『影の軍団 服部半蔵』:1980、日本

慶安四年、三代将軍家光の治世。筆頭老中の松平伊豆守信綱は大目付の内藤山城守を通じ、浪人や無宿者を江戸から追放する命令を下す。彼は特に重点的に取り締まる複数の地域と対象の種類を指定し、浪人狩りを遂行させた。役人たちは指定された地域の家に火を放ち、逃亡を図る者は容赦なく斬り捨てた。下の服部半蔵が率いる盗賊は捕まった仲間を救うため、連行する役人たちを襲撃した。半蔵と家来の一飛や小六たちは、犠牲になった仲間を火葬した。
二月に家光が死去し、大名たちが江戸城に集まった。下の半蔵たちは警備が手薄になった大名屋敷を襲撃し、金品を強奪した。彼らは露店を出し、盗品を売り捌こうとする。そこへ役人たちが現れ、盗品を没収しようとする。下の半蔵は賄賂を渡して見逃してもらおうとするが、怒りを買って暴行を受けた。副将軍の水戸光圀は四代将軍家綱の補作役を務める会津藩主の保科正之を呼び出し、今後の政治に関する考えを尋ねた。老中の堀田加賀守と阿部重次は殉死し、伊豆守は内藤から報告を受けた。
下の半蔵は内藤の屋敷に潜入するが、気付かれて槍を向けられた。内藤は「会わせたい人がる」と言い、下の半蔵を寺に招いて伊豆守と対面させた。伊豆守は下の半蔵に報酬を約束し、保科を始末する仕事を持ち掛けた。下の半蔵は「俺は幕府の犬どもを信用していない」と拒否し、先代の半蔵が幕府に利用されて捨てられた恨みを口にした。下の半蔵は炎の忍術を使う不気味な怪人に襲われるが、寺から脱出して一飛と合流した。
上の服部半蔵は保科の屋敷に侵入し、服部家の再興を条件に示して自分を売り込んだ。保科が断ると、彼は再訪を告げて立ち去った。屋敷の外で下の半蔵が待ち受けていたので、上の半蔵は「保科に協力して幕府を掌握させ、いずれ天下を手に入れる」という計画を教えた。彼が協力を持ち掛けると、下の半蔵は「幕府は信用できん」と拒絶した。先代の半蔵が幕府の非道を糾弾する目的で切腹した時、上の半蔵は介錯を任されていた。彼は復讐のために幕府へ乗り込むのだと説明するが、下の半蔵は手を貸そうとしなかった。
小六は下の半蔵の妹である小萩に欲情し、隠れ家で強姦しようとする。そこへ下の半蔵が駆け付け、小六を暴行した。下の半蔵は妹が上の半蔵に惚れていると知っており、「やっぱり、あいつの所へ行くのが一番いいな」と口にした。彼は内藤を拉致して拷問し、寺にいた怪人の正体を教えるよう迫った。内藤が口を割らなかったので、彼は口を利けなくして全裸で晒した。奉行所の連中が躍起になって犯人の捜索を開始し、下の半蔵は仲間の三々助たちから「やり過ぎじゃないか」と不安を吐露されるが意に介さなかった。
下の半蔵は隠れ家を移すことに決め、小萩には上の半蔵の元へ行くよう命じて別れた。上の半蔵は「女が来る所ではない」と受け入れようとせず、小萩は雨の中で佇んだ。伊豆守は江戸の豪商たちを屋敷に呼び、自身が返り咲くために配る賄賂として3日以内に30万両を用意するよう命じた。屋敷に潜入していた下の半蔵は、怪人に襲われて逃走した。彼は仲間たちに、屋敷に運ばれる金を奪う計画を話す。彼らは小舟を狙うが、それは罠だった。小舟は爆発し、あの怪人が大勢の家来を率いて現れた。
怪人の正体は、甲賀忍者の甲賀四郎兵衛だった。半蔵は攻撃を受けて窮地に追い込まれ、犠牲者が出た。半蔵は反撃に出るが、四郎兵衛は逃走した。彼は住職の浄海として暮らしており、家綱の生母であるお楽の方から無病息災の祈祷を依頼された。上の半蔵は小萩を返しに行くと、下の半蔵は激怒して殴り掛かった。上の半蔵は「自分だけ女と安穏と暮らすわけにはいかない」と言い、伊豆守と四郎兵衛を倒すための協力を持ち掛けた。下の半蔵が承知すると、彼は伊豆守が保科と永井信濃守を狙うはずだと告げた。
新しく老中となった永井は、家綱に挨拶した。四郎兵衛は永井に催眠術を掛け、保科を殺すよう命じた。永井は保科を狙うが失敗し、命を落とした。保科は永井の乱心を隠蔽し、病気による急死として発表することにした。上の半蔵は保科に接触し、四郎兵衛が永井を操っていたこと、その背後に伊豆守がいること、伊豆守が生きていることを教えた。彼は下の半蔵を連れて来ており、服部家を将軍家旗本として再興するよう求めた。保科は要求を受諾し、上下の半蔵を雇い入れることにした。
光圀は保科を呼び、伊豆守を出仕させて執政の仕事を手伝わせるよう提案した。保科が家綱の側仕えに起用した青山図書は真っ向から反対し、武士道を蔑ろにする行為だと批判した。伊豆守は余裕の態度で、徳川家のために尽くすことが真の忠義だと述べた。家綱は保科たちに警護され、日光参詣に向かった。その途中、四郎兵衛は今市宿で家綱を拉致した。青山から話を聞いた上の半蔵は、大奥に四郎兵衛の密偵がいることを確信した。
上の半蔵は密偵を調べるため、小萩を大奥に送り込もうと考えた。その考えを知らされた下の半蔵は激怒するが、小萩は引き受けた。彼女は四郎兵衛の不審な動きを知るが、女忍者の千里に見つかって殺された。千里は四郎兵衛の妹で、大奥に潜伏して情報を知らせていたのも彼女だった。千里は小萩の遺体を吊るして下の半蔵たちをおびき寄せ、手下たちに襲撃させた。小六を殺された下の半蔵は激怒し、逃げる千里を追った。下の半蔵は千里と戦い、捕まえて強姦した…。

