『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』:2021、日本

U.C.0105、シャアの反乱から12年。月を出た航空機ハウンゼンの機内に、ハサウェイ・ノアの姿があった。乗客のギギ・アンダルシアは隣の席になった地球連邦軍のケネス・スレッグに声を掛け、マフティー・ナビーユ・エリンの退治に地球へ向かうことを指摘する。彼女は乗客の大半が地球連邦の閣僚や官僚と家族であることも見抜いており、ケネスを驚かせた。ケネスがマフティーについて「地球連邦政府の秩序を乱す危険人物」と評すると、ギギは「世間はマフティーが好きみたいですよ」とネットの記事を見せる。その記事では、多くの人々がマフティーにシャア・アズナブルを重ねていることが記されていた。
マフティーは連邦政府の閣僚を暗殺した後、「地球環境のために、全ての人類は地球を出なければならない」と宣言していた。ケネスが自身の考えを説明すると、ギギは「貴方ってパターンしか喋らないんだ」と不満そうに告げた。席を外したケネスは、客室乗務員のメイス・フラゥワーを口説いた。ハウンゼンが地球への降下を開始する中、武装した集団が乗り込んで来た。一味は容赦なく発砲して数名を射殺し、コクピットを制圧した。
ケネスが拳銃を用意していると、カール・エインスタイン大臣が「我々を巻き添えにするつもりか」と制止した。そこへ一味が来たため、ケネスは銃を捨てざるを得なかった。一味はマフティーの紋章を刻んだ仮面で顔を隠しており、リーダーはマフティー・ナビーユ・エリンと名乗った。彼は「諸君たちの命と引き換えに、地球連邦政府から軍資金を調達する」と言い、乗客名簿を用意させた。保健衛生大臣のハイラム・メッシャーが「喋るな」という命令を無視して質問を繰り返すと、リーダーは苛立って射殺した。
リーダーが「誰か死体を片付けろ」と要求すると、ハサウェイが名乗り出た。ハイラムの妻が死体に抱き付いて絶叫すると、リーダーは即座に射殺した。するとギギが立ち上がり、「やっちゃいなよ、そんなニセモノなんか」とハサウェイに告げる。ハサウェイはリーダーを襲って銃を奪い、左太腿を撃つ。彼がグループの1人を射殺すると、もう1人の男をケネスが取り押さえた。ハサウェイはコクピットへ向かい、ケネスも後を追って2人で一味を退治した。
犯人グループが目的地を香港からオーストラリアに変更していたため、ハウンゼンはダバオに着陸した。ケネスはハサウェイに、「連中はマフティーじゃないかもしれない。清廉さを感じなかった」と話す。「オーストラリア北部の町にあるオエンベリの片割れかもしれない」と語ったケネスは、数万の不穏分子が集まってマフティーを名乗っているのだと教えた。カバオの新任司令官であるケネスは、部下たちに犯人グループの連行を命じた。
ケネスはハサウェイに、調書を取ったり乗り継ぎの手配もあるのでロビーで待っていてくれと告げた。ハサウェイがロビーで待っていると、刑事警察機構長官のハンドリー・ヨクサンが声を掛けた。明日までダバオに滞在してほしいと要請され、ハサウェイは承諾した。彼は自分が植物監視官の訓練中で、明日中にメナドへ戻れれば良いのだと語った。ハンドリーが去った後、ハサウェイはギギに気付いて話し掛けた。ギギが「マフティー・エリンをな名乗るのは貴方だって分かった」と言うと、ハサウェイは「ごく普通の青年だよ」と笑い飛ばすだが、つまらなそうに「正直ね、そういう好きよ」と言うギギの様子を見て、嘘が分かるのだと気付いた。
なぜそう思ったのかとハサウェイが尋ねると、ギギは「人って自分のことになると馬鹿になるって本当ね」と言う。「マフティーの名前を利用する連中にカッとしてやっちゃったのよ」という彼女の言葉を聞いて、ハサウェイは納得する。「言葉で人を殺すことが出来るってことは覚えておいてほしいな」と彼が忠告すると、ギギは狼狽して「そんなことは、絶対に嫌だ」と口にした。「そういうんじゃないの、ホントだよ」とギギが釈明すると、ハサウェイは「しかし事実というのは、注意深くゆっくりと進行するものだ」と述べた。
事情聴取が終わったハサウェイは、ホテルのカードを渡された。空港を出るとギギが待っており、一緒のホテルだからとリムジンに同乗させた。2人にはそれぞれ、最上階のスイートルームが用意されていた。しかしギギは自分の部屋に泊まるよう誘い、ハサウェイは少し迷うが承諾した。ギギが「マフティーのやり方、正しくないよ」と言うと、ハサウェイは「他のやり方があるのならば、教えてほしいってマフティーは訊くよ」と告げる。「あるよ。絶対に間違わない独裁政権の樹立よ」とギギが話すと、彼は軽く笑って「それがいるとすれば、それは神様だよ」と口にした。
