『ぐらんぶる』:2020、日本

大学生の北原伊織が目を覚ますと、大勢の学生が集まって携帯で写真を撮っていた。調子に乗ってポーズを取っていた伊織だが、全裸だと気付いて慌てる。警備員が駆け付けたので、彼は慌てて逃げ出した。身を隠した彼は、何があったのか必死で思い出そうとする。彼は島の中にある伊豆大学に通うため、初めて家を出た。叔父である小手川登志夫の家で下宿させてもらうことになっており、船着き場まで迎えに来てくれた。登志夫は伊織を車に乗せ、自分が経営するダイビングショップ『グランブルー』へ案内した。店の外で伊織はウェットスーツを着た可愛い女性と遭遇するが、それ以降の記憶が無かった。
足の爪に「3号棟裏 黄金を抱いて飛べ」と書かれているのを見た伊織は、急いで3号棟裏へ向かった。すると高い場所に自分のパンツが吊るしてあり、トランポリンが置いてあった。伊織はトランポリンを使ってジャンプし、パンツを手に入れた。パンツを履いた彼は軽トラの荷台に隠れ、『グランブルー』へ向かった。するとウェットスーツ姿の可愛い女性がいたので声を掛けようとするが、伊織を見ると店に入ってしまった。慌てて後を追った伊織は、悪魔のような何かを見て意識を失った。
伊織が目を覚ますと、また全裸の状態でキャンパスに転がっていた。今度は足の爪に「2号棟 大教室へ」と書かれており、彼は大教室へ向かった。すると女子生徒たちが悲鳴を上げており、大教室から今村耕平という全裸の生徒が飛び出して来た。伊織は耕平と共に逃亡し、3号棟裏へ向かった。前回と同じようにトランポリンが置いてあり、2人は吊るしてあるパンツを手に入れた。耕平が『グランブルー』で記憶を失ったと聞き、伊織は彼と共に店へ向かった。するとウェットスーツ姿の女性が現れ、「バカ」と吐き捨てた。
伊織と耕平はウェットスーツ姿の女性を追い掛け、店に入った。すると年上の美女もいて、「伊織くん、心配してたのよ。私たちと一緒に住むっていうのに、何してるの?」と告げる。伊織は2人が姉妹だと確信し、一緒に住むと聞いてニヤニヤする。しかし悪魔のような何かが床から出現し、伊織は意識を失った。また同じように目を覚ました彼は耕平と合流し、パンツを手に入れた。2人は体のメモを発見し、保安室に駆け込んだ。監視カメラの映像を確認した彼らは、水着姿のマッチョな男たちが全裸の伊織を運ぶ様子を見た、男たちはカメラに向かって存在をアピールしてから、伊織の尻に鍵を突っ込んだ。伊織が鍵を見ると、「PaB」と書いてあった。
伊織と耕平はサークル棟へ行き、窓にPaBと書いてある部屋に鍵を使って入った。するとコインロッカーから縛られた男が飛び出し、彼の体には「ルール違反」というメモが貼られていた。伊織と耕平が逃げ出そうとすると、可愛い女性がやって来た。そこで意識を失った伊織と耕平は、また全裸で発見する所から始めた。7回目に目を覚ました時、伊織と耕平はパンツ一丁でオリエンテーリングに参加した。伊織はウェットスーツ姿の女性を見つければ謎が解けるのではないかと考え、見つけ出そうと決意する。オリエンテーリングが終わって教室を出ようとした時、伊織はその女性と遭遇した。
その後も伊織と耕平は、「記憶が途切れては全裸で目覚める」ということを何度も繰り返す。12回目、2人が『グランブルー』に入ると、誰もいなかった。しかし水着姿のマッチョな男たちが現れ、伊織と耕平は軽快な曲に合わせて一緒に踊った。大量のビールを煽った2人が目を覚ますと、今度は服を着て布団の中にいた。そこは『グランブルー』の2階で、2人が1階へ下りるとマッチョ男たちが現れた。2人が怯えていると、マッチョ集団の1人が「よっ、新入生」と笑った。
