『神様のパズル』:2008、日本

穂瑞沙羅華は17歳で超巨大加速器“むげん”を考案し、海外のニュース番組で取材されていた。むげんは素粒子を生成してビッグバン直後 を再現することの出来る装置だ。沙羅華はサンフランシスコ生まれで父親を知らず、人工授精で誕生した。幼い頃から物理や数学に才能を 発揮し、12歳でカーネギーメロン大学に入学した。卒業後は博士課程に進学し、在学中に書いた論文が日本で採用されることになったため 、それに合わせて日本に帰国した。彼女は今年の秋以降、むげんを正式に稼働させるつもりだ。自分のルーツについて問われた彼女は、 日本でもアメリカでもなく宇宙だとコメントした。
寿司屋「清ふじ」でアルバイトをしている綿貫基一が、出前から戻って来た。店のテレビでは相撲中継が写っていたが、彼はチャンネルを ロックバンドのMTVを変えて、大将の権田原に怒鳴られた。その夜、基一は双子の弟である喜一から、「代返だけでいいから」と大学の 講義に出席するよう頼まれる。喜一は女を追い掛け、南の島へ旅行に行くことを決めたからだ。喜一は「こんな感じの写真とか置いて みたりして。今、フリーらしいよ」と、基一が片思いしている大学の同級生・白鳥の写真を見せた。
軽い気持ちで講義に出席した基一だが、当然のことながら、授業の内容は全く理解できない。ゼミの聴講生・橋詰老人に興味を抱いた彼は 、休み時間に声を掛けた。講義を取っている理由を尋ねると、橋詰は1年前に妻を亡くし、「ここはどこで自分か何なのか」ということが 気になったのだと答えた。彼が「宇宙が無から偶然に出来たとしたら、人間にも作れるんですかね」などと小難しい質問をするので、基一 は困惑して返答に詰まった。
素粒子物理学の鳩村教授が現れ、基一へ部屋に呼んだ。彼女は合コンに人を呼ぶのが得意だという喜一の噂を聞き、「ゼミに引っ張って 来て欲しい生徒がいるの。白鳥さんが、貴方なら上手いこと言って引っ張り出せるかもって」と基一に言う。引っ張って来て欲しい生徒 とは、沙羅華のことだった。ゼミに出席しなくても卒業は出来るが、鳩村は他の生徒と同じ条件で卒業させたいのだという。基一は喜一に 電話を掛けてみた。すると喜一は失恋して放浪の旅に出ることを話し、「ゼミはどうでもいい」と口にした。
基一が沙羅華の家を訪れると、母親は暗い様子で娘の部屋をノックし、「どうぞ」と告げて去った。基一が入ると、沙羅華は背中を向けて パソコンに向かっていた。無表情の彼女から物理に関する質問をぶつけられ、基一は動揺しながら話を逸らす。基一はゼミでの研究テーマ について問われ、「しいて言えば、宇宙の作り方とか」と答えた。沙羅華は「ちょっと面白い」と言い、作業の手を止めた。
翌日、基一はゼミに出席するため大学を訪れた。友人の佐倉に喜一ではないことを見抜かれ、彼は「内緒にしておいてくれよ」と頼んだ。 基一は白鳥に挨拶されて浮かれた。その白鳥は、院生の相理にチラッと視線をやった。相理は鳩村研究室の助手を務めている。基一は 素粒子物理学研究室へ行き、ゼミに参加した。研究テーマについて鳩山から問われ、彼は「宇宙の作り方なんてどうかと」と言う。そこへ 沙羅華が現れ、「僕もそれで行きたいです」と告げた。相理が「宇宙を作るなんて」と呆れると、沙羅華は「不可能だと言い切れますか」 と反発した。微妙な構造によって宇宙が作られていることを説明する相理に対し、沙羅華は高度な知識で冷静に反論した。
鳩山は「面白いじゃないの。「宇宙が作れるかどうか、ディベート形式でやってみるのはどう?」と提案した。彼女は「勝った側には単位 を与えて、負けた側には与えない。来週の1回目は、宇宙論の概論を基一君から」と述べた。だが、基一はディベートのために宇宙論を 勉強する気など全く無かった。いつものようにアルバイトへ出向こうとした基一だが、清ふじで爆発事故が発生する。しばらくアルバイト が出来なくなる中、基一は鳩山が「むげんの下の方にある田んぼでアルバイトを募集している」と言っていたのを思い出した。
基一が喜一の部屋で休んでいると、母親から電話が掛かって来た。母親は基一を喜一と勘違いしたまま、「同じ双子で、どうしてこんなに 違うのか。基一はどこに出しても恥ずかしいもの」と口にした。基一は意地になって「宇宙論をマスターしてやろう」と燃えるが、全く 理解できない。そこで彼は教えを乞うため、沙羅華の元へ赴いた。しかし初歩的な段階から、まるで理解できない。インフレーションに ついて基一が尋ねると、沙羅華はベートーベンの『運命』を例えに出して説明した。
基一とゼミの生徒たちは、むげんの見学に訪れた。ついでに基一は、バイト先へ挨拶に行くことにした。山田という農家の老婆が一人で苗 を育てており、橋詰もバイトに来るという。基一は沙羅華から、ヴァーチャルでプログラムを作っているので見てほしいと頼まれた。彼女 はアダルトサイトを立ち上げるのにエロ画像を拾い集めたが、どんなのが男心にヒットするのか分からないので教えてほしいのだという。 沙羅華は世界中のパソコンからメモリーを借りるために、そのサイトを利用するのだという。
最初のディベートの日になり、基一は覚えたての知識を駆使して宇宙論を語る。沙羅華が厳しい口調で相理を論理的に追い詰めると、白鳥 が「話が早すぎるから」と彼に助け舟を出した。ディベートの後、基一は佐倉から、相理が白鳥と付き合っていること、その前は沙羅華に 言い寄っていたことを知らされた。基一は橋詰と共にバイトを始め、白鳥たちは就職活動を開始した。基一は「俺は広い宇宙の中で何を する、何が出来る?」と自問自答した。
その頃、マスコミはむげんの運用延期に関連し、沙羅華を厳しく批判するようになっていた。沙羅華は引きこもってゼミに出て来なく なった。そんな中、ゼミ生の須藤は基一と佐倉を呼び、ネットに投稿された盗撮ビデオを見せた。それは沙羅華が宿舎の風呂に入るため、 脱衣場で服を脱いでいる盗撮映像だった。合同合宿の時に撮影されたものだ。基一は、不審な動きをしていた学生がいたことを思い出す。 彼は大学に乗り込み、その男に殴り掛かった。そこへ体育会系の学生たちが駆け付け、基一に激しい暴行を加えた。
沙羅華から「また訊きたいことがある」という電話が入り、基一は彼女の部屋に行く。すると沙羅華は、パソコンでのシミュレーションが 上手くいかないことを打ち明けた。「プログラムの外枠は出来たはずだし、メモリは足りているはずだ。無から有が出来た。その時に対に なるという形式が生まれた。分離させた力は何だ。どういう風に働いたのだ」と、彼女は深い悩みを吐露する。「その内、分かんだろ。 天才なんだから」と軽く言う基一に、彼女は「僕は天才なんて一度も言ったことは無い!」と怒鳴り散らした。
沙羅華が「僕は何のために生まれた?」と言うと、基一は「こんな薄暗い所に一人でいたら寂しくなるだろうが」と告げ、彼女を強引に外 へ連れ出そうとする。沙羅華は基一の腕を引き離し、「思い付きを口にするのは構わないが、分かった口を利くのはやめてもらいたい。 帰れ」と追い払った。大型の台風が接近する中、基一は山田の家にいた。家の中には、死んだ主人の形見である縄文式土器が幾つも置いて あった。その土器にある渦巻き模様を見た橋詰は、「今の我々とは全く違う風に世界を見ていたんでしょうね」と口にした。
基一は心の中で、「回る。色んな物がグルグル回る。みんな生きてる。台風も、地球も、銀河も、素粒子も」と述べた。基一は沙羅華の 部屋に行き、「なんでみんなグルグル回ってんの?」と尋ねた。その言葉でヒントを得た沙羅華は、宇宙の作り方を思い付いた。ついに シミュレーションを成功させた沙羅華は、本当に宇宙を作り出すことにした。彼女はむげんをジャックし、外線を遮断した…。

