『仮面ライダー1号』:2016、日本

タイのバンコク。本郷猛が食堂で夕食を取っていると、ギャングたちが現れて銃を突き付けた。彼らは痛め付けられた若い連中の報復に来たのだが、本郷は軽く叩きのめした。店を出た彼は、胸を押さえて苦悶する。落ちた財布の中には、セーラー服を着た立花麻由の写真が入っていた。天空寺タケルと御成、月村アカリが大天空寺でカラオケ対決を楽しんでいると、仙人が女装姿で勝手に参加した。シブヤとナリタが「町が大変な騒ぎに」と知らせたので、仙人以外の面々は大天空寺を出た。
ショッカーの怪人と戦闘員は町で麻由を発見し、捕まえようとする。そこへショッカーを離脱したウルガ、イーグラ、バッファルが、自分たちの戦闘員を引き連れて現れた。彼らは新しいショッカーを作ることにしたと言い、ショッカーと戦い始める。そこへ駆け付けたタケルたちは、敵が眼魔ではないことに困惑する。タケルはゴーストに変身し、戦いに参加する。ショッカー戦闘員が逃げる麻由を包囲したので、ゴーストやアカリが助けに入った。そこへ本郷が現れ、戦闘員と戦い始めた。
大天空寺へ戻ったタケルは、仙人から「新たな敵が出現した。古くからの敵、その名はショッカー」と教えられる。彼は「世界征服を狙う秘密結社だが、歴代の仮面ライダーに阻まれて活動拠点を移したと聞いている」と話し、仲間割れが起きていることを告げた。アカリは麻由が城南大学付属高校の制服を着ていたことを思い出し、タケルに潜入調査を指示した。ウルガ、イーグラ、バッファルは拠点とするビルに大勢の戦闘員を集め、ノバショッカーの設立を宣言する。
ウルガは世界征服というショッカーの目的を酷評し、「何の意味があるのだ。これから我々は巨大企業を目指して生まれ変わる。世界ではなく経済を征服する」と訴えた。ショッカー基地にいる幹部たちは、半分以上が裏切って離脱したことに苛立ちを隠せなかった。彼らは地獄大使の復活を目前に控えており、そのために麻由を捕獲して世界征服を達成しようと目論んでいた。タケルは教育実習の英語教師として城南大学付属高校に潜入するが、発音が悪すぎて生徒に呆れられた。
放課後、タケルから「聞きたいことがあるんだけど」と声を掛けられた麻由は、「バイトの後なら」と告げる。麻由は花屋でアルバイトをしており、その様子をタケルは見守る。ピンクのカーネーションをプレゼントされたタケルは大天空寺に戻り、「とってもいい子だったよ。あんないい子がショッカーに関わってるはずがないよ」と頬を緩ませる。「ちゃんと調べたの?」とアカリが言うと、タケルは「苦労してるんだよ。両親がいなくて一人で暮らしてるんだよ」と話す。
アカリは物理教師として学校に潜入し、アカリの様子を観察する。するとアカリの目が急に妖しく光り、「俺の体には高貴なる血が流れている。下がれ無礼者」と口にした。放課後、アカリが麻由と話そうとすると、ショッカー戦闘員が現れた。麻由は勇敢に戦い、アカリを連れて逃げようとする。しかしシオマネキングが立ちはだかり、麻由に「貴様の魂、貰い受ける」と告げる。そこへ本郷が駆け付けると、麻由は「猛」と口にする。
本郷は仮面ライダー1号に変身し、敵と戦い始める。駆け付けたタケルもゴーストに変身し、敵と戦う。1号はシオマネキングを倒して、変身を解いた。麻由は歩み寄った猛に平手打ちを浴びせ、その場から走り去った。タケルは猛を大天空寺を連れ帰り、会話を交わす。猛はタケルを見ただけで、既に死んでいることを悟った。「自分を守るために戦っているのか?」と猛が質問すると、深海マコトが来て「それは違う。そいつは人のために戦っている」と告げた。
アカリは猛に、麻由と会うことを勧めた。次の日、アカリは特別講義の先生として、猛を授業に呼んだ。麻由が当惑する中、猛は「命は尊い。君たちの命は、どうして生まれて来た?」と語った。放課後、麻由は猛と2人になり、自分を捨てたことを静かに責める。猛が「君の祖父である立花藤兵衛と約束をした。君が一人前になるまで、傍にいると」と話すと、「育てたら、それでいいっていうの?ずっと一人ぼっちだったんだから」と彼女は泣く。
猛が「傍にいさせてくれ」と言うと、麻由は「許すかどうかは、これからの猛次第ってことにしてあげる」と述べた。猛は麻由とデートに出掛け、楽しい時間を過ごす。猛が道路工事をする様子を密かに観察した麻由は、「お金も無いのに無理しちゃって」と呟く。そこへ若者2人が来て声を掛けると、妖しく目を光らせた麻由は人間離れした力で弾き飛ばした。猛は夜の遊園地へ出掛け、麻由が乗った観覧車に手を振る。しかしノバショッカーが電力を奪う装置を作動させて大規模な停電が発生し、観覧車も動かなくなってしまった。
