『ゴルゴ13』:1983、日本

殺し屋のゴルゴ13は旅客機から降りて来た標的の男を狙撃し、複葉機で飛び去った。カリフォルニアのカテリナでは、石油の帝王であるレオナルド・ドーソンが副大統領や知事、議員など大勢を招待して船上パーティーを開いていた。彼はドーソン・コンツェルンの新社長として、息子のロバートを紹介した。ロバートは妻のローラや娘のエミリーが見ている中で、来客にスピーチした。ゴルゴは灯台の見張りを倒して中に入り、ロバートを狙撃して立ち去った。彼は町へ行き、女とセックスした。
モレッティ司教は墓地でゴルゴと会い、仕事を依頼した。彼はシシリー島で両親と兄夫婦、妹夫婦、その子供たちをマフィアのドクターZに惨殺されていた。ゴルゴが仕事を引き受けると、モレッティは拳銃で自殺した。ゴルゴが女を抱いている部屋に、連絡人のパゴが来た。彼はドクターZの正体を最高幹部さえ知らないこと、1人娘のシンディしか接触できないことを伝え、島の地図と邸宅の見取り図、さらに盗み撮りしたビデオを渡した。
シンディが護衛を率いてレストランに入ると、先客としてゴルゴの姿があった。護衛は店主に、ゴルゴを追い出すよう命じた。ゴルゴは自分が先客だと言って拒否し、力ずくで排除しようとする護衛の1人を叩きのめした。シンディはゴルゴに興味を抱き、車に乗せて邸宅に招いた。シンディはゴルゴの正体を見抜いた上で、服を脱いで誘惑した。セックスを終えた彼女は、「誰も父を殺せない」と口にした。シンディが金庫を開けると、そこには電話が入っていた。父から電話を受けた彼女は、怯えた様子を見せた。
シンディは電話を終えると、仕事から手を引くようゴルゴに頼もうとする。しかしゴルゴは、既に部屋を去っていた。そんなゴルゴの様子を、5人の男たちが監視していた。ホテルに入ったゴルゴは、時計屋から腕時計型時限爆弾を受け取った。翌日、ゴルゴはシンディの邸宅へ行き、彼女に誘われて乗馬に出掛けた。シンディはゴルゴにシシリーから出て行って欲しいと頼み、その場を後にした。ゴルゴは男たちに包囲されて銃撃を受けるが、全員を始末した。
ゴルゴはシンディの寝室に忍び込み、腕時計型時限爆弾で金庫の扉を破壊して電話を確認した。彼は浜辺にいたシンディに電話を掛け、前日の父親との通話が1人芝居だったことを指摘して「ドクターZはお前だ」と告げた。シンディは浜辺に来たゴルゴを殺そうとするが、返り討ちに遭った。ゴルゴが車で去ろうとすると、待機していた男たちが一斉に銃撃した。ゴルゴは車を捨て、海を泳いで逃亡した。彼が教会に赴くと、パゴが瀕死の状態で磔にされていた。ゴルゴはパゴに質問し、情報を誰にも漏らしていないこと、襲ったのがシンディの手下ではないことを確認した。
パゴはドクターZの死をゴルゴに知らされ、息を引き取った。ゴルゴが教会を出ようとすると、3人の男たちに襲われた。怪我を負った彼が教会の外に出ると、大勢の男たちが待ち受けていた。男たちは激しい銃撃で教会を炎上させるが、ゴルゴは密かに脱出していた。時計屋は殺し屋のビッグ・スネークに襲われ、ゴルゴが赴いた時は瀕死の状態になっていた。彼は見たことも聞いたことも無い男が狙っていることをゴルゴに教え、息を引き取った。
ペンタゴン情報局長のジェファーソン将軍は、CIA副長官のヤングとFBI本部長のガービンからゴルゴを殺害する作戦の失敗を咎められた。3人組はガービンが用意した刺客で、教会を包囲していたのはジェファーソンの部下である陸軍特殊部隊のブレイガンたちだった。彼らの元に現れたブレイガンは、スネークに時計屋を始末させたことを報告した。彼はスネークの実力を見せるため、3人組を殺害させた。その場に同席していたローラはスネークに欲情され、平手打ちを浴びせて去った。
ゴルゴは車のディーラーで銃器密造職人のリタを訪ね、改造車と銃を受け取った。リタは報酬の代わりに、自分を抱いてほしいと頼んだ。ゴルゴは彼女を抱いた上で報酬を支払い、しばらくサンフランシスコを離れるよう忠告した。ブレイガンはゴルゴの次なる標的が、ナチス親衛隊長だったトム・ヒューズだと突き止めた。さらに彼は、ヒューズビルの最上階に暮らすヒューズをゴルゴが狙う場所と武器も絞り込んだ。彼はゴルゴを始末するため、特定した場所に部隊を差し向けた。
ゴルゴはブレイガンの予想を裏切り、USAビルが障害になるので狙撃は不可能だと確信していた広告塔に現れた。ゴルゴが放った銃弾はUSAビルの窓を貫通し、ヒューズに命中した。ブレイガンは部下に指示し、ゴルゴの車を包囲して殺害しようとする。ゴルゴは敵を全滅させるが、ブレイガンの銃弾を右胸に浴びた。スネークはリタの自動車工場へ行き、彼女を始末した。ドーソンはジェファーソン&ヤング&ガービンと会い、激しい怒りを浴びせた。彼はゴルゴに復讐するため、多額の資金を投入して3人を買い取ったのだ。今まで全く結果が出ていないことを激しく責めたドーソンは、「3度目は無い」と通告した。
ドーソンはスネークにゴルゴの始末を命じ、ローラを抱かせるよう要求された。ローラはドーソンの指示を受けた執事に部屋へ呼び出され、待ち受けていたスネークに強姦された。ゴルゴはブラジルのアマゾンへ行き、情報屋のパブロに会った。彼は糸を引いている人物を調査するようパブロに依頼し、怪我の養生でマイアミへ移った。ドーソンはジェファーソン&ヤング&ガービンを呼び、ヤングが何も提供していないことを指摘した。ヤングが「提供できる物は何も無い」と言うと、彼は殺し屋2人組の存在に触れた。
かつてCIAは殺し屋をザンジバルに集め、過酷な環境下で2千人のゲリラと戦わせた。するとシルバーとゴールドという殺し屋が、たった2人で2千人のゲリラを全滅させた。しかし2人は帰国後に偏執的な殺人を繰り返し、連邦刑務所に収監されていた。ドーソンが2人を提供するよう要求すると、ヤングは「それは無理だ」と断った。ジェファーソンとガービンも私怨でシルバーとゴールドを使うことの危険を指摘し、その場を去ろうとする。ドーソンは「拒否すればドーソン企業の操業を無期限停止する」と脅し、仕方なくヤングはシルバーとゴールドは連邦刑務所から出した。ドーソンはエミリーをローラから引き離し、地下室で殺しの訓練を積ませていた。彼はローラに「なぜゴルゴにロバートの殺しを頼んだ人物を探そうとしないのか」と問われ、「今は答えられん」と告げた…。