散歩に出る名目で外出したハサウェイは、連絡員のミヘッシャ・ヘンスとミツダ・ケンジに会った。彼がオエンベリについて質問すると、ミヘッシャはマフティーの基地がオーストラリア大陸にあるという噂を信じた3万人ほどの連中が集まっていると報告した。さらにミツダが、キンバレー部隊の主力がオエンベリに出撃したこと、新型モビルスーツのテスト中であることを知らせた。ハサウェイは2人に対し、目くらましの攻撃を要請した。
ハンターの横暴な振る舞いを見たハサウェイは、市民が「なんでマフティーはハンターを叩かないのか」と思っていることを知った。彼がホテルに戻るとギギの姿は無く、調査局部長のゲイス・H・ヒューゲストから「明朝10時に車を用意する」というメッセージが届いていた。しばらくするとギギがケネスを連れて戻り、「一緒に夕食へ行く」と当て付けのように告げた。2人が出掛けた後、ハサウェイはギギの「マフティーのやり方、正しくないよ」という言葉を思い出す。彼はベッドに横たわり、「分かっているさ、こんなやり方なんか。じゃあ教えてくれよ、この仕組みの深さを破壊する方法を。人類全てが、地球に住むことは出来ないんだ」と漏らした。
早朝、マフティーのガウマン・ノビルやシベット・アンハーンたちがダバオの市街地を攻撃し、ハサウェイはギギに避難を指示した。2人が宿泊するホテルも攻撃を受けて損傷するが、ハサウェイはギギを連れて脱出した。仲間のエメラルダ・ズービンを見つけたハサウェイが駆け寄ろうとすると、ギギが「置いて行くの?」と怯えたように言う。狼狽したハサウェイは「まさか、そんなこと」と否定し、彼女を連れてエメラルダとは反対方向に走り出した。
市街地には連邦政府の新型モビルスーツであるペーネロペー部隊が到着し、ガウマンたちを攻撃した。激しい戦闘が続き、多くの市民が巻き添えになった。エメラルダはハサウェイに追い付き、避難経路を指示した。すぐ近くでモビルスーツの戦闘が繰り広げられ、ギギはパニックに陥って泣き喚く。ハサウェイはエメラルダと別れ、ギギを連れて必死で逃げ回る。地球連邦軍は戦闘に勝利し、ガウマンは捕虜になった。ハサウェイとギギはケネスに保護され、ダバオ基地に移動した。ケネスと話したハサウェイは、ペーネロペーがガンダムであること、テストパイロットのレーン・エイムが充分に性能を引き出せていないことを知った。
翌朝、ハサウェイはケネスから、自身の部隊を「キルケー部隊」に変名することを聞かされた。彼はギギを女神になぞらえ、「君は特別な存在だよ。今夜、俺と付き合えるよな。君は幸運の女神なんだな。俺と寝てくれれば、キルケー部隊は真実のキルケーになる」と口説いた。ハサウェイが「嫌いだな、そういう言い方」と口にすると、彼は「こっちにもギギを口説きたい男がいるらしい」と笑みを浮かべた。ハサウェイは事情聴取を終え、ケネスに別れを告げて基地を去った。
ハサウェイが浜辺に到着すると、金を貰った少年がヨットで現れた。ハサウェイがヨットで海に出ると、クルーザーでエメラルダやミツダたちがやって来た。ハサウェイは「コインロッカーにスーツケースがある」とミツダに告げてヨットに移らせ、クルーザーで去った。彼はエメラルダたちに、「仮にギキが何も話さなくても、ケネスは自分がマフティーだと気付くだろう」と告げた。ギギはハサウェイが「会うと未練が残る」という理由で挨拶も無しに去ったと知り、ケネスの前で「失礼じゃないかしら」と不機嫌になった。
なぜハウンゼンに乗れたのかとケネスが尋ねると、ギギはバウンデンウッデン伯爵と親しい関係だからだと答えた。伯爵は80歳を超えているが、ギギは彼の愛人だった。ギギが去ろうとすると、ケネスは「勝利の女神だという勘はある」と、留まるよう勧めた。「ハサウェイは私を避けていたけど」というギギの言葉にでハッとした彼は、「君はハサウェイに何を感じていた?」と問い掛けた。ハサウェイは前線基地のロドイセヤに到着し、仲間のレイモンド・ケインやイラム・マサムやたちと合流した。
イラムはハサウェイに、ヴァリアントが予定海域に来ているので空中受領すると話す。さらに彼は、マフティーの第一軍を名乗る部隊から援護の要請が入っていることを知らせる。「キンバレーのグスタフ・カール十数機に町が攻撃されていると」と部隊が言っていることを聞き、ハサウェイは「邪魔をしているのが分かっていない」と苛立つ。そこへ敵らしき潜水艦の電波を傍受したという連絡が入ったため、シベットたちのギャルセゾン部隊が出撃した。一方、ケネスはマフティーの情報を得るため、ガウマンを尋問する…。