ショッカーの幹部たちはノバショッカーの動きを知ると、「地獄大使が蘇ったら、ショッカーは再び栄光を取り戻す」と言う。3年前、地獄大使は幹部たちに「私の肉体は3年後に蘇る。その時が来たら、一人の娘を私に捧げるのだ」と言い残していた。猛は麻由に「飛べ」と叫び、飛び降りた彼女を受け止める。シブヤとナリタは1つだけ明かりが付いている建物を発見し、仙人は「敵のアジトに間違いない」と言う。タケルたちが出撃しようとすると、アカリは「本郷さんは?一緒の方が心強いと思うけど」と告げる。
タケルとマコトは猛の元へ行き、一緒に戦ってほしいと頼む。しかし麻由は「猛は今までずっと戦って来たんだから、もうダメ」と反対し、「行っちゃダメだよ。約束したでしょ」と猛に告げる。猛は笑顔で「ああ、約束は守る」と言い、タケルの要請を断った。マコトが「腑抜けに用は無い」と吐き捨てて走り去ったので、タケルも後を追った。2人がノバショッカー本部へ行くと、ウルガ 、イーグラ、バッファルが現れた。ウルガとバッファルが姿を変えると、タケルとマコトも変身して戦う。しかしダブルライダーキックを放っても、ウルガにダメージを与えることは出来なかった。
翌日、ウルガたちは首相官邸へ赴き、契約書にサインするよう迫った。首相が困惑していると、ウルガは「我々が供給する新エネルギーは、この国に今まで以上の発展をもたらす。それとも、歴史に汚点を残したいのですか」と脅しを掛けた。首相が契約したことで、日本中の電気は次々に復旧する。しかしウルガがノバエネルギーを全開にすると、各地でショートによる火事が発生した。猛が麻由と共に山小屋で過ごしていると、タケル、アカリ、御成がやって来た。タケルが「力を貸して下さい」と頼むと、猛は「答えは出たのか。なぜ命が大切なのか?」と問い掛けた。猛はタケルたちに、仕事を手伝わせた。
猛は急に胸を押さえて苦しむが、心配するタケルに「何でもない」と告げる。タケルが改めて「一緒に戦って下さい」と頼むと、猛は「なぜ、人に頼る?俺は大勢の仲間がいたが、人に頼ったことは無い」と言った直後に倒れ込んだ。ウルガたちは政府首脳から契約違反を非難され、「制御できなかったのは、そちらの技術不足でしょう」と軽く告げる。首相がエネルギーのストップを要求すると、ウルガは「それで何の解決にもなりません。我々の技術があれば、ノバエネルギーを制御することが出来ます」と説明して新たな契約書への署名を迫った。ショッカー基地では地獄大使が復活し、立花麻由の居場所を尋ねた。
猛は医者の診察を受け、タケルたちは「生きているのが不思議なぐらい」と告げられていた。タケルは麻由に、「本郷さんは体がボロボロだと分かっていたから会いに来たんだよ」と言う。翌朝、地獄大使が幹部と戦闘員を引き連れて山小屋へ現れ、タケルたちに麻由の引き渡しを要求した。猛はベッドから起き上がり、タケルたちと共に戦う。麻由が苦しむ猛を止めに出ると、地獄大使は彼女を拉致して逃亡した。猛やタケルたちが後を追うと、地獄大使は麻由を台座に寝かせて儀式を始めようとしていた。周囲には結界が張られており、麻由に近付くことは出来なかった。
麻由を狙う理由を問われた地獄大使は、「この娘の体には、偉大なる英雄の眼魂が眠っている」と答えた。彼は地獄で謎の男に「使命を果たせば生き返ることが出来る」と言われ、未完成のアレキサンダー眼魂を渡されていた。地獄大使はアレキサンダー大王を蘇らせようとするが、そこへノバショッカー軍団が現れた。ショッカー軍団のガニコウモルはノバショッカーのスパイで、居場所を知らせていたのだ。ショッカーとノバショッカーの戦闘が勃発し、ウルガはアレキサンダー眼魂を奪って合体する。
ウルガの放つ衝撃波を受けた猛は、命を落とした。その夜、タケルは麻由たちと共に、猛の遺体を火葬した。麻由は「もう泣かない」と気丈に呟き、タケルはノバショッカーへの怒りを口にした。ユルセンの知らせを受けたタケルは町へ行き、ゴーストに変身して敵と戦う。ウルガは力を制御できずに暴走を開始し、仲間であるイーグラを殺害する。一方、麻由が「なんで死んじゃったのよ。猛、帰って来て」と泣いていると、猛が炎の中から蘇った…。