年上の女性が奈々華と名乗ると、ようやく伊織は登志夫の長女だと気付いた。ウェットスーツの女性は、奈々華の妹の千紗だった。伊織と耕平はマッチョ集団からスポーツドリンクを渡されて飲むが、中身は酒だった。マッチョ集団が「ヴァモス」と叫ぶと、2人も叫んでから曲に合わせて踊った。夜、千紗が帰宅すると、伊織と耕平は水着姿になってマッチョ集団と踊っていた。千紗は伊織に軽蔑の眼差しを向け、「虫ケラ」と言い放った。
翌朝、伊織と耕平はマッチョ集団の時田信治や寿竜次郎たちから、ダイビングサークル「Peek a boo(ピーカブー)」のメンバーだと説明を受けた。彼らは『グランブルー』を手伝いながら活動しており、奈々華はOGで千紗はメンバーだった。「なぜ2週間も掛かったのか」と疑問を抱く伊織と耕平に、彼らは「偶然に出会って入会した」と言う。しかし実際には酒を飲ませて一緒に踊らせ、全裸姿でキャンパスに放置する行為を繰り返していたのだった。
伊織と耕平はサークルから逃げようとするが、また酒を飲まさせて記憶を失った。2人は島からの脱出を試みるが、漁船の船長もサークルのOBだった。伊織は登志夫に助けを求めるが、彼もサークルのOBだった。逃亡を諦めた伊織と耕平はウェットスーツに着替えさせられ、浅瀬で潜水体験をすることになった。伊織は美しい海の風景に魅了され、店に戻って千紗に興奮を語った。耕平も同じ感動を味わっており、伊織は本気でダイビングに取り組もうと考える。だが、また酒を大量に飲まされ、酔い潰れて眠り込んだ。
翌朝、部屋で目覚めた伊織は、隣に下着姿の女性が寝ているのを見て驚いた。彼が慌てて1階に行くと、時田たちはメンバーの浜岡梓だと教えた。なぜ自分の部屋にいるのかと伊織が訊くと、時田たちは「そこに布団があったからだ」と答えた。伊織と耕平はダイビング機材を見るため、時田たちに連れられて専門店を訪れた。伊織が興奮していると、時田たちは自腹で購入するよう告げる。「そんな金は無い」と伊織が困惑すると、彼らは文化祭のミス&ミスターコンテストで優勝すれば賞金10万円が手に入ることを教えた。
伊織は耕平をコンテストに出場させると決め、2人で千紗にも参加を頼む。千紗は嫌がるが、奈々華と梓が説得して承諾させた。文化祭の当日、梓はテニスサークル「ティンカーベル」の工藤会長から執拗に交際を迫られ、「コンテストで優勝したら」という条件で承知した。ミスコンテストにはティンカーベルに所属する吉原愛菜も参加しており、そのケバい見た目から耕平は「ケバ子」と名付けた。ケバ子はステージで寒いネタを披露し、場の空気を冷やした。
続いて千紗がステージに登場するが、酔っ払って怒りに燃えていた。出番の直前、伊織が誤ってスポーツドリンクのペットボトルに入った酒を飲ませてしまったのだ。千紗は伊織を見つけるとバットを握って客席に乱入し、男子たちを殴り始めた。慌てて逃げ出した伊織と耕平は、ティンカーベルの笑い者にされて落ち込んでいる愛菜と遭遇した。工藤から冷淡な言葉を浴びせられて馬鹿にされたことを聞いた伊織と耕平は、「面白いモン、見せてやる」と告げた。
ミスターコンテストに出場した耕平はマイクを握り、梓に歩み寄って愛の告白をする。それを聞いた工藤は、負けじと梓に告白した。梓に手を握られた工藤は、自分が勝ったと思って喜ぶ。だが、目の前にいたのは梓ではなく、女に化けた伊織だった。それはPaBのメンバーも加担した芝居だったのだ。伊織たちは工藤を嘲笑し、愛菜を喜ばせた。コンテストの結果、千紗と耕平がミス&ミスターに選ばれた。大勢の男子生徒が「付き合ってくれ」とステージに押し寄せると、千紗は彼氏として伊織を指差した。
翌日から伊織は、男子生徒たちの嫉妬の標的になった。困り果てた伊織は誤解を解こうとするが、千紗は男子生徒の嫉妬心を煽るような言動を取った。モテない生徒の山本真一郎と野島元は、どういう催眠術を使ったのかと伊織に質問した。何も使っていないと聞いた野島は伊織の命を狙うが、山本はショックの大きさで現実逃避した。伊織と耕平はダイビング用具一式が揃い、喜びを噛み締めた。愛菜がPaBに入会したので、千紗たちは歓迎した…。

