『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』:1967、日本

嵐に見舞われた太平洋上を飛んでいた気象観測機は、妨害電波によって無線が使えなくなった。その時、海上にゴジラが出現したため、機長は針路を変更して衝突を回避した。しかし妨害電波の発信源はゴジラではなく、別の方向だった。地図を調べた結果、その発信源は彼らが知らないゾルゲル島だった。ゴジラがゾルゲル島へ向うのを目にした機長は、その目的が何なのか分からずに首をかしげた。
ゾルゲル島には楠見恒蔵博士が率いる国連食料計画機構の実験チームが1ヶ月前から密かに上陸し、シャーベット計画の準備を進めていた。サブリーダーの藤崎、隊員の森尾、古川、小沢、田代、鈴木は、暑さの中で作業に取り組んでいた。彼らは妨害エネルギーの発生を感知するが、すぐに消滅した。島に飛行機が接近したため、彼らは国連から慰問のために派遣された人間が乗っているのだと考える。しかし上陸したのは、特ダネを狙う記者の真城伍郎だった。
楠見は真城の取材を拒否し、すぐに帰るよう要求した。真城は提供された食事に口を付けず、やせ我慢して取材を取り付けようとする。すると藤崎は楠見に、真城を雑用係として使ってはどうかと持ち掛けた。真城は嫌がるが、それを飲まなければ島から追い出すと言われ、雑用係として置いてもらうことを承諾した。大カマキリが出現したので真城は驚くが、古川たちが駆け付けて退治した。島で長く滞在している隊員たちにとっては、大カマキリの出現は珍しくもないことだった。
真城は新鮮な野菜を手に入れるため、島を散策する。海辺にやって来た彼は、原住民らしき格好をした女性が泳いでいるのを目撃した。驚いた真城は撮影しようとするが、気付いた女性は逃げてしまった。実験本部に戻った真城は、楠見が翌日に島を凍らせる実験を計画していると知った。「原住民の女性をいつ収容するのか」という真城の質問に、隊員たちは原住民の存在を否定した。島内調査の結果、誰も住んでいないと判断していたからだ。
真城が実験の理由を尋ねると、楠見は食糧問題の解決が目的であることを話す。あと一世紀もすれば世界が食糧難に陥ることが予測されている中で、不毛の地を気象コントロールで農地に変えることによって問題は解決できるというのが楠見の持論だった。実験を秘密にしているのは、シャーベット計画が知られたら悪用される危険性があるからだという。次の日、真城は例の女性を避難させようと考えて捜索するが、どこにも見当たらなかった。チームは合成放射能ゾンデを発射するが、妨害電波によって操作不能になった。
実験の失敗により、島の温度は摂氏70度に上昇した。4日が経過し、ようやく気温は37度にまで下がるが、かねてから熱さと疲労で精神が参っていた古川は、ますます限界が近付いていた。一刻も早く島を出たいと考える古川だが、楠見と話した藤崎は隊員たちに、機材を点検して被害状況を報告せよと指示した。楠見が再び実験するつもりだと知り、古川は苛立ちを募らせた。
真城はジャングルを歩く楠見に同行し、写真を撮影する。2人は実験失敗の影響で巨大化した大カマキリを発見し、急いで退避した。3匹の巨大カマキリは小山を崩し、中にあった大きなた卵が転がり出た。本部に戻った楠見が計画続行を宣言すると、古川と鈴木が反対した。すると藤崎が、「無線が壊れているので外部と連絡が取れない」と言う。だが、彼がわざと無線の一部を壊して連絡不能にしたことを、楠見は知っていた。真城は干しておいた赤いシャツが無くなっているのに気付き、木の上に隠れていた例の女性を目撃する。女性は真城のシャツを手にしており、隊員たちが視線を向ける中で逃亡した。