監督は出崎統、原作は さいとうたかを&さいとう・プロダクション(ビッグコミック連載中 小学館刊 リイド社刊)、脚本は長坂秀佳、製作は藤岡豊&山本又一朗、プロデューサーは稲田伸生、作画監督は杉野昭夫、美術監督は小林七郎、撮影監督は高橋宏固、編集は鶴渕允寿、録音監督は伊達渉、CG製作総指揮は大村皓一、CGディレクターは御厨さと美、色指定は池内道子、選曲は鈴木清司、音楽は木森敏之、主題歌『プレイ・フォー・ユー』はシンディ・ウッド。
声の出演は瑳川哲朗、納谷悟朗、藤田淑子、富田耕生、小林清志、武藤礼子、富山敬、嶋俊介、納谷六朗、千葉耕市、郷里大輔、二又一成、千田光男、村越伊知郎、兼本新吾、小宮和枝、林一夫、北村弘一、青野武、屋良有作、滝沢久美子。


さいとうたかを&さいとう・プロダクションによる同名漫画を基にした長編アニメーション映画。
世界で初めて3DCGを使ったアニメ作品として、一部マニアの間では知られている。
監督は『あしたのジョー』『SPACE ADVENTURE コブラ』の出崎統。
脚本は『きらめきの季節』『小説吉田学校』の長坂秀佳。
ゴルゴ13の声を瑳川哲朗、ドーソンを納谷悟朗、シンディを藤田淑子、ブレイガンを富田耕生、ジェファーソンを小林清志、ローラを武藤礼子が担当している。

