『K-20 怪人二十面相・伝』:2008、日本
ラジオから臨時ニュースが流れてきた。「大本営陸海軍部。12月8日未明、帝国陸海軍は西太平洋においてアメリカ、イギリス軍との 平和条約の締結に合意。これにより、第二次世界大戦は回避されました」という内容だった。日本は19世紀から続く華族制度によって、 極端な格差社会が生まれていた。職業の変更は禁じられ、恋愛の自由も無く、結婚は同じ身分の者同士でのみ許されていた。そんな中、 上層階級をターゲットとして、美術品や骨董品を次々と魔法のような手口で盗む怪人二十面相が世間を騒がせていた。
1949年、帝都。学術会議において、八木博士はニコラ・テスラ博士が研究していた無線送電システム「テスラ装置」の模型を持ち込み、 講義を行っていた。「これが実用化されれば世界的エネルギー革命が起きる」と彼が話している最中、いきなり助手が装置を勝手に操作 した。助手はボタンを押して爆発を起こし、博士を吹き飛ばした。パニックになる列席者の前で、彼は服を脱ぎ、怪人二十面相の姿を 現した。二十面相は「テスラの模型はいただく」と告げ、その場から姿を消した。
名探偵である明智小五郎は、助手の小林少年と共に会場へ赴いた。明智は羽柴財閥の娘である葉子との結婚を控えており、集まった記者 からは、それに関する質問も飛んだ。明智は浪越警部から、八木博士が落雷に遭ったような火傷を負って病院に運び込まれたことを聞く。 一方、グラントサーカスでは、サーカス団の花形・遠藤平吉が見事な軽業を披露して拍手喝采を浴びていた。カラクリは源治が担当して いる。興行の後、団長の南部先生が咳き込むので、少年団員のシンスケが心配する。
平吉が「お医者に見せなきゃな」と言うと、シンスケは「でもお金が掛かるんでしょ。オレたち食っていくのも精一杯なのに。オレたち 幾ら頑張っても上の階級にはなれないし。何も変わらないんだよ」と語る。すると南部は「いつか、こんな世の中は終わるさ。その時は、 お前たちが新しい世界を作って行くんだ」と語った。そこへカストリ雑誌「事件実話」の記者・殿村弘三が来た。彼は平吉に、明智と葉子 の結納の様子をカメラで撮ってきてほしいと依頼し、お礼として大金を見せた。
小林は明智に、亡くなった葉子の祖父・羽柴侯爵がテスラの装置に興味を持ち、一時は出資していたことを語った。小林は、羽柴が石油に 代わるエネルギーの開発を目指していたのではないかと語る。明智は「そんな話は聞いたことが無い」と言う。小林は、二十面相が兵器と してテスラ装置を狙っているのではないかと意見を述べる。だが、完成した装置の場所は、八木博士も知らなかった。
明智がテレビを見ていると、二十面相が結納の儀の当日、羽柴財閥が保有するブリューゲルの絵画『バベルの塔』を盗むという予告状を 出したことが報じられた。明智は浪越から電話を受け、「式場に持ち込んで捕まえれば手間が省ける」と余裕の表情で告げた。当日、平吉 は天窓から撮影しようとするが、カメラのシャッターを押した途端に建物で爆発が発生した。彼は小林に見つかり、「怪盗二十面相だ」と 叫ばれた。会場に転落した平吉は「オレは二十面相じゃない」と弁明するが、軍警に捕まった。
平吉が持っていたカメラは、爆弾の起爆装置になっていた。彼は刑事に殿村という男から頼まれたことを説明するが、事件実話という雑誌 は存在しなかった。さらに、平吉の部屋からは、ロマノフ事件で二十面相によって盗まれた宝石が発見された。平吉は激しい暴行を受けた 。一方、葉子はメイドたちから明智との結婚を祝福されるが、浮かない顔を浮かべた。このまま敷かれたレールに乗って行くことに、彼女 は疑問を感じていた。
