『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』:1970、日本

木星探検無人ロケットのヘリオス7号は、3年半後に地球に帰還する予定で打ち上げられた。しかし発射から4ヶ月後、ヘリオス7号は消息を絶った。地球の人々は知らなかったが、ヘリオス7号はアメーバ状の宇宙生物に乗っ取られ、針路を変えて地球へ向かっていた。ブラジルから帰国する飛行機に乗っていたフリーカメラマンの工藤太郎は、地球での仕事に退屈を感じていた。工藤は洋上へ落下するヘリオス7号を偶然にも目撃し、慌ててカメラを構えた。
帰国した工藤は、依頼を受けていた週刊トピックス編集部へ行って目撃した出来事を話す。だが、「無人ロケットが一人で帰って来るはずがない」と、誰も信じようとしなかった。工藤を紹介してもらうために編集部に来ていた星野アヤ子は、立ち去る彼を追い掛けた。アジア開拓株式会社の宣伝部員であるアヤ子は、島の写真を撮ってほしいと依頼した。ハワイとマリアナ諸島の中間にあるセルジオ島には珍しい熱帯植物や動物が生息しており、アジア開拓は大規模なレジャー施設を建設するつもりなのだという。
アジア開拓宣伝部長は工藤に、極秘で進められているレジャー計画の宣伝写真を撮ってほしいと持ち掛ける。工藤が「そんな写真を撮るつもりはありません」とキッパリ断ると、そこへ旧知の仲である生物学者の宮恭一がやって来た。宮はセルジオ島の生物を観察する目的で、レジャー建設の計画に関わっていた。工藤は宮から、以前に聞いた怪物伝説の島がセルジオ島であることを聞かされる。さらに工藤は、ヘリオス7号の落下地点がセルジオ島の位置と合致することを知った。
セルジオ島の駐在員である横山と佐倉、「怪物が住んでいるから魚を取ってはいけない」という原住民の警告を無視し、入り江で釣りをする。だが、海の中から巨大なイカの怪物が出現し、佐倉が餌食となった。逃げ出した横山は祈祷師のオンボや青年のリコと遭遇し、「アンタがたの伝説は嘘じゃなかった。俺はゲゾラを見た」と訴えた。オンボは危機感を抱き、「これ以上、ゲソラを怒らせてはならない。絶対に」と険しい表情で告げた。
工藤は怪物伝説を確かめるため、アヤ子や宮と共に船でセルジオ島へ向かう。工藤とアヤ子が話していると、世界風俗研究所所長の名刺を持つ小畑誠が声を掛けて来た。セルジオ島へ行くと言う小畑を、工藤は快く思わなかった。そこへ宮が来て、設計技師の佐倉が島で怪物に襲われて行方不明になったことを告げた。4人はリコの用意したボートに乗り、セルジオ島へ上陸した。怪物のことを楽しそうに話す工藤とアヤ子を見たリコは、「ゲゾラ笑う、いけない。ゲゾラ、人の気持ち、分かる」と鋭い表情で告げた。
誰も出迎えに来ないことを怪訝に思うアヤ子が問い掛けると、リコは「日本人、ゲゾラ怒らせた」と言う。リコが横山を連れて来たので、工藤たちは佐倉のことを尋ねる。しかし横山は何も話そうとせず、怯えた様子を見せた。徹底的な調査を考えていることを工藤が話すと、「そんなことしたら佐倉さんの二の舞だ。何しろ奴は、テレパシーで人間の心が分かるんだ」と述べた。詳しいことを宮が訊こうとすると、横山は「やめろ。やめないと協力しない」と告げた。
一行はジープに乗り、地図に載っている大洞窟の調査へ向かう。海に続いている洞窟湖の水面には、ゲゾラが現れた時と同じ光が発生した。大きな波が立った後、一行は佐倉の腕時計が放り出されているのを発見した。横山は悲鳴を上げて洞窟を飛び出し、リコの待機しているジープに乗り込んだ。彼は島を脱出しようと考え、ジープを走らせる。横山が小屋で荷物をまとめていると、上陸したゲゾラが襲い掛かる。リコも窮地に追い込まれるが、コウモリの群れが現れた途端、ゲゾラは海へと逃げて行った。
命は助かったリコだが、ゲゾラに襲われたショックで記憶を失った。小屋にやって来た工藤たちは、リコの胸部に残っている凍傷のような傷を発見した。小畑は密かに別行動を取り、レジャー施設の設計図を見つけて盗み出した。その様子に気付いた工藤は、こっそりと写真を撮影した。リコの恋人であるサキが、潰された小屋に駆け付けた。サキの案内で、一行はリコを島民の部落へ連れて行った。工藤は一行の前で、小畑の行動を指摘する。小畑は開き直り、開発計画を盗みに来た産業スパイであることを明かした。
翌日、工藤と宮は島の近海に潜って調査活動を実施し、沈んでいるヘリオス7号を発見した。そこへゲゾラが出現し、2人に襲い掛かった。しかしイルカの群れが近付くと、ゲゾラは2人を解放してセルジオ島へと上陸した。ゲゾラは島民を襲い、部落を破壊する。アヤ子は宮に、篝火で火傷したゲゾラが慌てていたことを知らせる。火が弱点だと察知した工藤たちの元に、島民がガソリンと銃を運んで来た。一行はガソリンを撒いて火を放ち、ゲゾラを燃やして海へ退散させた。
工藤や宮たちは、第二次大戦中に旧日本軍が使っていた弾薬庫で武器や弾薬を入手した。一行が浜辺に篝火を焚いて警戒している最中、小畑は一人で逃げ出そうとする。しかし彼がボートを漕ぎ出した直後、海からカニの怪物ガニメが出現した。銃弾を浴びせても効果が無いため、一行は弾薬庫へと退避した。工藤は追い詰められるが、間一髪で攻撃を回避してガニメを弾薬庫へ転落させる。工藤は缶のガソリンを撒いて発砲し、火を放って弾薬もろともガニメを爆破した。
ガニメから抜け出した宇宙生物は、浜辺に打ち上げられて生き延びていた小畑に寄生した。宇宙生物は小畑に、「お前はもう、ただの人間ではない。お前の意識、記憶、全て我々が支配した。我々の目的は、この地球を支配することだ。地球を支配するためには、まず人間を支配することだ。そして、お前が第一号の名誉ある宇宙人となったわけだ。お前の仕事は、この地球上から恐るべき我々の敵を探し出し、その全てを抹殺することだ」と話し掛けた…。

