『逆転裁判』:2012、日本

霊媒師の綾里舞子は警察から捜査協力を求められ、殺された被害者の霊を呼び出した。霊が憑依した舞子の口からは、「私を殺した犯人は灰根高太郎」という言葉が告げられた。場面は変わり、現在。新米弁護士の成歩堂龍一は、親友である矢張政志の弁護を担当していた。小法廷に立った成歩堂は、検察側証人の山野星雄に対して「この時計は2時間も遅れている。貴方が2時に被害者の家を出たという証言はおかしい」と告げる。だが、検事の亜内武文に「その時計が事件当日も遅れていたとは限らない」と指摘され、たちまち困り果てる。彼は「貴方のようにモタモタされては、序審裁判を導入した意味が無いじゃありませんか」と言われ、「もうダメだ」と漏らす。
検事の御剣怜侍はトノサマン事件の裁判を担当し、大法廷に立っていた。彼は弁護士の井外と対峙し、被告人の姫神サクラを冷徹に追い詰めていく。成歩堂の法廷には先輩弁護士の綾里千尋が駆け付け、新たな証拠について説明する。これにより、矢張には無罪判決が出た。御剣は逆転勝訴を勝ち取り、40年間無敗を続ける上司の狩魔豪に「私も先生のようになりたいと思っています」と告げる。狩魔は「この際だから言っておくが、君はあまり評判が良くない。裁判で勝つことも大事だが、何をやっても良いというわけじゃないからな」と釘を刺す。矢張は千尋に感謝し、ロダンの「考える人」の置物を模した自作の時計をプレゼントした。
過去の事件を調べていた千尋は、「これだわ」と漏らした。彼女は証拠品倉庫へ赴き、DL6号事件の証拠品を見つけて「これで全てが分かる」と口にした。彼女は成歩堂に連絡を入れ、「ずっと調べていた事件の証拠が見つかった。裁判を起こすことになるから、手伝ってほしい。明日の夜、事務所で打ち合わせできる?」と述べた。次の夜、成歩堂が事務所へ行くと、千尋が殺されていた。凶器は矢張がプレゼントした時計だった。事務所の隅には、千尋の妹である真宵が怯えた様子で佇んでいた。
通報を受けた刑事の糸鋸圭介たちが、事務所に駆け付けた。フリーの雑誌記者・小中大が向かいのホテルの窓から犯行の瞬間を目撃していたという。彼は犯人が女だったと証言していた。床に落ちていた電気スタンドの領収書の裏には、「マヨイ」の血文字が残されていた。このため、真宵が逮捕された。成歩堂は拘留された真宵の面会に訪れ、彼女が霊媒師の家系だと聞かされる。父は幼い頃に亡くなり、母は居場所が分からないという。成歩堂は彼女の弁護を買って出た。
真宵は成歩堂に、姉からの電話で事務所へ行ったことを語る。真宵の留守電には「面白い物を貰ったの。考える人の形をした置時計で、喋るの。あっ、もう時計じゃないんだった」というメッセージも残っている。成歩堂は糸鋸から、千尋の解剖記録を見せてもらう。糸鋸は検事が御剣だと教え、「この裁判には勝てない」と言う。成歩堂と御剣、矢張の3人は、小学校時代の幼馴染だった。かつて御剣は、父のような弁護士になりたいと言っていた。
裁判が始まった。成歩堂は千尋が鈍器による一撃で即死していたため、血文字を残すことは不可能だと述べた。すると御剣は、「殴られて数分間は生きていた可能性がある」と書かれた再調査の記録を見せる。証言台に立った小中は、真宵が千尋を殺したという目撃証言をする。凶器について「そうそう、この時計」と言うので、成歩堂は裁判長に「これが時計に見えますか。一見、ただの置物なんですよ」と話す。成歩堂の「なぜ時計だと思ったんですか」という質問に、小中は少し考えてから「時計が喋るのを聞いたからね」と述べた。
成歩堂が次の質問を思い付かずに苦しんでいると、真宵は千尋からの留守電に「もう時計じゃない」という言葉があったことを教える。そこで成歩堂は、時計を調べるよう裁判長に頼む。既に千尋が解体し、それは単なる置物になっていた。小中が「売っているのを見たことがある」と告げると、成歩堂は「どこで見たんですか」と訊く。小中が何も言えずにいると、御剣が「忘れてしまったのではないかな」と口にする。小中は「そうだ、どこで売っていたかは忘れた」と述べた。
成歩堂は、小中の電気スタンドの場所に関する証言に矛盾があることを指摘した。御剣は「おとなしく罪を認めてしまったらどうだ」と言い、証人が千尋の事務所を盗聴していたことを明かす。盗聴器を仕掛けるために侵入した際、スタンドの場所を知ったのだと彼は説明した。そして御剣は事件の1週間前に事務所へ侵入したことを小中に認めさせ、「しかし、それは本件とは無関係だ」と告げた。
裁判長が尋問を終了しようとしたので、成歩堂は慌てて書類をめくる。何も出来ずに追い詰められた彼は、「諦めちゃダメ」という千尋の声を耳にした。顔を上げると、千尋の幽霊が真宵に憑依して出現していた。千尋は「貴方はもう勝っている。真実は貴方の手に」と告げ、姿を消した。成歩堂の握っていた紙は、血文字の領収書のコピーだった。それを見ると、電気スタンドが購入されたのは事件前日だった。つまり、小中が侵入した時点では、まだスタンドは事務所に無かったのだ。
真宵には無罪判決が下され、小中は逮捕される。真宵は「なんでお姉ちゃんを殺したの?15年前の事件のせいでしょ。お母さんを破滅させて、今度はお姉ちゃんを」と小中に掴み掛かろうとして、成歩堂に制止される。15年前、DL6号事件で灰根高太郎が逮捕された際、小中の捜査方法を厳しく非難する記事が波紋を広げ、真宵の母・舞子は姿を消したという。成歩堂は、千尋がDL6号事件で新たな証拠を発見し、裁判を起こそうとしていたのだと確信する。
