『ガンドレス』:1999、日本

西暦2100年。ヨコハマ・ベイサイドシティ。エンジェル・アームズ社の社長を務めるタカコ・ホウライジは、港に停泊中のタンカーを監視していた。武器商人のアリ・ジャイーブ・ハッサンがヘリコプターで到着する様子を確認したタカコは、部下の5名に作戦開始を指示した。パワードスーツのランドメイドに搭乗したアリサ・タカクラ、ユン・ケイ、マルシア・アサノ、ミシェル・イガ、シルヴィア・カキハナの5名はタンカーに突入し、密輸組織の一味を次々に始末した。
エンジェル・チームの5名は押収する未知のランドメイドを発見した後、ハッサンを連行した。しかしハッサンが事前に仕掛けてあった爆弾により、タンカーは爆破されて証拠品は失われた。警察署に連行されたハッサンは、余裕の態度を見せた。タカコがエンドウ警部会っていると、ボブ・ライリー本部長が市長補佐官のゴウマンを連れて来た。アリサが押収品のランドメイドを破壊したせいでエンジェル・アームズ社は1週間の営業停止処分を受けてしまい、シルヴィアは腹を立てた。ミシェルは「全てアリサのせいにしなくても」と言うが、シルヴィアの怒りは収まらなかった。
マルシアは射撃訓練を積むが、肝心な時に撃つことをためらう弱点はタンカーでも露呈していた。ケイはランドメイドの修理を請け負うメカニックのリュウ・サエキの元を訪れ、アリサより自分の方が乗り方に癖があって酷使していることを指摘された。誰よりも荒いのはシルヴィアで、ランドメイドのマスターとしてはアリサが最も上だとリュウは述べた。かつてアリサはテロリスト集団「セクンダティ」に所属し、恋人のジャン=リュック・スキナーと共に行動していた。ある時、彼女は大金を強奪して逃亡する途中で警察の攻撃を受け、ビルの屋上から転落しそうになった。スキナーが手を伸ばして助けようとするが、銃撃を受けて怪我を負う。彼は手を放し、アリサが落下した直後に屋上で爆発が起きた。アリサはパトカーの屋根に墜落し、一命を取り留めた。彼女は警察病院に搬送され、サイバネティック・オペを受けてエンジェル・チームに加入していた。
2度の震災を経験した市の開発計画は、一向に進んでいなかった。ゴウマンはタカコに、「取引先を聞き出す代わりに身柄を保護する」「取引先を徹底的に叩く」というハッサンの要求を教える。さらに彼は、ウォン=ハイク市長がハッサンの要求を受け入れるつもりであることを話す。今回の一件には中央政府の高官が絡んでいる可能性が濃厚だが、証拠は無かった。エンジェル・アームズ社が敵の機動部隊を叩けばトップは動きが取れなくなるため、その隙に市警察が乗り込む作戦をゴウマンは考えていた。
ゴウマンはタカコに、昨日の空港の映像を見せた。映像は飛行機から降りてくる男を捉えており、ゴウマンは「パスポート名はアーサー・ジョーンズ。イギリス人だ。本名はジャン=リュック・スキナー。2年前に壊滅したテロリスト組織、セクンダティのリーダーだ」と説明する。今は世界的なテロの請け負い屋で、仲間もハッサンの事件を境に街に潜り込んでいるとゴウマンは語る。仲間に溶け込めずにいるアリサを外すことも考えるタカコだが、ゴウマンは「5人でやるんだ」と命じた。
市長はベイサイド軍基地の警備隊にも、応援を要請していた。ライリーが対策会議に出席していると、呼ばれていない特殊テロ対策部隊のスメラギ大尉がやって来た。スメラギは内閣安全保障室長のカザマ将軍から直々の連絡が入ったことを告げ、不遜な態度を取った。市長は市警と軍の代表者たちに、協力してテロを阻止するよう要請した。タカコはアリサにスキナーの映像を見せ、ゴウマンの指令を伝えた。翌朝の6時からタカコはブリーフィングを行うが、7時になってもアリサは現れなかった。タカコが他の4名を市警本部へ向かわせようとすると、アリサは遅れてやって来た。
アリサたちがハッサンを護衛していると、スキナーの一味が同時多発テロを起こした。ベイサイドシティ全域に非常事態宣言が発令され、エンジェル・チームはランドメイトに乗り込んだ。市警本部がテロリスト集団のランドメイトに襲撃され、アリサとケイが食い止めている間に他の3名がハッサンを移動させる。スキナーたちはアリサとユンのランドメイトを戦闘不能に追い込み、ハッサンの元へ向かう。だが、ハッサンは既に部屋から連れ出されており、アリサの仕掛けておいた爆薬が爆発した。
アリサは気絶したユンを安全な場所に隠し、敵を待ち伏せて攻撃を仕掛ける。しかしスキナーのランドメイトに捕まって意識を失い、彼に連れ去られた。目を覚ましたケイは、アリサについて「昔の知り合い」と語るスキナーの言葉を聞いた。マルシアたちはハッサンを弟のイブンが営む病院に避難させ、アリサとケイを待った。ミシェルはタカコから受け取った情報の少なさが気になり、公安のコンピュータをハッキングした。セクンダディのデータを見たミシェルたちは、アリサがメンバーだったことを知った。
タカコは負傷したケイに肩を貸し、教会にやって来た。アリサが一味の隠れ家で目を覚ますと、スキナーは「人の護衛なんざ、クズのやる仕事だ」と再び組むよう持ち掛けた。アラブ街にハッサンの弟がいるという情報を得たスキナーは、ランドメイトのケルベロスをアリサの警備に残して隠れ家を出て行った。イブンはケイを治療し、翌朝には出て行ってくれと要求した。ハッサンが「子供を殺すような奴らに武器を売らない。それが俺のやり方だ」と口にすると、イブンは「それでも人は死ぬんだ」と声を荒らげた。
アリサは拘束を解き、ケルベロスに立ち向かう。彼女はケルベロスの機能を支配し、自分をマスターとして認識させた。彼女はケルベロスに乗って脱出し、公安のデータをハッキングしてハッサンの居場所を割り出す。彼女はタカコたちと合流し、スキナーが部下たちを連れて襲撃に来ると知らせた。ゴウマンたちは警察署を襲撃したランドメイトの映像を分析し、ベイサイド基地で廃棄処分されたはずの試作品だと知る。試作品が配備されたのは独立したアンチテロ部隊で、ベイサイドシティ方面軍の管轄外だった。
廃棄処分の担当者がスメラギだと判明し、市長は今すぐに見つけ出すよう命じた。スメラギはスキナーが率いるテロリスト集団に、街を破壊してハッサンたちを誘い出すよう命じた。テロ活動が開始され、エンジェル・チームは出動した。タカコはリュウに車を運転させ、ハッサンを避難させようとする。しかし一味が行く手を塞いだため、ハッサンたちは戻ることを余儀なくされる。スキナーは手下たちに下がるよう命じ、エンジェル・チームの前に現れた。
ハッサンは泣いている少年を助けるために外へ飛び出し、スキナーの攻撃を受けて倒れた。アリサはスキナーに攻撃を仕掛けるが、力の差を見せ付けられた。スキナーはスメラギの指示を受けて退却し、ハッサンは一命を取り留めて意識を取り戻した。アリサは怪我を負ったが、治療を受けて助かった。ハッサンはアリサたちに、船に積んであったランドメイトが軍の横流し品であること、黒幕がカザマであることを教えた。エンジェル・チームは敵を叩き潰すため、特殊テロ対策部隊の基地「パンドラ」に向かう…。