監督は本多猪四郎、脚本は小川英、製作は田中友幸&田中文雄、撮影は完倉泰一、美術は北猛夫、録音は増尾鼎、照明は高島利雄、編集は永見正久、特殊技術は有川貞昌、音楽は伊福部昭。
出演は久保明、高橋厚子、小林夕岐子、佐原健二、土屋嘉男、中村哲、藤木悠、斉藤宜丈、杉原優子、堺左千夫、当銀長太郎、大前亘、権藤幸彦、加藤茂雄、緒方燐作、中島春雄、中村晴吉ら。


“ゴジラ”シリーズの新作がストップしていた時期に(旧作の短縮再編集版は「東宝チャンピオンまつり」で公開されていた)、東宝が夏の「東宝チャンピオンまつり」の1本として製作した怪獣映画。
特技監督の円谷英二が死去してから公開された(クランクイン直後の1970年1月25日に死去)最初の東宝特撮映画。特殊技術は円谷の弟子である有川貞昌が担当している。円谷も特撮班の仕事に少しだけ携わっていたそうだ。
監督は『怪獣総進撃』『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』の本多猪四郎。脚本を手掛けたのは『悪魔が呼んでいる』『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』の小川英で、怪獣映画はキャリアの中で本作品だけ。
工藤を演じているのは、『マタンゴ』や『怪獣総進撃』でも主演を務めた久保明。アヤ子役は高橋紀子の予定だったが、結婚のために出演できなくなり、『怪獣総進撃』でキラアク星人の一人を演じていた高橋厚子が起用された。サキを小林夕岐子、小畑を佐原健二、宮を土屋嘉男、オンボを中村哲、宣伝部長を藤木悠、リコを斉藤宜丈、編集長を堺左千夫が演じている。

