『幻魔大戦』:1983、日本

トランシルバニア王国の第一王女であるルナ姫はジェット機に搭乗し、親善使節としてアメリカ合衆国へ向かっていた。彼女が手にしている水晶球を覗くと、そのジェット機が墜落する映像が写し出された。ルナが悲鳴を上げた直後、ジェット機は墜落した。ルナは意識体となり、銀河系からおよそ380光年を隔てた宇宙空間へ飛ばされた。そして、固有の形を持たず、特有の場所に存在しないエネルギー生命体のフロイが、意識のコンタクトでルナと思念を交わして来た。
フロイはルナに、彼女が超越知覚能力を持つサイオニクス戦士であることを教えた。サイオニクス戦士は信頼によって覚醒し、愛によって力を得るのだという。フロイは彼女にビジョンを見せ、事情を説明する。わずか10億年の間に、無数の星雲や島宇宙が消滅した。凶暴なエネルギー生命体、破壊者である幻魔の仕業だ。戦乱は無限の過去から続いており、勇敢なサイボーグ戦士のベガは200年を戦い続けた。しかし恋人のアリエータが幻魔によって命を絶たれた時、失意のベガは敗残の兵になった。それは2000年前の出来事だ。
今や幻魔の手は、銀河系宇宙へと伸び始めた。カプセルの中で生き長らえていたベガは、幻魔の策略で銀河の果てへ放逐された。それは、いずれ幻魔の存在を感知するはずの、地球に住む1人の少女ともども抹殺するためだ。その少女というのがルナだった。フロイはルナに、サイオニクス戦士として幻魔と戦うよう促した。フロイはルナに、地球人の希望、愛と友情、心が全てプラスエネルギーとして集結すれば、幻魔のマイナスエネルギーに勝つことも出来ると述べた。ルナは海中から出現したベガに、目覚めるよう呼び掛けた。
飛行機の墜落事故から2日後、青林学園に通う高校生の東丈は、野球部のレギュラーに選ばれなかった。彼の代わりにレフトのポジションで選ばれたのは、秀才の友人、江田四郎だった。丈は同級生の沢川淳子と交際していたが、学校で無視された。夜、丈は新宿の街で彼女と会うが、「しばらく会わない方がいいと思うのよね」と告げられる。淳子が去った後、1人で街を歩いていた丈は、ベガに襲われた。丈は逃げ出し、派出所の警官に助けを求める。しかし、周囲の人間は全員、石のように動かなかった。
建築中のビルに駆け込んだ丈は屋上へ追い詰められ、ベガが建築資材を落下させた。丈はサイコキネシスを発動させ、落下を止めた。その様子を、物陰からルナが観察していた。彼女は丈をサイオニクス戦士として覚醒させるため、ベガに襲撃させたのだ。丈は全てが夢だと感じつつ、サイコキネシスで建築資材を飛ばしてベガを攻撃した。丈がビルを出ると、人々は普通に動いていた。バリアーで身を守ったベガは、ルナに「危険なのはこれからです。力の覚醒するのか、彼はまるで知らない」と告げた。
電車に乗り込んだ丈は、周囲の物が勝手に動くのを見て、自分に起きていることが夢ではないと悟った。超能力を会得して浮かれた丈は、思い切り浮かれた。翌日、登校した彼は、四郎に超能力を披露して得意げな様子を見せた。すると四郎は「力で人を思い通りに操るのか。そんなエリート主義は認めんぞ。お前との付き合いはこれまでだ」と声を荒らげ、その場を去った。夜、帰宅した丈に、ルナはビジョンを送った。ビジョンの中で幻魔に襲われた丈は、戦いに敗れて精神機能に障害をきたしてしまった。
ルナは丈を現実へ呼び戻すため、彼の心の奥に潜入した。丈はルナを怖がって幼児の姿に変身し、姉の三千子に泣き付いた。ルナは丈に「ずっと逃げてばかりでしょ。何から逃げてるか知ってる?自分自身からなのよ」と告げ、目の前の三千子が自己逃避の生み出した虚像であることを説明した。ルナは丈を現実に呼び戻し、疲労から眠り込んだ。ベガは彼女を抱き上げ、丈に「考えるといい。自分が成すべきことについて」と言う。彼は「力を自在に操れるようになったら戦士だ。その時にまた会おう」と告げ、ルナと共に消えた。
