『グッドモーニングショー』:2016、日本

アナウンサーの澄田真吾は、朝7時から放送されているワイドショー『グッドモーニングショー』のメインキャスターを務めている。そのため、深夜3時には起床して出掛ける準備に入る。その日の朝、いつものように起きた彼は、妻の明美と一人息子の様子が妙だと気付く。息子は明美に促され、面倒そうに結婚することを告げた。相手が妊娠したことを聞かされた澄田は、まだ学生なのにと声を荒らげる。だが、息子から「親父だって、朝からケーキ食ってはしゃいでるだけだろ」と言われると、途端に黙り込んでしまった。
澄田がタクシーでテレビ局へ向かっていると、携帯電話が鳴った。相手はサブキャスターを務める小川圭子で、彼女の乗ったタクシーが隣に現れた。圭子が「だって私、忘れることなんか出来ません。今日の本番中に発表しましょう」と言うので、全く身に覚えの無い澄田は狼狽するが、圭子は満面の笑みを浮かべて先にテレビ局へ向かった。既にスタジオではセットの組み立てが始まっており、報道部の一角を借りている番組の部署でもスタッフが忙しく動き回っていた。
澄田がテレビ局に到着すると、その日の番組内容を決める打ち合わせが始まった。チーフディレクターの秋吉克己、報道担当ディレクターの松岡宏二、特集担当ディレクターの館山修平、芸能&グルメ担当ディレクターの新垣英莉、中継担当ディレクターの府川速人らが集まり、取り上げる順番を決める。松岡は海外のクーデター事件を取り扱うよう主張するが、新垣は熱愛報道をトップに取り上げるべきだと進言する。澄田が熱愛報道に賛同し、その日の順番が決定した。素材を借りに報道部へ赴いた松岡は報道部長から嫌味を言われ、頭を下げることしか出来なかった。
圭子は澄田から貰ったひこにゃんストラップを大切にしていたが、それは旅行の土産で全員に配った物だった。それでも彼女は自分だけが特別だと感じており、その様子に澄田は困惑した。澄田は失恋で落ち込んでいる圭子を慰めただけなのだが、彼女は思い込みが激しい性格だった。澄田はプロデューサーの石山聡に呼び出され、視聴率が悪いので番組が打ち切りになると知らされた。新番組に澄田は起用されず、夜の報道番組を担当する後輩アナウンサーが朝も務めると知った。
「あの時、どうして本当のことを言わなかった?」と石山から問われた澄田は、口をつぐんだ。かつて夜の報道番組を担当していた彼は、台風の被災地の現地レポートに出たことがあった。その際、彼が顔に泥を塗り、笑顔を浮かべる様子が中継カメラに写し出されたのだった。澄田がメイクのため化粧室へ赴くと、圭子とスポーツ担当キャスターの三木沙也がいた。澄田は圭子の暴走を止めるため、後で話そうと提案する。しかし彼女は、全く耳を貸さなかった。
大崎駅近くのカフェで男が立て籠もっているという情報が入り、すぐに府川が出動した。番組のトップで事件を扱うことになり、秋吉はスイーツ特集のカットを決めた。限定スイーツを用意した英莉は抗議するが、決定は覆らなかった。彼女はスイーツ店に電話を掛け、大量に商品を用意していた店主に謝罪した。事件現場に到着した府川が素材をテレビ局に送っていると、警察特殊班の黒岩警部補が声を掛けた。黒岩は石山と電話で話し、犯人が澄田を要求していることを明かした。