監督は谷田部勝義、原作は天沢彰(ORCA) メディアワークス電撃文庫刊、設定協力は士郎正宗、脚本はORCA&伊崎健太郎&坂井淳一&藤家和正、製作は中村雅哉&李于錫&浅川武彦&高野輝隆&川野真寛、プロデューサーは藤家和正&吉田達、アニメーションプロデューサーは野口義晃&香西隆男、ゼネラルマネージャーは長島正治、絵コンテは谷田部勝義、コンテ協力は杉本道明、キャラクターデザインは青木哲朗&岩井優器、メカニックデザインは渡辺浩二、衣装デザイン協力は ことぶきつかさ、メカニックデザイン協力は沖一、総作画監督は山田たろう、作画監督は土屋幹夫&丸英夫&奥村まさひこ、色彩設定は武内和子、美術設定は加藤浩&平沢晃弘&塩澤良憲、美術は宮前光春、編集は井上和夫、CGプロデューサーは藤井政登、音響演出は谷田部勝義、音響効果は野崎博樹、録音は荒井孝&池田裕貴、音響プロデューサーは中野徹、演出は寿二郎&春野梢&飯野洋子、音楽プロデューサーは青沼明人、音楽は富永豊、主題歌 「CLOSE to me 〜世界の果てまで〜」はR-ORANGE&川名卓馬&中田あきこ。
声の出演は石塚理恵、渡辺久美子、岡村明美、川上とも子、高木礼子、勝生真沙子、有本欽隆、堀内賢雄、稲葉実、辻親八、仲野裕、田原アルノ、石田彰、青山穣、斎藤志郎、上田敏也、中田和宏、中博史、鈴木正和、山崎依里奈ら。


