『ゲロッパ!』:2003、日本

小さなイベント・プロダクション社長の上原かおりは、幼い頃の夢を見た。ヤクザの親分の父親が銭湯で襲撃され、大騒ぎになった時の夢だ。その後、かおりは父に捨てられ、母を亡くして施設に預けられた。結婚して歩という娘に恵まれたが、夫を亡くしてバツイチになった。彼女はハウスキーパーの佐藤に歩の世話を頼み、唯一の社員・岡部と共に仕事へ出掛けた。
かおりの父・羽原大介は、5年の懲役で明後日には刑務所に入ることが決まっている。新幹線に乗っていた羽原は、舎弟の金山組組長・金山正男から「一緒にジェームス・ブラウンの名古屋のレインボーホール公演に行けないのが残念だ」と言われる。羽原は、JBの大ファンなのだ。新幹線の中で羽原は、そっくりさんタレントを引き連れたかおりと遭遇した。だが、2人とも親子だとは全く気付かなかった。
羽原は組員の太郎、晴彦、健二を集め、組を解散するのでカタギになれと告げた。泣いて撤回を求める太郎たちだが、羽原の意志は固い。かおりはイベントが催されるマリンリゾート“ラグーナ蒲郡”に到着し、支配人の田中と契約を済ませた。羽原は借金取りの緒方から1200万円の返済を迫られるが、脅しを掛けて退散させた。羽原は金山に大事なJBの黄金像を渡し、金の延べ棒にでもしてくれと告げる。
金山は太郎たちを呼び寄せ、「この人を連れてくれば羽原組長が解散を撤回するかもしれない」と告げてJBの写真を見せ、名古屋から拉致してくるよう命じた。同じ頃、政務秘書官は内閣調査室の村山と木下に対し、あるブツを奪取する命令を下した。それは、総理の座を脅かすフィルムである。そのフィルムが、ある外国人によって持ち込まれたとの情報が入ったのだ。
太郎たちは美容室のミツに会い、JBが名古屋のウエスティン・ホテルに宿泊するとの情報を掴む。彼らは宅配便業者の沼田と吉村を脅し、エレベーターで出食わしたJBを捕まえて運送トラックの荷台に押し込んだ。実は、捕まえたのはラグーナ蒲郡のイベントに出演するそっくりさんタレントのウィリーなのだが、太郎たちは全く気付いていなかった。連絡を受けて駆け付けた金山は、JBが偽物なのを知って激怒し、どこかへ捨ててくるよう太郎達に命じた。
羽原は寿司屋のタツから、娘の居場所が分かったとの連絡を受けた。羽原は25年前に生き別れた娘を探していたのだ。実は、羽原はかおりを捨てたのではなく、刑務所に入っている間に妻の親族によって引き離され、連絡も取れないようにされていたのだ。一方、ウィリーを荷台に乗せてトラックを走らせた太郎たちは村山と木下に止められ、「誰に幾らで売るつもりだ?」と言われる。何のことか分からないまま車の外で言い合っている内に、ウィリーが運転席に移動し、トラックを奪って逃亡してしまう。そのままウィリーはトラックを走らせ、ラグーナ蒲郡へと到着した。
金山はJBの興行関係者に電話を掛け、金を積んで呼ぼうとするが、冷たくあしらわれる。太郎達から「内閣調査室がウィリーを探していた。あいつは大金になるはず」と聞かされた金山は、その金でJBを呼び寄せようと考えた。彼らはラグーナ蒲郡へ行き、かおりにウィリーを貸すよう要求するが、拒否される。おまけに、ウィリーが会場から逃げ出してしまう。同じ頃、羽原は府中にあるかおりのアパートを訪れ、歩と面会するが、「変なオジサン」と思われてしまう。
金山は村山と木下を呼び付け、「ウィリーは預かっているので1本くれれば引き渡す」と告げる。金山は1千万円のつもりだったが、村山と木下は1億だと勘違いする。羽原は歩に事情を説明し、ラグーナ蒲郡へ向かう。ウィリーはかおりに見つかり、慌てた拍子に靴の踵が外れた。かおりは、その踵に隠されていたフィルムを発見する…。

監督は井筒和幸、脚本は羽原大介&井筒和幸、プロデューサーは石原仁美、エクゼクティブプロデューサーは李鳳宇、撮影は山本英夫、編集は冨田伸子、録音は白取貢、照明は渡邊孝一、美術は大坂和美&須坂文昭、ダンス指導はドン勝本、音楽スーパーバイザーは高宮永徹、主題歌はSOULHEAD 「GET UP!」。
出演は西田敏行、常盤貴子、岸部一徳、山本太郎、桐谷健太、吉田康平、太田琴音、ウィリー・レイナー、田中哲司、木下ほうか、ラサール石井、益岡徹、塩見三省、根岸季衣、藤山直美、岡村隆史、トータス松本、長塚圭史、徳井優、奥貫薫、鈴木想生、篠井英介、寺島しのぶ、小宮孝泰、日向丈、田中要次、児玉謙次、及川以造、長原成樹、森安健雄、鹿野浩明、岩崎ひろし、嶋崎伸夫、加藤満、坂上和子、日高奈留美、KING OF SOUL(ドン勝本、ニック岡井、マイケル鶴岡)ら。