監督は金田治(ジャパンアクションエンタープライズ)、特撮監督は佛田洋、アクション監督は竹田道弘(ジャパンアクションエンタープライズ)、原作は石ノ森章太郎、脚本は井上敏樹、企画は藤岡弘、、製作は鈴木武幸(東映)&平城隆司(テレビ朝日)&間宮登良松(東映ビデオ)&野田孝寛(アサツー・ディ・ケイ)&松田英史&(東映エージエンシー)&垰義孝(バンダイ)&木下直哉(木下グループ)&藤岡弘、(SANKIワールドワイド)、ジェネラルプロデューサーは矢津田佳広(東映)&林雄一郎(テレビ朝日)&加藤和夫(東映ビデオ)&波多野淳一(アサツー・ディ・ケイ)&竹内淳裕(東映エージエンシー)&小野口征(バンダイ)&小助川典子(木下グループ)&佐藤栄美理(SANKIワールドワイド)、スーパーバイザーは小野寺章(石森プロ)、エグゼクティブプロデューサーは佐々木基(テレビ朝日)&疋田和樹(東映エージエンシー)、プロデュースは白倉伸一郎(東映)&大森敬仁(東映)&高橋一浩(東映)&佐藤現(東映ビデオ)&古谷大輔(アサツー・ディ・ケイ)&矢田晃一(東映エージエンシー)&菅野あゆみ、撮影は倉田幸治、照明は斗沢秀、美術は大嶋修一、編集は大畑英亮、録音は畑幸太郎、整音は曽我薫、キャラクターデザインは田嶋秀樹&伊津野妙子(石森プロ)&小林大祐(PLEX)、クリーチャーデザインは竹谷隆之&島本和彦とビッグバンプロジェクト、音楽は中川幸太郎&鳴瀬シュウヘイ&坂部剛。
主題歌「レッツゴー!! ライダーキック - 2016 movie ver. -」作詞:石ノ森章太郎、作曲:菊池俊輔、編曲:渡部チェル、歌:RIDER CHIPS。
エンディングテーマ「それぞれの時」作詞:松井五郎、作曲・編曲:森正明、歌:野口五郎&高柳明音。
出演は藤岡弘、、西銘駿、大杉漣、竹中直人、岡本夏美、阿部力、長澤奈央、武田幸三、大沢ひかる、山本涼介、柳喬之、溝口琢矢、勧修寺玲旺、岩崎う大(かもめんたる)、槙尾ユウスケ(かもめんたる)、横光克彦、千十千、結崎あゆ花、西祐一郎、紫乃、リカヤ・スプナー、アドゥン・カナンシン、岡元次郎、高岩成二、渡辺淳ら。
声の出演は石井康嗣、悠木碧、関智一、飯塚昭三ら。