監督は三池崇史、原作は機本伸司『神様のパズル』(ハルキ文庫刊) 、脚本はNAKA雅MURA、エグゼクティブプロデューサーは角川春樹、 製作は山本英俊、プロデュースは大杉明彦&遠藤茂行、プロダクション監修は伊藤満、プロデューサーは松井一浩&川崎隆、監修は 苫米地英人、撮影は柳島克己、編集は島村秦司、録音は小原善哉、照明は渡辺嘉、美術は内田哲也、ビューティー・ディレクターは 柘植伊佐夫、音楽は鳥山雄司、音楽プロデューサーは石川光。
主題歌「神様のパズル」作詞:松本隆、作曲:マシコタツロウ、編曲:武部聡志、歌:ASUKA。
出演は市原隼人、谷村美月、石田ゆり子、若村麻由美、松本莉緒、田中幸太朗、岩尾望(フットボールアワー)、黄川田将也、國村隼、 六平直政、塩見三省、遠藤憲一、李麗仙、笹野高史、平山祐介、蜷川みほ、諏訪太朗、法福法彦、斉藤歩、井田國彦、藤間宇宙、 小島よしお、氏家恵、松本花奈、福士だいき、野村祐人、 安藤彰則、Candice Clark、大嶋守立、野口雅弘、今井久美子、宮島朋宏、真下玲奈、上原星矢、矢崎まなぶ、兼子和大、武石愛未、 須藤智彦、木村啓介、赤山健太、山中敦史、盛由子、金井茂、ハングリー西海ら。