幻魔の配下であるザメディは、反抗的な仲間のザンビに対し、丈を始末するよう命じた。丈は三日三晩眠り続けた後、淳子の家を訪れた。淳子は先日の態度を詫び、両親がいないことを告げて丈を誘惑した。違和感を覚えた丈の前で、淳子の目が怪しく光った。ザンビが淳子に憑依していたのだ。ザンビの攻撃を受けた丈は、淳子の家を超能力で破壊した。帰宅した丈は、三千子に自分が超能力者であることを明かした。三千子は「勇気ってね、誰かを守ろうとするところから湧いて来る力なのよ。貴方を支えるのは結局、愛だけなのよ。姉さん、いつだって丈を守ってあげる」と優しく語った。
ニューヨークは大洪水に見舞われ、廃墟と化した。壁抜けの超能力を会得した黒人少年のソニーは、ギャング団のリーダーとして犯罪を繰り返していた。ギャング団のメンバーは、ソニーより遥かに年上の連中ばかりだ。宝石店で仕事をしていた時、ソニーの脳内にルナの「逃げて」というテレパシーが聞こえた。直後、ギャング団は警官隊に包囲され、ソニーは壁を抜けて逃亡する。しかしルナがテレパシーをためらっている間に、ソニーは警官に捕まった。
警察署長のオライリーは特殊バリアーの牢を用意し、ソニーが逃げられないようにした。オライリーにはザメディが憑依しており、不敵な笑みを浮かべて「エスパー狩りの囮になってもらうのさ」と口にした。ソニーの放つ怒りによってエネルギー磁場が膨張し、ザメディは巨大なエネルギー・ボールとなって街へ出た。ソニーを包み込んだエネルギー・ボールを目にしたルナは、テレパシーで世界中の超能力者に助けを求めた。そのテレパシーを受けたのは、タオ、ヨーギン、アサンシ、サラマンダー、そして丈だった。
丈はニューヨークへ駆け付け、ベガと協力してソニーを救い出す。一度は逃げ出したソニーも、ヨーギンの説得で丈たちの元へ戻った。彼らの協力を得て、ベガがザメディを異次元へ転送させた。だが、そこへ現れたサラマンダーは、ザメディが本体を分離させて地上に残ったことを丈たちに教えた。ベガに頼まれてザメディの思念を読んだサラマンダーは、彼が日本へ行ってザンビと合体し、人質を取って逆襲に出るつもりだと知った。すぐに丈は、三千子が危険だと確信した。
東京は幻魔の仕業によって、砂漠と化していた。緊急避難命令が出る中で、三千子は丈の帰りを待っていた。そこへザメディとザンビが乗り込み、三千子に襲い掛かった。実は超能力者であった三千子はザンビを倒すが、自らも命を落とした。ニューヨークから急いで舞い戻った丈は、姉の亡骸を目にした。怒りに燃えた彼が復讐に向かおうとするので、ルナたちは「身の破滅を招く」と止める。しかし丈は説得を無視し、家を出て行った。
丈は能力を使い切っていたため、倒れ込んで意識を失った。そこへ四郎が駆け付け、丈をカフー超能力研究所へ運び込んだ。丈を介抱した所長のカフーは、四郎に「命に別状は無い」と告げた。2人が病室を去った後、予知能力を持つタオが入って来て丈の様子を観察した。四郎は外から聞こえる妙な物音を感じ、カフーに問い掛ける。するとカフーは怪しく目を光らせ、「地震だ。とてつもないデカいやつだ」と告げた。激しい地震に見舞われる中、丈とタオは崩壊する研究所から脱出した。タオの「あっちに高い山無い?」という言葉で視線を向けた丈の脳内に、富士山のビジョンが浮かんだ。彼はタオと共に、富士山へ向かう…。

