『ゴジラ対メガロ』:1973、日本
197X年、アリューシャン列島のアスカ島で第2回地下核爆発実験が行われた。その影響は、遥か南の怪獣島まで及んだ。一方、伊吹吾郎と弟の六郎、伊吹の後輩である陣川博の3人は、北山湖の畔へピクニックに来ていた。突如として激しい揺れが起き、3人は湖の水が地割れに飲み込まれて干上がってしまうのを目撃した。帰りの車でラジオのニュースを聞いた3人は、同じような地割れの減少が北太平洋沿岸の数ヶ所で発生したこと、核爆発実験の影響であることを知った。
3人が伊吹の家に戻ると、黒服の男と灰色の服の男が侵入していた。彼らは3人を殴り倒し、車で逃走した。伊吹の研究室が荒らされていたが、盗まれた物は無かった。伊吹が開発中のロボットの足元には、赤い砂のような物質が落ちていた。2人組が逃げる際に陣川が背広から引き千切ったボタンは、その物質と同じ色だった。陣川が地質研究所で調べた貰った結果、砂とボタンが海底3千キロ地点の物質であることが判明した。
伊吹はロボットを完成させ、ジェットジャガーと名付けた。ジェットジャガーは目の部分にカメラが取り付けられており、自動制御装置も組み込まれている。伊吹がジェットジャガーを動かして、陣川に披露する。背広の2人組は研究室に仕掛けられた盗聴器を使い、伊吹と陣川の会話を聞いていた。彼らは研究室に乗り込み、3人を昏倒させた。2人組はシートピアに通信し、「ロボット研究室を占領。研究者を捕虜にしました」と司令に報告する。司令は彼らに、「そのロボットにメガロの攻撃目標を案内させるんだ」と命じた。
司令はシートピアの人々に、「我々は三百年に渡って平和を守って来た。だが、それは地上人の核実験で破られ、北地区は完全に壊滅した。海底王国シートピアを守るため、止むを得ず地上人と戦うことを決意した」と述べた。司令は怪獣メガロを地上へ差し向けた。背広の2人組は3人を縛り上げ、伊吹と六郎をコンテナに入れた。灰色服の男はダンプカーの運転手と助手を雇い、コンテナを運ばせた。彼はコンテナの中身を明かさず、それを北山湖の地割れに落とす仕事を依頼した。
研究室に残った黒服の男はジェットジャガーを操り、北山湖へ向かわせた。目を覚ました陣川に、黒服は「レムリア大陸が水没した時、我々の祖先は気泡の中にいた。そこで酸素や人口太陽を作り、海底王国シートピアを作り上げたんだ。だから我々の科学は、地上人たちよりも遥かに優れている」と話す。さらに彼は「シートピア人は少ない。我々の平和を脅かす敵を防ぐためには、ロボットがたくさん必要なのだ」と述べた。
陣川は縄を解いて黒服に襲い掛かり、馬乗りになった。陣川は黒服を脅し、伊吹と六郎がコンテナに入れられてトラックで運ばれたことを白状させた。陣川は外へ飛び出し、車で伊吹と六郎の捜索に向かう。黒服は別働隊に連絡し、陣川の追跡を依頼した。陣川は車とバイクに追われるが、やっつけて走り去った。メガロが地上に到達し、ジェットジャガーの案内で東京へ向かう。深海獣が地割れから出現したというニュースをラジオで聞いたダンプカーの運転手と助手は怖くなり、「ダムに落とそう」と言い出した。すると黒服は銃を突き付け、北山湖まで行くよう要求した。運転手と助手は襲い掛かって銃を奪い、黒服を崖下に突き落とした。
運転手と助手はダムに到着し、コンテナを落とそうとする。だが、ダムの向こうからメガロが出現したため、彼らは荷台を途中で止めた。陣川が駆け付けると、運転手と助手は車を奪って逃走した。陣川はコンテナから抜け出した伊吹と六郎に合流し、3人はジェットジャガーが上空を飛んでいるのを目にした。六郎が「こんな時にジェットジャガーがゴジラを呼びに行ってくれたらな」と漏らすと、伊吹は陣川に「コンピュータ操作がダメになった時のために、超音波で動かせるように作っておいた」と言ってペンダントを見せた。
ジェットジャガーを超音波で操作するには、見える場所にいることが条件だった。ジェットジャガーがメガロを案内して飛び去ったので、伊吹は防衛隊前線本部長に事情を説明してヘリコプターを飛ばしてもらう。伊吹はジェットジャガーに近付き、怪獣島へゴジラを呼びに行くよう命じた。黒服から報告を受けたシートピア指令は、M宇宙ハンター星人に連絡してガイガンの救援を要請することにした。ゴジラは怪獣島に飛来したジェットジャガーから事情説明を受け、メガロの元へ向かう…。監督は福田純、原作は関沢新一、脚本は福田純、製作は田中友幸、撮影は逢沢譲、美術は本多好文、録音は林頴四郎、照明は森本正邦、編集は池田美千子、特殊技術は中野昭慶、音楽は眞鍋理一郎。
