『GAMBA ガンバと仲間たち』:2015、日本

ドブネズミのガンバと親友のマンプクは、ある街で楽しく暮らしていた。しかし猫が増えて来たため、ガンバは引っ越しを考え始めた。瓶に描かれているイラストに目を奪われた彼は、それが海だとマンプクに教わる。マンプクも海へ行ったことは無かったが、「世界で一番、広くて大きい物らしいぜ」と言う。ガンバは目を輝かせ、「行ってみようぜ」と口にした。マンプクは「めんどくさい」とまるで興味を示さなかったが、ガンバが走り出したため、仕方なく同行した。
ガンバは川を辿れば海へ着くと考えていたが、港で行き止まりになってしまった。腹ペコのマンプクは食べ物の匂いを嗅ぎ付け、倉庫に足を踏み入れた。そこには大勢のネズミがいて、豪華な食事が並んでいた。ガンバとマンプクは大喜びし、食事にありついた。2匹は何も知らなかったが、そこはヨイショがボスを務める船乗りネズミの溜まり場だった。マンプクはヨイショの魚を食べてしまい、子分たちに捕まってしまった。
ガンバとマンプクが子分に連行されて来ると、ヨイショは「どこの船のモンだ?」と凄んだ。すると近くにいた船乗りネズミのガクシャが、「私の見たところ、町ネスセミのようだ」と言う。ヨイショは笑って「町のお坊ちゃんとは知らなかった」と言い、ガンバとマンプクに手出ししないよう子分たちに命じた。バカにされたと感じたガンバは憤慨し、「ちょっと待てよ、でくのぼう」とヨイショに言い放った。ガンバが「俺と勝負しろ」と要求すると、ヨイショは余裕の態度を取った。
子分たちはヨイショが楽勝すると確信するが、サイコロを持つイカサマだけは「賭けてみるか。俺は町ネズミに乗るぜ。このサイコロが言ってんだ」と口にした。ガンバはヨイショに投げ飛ばされても負けを認めず、足にしがみついた。ヨイショは引き離そうとするが、足を滑らせて転倒した。彼はガンバを認め、「町ネズミにしちゃあ、いい根性してるぜ」と告げた。そこへ船乗りネズミのボーボが熱を出している小さな島ネズミを抱いて現れ、「大変だよ」と告げた。
島ネズミは「船乗りネズミはどこ」と呟き、意識を失った。忠太という名の島ネズミは、父から忠一に別れを告げた時のことを夢に見た。介抱された彼は目を覚まし、「夢見が島から来ました。勇敢と名高い船乗りネズミの皆さんなら、きっと力になってくれると思って」と話す。ヨイショは胸を張って「船乗りネズミは男の中の男だ。困ってる奴は放っておけねえ」と言い、子分達も同調した。忠太はヨイショに、のどかで平和だった島がすっかり変わってしまい、このままではイタチに殺されるのだと説明した。
ガクシャは「イタチに島のネズミを全滅させるほどの力は無いはず」と疑問を抱くが、ハッとなって「白いイタチではなかろうな」と質問した。忠太が「ノロイ一族です」と告げると、子分たちは途端に「そいつと戦うなんて無理だ」と弱気な態度を取った。ヨイショも怯えた様子を見せ、抗議するガンバに「俺たちだって、助けてやりてえ。だが、ノロイだけは」と告げる。かつて彼はノロイに襲われて傷を負い、命からがら逃げて来たことがあったのだ。
忠太は泣きながら「無理なことを言って済みませんでした」と言い、倉庫を去ろうとした。するとガンバは彼に近付き、笑顔で「一緒に行こうぜ」と話し掛けた。ガンバは忠太を背負って倉庫を出ると、出航を待つタンカーに乗り込んだ。翌朝、熱の下がった忠太は、ガンバに「島に着いても船から降りず、ここにいて下さい。貴方1人では、どうにもならないと思います」と告げる。そこへボーボが現れ、「僕も忠太くんを助けるよ」と口にした。さらにヨイショ、ガクシャ、イカサマも加わり、忠太は元気になった。
船が出港すると、ガンバは初めて見る海に興奮した。そこへマンプクが姿を見せたので、ガンバは喜んだ。忠太はガンバたちに、島ネズミの状況を説明する。かつて忠太たちは、島の南側に広がる豊かな牧草地で暮らしていた。しかしノロイ一族が襲って来たので、彼らは北側へ向かった。食べ物は少なく、岩だらけの険しい場所なので、そこまではイタチも追って来ないだろうと考えていた。しかしノロイ一族は北側にも現れ、島ネズミの大半は殺された。わずかに生き残った者たちは、北の山の洞穴に隠れ住んでいた。
ガンバたちは島に到着し、馬車を盗んで北の山を目指す。しかし下り坂でスピードが出過ぎてしまい、カーブで砂浜へ投げ出された。一行は走って移動し、山に辿り着いた。日暮れが近いため、ガンバたちは食糧を見つけて安全な場所に身を隠そうと考えた。しかしガンバとヨイショとイカサマが穴に転落し、暗闇の中で姿の見えない集団に包囲される。そこへマンプクが落下して光が差し込むと、包囲したのがオオミズナギドリの集団だと分かった。
オオミズナギドリのリーダーであるツブリはガンバたちの正体を知り、海に潜って魚を獲ってくれた。ツブリたちはイタチが来たと誤解し、襲い掛かろうとしていたのだ。ガンバたちがノロイと戦うつもりだと知ったツブリは、自分の仲間も大勢が殺されたことを明かした。ガンバが「だったら俺たちと一緒に行こうと」と誘うと、ツブリは「いや、これ以上は仲間を犠牲に出来ないよ。アンタたちも行っちゃダメだ。アンタたちじゃノロイに勝てない」と述べた。