真城は巨大カマキリを「カマキラス」と名付け、森尾を伴って観察に赴いた。するとカマキラスは爪を使い、卵の殻を割っていた。中から誕生した小さな怪獣を見た真城は、「あれはゴジラの赤ん坊じゃないか?」と口にした。同じ頃、本部では正気を失った古川は銃を手にして暴れていた。古川が海岸へと走ったので、藤崎が急いで追い掛けた。海上にゴジラが現れたので、藤崎は古川を連れて本部へ舞い戻る。ゴジラは本部の施設を踏み付け、息子の元へ向かった。
ゴジラの子供がカマキラスたちの攻撃を受けている現場に、ゴジラが駆け付けた。妨害電波は、卵の中の息子がゴジラを呼ぶテレパシーだったのだ。ゴジラはカマキラスたちに襲い掛かり、2匹を退治した。真城は森尾と共に逃げ出すが、途中で洞窟に転落してしまう。最後の1匹が飛び去ったため、ゴジラは後を追う。女性は取り残されたゴジラの子供を見て、口笛で呼び掛けた。ゴジラの息子が歩み寄ると、女性は果物を与えた。ゴジラが戻って来たので、女性は身を隠す。ゴジラは息子を尻尾に捕まらせ、その場を立ち去った。
女性が住処である洞窟へ戻ると、真城が倒れていた。意識を取り戻した真城は、自分のシャツが机に置いてあるのを見つけた。女性は日本語で「泥棒」と叫び、真城にへの対心を示す。しかし真城がシャツをプレゼントすることを告げると、警戒心を解いて笑顔になった。彼女は松宮サエコという日本人女性で、父はゾルゲル島で亡くなった考古学者だった。母はサエコを産んだ時に亡くなり、彼女は1人で島の生活を続けていたのだ。
真城はサエコを本部へ連れて行き、彼女の持っていた父親の日誌を楠見に渡して事情を説明した。真城の提案を受けたチームは、高温でも涼しく過ごせるサエコの洞窟を実験所として使うことにした。真城はサエコと親しくなり、東京のことを教える。彼が「君も一緒に連れて帰るよ」と言うと、サエコは大喜びで抱き付いた。そこへゴジラの息子が出現したので、真城は狼狽する。サエコは「赤ん坊は大丈夫よ」と穏やかに言い、口笛でゴジラの息子を呼び寄せて果物を与えた。そこへゴジラが現れたので、真城とサエコは逃亡した。
楠見と藤崎は松宮博士の日誌にある「クモンガ」という言葉が気になるが、それが何を意味するのかは全く分からなかった。隊員たちが揃って熱病に冒されるが、楠見や藤崎には対処方法が思い付かない。するとサエコが「赤い熱い沼の水を飲ませれば良くなる」と告げるが、沼にはゴジラがおり、途中にはクモンガの谷があることも付け加える。クモンガというのは、巨大なクモのことだった。サエコが一人で水を汲みに行こうとすると、真城が同行を申し出た。楠見は真城に、「クモンガの糸は熱に弱い」という日誌の記述を教えた。
真城とサエコは沼へ向かい、途中にある谷まで辿り着いた。サエコは真城に、クモンガが土の中で眠っていることを語る。何とかクモンガを起こさずに谷を通過した2人は、沼の近くまでやって来た。すると、ゴジラが息子に放射能の吐き方を教えていた。その様子を見ていた真城とサエコは、沼の水を汲んで洞窟へ戻った。サエコが隊員たちに水を飲ませる中、正気を失った古川が銃を撃って暴れる。軽傷で済んだ楠見は、藤崎に無線の修理を急ぐよう指示し、実験を断念することを告げた。
次の日、サエコは楠見の傷を治す薬を取りに行くが、カマキラスに遭遇してしまう。口笛でゴジラの息子を呼ぼうとした彼女は、その場に倒れて意識を失ってしまう。ゴジラの息子は現場に駆け付けてカマキラスと戦うが、劣勢に立たされる。真城が現場にやって来て、サエコを救助した。ゴジラは息子を助けるために駆け付け、カマキラスを退散させた。真城とサエコは目覚めたクモンガに襲われるが、ライターの火で糸を溶かして逃亡する。だが、クモンガが洞窟の入り口に巣を張り、一行は出られなくなってしまう…。

