『銀魂』:2017、日本

20年前、平和な江戸の街に宇宙人が舞い降り、地球人は彼らを「天人(あまんと)」と呼んだ。天人は江戸の街を開発し、幕府は傀儡となった。天人を排除しようとする攘夷戦争が勃発したが、幕府の廃刀令によって侍は衰退の一途を辿った。「でにいす」という店で働いている志村新八は、客として来ていたチャトラン星人たちの嫌がらせを受けて因縁を付けられる。店にいた坂田銀時はチャトラン星人たちを成敗し、店を後にした。彼は攘夷戦争の頃、白夜叉と呼ばれて天人に恐れられた男だった。
銀時は「万事屋(よろずや)銀ちゃん」を営んでおり、新八は彼の手伝いをすることになった。銀時の元では、夜兎族の神楽も働いていた。ある時、神楽は自分の飼っていたカブトムシのマッカートニー28号を奪われ、銀時と新八をカブト狩りに誘う。新八はマッカートニーがフンコロガシだったことを指摘するが、神楽には関係なかった。銀時はカブト狩りに何の興味も無かったが、テレビ番組で「カブトムシは高値で売れる」と知ったので態度を豹変させた。
銀時たちが森へ行くと、真選組局長の近藤勲が体中に蜂蜜を塗って木に成り切っていた。さらに進むと、今度は真選組副長の土方十四郎が好物のマヨネーズを木に塗っていた。銀時たちは巨大カブトムシを見つけて捕獲しようとするが、キグルミを着用した真選組一番隊長の沖田総悟だった。将軍のペットであるカブトムシの瑠璃丸が逃げ出したため、真選組は捜索に来ていたのだ。銀時たちは瑠璃丸が飛び去る姿を目撃し、急いで後を追う。途中で新八の姉である妙を見た近藤は彼女を追うが、バットで撃退された。
桂小太郎はペットのエリザベスと街を歩いている時、銀時と遭遇した。桂は銀時が追われていると思い込み、走って来た真選組を峰打ちで倒した。銀時は瑠璃丸を捕まえようとするが、川から飛び出した巨大魚が飲み込んだので唖然とした。取り調べを受けた帰り、銀時と桂は会話を交わしながら街を歩く。2人と高杉晋助は幼い頃、松下村塾で吉田松陽から教わる学友だった。松陽は反逆罪で禁獄され、銀時たちは攘夷戦争で共に戦った。
銀時は桂と別れる際、辻斬りが出るらしいから気を付けろと告げた。桂は辻斬りの男に声を掛けられ、紅色に光る刀を見て驚いた。辻斬りの男は桂を軽く始末し、その場を後にした。翌朝、エリザベスが万事屋を訪ねて来るが、何も話さないので銀時たちは困惑した。仕事の電話を受けた銀時は、後を新八たちに任せて外出する。銀時は刀鍛冶の村田鉄矢と妹の鉄子を訪ね、仕事の内容を聞いた。鉄矢は父の仁鉄が作った人の魂を吸い取る妖刀「紅桜」が盗まれたことを話し、取り戻してほしいと依頼した。
新八と神楽はエリザベスから、桂が辻斬りに殺された可能性が高いことを知らされる。神楽は巨大犬の定春と共に桂を捜索し、新八にはエリザベスと動くよう指示した。紅桜を探していた銀時は沖田と遭遇し、辻斬りの刀が生き物のように動いて紅色に光っていたという情報を知らされた。エリザベスは辻斬りを見つけるため張り込みを開始し、新八は仕方なく同席する。そこへ岡っ引きが来て2人を怪しむが、背後から現れた辻斬りに殺されてしまった。
辻斬りはエリザベスを抹殺し、新八に斬り付けようとする。そこへ銀時が駆け付け、辻斬りの攻撃を阻止した。辻斬りの顔を見た新八は、岡田似蔵だと気付いた。似蔵は桂を始末した証拠の頭髪を見せ、銀時を挑発する。銀時は激昂して攻撃するが、似蔵の持つ紅桜は生き物のように動いて襲い掛かった。同じ頃、神楽は大きな船を発見し、定春に銀時たちを連れて来るよう指示した。似蔵は銀時を圧倒し、「あの人もさぞかしガッカリしているだろうよ。かつて共に戦った盟友たちが、揃いも揃ってこのザマだ。アンタではなく、俺があの人の隣にいれば、この国はこんな有り様にはならなかった」と語った。
似蔵は銀時を抹殺しようとするが、新八が襲い掛かって彼の右腕を切断した。さらに沖田が現れると、似蔵は逃走した。土方は近藤の元へ戻り、高杉が江戸に現れたことを報告する。高杉は似蔵、来島また子、武市変平太を仲間に引き入れ、鬼兵隊を復活させていた。高杉がクーデターを起こすつもりだと聞いた近藤は、全力で情報を集めるよう土方に指示した。神楽は船に乗り込んで高杉に詰め寄るが、危険を察知した。また子の攻撃を受けた神楽は武市が指揮する一団に包囲され、船室に飛び込んだ。
銀時が万事屋で目を覚ますと、妙が傍らで看病していた。彼女は新八から、銀時が外出しないよう見張りを頼まれていた。神楽を捜していた新八は、定春を発見した。巨大船を目撃した新八は中に神楽がいると確信するが、見張りの男に追い払われた。万事屋には鉄子が現れ、紅桜が単なる刀ではなく対戦艦用の機動兵器だと銀時に説明した。人工知能を搭載して戦闘の経験をデータ化していると話した鉄子は、兄を止めてほしいと頼む。高杉と手を組んだ鉄矢が銀時に仕事を依頼したのは、その血を吸わせることが目的だった。
鉄子は苦悩していたことを吐露するが、銀時は「もう面倒は御免だ」と依頼を断った。しかし彼は妙に気付かれないよう鉄子への手紙を忍ばせ、鉄工所で待つよう指示していた。妙は銀時の考えを見抜いており、出掛ける準備を密かに整えていた。銀時が出掛けた後、万事屋の床下に隠れていた近藤が妙の前に現れた。近藤は全て聞いたことを明かし、後は真選組に任せるよう妙に告げた。銀時は発明家である平賀源外の工房へ行き、楽して勝てる道具を所望した。しかし平賀は、使えそうな道具を何も用意してくれなかった。
銀時は工房を去り、鉄子の元へ赴いた。神楽は船で磔にされ、また子から白状するよう要求された。武市はは甘い態度を取るが、また子は銃を構える。そこへ新八が駆け付けるが、1人で助けに来たことに気付いて弱気になった。真選組の船が攻撃して来たため、高杉の船は浮上した。高杉は岡田に、真選組を始末するよう命じた。銀時は鉄子から、彼女が作った刀を渡された。銀時は刀を受け取り、戦いの場へ向かった。新八と神楽は高杉と遭遇し、そこに桂が現れた…。

