『神様はバリにいる』:2015、日本

インドネシアのバリ島。照川祥子は崖の先に立ち、海へ身投げしようとしていた。そこへリュウという日本人がスクーターが現れ、「ここで死なれたら困るんだけど。日本の不動産でもあるでしょ、自殺したら地価が下がること」と告げる。祥子は苛立ちながらも、少し場所を移動して自殺しようとする。しかし、崖から海を見下ろすと、その高さが怖くなって卒倒してしまった。祥子は日本で婚活ビジネス会社を起業したが失敗し、多額の借金を背負っていた。おまけにバリ島に来て早々、子供にバッグを盗まれていた。
祥子が意識を取り戻すと、ホテルのような場所にいた。近くにはガラの悪そうな日本人男性がいて、祥子に「姉ちゃんみたいな旅行者が、日本人のイメージ悪うしとんねんで」と関西弁で告げた。そこへリュウが現れ、男に「アニキ、彼女の話、聞いてあげてくれます?」と述べた。祥子はアニキに勧められたワインを飲み過ぎて泥酔し、いつの間にか眠り込んだ。彼女が目を覚ますと、もう翌朝になっていた。祥子は全く覚えていなかったが、酔っ払った勢いで生命保険が降りないと大変だという事情までアニキに話していた。
アニキは頑固な態度を取る祥子に「死んだらええ。その代わり、金返してからな」と言い、ワインの代金が70万円することを教える。彼は「払えんなら、体を返してもらおうか」と告げ、祥子を大勢の女性と子供たちが住む豪邸へ連れて行く。アニキは祥子に、その邸宅を掃除するよう命じた。すぐに嫌気が差した祥子は逃げようとするが、リュウが「付いておいで」と言う。彼は祥子が自殺しようとした場所へ案内し、「この辺りは全てアニキが開発を手掛ける土地だから」と口にした。
祥子が驚いていると、リュウは彼女がホテルだと思っていたのがアニキのゲストハウスであること、邸宅もアニキの所有であること、他に何件もの豪邸を持っていること、30ほどの会社を経営していることを語る。超が付く大富豪だと聞かされた祥子は、アニキの豪邸へ戻った。「目的は何ですか。なんで私にあんな仕事させたんですか」と彼女が責めるように訊くと、「普段、経験でけへんことやれたやん。人生は色んな経験値の集積やねんで」とアニキは説いた。
祥子が「私はもう死ぬんです。そんな経験、必要ないんです。全て完璧にやって来たんです。でも不景気のせいで業績も上がらなくて。頑張っても報われないんですよ」と言うと、アニキは借金の額を訪ねる。八百万だと聞いた彼は、「安っ」と口にした。「勿体無いなあ。目の前に大金を掴んだオッサンがおって、そのコツ話したげようかなあと思とんのに、死ぬんや」と彼が言うので、祥子は「話を聞かせて下さい」と頼んだ。
祥子が初っ端から事業で成功する方法を質問すると、アニキは呆れながらも「世間の常識を徹底的に疑え」と説いた。なぜバリで暮らしているのかを問われたアニキは、「ええとこに気が付いたな」と笑った。彼は祥子を寺院へ連れて行って仏像を購入させ、毎日お祈りをするよう告げた。レストラン建設予定地から遺跡が出て工事が中止になっても、アニキは大笑いした。彼は祥子に、「人は必ず失敗する。そういう時、よっしゃ来たと叫ぶことを徹底すんねや。そうすると疫病神も寄って来られへんようになる」と語った。
アニキはつまらないダジャレを連発する男だったが、「ダジャレは新しい発想を生む」と言う。彼はレストランの女性店員に料金を超える紙幣を渡し、その場に居合わせた全員におごるよう告げた。クラブへ遊びに来ていたリュウは、杉田という日本人男性が祥子を捜している様子を目撃した。ヴィラの建設予定地へ赴いたアニキは、現場監督のアデに「ここで俺の夢、叶えられるんちゃうかな」と告げた。アデが賛同すると、アニキは変更の指示を出した。
アニキは小学生の子供たちが歩いている足元を見て「アカンなあ」と漏らし、祥子に「ちょっと寄り道すんで」と告げる。彼は小学校へ行き、子供たちにスニーカーをプレゼントした。彼は会社の研修として、バリ舞踊のショーに祥子を参加させた。それを見物していた杉田は祥子を発見し、バックステージへ乗り込んだ。リュウが来て「逃げろ、そいつは銃を持ってる」と叫んだので、慌てて祥子は逃亡帆を図る。しかし杉田が懐に入れていたのは指輪であり、祥子にブロポーズする目的でバリに来たのだった。