チャプター形式で数話を連ねたオムニバス映画にする方法もあっただろうけど、1本の長編としてシナリオを構成している。
ただ、原作の1つのエピソードを膨らませるのではなく、『帝王の罠』『CHECK MATE(チェック・メイト)』『シシリー島の墓標』『ヒドラ』など複数のエピソードを組み合わせ、そこにオリジナル要素を加えて構成されている。
結果としては、これが大きな失敗だった。
メインになるのは「ドーソンのデューク東郷に対する復讐劇」を描く『帝王の罠』で、その上に他の要素を乗っける形なのだが、そのせいでシンディのエピソード(『シシリー島の墓標』)が前菜のような存在と化しているのだ。

「シンディはドクターZの娘としてデューク東郷に接していたが、実際はドクターZ本人だった」ってのは、本来なら始まってから20分ぐらいで明かされるような真実ではない。
しかしメインイベントではないため、簡単に片付けられてしまう。
デューク東郷がドクターZを標的にするのはドーソンが仕掛けた策略ではないため、それは「ドーソンが監視している時にゴルゴが受けた仕事」でしかない。
なので極端に言ってしまえば、どんな仕事でも構わないってことになるのだ。

この作品はTVアニメの劇場版として作られたわけではなく、シリーズ映画の何作目かとして作られたわけでもない。
単独の映画として作られていることを考えると、「デューク東郷がピンチに陥って焦る」という状況を何度も用意するのは、果たしていかがなものかと思う。
もちろん、主人公を窮地に陥れた方が観客を引き込みやすいし、ドラマにメリハリを付ける意味でも楽ではあるだろう。
だけどデューク東郷のキャラからすると、徹底したプロの仕事ぶりを描くだけでも充分に面白く出来たんじゃないかと。

前述したように、出崎統は『あしたのジョー』や『SPACE ADVENTURE コブラ』を担当している人だ。劇画調の演出が得意な人なので、普通に考えれば『ゴルゴ13』を撮るにはピッタリの監督と言えよう。
しかし出崎統は、人間味の乏しいデューク東郷を動かすことに全く気持ちが乗らなかったらしい。
考えてみれば、『あしたのジョー』の矢吹ジョーにしろ、『SPACE ADVENTURE コブラ』のコブラにしろ、とても人間臭くて感情を明確に表現するキャラクターだった。さらに言うと、後に手掛ける『ブラックジャック』のブラックジャックにしても、ニヒルを気取っているが実際は情の深い人物だ。
出崎統の演出には、人間の熱や情ってのが大きな要素になっているのだ。

デューク東郷は常にクールで感情表現の乏しい人物なので、物語を盛り上げるための熱さが全く足りていないという問題がある。
そこを何とかしようという戦略だったのか、この作品のデューク東郷にはピンチに陥って焦ったり動揺したりするシーンが何度もある。
だけど、それはそれで「デューク東郷らしくない」という問題が起きている。
何度もデューク東郷をピンチに陥らせることは、彼の圧倒的な強さを否定しちゃうことにも繋がるし。

スネークはクレイジーだけど圧倒的な強さを持つ殺し屋として登場し、3人組を簡単に始末して実力を見せ付ける。
ただ、彼が時計屋やリタを殺しても、デューク東郷には何の危害も及ばない。
時計屋にしろリタにしろ、仕事に必要な道具をデューク東郷に渡してから殺害されているので、タイミングとしては1つ遅いと感じるし。
2人が始末されることで、それ以降のデューク東郷が困った状況に陥るという展開になるわけでもないし。

この映画のセールスポイントになっている「世界初の3DCGアニメ映画」という要素だが、3DCGの質はお世辞にも高いとは言えない。全てのシーンで使っているわけではなく、終盤のヘリコプターなど、ほんの一部で使用されているだけ。
で、そんな3DCGは、ポリゴン感たっぷりの残念な出来栄えになっている。
「当時の技術では、この程度が限界」ってことなのかもしれないけど、セルアニメとの差が激しいし、まるで馴染んでいない。
出崎統の作風にも合っているとは思えないし、この作品で用いたのは失敗だよね。

(観賞日:2022年7月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会