『カイジ 人生逆転ゲーム』:2009、日本

フリーターのカイジは、帝愛グループ遠藤金融社長・遠藤凛子と部下に捕まった。かつてのバイト仲間である古畑が借金を残して失踪し、 連帯保証人になっていたカイジが借金の肩代わりを求められたのだ。借金は30万円だったが、利子が膨れ上がって202万になっていた。 返済する金など無いカイジに、遠藤は借金を帳消しにする方法があると持ち掛けた。最初は敬遠していたカイジだが、遠藤から容赦の無い 言葉を浴びせられ、その方法に賭けてみることにした。
遠藤に指示されたカジノ船「エスポワール」にカイジが乗船すると、他にも大勢の男たちが集まっていた。帝愛グループ幹部の利根川が、 そこで行われるゲームの説明を始めた。参加者には星型のバッジが配られ、それは300万で貸し付けられる。1分に付き1パーセントの 複利が付くが、ゲームに勝てば借金がチャラになるだけでなく星は1個100万円で帝愛グループが買い戻すという。
参加者にはグー・チョキ・パーが描かれた各4枚、合計12枚のカードが配られる。相手を決めたらカードを使ってジャンケンを行い、勝利 すれば相手の星が貰える。制限時間の30分以内にカードを使い切れば勝ちで、星が無くなれば負けだ。ゲームがスタートすると、参加者は 急いで勝負を開始した。そんな中、カイジは船井という男から「絶対に勝てる方法がある」と持ち掛けられた。ずっとアイコを続ければ、 星を失わずにカードを使い切れるというのだ。その話に乗ったカイジだが、船井に騙されて星2つを失った。
激怒したカイジは船井に掴み掛かって星を取り戻そうとするが、帝愛グループの黒服に取り押さえられた。残りのカードは血の付着した チョキが1枚、制限時間の終了までは残り15分だ。その時、カードを廃棄しようとしていた中年男の石田が黒服に連れ戻され、殴られた。 黒服は、勝手に廃棄すれば無条件で別室送りだと参加者に宣告した。船井は「シャッフルや」と叫び、全員のカードを混ぜて配り直すこと を提案した。シャッフルに乗ったカイジの元には、同じチョキのカードが戻ってきた。
船井はカイジに、再び勝負を持ち掛けてきた。「こっちが星2つ、お前は星1つでどうや」と船井が言うと、カイジは「星3つの勝負なら 受ける」と言葉を返した。カイジは隣にいた石田を捕まえ、「2人の星で3つだ」と告げた。船井はカイジのカードがチョキだと知って おり、自分のグーで勝てると確信し、その勝負を受けた。カイジは血の付着したカードを出すが、それはパーだった。彼は事前に、石田の 持っていたパーに血を付着させておいたのだ。カイジの策略によって、船井は別室送りとなった。
制限時間の終了が迫る中、カイジは石田と残りのカードをアイコで使い切った。これで勝利したと喜ぶカイジだが、石田はポケットの中に 残っていた1枚のカードに気付いた。石田が別室へ送られそうになった時、カイジは彼のカードを掴み、「これは2人のカードだ」と黒服 に告げた。カイジは石田と共に別室送りになり、地下の強制労働施設へ連行された。施設ではペリカという独自の通貨が使われており、 カイジが配属されたE班班長・大槻がビンハネを繰り返し、永遠に借金を返せないように労働者を追い込んでいた。
落盤事故で怪我をした石田をカイジが病室に連れて行くと、同じE班の佐原がいた。佐原は咳き込んでおり、「みんな2年、早くて2ヶ月 で咳が止まらなくなる。病室に入って、出ての繰り返しになる」と絶望的な口調で言う。すると医師は「最後のチャンスが待っている」と 言い、ブレイブ・メン・ロードの存在を教えた。カイジが大槻を非難していると、佐原がブレイブ・メン・ロードに選ばれたという知らせ が届いた。それは命懸けのゲームだが、カイジは「俺も行く」と名乗り出た。
カイジは共に参加する佐原や石田と共に、超高層ビルに連行された。ブレイブ・メン・ロードとは、そこから隣の超高層ビルに渡された 鉄骨を渡るゲームだ。参加者にはチケットが渡され、渡り切った者は1000万円と換金することが出来る。鉄骨に手を付くと電流が流れる 仕掛けになっている。超高層ビルの中では、カイジたちのゲームに金を賭けた連中が、楽しそうに様子を見守っている。
ゲームが始まり、カイジや佐原たちは鉄骨を渡り始めた。だが、みんな足がすくみ、なかなか先へ進めない。遠くの空には雷鳴が走り、 雲行きが怪しくなってきた。そんな中、恐怖で正常な感覚を失った一人が転落した。そこから連鎖的に、参加者たちは次々と落下していく 。天気は雷雨となり、コンディションは悪化した。「自力で渡り切るしか無いんだ」と自らを奮い立たせた佐原の言葉を聞き、カイジも 気合いを入れた。
カイジが足を進めようとすると、後ろにいた石田が自分のチケットを差し出した。彼は「自分のせいで借金に追われている娘がいる」と 言い、彼女が働くパチンコ店の場所を教えて、金を渡してほしいと頼んだ。彼は自らの意志で、墜落死することを選んだ。カイジは佐原と 共に、鉄骨を渡り切った。だが、安堵してドアを開けた佐原は、気圧差による突風を浴びてビルから墜落した。部屋に転がり込んだカイジ は、利根川や黒服たちの軽蔑的な拍手を受けた。そこへ、帝愛グループ会長の兵藤が姿を現した。
カイジは自分と石田のチケットを利根川に差し出し、換金を要求する。しかし利根川は「死んだ奴のチケットなど知るか」と冷淡に言い、 石田の分の換金を拒否した。カイジが激昂して抗議すると、兵藤は「面白い」と言い出し、利根川にEカードで勝負するよう促した。それ は、市民・皇帝・奴隷という3種類のカードを使ったゲームだ。カイジは借金を差し引いて獲得した75万3200円を元手にして、利根川との 勝負に挑む。だが、なぜかカイジの出す手は利根川に全て見抜かれており、完敗を喫してしまう…。