葉子の元を明智が訪れ、「美術品としては何の価値も無い絵を、二十面相が盗もうとした理由が知りたい」と言う。葉子は祖父から、その 絵について「大切な絵だから決して手放してはいけない」と言われていた。平吉は牢獄で会った囚人から、「オレは素顔の二十面相を見た ことがあるが、顔に傷のある男だった」と聞かされた。平吉は殿村の顔を思い出し、彼が二十面相だと確信した。そこへ、彼がサーカスで 飼っていた鳩がメッセージを持って飛んで来た。
平吉は警務局の車で護送されるが、その途中で橋が動き、彼は脱走した。橋を改造したのは、サーカスでカラクリ仕掛けを担当していた 源治だった。彼は平吉を泥棒長屋へ連れて行き、そこの住人たちの協力があったことを明かした。源治も義賊であり、元詐欺師の妻・菊子 と長屋で暮らしていた。平吉は「泥棒だか義賊だか知らないが、こずるくて汚くて、二十面相と同じだ」と罵り、サーカスへ帰ると告げて 立ち去る。だが、サーカスのテントは燃やされて、誰も残っていなかった。
町ではあちこちに平吉の指名手配写真が貼られており。彼は人々に追われて逃げ出した。シンスケと遭遇した平気地は、軍警がサーカスの 団員たちを殴り付けて連行したことを告げられた。シンスケだけは、隙を見て逃げ出したのだ。シンスケは平吉を、ねぐらに連れて行く。 彼は寝床にいる弟分のコウタを紹介し、「具合が悪くて何も食べない」と言う。平吉はコウタの様子を見て、もう死んでいることを シンスケに教えた。
シンスケは平吉に「他にも食わせてやらなきゃならない仲間がいる」と言い、そこに暮らしている大勢の浮浪児たちの姿を見せた。彼は 、一人で浮浪児たちを養っていた。平吉は源治の元へ戻り、「泥棒を教えてください。何をしなきゃいけないか分かったんです」と頭を 下げる。源治は泥棒長屋に代々伝わる泥棒修業のノートを差し出し、「これを貸してやる。ただし泥棒になるためじゃない。この中には 二十面相と渡り合うためのヒントが一杯詰まってる。二十面相を捕まえて無実を証明したらサーカスに戻れ」と告げた。
平吉はノートに目を通し、真っ直ぐに町を走り抜ける逃走と侵入の修行を開始した。さらに彼は、あっという間に変装の技術を習得した。 葉子がウェディングドレスの試着をしていると、デザイナーに化けていた二十面相が正体を現し、テスラ装置のありかを教えるよう迫った 。修行していた平吉は、ドレスのまま逃げている葉子と、彼女を追い掛ける二十面相を目撃した。二十面相が葉子を捕まえたところに、 平吉が現れた。二十面相はマスクを外し、殿村の顔をさらした。
二十面相は平吉を見て、「お前を身代わりに引退しようと思っていたが、まだしばらくは二十面相としてやっていくことにしたよ」と不敵 に笑う。二十面相は平吉を叩きのめすが、軍警のサイレンが聞こえたので逃げた。平吉は葉子を連れて逃走し、源治の元へ戻った。葉子は 初めて貧民の生活に触れ、驚いた様子を示した。平吉は「アンタたちのせいで、俺たちはこんなとこに住んでる」と吐き捨てた。一方、 明智は葉子が二十面相に連れ去られたと知らせを受け、小林に少年探偵団を使って情報を集めるよう指示した。
平吉はシンスケたちのねぐらへ葉子を連れて行き、その実態を語った。「せめて施設に連れていってあげましょう」と葉子が言うと、平吉 は「そんな所があるなら、とっくに連れて行っている。それに、帝都には何万という浮浪児がいる。どうやって助けるというんだ」と 言い放ち、偽善者として彼女を批判する。翌日、ねぐらに留まった葉子は、子供たちに食べ物を配り、学校に行かせると決めたことを平吉 に話す。その様子を、探偵団が観察していた。
