恭代、大谷英子、篠宮暁(オジンオズボーン)、 高松新一(オジンオズボーン)、OH-SE、中林大樹、澤武博之(KBS京都)、池田章宜、吉塚智彦、原野吉弘、小倉結輝、白江美佳、 植松翔平、荒木好之、三好淳志、加集剛、ドヰタイジ、宮地佑樹、浅野道啓、永井貴也、高橋俊樹、高橋愛子、山本志穂、豆ちほ、 豆はな他。


万城目学のデビュー小説を基にした作品。
監督は『ゲゲゲの鬼太郎』『犬と私の10の約束』の本木克英、脚本は『連弾』の経塚丸雄。
安倍を山田孝之、楠木を栗山千明、高村を濱田岳、菅原を荒川良々、店長を石橋蓮司、鈴鬼をパパイヤ鈴木、芦屋を石田卓也、早良を 芦名星、立花を佐藤めぐみ、2回生になった安倍たちが練習している場所に通り掛かる男を甲本雅裕、ホルモー解説者を笑福亭鶴光、 三好兄弟を斉藤祥太&斉藤慶太、松永を渡部豪太、紀野を藤間宇宙、坂上を梅林亮太が演じている。

とどのつまり、これを映画にしたことが失敗だったのではないか。
原作を読んだことは無いが、映画版を見た限り、この物語は必要な作業工程が多すぎる。
まず普通の青春モノのように始めて、そこから「実はホルモーで戦うために集められた」ということが判明する。
そのホルモーは鬼を扱う競技なので、独特なファンタジーの世界観に観客を馴染ませる必要がある。
また、ホルモーのルールを説明することも必要となる。
その後、試合の様子を描き、主人公たちがホルモーに慣れて成長する過程を描くことも必要だ。
それ以外に、恋愛模様もあるし、ホルモーに馴染んだところで波乱が起きるという展開も、それを乗り越える展開も入れなきゃいけない。
とにかく、やらなきゃいけないことが多すぎるのだ。

それらを113分で全て処理しようとしたら、ものすごく駆け足にならざるを得ない。
そういう事態を回避するためには、幾つかの要素を削ぎ落としたり、省略したりするための大幅な改変が必要となるはずだ。
例としては、いきなりファンタジーに突入して強引に観客を巻き込んでしまうとか、ホルモーのルールを簡略化するとか、恋愛劇を全て カットしてしまうとか、そういうことが挙げられる。
しかし、どうやら改変はしているものの、大枠としては原作の全体をフォローしようと努めたように見受けられる。
その結果、慌ただしくて薄っぺらく、粗の目立つ仕上がりになってしまったのではないか。

具体的に粗い点を並べていくと、まず安倍が入会するまでの経緯が無駄に長い。
帰り道に早良と会って、自転車を貸すと言い、下宿に上げて会話を交わし、彼女が寝てしまうという手順は無駄。
「一目惚れして、彼女の入部を知って自分も入部を決める」という風に、もうコンパの場面で入部までの手順を処理しちゃった方がいい。
その方が遥かにテンポがいい。
あと、安倍が鼻フェチで早良の鼻に惚れるという設定も、まるで意味の無いものになっている。

菅原たちに「鬼を操る競技があって、そのためにオニ語を学ばないといけない」と急に説明されても、それはバカバカしいだけで全く 信じられないような話だ。
しかし、なぜか安倍たちは、それに付き合っている。
早良という目当てがある安倍はともかく、他の奴らが練習に参加するのは全く理解できない。
また、芦屋が嫌々ながらも付き合っているのも理解できない。そんなに嫌なら辞めればいいだけだ。
「ホルモーへの好奇心に負け、誰一人として辞める者も無く」という安倍の語りが入るが、その語りには説得力が皆無だ。実際に鬼を 見せられたのなら好奇心も沸くだろうが、全く有り得ないようなバカバカしい話なんだから。

