『海底大戦争』:1966、日本

米国海軍が開発した新型魚雷「猟犬」の実験が行われることになり、東日新聞社の安倍記者は恋人であるカメラマンのジェニーと共に潜水艦へ乗り込んだ。ブラウン中佐は集まった記者たちに、猟犬は記憶装置を持っていること、正確な分析データに基づいて目標を捕捉することを説明した。安倍は会見場の隅に原子灰処理センターのハワード所長がいることに気付き、何の目的なのかと怪訝に思う。
発射された猟犬は目標潜水艦に当たらず、安倍たちの乗った艦へ向かって来る。モニターに注目していた記者たちは、謎の人影が横切ったことに困惑する。記者たちから「あれは何だ」と詰め寄られたブラウンは「あれは恐らく水死体だ」と言い、一方的に会見を打ち切った。安倍はジェニーを連れてボートで海へ出ると、「なんでハワード教授は実験を見に来てたんだろう。原子灰処理センターでは世界中の原子炉の灰が集められ、実験場の近くの海域で2万フィートの所に捨てられてるんだ」と語る。
安倍とジェニーは実験場の近くの海に潜り、調査活動を行う。ハワードとブラウンは、その様子を監視していた。ハワードはブラウンに、「近頃、この周辺で奇妙なことが起こっている。夜中に誰かが島へ上陸しているらしい」と語った。ハワードは石膏で取った足跡をブラウンに渡すが、それは水かきが付いている奇妙な形をしていた。ジェニーは水中カメラを落としてしまい、海底へ取りに行く。ボートへ上がった安倍は、ジェニーが戻っていないことに気付いた。ジェニーはカメラを見つけて浮上しようとするが、奇怪な生物を発見する。ジェニーは撮影しようとするが、その怪物に叩き落とされる。怪物に襲われたジェニーは、慌てて逃げ出した。
ジェニーは体験した出来事をブラウンに語るが、まるで相手にしてもらえない。安倍はブラウンに「近頃、この海域では奇妙なことが起きている」と言い、1ヶ月ほど前に原子灰処理センターの近くで漁船が遭難し、全ての乗組員が消えたこと、、水かきの付いた奇妙な足跡が残っていたことを指摘する。ブラウンは「その足跡は潜水用の足ひれだ」と鋭く告げ、詰め寄る安倍を振り払って立ち去る。
安倍はブラウンが何か隠していると確信し、ジェニーと共にカメラを探しに行く。安倍とジェニーは海中で洞窟を発見し、奥へ進んでいく。そこに3匹の怪物が出現し、2人に襲い掛かった。安倍とジェニーが戻らないことを聞かされたブラウンは、捜索隊を差し向けた。海に潜った捜索隊は、ジェニーが落とした水中カメラを発見して戻った。
安倍とジェニーはガラスで覆われた部屋に拘束され、見知らぬ人々に脳波を調べられた。サングラスの男が部屋に現れ、安倍の頭脳を絶賛して「仲間として働いてほしい」と持ち掛ける。困惑した安倍が周囲を見渡すと、壁の向こう側には怪物の姿があった。ジェニーが撮影した怪物の姿を確認したブラウンは、潜水艦で捜索しようとする。しかし本部から中止命令が届いたため、艦長は帰島を決定した。
安倍とジェニーはサングラスの男から、ルハス・ムーア博士だと自己紹介される。「ここはどこなんだ」と安倍が声を荒らげると、彼は笑って外の様子を見せ、海面から3000フィートの深海だと教える。ムーアは「ここはワシの海底帝国だ」と言い、「人間の精神も肉体も、ある科学的な方法によって自由に変えられる。人間自身すらも、ある目的に適した特殊な人間に改造できるのだ」と語る。すぐに安倍は、あの怪物がムーアによって改造された人間だと悟った。
ムーアは彼に、「未来の帝国のために働いてもらいたい。世界の人々の魂を、君のペンと言葉で掴んでもらいたいのだ。我々の世界制覇のためにね」と告げる。安倍が拒絶すると、ムーアは「君たちは、まだ断った時の運命を知らん。それを教えてあげよう」と言い、彼とジェニーをオペ室へ案内した。そこで安倍とジェニーは、手術台に乗せられた人間が帝国の医師たちによって怪物に改造される様子を見せられた。
ムーアは安倍に「これがサイボーグと呼ばれる改造人間だ」と告げ、呼吸系統も皮膚組織も改造されていること、全ての記憶を取り去って新しい記憶が注入されていることを語った。命令は極超音波に変換された信号で行われているという。言葉は話さず、自分の意思は持っていないこともムーアは説明した。執刀医がマスクを外したので、安倍は彼が改造人間理論の発表者であるハイム博士だと気付いていた。ハイムだけでなく、帝国には世界中の優秀な科学者が理想実現のために集まっていた。
その夜、原子灰処理センターにいたハワードは3匹のサイボーグに取り囲まれた。ブラウンの乗った潜水艦は、原子灰の容器が大量に投棄されている場所を発見した。放射性廃棄物は海底2万フィートに投棄することが決まっていたが、そこは水深800フィート地点だった。放射能数値が高くて危険なため、すぐに潜水艦は離脱した。安倍はムーアの助手であるルイーザを気絶させ、扉の開閉スイッチになっているバッジを奪った。安倍とジェニーは脱出を図るが、その動きは全て監視されていた。2体のサイボーグに武器を向けられた彼らに対し、ムーアは部屋を出るよう促した。すると、そこにカプセルで捕獲されたハワードが運ばれてきた。
ハイムはハワードに、帝国では原子灰をエネルギー源にしていること、プルトニウム爆弾まで完成していることを語る。協力を要請されたハワードが断ると、ハイムはジェニーをオペ室へ連行して皮膚組織の改造を開始した。拘束された安倍が暴れようとすると、一味は麻酔で眠らせた。ブラウンたちの潜水艦が基地に接近したため、ムーアは気付かれないようにサイボーグを一時停止させた。ムーアはミサイルを発射するが、潜水艦に迎撃された。
ムーアは余裕の態度を崩さず、サイボーグを再び起動させた。彼はミサイルを連射し、潜水艦は必死に回避する。しかし原子灰の容器が 爆発した影響で、艦体は損傷した。急速後退を命じようとした艦長は海底基地を発見し、X4魚雷を発射しようとする。ブラウンは行方 不明の3人が基地にいる可能性を考え、魚雷ではなくシーウルフの使用に留めるよう説得する。艦長は聞き入れずにX4魚雷の発射を命令 するが、ブラウンは反発してシーウルフを発射した。海底基地では爆発が起き、サイボーグのコントロール装置が故障する…。

