『銀色の髪のアギト』:2005、日本

中立都市に住む少年アギトは、友人カインと共に森の貯水池へ出掛けた。水を盗もうとした2人だが、森の番人ゾルイドたちに見つかった。 慌てて逃げ出したアギトは川に流され、辿り着いた場所で光を放つ機械を発見した。調べていると、機械の中には一人の少女が眠っていた。 機械は閃光を放ち、その少女トゥーラは目を覚ました。同じ頃、中立都市の代表者ヨルダは、ゾルイドが貯水池の水を抜くのを目撃した。 その水は、アギトたちのいる場所に押し寄せてきた。アギトとトゥーラは、地上へと脱出した。
初めて中立都市を目にしたトゥーラは、「何があったの?」と激しいショックを受けた。ヨルダはトゥーラと面会し、「貴方、過去の世界 の人?」と口にした。光る機械のことを尋ねると、トゥーラはステイフィールド(永久生命維持装置)だと言った。ヨルダは、「5年前 にも眠りから覚めた青年がいた。彼は軍事国家ラグナへ行ってしまった」と語った。
ヨルダはトゥーラに、「この土地では森が私たちの生活を脅かす。森が蓄えている水が無ければ人は生きていけない。貴方たちの時代とは 違って、森は人々にとって友好的な存在ではないが、我々は森と共存する道を探ってきた。しかしラグナは武力で森を制圧しようとして いる。そのラグナと何とか調和を保ちながら暮らしているのが、この都市だ」と説明した。
ヨルダは話を盗み聞きしていたアギト、カイン、カインの妹ミンカに、トゥーラの世話を任せた。同じ頃、ラグナのシュナック大佐は、 部下のジェシカに「娘の居場所を調べろ」と指示していた。翌日、ミンカはトゥーラを町に連れ出し、「廃墟だった場所を私の父、ヨルダ、 アギトのお父さん、銀色の髪の3人で人が住めるようにした」と語った。その3人は強化体だと彼女は言った。
ミンカはトゥーラを市場へ連れて行き、「ここでは様々な物を水と交換してくれる」と説明した。ラグナの兵隊も市場には集まってくるが 、ミンカは平気で話し掛けた。ミンカは市場の食堂を手伝っているという。彼女は「最近、水が足りない。都市の上に行く人が水を運ぶ ことになっている」と告げた。トゥーラとミンカは、水を桶に入れて運び始めた。
ヨルダはゾルイドたちに囲まれながら、森の意識体の双子ベールイ&ゼールイと話をしていた。双子が「封印された力を解き放とうとする 者がいる」と言うので、ヨルダは「シュナックのことなら、我々の手の届かない所にいる」と言葉を返す。すると双子は「娘が怪しい、森 に災いをもたらす。娘を森に引き渡せ、さもなければ森は全ての水を止める」と口にした。
水を運び終えたトゥーラの首輪であるラバンから光が放たれ、音が鳴った。だが、ミンカが触れると、音は消えた。トゥーラは「誰かが 連絡をくれたかもしれないの」と言った。興味を示すミンカに、トゥーラは「ラバンは持ち主にしか使えない」と教えた。カインと共に ビルのサルベージ作業をしていたアギトは、トゥーラが一人で森へ向かうのを目撃した。トゥーラは森の植物に襲われるが、駆け付けた アギトが助けに入り、「逃げろ」と叫んだ。
森から脱出したトゥーラは、悲しそうな表情で「あのまま眠っていれば良かった」とアギトに言う。アギトが町を作った父アガシを自慢 すると、トゥーラは会ってみたいと言い出した。アギトの案内でアガシと面会したトゥーラは、その姿を見て驚いた。アガシは森の力を 使いすぎて樹木化していたのだ。彼はトゥーラに、「もし君がこの世界を受け入れられないのなら、また眠りに就いた方がいい。森が ざわめいている。君が過去を捨てて生きていければ良いのだが」と告げた。
食堂でラグナの兵士たちが「過去から来た人間を捜している」と話しているのを耳にしたミンカは、トゥーラのことを軽率に教えた。 シュナックが兵隊を引き連れて中立都市に現れ、トゥーラに「君の父上、サクル博士が生きていたら、こんな世界を許しはしないだろう」 と告げた。彼は腕に着けたラバンを見せて、「君と同じ過去から来た人間だ」と言った。
シュナックは「サクル博士のことは良く知っている。博士が立ち上げた地球緑化プロジェクトのメンバーだった。しかし博士の死後、 プロジェクトは中断された。それがここまでの事態を引き起こした」と語り、「君の力を貸してほしい。この世界を正常化するには、君の ラバンで博士の開発した環境再生デフラグメントシステム、イストークを探し出すしかない」とトゥーラに告げた。
そこに現れたアギトはトゥーラに駆け寄ろうとするが、ジェシカに妨害された。ヨルダとカインの父ハジャンが現われると、シュナックは 「トゥーラをラグナへ連れて行く」と告げた。ヨルダは「貴方の妄想に彼女を巻き込むのはやめて」と言うが、トゥーラは「彼と一緒に 行きます。私の父の研究が、この世界を元に戻す鍵なんです」と口にして、シュナックと共に去った。
アギトはアガシから、「シュナックは過去の力に憑り付かれている。トゥーラも惑わされてしまったのだな。あの子は過去の文明を復活 させる鍵を握っている。森と人との間に大きな争いをもたらす力だ。森が滅びれば、やがて人類も滅びることになる」と語った。アガシは 「道はお前に託した」と告げると、森の意識の中に落ちて完全に木と化した。
シュナックは列車の中で、トゥーラに「中立都市の人々は私のことを嫌っている。かつて私は強化体として中立都市に貢献したが、世界が 異常に見えた。そんな私の心の変化に気付き、疎ましく思ったのだろう」と語り、世界を正常に戻したいという強い信念を口にする。列車 はラグナの生命線トリア・シティーに到着した。ラグナは工業と軍事産業だけの町で、空気が悪かった。
シュナックはトゥーラに「ここでは枯れた砂漠から装置を使ってわずかな水を得ている。なぜ人が森に屈服するのかと考えた」と語る。 イストークが中立都市近くの山間部にあると判明し、シュナックはジェシカに採掘作業を指示する。一方、アギトが森へ行くのを見つけた ミンカは追い掛けようとするが、ハジャンから「俺たちには見守ってやることしか出来ない」と止められた。
アギトはベールイ&ゼールイと会い、「トゥーラを取り戻すために強化体になりたい」と告げた。「森のため、戦え」と言われ、アギトは 強化体になった。彼はトリア・シティーに赴き、「行こう」とトゥーラに手を差し出す。だが、麻酔ガスによって眠らされ、拘束された。 トゥーラは「今はまだ帰れないの。世界を元に戻せるのは、過去の人間だけなのよ」とアギトに告げた。
シュナックはトゥーラに内緒で、アギトの抹殺を部下に命じた。シュナックはトゥーラやジェシカと共に列車に乗り込み、山間部へ向かう。 注射を打たれそうになったアギトが「畜生」と叫ぶと、左腕が植物になって伸びた。鎖を破壊した彼は、列車を捕まえた。シュナックは トゥーラに気付かれぬよう、「右車両を切り離して車両ごと始末しろ」とジェシカに命じた。
ジェシカの砲撃によって、アギトの捕まった車両は破壊された。這い出したアギトはトゥーラを追い掛けようとするが、駆け付けたヨルダ に制止された。ヨルダは「闘争本能を一気に高めてはダメ。急激に樹木化して、お父さんみたいに戻れなくなるわ」と説き伏せた。彼女が 意識の集中によって肉体の暴走を止める術を教えると、すぐにアギトは会得した。
イストークのある山に到着したシュナックは、ジェシカに「ここにいろ」と命じ、トゥーラと共に扉の向こうへ消えた。ジェシカは「つい に本性を現したか、急ぎ兵を集めろ」と部下に指示した。トゥーラがラバンをセットすると、サクル博士の幻影が浮かび上がった。博士は 「イストークは一切を焼き払って環境をリセットするが、この選択には大きな犠牲が伴う。ステイフィールドに眠った優良な人々に判断を 委ねる」というメッセージを残していた。
シュナックはトゥーラに、「月面ドームで植物を暴走させたのは、研究成果を焦った私だ」と打ち明け、「この悲劇をイストークの力で 終わらせる」と口にした。彼は、山を中立都市に向かって動かし始めた。山そのものが強力な兵器になっており、それこそがイストークの 正体だった。シュナックは中立都市でイストークを作動させ、跡形も無く焼き尽くすつもりだ。列車に追い付いたアギトは、ジェシカから 「我々は軍を総動員して外から追い込む、内部に侵入して娘とラバンを奪回しろ」と告げられた…。

