『課長 島耕作』:1992、日本

初芝電産広告製作部の課長を務める島耕作は、京都への出張から自宅へ戻った。留守番電話には、妻の怜子からのメッセージが入っていた。娘の奈美を連れて家を出た怜子は、引っ越し先が決まったことを述べていた。翌朝、出社した島は他の社員たちと共に、テレビを通じての吉原初太郎会長の訓示を拝聴する。仕事に入ろうとした島は、部長の福田敬三から「今夜、空けといてくれ。宇佐美専務が直々、お会いになって下さるそうだ」と告げられる。
島は宇佐美に浮かない顔で返事をした後、部下の江口幹夫と田代友紀に仕事の指示を出す。印刷会社の矢部がやって来て、完成した新製品「ロボムービー」の宣伝ポスターを島たちに見せた。ライバルのソラー電気も同じ機種を開発しているが、プロジェクトの立ち上がりは初芝電産の方が早く、島は「一気に独走してやるさ」と自信を見せる。夜、島は宇佐見と福田の会食に参加し、京都出張の際に大泉専務がどのように行動したかを説明する。すると宇佐見の腹心である福田は、「大泉の手柄なんてどうでもいいんだ」と言う。
宇佐見は次期副社長の座を争うライバルである大泉専務を蹴落とすため、私生活でのスキャンダルを握ろうと目論んでいた。島は吉原の娘婿である大泉専務から買われており、課長昇進も彼の推薦があったからだった。そんな島を、宇佐見は自分の派閥に引き入れようと考えていた。次の朝、初芝電産では役員会議が開かれ、大泉はコスモス映画を買収する計画について説明する。ハツシバアメリカ社長である大泉は、70億ドルを上限として買収を進めるつもりだ。
島は大泉派閥に属する同期の樫村健三に呼ばれ、大泉の部屋に連れて行かれる。大泉は銀座のクラブ「クレオパトラ」てホステスをしている馬島典子が愛人であることを明かし、アメリカ出張中の監視役を務めるよう島に依頼した。島は愛人である宣伝媒体部OLの鳥海赫子とベッドを共にした後、江口に電話を掛けて仕事の結果を尋ねる。島は赫子を品川パシフィックホテルまでタクシーで送り、自宅へ戻ろうとする。赫子が車内にプレゼントの紙袋を忘れていたので、島はホテルへ戻った。赫子を捜した島は、彼女が矢部から封筒を受け取っている現場を目撃し、声を掛けずに立ち去った。
翌日、出社した耕作は、友紀から朝刊を見せられる。すると、そこには矢部から見せられたのと同じデザインを使ったソラー電気の広告が掲載されていた。島は宣伝媒体部の庭部長から叱責され、平謝りするしかなかった。福田から呼び出しを受けた島は、「内部にスパイがいるな。もし広告製作部なら握り潰す。だが、もし媒体部だとしたら、庭の汚点になる。その時は叩いてやるか。とにかく、君が指揮して調査しろ」と告げられる。島は外部の調査機関を使おうとするが、福田は「経費節減だ」と言い、部下を使うよう命じた。
その夜、島は「クレオパトラ」へ行き、典子を呼んでもらう。典子は他の客から指名を受けて去る時、「お店の後、付き合ってね」と口にした。島がアフターに連れて行くと、典子はカラオケでデュエットして盛り上がる。泥酔した彼女は、タクシーの中で甘えた態度を取った。島は一人では歩くこともままならない彼女を西麻布のマンションまで送り届けた。すると典子は「好きよ」と唇を重ねた。島がその気になったところで典子はパッと離れ、「おやすみなさい」と部屋に入ってしまった。
翌朝、島は江口と友紀から調査報告を受け、矢部がソラー電気に情報を流していたことを知る。すぐに島は、赫子が矢部に情報を漏らしたことを悟った。彼は赫子を呼び出し、辞職するよう持ち掛けた。すると彼女は、島の寝物語が情報源であることを語り、「それを白状したら、大変よね」と微笑する。だが、彼女は退職することを告げ、島を本気で好きになりそうで困っていたことを目を潤ませながら吐露する。島は彼女から、矢部が抱き込んでいる黒幕がいることを知らされる。
「誰だ」と尋ねる島に、赫子は「明日、私を見てて。3時に赤いコーヒーカップ」と告げた。次の日、赫子の行動を注目していた島は、彼女が赤いコーヒーカップを置いた庭が黒幕だと気付いた。後日、福田は役員会議の場で挙手し、ソラー電気に広告内容を漏らし、それを利用して300万円を着服していた犯人が庭であることを、証拠を提示した上で指摘した。追い詰められた庭は謝罪して事実を認めた。副社長が筆頭専務の水野に「明朝一番に報告書だ」と指示している隣で、宇佐美はほくそ笑んだ。
夜、島は宇佐美と福田から料亭に呼び出され、会食に出席した。福田は庭が辞表を書いたことを話し、宇佐美は庭の直属の上司である水野も失脚したことを告げる。宇佐美は「近く、水野の穴埋めとして大泉が帰国するだろう」と言い、福田は「戦いはこれからだ。奴の味方のような顔をして、今回のような働きを頼むぞ」と島に告げる。島は強張った表情で、注がれた酒を飲み干した。宇佐美と福田を見送った後、樫村がやって来た。島は樫村に誘われ、クレオパトラへ出掛けた。
クレオパトラに入った島は、他のテーブルにいる典子にチラッと目をやった。樫村は「しばらく2人にしてくれないか」とホステスを遠ざけ、大泉の本社転勤が決まったことを島に教える。樫村から「今の内に大泉派に加わらないか」と誘われ、「俺はウチの部長みたいに、ベッタリ誰かにくっ付いて行く気は無いんだ」と派閥入りを断った。そのテーブルに典子がやって来ると、島と樫村はぎこちない会話になってしまった。
島がトイレから出ると典子が待っており、「どうするの、こないだの続き」と誘惑してきた。島は典子のマンションへ行き、彼女と関係を持った。そこは大泉が買い与えたマンションだった。典子は大泉がお目付け役として島を差し向けたことを知っていた。典子は島に、他の男と浮気していること、質草を取る目的で肉体関係を持ったことを何食わぬ態度で明かす。「まあいいさ、大泉専務に忠誠を尽くす気なんて、さらさら無いし」と島は言う。
宇佐美と福田は吉原の邸宅を訪れ、彼が座ったまま死んでいるのを発見した。宇佐見は福田に「今、ここにいるのは我々だけだ」と言う。福田は島に電話を入れ、他言無用で指示通りに動くよう告げる。島は言われるままに宇佐見の自宅へ赴き、初芝電産の株を持ち出した。それから指示されたマンションへ行き、そこにいた女性の株と交換する。島は交換した株を兜町へ持って行き、それを売却した。翌日、吉原の死去が発表され、初芝電産の株は暴落する。島は自分がインサイダー取引の片棒を担がされたことに気付いた…。

