『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』:2019、日本

私立秀知院学園は、かつて貴族や士族を教育する機関として作られた由緒正しい名門校だ。現在でも富豪や名家に生まれた人材が多く就学している。生徒会の副会長を務める四宮かぐやは、四大財閥の四宮グループ本家総帥の長女である。芸事、音楽、武芸、いずれの分野でも華々しい功績を残した天才だ。会長の白銀御行は質実剛健、聡明英知で、学園模試は不動の1位。勉学だけで畏怖と経緯を集め、1年で会長に抜擢された人物である。
御行とかぐやはお似合いの2人として、周囲の生徒たちから付き合っているのではないかと噂されていた。2人は互いを意識しているが、「自分にふさわしい人間などいないが、もしも相手が望むなら付き合ってやってもいい」という傲慢な考えを持っていた。そのため、半年が過ぎて2年生になっても、御行とかぐやの関係には何の進展も無かった。この間に2人の気持ちは、「付き合ってやってもいい」から「いかにに相手に告白させるか」にシフトしていた。
ある時、生徒会書記の藤原千花が、懸賞で当たった映画のペアチケットを持って来た。愛犬ペスを愛する天然系お嬢様の彼女は、興味のある人がいればチケットを譲ると告げる。生徒会会計の石上優は青春を心から憎んでおり、恋愛映画『ラブリフレイン』のペアチケットと知って露骨に嫌悪感を示した。御行は週末の予定を確認し、かぐやを誘おうとする。しかし「男女で見に行くと結ばれる」というジンクスを千花が口にしたため、彼は激しく狼狽した。
かぐやは勝ち誇った様子を見せ、その気で自分を誘ったのかと御行に問い掛ける。攻めるしかないと考えた御行は、「そういったジンクスは気にしないが、お前は俺と見に行きたいのか」と訊く。かぐやは策を考え、あえて乙女として振る舞うことを選択して落とそうとする。しかし何も知らない優が口を挟んだため、作戦は失敗に終わった。かぐやに睨まれた優は、慌てて生徒会室から逃げ出した。千花はかぐやにペアチケットを渡し、生徒会室を去った。
かぐやは「勝者が何でもお願いできる」という条件を出し、御行にババ抜きを持ち掛けた。御行は軽く応じて勝負を始めるが、それが映画に誘わせるための策略だと気付く。そこで彼は、勝利した上で作戦を阻止しようと考える。かぐやはババ抜きに負けて涙のリクエスト作戦を実行するが、御行は隙を見てペアチケットを抜き取っていた。彼は1枚だけかぐやに渡し、自由に使うよう告げた。帰宅したかぐやが映画に行くことを話すと使用人の面々は慌てるが、近侍の早坂愛だけは冷静だった。御行は帰宅し、妹の圭と父に夕食を作る。母は7年前に家を出て行き、父は親らしいことを何もしておらず、御行たちは貧しい暮らしを余儀なくされていた。
翌日、かぐやは愛と使用人の面々に頼み、映画館へ向かう御行を張り込んでもらう。彼女は愛たちの協力で、偶然の出会いを演出した。しかしチケットのシステムを全く知らなかったため、前売り券を入場券と交換する時に御行と別で受付に向かってしまう。受付から希望の席を訊かれた時、彼女は御行と離れた席になるかもしれないと初めて気付く。御行は分かりやすいヒントを与えるが、かぐやが深読みしたせいでバラバラの席になってしまった。
次の日、御行の元にチェリーボーイの田沼翼が現れ、恋の相談を持ち掛けた。恋の百戦錬磨だと思われていることを知った御行は、ボロを出さずに乗り切るしかないと腹を括る。かぐやは御行の恋愛観を知る絶好の機会だと考え、愛にドローンで盗撮してもらう。翼は御行に、同級生の柏木渚に告白したいのだと話す。手応えを問われた翼の返答を聞いたかぐやは、可能性がゼロだと感じる。しかし御行は「絶対に本命だ」と的外れなことを言い、壁ドンで告白するよう助言した。かぐやは呆れ果てるが、翼が壁ドンで「俺と付き合え」と言うと渚は「はい」と即答した。
かぐやは千花から「ペスのチンチンが凄い」と言われ、激しく狼狽する。それが芸のことだと分かっていたが、かぐやは下ネタを連想してしまう。千花が「チンチンが左に傾いている」「ちっちゃいチンチン」などと言う度に、彼女は笑ってしまった。そこへ御行が来たので、かぐやは慌てて千花の口を塞ぐ。千花は御行にクイズを出して「チンチン」と言わせようとするが、かぐやが別の表現を先に行って阻止する。しかし千花が「かぐやさん、チンチンが大好きなんです」と言ったので、御行は「何を考えてるんだ、変態」と軽蔑の眼差しで走り去った。ショックを受けたかぐやは、高熱で寝込んでしまった。
かぐやが学校を休み、御行は千花から学校のプリントを持って行くよう頼まれる。難色を示した御行だが、「かぐやさんは熱を出したら甘えんぼになる」と聞いて引き受けた。御行が豪邸に着くと、愛が出迎えた。彼女は御行に、そこが別邸であること、かぐやと使用人しか住んでいないことを語る。かぐやの両親について御行が尋ねると、母親は亡くなっていること、父親は京都の本邸で暮らしていることを愛は説明した。
御行が部屋に案内されると、かぐやは彼を見て激しく狼狽する。彼女の様子を見た御行は、普段とは違うが甘えんぼではなく、ただのアホになっていると感じた。愛は御行に、3時間ほど誰も入って来ないこと、部屋は防音も完璧であること、かぐやの記憶も残らないことを語った。愛が去った後、かぐやは御行を誘惑してベッドに入るよう促した。彼女が目を覚ますと、御行が隣に寝ていた。かぐやは驚いて彼を突き飛ばし、「変態」と罵る。御行は「指一本触れてない」と主張するが、かぐやは怒鳴って追い出した。
夏休みを翌日に控え、かぐやは渚に恋愛相談を持ち掛けた。彼女は「友達の話」と前置きし、喧嘩した男性と仲直りする方法を尋ねる。一方、御行も同様に「友達の話」として、翼に相談した。御行はかぐやと遭遇し、「指一本触れてないと言ったが、指一本で口に触れた」と告白する。その上で彼は、かぐやの唇に触れた途端、体に電流が走って倒れてしまったと説明した。かぐやは彼の口に指一本で触れると、「これでもうチャラですよ」と言って立ち去った。
夏休みに入ったが、御行とかぐやも特に何の予定も無かった。御行はかぐやを誘わなかったことを後悔し、かぐやは愛から御行に誘われる前提で予定を入れていたのが間違いだと指摘された。愛は御行がツイッターで暇だと呟いていることをかぐやに教え、アカウントを作るよう勧めた。同じ日に生徒会室を訪れた御行とかぐやだが、入れ違いで会うことは無かった。スマホを見た御行は、かぐやがツイッターを始めたことを知った。千花から「生徒会で花火大会に行きませんか」と誘われた御行とかぐやは、大喜びでOKした。
花火大会の当日、私服の無い御行が制服で待ち合わせ場所に行くと、かぐやは来ていなかった。優と千花が場所取りに行った後も、かぐやは全く現れない。ようやく四宮家の車が到着するが、出て来たのは愛だった。愛は御行に、父親の外出許可が下りなかったこと、かぐやは楽しみにしていたことを伝えた。かぐやはツイッターに「みんなと花火が見たい」と書き込み、屋敷を抜け出した。彼女は待ち合わせ場所に向かうが、既に花火大会は終わっていた。そこへ御行が現れ、かぐやの動きを読んでいたことを話す。彼は房総の花火が夜9時まで続くことを告げ、「行くぞ」とかぐやの腕を掴む。2人は優&千花とタクシーに乗り、一緒に花火を見ることが出来た。
新学期が始まり、御行は花火大会の日の自身の発言を「痛い奴」と恥ずかしく思っていた。一方、かぐやは御行と目が合うと照れてしまい、声を掛けられると顔を背けてしまった。御行はかぐやに痛い奴認定されていると誤解し、すっかり落ち込んでしまう。2人は互いを意識し過ぎたせいで、マトモに会話を交わすことも出来なくなった。そんな状態のまま月日が過ぎ、生徒会解散の日を迎えてしまう。生徒会室を出た直後、かぐやは胸の痛みに見舞われて倒れ込んでしまう。四宮家の主治医を務める田沼正三が診察し、御行はかぐやに負担を強いていたのだと感じて後悔する…。

