『怪獣総進撃』:1968、日本

20世紀も終わりに近く、国連科学委員会は月に探検基地を開設し、硫黄島の第二宇宙空港からは連日に渡ってロケットが発進していた。ムーンライトSY-3も、その中の一機である。また、国連科学委員会は小笠原諸島周辺を利用して一大海底牧場を建設し、あらゆる魚類の養殖を始めていた。そして陸上には世界の恐怖であって怪獣を集め、「怪獣ランド」としてその研究が進められていた。怪獣ランドでは、ゴジラやラドン、アンギラスやモスラ、ゴロザウルスなど多くの怪獣が仲良く同居している。
怪獣たちが区域外に出ようとすると、管制装置が働く。つまり、それぞれの本能と習性に応じて、科学的な壁が設けてある。怪獣の食べ物は豊富に栽培され、養殖されており、自由に食べられる。怪獣ランドと海底牧場は、地底深くに建設されたコントロールセンターで自動的に管理されている。そんなコントロールセンターに真鍋杏子は研究助手として着任し、主任の大谷博士や技師の黒岩信たちと会った。
杏子はSY-3艇長を務める恋人の山辺克男からテレビ電話を受け、正体不明の物体を観測したので所長の吉田博士に来てほしいと告げられる。吉田が東京の委員会に出席していることを杏子が説明し、山辺が言葉を返そうとしていると、電波が乱れて通信が途絶えた。センターの制御装置が全て故障し、大谷は調査を命じる。その時、制御室に黄色いガスが噴射され、所員たちは意識を失う。怪獣ランドの怪獣たちも、同じガスに包まれた。
コントロールセンターと連絡が取れなくなったため、国連科学委員会は怪獣ランド調査のため、吉田の指揮の下で通信衛星による査察を開始した。妨害電波が入る中でモニターに写し出された怪獣ランドは、すっかり変わり果てていた。委員会のスチーブンソン博士は、「計画的な破壊だ」と口にした。その時、モスクワ放送局からのニュースが飛び込み、ラドンがモスクワを襲撃した映像が写し出された。続いてパリからは、地底怪獣が凱旋門を破壊したニュースも伝えられた。北京にはモスラ、ロンドンにはマンダ、パリにはバラゴン、ニューヨークにはゴジラと、世界の主要都市を怪獣が襲撃した。
大勢の記者たちが東京の国連科学委員会本部に押し掛け、吉田やスチーブンソンに質問を浴びせ掛けた。「なぜ怪獣ランドから最も近い東京に怪獣は現れないのか」という質問が飛ぶが、吉田にも全く分からなかった。山辺は月面基地へ戻るよう命令を受け、SY-3を発進させた。戻る途中、山辺や乗員の岡田たちは正体不明の飛行物体を目撃した。基地に戻った彼らは、すぐに地球へ帰還するよう西川司令から指示を受けた。吉田からの通信が入り、乗員たちは怪獣ランドへ着陸して地底へ潜航するよう指令を受けた。何者かが占領している可能性が高く、その正体と目的を突き止めるのが彼らの任務だった。
山辺たちがコントロールセンターに入ると、大谷と杏子が現れた。大谷は山辺たちに、怪獣が野放しになっているわけではなく、リモートコントロールされていることを教えた。彼は「リモコン装置を発明した人に紹介しましょう」と言い、一行を奥の部屋に連れて行った。そこには一人の女性が待ち受けており、「私は皆さんの敵ではありません。皆さんと協力して地球上に新しい科学文明を建設したいと思っています」と語る。山辺が破壊活動を非難すると、彼女は「多少の犠牲は止むを得ません」と述べた。
その女性は、自分がキラアク星人だと話す。大谷は、火星と木星の間にある小惑星から来たのだと補足した。岡田は女性に飛び掛かろうとするが、強力な磁場の壁に遮られる。山辺が発砲すると、その攻撃も遮断された。山辺たちは大谷と杏子に銃を向け、2人だけでも連行しようとする。そこへ技師たちが現れ、一斉に襲い掛かる。山辺たちは応戦するが、杏子が隙を見て逃げ出した。山辺たちは大谷をSY-3に乗せ、コントロールセンターから脱出した。
