『陽炎II KAGERO』:1996、日本

“不知火おりん”の異名を持つ女胴師・城島りんは、門司で“般若のお由良”こと高木由良と再会した。かつて、りんは由良から、胴師としての技術を仕込まれた。りんにとって姉貴分に当たる由良は、“大世界”を根城にする夜叉組の親分となっていた。
10年前、由良は用事があると言ってりんを駅に残したまま、戻って来なかった。りんは、現れたヤクザ達から「由良がお前を売った」と告げられたが、川に飛び込んで逃亡したのだった。由良はりんに、あの時は売っていないと告げた。
りんは由良から、門司を仕切るための協力を求められる。りんは夜叉組の花会で胴師を任され、由良の依頼で広瀬という組頭を圧倒した。多額の借金を背負った広瀬に、黒鉄興業の黒鉄が、肩代わりと引き換えに利権を由良に渡すよう要求した。由良は抵抗した広瀬をドーベルマンに襲わせて殺害し、彼の利権を手中に収めた。
夜叉組に捕まっている中島組の倅・栄十郎を助けるため、古頭の沢田進が現れた。りんは栄十郎から、由良が黒鉄と手を組み、港の利権を得るために中島組の組長を殺害したことを聞かされる。りんは、栄十郎と沢田を逃がしてやった。
りんは、中島組の残党がいる集落を訪れた。そこに夜叉組の連中が現れて火を放とうとしたため、りんは彼らを阻止した。りんは由良に対して、自分の命と港の利権を賭けた勝負を申し込んだ。だが、由良は勝負の場で、りんの右手に短刀を突き刺した…。

監督&脚本は橋本以蔵、脚本監修は五社英雄、製作は奥山和由、企画は佐生哲雄&西岡善信、プロデューサーは椿宜和&酒井実、撮影は藤石修、編集は太田義則、録音は小西進、照明は井上武、美術は西岡善信&丸井一利、殺陣は森岡隆見、音楽は阿部正也、音楽プロデューサーは佐々木麻美子、主題歌は聖飢魔II『赤い玉の伝説』。
出演は高島礼子、小柳ルミ子、原田芳雄、田村英里子、渡辺裕之、田辺誠一、石橋蓮司、塩見三省、北原佐和子、渡辺哲、神戸浩、絵沢萠子、青木卓司、南川昊、大村波彦、片岡和香子、大野麻那、大島蓉子、藍田美豊、大森由伽里、木瓜みらい、草野裕、金子研三、佐々木敏、中沢清六、蟷螂襲、よこやまよしひろ、小船秋夫、浦野眞彦、橋本和博、山口秀志、北斗辰典、鎌田栄治、小田島隆、川渕良和、川尻秀ら。


1991年の映画『陽炎』の続編。だが、「女胴師の城島りん」というキャラクター以外、全く繋がりの無い内容となっている。監督も五社英雄から橋本以蔵に、りん役も樋口可南子から高島礼子にバトンタッチしている。前作は相当にポンコツな内容だったが、監督もヒロイン役も交代してまで続編を作るということは、それなりにヒットしたんだろう。

冒頭、「昭和初期、国際輸送の花形は船便だった。国際航路の船は石炭を燃料としており、北九州の港では石炭人足によって船に燃料灰が積み込まれた。荒くれ人足たちは港の名物で、彼らはゴンゾウと呼ばれた」というテロップが入る。
だが、この説明には大して意味が無い。
別にゴンゾウがメインになるような話でもないし。

序盤、不知火おりんが登場する前に、小柳ルミ子演じる由良の存在が強くアピールされる。
ヒロインが前作と同じく樋口可南子なら、それも構わない。
だが、新しいヒロインが登場するのだから、普通に考えれば、まず高島礼子のお披露目を済ませるべきだろう。

由良が賭場で作った借金のカタにおりんをヤクザに売ったのは明らかなのに、おりんは由良を信じる。
ここに大きな無理がある。
序盤で由良の人間的な魅力を見せていれば(例えばおりんをピンチから救うとか)、そこで信用するのも分からなくはない。しかし、最初に由良を登場させた時、映画は彼女が賭場で勝つためならどんな卑怯なマネもする人物だということを示している。むしろ逆効果だ。
最初に由良の人間的魅力を示していないから、そんな彼女を簡単に信じるおりんがバカにしか見えない。

由良が表向きは「いい人」を装っているのなら、おりんが彼女に騙されて協力するのも仕方が無い部分はある。だが、そうではない。由良は最初から、おりんの前でも善人っぽい顔は全く見せていない。
途中で彼女がワルだと気付いて当然なのに、おりんが協力するから、単純にワルの片棒を担いだだけにしか思えないのだ。

おりんは姉貴分として慕っていた由良と対決することになるわけで、そこにある苦悩や葛藤がドラマの厚みに繋がるはずなんだけど、そもそも2人の絆なんてこれっぽっちも見えないし、前述したように「信じたおりんがバカなだけ」にしか見えないし、ヘロヘロ。

由良の用心棒のような存在として登場する直木役の渡辺裕之は、何のために登場したのか良く分からない。黒鉄役の石橋蓮司も、扱いはショボショボ。
脇役は総じてキャラとして死んでいる。
しかし、それはメインとなるおりんと由良の存在感が際立っているから、脇役が目立たないわけではない。
相対評価ではなく、絶対評価として薄い。

田村英里子演じる弁天のお蝶も、扱いが中途半端。後半でおりんの妹分として花会に出ることになるのなら、前半から、もっと出番を増やしておりんとの関係を描くべき。まだ大した信頼関係も無いのに、代役を務めさせるってのは無理があるだろう。
そもそも、おりんはその前に、「自分でカタを付ける」と言って、由良に勝負を申し込んでいるのだ。いくら手に怪我を負っているからといっても、花会に代役を参加させるのは違うだろう。そこは、お蝶が勝手に乗り込んだことにしておけば問題はクリアされる。

花会でイカサマがバレたお蝶を、おりんが殺してしまうのはバカかと思ってしまう。
「落とし前を付ける」ということなんだろうが、そこを助けてこそヒロインじゃないのか。
大体、テメエが代役を任せたんじゃないか。
そんで、お蝶を殺した後、おりんは由良と対決する。
だったら、最初からテメエで行けよ。
酷いよ、メチャクチャだよ、この女。

 

*ポンコツ映画愛護協会