第3回小松左京賞を受賞した機本伸司の同名小説を基にした作品。
基一&喜一を市原隼人、沙羅華を谷村美月、鳩村を石田ゆり子、沙羅華 の母を若村麻由美、白鳥を松本莉緒、佐倉を田中幸太朗、須藤を岩尾望(フットボールアワー)、相理を黄川田将也、むげんの責任者・ 村上を國村隼、権田原を六平直政、山田を李麗仙、橋詰を笹野高史が演じている。
監督の三池崇史と脚本のNAKA雅MURAは『46億年の恋』『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』のコンビ。

序盤、基一が寿司屋でテレビのチャンネルを変えるとRIZEの映像が流れ、「俺にはこれが必要なんすよ。天性のロッカーだから」と 言う。
まず「そんな時間帯にロックバンドのMTVが流れているのは変だな、CSにでも加入しているのかな」というところに引っ掛かるのだが 、それは置いておくとして、基一を寿司屋で働くロッカー青年にしている意味が全く感じられない。
それ以降の展開で、その設定が効果的に使われることは一度も無い。

基一に双子の弟がいる設定も、まるで意味が無い。喜一の存在意義は皆無と言ってもいい。
基一の中に、優秀で要領のいい弟に対するコンプレックスがあって、沙羅華との交流や様々な経験の中で解消されるというドラマがある わけでもない。
弟に成り済ますために奮闘したり、バレそうになってアタフタしたりという喜劇も無い。
っていうか、どうでもいいけど、双子に基一と喜一って付ける両親のセンスって、ちょっと変だよな。
どっちも「一」なのかよ。

優秀な双子を用意しておかないと、「おバカな基一が優秀な大学へ行く」という部分に無理が生じるってことかもしれないが、そこは何と でもなりそうなんだよなあ。
沙羅華とコンタクトさえ取れれば目的は果たせるので、大学に通う必要は無いんだし。
基一が沙羅華の前で物理学の生徒を偽る必要性も、まるで感じない。最初から「物理のことは何も知らない」と明かした上でコンタクト しても、何の支障も無いように思える。
「知らないけど知ったかぶりをする」というところに、喜劇としての充実は無いし。

っていうか、すぐに基一は「全く分からないから教えてくれ」と頼みに行き、物理オンチであることを沙羅華の前で明かしている。
そうなると、「大学のゼミに参加しなきゃ」というところからして、大幅に改編したらどうなんだろうか。
キャンパス・ライフってのが全く描かれていないし、そこに「青春物」としての色合いが無いし、極端に言えば大学が舞台である必要性も 感じないんだよな。

なぜ基一がゼミにまで出席するのかという部分がボンヤリしている。
「弟のため」というのは理由として弱い。そこまで弟のためにしてやる必然性が無い。
弟が自分で「ゼミはどうでもいい」と言っているんだし、難しいゼミに付いて行けないことは前日の講義で分かったはずだし。
「白鳥に会うため」ということなのか。でも、そうだとしても、それが伝わって来ない。
そもそも白鳥に対する恋愛感情の強さが描写として薄い。基一と白鳥の関係性が良く分からないし。
高校時代の同級生ってことなのか。

清ふじで爆発事故が発生してアルバイトが出来なくなった基一は、むげんの下の方にある田んぼでのバイト募集があることを 思い出す。
それって、「だから何?」という感じの展開だ。
そこは「田んぼのバイトのために、ディベートに参加しなきゃいけなくなる」という風に繋げているつもりなのかな。
だとしても分かりにくいし、こじつけが過ぎる。別に田んぼのアルバイトを選択しなくても、他にバイト先ぐらい見つけられそう だもんな。