仮面ライダーシリーズ45周年記念作品にして、スーパーヒーローイヤー2016年スペシャルプロジェクト第1弾。
『スーパーヒーロー大戦』シリーズに近い作品だが、それとは別物として製作されている。
実際、登場する仮面ライダーは1号とゴースト、スペクターだけで、他の歴代ライダーもスーパー戦隊も出て来ない。
監督は『仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z』『仮面ライダー×仮面ライダー ゴースト&ドライブ 超MOVIE大戦ジェネシス』の金田治、脚本は『劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王』『仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE(コア)』の井上敏樹。

藤岡弘、は『スーパーヒーロー大戦』シリーズ第3作『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』でも本郷猛を演じていたが、主演としては1972年の『仮面ライダー対じごく大使』以来44年ぶり。
『仮面ライダーゴースト』からは、タケル役の西銘駿、仙人役の竹中直人、アカリ役の大沢ひかる、マコト役の山本涼介、御成役の柳喬之、シブヤ役の溝口琢矢、ナリタ役の勧修寺玲旺、ユルセン(声)役の悠木碧が出演。
地獄大使役は、『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』と同じく大杉漣が演じている。
他に、麻由を岡本夏美、ウルガを阿部力、イーグラを長澤奈央、バッファルを武田幸三が演じている。
総理役で横光克彦が出演しているのは、『特捜最前線』で藤岡と共演していた関係かもしれない。

東映の白倉伸一郎プロデューサーからオファーを受けた藤岡弘、は脚本にも参加しており、「企画」として表記されている。脚本に5ヶ月を費やしているが、ライダー映画としては長い製作期間と言っていいだろう。
藤岡が企画や脚本に関わったことで、彼の意見が強く投影される作品に仕上がった。
製作陣は藤岡よりも若いメンツばかりであり、彼に意見することが出来なかったのだろう。そもそも藤岡の機嫌を損ねたら企画が潰れてしまうので、イエスマンにならざるを得なかったのだろう。
その結果、これは「仮面ライダー1号の映画」ではなく「藤岡弘、の映画」になってしまった。

藤岡弘、は本郷猛(仮面ライダー1号)について、自分そのものだと思っているらしい。
そりゃあ、本郷猛を演じるのは、藤岡弘、以外に考えられない。他の役者が本郷猛の役で出演したり、仮面ライダー1号に変身したりしたら、「それは違うだろ」と文句を付けたくなる。
しかし、こっちが見たいのは「本郷猛を演じる藤岡弘、」であり、「本郷猛として仮面ライダー1号に変身する藤岡弘、」なのだ。
決して「藤岡弘、自身」ではないのだ。

この映画の主人公は、残念ながら本郷猛ではない。本郷猛を名乗る藤岡弘、だ。
本郷猛や仮面ライダー1号というキャラクターを借りて、自分のメッセージを声高に訴えようとする藤岡弘、こそが、この映画の主人公だ。
『沈黙の要塞』のラストシーンで環境保護について説教したスティーヴン・セガールと、やってることは大して変わらない。
藤岡弘、が本作品のオファーを引き受けた理由は、本郷猛を再び演じたかったからではなく、自分の主張を訴えたかったからなのだ。

この映画は冒頭シーンからラストシーンまで、違和感の連続となっている。
まず、オープニングではバンコクの食堂で本郷猛がギャングを撃退する様子が描かれる。しかし、それが本郷猛には全く見えない。
何しろ、彼がギャングに銃を突き付けられたのは、若い連中を痛め付けたのが原因だ。ショッカーを倒して世界の平和を守ることが猛の使命のはずなのに、なんでギャングの下っ端と戦っているのかと。
初っ端で猛の強さをアピールしたかったのは分かるけど、他に幾らでも方法はあったでしょうに。
最初に戦う相手がショッカーじゃなくてギャングって、どういうことよ。