成歩堂が「千尋さんの続きは僕がやろうと思うんだ」と言うと、真宵は手伝いを申し出た。成歩堂はDL6号事件について調べる。15年前、証拠品保管庫で弁護士が殺された。凶器は証拠品の拳銃だった。被告人の灰根は心神喪失状態のために刑事訴訟能力無しとされ、無罪となった。殺されたのは御剣の父親・信たった。成歩堂が関係書類を調べていると真宵が現れ、興奮した様子でテレビを付ける。すると、ひょうたん湖で謎の巨大生物が発見され、ヒョッシーと名付けられたニュースが報じられていた。だが、真宵が知らせたいニュースは、それではなかった。ひょうたん湖で殺人事件が発生し、容疑者として御剣が逮捕されたのだ。
成歩堂は御剣の面会に行き、「お前を助けたい」と言うが、冷たく拒絶される。だが、これまで御剣は冷徹な方法で勝利を重ねていたため、彼の弁護を引き受ける弁護士など他に誰もいなかった。成歩堂と真宵が湖へ行くと、ヒョッシー目当ての大勢の見物人が集まっていた。近くを調べた2人は、大きな音に反応するカメラを仕掛けてヒョッシーを狙っている女カメラマンの大沢木ナツミと出会う。成歩堂は銃声にもカメラが反応していたのではないかと考え、写真を見せてもらおうとする。だが、ナツミは「ウチは警察の味方やで。アンタらに教えるわけないやろ」と協力を拒んだ。
被害者の身元が弁護士の生倉雪夫だと判明し、成歩堂は「この事件と千尋さんの事件は繋がってる」と確信する。生倉がDL6号事件で灰根の弁護を担当していたからだ。成歩堂は御剣の面会に訪れ、千尋と真宵がDL6号事件に関わった霊媒師の娘だと明かす。「俺のことは放っておいてくれ」と言う御剣に、成歩堂は「それは出来ない。お前には大きな借りがある」と告げる。小学校の頃、成歩堂は給食費を盗んだ犯人として疑われたことがあった。その時、御剣が「彼がやったという証拠は無い」と弁護し、救ってくれた。それがきっかけで、成歩堂は弁護士を目指すことにしたのだ。
成歩堂が「弁護させてほしい」と頼むと、御剣は「勝手にしろ」と述べた。御剣は「DL6号事件のことで話がある」という生倉の手紙を受け取り、ボート小屋に呼び出された。御剣がボートに乗ると、相手は拳銃を発砲してきた。しかし「メリークリスマス」と告げると相手は湖に飛び込み、後には拳銃が残されていたという。裁判で戦う検事は、狩魔と決まった。ほぼ勝ち目の無い戦いということだ。
裁判一日目。狩魔は証人としてナツミを呼んだ。ナツミはボートでの出来事を目撃し、撮影していたと証言し、撮影した写真を提出した。しかし成歩堂は、「御剣の顔をハッキリと見た」という彼女の証言が嘘であることを指摘する。ナツミは偽証を認め、逃げるように法廷を去った。成歩堂は、「生倉本人が自分を撃った可能性もある」と口にした。裁判長は、審議を翌日へ持ち越すことを決定した。
成歩堂と真宵はひょうたん湖の周辺を改めて調査し、古びたボート小屋を発見した。湖の近くで土産物店を出している矢張は、宣伝のためにトノサマンのバルーンを上げている。しかし数日前にボンベで空気を足そうとした時に誤って飛んで行き、破裂して湖に落ちたという。ヒョッシーの発見者としてニュースに出演していたカップルが撮影したのは、萎んだバルーンだったのだ。成歩堂は新聞には「小中の盗聴に依頼人か?」という記事を見つけ、「影であいつを操ってる奴がいる」と呟いた。
2日目。狩魔は証人としてひょうたん湖のボート小屋の管理人を呼ぶ。管理人は数年前から記憶喪失になっており、名前さえ分からない状態だった。しかし狩魔は「目撃は3日前なので問題ない」と主張し、裁判長も認めた。管理人は、御剣がボート小屋の近くを通って「まさか人を撃ってしまうとは」と言っていたと証言する。御剣は「私はそんなことは言っていない」と怒鳴った。成歩堂が管理人の証言について「疑わしい」と指摘すると、狩魔は根拠を出すよう要求した。
成歩堂は管理人の証言が疑わしいとする根拠を指摘できず、裁判長は有罪判決を下した。そこへ矢張が駆け込み、「今日になって銃声を思い出した」と告げる。御剣が咄嗟に「彼は弁護側の証人です」と言うと、裁判長は判決を撤回した。矢張は証言台に立ち、バルーンを探すためにボートに乗ったこと、そのボートを小屋に返した時に音が聞こえたこと、銃声は1回しか聞こえなかったことを語った。しかし改めて確認されると、彼は「実はハッキリしないんだよね。イヤホンでラジオを聴くから、聞き逃したのかも」と軽く告げる。
矢張は「あと30分でクリスマスイブも終わり」とDJが言った時に、銃声を聞いたという。その言葉に、成歩堂はハッとなる。つまり銃声を聞いたのは午前0時よりも前だ。これまでの証人は、0時を過ぎてからと証言している。ナツミの写真は0時15分に撮られている。だが、何も写っていない写真が23時30分に撮影されていた。その時間にも大きな音がした、それが銃声の聞こえた時間だと、成歩堂は主張する。そして「そこが本当の犯行時刻の可能性がある。一緒に乗っていたボートの男は、生倉に成り済ました真犯人だ」と述べた。
成歩堂は「真犯人について、思い当たる人物がいます。先程のボート小屋の管理人の尋問を要請します」と告げるが、管理人は法廷から姿を消していた。裁判長は検察側と警察に、翌日までに管理人の身柄を確保するよう要請した。「出来なければ、そのまま判決に移る」と彼は述べた。成歩堂と真宵はボート小屋へ行き、事件の計画が記された手紙を発見する。しかし何者かにスタンガンで気絶させられ、手紙を奪われる。手紙には「お前の人生を破滅させたナマとミツに、今こそ復讐するのだ。DL6号事件を忘れるな」と書かれていた。成歩堂は小中を証人喚問しようとするが、彼は食事に混入された毒によって殺害される…。