公開当時、多くのアニメファンに衝撃を与えた作品。
コアなアニメファンの間では、ある種の伝説として今も語り継がれている。
監督はTVアニメ『勇者エクスカイザー』や『伝説の勇者ダ・ガーン』を手掛けた谷田部勝義。
アリサの声を石塚理恵、ユンを渡辺久美子、マルシアを岡村明美、ミシェルを川上とも子、シルヴィアを高木礼子、タカコを勝生真沙子、ゴウマンを有本欽隆、スキナーを堀内賢雄、ハッサンを稲葉実、エンドウを辻親八が演じている。

どんな風に衝撃を与えたのか、何が伝説なのかというと、「日本のアニメ史上に残る最悪の作画崩壊を起こした映画」ってことだ。
映画館に足を運んだ観客は、着色が全く完成していないカット、線描だけで終わっているカットが次から次へ出て来る映画を見せられたのだ。
ようするに、大半が未完成のままで正式に全国上映されたのだ。
この一件は「一部のアニメファンの間だけで話題になった出来事」ではなく、新聞でも大きく報じられるほどのニュースになった。

実のところ、1990年代の日本アニメでは、作画の質が極端に落ちるようなケースってのが何度も見られた。アニメの現場では安いギャラで少数のスタッフが働いており、かなり厳しい状況で仕事に取り組むことは当たり前の光景となっていた。
なので、スケジュールがギリギリになって、何とか完成に間に合わせるなんてことも、そう珍しくはなかった。
「このままだと間に合わない」という最後の最後でスタッフが睡眠時間を削って働いたり、外部のスタッフに手伝ってもらったりすることも、アニメの現場では良くあったのだ。
昔に比べれば作業効率が向上した現在でさえ、「ギリギリで完成」ってことは、完全に無くなったわけではない。

ただ、TVアニメなら放送予定が確定していて1週ごとにスケジュールが決まっているが、劇場映画は状況が異なる。
間に合わないと判断した場合、最終手段として公開スケジュールを延期することも出来なくはない。
実際、どうしても完成せずに公開日を遅らせた作品もある。スタジオ・ジブリの『かぐや姫の物語』なんかも、絵コンテが完成していないってことで、公開が延期になったよね。
しかし本作品の場合、公開スケジュールを延期できない理由があったのだ。

この映画は1999年3月20日に、日活配給で東映洋画系の劇場で公開されることが決定していた。アニメの製作を担当したサンクチュアリは、下請け会社のスタジオジュニオに丸投げした。しかし完成には程遠い状態のまま、公開日が迫って来た。
そんな作品が未完成のまま上映されたのは、管理体制があまりにも杜撰だったからだ。
東映が製作元の日活から関係者向け試写のためにフィルムを受け取り、「まるで完成していない」という事実を知ったのが、なんと1999年3月18日。
今から公開中止にすることも出来ず、仕方なく未完成での上映に踏み切ったという裏事情があるのだ。