舞台が日本に移ると、今度は「ショッカーとノバショッカーの戦い」が描かれる。つまり猛が倒そうとしているショッカーは、内輪揉めを始めるのだ。
もうね、チンチロリンのカックンだわ。
なんで敵を一枚岩にしておかず、そっちで勝手に抗争を勃発させるかね。
タケルは変身して戦いに参加するけど、そんな必要なんて全く無いでしょ。それは一般市民を襲っているわけじゃなくて、ワル同士が勝手に揉めているだけなんだからさ。放っておけばいいだけだ。麻由が捕まりそうになった時、初めて助けに入ればいい。

猛が麻由を捕まえようとする戦闘員の前に表れて戦い始めると、ウルガと対峙しているゴーストが「誰だ、あの人は?」と呟く。その直後、ゴーストはウルガの攻撃を受けて吹き飛ばされる。
そこから戦いがどうなるのかと思いきや、カットが切り替わると怪我をしたタケルは大天空寺でアカリと御成の手当てを受けている。
いやいや、どういうことだよ。
その直前の戦いは、どうやって終わったんだよ。敵を全滅させたわけではないんだから、逃げ出したってことなのか。それとも敵が退却したのか。どっちにしろ、タケルは猛と接触を図ろうとか、麻由と話そうとするはずじゃないのか。
その辺りもサッパリ分からなくなってるぞ。その省略は酷すぎるわ。

タケルはアカリの指示を受け、教育実習生として城南大学付属高校に潜入する。
「そんなに簡単に教育実習生を詐称して潜入するなんて無理だろ」とか、そういう指摘はやめておく。その程度のテキトーさは、ライダー映画では珍しくもない。
だけど、「そもそも教育実習生に化けて潜入する意味が無い」という部分に関しては、スルーしておくのは無理だ。
タケルの目的は、麻由に話を聞くことなんでしょ。そんなの、わざわざ潜入しなくても、放課後にでも彼女を待ち受けて声を掛ければいいだけでしょ。

麻由のバイトを見守っていたタケルはカーネーションをプレゼントされ、大天空寺に戻る。一応は話を聞いたらしいが、今度はアカリが物理教師として潜入調査に向かう。
その辺りの手順は、ほぼ時間の無駄遣いにしか思えない。
普通に接触し、普通にショッカーや本郷との関係を質問すればいいだけでしょ。それで返答を拒否されたら、改めて別の方法を考えればいい。
わざわざ正体を偽って潜入し、彼女に接触しようとする意味が全く無い。

猛が助けに駆け付けると、麻由は「タケシ」と口にする。
下の名前で、しかも呼び捨てかよ。
そこは「本郷さん」とか「猛おじさん」で良かったんじゃないのか。「ちょっと年上のお兄さん」とか、「近所に住んでいた幼馴染」とかじゃねえんだぞ。
っていうかさ、そもそも麻由が立花藤兵衛の孫という設定からして、違和感を禁じ得ない。
立花を演じていた小林昭二は、1930年生まれだぞ。その孫が高校生って、年が離れ過ぎだろ。

小林昭二の実年齢と立花藤兵衛の設定年齢が、かなり違うという可能性はある。
だけど、猛が「おやじさん」と慕っていた相手だ。つまり立花は猛にとっても、父親代わりみたいな人だったわけで。
その猛と麻由の年齢差からして、「祖父と孫」ぐらい離れているのよ。なので、猛が麻由の父親代わりという設定も違和感がある。
ひょっとすると、猛の設定年齢が藤岡弘、の実年齢と大きく異なるのかもしれない。
ただ、そうだとしても、それを含めての違和感だからね。

仮面ライダー1号のフォルムは、これまでと大きく違う。やたらとマッチョな体型になっている。
藤岡弘、の体が昔に比べて大きくなり、以前のフォルムだと不自然になってしまうため、そういうデザインになったのだろう。
ただ、フォルムを変えたことで「変身前と変身後の横幅」に違和感が生じることは回避されたが、それと引き換えに「見た目がカッコ悪い」という欠点が生じた。それだけでなく、「見た目がデブになったせいで、動きがモッサリに見える」という問題まで生じた。
そういう問題を考慮すると、前述の違和感があってもいいから、昔と同じサイズのスーツにした方が良かったんじゃないかと思うなあ。