いつの間にやら「他の映画を酷評するガラの悪いオッサン」が本業になった井筒和幸監督が、『ビッグ・ショー! ハワイに唄えば』以来、4年ぶりに手掛けた映画。
タイトルの「ゲロッパ」は言わずもがな、ジェームズ・ブラウンのヒット曲「SEX MACHINE」のフレーズ「GET UP!」のこと。

羽原を西田敏行、かおりを常盤貴子、金山を岸部一徳、太郎を山本太郎、晴彦を桐谷健太、健二を吉田康平、歩を太田琴音、ウィリーをウィリー・レイナー、内閣調査室の2人組を田中哲司&木下ほうか、高井をラサール石井、田中を益岡徹、緒方を塩見三省、佐藤を根岸季衣、金山の妻を藤山直美、岡部を長塚圭史が演じている。
他に、フィルムを受け取りに来る男を岡村隆史、かおりが付き合っている歌手をトータス松本、終盤にウィリーが逃げ込む駅の駅員を徳井優、羽原の妻を奥貫薫、幼少時のかおりを鈴木想生、美容室のミツ&寿司屋のタツを篠井英介、羽原がかおりの元へ向かう時のタクシー運転手を寺島しのぶ、沼田を小宮孝泰、その相棒を日向丈、終盤に羽原を逮捕しに来る刑事を田中要次が演じている。

西田敏行は上手い役者だとは思うし、ベターかもしれないが、しかしベストな配役ではないだろう。
この映画の主役としてベストなのは、ヤクザ役のイメージが強い俳優だと思う。そういう人にコミカルな芝居をさせる方がいい。
西田敏行がコミカルな演技をしても、それが普段の姿に見える。
逆にヤクザっぽい芝居をする部分で、怖さが足りないという問題が生じている。

冒頭のタイトル表記は「ゲロッパ」ではなく「GET UP!」になっているし、スタッフの表記も脚本が「written by」だったり撮影が「Cinematographer」だったりと、いちいち英語になっている。
中身はベタベタで古臭いモノなのに、何をやってんのかと。
シャレた感じにしてカッコ付けたいんかと。
逆にカッコ悪さ炸裂だぞ。

最初に登場する銭湯での乱闘シーンは、何がどうなっているのか人の動きがサッパリ分からないモノになっている。
井筒監督って『ガキ帝国』やら『岸和田少年愚連隊』やらを撮ってきて、ケンカのシーンは得意なはずだろうに。
羽原の顔を隠すためにそうなったのかもしれんが、そもそも顔を伏せておく必要性が全く無い。
どうも序盤は羽原とかおりが親子ってのを伏せて進めようとしている節があるが、そんな無意味な細工は要らんよ。

最初にかおりが幼少時の夢を見て、そこから娘を預けて仕事に出掛けるという導入部分になっているのだが、ここに魅力が全く無い。普通に、羽原を登場させて始めた方が良かったんじゃないか。そんでもって、最初に踊らせるか暴れさせるかすりゃいいじゃん。
新幹線の中で急に羽原と金山が踊り出すシーンがあるが、それはタイミングも見せ方も冴えないんだよな。その後も、金山と妻がウィリーの歌に合わせて踊るシーンがあるが、そこも中途半端で切ってしまう。そういうトコは完全にミュージカルシーンにして、1コーラス踊らせた方がいいんじゃないのか。
なぜ歌い踊らせることへの執着が淡白なのか。

羽原が明後日に入所する理由は不明だし、なんで「思い残すことは無い」とか、もう死ぬみたいな言い回しになっているのかも分からない。
ってことは2度とシャバに出て来られないのかな、でも日本に終身刑は無いから死刑なのかな、それだと現時点で逮捕されていないのは不可思議だな、などと思っていたら、懲役5年なのよね。
それで、なぜ「一生の別れ」みたいになってんのよ。
金山にJBの像を渡す時も、まるで形見分けみたいになってるし。
いやいや、5年で出てこれるっつーの。

新幹線で出会った羽原とかおりが、互いに親子だと気付かないまま別れるのは、無神経なシナリオだろう。
なぜ気付かないのよ。
それを後でギャグにしようとしているけど、そんなトコでギャグは要らんよ。
終盤に親子ドラマで感動を作ろうとしているのなら、そこは「ニアミスするけど顔は合わさない」という形にしておくべきじゃないのか。