監督・脚本は英勉、原作は井上堅二&吉岡公威『ぐらんぶる』(講談社アフタヌーンKC刊)、脚本は宇田学、脚本協力は杉山直己、製作は高橋雅美&池田宏之&今野義雄&秋元伸介&永田勝美、プロデューサーは関口大輔&谷口達彦&湊谷恭史、協力プロデューサーは楠千亜紀、撮影は小松高志、撮影(Bカメラ)は大嶋良教、照明は蒔苗友一郎、録音は加来昭彦、美術は佐久嶋依里、振付は瀧本有美&千野まや&Darrell“RHYTHM”Whitaker、編集は相良直一郎、音楽は未知瑠&石塚徹&Teje&鈴木俊介、音楽プロデューサーは田井モトヨシ、主題歌はsumika『絶叫セレナーデ』。
出演は竜星涼、犬飼貴丈、与田祐希、朝比奈彩、小倉優香(現・小倉ゆうか)、石川恋、嶋政宏、鈴之助、岩永洋昭、矢本悠馬、森永悠希、平田雄也、鍛冶直人、田中聡元、泉はる、井上欣也、松本海希、吉原拓弥、加藤衛、原篤志、平山大、藍沢真伍、日下部慶久、山田卓、白川悠衣、岸本茉季花、秋宮はるか、渡辺航平、山下信平、渕上晃、高橋謙、りり花、東慶介、竜邑、yuuki、福丸敦子、岩村愛子、伊東一人、竜二、新井敬太、梶原颯、佐藤大夢、木本雄、榮桃太郎、浜名一聖、ZENSUKE、かずず、Mafee Shinji、YU-TA、隆太ら。


井上堅二&吉岡公威による同名漫画を基にした作品。
監督は『3D彼女 リアルガール』『映画 賭ケグルイ』の英勉。
脚本は英勉監督と『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』の宇田学による共同。
伊織を竜星涼、耕平を犬飼貴丈、千紗を与田祐希、奈々華を朝比奈彩、梓を小倉優香(現・小倉ゆうか)、愛菜を石川恋、登志夫を嶋政宏、時田を鈴之助、寿を岩永洋昭、山本を矢本悠馬、野島を森永悠希、工藤を平田雄也が演じている。

序盤、空を眺める伊織が登場すると、次のカットでは全裸であることが示される。その後、立ち上がった伊織が大勢の生徒に囲まれていると気付き、調子に乗ってポーズを取る。しかし下半身を撮影されて全裸だと気付き、途端に慌てる。
しかし、こっちは伊織が登場した時点で、全裸だと分かっている。
なので、「調子に乗っていたけど全裸と気付いて慌てる」という様子を描かれても、ギャグとしては機能していない。
そういう手順を取るのなら、伊織が気付く直前まで観客にも全裸であることを隠しておいた方が効果的だ。

伊織は「一緒に住む」という奈々華の言葉を聞いて、「どう見ても姉妹」とニヤニヤする。
でも、こっちからすると、「奈々華と千紗が登志夫の娘であることは、すぐに分かるでしょ」と言いたくなるのよね。
少なくとも、こっちは「ああ、登志夫の娘だね」と、その時点で察してしまう。なので、そこがギャグとして成立していない。
ギャグが不発ってのは、全編に渡って感じさせられる問題だ。形式としては成立していても、シンプルに面白くないケースも少なくないし。

序盤、記憶を失った伊織が目を覚ます度に、「Take2」「Take3」といった文字が出る。「3度目の正直」ってこともあるし、Take3までかと思っていたら、その後も「Take7」まで飛んで「Take12」まで続く。
それが20分ぐらい続くので、さすがに退屈になる。テンションだけは無闇に高いけど、寒々しい空騒ぎにしか思えない。それこそ学生ノリの内輪受けって感じが強い。
あと、「必ず『グランブルー』で記憶が途絶える」ってのは、全てのテイクに共通する条件にしておくべきじゃないのか。
部室や大教室でテイクを切り替えるのは、仕掛けとして破綻しちゃうだろ。