まず、怪獣映画を作る体力が残っていたのなら、なぜ“ゴジラ”シリーズの新作を作らなかったのだろうかという疑問が沸く。
そりゃあシリーズの初期に比べると興行収入は著しく減少していたが、それでも未知の怪獣ばかりを登場させるよりは、確実な観客動員が見込めるはずだ。
この作品は1966年に執筆された脚本『怪獣大襲撃』がベースになっているのだが、怪獣映画のシナリオのストックが尽きてしまい、仕方なくお蔵入りの中から引っ張り出してきたということだったんだろうか。
だとしても、それをゴジラ映画用に作り直すことは可能だったんじゃないかと思うのだが。

アジア開拓のレジャー建設は極秘裏に進められている計画であり、工藤やアヤ子たちがセルジオ島へ行くことも、なるべく知られないようにすべきだ。
それなのに、彼らは船をチャーターするわけでもなく、普通の客船で向かっている。
他の乗客もいる場所で、普通に島のことを話している。小畑が同席しているのに、宮は島の設計技師が怪物に襲われて行方不明になったことをベラベラと喋っている。
あまりにも警戒心が無さすぎるだろ。どんだけボンクラなんだよ。

横山がゲゾラに対して強烈に怯える様子を見せても、佐倉の腕時計を見た彼が半狂乱になって逃げ出しても、工藤たちはノンビリした様子を崩さない。
工藤は怪物伝説を信じているはずなのに、だからこそ島へ来たはずなのに、むしろ信じていないかのような、呑気な態度を取り続ける。一方で「未曽有の怪物を見られるなんて幸運だ。それを楽しみに、今夜はゆっくりと寝よう」とも言っているので、「怪物の存在は信じているけど危機感は無い」ってことなのかもしれないが、それはそれで「なんでだよ」と言いたくなるし。
そもそも、2人が失踪しているのに、なんで緊張感がゼロなのかと。
これが悪役や脇役ならともかく、工藤は主人公なんだから、「人が失踪しても知ったこっちゃないね」とか「怪物がいようがいまいが危機感は感じないね」ってことじゃダメでしょ。

佐倉が怪物に襲われて行方不明になったことを聞かされたばかりなのに、アヤ子はセルジオ島を見て「ステキ。こんなに綺麗な島が、まだ残っていたのね」と嬉しそうに語り、工藤も「素敵なのは、この島はまだ本当の自然のままだからさ」と笑顔で告げて写真を撮影する。
2人とも、島へ行くことを全面的に楽しんでいる。
仮に「怪物に襲われた」ということを信じていないとしても、行方不明者が出ていることは事実なのに、なんで危機感や警戒心がゼロなのか。
どんだけボンクラなんだよ。

そもそも、なんで小畑も同じボートでセルジオ島へ上陸しているのか。
リコと話が付いているのは、アジア開拓から派遣されたメンバーだけのはず。
小畑は無関係なんだから、彼が同じボートで上陸できるのは筋が通らないでしょ。工藤たちは、決して小畑を好意的に捉えていたわけでもないんだから、一緒のボートで行きたいと言われたとしても断るべきだし。
同じジープでの移動も、同じ場所に宿泊することも、もちろん断るべきでしょ。

そもそも好意的かどうかという問題じゃなくて、秘密の計画で行くんだから、部外者を同行させちゃダメだろ。脇が甘すぎるだろ。
しかも、小畑がいるにも関わらず、平気で横山に「我々はアジア開拓の依頼で来たんだ」と言っちゃうし。
アホ満開だな。
しかも、小畑が計画書を盗みに来た産業スパイであることが発覚しても、それに対して何か手を打つわけではなくて、その後も一緒に行動しているし。

