『ゴジラVSビオランテ』:1989、日本
1985年。日本に上陸したゴジラはスーパーXとの戦いを経て、三原山の火口に姿を消した。新宿副都心では非常厳戒体制が解かれ、自衛隊がゴジラ細胞の回収作業を行っていた。米国のバイオメジャーが差し向けた工作員3名もゴジラ細胞を採取するが、自衛隊員たちに発見される。工作員たちは逃走しながら発砲し、自衛隊員を全滅させる。しかしサラジア共和国が派遣した工作員のSSS9がバイオメジャーの連中を始末し、ゴジラ細胞を奪った。
SSS9はゴジラ細胞を持って、サラジア共和国へ戻った。遺伝子工学の世界的権威である白神源壱郎は報告を受け、助手を務める娘の英理加と共にサラジア生物工学研究所へ向かった。白神は自己再生能力を持つゴジラ細胞を使い、永遠に枯れることの無い小麦を開発しようと考えていた。それが実現すれば、最大の小麦輸出国であるアメリカには大打撃となる。しかし、バイオメジャーの工作員によって研究所が爆破されてゴジラ細胞は失われ、英理加が命を落とした。
それから5年後。白神は神奈川県の芦ノ湖畔に白神新植物研究所を設置し、たった一人で静かに暮らしていた。英理加の遺伝子を移植したバラを育てている彼は、娘の親友だった大河内明日香に頼み、三枝未希という少女を連れて来てもらった。明日香は超能力の研究機関である精神科学開発センターの研究員を務めており、未希は最も優れた能力を持つ超能力少女だった。白神はバラの声が聞きたいと思い、未希を呼んだのだ。しかし彼女は、「黙ってるだけ。あのバラ」と告げた。
明日香の父親は、大河内財団の総帥を務める大河内誠剛だ。大河内は世界中のVIPの細胞を冷凍保存する「バイオバンク」プロジェクトを発表し、世間から反発を浴びている。大河内財団から莫大な資金援助を受ける筑波生命工学研究所で若きエースと呼ばれている桐島一人も大河内の考えには反対の立場だ。そんな彼だが、明日香とは恋人関係にある。桐島はマサチューセッツ工科大学からスカウトされたことを明日香に話し、一緒に来てほしいと求める。明日香は即答を避けた。
精神科学開発センターの子供たちが、一斉に同じ夢を見た。明日香が夢の内容を描かせると、全員がゴジラの絵を描いた。そこで明日香は、陸上自衛隊から国土庁特殊災害研究会議ゴジラ分室に出向している権藤吾郎の元を訪れた。権藤は防衛庁特殊戦略作戦室長の黒木翔に連絡を入れ、3人は未希を連れてヘリコプターに乗り込んだ。ヘリが三原山に近付くと、未希は「ゴジラが動いてる」と口にした。
黒木は権藤に、ゴジラ対策として抗核エネルギーバクテリアという生物兵器が効果的であることを話す。ただし、それを作るにはゴジラ細胞が必要だ。サラジア共和国が手に入れた物は研究所の爆破で失われたが、日本政府が回収した物は大河内総研に保管されている。黒木は白神に協力を要請するが、ゴジラ細胞のせいで娘を失っている彼は断った。しかし三原山が噴火した影響で、英理加の細胞を組み込んだバラを管理しているケースが倒れてガラスが割れてしまう。バラが瀕死の状態に陥ったことに焦った白神は、「一週間、ゴジラ細胞を研究所に貸与する」という条件で協力を引き受けた。
権藤は黒木に案内され、スーパーXの後継機である新兵器「スーパーX2」を見学する。開発スタッフの山本精一は、スーパーX2が遠隔操作に対応していて自動操縦も出来ること、水陸両用であること、ゴジラの熱線を1万倍にして反射する装備「ファイヤーミラー」が設置されていることを説明した。一方、白神は抗核エネルギーバクテリアを完成させるが、彼が不在の研究所にはバイオメジャーの工作員たちが潜入していた。
工作員たちは極秘資料を盗み出そうとするが、同じ目的で現れたSSS9と銃撃戦になる。その時、工作員の1人は巨大な植物の触手に襲われ、命を落とす。SSS9は触手を切断し、研究所から逃亡した。連絡を受けた駆け付けた白神は、切断された触手を発見する。彼は同行した桐島に、「自己再生能力の遺伝子を持ったゴジラ細胞で、永遠の命を持つ植物を作ったつもりだった。ひょっとすると、大変なことになるかもしれない」と告げた。