葉子から素性を知らされ、平吉や源治たちは驚いた。屋敷に戻った葉子は、訪れた明智に「平吉様は二十面相ではなく、本物から助けて くれたのです」と語る。彼女は明智を、何とか長く留めようとする。同じ頃、長屋の面々は、小林が留守番している明智の事務所で停電を 起こした。菊子と子供たちが小林の目を引き付けている間に、電力会社の職員に化けた平吉と源治は、金庫から『バベルの塔』を盗み出す 。だが、去ろうとしたところへ明智が戻り、2人を捕まえた。
葉子は明智に、平吉たちに絵を盗むよう頼んだのが自分だと打ち明けた。そして、絵にテスラ装置の手掛かりが隠されているのではないか と考えたことを話し、「二十面相より早く見つけて装置を壊したかった」と言う。平吉は「絵の具の下にあるんじゃないか」と口にした。 絵の中を調べるには電磁波撮影機が必要で、それは陸軍省情報研究所にある。情報機関の中枢で、警備は厳重だ。
葉子や明智が正式に依頼すれば、陸軍省に協力してもらうことは出来そうだった。しかし葉子は「軍が兵器としてのテスラ装置の価値に 気付いたら、大変なことになる」と反対した。平吉は明智に、「自分たちを使ってくれと言う。その代わりに自分が二十面相じゃないと 証言してくれ」と取引を持ち掛けた。平吉は明智に変装し、情報研究所に潜入した。軍警が平吉を追い回している間に、源治が撮影機を 使用した。平吉はテスラ装置のありかに関する謎を解くが、いつの間にか「テスラ装置ヲ頂戴スル」という二十面相の予告状が届けられて いた。その直後、明智が何者かに撃たれた。平吉は装置を破壊するため、源治と共に羽柴邸へと向かった…。監督・脚本は佐藤嗣麻子、原作は北村想、脚本協力・VFX協力は山崎貴、製作は島田洋一&阿部秀司&平井文宏&島谷能成&島本雄二& 亀井修&西垣慎一郎&大月昇&島村達雄&高野力、プロデューサーは安藤親広&倉田貴也&石田和義、アソシエイトプロデューサーは 小出真佐樹&伊藤卓哉&高橋望、エグゼクティブプロデューサーは阿部秀司&奥田誠治、製作統括は堀越徹、撮影は柴崎幸三、編集は 宮島竜治、録音は鶴巻仁、照明は水野研一&三善章誉、美術は上條安里、VFXディレクターは渋谷紀世子、アクション監督は横山誠& 小池達朗、怪人二十面相衣装・マスクデザインは田島昭宇、特殊メイクデザイン・特殊造形は藤原カクセイ、音楽は佐藤直紀。
主題歌はオアシス『ショック・オブ・ザ・ライトニング』、作詞・作曲:ノエル・ギャラガー。
出演は金城武、松たか子、仲村トオル、鹿賀丈史、國村隼、高島礼子、本郷奏多、益岡徹、要潤、串田和美、嶋田久作、小日向文世、 大滝秀治、松重豊、今井悠貴、斎藤歩、木野花、飯田基祐、猫田直、藤本静、大堀こういち、高橋努、田鍋謙一郎、神戸浩、市野世龍、 山本光洋、ふくろこうじ、石下文裕、山本匡佑、宇都隼平、俵広樹、荒川真、伊藤慎、ルスラン・ザバドフ、オレッグ・ クラスニャンスキー、野貴葵、俵木藤太、中村隆天、矢柴俊博、浅沼晋平、野口雅弘、田中昌宏、児玉貴志、柳東士、 阿部亮平、古藤りょうま、松田龍、阿部暖、松田知鉱、金倉浩裕、阿部宏ら。
劇作家の北村想は、江戸川乱歩の『少年探偵団』に登場する怪人二十面相を題材にした小説『怪人二十面相・伝』を執筆している。その 小説を基にした作られたのが、この映画である。
ただし、第二次世界大戦が起こらなかったパラレルワールドや、極端な格差社会といった設定は原作には無いもので、かなり大幅な脚色を 加えているようだ。