主題歌「ゴジラとジェットジャガーでパンチ パンチ パンチ!」作詞:関沢新一、作曲:真鍋理一郎、唄:子門真人。
出演は佐々木勝彦、林ゆたか、川瀬裕之、森幹太、富田浩太郎、大月ウルフ、三上左京、池田芙美夫、中島元、ロバート・ダンハム、ロルフ・ジェサップ、チーム ザンバ、高木真二、伊達秀人、駒田次利、森正親、中山剣吾、渡辺高光ら。
“ゴジラ”シリーズの第13作。1973年春期「東宝チャンピオンまつり」の一篇として公開された。
監督は『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』に続いてシリーズ4度目の登板となる福田純。
脚本を担当するのは、1968年3月公開の『100発100中 黄金の眼』以来となる。
伊吹を佐々木勝彦、陣川を林ゆたか、六郎を川瀬裕之、防衛隊前線本部長を森幹太、黒服の男を富田浩太郎、灰色の服の男を大月ウルフ、シートピア司令をロバート・ダンハム、海底王国無電員をロルフ・ジェサップが演じている。
前作で中島春雄がゴジラのスーツアクターから退き、今回は高木真二が担当している。彼がゴジラの中に入ったのは、この1本のみ。相変わらず予算は少なく、撮影期間も短いという状況下で製作された作品で、前作に引き続いて過去作品のフィルムが多く流用されている。
大掛かりなセットを幾つも造ることが出来ないので、大半のシーンはロケーションだ。
キャストも新人や無名の面々ばかりで、配役に個人名が付けられているのは3人だけ。
また、今回はとうとう主要キャストから女性がいなくなってしまった。
幾ら予算が少なくても、女性キャストを1人入れることぐらいは出来そうなものなんだが、随分と寂しい見栄えになってしまっている。冒頭、地下核爆発実験が実施されたことや、その影響が怪獣島にまで及んだことが、ナレーションによって説明される。アリューシャン列島の位置を示す地図が画面に表示されるので、アメリカ領だと推測される。
ナレーションでも「遥か南」と言っている通り、怪獣島とは随分と距離があるので、それでも影響が出るってことは相当に大規模な実験だったんだろう。
何しろ、怪獣島では広範囲に渡って大爆発が起きるぐらいなんだから。
核実験の影響で爆発が起きる原理は良く分からないが、起きているんだから仕方が無い。
ちなみに、その爆発で起きた地割れにアンギラスが飲み込まれているが、それ以降は登場しないので、どうなったのかは分からない。陣川は地割れが核実験の影響だと知ると、「無茶だよ、ホントに。こんな核実験を繰り返していると、いつか地球が爆発しちゃうぞ」と憤慨している。
そもそもゴジラも核実験で蘇った怪獣であり、このシリーズには反核のメッセージが込められていた。
そして今回は、その核実験で王国を破壊されたシートピアが激怒し、地上人に攻撃を仕掛けるという話だ。
つまりシートピアは核実験の犠牲者であり、反核のメッセージを考えれば彼らに対する同情や共感を登場人物の誰かが示すべきだろう。ところが、シートピアは単純な悪党として片付けられており、核実験に対する強烈な怒りや憎しみ、それをぶつけられた人間側の戸惑いや反省といったものは、まるで描写されない。
核実験の犠牲者であるゴジラが核実験の犠牲者であるシートピアを退治するという皮肉な図式も、効果的に使われていない。
映画の最後に、製作サイドが科学者の口を借りて反核のメッセージを喋らせるような手順も無い。
最後に陣川が「そうならないように(またた戦いが起きないように)しなくっちゃね。海底王国だって、平和が脅かされなかったら戦いを挑んで来なかったんだから」とは言うけど、ものすごく軽いし、反核の主張は感じない。黒服と灰色服は研究室を散らかしているのだが、何かを見つけ出すために荒らしたのかと思ったら、何も盗んでいない。彼らが侵入した目的は、盗聴器を取り付けることだったらしい。