かつて杉田は、祥子がやっていた婚活ビジネス会社のお見合いパーティーに参加した。その時、受付をしていた祥子に恋心を抱き、今まで6度もプロポーズしていた。祥子は全く相手にしていなかったが、杉田は勝手に恋人だと思い込み、ずっと追い回していたのだ。アニキは話を聞いて祥子の仕事ぶりに疑問を呈し、失敗を原因を指摘する。またワインを飲み過ぎた祥子は憤慨し、「偉そうにウンチク語ってないで、さっさと成功の秘訣教えなさいよ」と喚いた。
アニキが「そうやって周りのせいにしてるから会社潰したんちゃうの?」と口にすると、祥子は「実際、周りのせいでしたから」と告げて立ち去る。後を追った杉田は、「僕と一緒に日本へ帰りましょう。今すぐ破産手続きをして、やり直すべきです」と告げる。彼は「アニキさんとは、もう関わらない方がいい。色々と聞きました。現地の由緒ある寺院を格安で買い叩いたとか、気に入った女性を片っ端から雇って邸宅をハーレム状態にしたり、現地の子供たちにお金バラ撒いて手懐けたり。あの人がやってるのは、成金の自己満足ですよ」と語り、「明日9時に、ネサダビーチホテルの前で待ってます」とチケットを渡して立ち去った。
アニキの豪邸へ帰ろうとしない祥子に、リュウは「良かったらウチ来る?」と持ち掛けた。リュウの家を訪れた祥子は、彼が眼科医だと知った。「どっかの成金と違って立派ですね」と彼女が言うと、リュウは「むしろ、どっかの成金の影響なんだけど」と口にする。リュウは祥子に、自分がバリで暮らすようになった経緯を話す。彼は7年前、卒業旅行で恋人の香奈とバリを訪れた。医師免許を取得し、父の病院を継ぐことも決まっていた彼は、すっかり調子に乗っていた。
リュウが屋外でシャンパンを開けようとした時、目の悪い花売りの少女にコルクを命中した。リュウは軽いノリで声を掛け、金を渡して済まそうとした。それを見ていたアニキはリュウを殴り付け、「そんな調子で金使うても、不幸しか買えんぞ」と説教した。彼はリュウが眼科医になると知り、子供たちを診察するよう頼んだ。楽しそうに遊ぶ子供たちの様子を見せたアニキは、「兄ちゃんが大枚はたいても、あの笑顔は買えん」と告げた。アニキのペースに乗せられたリュウは、バリに残ることを決めた。そしてアニキの会社を手伝いながら、ボランティアで現地の人々の目を診るようになったのだ。
祥子はアニキの意外な部分を知って驚きながらも、胡散臭いと感じていた出来事や杉田から聞いた情報について問い質した。するとリュウは、それらを全て否定した。アニキが走らせている馬車は、困っている老人たちを無料で乗せるためだった。アニキは損をするだけだと知りつつも、寺院の再建工事を格安で引き受けていた。彼は今も多く存在する失業者対策として何軒もの邸宅を建設させ、全ての家で多くのお手伝いさんを雇っていた。
翌朝、祥子は杉田に指定された場所へ行くかどうか迷い、アニキと過ごした出来事を振り返る。最終的に荷物をまとめてホテルへ行こうとした祥子だが、アニキから逃げ出したイグアナを捕まえてくれと言われる。彼に「ウチのイグちゃんも、まだテルちゃんにいてもらいたいみたいや」と言われた祥子は結局、バリに留まることを告げた。アニキは祥子に、「バリの人たちは何にでも感謝する達人やねん。そんで自分の不幸を人のせいになんか、絶対にせえへん。日本が失くしてしまったモンが、バリにはあんねん」と語った。
アニキは「それに気付かせてくれたんはバリや」と言い、祥子に自身の過去を話す。彼は初めてバリを訪れた時、ぬるいコーラを飲んだ。そこで冷たいコーラを売り始めて大儲けするが、近付いてきた男に金を貸し続けていたら一文無しになった。その男が「妻の手術が成功したが、返す金が無いから」と言い、土地の権利書を差し出した。そこはジャングルだったが、1年後に1億円で売れた。そのことを男に話すと、「半分はアンタの物だ」と告げられた。アニキは縁を感じ、恩返しとしてバリの人々を豊かにしようと決意したのだ…。