山辺と吉田は国際秘密警察の目を逃れ、ホテルに大谷を連行して事情聴取する。しかし大谷は黙秘し、窓から飛び降りて自害した。山辺と吉田が遺体に駆け寄ると、そこへ杏子と銃を持った技師たちが現れる。一味は山辺と吉田を連れ去ろうとするが、国際秘密警察の刑事たちが来たので逃亡した。遺体を解剖すると、耳の裏に埋め込まれている小さな金属が見つかった。それは未知の金属で、中には電波受信機が組み込まれていた。山辺や吉田たちは、それによってセンター所員や怪獣がコントロールされているのだと推理した。
山辺は電波研究所に協力を要請し、コントロール電波の発信源を捜索する。やがて捜索隊は、老農夫が川で見つけた石から出ている電波をキャッチした。石の中に埋め込まれていた機械を委員会で分析した結果、それが怪獣操縦装置であることが確認された。他にもドーバーの断崖、スペインの教会の先頭、アルプスの雪景、グァム島のヤシの実の中から、同じ装置が発見された。有効通信距離は約2千キロで、キラアク星人は各地に置いた装置を使って怪獣をコントロールしていたのだ。
国際秘密警察は操られている所員たちを捜索するが、京子は気付かれずに検問を通過した。ラドン、ゴジラ、アンギラス、モスラが次々に東京へ現れ、甚大な被害が出た。地下に設置された統合防衛司令部連絡会議場へ赴いた山辺は、司令官の杉山と会った。杉山は山辺に、キラアク星人の目的が東京よりも伊豆半島にあることを告げる。伊豆の温泉が、ほとんど出なくなったのだという。天城でバランが確認されており、杉山は「キラアク星人が世界を襲って目を逸らしている間に、伊豆の地下に本拠地を構えたのだ」と述べた。彼は山辺に、SY-3で伊豆を調査してほしいと依頼した。
山辺が連絡会議場を訪れた吉田やスチーブンソンと話していると、京子がやって来た。彼女は自分がキラアク星人の使者であることを述べ、「キラアク星人の居住権を認めて共存共栄を図るなら、全ての怪獣を小笠原群島に返す」というメッセージを伝えた。山辺は京子に掴み掛かり、強引にイヤリングを奪い取る。それがキラアク星人の電波受信機になっていたため、京子は正気を取り戻した。しかし彼女は、操縦されている間の記憶を失っていた。
山辺がSY-3で伊豆の地下を調査しようとすると、ゴジラとアンギラスが出現して妨害した。作戦が中止となったため、SY-3は基地へ帰還しようとする。その途中で円盤を発見した山辺は後を追い、富士山麓へ下りるのを確認した。着陸地点を測定しようとすると、ラドンが後ろから現れた。SY-3は大気圏へ脱出し、ラドンの追跡を逃れた。SY-3の乗員や防衛司令部が富士山西側一帯を調べようとしていると、ゴジラが出現した。一時退避した山辺、岡田、防衛司令部参謀の多田少佐は、洞窟を発見した。
山辺たちが洞窟に入ると、キラアク星人首領が部下を率いて出現した。首領は山辺たちに、伊豆の地下には基地が設置されていること、円盤がキラアク星人の宇宙船であることを明かした。そして彼女は、「富士火山脈一帯は、只今よりキラアク星人の領土であることを宣言します。侵入者があれば武力で撃退します」と語り、姿を消した。怪獣ランドでは再びコントロールセンターが完成し、世界各地から集められた怪獣操縦装置の分析・研究に全力を挙げていた。
電波の根源が月と判明したため、SY-3が差し向けられた。SY-3はカッシーニ噴火口に入った途端、火炎放射による攻撃を受けた。乗員は探検車で脱出し、メーサー砲で電波基地の障壁を破壊した。山辺が岡田、有馬吉川、を率いて基地に入ると、小さな岩のような生物がいた。すぐに山辺は、それがキラアク星人の正体だと気付いた。キラアク星人は高温でなければ人の姿を保つことが出来ず、障壁の破壊で温度が急激に低下したため、鉱物の状態に戻ったのだ。怪獣操縦装置の心臓部を発見した山辺たちはメーサー砲を使って取り外し、それによって地球のコントロール電波は消えた…。