物語はグダグダで、まず「3体の怪獣が順番に登場する」というシンプルすぎる構成からして手抜き感覚を禁じ得ない。
まだ登場していない段階から怪獣の存在を匂わせたり、いずれ本格的に登場する予兆を用意したりするのではない。
最初はゲゾラだけを登場させて(予兆は何も無く、いきなり登場している)、後半に入ってから次のガニメが唐突に出現し、終盤になったら唐突にカメーバが現れるという具合だ。
シンプルっていうか、ものすごく雑だ。

それぞれの怪獣に与えられた時間の配分も上手くない。ほぼ大半がゲゾラで、しかし焼かれて途中退場し、もう二度と出て来ない。
ガニメは後半になって登場したと思ったら、あっという間に倒されてしまう。カメーバは付け足しのような登場なのに、ラスボス的な扱いというアンバランスさ。
そりゃあ、例えば『子連れ狼 三途の川の乳母車』なんかでも、順番に敵が襲い掛かって来るだけというシンプルな構成だったけど、敵のキャラクターや使用武器、伴奏音楽、アクション演出や残酷描写など様々な点で工夫が凝らされており、ケレン味に溢れた痛快娯楽作品に仕上がっていた。
この映画は、「シンプルなストーリー展開だけど面白い」ということではなく、単なる手抜きでしかないのだ。

ゲゾラがやられたら宇宙生物が外に出てカニに憑依し、ガニメになるという形なので、ゲゾラとガニメが同時に存在できなくなっているが、それはマイナスでしかない。
しかも、じゃあ宇宙生物は1体なのかと思ったら、残り時間が少なくなってから「実は3体」ってことが明らかにされる。
だったら前半から、ゲゾラとガニメとカメーバを共存させることも出来ただろうに。
まあ、共存させたら面白くなるのかと問われたら、答えはノーなんだけどさ(じゃあダメじゃん)。

ただ単に「突然変異で巨大化した怪獣たち」ということではなく、「寄生する宇宙生物」という『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』的な要素を盛り込んでおり、それが工夫っちゃあ工夫だ。
ただ、それがプラスに作用しているとは言い難い。
「生物に憑依して巨大化させる」という特徴を持った生物だったはずが、後半に入ると「人間に憑依して操作する」という設定が付け加えられて『吸血鬼ゴケミドロ』状態になる。
それは欲張り過ぎて、まとまりが付かなくなっていとしか思えない。
「小畑がアヤ子の説得に心を打たれて宇宙生物の精神支配に打ち勝つ」という展開も、小畑が彼女の恋人や好意を寄せていたという設定ならともかく、ただの身勝手な産業スパイでしかないので無理を感じるし。なぜ終盤になって、急に善意に目覚めているのかと。

他の生物は巨大化させて怪物に変身したのに、人間の時は変貌しないという下手な御都合主義は、大いに引っ掛かる。
それと、小畑に寄生した宇宙生物は「我々の目的は、この地球を支配することだ」と言うが、そのための武器として生物を巨大化させるなら、もっと戦闘能力の高そうな生物を選んだ方がいいだろ。なんで基本的に海で生息する、それも強いとは言い難い生物ばかりを選ぶのか。
あと、宇宙生物は「地球を支配するためには、まず人間を支配することだ」と言うけど、「海の生物を巨大化させる」という行動は目的と合致していないように思えるぞ。
しかも、南海の孤島にいる人々を襲っても、大した影響力は無いだろ。最初から人間に憑依した方がいいぞ。それに、一刻も早く都会へ出た方がいいぞ。

特撮シーンについて言えることは、「怪獣がちっとも魅力的じゃないし、見た目の怖さも無い」ってことだ。
「怪獣」と書いたけど、簡単に言うと「デカいイカ」と「デカいカニ」と「デカいカメ」だし。
ゴジラやアンギラス、ラドンやキングギドラ辺りと比較すると、まるで惹き付けられないのよ。
エビラやカマキラス、クモンガと同じレベルか、それ以下だ。バート・I・ゴードンの魂を継承しているのかと言いたくなるぞ。
しかも、そこら辺にいる生物を巨大化するにしても、よりによって、なんでイカとカニとカメなのよ。
イカは海中の生物なのに、平気で上陸させちゃってるし。

(観賞日:2014年4月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会