『下弦の月 ラスト・クォーター』:2004、日本

笠松大学音楽科でピアノを学ぶ望月美月は、19歳の誕生日を迎えた。その夜、恋人の安西知己や仲間たちがライブハウスに集まり、彼女の ためにパーティーを開いた。美月は親友の綾から、知己との浮気を撮影した携帯画像を見せられた。美月はステージでバンドを率いて歌う 知己にハイヒールを投げ付けた。店を出た彼女は、追ってきた知己に「アタシだけを愛してくれる彼氏を失くした」と告げた立ち去った。 左のハイヒールが無いまま歩いたので、足が痛くなった。見上げると、夜空には下弦の月が浮かんでいた。
ギター演奏が聞こえてきたので、美月は誘われるように古びた洋館へ向かった。ドアを開けて中に入ると、自然に明かりが付いた。2階へ 上がると、ある部屋で青年がギターを演奏していた。彼がこちらに気付いたので、美月は「ごめんなさい、勝手に入っちゃって、この曲、 アタシ知ってるの」と告げる。すると青年は「君のために、作った曲だから」と言う。美月は「そんなはずないよ、だって、ずっと昔、 子供の頃から、この曲が弾きたくてピアノ始めたの。でも途中までしか分からなくて」と告げた。
美月が「初めて会った、アタシ以外に知ってる人」と言うと、青年は「初めてじゃない」と言う。美月は「前にどこかで?」と尋ねたが、 彼は何も答えなかった。美月は「ここにも初めて来た気がしないの」と言う。夢で見ていたからだ。「でも夢では、いつも鍵が掛かってて 入れなかった」と彼女は言葉を続けた。青年はロンドンから来ており、1週間だけ洋館を借りているという。
翌朝、知己がバイクで現れて仲直りしようとするが、美月は突き放して立ち去った。美月は洋館に行き、「夢じゃなかったんだ」と呟いた。 中に入った彼女は、幼い頃に薬物自殺した母を発見した時のことを思い出した。いつの間にか、美月はソファーで眠り込んでいた。目が 覚めると、そこに青年がいた。美月は「家、居心地悪くて」と言い、家庭環境を詳しく語り始めた。
1年前、美月の父・宏は継母の紬と再婚した。連れ子の唯は、実は宏の子で、浮気して出来た子だ。「2人とも必死で隠してるけど、 バレバレなんだよね。その妹もアタシに意地悪ばっかりする。母親は気遣いばかりする。家にいるのが嫌だから、出るために金を貯めてる」 と彼女は語る。青年は「ありがとう、戻ってきてくれて」と口にした。ようやく美月は彼の名前を尋ね、アダムだと知った。なぜかアダム は、美月の名前を知っていた。
美月はアダムに、知己が浮気性で、昨晩に別れたことも語った。「大好きだったから今まで何度も許してきたけど、今回は一番の友達と 浮気したからキレた」と彼女は言う。「泣けばいい、そんな時は」とアダムに言われ、美月は涙をこぼした。彼女は、知己がバイクを購入 した時のことを思い出した。バイクの後ろにお守りを付け、「事故ったら絶対許さない」と彼女は告げた。すると知己は「バイクの後ろ には、お前以外は乗せない」と約束した。
知己から電話が掛かって来たが、美月は出なかった。いつの間にか、また彼女は眠り込んでいた。目を覚ますとアダムの姿は消えており、 美月は廊下に出てグランドピアノがある部屋へと移動した。美月は例の曲を弾き始めた。そこへアダムが現れ、手を押さえて演奏を止めた。 その手はとても冷たく、「こんなんじゃ死んじゃうよ」と美月は心配そうに告げた。
アダムは「君のせいだよ、君が死んだから、俺は」と口にして、「行かないでくれ、もう、どこへも」と美月を抱き締めた。美月の脳裏を 、過去にも彼に抱き締められたという断片的な記憶がよぎった。美月は「どこにも行かない、ずっとそばにいるから」と約束し、そのまま 洋館に滞在する。翌日から彼女は学校にも行かず、紬や綾からの電話にも出なかった。