監督は村瀬修功、原作は富野由悠季&矢立肇『機動戦士ガンダム』より、脚本は むとうやすゆき、製作は浅沼誠&河野聡、企画は佐々木新&濱田健二、ブロデューサーは仲寿和&菊川裕之、エグゼクティブプロデューサーは小形尚弘、絵コンテは村瀬修功&渡辺信一郎、演出は松尾衛&原英知&米田光宏、キャラクターデザインはpablo uchida&恩田尚之&工原しげき、キャラクターデザイン原案は美樹本晴彦、メカニカルデザインはカトキハジメ&山根公利&中谷誠一&玄馬宣彦、メカニカルデザイン原案は森木靖泰&藤田一己、美術設定は岡田有章&中村豪希(スタジオ心)、キャラクター総作画監督は恩田尚之、メカニカル総作画監督は中谷誠一、エフェクト作画監督は金子秀一、メカニカルスーパーバイザーは玄馬宣彦、色彩設計は すずきたかこ、CGディレクターは増尾隆幸&藤江智洋、編集は今井大介、音響演出は笠松広司、録音演出は木村絵理子、音楽は澤野弘之、主題歌は[Alexandros]『閃光』。
声の出演は小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、斉藤壮馬、川村万梨阿、古谷徹、山寺宏一、佐々木望、津田健次郎、石川由依、落合福嗣、武内駿輔、早見沙織、松岡美里、沢城千春、宮崎遊、天ア滉平、綿貫竜之介、田中光、草野峻平、種崎敦美、新祐樹、綾見有紀、鷲見昂大、ニケライ・ファラナーゼ、越後屋コースケ、藤高智大、ボルケーノ太田、川口啓史、田村千恵、井川秀栄、吉富英治、きそひろこ、佐々木祐介、吉田健司、高橋雛子、高橋大輔、瀧村直樹、福西勝也、佐伯美由紀、本多新也、木野日菜、内田紳一郎、桜岡あつこ、地蔵堂武大ら。


富野由悠季の同名小説を基にした長編アニメーション映画。
監督は『虐殺器官』の村瀬修功。
脚本はOVA『機動戦士ガンダムUC』やTVアニメ『ガンダムビルドダイバーズ』のむとうやすゆき。
ハサウェイの声を小野賢章、ギギを上田麗奈、ケネスを諏訪部順一、レーンを斉藤壮馬、ハンドリーを山寺宏一、ゲイスを佐々木望、ガウマンを津田健次郎、エメラルダを石川由依、レイモンドを落合福嗣、イラムを武内駿輔、ミヘッシャを松岡美里、ミツダを沢城千春が担当している。

武装集団がハウンゼンを占拠した後、乗客の女性たちがギギについて「パトロンがいるのよ」「愛人よ、いやらしい」などと小声で喋り出すシーンがある。
このシーンには、「アンタらは自分たちの置かれている状況が分かっていないのか」と言いたくなった。
銃を持って既に人も殺している武装集団が近くで脅しているのに、まるで緊張感も恐怖も感じていない様子だ。でも、それは描写として変じゃないか。
「ギギが婦人たちから白い目で見られる」ってのを、そこまで無理して描く必要は無いでしょ。
っていうか、そういうのを描きたいのなら、ハイジャックが発生する前に片付けておけばいいのであって。