監督は りん・たろう、原作は平井和正(角川文庫版)&石森章太郎、脚本は桂千穂&内藤誠&真崎守、製作は角川春樹&石森章太郎(石ノ森章太郎)、プロデューサーは明田川進、制作担当は浅利義美、キャラクターデザインは大友克洋、作画監督は野田卓雄、美術監督は椋尾篁、美術は男鹿和雄&窪田忠雄、撮影監督は八巻磐、設定は真崎守&大友克洋、スペシャルアニメーションは金田伊功、編集は田中修、録音は辻井一郎、音楽監督はキース・エマーソン、音楽は青木望。
主題歌『光の天使』作詞:トニー・アレン、作曲:キース・エマーソン、歌:ローズマリー・バトラー。
声の出演は古谷徹、小山茉美、江守徹、美輪明宏、白石加代子、池田昌子、潘恵子、塩沢兼人、穂積隆信、永井一郎、滝口順平、内海賢二、林泰文、田中秀幸、槐柳二、原田知世、宮内幸平、矢田耕司、寺田誠、恵比寿まさ子、塩屋翼、塩屋浩三、加藤友子、青木典子、佐藤正治ら。


角川書店が初めて製作したアニメーション映画。
平井和正と石森章太郎(石ノ森章太郎)の共作で『週刊少年マガジン』に連載された同名漫画を基にしている。
監督は『銀河鉄道999』『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』のりんたろう。
丈の声を古谷徹、ルナを小山茉美、ベガを江守徹、フロイを美輪明宏、女占星術師を白石加代子、三千子を池田昌子、淳子を潘恵子、四郎を塩沢兼人、カフーを穂積隆信、ザンビを永井一郎、ザメディを滝口順平が担当している。

まず最初に違和感を抱くのが、「なぜキャラクターデザインが大友克洋なのか」ってことだ。
前述したように、石森章太郎が原作漫画を描いているのだ。一応、漫画版だけでなく角川文庫の小説版もベースになっているようだが、それでも石森キャラを使うのが筋ってモンだろう。
石森章太郎は製作にも携わっているので、キャラクターのデザイン変更は納得したのかもしれないけど、それが成功だったかどうかってのは微妙。
とりあえず、丈と三千子のデコッパチな顔は、何とかならんかったのかと。

原作漫画の絵柄を使わず、わざわざ大友克洋をキャラクターデザインと原画に起用している辺りは、この頃の角川書店らしいとは言える。
いわゆる「角川映画」を製作していた1980年代、角川春樹は「かつての大物ハリウッドスター」を起用したり、著名人をスタッフに招聘したりってことを良くやっていたのだ。
この映画が公開されたのは1983年だが、大友は1980年から『童夢』、1982年から『AKIRA』の連載を開始しており、注目を集める漫画家となっていた。
ELPのキース・エマーソンを音楽担当者として招聘しているのも含めて、角川春樹の中には「時代の最先端を行ってますよ」という意識があったんだろう。

ただ、大友克洋のキャラクターデザインにしたことがプラスだったのかどうかは、正直に言って微妙なところだ。
それが訴求力に繋がったとか、大人の観客を呼び込んだとか、そういう効果はあったのかもしれない。ただ、これってSF版の『南総里見八犬伝』みたいな内容なのだが(そう言えば映画『里見八犬伝』も角川書店の製作だった)、かなりジュブナイル的な要素があって、それを大人チックで重厚なSFアクションとして仕上げているために、その陳腐さが際立っているようにも思えるのだ。
で、そう考えると、物語と映像のバランスが悪いんじゃないかと。
「愛こそが力の根源」「自分を支えるのは結局、愛だけ」といった、ちょっと恥ずかしくなるような設定や台詞なども、大友キャラより石森キャラでやった方が腑に落ちるんじゃないかと。