監督は本多猪四郎、特技監修は円谷英二、特技監督は有川貞昌、脚本は馬渕薫&本多猪四郎、製作は田中友幸、撮影は完倉泰一、美術は北猛夫、録音は吉沢昭一、照明は平野清久、編集は藤井良平、音楽は伊福部昭。
出演は久保明、小林夕岐子、愛京子、田崎潤、土屋嘉男、佐原健二、黒部進、伊藤久哉、田島義文、桐野洋雄、草川直也、沢村いき雄、大前亘、鈴木和夫、佐田豊、当銀長太郎、西条康彦、久野征四郎、丸山謙一郎、伊吹徹、越後憲(越後憲三)、伊藤実、渋谷英男、勝部義夫、坪野鎌之、岡部正、坂本晴哉、緒方燐作、権藤幸彦、岡豊、宮田芳子、森今日子、佐川亜梨、宮内恵子(牧れい)、高橋厚子、中島春雄、関田裕、新垣輝雄(荒垣輝雄)、内海進、小人のマーチャン、池谷三郎、ヘンリー大川、アンドリュウ・ヒューズら。


“ゴジラ”シリーズ第9作。監督は『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』『キングコングの逆襲』の本多猪四郎。
シリーズを手掛けるのは第6作『怪獣大戦争』以来となる。
脚本は『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』『キングコングの逆襲』の馬渕薫と本多猪四郎の共同。
多くの特撮映画に携わって来た馬渕薫だが、“ゴジラ”シリーズは本作品が初めて。
山辺を久保明、杏子を小林夕岐子、キラアク星人首領を愛京子、吉田を田崎潤、大谷を土屋嘉男、西川を佐原健二、黒岩を黒部進が演じている。

この頃にはシリーズの観客動員数がめっきり落ち込んでいた。
怪獣映画には多額の予算が掛かるという事情もあって、東宝は本作品で打ち止めにするつもりだったらしい。
結果的には興行収入が良かったので、シリーズ続行となった。
2004年の『ゴジラ FINAL WARS』まではシリーズで最多となる怪獣が登場する内容になっているのは、「これで最後だから」という事情があってのことだったんだろう。

登場する怪獣は、ゴジラ、アンギラス、ラドン、モスラ(幼虫)、バラン、マンダ、バラゴン、ゴロザウルス、ミニラ、クモンガ、そしてキングギドラの11体。かつて“ゴジラ”シリーズに登場した怪獣もいれば、シリーズではない特撮映画の怪獣もいる。
ゴジラはシリーズに全て登場するので、これが9度目。アンギラスは『ゴジラの逆襲』以来となる2度目の登場。ラドンは『空の大怪獣ラドン』が初登場で、その後に『三大怪獣 地球最大の決戦』『怪獣大戦争』と来て、これが東宝特撮映画4度目の登場となる。
モスラは成虫も含めると、『モスラ』『モスラ対ゴジラ』『地球最大の決戦』『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』に続いて5度目。バランは『大怪獣バラン』、マンダは『海底軍艦』、バラゴンは『フランケンシュタイン対地底怪獣』、ゴロザウルスは『キングコングの逆襲』の怪獣。ミニラとクモンガは前作『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』に続いての登場。キングギドラは『地球最大の決戦』『怪獣大戦争』に続いて3度目。
この内、バランとバラゴンは、ほとんど登場しない。

怪獣ランドと連絡が取れなくなった時、国連科学委員会は通信衛星による査察を開始するのだが、なぜ普通にヘリを飛ばしたり飛行機で近付いたりしないのか。
わざわざ通信衛星を使わなきゃいけない理由がサッパリ分からん。
「ヘリや飛行機で近付こうとしたら攻撃を受けた」とか、「何かの事情で接近できない」とか、そういう手順を経て「だから衛星を使う」という流れなら理解できるけど。

その衛星による映像を委員会本部で見ている時、別のモニターにモスクワ放送局のニュースが突如として入るが、それは電波ジャックってことになるんじゃないのか。
国連のモニターにモスクワ放送局のニュースが突如として入るなんて、おかしいんじゃないか。
あと、「パリを地底怪獣が襲った」というニュースも報じられ、後で日本のキャスターが「パリにはバラゴン」と言っているが、写っていたのは完全にゴロザウルス。
予定されていたバラゴンのキグルミは状態が悪くて使えなかったためにゴロザウルスへと変更されたのだが、先に撮影していた報道シーンの台詞をそのまま使ってしまったため、辻褄が合わなくなったのだ。

山辺が黒い未確認飛行物体を発見してSY-3で追い掛けた時、岡田が「これ以上近付くと危険です」と進言し、山辺も諦めるのだが、なぜ近付いたら危険なのかがサッパリ分からん。
そのSY-3を、わざわざ月から呼び戻してコントロールセンターへ向かわせる吉田の指示も謎。
彼は「この仕事が出来るのはSY-3の他には無いのだ」と語っているが、SY-3って宇宙ロケットでしょうに。
なんで地球の地下施設へ向かう乗り物として、それを使わなきゃいかんのか。