本番がスタートし、澄田は立て籠もり事件に触れる。熱愛報道もカットになり、事件が起きていることを伝えた後は政治家の贈収賄事件を取り上げた。圭子が事件に絡んで「嘘をつくとバレちゃいますもんね」などと意味ありげに言い、澄田との関係を発表しようとする。澄田は狼狽し、勝手にCMを入れた。石山は澄田に犯人の要求を教え、現場へ行くよう促した。しかし澄田は台風リポートの一件以来、現場へ行くのが怖くなっていた。彼が難色を示しただけでなく、情報制作部副部長も現場へ行くことには反対した。しかし圭子が本番中に「重大な発表があります」と言い出したため、澄田は慌てて「中継に出ることになりました」と遮った。
澄田はテレビ局へ戻った府川のバイクに乗り、事件現場へ向かう。スタジオでは圭子と沙也が指示を受け、犯人の要求が澄田だと説明した。現場に到着した澄田は黒岩と会い、犯人が銃で武装して爆弾も所持していることを知らされた。澄田は防弾チョッキと耐爆スーツの着用を指示され、府川は警察に隠れて盗撮用カメラと小型マイクを仕込んだ。黒岩は澄田に、「犯人と約束しない。犯人を信じない。犯人を刺激しない」というルールを守るよう要求した。
澄田は黒岩と警官たちに伴われ、マイクを握ってカフェへ向かった。彼は秋吉の指示を受け、現場リポートを始める。散弾銃の弾が落ちているのを発見した澄田は怖じ気付くが、逃げ出すことは許されなかった。店に入ると、黒岩は人質に猟銃を向けている犯人の西谷颯太に声を掛けた。西谷が顔を見せるよう要求すると、刑事たちは澄田のヘルメットを脱がせた。澄田は西谷と会った記憶が無かったが、カメラの前で視聴者に謝罪するよう要求される。戸惑いを見せる澄田に、西谷は「くだらない放送して、ごめんなさいって。いつも上から目線で、何様なんだよ」と声を荒らげた。
店の外に出た澄田はマイクを握って話し始めるが、延々と説明するだけで謝罪の言葉を口にしなかった。テレビ局では報道部長が番組を仕切ると言い出し、映像を情報センターに切り替えた。しかし抗議の電話が殺到したため、石山の指示で澄田の映像に戻した。澄田は西谷に脅され、土下座して謝罪しようとする。しかし西谷がカフェで働いていたという情報をスタジオから教えられ、店に戻った。西谷は仕事がキツかったとブログに書き込んでおり、カフェでは2年前に火事が発生していた。当時、そのニュースを澄田は扱っていた。
澄田は西谷にマイクを向け、自分ではなく店に対して何か言いたいことがあるのではないかと問い掛けた。苛立つ西谷に、彼は「店長に会いに来たんじゃないですか。でも店長は辞めて、いなかった。だから、そんなことをしたんじゃないですか」と尋ねる。西谷は店の仕事が酷い環境だったこと、店長が煙草の不始末で火事を起こしたのに罪を被せてクビにしたことを語る。澄田は冤罪を晴らすと約束するが、西谷は激昂して「俺はアンタに調べてくれと頼んだのに、覚えてないのか」と詰め寄った…。