監督は李闘士男、原案はクロイワ・ショウ『出稼げば大富豪』(KKロングセラーズ)、脚本は森ハヤシ、製作統括は梅田一宏&白柳雅文&小西啓介、企画は梅田一宏、プロデューサーは宮前泰志&前田紘孝&安里公夫、ラインプロデューサーは鈴木大造、撮影は神田創、照明は丸山和志、録音は小松崎永行、美術は飯塚優子、編集は穂垣順之助&山本清香、音楽プロデューサーは金山淳吾、音楽は安達練。
主題歌は湘南乃風『BIG UP』作詞:湘南乃風、作曲:湘南乃風/Amin03。
出演は堤真一、尾野真千子、玉木宏、ナオト・インティライミ、菜々緒、Epy Kusnandar、Yusuf Riansyah、島田優々加、今野麻美、市橋正光、湯川尚樹、喜多條士、春海四方ら。


大学生の時に立ち上げたベンチャー企業が上手く行かず、失意の中でバリ島を訪れた時に出会った丸尾孝俊という大富豪に感銘を受けて弟子入りしたクロイワ・ショウの著書『出稼げば大富豪』を原案とする映画。
脚本は『キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』の森ハヤシ、監督は『体脂肪計タニタの社員食堂』『幕末高校生』の李闘士男。
アニキを堤真一、祥子を尾野真千子、リュウを玉木宏、杉田をナオト・インティライミ、香奈を菜々緒、アデをエピー・クスナンダールが演じている。

かなり早い段階で感じたのは、「なんで主人公を女性にしちゃったんだろう」ってこと。実際にアニキと出会って感化されたのは男性なわけで、そのままでいいんじゃないかと。br> 「映画には女っ気が必要でしょ」というハリウッド的な考えが働いたのかもしれないけど、だとしても、そこに配置しなくていいわ。アニキに感化される主人公が惚れる相手とか、そういうポジションに据えればいい。br> 実は主人公を女性にしたことって、この映画において一番のダメージなんじゃないかとさえ感じるよ。同じ内容で、主人公を男に変更するだけでも、かなり印象が変わって来ると思う。br> ぶっちゃけ、尾野真千子と玉木宏を入れ替えるだけでも、随分と良くなりそうだわ。

冒頭、思い詰めた表情の祥子が崖の先に立っている。今にも飛び込みそうな様子を写す中で、寂しげなBGMが流れている。
そこへリュウが現れ、「ここで死なれたら困るんだけど。日本の不動産でもあるでしょ、自殺したら地価が下がること」と軽い口調で注意する。
この時点で映画はシリアスモードから切り替わっているはずなのに、同じBGMが流れ続ける。
ガラリと雰囲気を変えるためにも、リュウが声を掛けた段階でBGMは止めた方がいいでしょ。彼が軽い口調で注意した段階で、「そこからコメディー調になるんだな」ってことは観客にもハッキリと伝わるはずだし。

祥子が少しだけ場所を移動し、飛び降りようと下を見たら高さにビビって卒倒する展開になる。で、その展開になるとコミカルなBGMが流れ始め、彼女が日本で仕事に失敗し、バリ島で子供にバッグを盗まれた時の回想シーンが短く挿入される。
それはコミカルに切り替えるタイミングを間違えていると感じるぞ。
「ビビって卒倒する」というタイミングで一気にコミカルモードへ転換したいのなら、リュウが前述したような台詞で話し掛けるのは邪魔になる。
それは緊張の線を断ち切ってしまうわけで、せっかく緩和に向けてネタ振りをしたことが台無しになるでしょ。

っていうか、そもそも祥子に声を掛けるのがリュウという時点で、「なんでやねん」と言いたくなるわ。
「自殺を図った祥子が出会う」という形を取るなら、その相手は彼女にとって人生を大きく変化させる重要な存在であるべきで。
つまり、そこはリュウじゃなくてアニキにすべきでしょ。
そういう諸々を考えると、「祥子が自殺を図る」→「そこまでの経緯を短く説明する」→「いざ飛び降りようとしたら高さにビビって卒倒する」→「気が付くとゲストハウスにいて、アニキと出会う」という形にでもした方がいいんじゃないかと。

祥子が卒倒すると、モノローグが入るようになる。
だけど、そのタイミングでモノローグをスタートさせるぐらいなら、冒頭から入れた方がいい。卒倒したトコから始める意味が無いし、中途半端だ。
っていうか、そもそもモノローグって要るかね。無い方がスッキリするように思えるぞ。
心情を全てモノローグで説明するのは不細工だし、それによって笑いやリズムが生まれるわけでもないし。しかも、ゲストハウスのシーンだけでモノローグは終わっちゃうので、それはそれで中途半端だし。

「アニキの言葉が人生の指南になる」ってことを見せたいようで、アニキの祥子に対する助言や進言が幾つも盛り込まれている。
例えば、「学校で教えてくれることは丸飲み、周りの目を気にして右へ倣え。完全にペンギンの集団行動や。ペンギンかってホンマは空飛ぼうと思ったら飛べんねん。飛ばれへんいう常識で、いつまでも地面をウロウロしとんねん。常識を徹底的に疑え」といった感じだ。
ぶっちゃけ、特に唸るような言葉は無い。
どこかで聞いたような、ごく平凡なアドバイスばかりだ。

