『銀色のシーズン』:2008、日本

モーグルの町として知られる桃山町の町営スキー場。城山銀、小鳩祐治、神沼次郎の3人は好き勝手に雪山を滑る。町の人々は、それを 苦々しく思いながらも黙認している。3人は「雪山の何でも屋」を名乗り、山小屋で共同生活を送っている。銀は空からビラを撒くが、 最近は仕事の依頼も全く無い。そこで3人は、当たり屋をやって金を稼ぐことを考えた。
桃山町は町興しとして、雪の教会での結婚式という企画を立てた。その企画の参加者である花嫁の綾瀬七海が、スキー板を持って町に やって来た。旅館「はなみずき」の主人・瀬戸雅之、温泉旅館「いがわ」の主人・伊川一彦、ゲレンデ食堂の料理長・矢野慎平など企画に 携わったメンバーが、七海を歓迎した。七海は、雪の結婚式の一組目のカップルだ。
代表者の瀬戸は、山の上に設置した雪の教会へ七海を案内した。雪の教会とは、その名の通り、雪を積み上げて作った教会だ。町の人々が 協力して作り、前日に完成したばかりだ。雪の結婚式の企画に申し込んだのは、七海の結婚相手だ。企画の募集が始まった時、彼は最初に 申し込んでいた。彼のアイデアを取り入れ、ライスシャワーでは緩いスロープをスキーで滑り降りることになっている。2人の結婚式が あるのは、3日後の土曜日だ。
銀たちは、雪山でカモになりそうなスキーヤーの真鍋を発見し、わざと衝突して怪我を負ったフリをする。そして「裁判だ」と喚いて、彼 から示談金をせしめようとした。だが、そこへパトロール隊が来たため、失敗に終わった。銀はパトロール隊の隊長・宮部智明から「お前 は、かつての自分に泥を塗っている。自分から進んで恥をさらしている」と言われ、「殺すぞ」と睨んだ。
七海は教会の前でスキー板を履くが、そのまま後ろ向きに滑り落ちてしまう。段差に落ちて上がれなくなった七海を見た銀は、5千円で 引き上げると持ち掛けた。引き上げてもらった七海は、銀を教会へ連れて行く。七海は浮かれた様子で結婚式について語るが、銀は「アホ がいる」と馬鹿にした。七海はスキー初心者で、雪を見るのも今回が初めてだった。スキーのコーチを依頼された銀は、1日2万円で 引き受けることにした。
初日、七海が全く上達しないので、銀は「花嫁のクズ」と罵倒する。しかし彼女が「今日で終わり」と言い出したため、慌てて「才能が ある」と誉めた。銀が彼氏のことを聞くと、七海は「まだ来ていないが、彼はスキーが大好き」と笑顔で語る。宿泊している「はなみずき」 に戻った七海は、スキー資料室というコーナーで、銀の写真やトロフィーを目にした。そこには、銀がW杯の年間総合3位になったことを 伝える記事や、トリノ五輪を目指していることを報じる記事があった。
翌日、祐治と次郎は賭けレースで金を稼ごうと考え、ある若者グループに誘いを掛けた。祐治は、グループの一人ヒロシと10万円を賭けて 勝負することになった。Xゲームの優勝経験があるというヒロシとの対戦に不安を覚えた祐治だが、勝利を収めた。しかしヒロシたちは、金 を払わずに逃亡する。慌てて追い掛けた祐治は、スキーの北海道選抜チームと遭遇した。彼らは祐治の後輩だった。
銀は七海をコーチするが、全く滑れるようにならない。そこで銀は、「本番では彼氏に支えてもらえ」と言い、ストック無しの滑りだけを 教えることにした。銀は彼氏役として七海の手を握り、一緒にボーゲンで滑った。銀は七海を山小屋に連れて行き、祐治と次郎に紹介した。 宿に戻った七海は、仲居の北原エリカに銀のことを尋ねた。するとエリカは、一本のビデオを見せた。そこには、2年前、18歳の銀が、 モーグルの選手として大会に出場した時の様子が記録されていた。