監督は三池崇史、原作は「逆転裁判」(カプコン)、脚本は飯田武&大口幸子、製作指揮は宮崎洋、製作は菅沼直樹&市川南&徳丸敏弘&奥野敏聡&阿佐美弘恭&弘中謙&平井文宏&北川直樹、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、プロデューサーは東山将之&畠山直人&坂美佐子&前田茂司、撮影は岡雅一、照明は東田勇児、録音は中村淳、美術は林田裕至、編集は山下健治、衣装デザインは松本智恵子、ヘアメイクディレクションは宮沢ノボル、ラインプロデューサーは今井朝幸、小松俊喜、キャスティングプロデューサーは伊東雅子、美術プロデューサーは竹村寧人、音楽は遠藤浩二。
主題歌「2012Spark」ポルノグラフィティ 作詞:新藤晴一/作曲:岡野昭仁/編曲:tasuku,Porno Graffitti。
出演は成宮寛貴、斎藤工、桐谷美玲、中尾明慶、大東駿介、柄本明、小日向文世、石橋凌、檀れい、余貴美子、谷村美月、平岳大、篠井英介、鮎川誠、村杉蝉之介、蜷川みほ、斎藤歩、本村健太郎、中村優子、波岡一喜、山口幸晴、本山力、窪田弘和、阿部祐二、森永卓郎、オオヌキタクト、森圭介、辻岡義堂、五十嵐竜馬、川田裕美、吉田奈央、林マオ、澁谷武尊、林遼威、津波古太輝、浜辺美波、浅田祐二、鎌森良平、櫻井忍、濱田一也、寺尾毅、松井克之、加藤寛治、山根誠示、柴田裕司、山下徳久、野間斗晴、近藤那由汰、高野由味子、西口莉乙加ら。