代替わりの儀で菅原ちが踊るのは「伝統の舞」なのに、レナウンのイエイエ娘を歌いながら楽しそうに踊るってのは、ただのデタラメに しか見えない。
そこに学生ノリとしてのバカバカしさは要らないのよ。
そこに必要なのは、「伝統の舞なのに、どこか滑稽」という踊りだ。レナウンの歌なんて、そんなに昔からあったわけじゃないん だからさ。
そこは「伝統」との乖離が大きすぎると、笑いにならないのよ。むしろ冷めた気持ちになってしまう。
あと、それを見ていた新入生の一部が楽しくなって踊り出すというのは無理がありすぎる。そこは、ただ唖然としているだけの方が自然 だろう。

鬼が登場した時点で、すげえ萎える。
だって、モロに「CGでござい」というキャラなんだもん。
もうちょっとデザインや映像の質感は何とかならなかったのか。
あと、一気に大勢が出現するより、最初は一匹、そこから増えていって、振り返ると大勢が集まっている、という表現にした方が いいよ。
それと、鬼を見た安倍たちが驚いたら、さっさと次のシーンへ移るけど、それは淡白だなあ。そこは、安倍や楠木が鬼に触れようとする とか、話し掛けるとか、何かしらのコンタクトを取るシーンが欲しい。

始まってから40分が経過して初めて鬼が登場し、47分まで全く競技のシーンが無いというのは、構成として失敗だろう。
安倍たちが参加するかどうかはともかく、彼らが1回生の間に競技のシーンを1つぐらい配置しておくべきだ。
そうしないから、開始から47分後まで全くホルモーが行われないというマズい構成になっている。
ホルモーのシーンが無いと、ルールや戦略の説明も出来ないのよね。

で、もう進級した途端に安倍たちが鬼を操るシーンがあるが、「最初は上手くいかなかったけど、練習して鬼が指示に従うようになり、 技術が向上する」という経緯がバッサリと削ぎ落とされているのよね。
そこは、むしろ削ぎ落としちゃダメなとこでしょ。
ダイジェスト処理でも構わないから、ズブの素人だった彼らの鬼を操るスキルが上達していくという過程は描写しないとダメでしょ。
あと、練習試合もやらないまま、いきなりホンチャンの初戦に挑むというのも、構成としてマズい。
練習試合なり、試合形式の練習なりのシーンを入れておけば、そこで「どんな風に試合が進行し、どんな戦術が用いられるのか」という 説明が出来るのに。それが無い上、試合が行われるシーンでも、ゴチャゴチャしているだけでルールが全く見えて来ない。戦略 シミュレーションの面白味も皆無だ。

楠木はともかく、三好兄弟が安倍の新チームに参加するのは、すげえ安易。
それまでに、兄弟が芦屋に不快感を抱いているような様子は無かったし。
しかも、安倍と高村が兄弟を説得するような工程も経ていない。
楠木にしても、勧誘するシーンは無い。ただ喫茶店で賛同者が来るのを待っているだけ。
いやいや、なんか努力しろよ。
「熱心に説得されたしな」と三好兄弟は楠木に説得されたことをセリフで喋っているが、全て「安倍が知らないトコでの他人任せ」じゃ ダメでしょ。

巨大な黒鬼が云々というのは、全く意味の無い展開にしか思えない。
黒鬼が部屋に現れても、そんなに怖いとは感じないし。何か危害を加えて来るわけでもないんだし。
あと、そんなことが無くても、どうせ芦屋たちと戦う構図は出来上がっているんだし、「神の怒りを鎮めるために」という名目なんて不要 でしょ。
「極上のホルモー」って、すげえアバウトで良く分からないし。
むしろ、そういう要素を用意したことで、「惚れた女をモノにした憎き野郎と戦う」という流れが消えてしまう。

っていうか、そもそも芦屋に対する敵対心って、そんなに無さそうなんだよな。
女と一緒にいるところへ芦屋が激怒して現れた時、「誤解だ」と弱々しく謝っているぐらいだし。
あと、紅白戦で安倍も高村もヘタレのままで、高村の隊は全滅、安倍も惨敗しそうになったところを楠木に救われるって、その展開は ダメだろ。
楠木がサポートするのはいいとして、安倍もちゃんと活躍させろよ。

(観賞日:2011年9月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会