監督は佐藤東弥、原作は福本伸行、脚本は大森美香、企画・脚本協力は株式会社ヒント、製作は堀越徹&堀義貴&島谷能成&村上博保& 平井文宏&阿佐美弘恭&入江祥雄&山口雅俊、プロデューサーは藤村直人、北島和久、山口雅俊、協力プロデューサーは中谷敏夫、 エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、Co.エグゼクティブプロデューサーは菅沼直樹&神蔵克、撮影は柳島克己、編集は日下部元孝、 録音は和久井良治、照明は鈴木康介、美術は小池寛、VFXスーパーバイザーは西村了、音楽は菅野祐悟、音楽プロデューサーは志田博英 、主題歌・劇中歌プロデュースは近藤ひさし、主題歌はYUI「It's all too much」、劇中歌はYUI「Never say die」。
出演は藤原竜也、天海祐希、香川照之、松尾スズキ、山本太郎、光石研、吉高由里子、もたいまさこ、松山ケンイチ、佐藤慶、 尚玄、載寧龍二、加藤久雅、鈴木亮平、両國宏、城明男、福本伸行、赤塚篤紀、丸山智己、村田充、藤間宇宙、聡太郎、仲野茂、富川一人、平野靖幸、 中村靖日、チョウソンハ、テイ龍進、鈴木雄貴、土原風馬、宇野祥平、篠田光亮、谷澤恵里香、遠藤要、松本亜希、松本じゅん、 芝崎昇、中西大文、高田健一、浅木信幸、松本未来、高柳葉子、森富士夫、小倉馨、野村信次、 川嶌英史、加賀健治、RYOHEI、木村優介、助友裕二、金森純一、大和守正、中尾尚人、島村勝、安部賢一、 武重亙、甲本将行、近藤雅、長谷川将、菅原一真、こばん、奥野正明、高橋周平、えんじ則之、豊田順子、藤井貴彦、脊山麻理子ら。


福本伸行の漫画『賭博黙示録カイジ』と『賭博破戒録カイジ』を基にした作品。『賭博黙示録カイジ』からは限定ジャンケンと鉄骨渡り、 Eカードのエピソード、『賭博破戒録カイジ』からは地下施設での強制労働という要素が抽出されている。
監督は『ごくせん THE MOVIE』の佐藤東弥。
カイジを藤原竜也、遠藤を天海祐希、利根川を香川照之、大槻を松尾スズキ、船井を山本太郎、石田を光石研、石田の娘を 吉高由里子、屋形船の従業員をもたいまさこ、佐原を松山ケンイチ、兵藤を佐藤慶が演じている。
佐藤慶は、これが遺作。

原作では男性だった遠藤を、映画版では女性に変更している。
「全国公開するメジャー映画だから、やっぱり主要キャストに女っ気は必要でしょ」ということでの性別変更なのかもしれないが、これは 地味に痛いダメージとなっている。
天海祐希がどれだけ凄んでも、どれだけ恫喝しても、そこには闇金融屋としての凄味が足りない。
「逆らったら何をされるか分からない」という恐怖を感じない。
もちろん、それが無くても構わないキャラだったら問題は無いが、遠藤には、それが必要だろう。

カイジのキャラクター設定も、原作とは異なっている。
原作のカイジは、友人の保証人になったせいで借金を背負うのは同じだが、酒とギャンブルに溺れる男だった。
しかし映画版のカイジは、ギャンブル狂いの男ではない。
映画としては、やはり主人公に共感させたいわけで、だからギャンブル狂いの設定を変更したのは適切だろう。
ただし、そうなると、エスポワールで利根川が言う「お前らはシャバで甘えに甘え、負けに負けてここへ来たクズだ」というところに、 カイジが該当しなくなるという問題が生じている。