監督は河合勇人、原作は赤坂アカ「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)、脚本は徳永友一、企画プロデュースは平野隆、プロデューサーは刀根鉄太&辻本珠子&下田淳行、共同プロデューサーは大脇拓郎&原公男、ラインプロデューサーは及川義幸、アソシエイトプロデューサーは中島直、撮影は花村也寸志、照明は永田英則、美術は林田裕至&三藤秀仁、録音は石寺健一、編集は瀧田隆一&田端華子、音楽は遠藤浩二、音楽プロデューサーは杉田寿宏、主題歌『koi-wazurai』はKing & Prince。
出演は平野紫耀、橋本環奈、佐野勇斗、池間夏海、浅川梨奈、堀田真由、ゆうたろう、佐藤二朗、徳井優、嶋政宏、古賀葵、深尾あむ、安藤咲桜、池田朱那、伊藤修子、どんぐり(竹原芳子)、フォーリンラブ、田口智也、持田加奈子、フタリシズカ、有賀洋之、上原武士、四柳智惟、宮田竜介、鈴木梨亜、井吹俊信、三上倖代、畑中実、美濃部龍、吉田興平、縣豪紀、穂村有希、山本啓之、高須敦斗、小川裕輔、山本千愛、沼田浩稔、松岡さとみ、大林亮太、田澤葉、白星もえ、坂元誉梨、桜井まい、柘植美咲、高橋もち、美萌、西野綺良々、ニキータ、インガ、針谷桂樹、安部康二郎ら。