ガンバたちは夜中にツブリの元を去り、山を登った。一行は隠れ家の洞穴に到着するが、そこには1匹のネズミもいなかった。イタチの足跡が残されていたため、忠太は仲間が皆殺しにされたと思って泣き出した。マンプクが「俺たちも逃げた方が良くない?」と提案すると、ガクシャは賛同する。しかしガンバは「そう簡単に全滅したと決め付けるなよ。もう少し、ここで待ってようぜ」と反対し、ヨイショが「分かったよ。そうしようか」と彼の意見を採用した。
ガクシャは洞穴にあった花に着目し、何かのメッセージではないか推測する。忠太は一行を連れて、花が咲いている場所へ赴いた。すると忠太の姉である潮路が隠れており、みんなが無事であることを教えた。何日か前から洞穴の近辺にもイタチが現れるようになったため、仲間たちは浜辺の隠れ家へ移動したのだと彼女は語った。他の場所で隠れていたネズミも合流し、海の砦に80匹ほどが暮らしていると潮路は言う。潮路はガンバたちわ浜辺へ案内し、仲間と会わせることにした。
砦へ向かおうとした忠太は、怪我を負って岩場を歩いている仲間の与一に気付いた。ガンバが助けに行こうとすると、イタチがいることに気付いたヨイショが制止した。イタチが与一に飛び掛かろうとすると、ガンバは助けに入った。ヨイショとイカサマも加勢するが、3匹とも弾き飛ばされてしまう。しかし3匹は協力してイタチと戦い、海へ突き落した。砦にいる集団のリーダーを務める忠一が礼を言うと、ヨイショは「俺たちは忠太の熱意に動かされて、ここまで来たんだ。みんなが礼を言う相手は忠太だぜ」と告げた。
3匹の子分を引き連れた七郎というネズミはガンバたちに敵意を示し、「イタチを倒してタダで済むと思ってんのか。余計なことをしてくれたもんだよ」と言い放つ。忠一が「失礼だぞ」と注意すると、彼は「いつまでリーダー気取りなんだ。アンタが助かるかもしれないと言ったから、ここまで来たんだ。ここは俺たちの墓場だ。ここへ来たのは間違いだったんだ」と鋭く非難した。忠一はガンバたちに、海を挟んだ隣の島を見せた。「先祖は、あの島のネズミと交流があった」と彼は言うが、今の潮目だと泳いで渡るのは困難だった。
忠一はガンバたちに、「あの島へ渡れば食べ物はあるし、イタチも追って来ないかもしれない。仲間を説得し、ここまで来ましたが、私の判断は間違っていました」と話す。島のネズミたちは偵察のイタチ2匹を目撃し、絶望感に見舞われる。「みんなで力を合わせてノロイと戦おうぜ」とガンバが呼び掛けると、七郎が「ノロイに勝てるわけないだろ」と吐き捨てる。するとガクシャは「いや、策はある。四方を海に囲まれ、ここまでは急勾配で足場も悪い。入り口を塞ぎ、地の利を生かせば我々にも勝算がある」と述べた。
ヨイショは忠一に、「このまま諦めちまうのかい?」と問い掛ける。忠一が「戦う覚悟はあるか?」と仲間に言うと、戦う意思を示す者が次々に声を上げた。そこで忠一は、ヨイショに「私たちに力をお貸し下さい」と頼んだ。七郎のグループは「今さら何やっても無駄だ」と乗らなかったが、他の面々はガクシャの指示に従ってノロイ一族を迎え撃つ準備を進めた。ボーボは初めて役に立つ仕事が出来ることに、充実感を見せた。潮路はガンバとマンプクに、溜めておいた水を差し出した。
夜になると、砦の向こう側にノロイ一族が現れた。しかしノロイは砦のネズミたちに対し、「争いは終わりにしましょう」と話し掛ける。ヨイショは「奴の言うことを聞くんじゃねえぞ」と口にするが、ノロイは子分に食べ物を用意させて宴の踊りを始めさせる。ノロイの目を見たネズミたちは術に掛かり、ガクシャを胴上げしたり向こう側へ歩き始めたりする。術に掛からなかったガンバやヨイショが目を覚ますよう呼び掛けても、まるで効果は無かった。
正気を保っている忠一は潮路に「何としても、みんなを守る。最後まで諦めるな」と言い残し、ノロイの元へ向かうことにした。ガンバが気付いて止めようとするが、潮路が説き伏せた。忠一は泳いでノロイの元へ行き、「お前の好きにはさせん」と言い放つ。彼はイタチに飛び掛かるが、まるで歯が立たずに踏み付けられてしまう。しかしイタチの踊りが止まったことで、ノロイの術は解けた。忠一は仲間たちに、「みんな、良く見るんだ。これがノロイの本性だ」と告げた。
ノロイは手下に指示し、忠一を殺害させた。潮路は涙を堪え、気丈な態度で仲間たちに「みんな、持ち場に戻るのよ」と指示する。七郎も戦う気持ちを見せ、ヨイショに指示されて槍部隊を率いることになった。それぞれの持ち場に就いたネズミたちの元へ、ノロイ一族が襲い掛かった。ボーボは忠太を助けようとして激しく壁に叩き付けられ、深手を負った。ネズミたちは必死に戦うが、力の差は歴然としていた。ヨイショやガクシャも退却を余儀なくされ、ネズミたちは洞穴で包囲されてしまう。
ノロイは朝日が昇るのを見ると高笑いを浮かべ、一族を率いて立ち去った。ガクシャは「時間を掛けて、たっぷりと楽しむつもりなのだ」と言い、ヨイショは「夜に成ったら戻ってくる。今度こそ皆殺しだ」と口にする。ヨイショは島ネズミたちに「良く頑張った。夜に備えて休んでくれ」と声を掛けるが、次が最後の戦いになるだろうと覚悟していた。しかし島ネズミたちに伝わる歌を聞いたガクシャは、1年に1度だけ隣の島へ渡る方法があることに気付く…。