監督は工藤栄一、脚本は高田宏治&志村正浩&山田隆之、企画は翁長孝雄&日下部五朗&松平乗道、撮影は中島徹、照明は海地栄、録音は溝口正義、編集は市田勇、美術は井川徳道、擬斗は菅原俊夫、特撮監督は矢島信男、音楽は原田祐臣。
出演は渡瀬恒彦、西郷輝彦、緒形拳、山村聡、森下愛子、原田エミ、三浦洋一、中島ゆたか、成田三樹夫、金子信雄、仲谷昇、藤田まこと、橘麻紀、奈三恭子、本間優二、蟹江敬三、戸井十月、李一龍、鳥巣哲生、藤田渓、きくち英一、林彰太郎、岩尾正隆、丘路千、田畑猛雄、河合絃司、中村錦司、唐沢民賢、高並功、鈴木康弘、国一太郎、五十嵐義弘、有川正治、大矢敬典、松林龍蔵、志茂山高也、酒井努、細川純一、笹木俊志、木村夏江、仁和令子、柳川恵美、前島幹生、赤羽根明、上田孝則、白井滋郎、峰蘭太郎、藤沢徹夫、丸山俊也、小峰隆司、タンクロー、勝野賢三ら。


『五人の賞金稼ぎ』『その後の仁義なき戦い』の工藤栄一が監督を務めた作品。
脚本は『赤穂城断絶』『日本の黒幕』の高田宏治、『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』『沖縄10年戦争』の志村正浩、『日本悪人伝 地獄の道づれ』『木枯し紋次郎』の山田隆之による共同。
下の半蔵を渡瀬恒彦、上の半蔵を西郷輝彦、四郎兵衛を緒形拳、保科を山村聡、千里を森下愛子、小萩を原田エミ、青山を三浦洋一、お楽の方を中島ゆたか、伊豆守を成田三樹夫、光圀を金子信雄、内藤を仲谷昇、先代半蔵を藤田まことが演じている。