「ジュブナイル的」という批評に対して、反論したくなる人もいるんじゃないかとは思う。
何しろ、ティーンズにとっては難解な言葉が飛び交ったり、おどろおどろしい雰囲気があったりするので。
でも、骨格の部分は、ジュブナイル的じゃないかなあと。
そもそも、連載されていた雑誌が『週刊少年マガジン』なんだし。当時の少年マガジンは今と違い、その名の通り、基本的には少年の読み物だったはずで。

序盤、誰もいない夜の東京に薄気味悪い老女が現れ(配役表記によると「女占星術師」らしい)、前衛舞踊のように体をくねらせて踊る様子が写し出される。
もはやSFと言うより、オカルトのテイストを感じる始まり方だ。
考えてみれば、原作が平井和正、製作が角川春樹だから、オカルト寄りになるのも当然っちゃあ当然かもね。
平井和正は宗教団体のGLAに関わっていた時期があるし、角川春樹は自分がヤマトタケルの生まれ変わりだとか予知能力があるとか真面目に言っちゃうような人だし。

その女占星術師は「消えて行く。星々が次々と消え去って行く。一千億の恒星系の半ば以上が既に消滅した。380万光年の果てから闇が押し寄せてくる。緑の地球もやがて、暗黒の闇に包まれてしまう。一人の少女が成り行きの鍵を握っている。その少女は予知能力を持ったテレパシスト」」などと喋る。
そういうのを全て台詞で説明しちゃうのは、すげえ不格好だなあ。
それに、言葉だけで「滅びた」と言われても、まるで説得力が無いし。
どこかの星が壊滅する様子でも描写した後で、「他にもこういうことがあった」とか「実はこういう裏があった」とか、そういう説明を入れるならともかくとして。

ルナは親善使節として米国へ向かうのだが、乗っているのは通常の民間機で、隣には誰も乗っていない。通路を挟んだ隣には一般人が搭乗しており、近くに警備の人間がいる様子も無い。ルナが悲鳴を上げると、少し離れた場所に乗っていた侍従長や女中が寄って来るだけ。
一国の王女なのに、随分と警備態勢が甘いのね。
で、そんなルナが墜落事故に遭い、フロイがテレパシーで話し掛けるのだが、ビジョンを見せる前に、振り向いたルナは「星が消えてしまう」と驚いている。
いやいや、先にバラすなよ。それは観客に星が消える映像を見せて、それから言うべき台詞でしょうに。
しかも、その後に用意されている映像も、「星が次々に消滅していく」というのが今一つ伝わってこないようなモノだし。もっとインパクトのある映像表現を用意しないと、切迫感が伝わらないよ。

それと、そこでフロイによる長々とした事情説明が入ることで、退屈になってしまうんだよなあ。
幻魔が銀河系に手を伸ばして来たことを説明するの手順って、後回しにしても良かったんじゃないかなあ。
具体的には、まずルナのジェット機が墜落する事故があって、すぐに丈のターンに移る。そして、丈がベガに襲われ、観察しているルナを登場させる。その後、ルナが丈とコンタクトを取ったところで、事情を説明する手順を入れるのだ。
ついでに言うと、そこからは「最初は全く信じなかった丈だが、幻魔の手下に襲われ、現実を受け入れるようになる」という流れにでもすればいいんじゃないかと。

ともかく、ルナはフロイから「幻魔が無数の星雲や島宇宙を消滅させている」とか「サイボーグ戦士のベガが幻魔と戦っていた」とか、トンデモ要素の強い説明を受けるのだが、それを簡単に受け入れる。
普通に生活している人間なら、とても信じられないような内容だが、水晶球を持っているぐらいだし、そっち系の話を信じやすいタイプだったんだろう。
そして、すんなりと受け入れただけでなく、すぐに「サイオニクス戦士として幻魔と戦う」という自覚が芽生えている。
ものすごく順応性が高いんだね。