監督は根岸吉太郎、原作は弘兼憲史(講談社 週刊モーニング)、脚本は野沢尚、プロデューサーは増田久雄、アソシエートプロデューサーは佐倉寛二郎、撮影は川上皓市、美術は徳田博、照明は磯崎英範、録音は林大輔、編集は川島章正、助監督は北川篤也、音楽は岩代太郎。
出演は田原俊彦、麻生祐未、津川雅彦、佐藤慶、三木のり平、豊川悦司、原田大二郎、坂上忍、渡辺満里奈、森口瑤子、鳥越マリ、高松いく、鈴木瑞穂、鶴田忍、高城淳一、蛍雪次朗、入江若葉、春風ひとみ、石井富子(現・石井トミコ)、桜むつ子、三田登喜子、入江正徳、望月太郎、篠原大作、岸本功、渓太、斉藤勉、藤岡大樹、門脇三郎、山浦栄、村上幹夫、小寺大介、佐川二郎、木村修、泉福之助ら。


週刊モーニングに連載されていた弘兼憲史の同名漫画を基にした作品。
監督は『探偵物語』『ひとひらの雪』の根岸吉太郎、脚本は『さらば愛しのやくざ』『殺人がいっぱい』の野沢尚。
島を田原俊彦、典子を麻生祐未、大泉を津川雅彦、宇佐美を佐藤慶、吉原を三木のり平、樫村を豊川悦司、福田を原田大二郎、江口を坂上忍、友紀を渡辺満里奈、赫子を森口瑤子、怜子を鳥越マリ、奈美を高松いく、水野を鈴木瑞穂、庭を鶴田忍が演じている。