ある夜、アダムから電話が入った。「もう行かなきゃ。このままだと君を連れて行きたくなる」と彼は言う。美月が「じゃあ連れてってよ」 と求めると、アダムは「月が消えるまでに会えたら、一緒に行こう。美術館の交差点で待ってる」と告げた。美月は家に帰り、パスポート を入れた大きなバッグを持って交差点へ向かう。もう月が消えかかっていたが、アダムはいた。交差点を渡ろうとした美月は、それを目撃 した知己に呼び止められた。振り向いたところにトラックが走ってきて、彼女ははねられた。
気が付くと美月は、不思議な場所を歩いていた。後ろから少女が現れ、猫のシベールを捜していると説明した。美月が猫を見つけ、そこを 指差した。少女が猫を抱き上げて礼を述べた直後、その姿は忽然と消えた。美月は追い掛けようとするが、見えないバリアーで妨害され、 先に進めなかった。前方の鉄門は閉じられていたが、一瞬、アダムの姿が見えたので、美月は腕を伸ばした。
中学生の蛍は病室のテレビで、アダムの歌を聴いていた。美月が一緒に猫を捜したのは彼女だ。蛍はシベールを捜して車にひかれ、入院 していたのだ。まだシベールは見つかっていない。同じ頃、知己は美月の18歳の誕生日にネックレスをプレゼントした時のことを回想して いた。外を歩いていた蛍は猫の鳴き声を聞き、シベールではないかと思って目をやった。すると、洋館の開いたドアに猫が入っていき、 ドアが閉まった。蛍は洋館へと足を向けた。その様子を、隣のクラスの三浦正輝が目撃した。
蛍が洋館に入ると、ピアノの曲が聞こえてきた。それは聞き覚えがある曲だった。2階へ上がると美月がピアノを弾いていたが、何度も 同じ箇所で止まっていた。蛍に気付いた美月は、「あの時の、柵のある森の中で猫を捜してた」と告げた。夢ではなかったのだと、蛍は 驚いた。蛍が見掛けたのはシベールではなく、美月がアダムと名付けた別の猫だった。
蛍は「あの後、お母さんに何度も蛍って呼ばれて、気が付いたら病院にいたんです」と説明した。美月は記憶を失っており、自分の名前も 分からなかった。気が付いたらここにいて、外に出ようとしても出られないという。「門に鍵が掛かっていたから?」と蛍が言うと、彼女 は「鍵?誰がそんなことをしたの。そんなことしたらアダムが」と駆け出す。だが、外に出ようとしても、彼女は不思議な力で邸内に 連れ戻された。彼女は「アダムと過ごした1週間以外は何も覚えていない」と述べた。
美月が「このまま一生出られないのかな」と泣くので、蛍はハンカチを差し出した。そこへ正輝が現れが、彼には美月の姿が見えておらず、 蛍が何も無い場所で独り言を呟いているのだと感じた。「それって事故の後遺症かも」と正輝は言い、「行くぞ」と蛍を外に連れ出そうと する。美月が蛍にハンカチを返そうとした時、それが空を浮いているように正輝には見えた。
正輝は事情を理解し、「俺と白石で、お姉さんをここから出してあげるよ」と口にした。名前が無いと困るので、蛍は「アダムの恋人」 ということで、美月をイヴと呼ぶことにした。正輝はノートとペンを取り出し、何かあれば書くよう美月に促した。部屋を出た正輝は、蛍 に「ちゃんと天国へ行けるように手助けしてやろうよ」と告げた。彼らにしてみると、その洋館は廃墟と化した場所で、周囲の人々からは 幽霊屋敷と呼ばれている。だが、美月の目には、キレイな場所として映っていた。
蛍と正輝は周辺で聞き込み調査を行い、洋館の近所に住む堂島家を訪れた。主人の堂島は、「昔、洋館は上條さんという一家の住まい だった。夫婦が引っ越してから20年ぐらいになる。夫婦は息子と娘の4人で住んでいたが、双子の兄の方がオートバイの事故で亡くなり、 両親は弱りきったが、明るい娘がいたおかげで2人とも息子の死をゆっくり受け入れていこうとしていた」と語る。
堂島は「娘は音楽の才能が認められて、高校の途中でイギリスの音楽学校へ留学した。だが、娘は体を壊し、イギリスで19歳で病死した」 と述べた。子供の頃から堂島は「絵描きのおじさん」と慕われ、娘の発表会にも呼ばれていたという。「彼女が元気なら、今頃は立派な ピアニストになっていただろう」と堂島が言うので、蛍と正輝は顔を見合わせた。その娘・さやかをモデルにした絵を、堂島は描いていた。 蛍たちは絵を見せてもらい、携帯で写真を撮った。