監督は佐藤肇、原案は福島正実、脚本は大津皓一、企画は亀田耕司&吉野誠一、撮影は下村和夫、録音は岩田広一、照明は森沢淑明、美術は江野慎一、水中撮影は(水中造形センター)館石昭、編集は祖田冨美夫、音楽は菊池俊輔。
出演は千葉真一、ペギー・ニール、フランツ・グルーバー、アンドル・ヒューズ、エリック・ニールセン、マイク・ダニーン、ビバリー・ケラー、ブラウン・ガンター、三重街恒二、菅沼正、室田日出男、山之内修、岡野耕作、水城一狼、富士あけみ、エンベル・アルテンパイ、ハンス・ホルグフ、ジョン・クレイン、ピーター・スミス、ブラウン・ケラー、カール・スィリング、比良元高、並木喜一、大竹直樹ら。


東映がアメリカのラム・フィルムと共同で製作したテレフィーチャー用の作品。
監督は『散歩する霊柩車』『怪談せむし男』の佐藤肇、原案は『マタンゴ』の福島正実、脚本は『空いっぱいの涙』大津皓一。
安部を千葉真一、ジェニーをペギー・ニール、ブラウンをフランツ・グルーバー、ハワードをアンドル・ヒューズ、ムーアをエリック・ニールセン、ハイムをマイク・ダニーン、ルイーザをビバリー・ケラー、潜水艦の艦長をブラウン・ガンターが演じている。

ビリングトップは千葉真一だが、彼の演じる安部という男は、基地で捕まっている時間が長い。
しかも、脱出を図って捕まり、また脱出しようとして、また捕まっている。
さすがに最後の最後だけは敵と格闘しているが、ブラウンが主役っぽいポジションにいる時間も少なくない。
まあアメリカのテレフィーチャー用に作られた映画であることを考えると、日本人じゃなくてアメリカ人の扱いを大きくするのは理解できなくもないけど。

冒頭シーンの描写が、良く分からない。
発射された猟犬は目標潜水艦に当たらず、安倍たちの乗った艦へ向かって来る。これはジェニーが「こっちへ向かって来る」と顔を強張らせて言っているので明らかだ。
ところが謎の人影が横切ると、記者たちの関心はそちらに移っている。
いやいや、魚雷がこっちへ向かっていたのなら、それを気にするべきじゃないのか。魚雷が命中したらヤバいはずでしょ。

で、魚雷はどうなったのかと思っていたら、しばらくして命中し、艦が激しく揺れている。
その程度で済むのかよ。だったら、そんな魚雷、大したことねえだろ。
それと、最新鋭の魚雷が目標に命中しなかったことも大きな問題のはずなのに、それは完全にスルーしちゃうんだな。しかも、それ以降、猟犬が使われることも、それに触れられることも全く無いし。
ひょっとすると、X4ってのは新型魚雷のことなのか。だとしたら、ちゃんと「猟犬」って呼ぶべきだし。

実験が打ち切られた後、安倍はジェニーを連れて海に出る。
てっきり、さっき見た謎の人影が気になって調査するのかと思っていたら、「なんでハワード教授は実験を見に来てたんだろう。原子灰処理センターでは世界中の原子炉の灰が集められ、実験場の近くの海域で2万フィートの所に捨てられてるんだ」と語る。
それに関連した調査活動なのかよ。
謎の人影よりもハワード教授がいたことに対する疑問の方がデカいのかよ。