1970年代の東映は、実録ヤクザ映画の路線で日本映画界を牽引していた。
だが、そんな路線にも陰りが見え始め、新たに大作時代劇の路線を打ち出した。1978年には『柳生一族の陰謀』や『赤穂城断絶』、1979年には『真田幸村の謀略』といった作品を送り出した。
この内、『柳生一族の陰謀』は映画がヒットしただけでなく、TVシリーズも製作された。
この『影の軍団 服部半蔵』も、同じように映画公開後のTVドラマ化が予定されていた。

当初、主人公の服部半蔵役には千葉真一が予定されていた。ところが工藤栄一が「2人の半蔵」という突飛なアイデアを思い付いて脚本を勝手に書き換え、これに腹を立てた千葉真一が降板してしまった。
しかも工藤監督は「2人の半蔵」という設定を使い、どうやって映画を面白くするかは、まるで考えていなかった。
「2人の半蔵」というアイデアを思い付いた時点で、完全に思考停止していたのだ。
ちなみにTVシリーズ化の際は「2人の半蔵」というアイデアが採用されず、千葉真一が単独で服部半蔵を演じている。

「上下に1人ずつ服部半蔵がいる」という設定は、何の役にも立っていない。片方は服部半蔵で、もう片方は全く別のキャラにしても全く支障は無い。「2人がメイン」という扱いではなく、1人だけを主人公に据える話にしても問題は無い。
しかも下の半蔵に至っては、ただの荒っぽい盗賊なのだ。
下の半蔵と仲間たちは、「金持ちから盗んで貧しい人々に分け与える」という義賊みたいな存在ではなく、盗品を売り捌いて生活しているケチな連中なのだ。直接的な表現は無いけど、どうやら強姦もしているみたいだし。
もしかすると、実録ヤクザ映画っぽいテイストでも盛り込もうとしたのか。
だとしても、完全に失敗しているけど。

伊豆守は浪人狩りに力を入れているが、これと上下の半蔵の動きも全く関係が無い。
下の半蔵は無宿者だから浪人狩りの対象には入るけど、それと伊豆守を狙う動きは無関係だし、浪人狩りとは別の理由で下の半蔵は幕府に恨みを抱いているし、金目当てで大名たちを襲ったりしているし。
一方、伊豆守は甲賀だけでなく伊賀も手下に引き入れようとしているので、仮に内藤が標的にならなくても何かの機会に下の半蔵と接触を試みていた可能性が高いし。
とにかく、浪人狩りと上下の半蔵の動きが上手く連動してないいんだよね。

下の半蔵は伊豆守と対面した時、「生きておったのか」と口にする。だが、なぜ死んだと思っていたのか、その理由がサッパリ分からない。堀田や阿部は殉死したけど、伊豆守が殉死したという偽情報を拡散させていたわけでもないし。
どうも下の半蔵と伊豆守には因縁がある気配だが、そこも良く分からないし。後から何か裏事情が明らかにされるのかと思ったら、特に何も無いし。
ってことは、単に「下の半蔵は先代のことで政府に恨みがある」ってだけなのか。
でも、そこもドラマの中で充分に活用できているとは言えないしなあ。

下の半蔵が伊豆守の提案を拒否して寺を去ろうとすると、廊下の突き当たりに怪しい男が立っている。
この時点では正体不明だが、こいつは甲賀忍者の甲賀四郎兵衛だ。彼は頭目なのに、1人だけで半蔵の前に立ちふさがる。
ここで下の半蔵はビビっているけど、四郎兵衛は炎を使うものの、その場から全く動かないんだよね。だから下の半蔵は、簡単に脱出できているのよ。
あと、四郎兵衛は黒塗りの石膏か何かで全身を固めていたらしく、体をねじって粉々に砕くけど、そんな加工をしていた意味は何なのか。ただ動きにくいだけだろ。