美月はアダムにネックレスを貰う夢を見た。目を覚ますと、首から下げたネックレスにS.Kのイニシャルが刻まれていた。正輝は蛍の母 ・江美子を訪ねた。彼は江美子から、1ヶ月ぐらい前に近くの路地でシベールの死体を見つけ、埋葬していたことを知らされた。蛍と正輝 は洋館へ行き、美月にさやかの肖像画を見せた。だが、「何も覚えていない」と彼女は言う。しかし「上條さやか」という名前を聞いて、 美月はネックレスのイニシャルを見せた。「アダムが私の18歳の誕生日プレゼントにくれたの」と彼女は告げた。
正輝は蛍と共に、学校の図書室へ行く。正輝は、蛍が事故に遭った10月4日午前5時頃に、きっとイヴの身にも何かあったと確信していた。 新聞を調べた彼は、「女子大生がひき逃げされて意識不明」という記事を発見した。蛍と正輝が笠松大学へ行くと、知己が美月のことで綾 と話していた。知己は、美月が夜遅くに大きなバッグを持っていたことが心に引っ掛かっており、誰と会おうとしていたのか突き止めたい と考えていたのだ。
美月という名前が出たので、蛍と正輝は知己に声を掛けた。美月の知り合いだと説明し、2人は美月の病室へ案内してもらう。美月の姿を 見た正輝は、「彼女を戻してやらなきゃな」と口にした。蛍と正輝が何か知っているのではないかと考え、2人を尾行した。蛍と正輝は 洋館に入り、得られた情報を説明した。だが、美月は「自分のことのような気がしない」と言う。
美月は知己のことも分からず、「私の恋人はアダムだけ」と口にした。そこへ知己が現われるが、美月の姿が見えない彼には、蛍たちが 悪ふざけをしているようにしか感じられない。彼は「あいつの不幸をネタに遊ぶなんて許さねえ」と怒鳴り、蛍の説明にも耳を貸そうと しない。蛍に殴り掛かろうとした知己は、美月に腕を掴まれた。ノートとペンが空中に浮かび、美月が文字を書いた。知己は蛍たちに説明 を要求した。洋館を出た蛍と正輝は、美月の姿が蛍にだけ見えていることを語った。
美月が1階に下りていくと、さやかの両親と兄がいた。美月は、それを自分の家族だと認識した。兄が部屋を出て行くのを追い掛けようと すると、両親が「行っちゃダメ」と叫んだ。沈んだ様子の父が母に「この家を出よう」と告げると、2人の姿は消滅した。廊下の壁には 家族の写真が飾ってあった。だが、さやかの顔の部分だけは破り捨てられていた。
また洋館を訪れた蛍と正輝に、美月は「建築家の父や母、双子の兄と一緒に住んでいた」と語った。そこへ知己が現れ、蛍たちに「美月の 父は会社員で、兄はいない」と告げる。彼は「美月の意識が戻るんなら全力で協力する。きっと、あいつは妄想を見てるんだ、アダム なんて恋人もいない、もしかしたら、さやかの霊に取り憑かれてるんじゃないか」と口にした。
蛍は知己に、「イヴは、アダムがよくギターを弾いてくれたと言っていた」と告げた。その曲を蛍は、テレビで聴いたことがあった。 CDショップに出掛けた蛍と正輝は、店員の情報により、それがEvil Eyeというバンドの曲だと知った。20年ぐらい前に、イギリスの インディーズでカリスマ的バンドだったという。日本では輸入のアナログしか入手できなかったが、復刻版CDが出るらしい。ボーカルが アダムで、曲名は『ラスト・クォーター』だということも分かった。
知己はEvil Eyeのビデオを手に入れた。彼と蛍は、正輝の家に集まってビデオを見た。ラスト・クォーターとは下弦の月という意味で、 今と全く同じ月が見えるのは19年後の1週間だけだと正輝は説明した。3人はネットでアダムのことを調べ、彼が19年前にアダムが1枚の アルバムを残して死んでいることを知った。ネット情報によると、日本人の恋人を追って死んだらしい。改めてビデオの続きを見ると、 さやかの姿が写っていた。さやかはアダムの恋人だったのだ。3人はイヴにアダムの死を告げることで美月の記憶を蘇らせ、病室の肉体に 戻そうとするのだが…。