監督は河村友宏&小森啓裕、企画/総監督は小川洋一、原作は斎藤惇夫 作/薮内正幸 画 『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』(岩波書店刊)、脚本は古沢良太、製作総指揮は島村達雄、エグゼクティブ・プロデューサーはアヴィ・アラッド&Bruno Wu、コ・エグゼクティブ・プロデューサーはFred Miilatein、プロデューサーは藤村哲也&紀伊宗之&&早船健一郎&公野勉、原画/キャラクターデザインは花房真&高橋麻実&小川加奈子&三原慧子、キャラクター造形は元内義則&佐々木利佳、CGスーパーバイザーは小森啓裕、CGテクニカル・スーパーバイザーは初鹿雄太、CGキャラクター・スーパーバイザーは大橋真矢、編集は宮島竜治&菊池智美、音響監督は清水勝則、音楽はベンジャミン・ウォルフィッシュ。
エンディングテーマ『ぼくらが旅にでる理由』歌:倍賞千恵子、作詞/作曲:小沢健二、編曲:高木正勝&足本憲治。
声の出演は梶裕貴、神田沙也加、高木渉、野村萬斎、野沢雅子、大塚明夫、矢島晶子、高戸靖広、藤原啓治、池田秀一、野島昭生、疋田高志、徳本恭敏、日野まり、日下ちひろ、山口清裕、沙上唄菜、金子大悟、越後屋コースケ、熱田友貴、森瀬惇平、新井良平、がっちゃん(ザ★がっちゃんねる)他。