テイクを重ねる中で、伊織と耕平が『グランブルー』に入った途端にマッチョ集団が現れ、音楽に合わせて一緒に踊り出すシーンがある。
これ、どういうことなのかサッパリ分からない。「サッパリ分からない」という気持ちが強すぎて、彼らがノリノリで踊っていても、それを楽しめない。
たぶん、「踊り出すまでの記憶が欠損している」ってことなんだろう。ただ、それなら踊っている時の記憶も失っているはずで。
だから、途中経過を省略して踊る様子だけを描くのは、ルールが壊れているとしか感じない。

ノリと勢いだけで強引に持って行こうと目論んでいるのかもしれないが、そのノリで上滑りしているので冷めた気持ちにさせられるだけだ。
しかも、マッチョ集団の正体や目的が判明し、ようやくサークル活動に突入するのかと思いきや、まだ「酒を飲まされて踊って」という手順を繰り返す。
活動開始前のグダグダをダラダラと続けて、伊織と耕平が初めて海に入るまでに40分ぐらい費やしている。
それは時間の使い方が下手すぎるでしょ。

「記憶が無くなって云々」というのを繰り返している間、実質的に話は全く先へ進んでいない。
しかも、じゃあ話が進まない間の騒動が面白いのかと問われたら、「ちっとも」と断言できちゃうわけで。
あとさ、時田たちが伊織と耕平に「酒を飲ませて全裸で放置して」って行為を繰り返しているだけで、もう5月に入っちゃってるのよ。
2人を入会させたら、マトモに活動できなくてもOKってことなのかよ。伊織と耕平のダイビング活動が一向に始まらなかったら、本末転倒じゃないのか。

それと、「酒を大量に飲ませ、全裸で放置し、強制的に入会させて」って、犯罪に近いハラスメントの嵐だろ。
それをコメディーとして上手く消化できているわけでもなく、ただ不愉快なだけの連中になってるぞ。
初めて海に潜った伊織が感動するシーンも、まるで説得力が無くて「嘘臭いなあ」と感じるだけ。
コメディー要素は強めであっても、そこだけはガラリと切り替えてギャグシーンとの落差を付ける必要もあるのに。そういうチェンジ・オブ・ペースとしての力も欠いている。

伊織が初めて潜水を体験すると、そこからはダイビングサークルとしての活動が始まるのかというと、さにあらず。また寒々しい空騒ぎに戻っていく。
そっちがメインの話だから仕方がないんだけど、中身は見事なぐらい空っぽだ。
いや、一応は「ミス&ミスターコンテスト」というイベントもあるんだけど、ずっと空虚な内輪受けが続いている感じなのだ。
あと、「ダイビング機材を買う金が無い」→「だからコンテストで賞金を狙う」→「そしてコンテスト本番」という流れが一応はあるのだが、そこを上手く繋げられていないから、シーンが切り替わる度に分断しているような印象になっている。

大きなストーリーがあるわけじゃないので、ゴールに向けて1つずつ積み重ねていくような構成は取れない。
だが、スケッチの串刺し式としても、作りが粗すぎる。
ミス&ミスターコンテストのエピソードにしても、工藤や愛菜はそこが初登場だし、ただ散らかっているだけになっている。
そこに関わる梓にしても、その直前に登場したばかりだし。
次から次にキャラを登場させるだけで精一杯になっており、厚みを持たせたりストーリーの中で上手く活用することが出来ていない。

その場その場で役割に当てはめるだけで、だから全員がキャラとしてペラペラになっている。駒として適当に使われるだけなのだ。
山本と野島にしても、そのエピソードを消化するためだけに出している。だから急に出て来た邪魔な奴らになっている。もう少し早い段階から、千紗のファンとして登場させておいても良かったでしょうに。
まあ、それは工藤や愛菜にしても言えることだけどね。
そんで山本と野島なんて、中途半端に放り出されて、それ以降は全く登場しないし。

文化祭のエピソードが終わると、ようやく本格的にサークル活動の様子が描かれる。しかし厄介なことに、明確な目標が何も無いのだ。
部活動を描く物語の場合、「大会に優勝する」とか「ライバルに勝つ」とか、そういう目標を設定し、そこに向かって主人公を動かすのが定番だけど、それが無い。
一応、「ライセンスを取得する」とか「逃げ出す」みたいな目標はあるけど、クライマックスを作るには弱い。
だから、最後まで充分なメリハリもチェンジ・オブ・ペースも無いまま、ダラーッとした感じで話が流れていくのだ。

(観賞日:2022年2月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会