「K-20」は「ケイ・トゥウェンティー」と読むらしい。
平吉を金城武、葉子を松たか子、明智を仲村トオル、殿村を鹿賀丈史、源治を國村隼、菊子を高島礼子、小林少年を本郷奏多、浪越を 益岡徹、八木博士の助手を要潤、八木博士を串田和美、デザイナーを嶋田久作、南部先生を小日向文世、羽柴会長を大滝秀治、牢屋の囚人 を松重豊、シンスケを今井悠貴が演じている。
プロトレイサー(パルクールのプレイヤー)であるルスラン・ザバドフとオレッグ・クラスニャンスキーが、平吉と怪人二十面相の スタント・ダブルとしてパルクールを披露している。金城武は相変わらず日本語の滑舌が悪く、芝居に難がある。
口の中でセリフがモゴモゴしてる感じになっちゃうんだよな。
そのせいで、平吉というキャラクターまで、何となくモッサリしたイメージになってしまう。
ただ、今回は彼の大根ぶりよりも、松たか子のラジーな存在感の方が強い。
「困りますわ」とかいうお嬢様口調も、跳ね返りの元気キャラも、なんか妙に寒いことになっている。冒頭の「アメリカ、イギリス軍との平和条約の締結に合意。これにより、第二次世界大戦は回避されました」というラジオの音声で、 いきなり気持ちが萎えてしまう。
まず米英をアメリカ・イギリスと呼んでいることに違和感がある。
あと、当時は第二次世界大戦ではなく大東亜戦争と呼ばれていたとか、その時点で既にアウトではあるんだが、それ以上に大きな問題が あるでしょ。
第二次世界大戦が起きていないのであれば、「第二次世界大戦が回避されました」と言うわけがないでしょ。
なんで起きてもいない戦争に正式な名前が付いてるんだよ。それに、第二次世界大戦が回避されたのに、次のシーンの時代設定が1949年って、どういうことだよ。
じゃあ1945年まで続いた戦争は、どういう設定になっているんだ。
ひょっとして、ラジオの音声が入ったのは1945年より以前で、数年が経過して1949年になりましたってことなのか。だとしても、無駄に 分かりにくいぞ。
その辺りは、テロップで「戦争は回避され、極端な格差社会になって云々」という表示を出しておけば、違和感も少なくて済んだんじゃ ないのか。
っていうか、架空の日本を舞台にしたのは、綿密な時代考証が面倒だったからじゃないか、何をやっても「架空の世界だから」 ということで誤魔化してしまおうってことじゃないのかと、邪推したくなる。
なんせ、その架空世界の設定も、すげえディティールがアバウトなんだよな。冒頭で「日本は19世紀から続く華族制度によって、極端な格差社会が生まれていた。職業の変更は禁じられ、恋愛の自由も無く、結婚は 同じ身分の者同士でのみ許されていた」という説明があるが、ここで恋愛とか結婚について説明したら、それをメインにした話が進行して 行くみたいじゃないか。
その制度は後で平吉と葉子の恋愛に関連してくるけど、それは劇に入ってから触れればいいことだ。
格差社会という設定を持ち込んだのも、まるで活かされていない。ボンヤリした描写だし、そこを掘り下げるわけではないし。
その設定を持ち込んだ意味が良く分からない。そのせいで話に爽快感が無くなるし。二十面相は序盤でテスラの模型を盗むが、そんなモンを盗んでどうすんだ。
兵器としてテスラ装置を狙っていることが終盤になって判明するが、だからって模型を盗んでも何の意味も無いでしょうに。
そこでの爆発に関しては、終盤になって小林少年が「学術会議で二十面相がやったのはデモンストレーションだった」と語るが、 デモンストレーションをやる必要性って何なのよ。平吉が護送される途中で橋が改造されており、脱走するという展開がある。