ムーアが安部の脳波を調べ、頭脳が優秀であることを知って協力を要請する。
記者として海底帝国の存在を宣伝してほしいってことだが、むしろ宣伝なんてしない方が何かと都合がいいんじゃないかと思うぞ。
それと、宣伝活動に協力してもらうなら、もっと世界的に知名度の高いジャーナリストを選んだ方がいいだろ。
そもそも、安部が洞窟に入って来たのは偶然であり、「偶然にも頭脳の優秀な記者が来たから宣伝してもらおう」ってのは計画性ゼロで思い付きの行動なので、それもどうかと思うし。

ムーアは安倍とジェニーに「サイボーグの命令は極超音波に変換された信号で行われている」と説明するのだが、どうやっているのかというと、装置に付いているダイヤルを回して操作している。
そのダイヤルには「STOP」「WORK」「FIGHT」の表示しか無い。
つまり、その3つ以外の命令を出すことは出来ないってことだ。
そりゃあ「ある目的に適した特殊な人間に改造できる」とは説明していたけど、ムーアがサイボーグを作った目的って、「止まる」「働く」「戦う」という3つに特化した人間を作ることだったのかよ。

ムーアは「兵士として必要だ」とサイボーグを作った目的について語っているが、それなら肉体を強化する改造手術だけに留めておいた方がいいんじゃないか。
細かい指示に従わせることが出来ないってことになると、色々と大変だろうに。「戦え」という指示だけだと、誰とどのように戦えばいいのか分からんだろうに。
それにしては、阿部やハワードを襲って帝国へ連れ去っているけど、そんな細かいことが、あのスイッチだけで指示できるのかよ。
あのスイッチだと「働け」か「戦え」しか無かったはずなのに。

しかも、潜水艦が海底帝国に接近すると、「信号をキャッチされたら基地の場所が知られてしまう」ってことで、サイボーグを一時停止させなきゃいけなくなるんだぜ。
なんちゅう不便なシステムなんだよ。潜水艦が近付く度に、サイボーグが動かせなくなっちゃうのかよ。
しかも、そうやったにも関わらず、金属の異質反応をキャッチされてしまうというマヌケっぷり。それを受けてムーアはミサイル発射を命令し、「敵に気付かれます」と心配する手下に「気付いた時にはもう遅いのだ」と自信満々で言う。
だったら最初からミサイルを発射しておけば良かったじゃねえか。サイボーグを一時停止させた意味なんて全く無いだろ。

後半、艦長がX4魚雷を発射しようとすると、ブラウンはシーウルフ発射ボタンに近付いて「基地のミサイル発射口だけを破壊するんだ」と言う。
「シーウルフでも3人は死ぬかもしれん。同じことだ」と艦長が告げると、「そうだ。俺がこのボタンを押しただけで3人は死ぬかもしれん。しかしシーウルフはX4より助かる可能性が遥かに大きいんだ。おれは その可能性に賭けて、どうしてもシーウルフを発射するんだ」と痛ましく語る。
正義感に溢れるヒーロー的行動に見えるけど、でも安部たちが死ぬかもしれない行動ではあるんだよな。
そこは3人が死なないような行動を選択しないとマズいんじゃないのか。

「サイボーグ」と呼ばれている怪物は、見た目は完全に半魚人。だから、たぶん水中での行動に適した改造手術が施されているはずだが、実際に行動するのは陸地や基地の中なので、半魚人にしている意味が全く無い。
「陸と行き来する際は潜水服もアクアラングも使わずに泳ぐことが出来る」という利便性はあるだろうけど、それって改造してまで会得させるほどの機能でもないでしょ。
そりゃあ海底帝国は深海だから、普通の人間が潜水服やアクアラングを使って陸地と行き来することは無理だろうから、そういう意味で必要性があるってことなんだろう。
だけど、「潜水艦で浮上し、陸地で科学者を拉致して戻ってくる」ということでもいいんじゃないかと思っちゃうし。

そんな半魚人は、何しろ「STOP」「WORK」「FIGHT」の3つしか命令が無いんだから、労働と戦闘に特化した能力を改造手術によって会得しているはずなのだが、安倍やハワードを捕まえる時には取り囲んで掴み掛かるだけだし、基地で狂った時には拳銃を発砲するだけ。
しかも、銃弾を何発か食らうと、あっさりと死んでしまう。改造人間なのに、あまり強くない。
海中での優位性を発揮することも無いので、わざわざ改造して見た目もガラリと変えて、その程度なのかよ、と思ってしまう。
おまけに、最後の戦闘を迎える前に全滅してしまい、最後に安部たちが戦うのはハワードと手下たち。つまり、人間と人間のモッサリした格闘がクライマックスなのだ。
なんじゃ、そりゃ。
そこはサイボーグを活躍させなきゃダメだろ。

(観賞日:2014年4月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会