エイリアンを名乗るバイオメジャー工作員から日本政府に対し、「抗核エネルギーバクテリアを渡さなければ、三原山を噴火させてゴジラを目覚めさせる」という脅迫状が届いていた。官房長官の大和田圭子と防衛庁長官の小山実が対応策を検討する中、権藤は単なる脅しではないかと考える。しかしエイリアンは実際に、コントロール装置を使って三原山の爆発を起こした。政府はバクテリアの引き渡しを決定し、連絡を受けた桐山は権藤に同行することを申し入れた。
芦ノ湖の近くを通り掛かった明日香と未希は、湖面に伸びる巨大な植物を目撃した。明日香の知らせを受けた桐島と白神は、芦ノ湖へ赴く。白神は「ただの植物ではない。ビオランテだ。あの植物には人間の心が宿っている」と口にする。未希はビアランテの心を読み取り、「明日香、お願い。助けて」と言っていることを明日香と白神に教えた。桐山と権藤は取り引き場所へ赴き、エイリアンにバクテリアを渡してトレーラーの爆破スイッチを解除しようとする。しかし、SSS9が発砲して来たため、取り引きは中止になる。エイリアンは死亡し、SSS9はバクテリアを奪って逃亡した。桐山たちはスイッチを止めようとするが、間に合わなかった。
三原山の噴火によって、ゴジラが復活した。オペレーターの雨沢修と河井弘美はスーパーX2を出撃させ、黒木は山地統幕議長に挨拶してゴジラ攻撃の指揮を執る。黒木の指示を受けた雨沢と河井は、ファイヤーミラーを使ってゴジラを攻撃する。ゴジラは海に潜り、東京へ向かっていた進路を西へと変更した。黒木はバクテリアが奪われたという知らせを受け、警戒警報を解除しようとする山地にストップを掛ける。黒木はSSS9のサラジア脱出を阻止するため、自衛隊がゴジラと交戦中という虚報を流すことで空港を閉鎖した。
大河内は桐山と権藤に、大阪にあるサラジア・オイル・コーポレーションが神戸港から定期的に貨物船を出していることを話す。それを使ってバクテリアを持ち出そうとする可能性は濃厚だ。一方、芦ノ湖の未希は「ビアランテがゴジラを感じてるわ」と口にした。ゴジラが小田原へ向かったため、黒木は上陸を阻止するためにX2で攻撃する。しかしミラーが損傷して使えなくなり、退却を余儀なくされた。ゴジラは芦ノ湖へ移動し、ビオランテと対峙した。ビオランテはゴジラと戦うが、放射能熱線を受けて大量の金粉となり、空に消えた。その様子を見ていた白神は、「永遠の植物が、死ぬはずがない」と口にした。
ゴジラは駿河湾へ向かうが、X2のミラーは修復不可能な状態となっていた。自衛隊はゴジラの捜索に乗り出し、黒木は未希に協力を要請する。ヘリコプターで海上へ出た未希は、ゴジラの位置を感知した。黒木はゴジラがエネルギー補給のため、若狭湾の原発へ向かうと確信した。名古屋から上陸すると予測した彼は、伊勢湾に大部隊を配置することにした。それを知った権藤は、「俺なら若狭湾で待つ」と口にした。黒木の目論みは外れ、ゴジラは紀伊水道から大阪へ向かった。
山地は陸上部隊を大阪へ回そうとするが、黒木は「間に合いません。若狭で態勢を整えましょう」と言う。「大阪はどうなるんだ」と声を荒らげる山地に、黒木は「私の仕事は勝負に勝つか負けるかです。大阪上陸は引き伸ばしますので、住民の避難はよろしくお願いします」と冷静に告げた。彼は大阪にいる明日香と連絡を取り、未希を連れて関西国際空港建設基地へ行ってもらう。ヘリから降り立った未希は念力を使い、ゴジラと対峙した。未希が力を使い切って倒れた後、ゴジラは再び移動を始めた。
ゴジラは南港沖を大阪市内へ向かい、人々は急いで避難する。桐山と権藤はサラジア・オイル・コーポレーションへ行き、日本支社長のサーハンが持ち出そうとしていたバクテリアを奪還した。権藤はバクテリアをロケット弾に装填し、若手隊員たちを率いて出発する。その知らせを受けた黒木は、ゴジラの進撃しているビジネスパークへX2を向かわせた。黒木はロケット弾でバクテリアを撃ち込ませるため、X2のミサイル攻撃でゴジラを目標地点まで移動させる。権藤は帰らぬ人となったが、ロケット弾をゴジラに突き刺す任務は成功した。しかしバクテリアを注入されたにも関わらず、ゴジラの動きは全く衰えない…。脚本・監督は大森一樹、特技監督は川北紘一、ゴジラストーリー応募作品『ゴジラ対ビオランテ』小林晋一郎・作より、製作は田中友幸、プロデューサーは富山省吾、撮影は加藤雄大、美術は育野重一、録音は宮内一男、照明は粟木原毅、編集は池田美千子、擬斗は宇仁貫三、音楽は すぎやまこういち、編曲はデービッド・ハウエル、ゴジラテーマ曲は伊福部昭。