銀は全日本のエースだったが、その大会で大技に挑戦して失敗し、全治10ヶ月の重傷を負った。リハビリに2年を費やし、彼は引退した。 そのことを、エリカは七海に語った。一方、祐治と次郎は「温泉を掘り当てる」と言い出し、ダウジングを始めた。銀は様子のおかしい 祐治に、「何かあったのか」と尋ねた。祐治は、かつて所属していたチームと会ったことを語り、「厳しい練習が続いても全く実力が 上がらず、そこから逃げ出してきた」と打ち明けた。3人が地面を掘ると、温泉が湧き出した。
エリカは七海に、「私たちが町の期待を全て被せて、銀を煽った。英雄だとおだてた。それで彼は、出来もしない大技に挑戦した。だから町 の人々は負い目を感じて、銀が無茶をしても見逃している」と語る。さらにエリカは「怪我は治っているのに、どうして彼が選手として 復帰しないのかと思っている。山向こうで開かれる全日本選抜大会には、毎年、招待選手として呼ばれている。でも彼は去年も一昨年も、 すっぽかしている」と話した。
まだ夜が明ける前に、銀たちは南の斜面を滑ろうと言い出した。普段は、雪崩の危険があるので滑ることが出来ない。しかし銀は、海外から バズーカ砲を入手していた。それを使って先に雪崩を起こしておけば、安全に滑ることが出来るというわけだ。銀は山小屋から雪山に 向かってバズーカ砲を発射したが、標的を外れたため、2発目を発射した。銀は暗い様子の祐治を見て、「自分で決めて辞めた奴が、 どうして逃げたことになるんだよ」と告げた。
早朝、銀たちは南の斜面で存分にスキーを楽しんだ。だが、彼らは気付いていなかったが、バズーカ砲を発射したことによって、雪の教会が 崩壊していた。それを目にした瀬戸は、呆然とした。結婚式は中止せざるを得なくなり、伊川たちは七海と新郎側の親族に電話を掛けた。 すると、新郎が半年前に亡くなっていた事実が判明した。瀬戸や伊川たちが七海の部屋に行くと、彼女は姿を消していた。テーブルの上には、 札束と、「迷惑をお掛けしました」と記された置き手紙が残されていた。
パトロール隊によって連れ戻された銀たちも、七海の結婚相手が死んでいることを知った。七海は、天候が悪化した雪山を登っていた。銀は 捜索に向かおうとするが、宮部に「これ以上、騒ぎを起こすな」と止められる。銀は「お決まりのコースを捜しても見つかるわけねえよ」 と悪態をつき、宮部にケンカを吹っ掛けた。祐治と次郎、パトロール隊も加わり、大乱闘に発展した。エリカは銀に、「お客さんが西側で 彼女を見た」と教えた。
銀は雪山へ向かい、谷に落ちて動けなくなっていた七海を発見した。吹雪が激しくなる中、銀は洞穴を掘って夜明けを待つことにした。彼 は七海に、「挑戦する物を見つけたら、また明日が楽しくなる」と告げる。七海は2年前のビデオを見たことを話し、「自分だって途中で 辞めているくせに。どうして復帰しないの?」と言う。さらに彼女は「偉そうに言わないでよ。私は彼のことが大好きだったの。あの人の 代わりなんかいない。明日のことなんか考えられない」と号泣した。
翌朝、2人は町に戻り、七海は瀬戸たちに謝罪した。銀は教会へ行き、雪のブロックを放り投げた。そこへ七海が来て、「明日帰るから、 せめて、これぐらいは一人で滑れるようになりたい」と言い、ボーゲンの練習を始めた。失敗しても何度も挑戦し、ついに出来るように なった。七海は目を潤ませ、「下ばかり向いてちゃダメだ。目線はもっと遠く」と口にした。宿に戻った七海に、銀はキスをしようとする が、瀬戸が来たため未遂に終わった。山小屋に戻って感情を爆発させた銀の中に、ある決意が芽生えていた…。