だったら部屋を荒らす必要なんて無いはずでしょ。
それと、帰宅した伊吹たちに見つかり、殴り倒して逃亡するってのもマヌケだわ。
家を張り込んで伊吹たちが出掛けるのを確認すれば、その直後に侵入して盗聴器を仕掛けることが出来るはずで。
3人が戻る直前まで、無駄にダラダラしてたんじゃねえのか。陣川は駆け出しのレーサーという設定だが、レーサーとして仕事をしているシーンは無い。
伊吹は電気工学の専門家で等身大のロボットを作っているが、大きな研究所に所属しているわけでもなければ助手もいない。たった1人で、自宅の部屋を改装した研究室で作っている。
きっと、ものすごく長い年月を費やしたんだろう。
そうやって完成したジェットジャガーは、目も口も吊り上がり、歯が剥き出しになっているようなデザインで、ちっともヒーローっぽくない。般若っぽい顔で、なんか怖い。盗聴器で伊吹と陣川の会話を聞いた黒服と灰色服は、遊びに出ていた六郎を捕まえて脅し、家のドアを開けさせる。
だけど、その前に彼らは研究室を荒らしていたよね。
つまり家に侵入することが出来ていたわけで、なんで2度目はドアの鍵を中から開けさせるんだよ。また侵入すればいいじゃねえか。
そんなバカな彼らはシートピアの地上部隊なのだが、シートピアは科学が発達している一方で、その衣装や装飾は古代ローマっぽい古めかしさ。
その辺りのセンスは、相変わらずの東宝だ。シートピアの司令はメガロを出撃させるのだが、海底王国の怪獣なのに、なぜか昆虫型。
そして核実験をしたのはアメリカなのに、なぜか狙うのは日本。
きっと地上に関する情報が乏しくて、日本もアメリカも一緒だという解釈なんだろう。本当は日本も核実験の被害者だということを分かっていないんだろう。
そんなバカな奴らなので、「攻撃目標への案内役」というだけでジェットジャガーを使う。
地上に偵察隊が派遣されているんだから、そいつらが攻撃地点を確認し、メガロを向かわせればいいだけだろうに。黒服は「レムリア大陸が水没した時、我々の祖先は気泡の中にいた。そこで酸素や人口太陽を作り、海底王国シートピアを作り上げたんだ。だから我々の科学は、地上人たちよりも遥かに優れている」と陣川に説明するが、その接続詞の「だから」は、何が「だから」なのかサッパリ分からん。
気泡の中で酸素や人口太陽を作ったからって、「だから地上人より科学が優れている」とは言い切れないだろ。
陣川は黒服を押さえ付け、「伊吹たちをどこへ運んだ?」と詰め寄る。彼に取って伊吹は先輩であり、敬語で話していたのに、そこだけ「伊吹」と呼び捨てにしている。
黒服はロボットを作らせるために伊吹と六郎を拉致したことを話すが、だったら伊吹だけでいいはずで、六郎も連れて行く理由は分からん。
それと、研究室に残した陣川を生かしたままにしている意味も無い。彼には何の用は無いんだから、さっさと殺すべきだろう。灰色服はダンプカーの運転手と助手を雇ってコンテナを運ばせているが、自分たちでやればいい。黒服と灰色服の2人だけじゃなくて、別働隊も控えているんだから、そいつらに頼めばいいことだ。
で、雇われた運転手と助手は湖まで行くのを嫌がり、黒服を崖下に突き落とすが、そのままダムへ行ってコンテナを落とそうとする。
依頼人である黒服を始末しちゃったんだから、気になっていたコンテナの中身を確認するってのが普通じゃないのか。
なんでダムにコンテナを落とそうとするのか、思考回路が分からん。東京を目指していたはずのメガロは、なぜかダムに降り立つ。
ダンプカーは行き先を湖からダムに変更しているが、なぜか陣川はそこに駆け付ける。
メガロはダンプカーに近付き、陣川はダンプカーからコンテナを滑落させる。それをメガロが手で弾き飛ばす。
陣川もメガロも、何がしたいのかサッパリ分からん。
で、どう考えても重傷を負うぐらい激しく吹き飛ばされた伊吹と六郎だが、ほとんどダメージを受けずに元気なままだ。伊吹はコンピュータ制御がダメになった時のために、超音波でジェットジャガーを動かせるように準備している。
とても都合のいい設定だ。
おまけに、研究室に戻らないと超音波で操作できないわけじゃなくて、なぜか携帯しているペンダントで操作することが出来る。
それも都合のいい設定である。