赤坂アカの同名漫画を基にした作品。
監督は『兄に愛されすぎて困ってます』『ニセコイ』の河合勇人。
脚本は『翔んで埼玉』の徳永友一。
御行を平野紫耀、かぐやを橋本環奈、優を佐野勇斗、渚を池間夏海、千花を浅川梨奈、愛を堀田真由、翼をゆうたろう、田沼を佐藤二朗、校長を徳井優、白銀の父を嶋政宏、圭を深尾あむが演じている。他に、四宮家の使用人役で伊藤修子&どんぐり(竹原芳子)、映画館の観客役でフォーリンラブが出演している。
TVアニメ版でかぐやの声を担当した古賀葵が、映画館の受付係として出演している。

漫画を読んだりTVアニメ版を見たりしている人からすると、平野紫耀と橋本環奈の配役にはコレジャナイ感が強いんじゃないだろうか。
特にTVアニメ版を見ている人、かぐやを演じる古賀葵が声優アワードを受賞していることもあるし、余計にコレジャナイ感を強く抱くかもしれない。
平野紫耀に関しては、まず「勉学だけで畏怖と経緯を集める存在」ってのが「いや嘘だろ」と言いたくなる。バラエティー番組で天然ボケを炸裂させている平野紫耀に、その役は無いでしょ。
そりゃあ、素の部分と役柄は切り離して考えるべきなのかもしれないけどさ、それにしても平野紫耀は無いなあ。

あと、平野紫耀にしろ橋本環奈にしろ、声質にも違和感を覚えるんだよね。2人ともハスキーボイスで、この作品にもキャラにも合っていないように感じるのよ。
特に感じるのは、「普段の状態」と「何か策を凝らしている状態」を切り替える時。
そこって本来なら、声のトーンを変えてくれた方がいいのよね。でも、ずっと同じ調子なのよ。ハスキーボイスってことが、そこで大きなマイナスになっている。
あと、たぶん自分たちなりに調子は変えているんだろうけど、演技力が全く足りていないのよね。

もう1人、実は平野紫耀と橋本環奈に輪を掛けてミスキャストな存在がいて、それは佐藤二朗だ。彼に関しては、もはや田沼というキャラごとカットでいいんじゃないかと思うぐらいだ。
ひょっとすると福田雄一作品における佐藤二朗のような存在感を狙ってのキャスティングかもしれないが、ダメな時の竹中直人より酷いことになっている。
竹中直人なら、一応は何かのキャラに成り切った上でクドい存在感を示す。でも佐藤二朗の場合、「佐藤二朗」として悪目立ちしちゃってんのよね。
彼にナレーションを担当させているのも失敗で、無駄に自己主張が強すぎるのよ。ここは脇役として、ただの語り手に徹するべきなのに。

「天才たちの恋愛頭脳戦」というサブタイトルが付いているが、これはJAROに電話した方がいいぐらい内容と全く合致していない。
御行とかぐやは天才らしさを微塵も感じさせないし、高度な頭脳戦なんて皆無に等しい。
一応、序盤は「互いに策を凝らす」という様子が描写されているものの、早くも「天才たちの恋愛頭脳戦」ではなく「ボンクラどものバカ合戦」にしか見えない。
そして時間が経過する中で、どんどん「策を凝らす」という行動自体が減っていく。

序盤から、御行とかぐやが生徒会室で「相手に映画を誘わせるための策を練る」という様子が描かれる。優と千花が少しだけ関わるものの、すぐに退室してしまうので、そのエピソードにおける大半は御行とかぐやの会話劇になる。
場所が限定されている上に2人だけの芝居なので、当然のことながら平野紫耀と橋本環奈の演技で引っ張っていくことが求められる。
でも前述したように演技力が足りていないので、なかなか厳しいことになっている。
妄想シーンを挿入して少しは絵の変化を付けようとしているが、それでも厳しい。