監督は羽住英一郎、脚本は坂東賢治、製作は亀山千広&阿部秀司、共同製作は島谷能成&高田佳夫、プロデューサーは宮澤徹&堀部徹& 種田義彦、アソシエイトプロデューサーは小出真佐樹&中村光孝、エグゼクティブプロデューサーは大多亮&清水賢治、撮影監督は藤石修、 撮影は西村博光&清久素延、編集は松尾浩、録音は柳屋文彦、照明は磯野雅宏、美術は相馬直樹、VFXスーパーバイザーは石井教雄、 トータルスキーアドバイザーは岩渕隆二、音楽は佐藤直紀、主題歌はコブクロ『WHITE DAYS』。
出演は瑛太、田中麗奈、玉山鉄二、青木崇高、國村隼、杉本哲太、佐藤江梨子、田中要次、マイケル富岡、小林勝也、水橋研二、松崎裕、 菅原卓磨、山根和馬、林剛史、三上市朗、清水昭博、牧徹、矢吹蓮、豊田エリー、黛英里佳ら。


“海猿”シリーズの羽住英一郎が監督を務めた青春ドラマ。
銀と仲間2人は「雪猿」と称されており、『海猿』のスキー版を狙っていることは明らかだ。
銀を瑛太、七海を田中麗奈、祐治を玉山鉄二、次郎を青木崇高、瀬戸を國村隼、宮部を杉本哲太、エリカを佐藤江梨子、 伊川を田中要次、矢野を小林勝也、モーグル全日本選抜大会のDJをマイケル富岡が演じている。

オープニング、銀、祐治、次郎が雪山を滑り、それぞれのアップの静止画に名前のテロップが入る。
まるで3人がトリオで主役を張る映画のような演出だが、実際は銀だけが主役。
そういうアピールで始めるなら、残り2人にも、ちゃんとサブストーリーを用意しなきゃダメでしょ。
祐治は後輩と出会うが、そのネタは持続しないし、次郎に至っては全く何も無い。
だったら最初から、銀が主役で、残り2人は単なる仲間という形にしておくべきでしょ。

七海はスキー板を抱えて町にやって来るが、雪を見ることさえ初めてだというのに、自前のスキー板は持っているのね。
それと、3日後に結婚式なのに、滑れない状態で来るのも、どうなのかと思うぞ。
あと、新婦が雪を見たことも無いのに、雪山でスキー結婚式を挙げる計画を立てていた結婚相手のセンスは、どうなのかと思ってしまうぞ 。
それと、七海が町に来た時、出迎えた瀬戸たちが、新郎が一緒に来ていないことに誰も言及しないってのも違和感を覚える。

なぜか七海は、会ったばかりの銀を教会に連れて行き、結婚式のことを「ロマンチックでしょう」と楽しそうに語る。
そこには、結婚相手を亡くした様子は微塵も感じられない。本気で結婚に浮かれているとしか見えない。
銀は七海が案内するまで教会の存在を知らないんだが、ずっと雪山で過ごしているのに、それを知らなかったというのは不自然だぞ。
あとさ、全くのスキー初心者でも、あの緩いスロープをボーゲンで滑るぐらい、3時間も練習すれば、それなりに出来るようになるような 気がするんだけどね。
七海がかなりの運動オンチという設定なんだろうけど、それにしても、ちと苦しいぞ。

雪の教会が七海を迎える前日に完成したばかりってのは、あまりにもギリギリすぎるだろ。
で、残り3日という段階で、ようやくアーチを設置し、ポスターが完成する。
もうね、全ての作業が遅いんだよ。
七海が町に来た後、旅館の面々は「ウチは80人が2泊してくれる」「ウチは30人」などと言っている。ってことは、七海や新郎側の身内は 、新郎が死んで結婚式がキャンセルになったことを旅館に連絡していないのかよ。
で、教会が壊れてから、町の人々は七海や新郎側の身内に電話を掛けるが、もう結婚式の前日だぞ。そんなにギリギリになるまで、確認の 電話をしていないのかよ。
そんなグダグダな運営しか出来ないなら、そりゃあ町も廃れて当然だ。

この男女でロマンスを作ろうってのは、かなり無理があるぞ。
七海は結婚相手を亡くしたばかりで、まだ彼のことを強く思っているのに。
しかも結婚相手の死は後半まで明かされないわけで、ってことは、銀は「結婚する女に横恋慕」ってことになるし。
ロマンスをやりたいのであれば、普通に「彼氏がいない」「フラれたばかり」「彼氏とは上手く行っていない」とか、そんな設定にすりゃ いいのに。
結婚相手の死という重い要素を持ち込んでしまったもんだから、シナリオが背負い切れなくなっている。