小六が小萩を犯そうとした時、下の半蔵は激怒して暴行する。小六は隠れ家を飛び出し、荷物をまとめて逃げている。ところが下の半蔵が引っ越しを言い出す時、小六は何事も無かったかのように仲間として同席している。
だったら荷物をまとめて逃亡した手順は何だったのか。
あと、妹を強姦されそうになったのに、そんな奴を下の半蔵が平気で許しているのも「なんでだよ」と言いたくなるし。
それ以降は小六が小萩に欲情することも無ければ女への愚かしい行動を取ることも無いので、そもそも強姦未遂のシーンなんて無くていいんじゃないかと。そのシーン、ホントに意味が無いんだよね。

下の半蔵は伊豆守の屋敷に潜入した時、再び四郎兵衛と遭遇して襲われる。しかしアクションシーンは淡白でケレン味に乏しく、特に何も無いままで終わってしまう。
小舟を襲撃するシーンもモッチャリしているし、暗くて何がどうなっているのか分かりにくい。
そして本作品でダントツに陳腐なアクションシーンが、次に待ち受けている。
伊賀と甲賀がアメフトのようなプロテクターを装束の下に装着し(木の板を両肩に巻き付けている設定)、ヘルメットを被って戦うのだ。

工藤監督がアメフトを持ち込むアイデアを思い付いたのだが、これも「2人の半蔵」と同じく、そこで完全に思考停止している。アメフトと時代劇を融合させる方法は何も考えておらず、ただ「アメフトっぽい格好で登場する」というだけ。
戦い方にしても、アメフトのような動きは皆無で、普通に刀を振り回すだけなのだ。朝になってからアメフトみたいなフォーメーションは組むけど、互いにぶつかって刀やクナイで戦うだけなので、ちっとも利口な作戦ではないし、面白さも無い。
この「フォーメーションを組んで激突して戦う」という行動を何度も繰り返すので、伊賀も甲賀もアホ丸出しにしか見えない。
せめて「何かをアメフトのボール代わりにして投げる」とか、それぐらい荒唐無稽に振り切ってくれればともかく、そこまで大胆なことをやっているわけでもないし。

小萩は大奥へ潜入した途端に殺されるので、何の役にも立っていない。せめて情報だけでも上下の半蔵に伝えていればともかく、そういうことも無い。
上の半蔵とのロマンスも全く膨らんでいないし、ただの「無駄死に」になっている。
その後、妹を殺された怒りを抱いた下の半蔵が千里を強姦するシーンがあるが、見事に安っぽい展開だ。
話の流れを壊しているし、まるで不必要なお色気サービスだ。映画全体を通してお色気サービスが幾つも用意されているならともかく、そういうことでもないし。
千里が下の半蔵に惚れるとか、下の半蔵が「お前は俺の妻だ」と千里に言うとか、そういうのも陳腐なだけだし。

伊豆守は青山に罪を着せて始末し、保科を失脚に追い込む。伊賀は家綱の居場所も突き止められていないし、もう伊豆守の完勝と言っていいだろう。
それなのに四郎兵衛は、わざわざ上下の半蔵の元へ行き、「報酬の7割を与えるから手を引け」と取引を持ち掛ける。
さらに、取引を拒否されると、家綱の居場所を教えている。
余裕を見せ付けているってことなんだろうけど、ただ無意味な行動を取っているだけのバカな奴にしか思えない。

クライマックスは、薄暗い城内で黒装束の連中が戦うので、何がどうなっているのか分かりにくい。
また、ほぼ刀で斬り合うだけの内容になっているため、ケレン味や変化にも乏しい。
最後は建物の崩壊という展開が用意されており、そこの派手さで引き付けようとしているんだろう。でも、それしか無いからね。
肝心な「忍者の戦い」という部分では、まるで面白味が感じられないままで終わっているからね。
派手な忍術を使わずリアル路線に徹底しているってことでもないし、ただ地味で退屈なだけなんだよね。

(観賞日:2022年8月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会