ベタベタだけど、そこは例えば「白鳥から期待されて、彼女と親密になるためにゼミに参加し続ける」という流れにするとか、そういう形 にでもすりゃあ良かったんじゃないの。
冒頭で基一が白鳥に惚れている設定が示された割りには、そこの恋愛感情って、物語を転がす上で、そんなに有効活用されていないん だよな。正直、「別に無くてもいいんじゃね?」という程度の扱いになっている。
その後で「母からバカにされて奮起し、宇宙論を覚えようとする」という展開があるけど、前述した「田んぼのバイトのためにディベート に参加しなきゃいけなくなる」という筋も何となく見えているだけに、なんかギクシャクした感じになってしまう。
どっちの理由でディベートに参加する気になったのか、ボンヤリしちゃうんだよな。
まあ、どっちにしても苦しいものは感じるんだけど。

基一が盗撮犯を殴りに行き、学生たちにボコボコにされる展開があるが、そのシーン、何の意味があるのか全く分からない。
それが沙羅華の引きこもりに関連しているわけではないし。その盗撮映像を沙羅華が利用してアクセスを稼いだことが示されているけど、 そんなの別に無くても構わないし。
その事件に関連して相理が動いていたことが終盤になって分かるが、そこで彼がおかしくなっちゃうのも、伏線がゼロとは言わないが、 それでも唐突で違和感が強いし。

私はハクション大魔王と同じぐらい、数字にゃ泣けてくるタイプの人間なので、物理に関する知識は著しく低いし、興味も全く 沸かない。
そんな人間からすると、もう前半で精神的な疲労に襲われる。
沙羅華が物理の理論を基一に説明しているところで例えを出しているんだけど、それでも厳しい。
そもそも「理解しよう」という風に、頭が働いてくれないのだ。
アレルギー反応が出てしまい、与えられる情報を取り入れることを、頭が拒絶してしまうのだ。

それに、沙羅華が説明するシーンにしても、基一が宇宙論を語るシーンにしても、正直なところ、物理学の情報をそのまんま説明している ようなものであって、素人でも興味が沸くような例えになっているとは感じない。
ディベートのシーンも、ホントに物理に関する知識を披露しながら話し合っているだけなので、ホントに疲れる。
「サルでも分かる物理学教室」になっているとは感じないんだよな。

そんなわけだから、物理嫌いの人間には、ちょっと厳しいものがある映画だと思う。
ただし、じゃあ物理好きの人間が満足できる映画に仕上がっているのかというと、それも厳しいと思う。
というのも、どうやら三池崇史とAKA雅MURAは物理が得意ではなかったようで、物語が後半に入ると「うわあ、もう物理なんて分から ないよ」となっているのが良く分かる。
完全に投げ出しているもんな。

終盤、むげんをジャックした沙羅華の前にギターを持った基一が現れ、ロック・ヴァージョンの『歓喜の歌』を歌うというメチャクチャな 展開がある。
「なんでマイクスタンドが事前に用意されているんだ、なんでアンプも無いのに大音量でギターの音が流れるんだ、どこにも リズムマシーンなんて無いのにドラム音が流れるのは何なのか」など、色々と呆れてしまうのは、そこまでのシーンに、その手のデタラメ が全く無かったからだ。
そういうのをクライマックスでやりたいのなら、ちゃんと下地を作っておかないとダメでしょ。

あと、そういうデタラメっぷりもヒドいけど、基一の『歓喜の歌』を聴いた沙羅華が感涙するってのは、もっとワケが分からない。
どこに感動する要素があったのか。俺が彼女なら、ただポカーンとしちゃうけどね。
その後、自殺しようとする彼女を説得するために、基一が「寿司持って来たぞ、食ってけよ」と寿司を差し出すのもワケが分からない。
そもそも、基一がそこまで寿司に情熱を燃やしている設定なんて無かったでしょ。
沙羅華が寿司を好きだとか、逆に食べたことが無いから興味があるとか、そういう伏線があるわけでもないし。
そんで最終的に基一は「いつか宇宙最強の寿司を握ってやる」ということで寿司屋になる決意を固めるのだが、なんじゃ、そりゃ。
もうね、広げた風呂敷を上手く畳めていないと言うより、広げてもいない風呂敷をグチャグチャに丸めて捨てちゃった感じだよな。

(観賞日:2011年9月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会