脚本・監督は福田雄一、原作は空知英秋『銀魂』(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)、製作は高橋雅美&木下暢起&太田哲夫&宮河恭夫&吉崎圭一&岩上敦宏&垰義孝&青井浩&荒波修&渡辺万由美&本田晋一郎、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは松橋真三&稗田晋、アソシエイトプロデューサーは平野宏治&三條場一正、美術監督は池谷仙克、撮影は工藤哲也&鈴木靖之、アクション監督はChang Jae Wook、照明は藤田貴路、録音は芦原邦雄、美術プロデューサーは高橋努、編集は栗谷川純、VFXスーパバイザーは小林真吾、衣裳デザインは澤田石和寛、音楽は瀬川英史。
主題歌『DECIDED』UVERworld 作詞・作曲:TAKUYA∞、編曲:UVERworld/平出悟。
出演は小栗旬、菅田将暉、橋本環奈、堂本剛、中村勘九郎(6代目)、柳楽優弥、長澤まさみ、岡田将生、佐藤二朗、菜々緒、安田顕、新井浩文、吉沢亮、早見あかり、ムロツヨシ、やべきょうすけ、長谷川朝晴、志賀廣太郎、中村有志、六角精児、酒井健太(アルコ&ピース)、ガリガリガリクソン、古畑星夏、長田侑子、原金太郎、一ノ瀬ワタル、朝山知彦、廣瀬菜都美、赤阪尊子、もえのあずき、石関友梨、田中悠太、荻原壮志、大西統眞ら。
声の出演は山田孝之、高橋美佳子、丹沢晃之、山本格、藤吉浩二、岩澤俊樹、山寺宏一ら。


空知英秋の同名漫画を基にした作品。
脚本&監督は『HK/変態仮面』『明烏 あけがらす』の福田雄一。
銀時を小栗旬、新八を菅田将暉、神楽を橋本環奈、高杉を堂本剛、近藤を中村勘九郎(6代目)、土方を柳楽優弥、妙を長澤まさみ、桂を岡田将生、武市を佐藤二朗、また子を菜々緒、村田を安田顕、岡田を新井浩文、沖田を吉沢亮、鉄子を早見あかり、平賀をムロツヨシが演じている。
エリザベスの声を山田孝之、松陽の声を山寺宏一が担当している。

キャラクター紹介は全て、ナレーションとテロップで片付けられる。
例えば新八は自分で「実家は剣術道場。廃刀令で生徒がいなくなって困っている」ってことを語り、神楽について「夜兎族という戦闘能力に優れた宇宙人。諸々の事情で万事屋で働いている」と紹介する。森で真選組の面々が登場すると、「不動の局長、新八の姉・妙のストーカー」とか「超絶マヨラーでヘビースモーカー」といったテロップが表示される。
福田雄一監督は、ドラマを描く中でキャラを紹介するという行為を完全に放棄している。
そもそもテロップで「真選組」と出ても、それがどういう組織なのかは説明してくれない。もちろん新撰組が元ネタってことは分かるけど、だからって説明しなくてもいいわけではない。銀時の台詞で「税金泥棒の警察」と言うので、そこで警察だと分かるが、とにかく丁寧な説明をやる気が全く無い。
神楽にしても「諸々の事情で万事屋で働いている」というだけで、その事情は説明されない。
特殊なキャラ設定や世界観をいちいち説明していたら時間が足りないので、思い切って捨てたのかもしれない。