監督は杉山慶一、原案は飯田馬之介、シナリオは椎名奈菜&柿本直子、 製作は稲田浩之&石川真一郎&関一郎&喜多埜裕明&亀山慶二&島本雄二、プロデューサーは堀内麻紀&梶田浩司&小林敬宜&柳村努& 杉山登&倉田泰明、 キャラクターデザインは緒方剛志、アニメーションキャラクターデザインは山形厚史、 メカニックデザインは安藤賢司&前田真宏、美術設定は佐藤肇&中原れい&菊地正典、 ビジュアルコーディネーターは村田恵里子、3Dディレクターは増尾隆幸、 絵コンテは飯田馬之介&角銅博之&前田真宏&杉山慶一、総作画監督は山形厚史、作画監督は恩田尚之&小原充&後藤雅巳&市川敬三& 福島秀樹&柿田英樹、チーフ演出は垪和等、演出は別所誠人&高橋幸雄&鈴木薫&清水健一&水野健太郎、 撮影監督は石黒晴嗣、編集は肥田文、録音は住谷真、音楽プロデューサーは佐々木史朗、 音楽は岩崎琢、音響監督は若林和弘、主題歌はKOKIA。
声の出演は勝地涼、宮崎あおい、古手川祐子、濱口優(よゐこ)、布川敏和、遠藤憲一、大杉漣、南央美、湯屋敦子、間宮くるみ、 金田朋子、田中秀幸、麦人、宝亀克寿、小山武宏、中博史、小林由美子、星野充昭、堀江ゆかり、 水沢史絵、宮下道央、飯田浩志、成瀬誠、小林和矢、深森らえる、関通利、春山壱樹、石塚さより、逸見廣大、大黒和広、小笠原好美ら。