しかし製作費の問題なのか、橋が流されたところで暗転してしまい、具体的に彼がどうやって逃げたのかは描写されない。
また、ロングショットが無いので、脱出のスケールのデカさも爽快感も全く伝わって来ない。
っていうか、源治は橋ごと盗むという仕掛けを用意したらしいんだけど、何が何やらサッパリ分からない。二十面相として指名手配された後の平吉が、すげえバカに見える。
町に出るなら、とりあえず変装しろよ。
彼はシンスケたちと会った後、源治の元へ戻るが、全く変装せずに素顔を堂々とさらしているのに、よく無事に戻れたな。
そういうとこ、すげえ雑だぞ。
パルクールの修行をやる時も素顔をさらしているけど、警戒心ってものが無さすぎるだろ。
その時点で泥棒として失格だと思うぞ。その後、平吉は「変装の勉強」ということで医者の服を着ているが、顔は全く変えていない。ようやくグラサンを掛けるカットが1度だけ あるが、服装ばかりチェンジしていく。。
その前にヒゲを生やすとか、髪形を変えるとかしろよ。。
で、その後、顔を変身させる技術を会得したのに、またパルクールの修行へ行く時には、素顔になっている。。
だったら変装の修行をした意味がねえじゃん。っていうかさ、考えてみれば、二十面相は変装を解いたら、必ず覆面をした姿なんでしょ。
平吉が天窓から覗いている時だけ、素顔でマントもコスチュームも着けていないという時点で、明智はともかく、誰か一人ぐらいは疑いを 持てよ。
むしろ誰も疑いを誰も持たないことの方が不自然に感じる。
っていうか、平吉の顔も二十面相の変装だったという考え方もあるんじゃないのか。
だって、二十面相は変装の名人なんだから。平吉は源治に「泥棒を教えてください。何をしなきゃいけないか分かったんです」と言うが、それは貧しい子供たちのために義賊になろう ということだ。
でも、それは筋書きとして違和感がある。
だって、自分を騙した二十面相の正体が分かっているんだから、殿村を捜そうとか、汚名を晴らそうとか、そういう方向に行くのが自然な 流れってもんじゃないのか。
なぜ、そこの怒りはシカトなのか。大体、「シンスケたちの置かれている現状を見て義賊になろうと決意する」という筋書きなら、「平吉が二十面相として指名手配される」 という展開を削除しても成立しちゃうし。「二十面相として指名手配されたから、どう行動するのか」という流れにならなきゃいけない はずでしょ。
それなのに、二十面相として指名手配された平吉が次に起こす行動が、それとは何の関係も無いような行動って、ダメじゃん。
例えば、先にそういう経緯があって、それで義賊をやっていたら、二十面相に間違えられたということでもいいわけだ。
っていうか、書いている内に、そっちの方が面白くなりそうな気がしてきたぞ。源治は泥棒修業のノートを平吉に渡し、「ただし泥棒になるためじゃない。この中には二十面相と渡り合うためのヒントが一杯詰まってる 。二十面相を捕まえて無実を証明したらサーカスに戻れ」と言うが、なんで急にそんなことを言い出すのか。
平吉はそのために義賊になろうとしたわけじゃないのに、源治のセリフによって、強引に平吉の目的を「二十面相を捕まえて無実を証明 する」というものに変更させてしまう。
それは平吉が本人の意志でそう考えるような筋書きじゃなきゃダメでしょ。っていうか、泥棒の修業ノートなのに、なんで二十面相と 渡り合うヒントが詰まってるんだよ。