斎藤惇夫の児童書『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』を基にした3DCGアニメーション映画。
アニメーションやVFXを手掛ける株式会社白組が製作し、代表取締役副社長の小川洋一が総監督を務めている。
脚本は『少年H』『寄生獣』の古沢良太で、アニメーション作品を手掛けるのは本作品が初めて。
ガンバの声を梶裕貴、潮路を神田沙也加、マンプクを高木渉、ノロイを野村萬斎、ツブリを野沢雅子、ヨイショを大塚明夫、忠太を矢島晶子、ボーボを高戸靖広、イカサマを藤原啓治、ガクシャを池田秀一が担当している。

『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』の映像化と言えば、1975年に日本テレビ系で放送された東京ムービー製作のTVアニメ『ガンバの冒険』がある(2本の劇場版も公開された)。
この映画が『ガンバの冒険』を意識していることは明白だ。
原作では15匹だったガンバの仲間を『ガンバの冒険』では6匹に減らしていたのだが、この映画でも選んだキャラクターが1つ異なるだけで(シジンを削ってマンプクを入れている)、数は一緒だ。
TVアニメでガンバの声優だった野沢雅子、ノロイの声優だった大塚周夫の息子である大塚明夫を起用している辺りも、『ガンバの冒険』を意識していることは確実だ。

白組が構想15年、製作期間10年、制作費20億円を掛けて製作した渾身の一作だが、興行的には見事に惨敗した。
それも当然で、そもそも企画として無理があり過ぎる。
このコンテンツに興味を示す観客層として一番に考えられるのは、かつて『ガンバの冒険』を見ていた人々だろう。だが、そういう人たちの年齢を考えると、「自分が見たい」という気持ちで映画館へ足を運ぶ人は、そう多くないはずだ。
「自分の子供に見せよう」ってことはあるだろうが、計算してみると、『ガンバの冒険』を見ていた人の子供って、この映画が想定しているであろう園児や小学校低学年のケースはそんなに多くないと思うのよね。

『ガンバの冒険』を知らない年齢層に対する訴求力はどうなのかと考えた時に、ほとんど期待できないってのが現実だろう。
まず、原作の児童書からして、それほど有名とは言えない。なので、「自分の子供に見せたい」と思う大人たちも、「連れてってほしい」と保護者にねだる子供たちも、そんなに多くないだろう。
しかも白組が単独で製作した弊害なのか、宣伝費用も少なかった。こんな映画が公開されていたことさえ知らない人も、かなり多いはず。
人気タレントや有名俳優を起用しているわけではないので(神田沙也加や野村萬斎の訴求力に多くは期待できないだろう)、そういうファンに期待することも無理だ。

っていうか、どういう観客層に向けて作られた映画なのか、サッパリ分からないんだよね。
『ガンバの冒険』を知っている人をターゲットに想定するなら、登場するキャラクターを少し変えるだけでなく、キャラクターデザインは全くの別物にするってのは、どう考えても賢明な判断とは言えないし。
だけど「TVアニメ版のファンは無視して、新しい観客を取り込みたい」ってことであれば、中途半端にTV版の内容を引き継いでいるのは違うんじゃないかと思うし。