監督・脚本は二階健、原作は矢沢あい、製作は案納俊昭&吉田剛&瀧川正靖&岩田安弘&古屋文明&橋本太郎&大島和樹、製作統括は 中井猛&久松猛朗、プロデューサーは梶田裕貴&小林敬宜&長谷川真澄&伏木賢一、プロダクションプロデューサーは神康幸、 アソシエイトプロデューサーは青木一洋、撮影は中山光一、編集は穗垣順之助、録音は鴇田満男、照明は松隈信一、美術は佐々木尚、 音楽は[くさかんむりに配]島邦明。 テーマ曲は「THE CAPE OF STORMS」Performed by HYDE、ピアノバージョンは佐々木真里、ギターバージョンは石成正人。
出演は栗山千明、成宮寛貴、HYDE、緒形拳、陣内孝則、小日向文世、黒川智花、落合扶樹、伊藤歩、富田靖子、うじきつよし、矢島健一、 中川安奈、奥貫薫、やまだひさし、大森朋南、石川伸一郎、さくら、渡辺光彦、中村有沙、市川佳奈、目黒真希、三浦敦子、 霧島れいか、高橋研、THE MARQUEEら。


矢沢あいの漫画『下弦の月』を基にした作品。
美月を栗山千明、知己を成宮寛貴、アダムを二度目の映画出演となるL'Arc〜en〜Cielの HYDE、堂島を緒形拳、正輝の父・正人を陣内孝則、知己の父・洋祐を小日向文世、蛍を黒川智花、正輝を落合扶樹、さやかを伊藤歩、紬を 富田靖子、宏をうじきつよし、さやかの父を矢島健一、さやかの母を中川安奈、江美子を奥貫薫、CDショップの店員をやまだひさしと 大森朋南が演じている。
それにしても、この映画に緒形拳は勿体無いだろ。大物すぎるという意味でミスキャストだ。
彼ほどのビッグネームが出演するような映画でも、役柄でもない。もうちょっと小粒な俳優でいい。そこだけ役者が強くなりすぎている。

美月は出会ったばかりのアダムに、自分の家庭環境をベラベラと喋る。
そこの不自然さを受け入れられる寛容な気持ちが無いと、この映画に入っていくのは難しい。
そこって、実は大きなポイントかもしれない。
あと、美月がアダムに頼まれて洋館に留まる行動に不自然さを感じるが、それは「魅入られている」という感じの描写が弱いから だろう。
それと、アダム側に「美月を妖しい魅力で虜にする」という力も足りていない。

洋館の青年が、どこからどう見てもバリバリの日本人なのに「アダム」と名乗るシーンで苦笑してしまったら、もうオシマイだ。
そこは「ああ、アダムなのね」と、何も考えずに受け入れないといけない。
まあ設定としてハーフだから、日本人の顔でアダムってのもおかしくはないし。
ただ、映画を見ていても、ハーフだという設定は終盤まで分からないんだけどね。

「泣けばいい、そんな時は」とアダムが言い、美月が涙こぼすと、アダムはタバコをくわえてギターの演奏を始める。
そのカッコ付ける態度に笑ってしまったら、もうオシマイだ。
このキザっぷりは、その後も続くぞ。
ビデオでインタビューに応じる様子も、「かっこいいことは、なんてかっこわるいんだろう」と感じたら、どうしようもない。
そういうキザっぷりを「カッコイイ」と感じられるかどうかは、この映画の生命線だから。
アダムがただの気持ち悪い人にしか見えなかったら、まるでダメだよね。

美月が車にはねられた後、現世での彼女がどういう扱いになっているのか、なかなか明らかにされない。
それを隠したまま話を進めようとするのなら、なるべく洋館の外の「現実の世界」に戻ってきちゃダメでしょ。
で、美月が意識不明なのは、正輝が新聞を調べるシーンで分かるが、そこまで引っ張ったメリットを感じないなあ。
むしろ、さっさと見せちゃってもいいよ。狙いとしては「美月は死んだ」というミスリードにあるのかもしれないが、効果的に作用して いるとは思えないし。

美月は蛍に「アダムと過ごした1週間以外は何も覚えていない」と言うが、その1週間の出来事が描写時間も短いし、中身も 薄っぺらい。
だから「アダムという恋人がいて」とか、アダムへの熱情を語られてもピンと来ないんだよな。
そこを「魔力チックなモノで、アダムがあっという間に女を魅了して」ということで納得できる形になっていればいいんだろうが、HYDEの 芝居や佇まいでは、そこの説得力は無い。
歌手としてのカリスマ性は置いておくとして、演技者としては、完全にラズベリーだからね。