七海は教会が破壊されなかったら、どうする気だったのか。どういう目的で、町を訪れたのか。
教会を壊したことを銀が謝ると、七海は「バラバラしてくれて良かった。あのまま結婚式に突入しようとしていたら、どうしようかと 思った」と言う。ってことは、そのまま式に突入するつもりだったのかよ。その前に他の行動を取ることは、全く計画していなかったの かよ。
七海は「明日には帰るから、せめてこれぐらいは一人で滑れるようになりたい」とボーゲンの練習を始める。
いやいや、アンタ、町に大きな迷惑を掛けておいて、明日まで帰らないのかよ。すぐ帰れ、今すぐに帰れって。
あと、教会がバラバラになってアンタは助かったかもしれんが、町は大損害だからね。それを「良かった」とは、何事だよ。
七海は洞穴で「明日のことなんか考えられない」と言っていたけど、ちょっとツッコミを入れるとさ、アンタ、数日後の結婚式のことを 考えていたでしょ。
で、「彼のことが大好きで、明日のことなんか考えられない」と号泣していた七海は、その舌の根も乾かぬ内に、銀のキスを受け入れよう とする。
なんちゅう尻軽なんだよ。
恐ろしく好感度の低いヒロインだな。

ただし、好感度の低さでは、銀の方が遥かに上だけどね。とにかく銀と仲間たちは、ヘドが出るようなクズどもだ。
「暴れん坊だが愛すべき奴ら」というのを狙ったんだろうとは思うが、ホントに憎々しい連中だぞ。
なぜ町の人々は、教会を破壊した銀たちを責めないのか。あと、銀たちは、ちゃんと町の人々に謝れよ。
脇を固める連中も薄っぺらく、全く有効活用されていない。例えばエリカなんて、どう考えたって銀に惚れているか元恋人というキャラ 設定にすべきだろうに、単なるファンに留めてしまう。

瀬戸はモーグルの大会に参加するが、そんなに急にエントリーできるものなんだね。
しかし「町の宣伝のためにモーグル大会に出る」という展開は、かなり無理を感じるぞ。
大体、町を宣伝しようとしても、目玉になる教会は潰れているしね。
で、瀬戸がジャンプできずに玉砕した後、それまで町の厄介者だった銀が大会にエントリーしていることを知った途端、町の人々は彼に 声援を送る。
今まで多くの迷惑を掛けられ、さらには皆が懸命に作った雪の教会を破壊されているのに、そんなに簡単に応援しちゃうのね。
選手として復帰したら、それだけで、今までの迷惑は全てチャラなのかよ。

銀は滑走するが、あの時と同じ大技を失敗して転倒するが、無事に立ち上がり、完走する。すると町の人々は拍手を送り、銀も奇声を 発して仲間と喜び合う。
いやいや、そんなので感動できねえって。銀は何も成し遂げてないでしょうに。
とりあえず、銀はレースに復帰する前に、壊した教会を元通りにしろよ。あと、ちゃんと町の人々に謝罪しろよ。それからだろ、 カムバックは。
教会を修理する金を手に入れるため、賞金レースに出場するというのなら、百歩譲ってOKとしてもいいけど(いや、それでも無理だな) 。
大体さ、長いブランクがあったのに全く練習しておらず、ぶっつけ本番なんだから失敗して当然だろうに。
そういう収束にしたいのなら、「怪我がトラウマになって不安や恐怖を抱いていた」という苦悩や葛藤のドラマを描き、そのトラウマを 克服してカムバックに向けて練習を積み、大会でチャレンジして失敗したけと無事に完走するという流れにしなきゃイカンでしょ。

このシナリオで、よく撮影に入ったよな。
手直ししていたら雪のシーズンが終わってしまうから、しょうがないということでゴーサインが出たのかな。
リュック・ベッソンなんて、まだまだ甘いと思うぐらいの手抜きだぞ。
スパイダーカムによるスキーの滑走シーンを売りにしているのかもしれんが、スキーやXゲームのプロモーション・フィルムでも見れる ようなモノだしね。
爽快なスポーツ映像を見たいなら、そっちを見た方がイイよ。
だって、グダグダの青春ドラマに邪魔されずに済むからね。

(観賞日:2009年2月18日)


第2回(2008年度)HIHOはくさい映画賞

・最低主演女優賞:田中麗奈
<*『銀色のシーズン』『築地魚河岸三代目』『山桜』『犬と私の10の約束』の4作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会