まず田原俊彦は明らかなミスキャストであり、そして力不足。
島耕作は33歳の設定だが(原作での課長昇進は35歳の時)、当時の田原が31歳だから少し若いとか、31歳の上に年齢より若く見えるから余計に合わないとか、そういう問題ではない。当時の彼が33歳だったとしても、あるいは33歳に見えたとしても、やっぱりダメなものはダメ。
仕事がバリバリ出来る男には到底見えないし、大手企業の課長にも見えない。
ただの薄っぺらい奴にしか見えない。

仮に、どんなに脚本が優れていたとしても、どんなに演出が素晴らしかったとしても、トシちゃんが島耕作を演じている時点で、どうにもならない。
東宝が彼を本作品の主役に決めた時点で、もう「これから失敗作を世に送り出しますよ」と宣言しているようなものだ。テレビの2時間ドラマで充分だ。
っていうか、それでも厳しいだろう。
なんで東宝はトシちゃんを起用したのか、責任者のセンスを疑うぞ。
ドラッグでもやって、ラリっていたのか。

配役で既に失敗作であることは確定しているが、内容もシオシオのパーだ。
原作を完全に無視するとか、登場人物の設定や相関関係を大幅に逸脱するとか、そういうことはやっていない。
細かい違いはあるが(島の部署が販売助成部宣伝課ではなく広告製作部になっているとか)、むしろ、かなり原作を意識した内容に仕上げている。
ただし、それは原作のエピソードを幾つか抽出して組み合わせ、その上っ面をなぞっているだけに過ぎない。

登場人物の誰一人として魅力的ではないし、心に残るようなエピソードも見当たらない。
トシちゃんの芝居がどうとか、そういうことだけでなく、この映画で描かれる島耕作という男は、企業人としても、男としても、人間的にも、まるで惹き付けられるモノが無い。
専務や部長の連中は、「野心や欲望に満ちたドス黒い奴ら」というワルとしての凄み、いやらしさが不足している。
典子はファム・ファタールとしてのアピールに欠けており、赫子はエロスに物足りなさがあり、江口や友紀は本作品の軽薄さを助長している。

それと、原作漫画を映画化する際に、どの要素を抽出すべきかってことを考えると、社内の派閥争いじゃないと思うんだよなあ。その部分 で観客を引き付ける物語を構築するのって、かなり大変な作業ではないかと感じる。
それよりも島と女性との関係、それに絡めての島の仕事での成功、そういったところをメインに据えた方が良かったんじゃないかと。
この映画でも島と女性の関係は描写されているが、それは派閥争いに絡んでのものだからね。
あと、島と女性の関係を重視すべきってことを考えると、もう島は離婚している設定にした方がいいんじゃないかな。

この映画で描かれる内容だと、島の役職や部署って、ほとんど意味が無いんだよね。
ほとんど仕事らしい仕事はやってないし。
まあ一応、ポスターのデザインが流出するエピソードのところで広告製作部であることに少しは意味を持たせているけど、その部分って「派閥争い&典子との関係だけでは上映時間を埋め切れないので入れてみた」という感じであり、他のエピソードと上手く絡み合っていない。
だったら串刺し式の構成で処理すりゃいいのに、並行して描くから、余計に「無理にハメ込んだ」という印象が強くなってしまう。

あと、やっぱり『課長 島耕作』を映画化するなら、島耕作のファム・ファタールである大町久美子は登場させるべきだったと思うなあ。
作品の序盤部分を映画化しているので、京都から戻った島がショールーム課に配属された時に出会う久美子は、もちろん登場しなくて当然っちゃあ当然だ。ただ、そこは映画版として脚色し、久美子を登場させてもいいんじゃないかと。
いっそのこと、島がショールーム課に配属されるところから物語を始めてもいいし。
ここで久美子を登場させないってのは、まさかと思うが、シリーズ化でも考えていたってことなのか。
いや、まさかね(どうやら、その「まさか」らしい)。

(観賞日:2013年7月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会