フロイの説明では、ベガが銀河の果てへ放逐されたのは「いずれ幻魔の存在を感知するはずの、地球に住む1人の少女ともども抹殺するため」らしいんだけど、ごめん、ちょっと意味が分かんない。
ベガを抹殺したいのなら、さっさと抹殺すればいいでしょ。
わざわざ放逐する必要性が全く分からない。ルナと一緒じゃないと抹殺できないってわけでもないでしょ。
ルナはルナ、ベガはベガで、それぞれ抹殺すれば済むことじゃないかと思うんだけど。

丈のエピソードに移り、彼は夜の新宿で淳子と会う。「なあ、聞いてんだろ」と丈が口にすると、淳子は「それなんだよなあ。一言一言、突っ掛かられてるみたいでしょ。辛いのよねえ、そういうの。前はそんなんじゃなかったのになあ」と言うが、ちょっと意味不明。
丈の言葉に、突っ掛かっているような印象は全く無いんだけど。
それと「前はそんなんじゃなかった」と言うけど、前とどう変わったのかは、ビフォーが無いから全く分からん。
丈が変わるきっかけとなった出来事があるわけでもないし。

淳子は「しばらく会わない方がいいと思うのよね」と告げて立ち去る際、「丈のことは好きだわよ。でも敵わない、丈のお姉さんには」と告げる。
どうやら、丈の距離を置こうと考えた原因は、三千子に対するコンプレックスだったらしい。でも、それなら最初からそう言えよ。「前はそんなんじゃなかったのに」とか、そういうことじゃないんでしょうに。
それと、三千子が原因ってのもピンと来ないよ。
それが理由なら、丈が姉にベッタリだとか、シスコンだとか、そういうことを示しておくべきでしょ。でも実際には、そこまでに三千子はチラッと顔を見せた程度だし、丈が彼女に頼りまくっていることも表現されていない。

それと、丈は淳子から距離を置こうと言われたのに、それにたいする反応が薄い。淳子が立ち去る時も、ただ背中を向けて立っているだけ。
空き缶を蹴るところで、ようやく苛立ちが見えるけど、もっと感情を表現すべきだよ。
感情表現と言えば、ちょっと遡るけど、ベガが戦いに向かう時のアリエータや、アリエータをを失った時のベガも、まるで無表情なんだよね。
まあサイボーグだから表情が無いのは仕方が無いのかもしれないけど、そのせいで「恋人を失った悲しみ」ってのは全く伝わって来ないぞ。

丈はベガに襲われてサイコキネシスを発動させたとき、家にある超能力の本を思い出し、「知ってるぞ、何が起きたか」と口にする。
それは「自分が超能力者になったことを理解している」という意味ではなく、「全ては夢だと分かっている」という意味だ。
でも、全て夢だと思い込んでいるにせよ、超能力を使いこなして建築資材をベガに発射できるってのは、やっぱりルナと同様に順応性が高いよな。

丈がビルを去った後、なぜかルナとベガは、すぐに追い掛けて事情を説明しようとしない。しばらく泳がせてからビジョンを送り、そこで幻魔との戦いに敗れた丈が廃人状態になったので、ルナは心の奥に入り込む。
もっと上手い方法は無かったのか。
送ったビジョンで丈が廃人になり、現実に呼び戻すために心へ入るってことは、自分で無駄な手間を増やしちゃってるじゃねえか。
あと、ルナは丈の心に入り、幼児化して姉に泣き付いた彼に「ずっと逃げてばかりでしょ。何から逃げてるか知ってる?自分自身からなのよ」と話すが、丈が自分から逃げてばかりいたことも、三千子に頼ってばかりいたことも、そこまでに全く描かれていないので、唐突で合点が行かない。

あと、超能力者だと気付いた丈が浮かれている時間が短すぎるぞ。その夜に浮かれて、翌日になって江田から絶交宣言されると、途端に沈んでいる。
感情の起伏が激しすぎるだろ。だったら、なんで淳子に振られた時も、もっと反応しなかったんだよ。
こいつの感情表現は他にも引っ掛かる箇所があって、ザンビと戦って帰宅した時は思い詰めた表情をしているが、三千子が来ると明るい様子で自分が超能力者であることを明かし、一緒に遊園地へ行って戯れる。その後、「人を殺しちまったらしい」と深刻な表情で言うが、やっぱり感情の起伏が激しい奴だ。
っていうか、三千子から「殺したのは淳子じゃなくて幻魔だったのでは」と言われて納得してるけど、家を破壊したことは事実だろうに。それは放置しておいていいのか。それに、本物の淳子を見つけて、自分が殺していないことを確認しようという行動も取っていないし。