そもそも、コントロールセンターに到着すると山辺たちはSY-3を降りて中へ入って行くんだから、何がどう「この仕事が出来るのはSY-3の他には無い」のかがサッパリ分からんぞ。
地下にあるコントロールセンターまで行くことが出来る乗り物がSY-3しか無いってことなのか。
科学が発達して月面基地まで作っているのに、なんで地下施設へ行くための乗り物が無いんだよ。
あと、吉田は「武装してくれ」と山辺に行っているけど、山辺たちは科学者であって戦闘の訓練を受けているわけじゃないんだから、敵が攻撃して来ることが予想される場所へ派遣するのなら、それなりの戦闘能力があるチームを用意しろよ。

かつて孤高の存在であり、巨大な野獣であったゴジラは、シリーズが続く中でどんどん脅威を失って行った。
前作ではとうとう息子まで誕生し、すっかり一匹狼の野蛮な怪獣ではなくなった。「厳格だが息子思いのパパ」としての姿をさらけ出す羽目になった。恐怖の対象から、愛すべき対象へと変貌してしまった。
今回は、怪獣の愛玩動物化がさらに加速している。
しかもゴジラだけに留まらず、他の怪獣にまで手を付けてしまった。

この映画では、怪獣たちが怪獣ランドで暮らしている設定になっている。怪獣ランドは、言ってみりゃ動物園のようなモノだ。
そりゃあ、例えば野性のライオンだって動物園のライオンだって、どっちもライオンであることに変わりは無い。だが、やはり野性のライオンの方が、「恐ろしい獣」としての印象は強い。
これが怪獣になると、その違いはもっと大きくなる。
人間に飼い馴らされている怪獣なんて、これっぽっちも怖くない。

実際、劇中でも「どうです、空から見ると、怪獣もなかなか可愛いでしょう」「はい、とても」という会話がある。
モスラやミニラはともかく、他の怪獣たちは、かつて地球で暴れ回って都市を破壊し、人間に甚大な被害を与えた存在だったのだ。それが「可愛い」などと言われてしまう存在になってしまうなんて。
しかも、それぞれが別の区画に分離されているのではなく、オープン・フィールドで一緒に暮らしている。
かつて激しく戦った怪獣たちが、仲良く同居しているのだ。
この映画の怪獣よりも、そんな設定を持ち込んだ製作スタッフの方が遥かに恐ろしい。

怪獣ランドでノンビリと暮らしている怪獣たちに対しては、コレジャナイ感を強く抱かざるを得ない。
敵として登場するキラアク星人が怪獣を解き放つので、むしろ感謝したいぐらいだが、でもリモートコントロールで操縦しているので、それはそれで違うんだよな。
っていうか、「宇宙人が電波を使って怪獣を操る」って、完全に『怪獣大戦争』と同じパターンなんだよな。
あと、キラアク星人が低温に弱いってのは『海底軍艦』のムウ帝国人と同じパターンだし。

終盤にはキングギドラが登場するが、キラアク星人の用心棒的なポジションであり、強敵じゃなきゃダメなはずなのに、軽く倒されてしまう。
地球側の怪獣たちが一斉に襲い掛かるので、多勢に無勢というところはあるのだが、それにしても弱い。一応はアンギラスに噛み付いて振り落としたり、踏み付けたりという攻撃もあるが、ほぼ相手にダメージを与えることなく一方的にやられている。
しかも、地球側の怪獣たちの内、マトモに戦うのはゴジラ、アンギラス、ゴロザウルスの3体だけなのよ。
キラアク星人首領が自信満々に「キングギドラは宇宙の怪獣です。地球の怪獣では歯が立ちません」と言ってるけど、むしろ逆なのよ。

そこは本来なら、「キングギドラが圧倒的な強さを見せ付け、地球側の怪獣が2体や3体で束になって襲い掛かっても歯が立たない」という様子を見せておいて、「だから全員で攻撃しよう」という流れにすべきなんだよね。
そういう手順を飛ばして「全員で襲い掛かる」という展開に持って行くもんだから、ただの集団リンチや弱い者イジメにしか見えないぞ。
っていうか、そもそもキングギドラが「弱い者」に見えちゃうのはダメでしょ。
それだけの数を相手にしても、相手を苦戦させるぐらいの強さを見せないとさ。

(観賞日:2014年4月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会