序盤、遠藤はカイジに「アンタの毎日、ゴミって感じでしょ。無気力で自堕落で、しょぼいバイトして、いつかチャンスが来ればと言い訳 ばかりして」と言っているが、そういうカイジのキャラ造形に説得力を持たせることは出来ていない。
そこに一線で活躍しているバリバリの主演級俳優である藤原竜也を据えて、それでも「無気力で自堕落で冴えない男」にするなら、そこ には、それなりの描写が必要だろう。
冴えない生活は送っているかもしれないが、コンビニバイトのシーンだけでは、「無気力」や「自堕落」の要素は弱い。

エスポワールに乗り込んだカイジは、参加者の姿を見て「どいつもこいつも負け組のオーラに満ちてやがるぜ」というモノローグを吐くが 、そのようには全く感じられない。
そりゃあエリートの集まりには到底見えないが、だからと言って負け組のオーラも感じなかった。
前述のカイジのキャラ造形もそうだが、用意されたセリフに対して、映像による表現が追い付いていない印象を受ける。

130分という上映時間の中で、限定ジャンケン、地下施設、鉄骨渡り、Eカードという4つの要素を盛り込んだため、1つ1つの描写は、 どうしても原作より大幅に省略されてしまう。
限定ジャンケンだけで2時間を費やすというのは飽きるだろうから、複数のゲームを入れて構成するというのは、そう悪くない判断だとは 思う。ただ、3つは欲張ったかな。
それと、地下施設も要らないかな。
ただ、仮に鉄骨渡りと地下施設をカットした場合、限定ジャンケンからEカードへという流れになるが、これだとカードゲームが連続 するので、絵変わりを考えると、ちょっと厳しいのかな。

限定ジャンケンでは、自分を救ったカイジを平気で裏切る「救いようのないクズ」こと安藤守や、バランス理論で勝とうとする男の存在が カットされているのは構わない。
ただ、「カイジが船井に騙され、やり返す」というだけでゲームを終わらせるのは、あまりにも薄い。北見の存在を削除し、彼とカイジが 特定のカードを買い占めるというイベントが発生しなくなったことは痛い。
また、残っているカードの総枚数も表示されない。
これにより、限定ジャンケンの意味が無くなってしまう。
シャッフルの際に持っていたカードの枚数で嘘をつく奴がいないというのも、甘いと感じる。

この限定ジャンケンの終了時、カードが一枚だけ残った石田が別室に連行されそうになると、カイジは「2人のカードだ」と告げて一緒に 別室送りになる。
だけど、それって単なるバカでしょ。
そこは石田に同情したのなら、「これは俺のカードだ」と主張し、石田を助けて自分が身代わりになろうとすべきなのだ。
石田も一緒に地下施設へ送られるのなら、カイジは単なる無駄死にじゃねえか。
鉄骨渡りで石田が自ら死を選ぶ展開があるので、石田も一緒に地下施設へ送ったんだろうが、それはダメでしょ。

鉄骨渡りに関しては、先へ進むほど少しずつ細くなり、順位に応じて大金が得られるという「人間競馬」の部分がカットされている。
ここのカットは一向に構わないんだが、そもそも鉄骨渡りというゲームそのものをカットしてしまった方がいいんじゃないかと 感じた。
その理由は、なんせ鉄骨の上で参加者たちがベラベラと良く喋るので、「それだけ長く喋っていられるバランス感覚があるのなら、みんな 鉄骨を渡り切ることが出来たんじゃないか?」と思ってしまうからだ。
漫画だと特に違和感を抱かなくても、映画で同じことをやると、不自然に感じてしまう場合もあるってことだ。

Eカードの対決は、原作ではカイジの耳に針が差し込まれていく装置がセットされ、聴力を賭けての勝負になっている。
しかし映画版では、普通に金を賭けての勝負になる。
鼓膜を突き破る装置の存在を削除したのは、あまりにも残酷すぎるという配慮だったのかもしれないが、これは大きなマイナスだ。
その前の鉄骨渡りでは命懸けのゲームをしていたのに、危険度が一気に落ちている。
そこは装置があるからこそ、異常なほどの緊迫感が生じたと思うのだが。

Eカードでは利根川がイカサマを使っている。
その手口は、地下労働施設に連行された面々が逃亡を防止するため肩に埋め込まれた
マイクロチップを使ったものだ。
そのマイクロチップが発信器となっており、利根川がカイジの心理を読み取ることが出来るという寸法だ。
ってことは、帝愛グループは、「いつか鉄骨渡りをクリアする人間が出てきて、その上でEカードをやることになるかもしれないので、 その時にイカサマをするための準備を事前に仕込んでいる」ということなのか。
どんだけ準備万端なんだよ。

Eカードで利根川のイカサマに気付いたカイジは、遠藤に「改めて勝負をしたいから5千万を貸してくれ」と申し入れる。
ここで遠藤がカイジの説得に応じて金を貸すのは、あまりにも不自然だ。
一応、「利根川への対抗心」というのが理由として用意されているが、無理を感じずにはいられない。
その取引は本来なら、もしカイジが負けても遠藤に大きな不利益が無いようなものであるべきなのに、負けたら地下施設 送りになるのだ。
それなのに情にほだされてOKするのは、遠藤のキャラを考えると変だ。
っていうかヌルい。

(観賞日:2010年11月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会