もちろん、どこかで聞いたような言葉だからといって、必ずしもダメってわけではない。相田みつを先生の言葉で感動する人だって、世の中には存在するわけだからね。
そこに観客の心を動かしたり、映画を引っ張ったりする力が備わっていないのは、単純に見せ方の問題だ。
意外性の乏しい指南の言葉を、浅薄なドラマの中に盛り込んでも、それが心に突き刺さることは無いのは当然だ。
だから、もっと指南の言葉を減らしてもいいから、アニキの行動に深みを作って、その上で喋らせる手順を踏むことで、その言葉に重みや説得力を持たせた方がいいんじゃないかと思ったりもする。

アニキの行動よりも指南の言葉ばかりがやたらと先行し、ウンチクばかりで中身が伴わない形にしているのが意図的なんだろうってのは、何となく分かる。
それによって祥子に「口先だけで信用できない」と感じさせて、その上で「実はアニキがこういう人で」ってのを彼女が知ることで気持ちに変化が生じる展開にしたいんだろう。
でも、その目論見は無残にも失敗しており、最後までアニキは薄っぺらくて魅力の乏しいオッサンにしか見えない。
「なんだか良く分からんが、バリで成功した金持ち」というだけに留まっている。

しかも、「祥子がアニキの素晴らしさを知る」という手順に入っても、そこから振り返って「あの時の指南は、そういうことだったのか」「言葉だけじゃなくて、経験に基づいていたのか」と感じさせてくれる形になっていない。
だから、どっちにしても狙いは成功していない。
っていうかさ、祥子が杉田からアニキに関する情報を吹き込まれて今までの出来事を振り返っている時点で、こっちは「その情報は全て間違い」ってことを分かっているわけでね。
だから、その仕掛け自体が何の効果も生んでいないのよ。

例えば序盤、豪邸へ案内された祥子は「一夫多妻制の国だから、アニキが大勢の女をはべらしている」と思い込むんだけど、その直後に誤解を解く手順を入れるのかと思いきや、そのまま話を進めている。
ヴィラの予定を変更するシーンにしても、そこを子供たちのための施設にするつもりってのはバレバレなわけで。
そういうのを謎にしたまま引っ張りたいのなら、アニキが奉仕精神を見せるシーンは一切見せない方がいいでしょ。
平然と見せた上で、「それは地元の子供を手懐ける目的だったり、成金の自己満足だったりする行動」と杉田に説明させても、それが間違いであることは一目瞭然なわけで。
だから、そういうのを全く見せないで、いかにもインチキで怪しいオッサンに見せ掛けておかないと、「実は」という仕掛けが死んでしまう。

リュウが祥子に自身の過去のことを語るシーンは、「アニキに対する祥子の印象が変わる」ってのを表現するための手順だ。
だから、そこは「いかにアニキが素晴らしい人物なのか」ってのをアピールする内容にしているつもりなんだろうけど、簡単に感化されているリュウも含めて、なんか安っぽくて浅い。ちょっと感動させようとする匂いも漂って来るけど、むしろ冷めるわ。
あと、リュウが「馬車は無料で老人たちのために走らせている」とか「寺院は格安で再建工事を請け負った」などと話しても、「まあ、そうだろうね」と冷めた気持ちで受け取るだけになってしまう。ほぼ想定内のネタバラシでしかないからだ。
アニキの説明でヴィラの予定地に幼稚園を作ることを祥子が知るシーンも、同様のことが言える。

アニキがバリで暮らす理由について、回想を使って説明するシーンがあるけど、これも全く心に響かないし、アニキの魅力を引き出すことにも繋がっていない。
っていうか、リュウがアニキと出会った頃を語るシーンもそうなんだけど、「こういう理由です」「こういう事情です」ってのを説明すればするほど、話が陳腐に感じられるという困った事態に陥っているぞ。
だからって何も説明しなかったら無駄に謎が残ってしまうわけだが、本人の口から台詞で一気に説明させるってのが格好悪いことになっているんじゃないかと。

後半に入って本人やリュウの台詞を使い、アニキの人となりが説明されても、やっぱり説教臭い指南の言葉が心に突き刺さることは無い。
例えば「目先のことばっかり考えて、自ら不幸になっとる日本人や。ぬるま湯に浸かっとらんと、冷たい水に浸かるんや」と熱く説かれても、自己啓発セミナーの講師みたいな胡散臭さが強すぎる。
つまり、最初に「胡散臭い人物」と見せ掛けておいてからの「実は」という仕掛けが上手く機能しておらず、人となりを説明した後も「やっぱり胡散臭い」ってことになっているわけで。
だから当然のことながら、最後まで「アニキは立派な人物だ。その言葉は心に響くし、付いて行きたい」とは感じさせないわけで、厳しいわなあ。

(観賞日:2016年3月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会