全体の時間調整が全く出来ておらず、とてもバランスの悪い構成になっている。
ルナがフロイから事情説明を受け、丈が超能力に覚醒して事情を知るエピソードで前半を使い切ってしまうため、そこからの展開が非常に慌ただしいものとなってしまう。他の仲間のキャラ紹介をしている時間が足りなくなっているのだ。
だから、ソニーをチョロッと描写する程度で、後の連中はルナのテレパシーを受け取った時に一斉に登場し、次から次へと集まって来るだけ。もはや完全に数合わせだけの存在だ。
それぞれの個性とか、特技とか、そんなのを描写することは全く出来ていない。

ニューヨークの崩壊は、ものすごく淡白な描写に留まっている。
時間経過が分からないので、たった1日でゴーストタウン化しているようにしか思えないが、だとしたら不自然極まりない。
しかも、廃墟ばかりで無人の状態に見えたのに、ソニーたちの元へ警官隊が駆け付ける。そいつらは、どこにいたのかと。
東京の崩壊もニューヨークと同様、やはり淡白で、まるで危機感や緊張感が足りていない。
あと、攻撃を受けるのは東京とニューヨークだけなので、スケール感も乏しいし。

ニューヨークでソニーを助けた丈は、急いで東京に戻るが、既に三千子は殺されている。
だけど、ベガなんかは異次元へ敵を転送させるほどの能力があるるんだし、丈を東京へ転送してやれなかったのか。
それに、転送させなくても、丈は間に合いそうな気がするんだよね。
ニューヨークでのエピソードがあった後、東京が攻撃を受ける。そして緊急避難命令が出され、三千子は襲われる。そこまでの時間経過を、丈がテレパシーを受けてニューヨークへ駆け付けるまでの時間と比較すると、間に合いそうに思えるのよ。

復讐に向かおうとして倒れた丈は江田に発見され、カフー超能力研究所へ運ばれる。
その超能力研究所に関する説明も、江田がどうやってカフーと知り合ったのかも全く説明が無いが、それは置いておくとして、なぜカフーは弱っている丈をその場で始末しなかったのか。
で、崩壊する研究所から脱出した丈とタオは「あっちに高い山無い?」「ある。それも予知したことなのか?」「そう」という会話を交わしているが、それは予知じゃねえだろ。
超能力には違いないが、予知能力じゃなくて千里眼だと思うぞ。

富士山へ向かった丈は火口に入ろうとするが噴火によって弾き飛ばされ、また力を失う。
弱気になっていた彼は自分を眺める森の動物たちに気付き、「行こう」と歩き始める。そして「間違っていた。俺は1人なんかじゃないんだ。みんな、この地球が長い時を掛けて育んだ命なんだ。幻魔の破壊から地球を守るのは、怒りや憎しみからではなく、仲間たちへの思いから湧いて来るんだ」とモノローグを語る。
でも、「大切なの仲間への思い」ってことを、動物たちから学んでいるんだよ。
他のサイオニクス戦士たちから学べよ。

丈やルナたちは、下っ端2人と地球壊滅作戦の総司令官、合計3人を倒しただけだ。
しかも、下っ端2人だけで東京とニューヨークを簡単に壊滅させられる力を持っている相手だ。そんな敵に対して、こっちはベガが身を犠牲にして、ようやくカフーを倒せただけだ。
なのに、最終的に「地球を救うことが出来た」みたいな雰囲気になっているのは違うだろ。
残留思念になったベガが「おめでとう。幻魔一族は亡びた」と言っているけど、滅びてないだろ。むしろ絶望的な状況だろ。

(観賞日:2013年11月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会