大体、二十面相の居場所も分からないのに、どうやって渡り合うんだ。で、いざ修行が始まると、やっぱり「二十面相と渡り合うための修行」として解釈するのは無理があって、泥棒としての修行なんだよね。
だったら、そのトレーニングを始める前に「二十面相と渡り合う」という目的を掲げるのは避けるべきだ。
普通に「義賊になるため」とすべきで、そうなると、そもそも「二十面相として指名手配され」という筋書きそのものが邪魔にさえ 思えてくる。
例えば、二十面相ではなく名も無い泥棒と疑われて指名手配された後、「どうせ指名手配されたのなら、本物の泥棒になってやる」という ことで修行し、二十面相を名乗るようになるという筋書きにするなら、もう少し自然な形になるかな。
もはや原作の影も形も見当たらなくなっちゃうけど。
でも、どうせ原作から大幅に改変しちゃってるらしいし。
っていうか、なんか色々と書いている内に、「そもそも北村想の小説を原作とする必要性があったんだろうか」と、そこから疑問に思えて きたんだが。平吉はパルクールの最中に、ドレス姿で走る葉子を目撃する。
で、建物の上に二十面相がいて、それは葉子が彼から逃げているというシーンなんだけど、なんで他に誰もいない部屋で2人きりになって いたのに、葉子は簡単に外へ逃げ出しているのか。
そして、なぜ二十面相は、わざわざ建物の屋上を移動しているのか。すげえ遠回りだぞ。
っていうか、まず叫んで助けを呼べよ、葉子。アンタの行動、変だぞ。
それは平吉に2人を目撃させるために、無理をしすぎだ。平吉が葉子の前に来ると、二十面相は簡単にマスクを取って殿村としての顔をさらすが、それは変でしょ。
それは素顔ではないかもしれんが、一応は「素顔」という体でやっているんでしょ。
だったら、その素顔を平吉だけでなく葉子にまで見せるのはボンクラとしか言いようが無い。
あと、そこの平吉と二十面相の戦いも、やはりカメラの距離がずっと近いことで、迫力が薄まっている。軍警のサイレンを聞いた平吉が、葉子を連れて逃げる意味が分からない。
一応、「二十面相のことを聞きたくて」と言っているが、葉子に二十面相から追われていた理由を聞いたところで、何の意味が あるのかと。
そこは一人で逃げ出す方が自然だぞ。
葉子を連れて逃げたらますます罪が重くなるだけで、それよりも彼女に「二十面相は彼ではなかった」と証言してもらう方が得策なんじゃ ないのか。ねぐらに留まった葉子は、子供たちに食べ物を配り、学校に行かせると決めたことを平吉に話す。
でも、屋敷にも戻っていないのに、どうやって食料や料理は用意したのか。
それと、衣装まで着替えているが、貧民の生活にわずか一晩で順応しちゃうのは拙速すぎる。
大体、そこまで強く格差社会という図式を描こうとしなくても、単純に「お嬢様とサーカスの貧しい青年」という設定だけで充分だったと 思うんだよな。
平吉たちが何度も格差社会を批判するセリフを口にするのは、疎ましいだけ。監督は「冒険活劇を作りたかった」と発言しているんだけど、冒険活劇としての痛快さやワクワク感に著しく欠けている。
あと、二十面相が平気で人殺しをやろうとするキャラ造形や、圧倒的な力で変電所や石油コンビナートを破壊して華族を倒し、世界を手に 入れる権力者になろうという野望には、不快感を覚える。
それと完全ネタバレだが、「実は明智が二十面相だった」というのも、もしも北村想の小説版からそうなっているのなら、もう江戸川乱歩 シリーズの全否定だよな。リスペクトも何もありゃしない。
っていうか、この映画、ほとんど『マスク・オブ・ゼロ』&『バットマン』って感じの内容だよな。(観賞日:2010年11月19日)