たぶん本作品で最も大事なのって、耽美と幻想の世界観なんだよね。 でも、色々とファンタジックな映像表現をやっているんだけど、なんか陳腐で安いんだよな。耽美と幻想が不足していて、ただ陰気なだけ なんだよな。
あと、蛍と正輝が周辺調査を始める時の音楽や雰囲気が急に軽やかになるのは違うだろ。正輝がラストクォーターの意味を語る時には、 彼がコスプレして紙芝居で説明する映像が入るが、そこだけメルヘンの世界になっちゃうけど、それも違うだろ。
「全てが幻想的な世界」という作りじゃなくて、蛍たちが生きている現実世界と、洋館の幻想世界という2つの空間があって、それは キッチリと境界線で分けられている感じなのよね。
だったら、現実世界の方の「現実感」は、もっとキッチリと描写すべきなんじゃないの。そこがフワフワした感じで、足元が定まらない。
そっちまで洋館の幻想世界に引きずられてる感じだ。
もし全体を幻想的世界として染め上げるつもりだったとすると、それはそれで幻想の力が足りていないし。

終盤、EVIL EYEのビデオを見るあたりで、正輝が有名な俳優の息子だということが判明するが、「そんなの、今さら明かされてもなあ」と 思ってしまう。
だったら、もっと早く提示すればいい。そんなに終盤になってから明かすぐらいなら、別に言わなくてもいいよ。その設定はストーリー上 において、何の意味も持っていないんだから。エピローグで、父親の撮影に同行してロンドンの墓を訪れる正輝の姿が描かれるが、その ためだけにあるようなモンだしね、父親が俳優だという設定は。
あと、正樹が蛍の単なる同級生(しかも同じクラスでもない)という設定なので、この2人が一緒に行動するところが引っ掛かるなあ。
どちらか片方が相手に好意を持っているということなら分かるんだけど、映画を見ている限り、それは全く感じられない。話が進む中で、 その兆候が見えてくるでもないし。
原作だと、蛍の憧れの相手が正樹という設定らしいんだけどね。

知己の視点による回想シーンが何度か入るが、そんなの要らないでしょ。
「蛍だけは美月の姿が見える」と説明を受けた後には、美月と砂浜デートした時の回想が入ったりするけど、美月と知己の愛の結び付き って、全く感じないのよ。
何しろ冒頭で浮気が発覚してるし、その後に浮気性なのもバラされてるからね。
そこで知己が嗚咽しても、まるで共感しないよ。

知己がちっとも魅力的じゃないんだよな。ただの浮気男じゃねえか。
美月が意識不明になった後、見舞いに行ったり、美月の事故の時の行動を調べたりしてるけど、それによって好感度がアップすることは 全く無い。
漫画ではどうなのか知らないが、映画では知己の浮気性の設定を変更した方がいいよ。
逆に「付き合っていなかった」という設定変更ならアリだよな。つまり、知己は一途に思っていたけど、美月は迷っている、もしくは 友達関係だと思っているという設定とかさ。

美月は自分の記憶を取り戻しても、なお泣いて「アダムは私を孤独から救い出してくれた」と言うが、そこまで孤独だったかね。
洋館に入る直前に知己とは別れたけど、それまでは彼や友達と仲良くやってたじゃねえか。
継母や家族と折り合いが悪かっただけで、その程度で孤独だとか言われてもなあ。
「アダムほど私を大切にしてくれる人はいないんだよ」とか言われても、そこまで彼女の強い孤独感が表現されていないから、そこが薄く て浅いから、「何を甘えたこと言ってんの、こいつ」という風にしか思えない。

幽霊となった美月の目にアダムしか見えていないのは、前世の記憶に捉われているからだけど、知己のことを微塵も思い出さない、そこで 揺らいだり迷ったりすることが全く無いってのは引っ掛かるよなあ。
それぐらい完全に知己の存在が抹消されているのに、蘇ったらヨリを戻すってのがさ。
アダムとさやかの結び付きは死んでも忘れないぐらい強いのに、美月と知己の結び付きって、すげえ弱いんだよな。
まあ一番の親友と浮気されちゃってるから、そんな奴と強い結び付きを感じる方がおかしいか。
でも結局、そんな不誠実な浮気男とヨリを戻してるんだよな。
モヤッとするなあ、その終わり方。

(観賞日:2010年2月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会