脚本・監督は君塚良一、プロデューサーは土屋健&古郡真也、製作は石原隆&市川南、撮影は栢野直樹、照明は磯野雅宏、美術は山口修、録音は柿澤潔、編集は穗垣順之助、衣裳は眞鍋和子&岡田敦之、音楽は村松崇継。
主題歌『Wake up』KANA-BOON 作詞・作曲:谷口鮪、編曲:KANA-BOON。
出演は中井貴一、長澤まさみ、志田未来、時任三郎、松重豊、吉田羊、濱田岳、池内博之、林遣都、梶原善、木南晴夏、大東駿介、遠山俊也、小木茂光、上野なつひ、森脇英理子、折井あゆみ、松嶋亮太、渡辺真理、弥尋、小谷早弥花、北山雅康、川井つと、掛田誠、佐藤恒治、田鍋謙一郎、水谷あつし、越村友一、大地泰仁、花戸祐介、大津尋葵、細川洋平、東亜優、大西礼芳、木竜麻生、小柳心、田川可奈美、須永祐介、押田佐代子、たれやなぎ、澤田樹里亜、霜山多加志、天川真澄、青柳弘大、鈴木豊、關文比古、志野リュウ、原田裕章、永野典勝ら。


『誰も守ってくれない』『遺体 明日への十日間』の君塚良一が脚本&監督を務めた作品。
君塚良一が脚本を手掛けた『踊る大捜査線』シリーズのフジテレビジョンが東宝と組んで製作している。
澄田を中井貴一、圭子を長澤まさみ、沙也を志田未来、石山を時任三郎、黒岩を松重豊、明美を吉田羊、西谷を濱田岳、秋吉を池内博之、松岡を林遣都、館山を梶原善、英莉を木南晴夏、府川を大東駿介、情報制作部副部長を遠山俊也、報道部長を小木茂光が演じている。

冒頭、タクシーに乗っていた澄田が圭子の電話で困惑し、「もしもーし」と言うとエコーが掛かる。
ここで少し前から流れていたBGMが大きくなり、カメラがロングになってから空へパンする。カットがスタジオに切り替わり、BGMが終わる。
こういう編集で始めると、「思い込みの激しい圭子に澄田が振り回される」というネタがメインで扱われるように思ってしまう。
しかし、そうじゃないのだから、その入り方は望ましくない。

もっと問題なのは、「圭子が勝手に2人の関係を発表しようとする」というネタ自体が完全に要らないってことだ。
「腰の引けていた澄田が現場へ向かう」という状況へ追い込むために「圭子が発表しようとするので慌てて遮る」という手順を踏ませたら、そこで基本的には役割を終えてしまうのだ。
その後も「西谷が2人の写真を撒く」とか「圭子が発表する」といったシーンは用意されているが、ストーリー展開に大きな影響を与えるモノではない。
だったら「澄田が現場へ行かざるを得ない状況」は他の方法で作り、圭子の設定は変えた方がいい。そういう要素を持ち込んだせいで圭子が浮かれポンチなキャラになっており、そこが完全に浮いているのだ。

番組がスタートするまでの時間帯では、ワイドショーの準備を進める様子が写し出される。
君塚良一は「あたかもリアリティー」を構築するのが得意な人なので、そこは細かい描写となっている。
全てが事実に即しているかどうかは分からないが、それは大きな問題ではない。重要なのは、ディティールを詳細に描き、いかにもホントっぽく見せることだ。
そこには引き付ける力があり、いっそのこと映画全体を通して「ワイドショーの裏側見せます」という内容にしてもいいんじゃないかと思うほどだ。

しかし残念ながら(と書いてしまおう)、カフェの事件が発生し、澄田が現場へ向かう展開に入ってしまう。
そうなると、当然ながら「いつものワイドショー」ではなくなってしまう。イレギュラーな内容で、報道色オンリーになってしまう。
また、事件の解決に至るまでを描くという要素も強くなるし、澄田の行動は「ワイドショーの司会者」としての仕事から外れてしまう。
極端なことを言ってしまうと、もはやワイドショーの司会者じゃなくても良くねえかと思ってしまうぐらいだ。

『踊る大捜査線』シリーズでは警察内部の対立を描いていた君塚監督だが、この映画ではテレビ局内部での対立の図式を持ち込んでいる。報道部を憎まれ役にして、ワイドショーの部署と対立している設定にしてある。
実際の報道部がワイドショーを見下しているかどうかは別にして、ここは「あたかもリアリティー」が成立していない。
まず澄田の現場リポートを「ニュースを見世物にして」と報道部長が憤慨するシーンでは、「今のニュース番組も見世物だし」と言いたくなる。また、報道部の指揮で特別番組に切り替えることはあるにしても、「澄田がカメラに向かって喋っている途中で報道センターに切り替えるってのは有り得ないだろ」と言いたくなる。
「抗議の電話が殺到し、ワイドショー側が主導権を奪い返す」という展開を描きたいからって、無理しすぎだ。