それだけに留まらず、メッシャー大臣がノンビリした様子で「諸君らは、どのようにして船の情報を掴んだのかね」と武装集団のリーダーに話し掛ける展開まで用意されている。
リーダーが「喋るなと言っている」と明らかにイライラしているのに、彼は構わず「しかしねえ、私たちとしては、君たちの組織を調べる立場にいるのだ」と言葉を続ける。
その行動は、ものすごく能天気でバカすぎる。
「リーダーが容赦なく乗客を殺す」という手順を消化したいだけなら、そんなバカを用意しなくても可能でしょうに。

空港ロビーでギギが「マフティー・ナビーユ・エリン、つまり正当な予言者の王という名前を名乗るのは、貴方だって分かったってこと」と話すと、ハサウェイは「僕はご覧の通り、ごく普通の青年だよ」と軽く笑う。
しかし「正直ね、そういうの好きよ」とつまらなそうにギギが言うと、ハサウェイは「この子は、嘘が分かるんだ」と感じる。
でも、なぜそう感じたのかはサッパリ分からない。
その程度でギギの特殊能力を見抜けたのなら、ある意味ではハサウェイの方が嘘が分かる能力の持ち主と言えるんじゃないかと。

ちゃんとしたキャッチボールが成立していないような会話劇が、何度も訪れる。本人たちは分かったような顔で普通に喋っているのだが、こっちからすると「ちょっと何言ってんのか分かんないんですけど」という気持ちになる。
例えば、空港ロビーにおけるハサウェイのギギの会話。例えば、ホテルのエレベーターでの2人の会話。
まるで筋が通っていないとは言わない。無理問答ぐらい破綻しているわけではない。
でも深い意味があるように見せて、実は空虚で無駄の多い台詞の連続に思えてしまうんだよね。

ハサウェイは陽動作戦として市街地を爆破させ、エメラルダ・ズービンとの合流を図るが、ギギが泣くのを見て別方向へ走り出す。
だけど、ギギを連れてマフティーに合流すれば良かっただろ。ギギがどんな人物か分からないから怪しんだってのは分かるが、だったら余計に自分の手元に置いた方が何かと都合がいいだろ。
結局は彼女と別れて基地を去るんだし、何のためにマフティーの迎えを拒んだのか。ただアホなだけだ。
とてもじゃないが、テロ組織を率いるリーダーとして有能だとは思えない。
「ハサウェイ・ノア」という名前だけで周囲に持ち上げられている奴、そのことに気付かず「自分は凄い人間」と思い込んでいる凡人にしか思えない。

これまでの「ガンダム」作品の主人公は、戦場において軍に所属する相手と戦っていた。当然のことながら人を殺すこともあるが、軍艦やモビルスーツに乗っている軍人が相手であり、「だって戦争だから」という免罪符もあった。
しかし今回の主人公であるハサウェイは、モビルスーツにも軍艦にも乗っていない民間人も標的にしている。
しかも、復讐相手とか、悪党とか、そういうわけでもない。ただ普通に生きているだけの民間人も、「目的のためなら手段は選ばぬ」ってな感じで巻き添えを食らわしている。
ようするにハサウェイは、卑劣で横暴なテロリストなのだ。

マフティーについて「彼の戦術はテロですから、最終的には指示されませんよ」と評する台詞があるが、まさにその通りだ。
ハサウェイは『逆襲のシャア』におけるジャア・アズナブルの遺志を引き継いでいるという設定だが、無差別テロの首謀者が主人公ってのは、なかなかのチャレンジだ。
そんな人物が主人公という時点で、かなり厳しいモノがある。
複数の主人公制とか群像劇であれば何とかなるだろうが、ピンなので大変だ。

ギギは普段は大人ぶって余裕に満ちており、ハサウェイを翻弄するのに、たまに年齢相応の怖がりなどを見せる。
そんなギギを「2人の男を魅了するファム・ファタール」として描きたいのは良く分かるし、それ自体が悪いとは思わない。
ただ、彼女に翻弄されるハサウェイが、何も成長していないようにしか見えない。
『逆襲のシャア』での経験から、何も学んでいないのかと。
それもあって、ますます主人公として厳しいと感じてしまうんだよね。

(観賞日:2022年12月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会