で、なぜか防衛隊前線本部長は、いきなり現れた見知らぬ男の与太話にしか思えないような事情説明を信じ、ヘリを飛ばしてくれる。「超音波は見える場所じゃないと届かない」という理屈はちょっと良く分からないが、ともかく伊吹はヘリコプターでジェットジャガーに近付く。
で、ペンダントに向かって「ジェットジャガー、止まれ」「怪獣島に行け。大至急、ゴジラを呼んで来るんだ」と命じる。
それは超音波じゃないでしょ。言葉で命令してるでしょ。
ところが、なぜかジェットジャガーは、その言葉を理解して命令に従う。
そんな機能まで付いていたのね。おまけにジェットジャガーは、ゴジラに事情を説明して理解させる能力まで持っているのだ。ジェットジャガーの案内を受けたメガロは、なぜかピョンピョンと飛び跳ねながら移動する。ワイヤーで吊るしていることがバレバレだし、ものすごくカッコ悪い。
そもそも、メガロって羽があるし、空を飛べる設定なんだよね。だから、無駄にピョンピョン跳ねて移動する必要性が全く無い。飛んで移動した方が、早く攻撃目標に到着できるんだから。
で、伊吹がジェットジャガーを操作すると、メガロの動きがおかしくなる。
それについて伊吹は「水先案内を失ったからですよ」と言うのだが、案内役を失ったから動きがメチャクチャになるという理屈も良く分からん。
そもそも、ダムで暴れたのは自分の意思であり、ジェットジャガーがいなきゃ何も出来ないわけじゃないはずでしょ。そんで、その後には色んな場所で暴れ始めるので、やっぱり案内役がいなくても普通に動けるんじゃねえか。シートピア司令はMハンター星人に連絡してガイガンを助っ人に呼ぶが、ずっと海底に暮らしていた種族が、いつ頃、どのようにして宇宙のMハンター星人と繋がりを持つようになったのかは不明。
もちろん、それは「ガイガンの映像を流用するため」という裏事情の絡んだ設定なんだけどね。
そうやって過去の映像を大量に流用しているために、平地を移動していたメガロが急に都市部を破壊したかと思えば、次の場面では研究室の近くに出現し、直後には港やコンビナートを攻撃するという瞬間移動を繰り返している。伊吹が戻って来たジェットジャガーに呼び掛けると、無視して飛び去ってしまう。
それについて伊吹は「行動している間に頭脳部分に何か刺激を与えられて、意思を持ってしまったんだ」と説明する。
ものすごく無理のある説明だが、ともかくジェットジャガーはメガロと戦い始める。
おとなしくゴジラが来るのを待っていればいいと思うんだが、「ゴジラが到着するまで防波堤になろう」ってことらしい。ただ、ジェットジャガーは人間サイズなので、そのままメガロと戦うには小さすぎる。
そこでどうするのかというと、なんと巨大化してしまうのだ。
それについて伊吹は「ゴジラが来るまで自分が戦わなきゃいけない。その強烈な意思が、きっとジェットジャガーをあんなに巨大化させたんだ」と話すが、説得力は全く無い。
で、そんなに強引なやり口で巨大化させるぐらいなら、ジェットジャガーがメガロと戦う話にすればいいのだ。ゴジラなんて出さなきゃいいのだ。実は本作品、ゴジラの存在意義が著しく乏しい。終盤になって、タッグマッチを成立させるために駆け付けるだけの存在だ。
ゴジラなんて登場させず、ジェットジャガーが活躍する映画として作った方が明らかにスッキリする。
ところが、ジェットジャガーを正義の味方してフィーチャーしながらも、あくまでもゴジラ映画として作られているので、引き立て役に回されている。
メガロや駆け付けたガイガンの攻撃でジェットジャガーがピンチに陥り、それをゴジラが助けるという形になっている。
まさにタッグマッチのやられ役だ。結局はゴジラが美味しいとこを持って行くんだが、映画の最後はジェットジャガーの歌が流れて来る。
ところが、その歌詞も最初の内は「人が作ったロボットだけど、ジェットジャガー、ジェットジャガー、やったぜジェットジャガー」とジェットジャガーのことを歌っていて、「ゆけゆけ平和を守るため。みんなの驚く勇気を見せろ」ってのもジェットジャガーへの呼び掛けなのに、「ゴジラとジャガーでパンチ、パンチ、パンチ」と急にゴジラが割り込んでくる。
いやいや、ゴジラは関係ないだろ。(観賞日:2014年5月20日)