そもそも福田雄一監督はドラマ演出が不得手な人だから、自分でも分かっていて、そこを意図的に放棄したのかもしれない。
そして彼は、得意分野である内輪受けのコントを次から次へと繰り出してくる。導入部が『カウントダウンTV』のパロディーになっているとか、「エリザベスはQ太郎に似ている」と主張する銀時がドロンパを捜すとか、既存の作品を作ったネタが幾つも盛り込まれている。
平賀の工房にはシャア専用ザクが置いてあり、シャア・アズナブルのコスプレをした六角精児が成り切って台詞を喋る。平賀は銀時に、ゴムゴムの実に似せたメロンを渡す。銀時が高杉の船に行こうとする時、ナウシカが現れてメーヴェを貸してくれる。
まさに「コテコテの福田雄一作品」である。
30分枠の深夜ドラマなら、内輪受けコントだけで占められていても別にいいだろう。だが、これが2時間を超える長編映画となると、途中で飽きるし疲れてくる。

原作を知った上で脳内補完しながら鑑賞しないと、ずっと「TVシリーズの劇場版」とか「ダイジェスト版」を見せられているかのような感覚に陥る。
神楽が万事屋で働くようになった経緯は描かず、銀時が万事屋として仕事をする様子も描かないで、いきなり「カブト狩りに出掛ける」というエピソードを始める。
神楽がフンコロガシを飼っていたことも、それを奪われた出来事も描いていない。
ギャグ系の漫画なら成立することでも、長編実写映画で同じことをやったら、いかに雑に見えるってことがハッキリと分かる。

辻斬りが桂や岡っ引きを倒す時には、その顔が隠れている。銀時が駆け付けた時、辻斬りは三度笠を外し、初めて顔を見せる。
だけど、その正体が明らかになったところで、観客からすると初めて見る顔なので「いや誰だよ」とツッコたくなる。
新八は「人斬り似蔵」と驚くけど、これまた「いや誰だよ」とツッコミたくなる。史実に登場する岡田似蔵は知っているけど、この映画では初登場なんだからさ。
その顔を見せずにしばらく引っ張るってのは、「演じている俳優がスター」って時だけ成立する演出方法でしょ。「正体は新井浩文でした」ってことだと、その演出法は合わないだろ。正体が分かっても、「こんな大物や意外な人が」という驚きは無いでしょ。

史実としての攘夷戦争は知っていても、この映画で扱っている攘夷戦争は全く別物の設定だ。また、史実に登場する武市半平太や岡田以蔵は知っていても、この映画に登場する武市変平太や岡田似蔵は名前が似ているだけの別人だ。
ところが、この映画は「事件も人物も良く御存知ですよね」とでも言わんばかりのスタンスで、どんどん話を先に進めて行く。
そのため、何から何まで説明不足のまま、その一方で史実に無い設定は色々と盛り込んでいるので、脳内補完の作業が膨大になってしまう。
っていうか原作を読んでいなかったら、脳内補完するための情報からして足りないってことになる。

ザックリ言っちゃうと、「有名人によるコスプレ成り切り大会」だ。「真面目な顔して、ふざけまくる」という方法で笑いを取りに行こうとしている。
なので話がシリアスになればなるほど、コミカルな部分との乖離が激しくなる。そのギャップによって、面白さが増すような効果は得られていない。
コミカルなシーンも真面目な顔でバカなことをやっているのだが、その中で「真面目な顔で真面目なことをやる」というシーンになった時、スムーズに切り替えることが難しくなっている。
だから徹底してシリアスを貫く高杉なんかは、キャラとして完全に浮き上がっている。

キャラ紹介もドラマ描写も恐ろしく雑なので、たまに回想シーンを挟んで感傷的にやろうとしても、これっぽっちも心に響かない。そこに限らず、マジなトーンで描くシーンが全て邪魔にしか思えない。シリアスとコミカルが完全に分離しており、どちらか片方は要らないと感じるのだ。
どちらを削るかと考えた時、それは絶対にシリアスの方だ。
高杉がどれだけシリアスな芝居で自分の考えを語ろうと、それは全く心に響かない。なぜなら、師匠との絆も、師匠を奪われたことの無念も、攘夷戦争で受けた心の傷も、江戸幕府の堕落も、まるで表現されていないからだ。
そんな薄っぺらい世界観に生きる薄っぺらいキャラが、いかにも重厚っぽい主張を幾ら語ろうと、そんな物は空虚でしかないのだ。
そこで「マジに熱い戦い」として描かれても、「いや乗れないから」ってことになる。

(観賞日:2018年12月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会