監督は福田純、特技監修は円谷英二、特技監督は有川貞昌、脚本は関沢新一&斯波一絵、製作は田中友幸、撮影は山田一夫、美術は北猛夫、録音は渡会伸&伴利也、照明は山口偉治&小島正七、編集は藤井良平、音楽は佐藤勝。
出演は高島忠夫、前田美波里、久保明、平田昭彦、佐原健二、土屋嘉男、黒部進、鈴木和夫、丸山謙一郎、久野征四郎、西條康彦、当銀長太郎、大前亘、大仲清治、関田裕、中島春雄、小人のマーチャンら。


“ゴジラ”シリーズ第8作。
監督は前作『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』に続いてシリーズ2度目の登板となる福田純。
脚本は『ゼロ・ファイター 大空戦』の関沢新一&斯波一絵。
楠見を高島忠夫、サエコを前田美波里、真城を久保明、藤崎を平田昭彦、森尾を佐原健二、古川を土屋嘉男、気象観測機の機長を黒部進、操縦士を鈴木和夫、小沢を丸山謙一郎、田代を久野征四郎、鈴木を西條康彦、気象観測機の無線員を当銀長太郎、計測員を大前亘が演じている。

新しく登場した怪獣の内、ミニラのキグルミに入っているのはオーディションで選ばれた小人のマーチャン(深沢政雄。当時46歳)。
子供の怪獣なので通常サイズの役者がスーツアクターを担当することは出来ず、もちろん子供を入れるわけにもいかないので、小柄だった彼が選ばれた。
カマキラスとクモンガはキグルミではなく、操演タイプ。
この映画を評する際に「操演だけは素晴らしい」と言われることもあるぐらいだから、特撮マニアはそこに注目して観賞するといいかもしれない。
ただ、ゴジラがカマキラスをボディー・スラムで投げ付ける時、どうしても重量感の無さが見えてしまうのは残念。

実験チームは島内を調査した上で計画に取り掛かったことを説明しているが、それなのにサエコの存在に気付いていなかったってのは、かなり杜撰な計画と言わざるを得ない。
そもそも、危険な大カマキリが生息している場所を、なぜ実験場所に選んだのかという疑問も湧く。
「大カマキリが生息している危険を受け入れてでも、絶対にゾルゲル島でなければいけない理由」というのは用意されていない。

実験チームは島を凍結させようとするシャーベット計画のために来ているのだが、その目的について楠見は「食糧問題を解決するため」と説明する。気象コントロールによって、ツンドラや砂漠など不毛の地を農地に作り変えようというのだ。
だけど、国連が本気で食糧問題を解決したいと思っているのなら、気象コントロールを考えるよりも、不毛の地でも育つような野菜や果物の品種改良に取り組むとか、不毛の地を緑地化できるような植物の開発に取り組むとか、そういう方向で考えた方がいいんじゃないかと。「気象コントロールの実験チームが島に来る」という筋書きはいいとして、その目的を「食糧問題の解決」にしているのは無理を感じる。
それと、実験チームは以前から何度も妨害エネルギーをキャッチしていたようだが、なぜ原因究明に乗り出さないまま実験を開始したのか。「しかし一体、何だろうなあ、妨害エネルギーの正体は?」じゃねえよ。疑問を抱いているなら、ちゃんと調査しろよ。実験にも大きな影響があるんだからさ。
しかも、妨害エネルギーのせいで実験は失敗したのに、その後も発信源を調査しようともしていないし。

サエコは実験チームを警戒したからこそ、接触を避け、隠れて暮らしていたはずだ。だからこそ、彼女は真城を警戒し、父の日誌を盗みに来たと思い込んでナイフを向けたはずだ。
しかし赤いシャツをプレゼントすると簡単に心を許し、1人で島にいる理由を訊かれると日誌を差し出す。
さらには、真城が実験本部へ連れて行って日誌を楠見に見せることも、自分に相談せずに彼が「洞窟を実験室に使いましょう」とチームに提案したことも受け入れてしまう。
「恋は盲目」ってことなのか。