大天空寺を訪れた猛は、タケルに「人の命を大事に思うのはいい。だが、なぜそう思う?」「命とは何だ?」「じゃあ宿題だな。なぜ命が大事なのか」などと言う。
明らかに本郷猛ではなく、藤岡弘、としての言葉だ。
この時点で既に説教臭さが充満しているが、それだけでは終わらない。
直後、猛が特別講義の先生として、麻由のクラスへ来るシーンが描かれる。黒板に「生命」と大きく書いた彼は、「命は尊い。君たちの命は、どうして生まれて来た?我々の命はなぜ生まれ、どっから来て何のために存在し、何をしようとしているのか」などと語る。
彼は人のエゴイズムが争いを生むのだと訴えるのだが、それは「藤岡弘、による特別講義」以外の何物でもない。

麻由から自分を捨てたことを非難された猛は、「君の祖父である立花藤兵衛と約束をした。君が一人前になるまで、傍にいると」と言う。
つまり、「もう麻由は中学生に成長し、一人前になったから離れた」ってことらしい。
いやいや、中学生の女子を一人ぼっちにするって、それは責められて当然だわ。それは「一人前になるまで傍にいる」というおやっさんとの約束を果たしたとは言えないだろ。
そんで帰国した猛は「これからは一緒にいる」と言うけど、なんで今になって戻ったんだよ。

麻由は猛を責めるものの、決して嫌っているわけではない。だから特別講義で生徒がザワザワすると、すぐに注意して猛の話を聞くよう促す。
「傍にいさせてくれ」と頼まれると、「許すかどうかは、これからの猛次第ってことにしてあげる」と言う。そして「私の言うこと、何でも訊いてくれる?猛がいなかった3年間、お祝いしてくれる?私の誕生日」と話し、一緒に出掛ける。
もうさ、それって完全に「ずっと離れていた恋人同士」の状態でしょ。
年齢差を考えると、すんげえ気持ち悪いわ。

猛と麻由が買い物をしたり、レストランで食事を取ったり、ゲームセンターで遊んだりする様子が描かれるが、まるで要らない。道路工事をする猛を麻由が密かに見るシーンも同様。
そういう「猛と麻由のロマンス」みたいな描写は、全て排除して構わない。っていうか完全に排除すべきだ。
これが「猛はおやっさんの孫娘を守ろうとして、麻由は父親代わりの猛を心配して」という関係を描くための描写なら、まだ構わないよ。
だけど、年が離れ過ぎたカップルの違和感たっぷりな恋愛劇でしかないわけでね。
猛が観覧車から飛び降りた麻由を受け止めるシーンがあるけど、それも取って付けたような印象しか無いし。

猛はタケルから力を貸してしほいと頼まれると、「ようやく出会えた麻由の笑顔だ。今はこの笑顔を失いたくない」と断る。主題歌に「世界の平和を守るため」という歌詞があるのに、彼は麻由との約束を優先する。
仮面ライダー1号としては、あるまじき選択だ。
しかも、せめて葛藤ぐらいしてくれりゃあいいものを、そこには何の迷いも揺らぎも無い。笑顔で「約束は守る」と麻由に言う。
マコトが吐き捨てるように、ただの腑抜けじゃねえか。
大体さ、「ようやく出会えた」とか言ってるけど、本人がその気になれば、いつでも会えたはずでしょ。テメエの身勝手で捨てておいて「ようやく出会えた」って、どの口が言うのかと。

ノバショッカー本部前でゴーストとスペクターがダブルライダーキックを放つと、ウルガに弾き飛ばされる。
絶体絶命のピンチだが、どうなるのかと思ったら、すぐにカットが切り替わる。そして翌日の首相官邸が写し出され、ウルガたちが契約を迫る様子が描かれる。
前夜の戦いは、どうなったんだよ。
ウルガたちは、ゴーストとスペクターを放置して去ったってことなのか。でも本部はバレているんだから、自分たちの邪魔をしようとする連中を野放しにしたらマズいだろうに。