報道センターに映像を切り替えて抗議の電話が殺到した時、石山が報道部長に「視聴者を舐めちゃいけない。視聴者はテレビを見るプロです」と告げる。
そうやって「テレビの視聴者」を全面的に擁護する台詞を言わせておいて、終盤に入ると全面的に否定するためのシーンを用意している。視聴者に対してdボタンで「犯人は命を捨てるべきか否か」の投票を求め、「捨てるべき」が69%という結果が出る展開を用意するのだ。
だけど、そんな投票をやったら、そんな結果が出るのは当然でしょ。
君塚監督は『誰も守ってくれない』でネット民に対する嫌悪感を歪んだ形でアピールしていたが、この映画にも似たような感覚がある。
良くも悪くも、ブレない人だね。

澄田はカフェに入って子供の人質を見た時、先に解放するよう求めている。
そんな風に人質を気にする様子を見せておきながら、彼は西谷からの謝罪要求に従おうとしない。「謝罪すれば人質を解放する」という約束を取り付けているのに、ベラベラと自分の考えを喋り続けて時間を費やしている。人命が最優先の状況なのに、妙なプライドを見せるのだ。
「ワイドショーは低俗なんかじゃない」ってことを、監督は澄田を使って訴えようとしたのかもしれない。
だが、それを訴えるには、用意した状況を間違えている。

しかし澄田は、なかなか謝罪しないだけで終わらない。西谷に関する情報を入手すると、無闇に彼を刺激したり挑発したりするような言葉を口にする。西谷が猟銃で人質を殺すと脅しても、まるで気にせず「貴方の時間です」などとマイクを突き付けるのだ。
その行動は決して「アナウンサーとしての素晴らしい仕事」とは言えないし、喜劇にもなっちゃいない。
ただし、それについてはスタジオ側からの指示で言わせているという側面もある。
そうなると、「そんな連中が作っているんだから、やっぱりワイドショーはクソじゃねえか」ってことになってしまうんだよね。

澄田が台風中継で顔に泥を塗っていたのは、近くにいた子供を元気付けるための行動だ。
それをヤラセだと誤解されて非難されても、全く釈明せずに今まで来ているってのは理解し難い。それを「言い訳しないことが美徳」として、称賛することなど出来ない。
本人が何も釈明しなかったとしても、それはテレビ局にとっても大きなマイナスになるんだから、「こういう事情がありまして」と上の方から正式なコメントを出して説明するべきでしょうに。
今になって、事件の中継をしている最中に沙也が「自分は現場で見ていたけど、こういう理由がありまして」と説明するのは不自然だよ。

西谷の行動は、デタラメ極まりない。
彼は店長に恨みを抱いてカフェに来たが、既に辞めていたので立て籠もり事件を起こして澄田を呼ぶよう要求している。この説明で彼の犯行動機に納得できる人って、どれぐらい存在するんだろうか。
「店長がいないから立て籠もり事件を起こす」って、どういうことだよ。
いや、そりゃあ「怒りの感情を向ける矛先が無くなったので、衝動的に立て籠もり事件を起こした」ということなんだろうとは思うよ。そういう支離滅裂な犯罪は、実際には起きることもあるだろう。
だけど映画の犯人としては、それじゃあマズいんじゃないですか。
動機が判明した時に、「なんじゃ、そりゃ」という感想になっちゃダメでしょ。

西谷が澄田を呼び出すのも、デタラメな行動にしか思えない。本人は「最初から店長じゃなくてアンタを呼ぶつもりだった」と言うけど、後付けの言い訳にしか聞こえない。
しかも、彼が澄田を呼んだ理由として挙げるのは、「タクシーに乗る時に待ち伏せていて、自分の訴えを書いた手紙を渡そうとしたけど受け取ってもらえなかったから」というモノだ。でも、ちょっと離れた場所から遠慮がちに呼び掛けているので、その声が澄田まで届いていないのよね。
あの状況で「オレの手紙を受け取らず無視しやがって」ってのは、完全に逆恨みだ。
なので事件を起こした真相が判明しても、「店長から酷い仕打ちを受けていた同情すべき加害者」には全く感じない。ただのクズだ。
クズとして描きたかったのなら、それで正解だけど、たぶん違うはずでしょ。

(観賞日:2017年12月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会