出演は三田村邦彦、田中好子、高橋幸治、高嶋政伸、小高恵美、峰岸徹、金田龍之介、沢口靖子、永島敏行、久我美子、マンジョット ベディ、上田耕一、豊原功補、鈴木京香、ハント敬士、デリック ホームズ、相楽晴子、松川裕美、武野功雄、デーモン小暮、中田博久、佐々木勝彦、荻原賢三、仙波和之、山中康司、アイデン ヤマンラール、薩摩剣八郎、竹神昌央、松原一馬、井上浩、吉満涼太、河合哲、辰馬伸、皆川衆、坂田祥一、松岡一間ら。
“ゴジラ”シリーズの第17作。シリーズを復活させた前作『ゴジラ』から物語が直接繋がっている。
長く続いたシリーズだが、ここまでハッキリと内容が前作から繋がっているのは初めてだ。
監督と脚本は『恋する女たち』『「さよなら」の女たち』の大森一樹。原案は一般公募され、『帰ってきたウルトラマン』のストーリー原案や怪獣デザイン、『ミラーマン』の怪獣デザインを手掛けていた特撮ファンの小林晋一郎による作品が採用された。
桐島を三田村邦彦、明日香を田中好子、白神を高橋幸治、黒木を高嶋政伸、未希を小高恵美、権藤を峰岸徹、大河内を金田龍之介、山地を上田耕一、雨沢を豊原功補、河井を鈴木京香が演じている。英理加役で沢口靖子が特別出演しており、山本役の永島敏行と大和田役の久我美子は友情出演。TNNテレビのレポーター役で相楽晴子、臨時ニュースキャスター役で松川裕美、スーパーX2整備長役で武野功雄、本人役でデーモン小暮が出演している。
SSS9を演じたマンジョット・ベディは外国人俳優の通訳として現場に来ていた広告制作会社の代表取締役で、役者ではない。序盤の進行がスムーズじゃない。
まず、バイオメジャーの工作員が、あまりにも目立つ形で堂々とゴジラ細胞を採取している。極秘の任務とは到底思えない。
その後、場面がサラジアに移ると、白神と英理加が自宅を出る様子が写るが、そんなのは要らない。最初から生物工学研究所に2人がいる様子を描けばいい。
研究所の爆発は淡白に処理され、すぐに5年後へ移るが、だったら映画を5年後のシーンから開始して、回想として5年前の出来事を描いた方がいいんじゃないか。今回は精神科学開発センターという超能力の研究&実験を行う機関が登場し、三枝未希という超能力少女が大きな役割を担う。製作サイドがキャラクターを気に入ったのか、何かと便利だと考えたのかは知らないが、その後も彼女は第22作『ゴジラVSデストロイア』まで連続して登場することになる。
ただ、超能力少女を登場させちゃってるのは、「なんか違うなあ」という印象を抱く。
怪獣が登場する時点で荒唐無稽ではあるんだけど、超能力というオカルト系の要素を持ち込むのは、どうも素直に受け入れ難いなあ。第一種警戒体制とか、バイオメジャーとか、抗核エネルギーバクテリアとか、子供には取っ付き難い要素を色々と取り込んでおきながら、そこだけ子供向け映画のノリになっているように感じるんだよなあ。
そりゃあ、当時はMr.マリックの登場で第二次超能力ブームが起きていた頃であり(マリック本人は自分が超能力を使っていると公言していたわけではないが、否定もしていなかった)、それに乗っかろうという意識があったのかもしれない(ちなみに、同じ年には超能力開発をテーマに掲げたファミコン用ソフト『マインドシーカー』が発売されている)。
でも、荒唐無稽は怪獣の存在だけに留めて、周囲はリアルな重厚さで固めた方が、陳腐とか安っぽいとかいう印象を払拭できたんじゃないかと思うんだよなあ。そういう意味では、スーパーX2も邪魔なんだよなあ。
前作のスーパーXも違和感が強かったけど、その流れを汲む兵器なので、そりゃあ同じような印象を抱いてしまう。
しかも、こいつが大して役に立たないんだぜ。せいぜいゴジラをしばらく引き付けるだけで、倒せる能力は無いのだ。
っていうか、それを差し引いても、これはスーパーXの時も思ったことだけど、実在する戦車や戦闘機をモチーフにした新型兵器を登場させた方が良かったんじゃないかと思うのよ。
明らかに、そいつだけ浮いた存在になっちゃってるので。超能力や精神科学開発センターは一部の人間だけが信じている存在ではなくて、国土庁や防衛庁はゴジラ出現の予知を何の迷いも無く信じ、それに基づいて行動する。で、まだゴジラが出現していない内から、ゴジラ対策に動き始める。