デジタルアニメーションのパイオニア、GONZOが初めて手掛けた劇場版オリジナル作品にして、壮絶な大失敗作。
一言で言うと、宮崎駿作品の真似事。
監督は、これがデビューとなる杉山慶一。
主要なヴォイス・キャストには、本職の声優ではなく俳優やタレントを起用している。アギトの声を勝地涼、トゥーラを宮崎あおい、 ヨルダを古手川祐子、カインを濱口優(よゐこ)、ハジャンを布川敏和、シュナックを遠藤憲一、アガシを大杉漣が担当している。

まず何も話が始まらない内に主題歌を流して、3分ぐらい費やしてしまうところで観客を掴むことに失敗している。
歌で客を掴もうとでも思ったのか。
本編が始まり、最初にセリフを発する浜口の「アギトー、何してんだよ」という気の抜けた声で脱力を誘われるが、声優ぶりが散々なのは 彼だけではない。宮崎あおいが健闘している以外、声優陣は完全に討ち死に状態。
勝地涼は、「トゥーラー」の叫びが、音の長さが違うだけで、感情は全て平坦。エンケンは発声が弱い。渋く決めるのはいいけど、もっと 強さ、重厚さがほしい。悪党のボスとしての貫禄や風格が全く感じられない。ミンカ役の南央美は上手いけど、そりゃプロの声優だから 当然だ。
タレントや俳優を声優として起用することは良くあって、たまに上手い人もいるけど、今回はまるでダメ。

トゥーラが中立都市の様子に衝撃を受けても、その度合いがこっちには全く伝わらない。彼女が住んでいた過去の世界がどうだったのかを 知らないし。いちいち一つ一つ例を挙げて、これはこうだった、これは昔とこのように違う、と説明してくれるわけでもないし。
「観客の住む世界と同じだという設定だから説明は不要だろう」ってことなのか。
でも、「我々の住む世界とトゥーラが暮らしていた世界が同じ」ってのは、見ているだけでは分からないし。
劇中の現在が我々の世界とは違っているファンタジー空間だから、過去も別世界なのかもしれないと、そう思ってしまう。

トゥーラは森の植物に襲われた後、「あのまま眠っていれば良かった。どうすればいいの?」と言い出す。
どうすればも何も、とりあえず暮らして行けばいいでしょ。そんなに目覚めたことを後悔するほどの出来事は起きていないはずだが。
トゥーラがそこまで深刻に考え込むような心情が理解できない。
慣れるのに時間は掛かるだろうけど、そんなにショッキングな出来事も無かったし。

トゥーラのラバンから電話が掛かってきたかのような音が鳴るシーンがあるが、それが何の意味するものだったのかは分からない。
伏線を回収する作業はサボりがちだ。
ミンカはラグナの兵隊にトゥーラのことを軽率に教えて、そのせいでシュナックが来るのだが、「自分のせいだ」とミンカが気に病む ようなことは全く無い。
っていうか、「ミンカが軽率な行動を取った」ということは完全にスルーされているので、だったらシュナックが突き止めたことにして おけばいい。