白組の代表取締役社長である島村達雄は、アメリカのピクサーが3DCGの長編アニメーション映画を次々に製作していることで危機感を覚え、「日本で最初のフル3DCG長編アニメーションを作らないといけない」と思っていたそうだ。
そんな中で小川洋一から原作を推薦されて、映画化しようと決めたらしい。
だけど、2004年の『APPLESEED アップルシード』に「日本初のフル3DCG長編アニメ映画」の看板を持って行かれたので、そこをセールスポイントにすることも出来なくなった。
公開された当時は「『STAND BY ME ドラえもん』の白組が製作した」ってのを売りにしていたが、そこに何の力も無いことは、コケたことが証明している。

『ガンバの冒険』のリメイクではないから当然っちゃあ当然だが、あのアニメのキャラクターを3D化したわけではなくて、全く異なるデザインになっている。
ただ、かなり人間に寄せたデザインにしているようだが、ちょっと気味の悪さが出てしまっている。
また、見た目でハッキリと分かる個性を付けようとしたんだろうとは思うが、ガンバと仲間たちのデザインが違い過ぎて、違和感を覚える。
スラッとした外見にしてあるのも、あまり魅力的には思えない。

「それを言っちゃあ、おしめえよ」ということではあるんだけど、どれだけ頑張ったところで、ピクサーの手掛ける3DCGに質の部分で対抗しようとしても、絶対に無理でしょ。あちらの会社とは、予算も人員も製作体制も比較にならないんだから。
映像面で歯が立たない以上、シナリオや演出の部分でリカバリーする必要があると思うんだけど、そっちが3DCGよりも落ちるという始末。
あと、そもそもタイトルは何とかならんかったのか。
『ALWAYS 三丁目の夕日』『STAND BY ME ドラえもん』みたいなイメージだったのかもしれないけど、『GAMBA ガンバと仲間たち』って、「ガンバ」を2回言ってるじゃねえか。冒頭の『GAMBA』は要らないだろ。

上映時間を92分に収めた都合で仕方が無かったのかしれないが、のっけから話がバタバタしまくっている。
ガンバとマンプクが登場すると、初期設定の説明やキャラ紹介をする暇も無いまま、すぐに町を出てしまう。あっという間に港へ到着し、ヨイショたちと知り合う展開に入る。ガンバがヨイショたちと仲良くなる手順をササッと軽く片付けて、すぐに忠太が来る展開へ移行する。
何しろ、ガンバと仲間たちがノロイ一族を倒しに行くと決まってからが本編みたいなモンで、そこまでは序章なのだ。
だから、そこで長く時間を使い、丁寧に物語を描いている余裕なんて全く無いのだ。

でも、それは「尺の都合」「製作サイドの事情」としては理解できるけど、「だから、そういう理由で生じた問題は全てOKにする」ってことではないぞ。
どんな事情があるにせよ、ちゃんとした質の高い映画を見たいと思うのは、観客からすりゃあ当然の要求であって。
TVシリーズに比べると長い時間を使えないことは分かり切っているんだから、もっと大胆な改変が必要だったんじゃないか。
例えば、最初から島へ向かう一行は全員が仲間という設定にしておくとかね。そうすれば問題は随分と軽減されたはずだ。
「初めて出会った面々が仲間になる」という手順をダイジェストの如き短さで処理していることは、大きなマイナスになっているのでね。

ガンバが忠太の依頼を引き受けると決めた後、ヨイショたちは同行することを決める。
彼らは「ガンバの男気に心を打たれたから」ってことで、決意を固めたはずだ。だけど、そんなにガンバと親しくなっていないし、彼の中身なんて全く知らないはずなので、「ガンバに付いて行こう」と感じさせる牽引力が弱い。
その後の展開も、相変わらず慌ただしい。
島に入ったら、「イタチに見つからずに北の山まで辿り着くため、慎重な行動が必要」という状況に突入したはずなのに、あっという間に到着してしまう。馬車から砂浜に落ちても、それで何かトラブルが起きるわけではなく、5分ほどで山に着いてしまう。