なんでメインの舞台を名古屋にしているのか、その意味がサッパリ分からない。
かおりが住んでいるのが東京で、羽原の住んでいるのは大阪で、だから無駄に場所移動が生じているという印象を受けるんだよな。
普通に大阪を舞台にした話にしちゃえばいいのに。
新幹線を使うことで話を面白くしたりギャグを作ったりするならともかく、そんなの無いんだし。

無駄にややこしいと言えば、内閣調査室がフィルム(総理が米国出張時に赤ちゃんプレイをした写真)を奪還するため行動する」という要素も、邪魔なだけだ。
JBを巡る話だけでは足りないと考えて、フィルム争奪戦も盛り込んだのかもしれないが、いやいやJBの話だけで充分に賄えるって。
あと、その「ブツ」の内容を終盤まで隠したまま進めているが、そんなトコにミステリーは要らんよ。そこは最初に明かしてしまった方が、笑いも作りやすいだろうし。

最初はJB拉致を企んでいた金山が、太郎たちが捕まえたのが物真似タレントのウィリーと知って激怒した後、自ら名古屋へ乗り込んで本物を呼ぼうとする。
そこまでは、まだ思考回路が理解できる。
ところが、そこから「ウィリーは金になるから捕まえて内閣情報調査室に売り付け、その金でJBを呼ぼう」ということでラグーナ蒲郡へ向かうってのは、もうムチャクチャだ。
そもそも、そういうことをやっている間、そこに羽原が全く関わらず完全にカヤの外ってのはイカンだろうに。そりゃJB拉致計画を羽原に知られたらサプライズが台無しになるんだが、もうちょっと絡ませ方があっただろう。

っていうかさ、途中からJB本人じゃなくウィリーを捕まえる方向へ話が進むぐらいなら、金山の妻が言ったようにウィリーを羽原のトコへ連れて行くことでいいじゃん。
いや、もしくは、「金山が太郎から連絡を受けて、JBが来てくれることになったと羽原に報告する。いざ金山が確認すると別人だったが、羽原が喜んでいるのでホントのことが言えなくなり、ウィリーか本物だと思わせるように必死に誤魔化すドタバタ喜劇を繰り広げる」という展開に持って行くとかさ。

もっとドタバタ喜劇としての色を強めて、テンポ良く進めていくべき作品なのに、のたりのたりと歩みを進めてしまうんだよな。こういう荒唐無稽な映画は、ノリと勢いで突っ走らないとマズいだろうに。だからってオフビートってわけでもないし。
あとJBを巡る話とブツを巡る話も上手く噛み合ってないし、JBを巡る話と親子ドラマも上手く噛み合ってない。
やっぱり井筒監督、大きな1つの物語を転がしていくというスタイルの映画作りは不得手なんだろうな。スケッチを重ねる構成の方が得意なんだろうな。

気になるのは、主人公がジェームス・ブラウンの熱狂的ファンで、舎弟たちがJBの拉致を企むという筋書きにしてのに、作品からJBへのこだわりが全く感じられないこと。
羽原は娘と会う方へ気持ちが行ってしまい、JBへの思い入れは全く見えなくなるし。携帯の着メロもJBじゃねえし。
「井筒監督、アンタ、JBに大して興味無いでしょ?」と疑いたくなる。

例えばさ、幼少時のかおりが車内でピンクレディーの『ペッパー警部』に合わせて踊っていた回想があるんだけどさ、そこはJBの曲でいいじゃん。
終盤に歩が創立記念の式典でザ・プラターズの『マイ・ガール』を他の生徒達と共に踊るシーンがあるけど、そこもJBでいいじゃん。
エンディングの曲がJBじゃなくオリジナルってのも理解できん。

終盤には羽原がウィリーの代役でショーに出演して「SEX MACHINE」を歌い踊るという展開があるのだが、なぜ普通の格好のままで舞台へ出て行くのかと。
JBの物真似タレントの代役なら、顔を黒く塗ったりギンギラの衣装に着替えたりしろよ。
あと、途中でしゃがみ込んで、ガウンを掛けられて復活するパフォーマンスをやれよ。

そのショーの後、まだまだ話が続いていくのだが、ほぼ蛇足。前述した歩の創立記念の式典も要らないし。大半の部分は、エピローグとしてダイジェストで処理すりゃいい。

この映画の何よりもダメなところは、本物のジェームス・ブラウンを出演させていないことだ。
最後に本物が登場してくれないと、どうやったって話が締まらないぞ。
羽原の願いはJBの名古屋公演に行くことだったんだから、その願いは叶えるべきだろうに。
別に名古屋じゃなくてもいいから、場所はラグーナ蒲郡でもいいから、本物を出すべきだった。
それが無理なら、企画そのものを変更すべきだったね。

 

*ポンコツ映画愛護協会