当時の関係者が後に各所で証言したところによれば、どうやら最初に用意された脚本の段階で既に問題は起きていたらしい。スタッフが次々に離脱したり、プロデューサーが途中で脚本を変更したりと、制作環境は完全に破綻していたようだ。
2月に入ってもレイアウト作業が続いており、その段階で公開日までの完成など不可能と言っていい状況だった。しかも、3月になって外注先から届いたセル画は単色で塗られており、トレス線も守っていなかった。
しかし一番の問題は、「誰も公開日までに完成しない状況を早い内に改善しようとしないだけでなく、東映に連絡を入れることも無かった」ってことなのだ。
ビジネス界で必須とされる「報告・連絡・相談」が、この映画を製作している環境下では完全に欠けていたのだ。

もはや「日本のアニメ」に限定しなくても、世界的に見てもナンバー1の作画崩壊と言っていい映画じゃないだろうか。
ここまで酷い状態で劇場公開されるなんてのは、普通なら絶対に有り得ないからだ。
公開当時、東映は「希望者に前売り券の料金を払い戻す」「納得した人だけに劇場で観賞してもらう」「後で完成版のビデオを送付する」という対応を取った。
3週間の予定だった上映期間は、2週間に短縮された。ただ、映画館によっては、それより短い期間で打ち切られたケースもあったようだ。

画質の崩壊ばかりが話題になる作品だが、実はシナリオも酷い。どっちも酷いってことは、ある意味でバランスは取れているけどね。
まず、序盤で世界観を説明する作業が疎かになっている。エンジェル・アームズ社やエンジェル・チームに関する説明も同様で、ものすごく雑に片付けられている。
なぜ民間企業のエンジェル・アームズ社が警察のような仕事を請け負っているのか、なぜ警察と敵対せず協力できているのか、なぜタカコはエンジェル・アームズ社を設立したのか、なぜテロリストだったアリサがチームに加わったのか、そもそもテロ活動を繰り返していた理由は何なのか。
他にも分からないこと、気になることは山ほどある。

エンジェル・チームのメンバー紹介は薄く、個々の魅力を充分にアピールすることなど全く出来ていない。アリサを巡るメンバーの反目や和解、絆のドラマなんかも、まるで描けていない。
物語に引き込むための力も、まるで足りていない。
アリサに関しては「死んだはずの恋人のスキナーが敵として現れる」という要素があるのだが、これによって彼女の心が揺れ動くようなことは皆無だし、そのせいでチームがバラバラになるような展開も無い。
なので、「スキナーが元カレ」という設定は無意味に等しいモノになっている。

終盤になって、電脳空間でアリサがスキナーと問答するシーンが用意されているが、「グダグダと喋っているような暇があったら、せめてアクションをやれよ」と言いたくなるだけだ。
そもそもアクションシーンにも引き付ける力は弱いけど、まだダラダラと問答しているのに比べれば少しはマシだろうしね。
クライマックスで主人公を戦わせずに問答させるってのは、ひょっとすると『新世紀エヴァンゲリオン』の悪い影響を受けたのか。
それとも『GHOST IN THE SHELL 〜攻殻機動隊〜』の悪影響なのか。

販売されているDVDでは、「完全版」を見ることが出来る。しかし完全版ですら、質の低さはハッキリと分かる仕上がりになっている。口の動きと台詞が合っていなかったり、カットがスムーズに繋がっておらず変な間が空いたり、キャラクターのデザインが崩れたり、動きがカクカクしたり、そんなシーンが次から次へと出て来る。
しかも、まだ彩色できていなかったり、トレス線をはみ出して塗られていたりと、明らかに未完成のパートも残っているのだ。
とは言え、完全版だと所詮は「低品質のアニメ作品」に過ぎず、「ひっでえ」とツッコミを入れたり笑ったりしながら観賞できる類の面白味は無い。なので、そういうことを楽しみたければ、未完成版を見た方がいい。
でも余程の物好きでないと時間の無駄遣いになることは確実なので、決してオススメはしないけどね。

(観賞日:2021年4月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会