アガシは森の力を使いすぎて樹木化しているが、アギトはトゥーラに父の姿を見せることを全く嫌がらない。堂々と自慢げに紹介して いる。
アギトはトゥーラに「シュナックを信じちゃいけない」と言うが、そのように強く反対する分からない。シュナックやラグナに対する彼の 感情、考え方が、それまでに一度も示されていないからだ。
アガシは「森が滅びれば人類も滅びることになる」と危機を警告しながら、その解決方法については何も教えず、「道はお前に託した」と 全てアギトに丸投げしてしまう。
アギトの行動のモチベーションは、「森を救う」とか「悪事を防ぐ」じゃなくて、トゥーラを救いたいというだけ。で、そのトゥーラへの モチベーションも、最初に一目惚れしたシーンがあるだけで、恋心の描写が全く出来ていないから、「お前が惹かれているのは、完全に トゥーラの見た目だけだろ」ということになる。
この2人の心の交流は、ちっとも描かれていない。

アギトは特に苦労することもなく、簡単に強化体になる。
どうやら、誰でもなろうと思えば簡単になれるようだ。
彼が強化体になるところに、物語としての盛り上がりは全く無い。テンションも高まらない。
強化体になって何かの機械を倒すが、その次のシーンでは麻酔ガスを撃ち込まれ、簡単に眠らされる。
それだと強くなったように見えないだろ。
そこは、しばらく圧倒的な強さのバトルを描いて、そこから捕まったり眠らされたりというところへ持って行くべきだろうに。

で、強化体には力を使いすぎたら木になってしまう副作用があるんだけど、もうトゥーラを助けるために心まっしぐらなので、そのことで アギトが葛藤することも無い。
その後、アギトが戦いの中で、「力を使いすぎると木になるかもしれないが、トゥーラを助けるためには使わなきゃ」という選択を 迫られることも無い。
終盤に力を暴走させているが、そこには葛藤もドラマも無く、いきなりアギトが強い力を行使して樹木化する。
アギトを苦しめたり悩ませたりするために作用しないのなら、副作用の意味も薄いよなあ。

終盤に力を使いすぎて樹木になったはずのアギトは、元の姿に戻る。なぜかは良く分からない。
あえて言うなら、それは御都合主義というものだ。
で、最後は「これから僕たちは人と森とを繋ぐんだ」ということでまとめているが、結局、人と森の関係について、この映画が 出した答えは、どういうことなんだろうか。
「森と人を結ぶために努力していきます」ってことなのか。

荒廃した未来の地球、意志を持って地球を支配している森、森との共存を模索する都市、森と敵対する都市、使命を背負った謎の少女、 その少女と出会って惹かれる元気で真っ直ぐな少年、少女の鍵を利用して破壊活動を企む悪党、その悪党と戦う少年と少女。
このように、宮崎アニメで見たような要素ばかりを寄せ集めて、この作品は作られている。
ようするに、『未来少年コナン』と『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』を混ぜ合わせて、それを薄めたってことでしょ。
まあ模倣から入るのはいいとしよう。でも、そこで思考が停止しているってのはダメでしょ。
この映画で製作サイドが伝えたかったこと、描きたかったことは何なのか。何も無いでしょ。
少なくとも、こっちには何も伝わってこなかったぞ。
あえて言うなら、「ゴンゾの技術力のアピール」ということになるのかもしれないが、映像的にも見るべきものは無い。腕が植物になって 暴走する描写なんて、まんま『AKIRA』だし。デジタルとセルアニメは上手く馴染んでいないし。っていうか、そこに関しては、融合 が上手くいっているアニメを今までに見たことが無いけど。

素人の集まりが、宮崎リスペクトで作った自主制作フィルムということであれば、まあ別に構わない。
あるいは、アニメ後進国の監督が初めて取り組んだ作品ということだったとしても、やはり厳しいことは言わないでおこうという気に なる。
だけど、これは日本アニメの世界でプロフェッショナル集団として活動しているメンツが手掛け、全国公開された商業映画なのだ。
こんな映画を作ってしまったら、これ一本だけでも「ゴンゾはダメな会社」というレッテルを貼られかねないぞ。

そもそも、なぜオリジナル脚本でやろうと思ったんだろうか。
映像をアピールしたい会社なんだから、原作付きでやればよかったのに。
原案の飯田馬之介はOAVの『デビルマン 誕生編』『デビルマン 妖鳥シレーヌ編』で監督と脚本を務めているので、実写版でコケた 原作に近い形での『デビルマン』を長編アニメ映画として作るとかさ。
デビルマンの声優は勝地涼で。
そして実写版と同じように、棒読み芝居で「あー、俺、デーモンになっちゃったよ」と言うのよ。
最高だね(いや最低だろ)。

(観賞日:2009年12月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会