猛は山小屋で麻由と暮らしており、タケルたちが来ると仕事を手伝わせる。
そんな緩和など、まるで要らない。そういうのを入れてもいいタイミングは、とっくに過ぎている。
敵は着々と計画を進めているのに、そんな「穏やかな生活」なんて描いて緊張感を失わせる意味がどこにあるんだよ。
そこに限らず、この映画は無駄なシーンがバカみたいに多すぎる。
ここまでの批評でも幾つか触れて来たけど、他にもバーでショッカー戦闘員が喧嘩を始めるシーンとか、山ほどあるからね。

山小屋で倒れた猛に、麻由は「寂しいからってワガママばかり言っちゃって、こめんなさい」と言う。
すると猛は、「俺はどこにいても、お前のことを忘れたことは無かった。遠い国で人を助けても、いつも心の中にお前がいた。人を助けることは、お前を助けることだったんだ。人はみんな繋がっている。 みんなで1つの尊い命なんだ。無数の星が、銀河を作るようにな。みんな一つだ」と話す。
ホントは感動的なシーンになるべきだろう。
だけど、「また特別講義かよ」としか感じない。

地獄大使がアレキサンダー眼魂を完成させようとしていると、ノバショッカーが来て戦いが勃発する。ここで猛やタケルたちも戦うが、その意味が全く無い。悪の組織が潰し合いをしているんだから、無駄に労力を使う必要など無い。
っていうかショッカーとノバショッカーが内輪揉めを繰り広げることによって、仮面ライダーの目的は「世界征服を狙う悪の組織から人々を守る」ということではなくなるのよ。「2つの組織の抗争に、一般市民が巻き込まれたり日本が脅かされたりすることを回避する」というのが目的になってしまう。
だけど本作品では、そういう状況に陥ることが無い。
っていうか、2つの組織の抗争を持ち込んだことで、「仮面ライダーVS悪の組織」という図式がボンヤリしてしまう。

ノバショッカーが日本のエネルギーを支配しようと企む中で、猛やタケルたちが阻止するために動くことは無い。そもそも彼らは、敵の計画を全く把握していない。
一方、ショッカーはアレキサンダー眼魂の完成を目論むが、それまでは「世界を支配するために暴れる」ってことが無い。なので、タケルたちが何のために戦うのか、誰と戦えばいいのか、良く分からない状態になっている。
おまけに終盤に入ると、「ウルガが暴走してイーグラを殺す」というノバショッカー内部での揉め事まで起きてしまう。
そういう悪の組織サイドのゴチャゴチャに手間と時間を掛けるんじゃなくて、もっと仮面ライダー側のドラマに力を入れようよ。

ウルガがアレキサンダー眼魂と合体して衝撃波を放つと、仮面ライダー1号は弾き飛ばされて猛の姿に戻る。で、猛は目を閉じたままで動かないのだが、それが「彼は死んだ」ってことなのだ。
だけど、「その一発で死んじゃうのかよ」と言いたくなる。
もちろん、既に力が弱っていて、そこまでにもダメージを受けていたよ。だけど、印象としては「衝撃波に巻き込まれて死んだ」ということになっているので、すんげえカッコ悪いのよ。
あと、そこでカットが切り替わってタケルたちが猛を弔うシーンになるけど、ショッカーとノバショッカーの戦いはどうなったんだよ。

猛が死んだ後でタケルが「絶対に許さない、ノバショッカー」と言うけど、もうショッカーは眼中に無いのよね。
そんでラストバトルでは、仮面ライダーが「ノバショッカーを倒す」という同じ目的で地獄大使と共闘する。
でも冷静に考えてほしいんだけど、ショッカーだって悪の組織だぞ。そしてアレキサンダー眼魂を使って、世界征服を企んでいたんだぞ。
地獄大使は「哀れな老人」として死去しているけど、すんげえ情けないわ。
猛に「体を労われよ」と同情される地獄大使なんて見たくないわ。

(観賞日:2017年5月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会