ちょっと遡るが、ガンバがヨイショに勝負を挑むシーンでは、「ヨイショがガンバを引き離そうとして、足を滑らせて転倒する」という展開が用意されている。
でも、それで「ヨイショの負け」になっちゃうのは、ワケが分からんぞ。「背中が地面に付いたら負け」とか、そんなルールがあったわけでもないし。
しかも、ヨイショもショックを受けた様子を見せて負けを認めているが、なんでだよ。自分で足を滑らせたことぐらい、分かってるはずでしょ。
そこはラッキーパンチでもいいから、ヨイショ側のアクシデントで勝手に転ぶんじゃなくて、ガンバの攻撃が当たる形にすべきじゃないかと。

砦に現れたノロイは襲い掛かろうとせず、和平交渉を持ち掛ける。彼は食べ物を用意してネズミたちの気を引くと、子分に踊りを指示する。その踊りが続く中、ノロイの目を見たネズミたちが催眠術に掛かって動き始める。
だけど術で操るのなら、和平を持ち掛けた意味なんて全く無いよね。食べ物で気を引いた意味も全く無いよね。
っていうか、それだと残忍さより狡猾さの方が先に出てしまうし、それは違うんじゃないかと。
そりゃあ知恵は回る奴かもしれないけど、まずアピールされるべきは凶暴さや残忍さじゃないのかと。

つまりだ、まずはノロイが子分たちに砦を襲撃させる、もしくは自ら砦を攻撃しようとする手順を作っておく。でも難しい地形なので攻略できず、退却に追い込まれる。
そこで次に現れた時は、和平を装う狡猾な作戦や催眠術を使った策略を用意するという展開にでもした方が良かったんじゃないかなと。
まあ、そこも「時間が足りない」という問題が関わって来るんだけどね。
この映画でも砦の襲撃で終わらせず、「ノロイは時間を掛けて楽しもうとする」という理由を付けて朝になると退却させ、「夜になって隣の島へ渡ろうとするネズミをイタチが襲う」という展開に繋げているけど、かなりの不自然さを感じるんだよね。

ガンバが主人公のはずだが、他のキャラクターも厚くしようとした弊害なのか、存在感には物足りなさがある。
もちろん脇のキャラクターを勃たせようとするのは歓迎すべきことだけど、そのせいで主人公の影が薄くなったら本末転倒なわけで。
映画を見る限り、ガンバよりもヨイショの方が主人公として適任じゃないかと思うんだよね。それどころかガンバなんて登場させず、ヨイショと忠太の絆やガクシャとの友情を軸にして物語を進めた方が、スッキリするんじゃないかと。
何より、ガンバよりヨイショの方が、遥かに魅力的なんだよね。
ノロイとの因縁がある分、戦いの構図においてもドラマが作りやすいし。

キャラクターの配置としても、ヨイショはグループを率いるリーダーで、ガクシャは作戦を考える参謀だ。
そんな風に考えていった時、ガンバのポジションって微妙なのよね。
「初めてノロイと戦い、相手の強さを知ったことで恐怖や無力感に打ちひしがれる」という描写があるけど、そういう役回りは忠太に任せちゃってもいいわけで。
もちろん製作サイドもバカじゃないので、「島ネズミを隣の島へ渡らせる時間を稼ぐため、囮としてノロイ一族の元へ行く」という仕事をガンバに与えている。ただ、ガンバが囮だってことに、ノロイは簡単に気付いてしまうんだよね。

しかもガンバは囮として逃げ回っているけど、それと並行して船乗りネズミや七郎たちも「ノロイを食い止めるため、海の真ん中に残って体を張る」という仕事を担当しているのよね。
ノロイがガンバの囮作戦に気付いてしまうと、そっちの方が遥かに重要な仕事になるわけで。
ヨイショたちが窮地に追い込まれると、ガンバがツブリの一族を引き連れて助けに来るけど、それによって「やっぱりガンバが主人公」と感じることは無いのよね。
結果として一気に形勢は逆転するけど、ガンバよりオオミズナギドリの貢献が遥かに大きいのでね。

(観賞日:2017年4月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会