カプコンが発売している同名の法廷バトルアドベンチャーゲームのシリーズ第1作を基にした作品。
成歩堂を成宮寛貴、御剣を斎藤工、真宵を桐谷美玲、矢張を中尾明慶、糸鋸を大東駿介、大法廷の裁判長を柄本明、ボートの管理人を小日向文世、狩魔を石橋凌、千尋を檀れい、舞子を余貴美子、ナツミを谷村美月、信を平岳大、生倉を篠井英介、小中を鮎川誠、亜内を村杉蝉之介、サクラを蜷川みほ、山野を斎藤歩、井外を本村健太郎が演じている。
監督は『ヤッターマン』『忍たま乱太郎』の三池崇史。

スゴいなあと思ったのは、ゲームをやっていない人間を完全に無視していることだ。
例えばTVアニメの劇場版で「世界観や登場人物に関する説明を省いている」とか、そういうことは珍しくないが、この映画の場合、それと同列には扱えない。
「どっちも映像作品だけど、流される場所がテレビから映画館に変わった」ということではないのだから、それで「原作を知らない人には全く付いて行けない」ってのは、その時点で映画としては欠陥品と言わざるを得ない。
例えば、漫画の映画版で、原作を読んでいなかったら全く付いて行けないとか、そういうのと同じことだ。

成歩堂や御剣は個性の強いカツラを被っており、かなり漫画チックなビジュアルになっている。
それはゲームのキャラになるべく似せるための作業であり、だからゲームをやったことのある人であれば、その再現度の高さを喜べるのかもしれない。
それはともかく、これは我々が暮らしている場所とは違う架空の世界観で繰り広げられる物語だ。だから、普通は最初に「どういう世界観なのか」ということを軽くアピールしたり、そこに馴染ませたりするための作業をやるだろう。
しかし、この映画は、そういう手順を全く踏まない。だから、ゲームを知らない人は、違和感を持ったままで鑑賞することを余儀なくされる。
っていうか、キャラクターのビジュアルにマヌケっぽさを感じる人もいるんじゃないだろうか。

また、冒頭で成歩堂と御剣が担当している裁判についても、どういう事件を扱っているのかはサッパリ分からない。
だから逆転勝訴とか、無罪判決とか言われても、何が逆転なのかも、なぜ無罪判決になったのかも良く分からない。
御剣は「汚いぞ、こんなメチャクチャなやり方が認められるはずがない」と非難され、「私のやり方は法に触れるものではない」と語るが、何がどう汚いのか、まるで分からない。
序審裁判についても、何のことやらサッパリだ。刑事事件の数が多くなったので、裁判の迅速化を狙って序審裁判なるシステムが導入されたことだけは台詞から読み取れるが、それ以上のことは分からない。

真宵の裁判が始まる時になって、ようやく
「日本国政府は、増加する凶悪犯罪に対応して新たな司法システム「序審裁判」を導入した。弁護士と検事の公開法廷に対する直接対決。3日いないに被告人の有罪・無罪のみを先行決定する制度である。」
というテロップの説明が入る。
それはタイミングが遅いし、しかも、その程度の説明に留まっている。
だから、「その場で反証を出せない限り、即座に判決が出される」ということも分かりにくい。

ゲームの場合、最初の事件がチュートリアルになっていて、それで「どういうシステム、どういう世界観か」ということにプレイヤーが馴染んでから、本格的な裁判に取り組む流れになっているようだ。
しかし本作品の場合、最初の事件が「観客にシステムを理解させる、この世界観に引き込む」という役割を果たしていない。
果たしていないのなら、そのシーンの意味が無いんじゃないか。
真宵の裁判で、初めて「序審裁判とは、どういうものか」というマトモな描写があるんだからさ。

成歩堂は湖で殺された被害者が生倉だと知って、「この事件と千尋さんの事件は繋がってる」と確信する。生倉がDL6事件で灰根の弁護を担当していたからだ。
でも、そのことは成歩堂が喋って、初めてこっちには分かる情報だ。彼が記録を調べて、その中に生倉の名前があるとか、そういう手順は踏んでいない。
生倉の名前を知っただけで、いきなり関係があると確信し、御剣と面会して「生倉は灰根の弁護士だった」と、調査結果について口にしている。
ゲームをやっていない人間からすると、ものすごく不親切な脚本だ。