この作品の弱点として、「大きなストーリーが無い」ってことが挙げられる。「御行とかぐやが相手に告白させようとする」という軸はあるものの、それは大きなストーリーを構築する要素になっていない。短いエピソードを串刺し式に並べる構成となっている。
これが漫画であれば、1話ごとに完結する読み切り連載の形ってのは何の問題も無い。連続ドラマやTVアニメでも、同じことが言える。
しかし1本の長編映画として作る時、全体を貫く大きなストーリーが無い場合は、かなり神経を使って構成やエピソードの繋ぎ方を考えないと、それが大きな欠点になりかねない。この映画は、そこの工夫が足りず、無雑作に並べるだけになっている。
それでも1つ1つのエピソードが面白ければ何とかなるだろうが、そこも全く足りていないからね。
なので、「全国公開される劇場映画のレベルに達していない」と感じてしまうのだ。

高熱で寝込んだかぐやが御行の訪問を受けてアホになるシーンは、見ていて痛々しささえ感じるような寒い三文芝居になっている。
ただ、橋本環奈の芝居が残念なのは確かだが、「だったら、このシーンをキッチリと成立させられるコメディエンヌが若い女優で誰かいるのか」と問われたら、全く思い浮かばない。
アニメなら有りでも実写になるとキツい典型的なケースと言っていいのではないか。
何でもかんでも原作のままトレースするのではなく、場合によっては大きく改変した方がいいってことだね。

大きく改変した方がいいと感じるシーンは他にもあって、それは花火大会のエピソード。
かぐやが待ち合わせ場所へ向かう途中、「きっと会える。初めて出来た後輩。初めて友達になってくれた人。初めて出来た、気になる人」というモノローグが入り、彼女が優&千花&御行を思い浮かべているイメージカットが挿入される。
そして「私が好きになった人たちと一緒に集まって、花火を見たい。神様、この夏、恋だとか愛だとか要りませんから、せめて私もみんなと一緒に」と願う。
でも、そこまでは御行とかぐやと恋愛劇ばかりを描いていたのに、急に「生徒会メンバーの仲間」という関係性でドラマを盛り上げようとしても無理があるでしょ。

そこまでの展開で、生徒会メンバーの絆を感じさせるような描写なんて、皆無と言っても良かった。優と千花は、たまに出て来る脇役に過ぎなかった。
しかも、花火大会のエピソードでも、2人がかぐやを待ち侘びているとか、心配しているとか、そんな描写は無い。
さらに言うと、かぐやは花火を見るシーンで「この仲間で見られて良かった」なんてことは全く思っていない。隣にいる御行のことで頭が一杯になっているのだ。
だったら、原作から大幅に改編し、そのエピソードを恋愛劇として描いた方がいいでしょ。

かぐやは田沼の診察を受けて退院した後、生徒会長への立候補を決める。
御行は「かぐやが会長になったら心臓病の原因となるストレスが掛かる」と考え、自分が立候補することで彼女の就任を阻止しようとする。
でも、かぐやだけなら無投票で当選だったのに、御行の立候補で激しい選挙戦を展開しなきゃならなくなる。そのことがストレスになるとは思わないのか。
そのことを誰も指摘しないし、コメディーだからって、それは甘受できないぞ。

かぐやは御行と千花の密会を誤解し、演説の最中に糾弾する。御行は「踊りが下手なので千花からソーラン節を教わっていた」と釈明し、ソーラン節を教わった理由として「踊りがストレス解消に繋がると聞いたので、会長選が終わったら皆で踊るつもりだった」と語る。
でも、かぐやにストレスを解消させたいのなら、御行が踊る必要は全く無いでしょ。
そして一緒に踊るにしても、わざわざ選挙戦の最中に千花から教わる必要も無いし。
バカバカしさをバカバカしさで上塗りしているかのようなシーンになってるぞ。

映画のラスト、御行とかぐやは千花に押され、その勢いでキスをする。
かぐやは「御行が勢いを利用してキスした」と気付き、「そんなに私とキスしたかったんですね。お可愛いこと」と心で呟いてニヤニヤする。
一方、御行はかぐやが唇が当たるよう背伸びしたと気付き、「そんなに俺とキスしたかったんだな」と心で呟いて不敵な笑みを浮かべる。
だけど、もう「相手に告白させる戦いとして恋愛ゲームをやっている」という図式なんて崩壊していたので、最後だけ急に戻されても無理があるぞ。

(観賞日:2021年7月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会