そりゃあ、ゴジラが必ず復活することは観客の誰もが知っているだろうけど、映画の流れとしては、もっと確実に「近い内にゴジラが目覚める」という説得力を用意すべきじゃないかと。
超能力の予知だけじゃなくて、実際にゴジラ復活の予兆だと思わせるそこは科学的な根拠が欲しい。
後のシーンで、三原山に接近したヘリのモニターにゴジラの影が写るという描写があるけど、そういう調査をさっさとやればいいでしょ。なんで裏付け調査も無しに、超能力しか根拠の無い段階で本格的なゴジラ対策が開始されるのかと。抗核エネルギーバクテリアに関する極秘資料は、誰でも簡単に盗み出せるような状況に置かれている。
白神新植物研究所は白神が外出すると無人になり、警備システムがあるわけでもない。そして白神は金庫や倉庫に資料を保管しているわけでもなく、封筒に入れて無造作に置いてあるだけ。
あまりにも管理が杜撰だ。
っていうか、政府サイドも、そんな重要資料を白神に預けっ放しってのは無防備だろ。
考えてみると、ゴジラ細胞の管理も甘いしなあ。外国から狙われる危険を考えて封印したという設定だけど、警備の人間もおらず、警備システムも無いが地下室で、鍵も暗号入力も要らないロッカーに入れてあるだけなんだよな。切断された触手を研究所で発見した白神は、「自己再生能力の遺伝子を持ったゴジラ細胞で、永遠の命を持つ植物を作ったつもりだった。
ひょっとすると、大変なことになるかもしれない」と言う。
だが、無表情で淡々としているので、本気で「大変なことになるかも」と深刻に考えているようには見えない。
ビアランテが芦ノ湖に出現した時も、やはり反応は乏しい。娘の遺伝子を移植し、娘を重ね合わせて育てていたバラが怪物に変身してしまったのだから、もっと驚いたり嘆いたりしても良さそうなものだが、淡々としている。
ずっと無感情というわけではなく、リポーターの質問に怒りを示すようなシーンもあるのだが、大根芝居に見えてしまうことは否めない。ビオランテは映画開始から1時間弱の辺りで、ゴジラにやられて金粉となって姿を消す。
そこから30分以上が経過し、残り時間も少なくなった頃になって復活するのだが、「ゴジラが原発に迫ったところで、その位置に金粉が降り注ぎ、進化したビオランテが出現する」という展開は、あまりにも都合が良すぎるぞ。
バクテリアの効果が出てゴジラが動きを止めた途端、ビアランテがまた金粉になって空へと消えるのも、これまた都合が良すぎるし。ビオランテが一時的に消えて終盤に復活するまでの間は、『ゴジラVS自衛隊』という図式がずっと続いている。
いつもはゴジラに軽く蹴散らされる雑魚扱いの自衛隊だが、今回は頑張っている。
スーパーX2はアレだけど、黒木の「勝負に勝つことだけを考えるクールなヤング・リーダー」というキャラクターは立っている。
なので、ビオランテをバッサリと削ぎ落として、ホントに『ゴジラVS自衛隊』という内容にしてしまった方が面白かったんじゃないかと思ったりするんだよな。バクテリアの影響で倒れ込んでいたゴジラだが、海水で効果が切れると、そのまま海へ去っていく。
でも、それは不可解だ。
ゴジラはエネルギー補給のために原発を目指したはず。その後、自衛隊やビアランテとの戦いでエネルギーを消費しているんだから、補給のために原発へ向かうってのが自然な行動じゃないだろうか。
もちろん、それだと映画としては困ってしまうのだが、そこでゴジラを原発ではなく海へ帰らせるのであれば、「もう原発を狙わない理由」の納得できる説明を用意しておくべきだろう。ゴジラとビオランテの戦いが終わった後、SSS9が白神を狙撃して始末する。桐島は逃げるSSS9を追い掛け、黒木がTCシステムを使ってSSS9を消滅させる。
起き上がって海へ戻るゴジラを眺めた桐島が「ゴジラは海へ、ビオランテは空へ」と言うと、明日香は「そして私たちはアメリカへ」と告げる。桐島が「アメリカへは行かない」と口にすると、彼女は「どこへ行くの?」と尋ねる。桐島は「とりあえず、ベッドへ行く。
ぐっすり眠りたい」と言い、明日香は「一緒に行くわ」と告げる。桐島が「これから?」と訊くと、「ずっと」と彼女は言う。
いや、そこで恋愛劇は違うだろ。
直前に白神が殺されてるんだから、もうちょっとTPOを考えろよ。
なんで能天気にイチャイチャしてるんだよ。(観賞日:2014年6月3日)