あと、序審裁判ってゲームだったら面白いのかもしれんけど(っていうか面白いからシリーズ化されているんだろうけど)、ドラマとして描かれてみると、あまり面白味を感じないシステムなんだよね。
だってさ、向こうが意外な証拠を突き付けて来たり、こっちの出した証拠や証言の穴を指摘されたりした時に、その場で反証しなきゃいけないわけでしょ。
それって、かなり難しいことだ。そこで即座に反証を出せるぐらいなら、相手に問題点を指摘されるような証拠や証言なんて最初から提出しない。
相手が新たな証拠を提出したり、こっちの筋書きを否定する証言が飛び出したりした時に、こっち側が改めて調査したり聞き込みをしたりして、その中で新たな物証や証言を得て、また立場が逆転するという経緯があってこそ、面白味が生じるんじゃないかと思うのだ。
その場でスピーディーに検事と弁護士のやり取りをされても、「こっちの知らない情報を提出され、それについて即座に反論し」ということを繰り返しているだけなので、完全に置いてけぼりなのだ。

例えば、真宵の裁判における1シーン。
「ガラスの割れる音がして窓の外を見た。電気スタンドが倒れた音だろう」という小中の発言に対し、成歩堂が「それは有り得ません」と言うと、事務所の見取り図が表示されて、窓越しに事務所を覗いてもスタンドが見えないことを成歩堂は指摘する。
だけど、そこで初めて電気スタンドが倒れていたことが明かされ、事務所の見取り図が出て来る。
なので、観客は考えるための時間を全く与えてもらえないのだ。

それと、この映画で描かれる裁判を見る限り、序審裁判ってメチャクチャなんだよな。
それは記憶喪失者が証人んとして認められるとか、オウムが証人として認められるとか、そういう部分ではない。そういうのは、特に気にならない。
そうじゃなくて、あまりにも弁護側が不利なシステムになっているという部分が、どうにも受け付けない。
例えば成歩堂が「管理人の証言はあまりに疑わしい」と言った時、狩魔が「その根拠は?それを裏付ける証拠は?」と根拠や証拠を求め、それが出ないと裁判長は判決を出そうとするのだ。つまり証人が嘘をついても、弁護側は「それが嘘である」という根拠や証拠を出さないと、真実として認められてしまうのだ。

そうなると、もはや証人の言ったモン勝ちで、幾らでも無実の犯人を作り上げることが出来るってことになる。
しかも、弁護側が勝つために、検察側の呼んだ証人の尋問をしようとした時に、その証人が姿を消して捕まらない場合、それだけで弁護側が負けになってしまうのだ。
だけど、その証人の身柄を確保する役目は、当然のことながら検察と警察側に委ねられている。
普通、警察や検察側は自分たちが捕まえて起訴した犯人を有罪にしたいわけだから、その証人が見つからない方がいいわけだ。
だから真剣に捜索しなきゃいい。そうすりゃ被告は有罪になるわけだから。
ってことは、検察側は自分たちが不利になると思ったら、証人を逃がしてしまえばいいわけだよね。

「疑わしきは罰せず」が日本の裁判の原則なのに(っていうか基本的に先進国の裁判ってのは、そういうのが原則だ)、この映画では「少しでも疑わしい奴は全て有罪」という裁判システムになっている。
それは受け入れ難いなあ。
たぶんゲームだったら、弁護側が圧倒的に不利なシステムにしてあることで、「逆転」の高揚感や爽快感が生じるというプラス効果になっているんだろうとは思うよ。だけど、この映画版に関しては、そういう効果は全く無い。
そもそも、成歩堂の発言は「その場凌ぎで、これといった根拠や確信も無いのに、咄嗟に適当なことを言っている」というものが大半であり、それとオドオドしていて全く自信が無さそうなのも手伝って、「絶体絶命からの大逆転」という雰囲気が漂って来ないし、当然のことながら高揚感も味わえない。
そもそも、成歩堂が大ピンチに陥っているという雰囲気からして、まるで伝わって来ないし。

それと、それだけ圧倒的に弁護側が不利なシステムだったはずなのに、終盤になって成歩堂が真犯人の追求を始めると、真犯人が「それだけでは私が犯人だということにならない。自分を真犯人だと特定するための証拠を出せ」と要求するのよね。
つまり、そこまでは「無罪を証明できなきゃ有罪」というシステムとして裁判が行われていたのに、急に「有罪だと断言できる証拠が無ければ無罪」ということになっているのだ。
なんだよ、その御都合主義は。

(観賞日:2012年11月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会