第1作のゴジラは、放射能に汚染されている子供や父親の死を受けて号泣する児童の姿が写し出されるなど、徹底して「脅威と恐怖」の対象だった。
また、戦争を思い出させたり、原水爆反対のメッセージが込められたりして、暗い影や重厚感のあるキャラクターでもあった。
しかし2作目以降、回を重ねるごとに脅威が減退し、ユーモラスで人間臭い部分が強くなっていった。
『怪獣大戦争』ではイヤミの「シェー」のポーズを披露し、『南海の大決闘』では若大将シリーズの加山雄三を真似て鼻をこすった。

この作品では、ついに息子が誕生する。
それに伴って、今回のゴジラは徹底して父親としての姿を見せ付ける。
もはや悲哀や暗い影など微塵も無く、陽気なドタバタ劇の登場人物と化している。
あと、ゴジラの息子を登場させたことによって、「卵があるってことは母親がいるはずだが、どこにいるのか」「そもそもゴジラは原水爆実験で蘇ったはずだが、ミニラの母親はどういう存在なのか」「ゴジラ以外にも同種の怪獣がいるのであれば、2頭ではなく他にも大勢いる可能性があるんじゃないのか」など色々と疑問が沸くのだが、何しろ軽い思い付きで息子を出しちゃったもんだから、その辺りのディティールは完全に無視している。

第5作『三大怪獣 地球最大の決戦』までのゴジラは日本に上陸したので、観客からすると「自分たちの住んでいる場所が破壊される。自分と同じ日本の人々が被害を被る」という受け止め方をすることが出来た。
しかし前作に引き続いて南方にある架空の島が舞台なので、良く知らない遠い場所で怪獣が暴れているという、自分たちには何の影響も無い騒動ということになってしまう。
また、怪獣が都市を破壊するという描写も用意できない。
ゴジラが実験本部の建物を踏み潰す描写はあるが、大して迫力は無い。

都市への上陸、防衛隊の戦闘機や戦車との戦闘、最新兵器による攻撃といった展開が無いと、建物の破壊や爆発といった要素によってアクションの迫力を出すことが出来ない。
そのため、この映画は完全に「怪獣プロレス」だけを見せるような中身になっている。
この頃には“ゴジラ”シリーズだけでなく、怪獣映画そのものが「子供向け映画」というイメージになっていたので、これも完全に子供向け映画として作られているわけだが、もはや「子供騙し」と言った方がふさわしいような仕上がりだ。

実験チームの面々は、一応はゴジラを警戒している。しかし見ている側からすると、「ゴジラが彼らを襲うのでは」という感覚はゼロに等しい。
当然のことながら、ゴジラが人間たちの近くに姿を現しても、そこに緊迫感や恐怖は生じない。
そもそも、今回のゴジラは厳格な父親としての姿ばかりを見せるので、基本的に人間たちは傍観者に過ぎない。
それどころか、人間が見ていないところで、ゴジラとミニラの「親子の触れ合い」が描かれるシーンもある。
ミニラとカマキラスの戦いも、まるで緊迫感は無くて、とても陽気でコミカルなテイストになっている。

ミニラとクモンガが戦いを始めたせいで洞窟の天井が崩れ始め、真城が「ゴジラが来たら、こんな洞窟、パーだぞ」と口にすると、楠見は「実験の準備だ。このままでは脱出は不可能だ。方法は1つ。凍結によって怪獣を封じる」と言い出す。
でも実験の装置を動かすために、楠見と藤崎は洞窟に留まっている。
いやいや、それよりも、さっさと洞窟から避難した方がいいんじゃないのか。既に救助の潜水艦が島へ向かっていることは分かっているんだし。
ゾンデを発射している間に洞窟が崩落したら意味が無いだろうに。

ただ、実験をしている間に怪獣たちは洞窟から離れた場所へ移動して戦っているので、もはや洞窟が崩落する心配は無くなっちゃってるんだよね。
そもそもは「ゴジラが来たら洞窟が崩壊してしまう」ということから「よし、実験して怪獣を凍結させよう」ということになったはずなのに、その目的が失われているんだから意味が無いだろ。
しかも怪獣が凍結せず戦っている間に、一行はボートでゾルゲル島を脱出しているんだよな。
なんか色々とズレているっていうか、無意味になってるぞ。

(観賞日:2014年4月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会