『ガンマー第3号/宇宙大作戦』:1968、日本

宇宙ステーション「ガンマー第3号」よりケープ・ケネディーに、定期気象報告が行われる。国連宇宙センター(UNSC)では異常電波障害が発生し、映像を拡大してスクリーンに写す。すると、そこに写っていたのは遊星フローラだった。進路を調べると、地球と衝突することが判明する。司令官であるジョナサン・トンプソン所長に呼び出されたジャック・ランキン中佐は、フローラが地球へ向かって来るのが2時間前に分かったことを聞かされる。フローラは二等遊星で、600万トンの岩石の塊だ。
このままだとフローラは明日の朝7時、つまり10時間足らずで地球に衝突する。コンピュータ分析の結果、回避する方法は爆破する以外に無いと出た。トンプソンは300万トンの爆薬を3個仕掛ける役目をランキンに委ね、作戦指令書を渡す。彼は「ガンマー3号へ行け。そこが作戦基地になる。資材と人員は揃えてある。危険なのは爆破からの脱出だ。任務終了までは指揮権を君たちに預ける」と語った。
現在、ガンマー3号はエリオット中佐が指揮官を務めている。かつてランキンは彼と盟友だったが、あることがきっかけで袂を分かっていた。ランキンはロケットに乗り込み、宇宙へ飛び出した。ガンマー3号に到着した彼は、エリオットと久々に再会した。ランキンがエリオットと握手を交わすと、宇宙コンサルタントのハルパーソンが挨拶する。彼が助手のマイケルと共に同行することを告げると、ランキンは「君たちのことは命令書に入っていない」と言う。するとエリオットは、命令変更があったことを知らせた。
エリオットは「良ければ私も行きたいが」と言い出し、ガンマー3号の指揮はマーチン大尉に任せることにした。一行はロケットで発進し、フローラに到着した。ランキンはフローラの周囲を移動し、爆薬設置地点を確認する。そして彼は、1号爆薬は自分とスコット軍曹、2号はエリオット、3号がモリス中尉が設置することを説明する。1時55分、ロケットはフローラに着陸した。ランキンは2時45分までに戻るよう指示し、各班に分かれて作業に向かった。
ハルパーソンは緑色のスライムを発見し、それを採取した。ランキンたちは爆薬を設置し、ロケットへ戻った。そこへセンターから連絡が入り、ランキンはトンプソンから「フローラのスピードが増してきた。爆破時刻を3時に繰り上げてくれ」と指示される。既に2時45分となっていたため、ランキンは「とても脱出できません」と反対するが、「それを承知で頼んでる」と言われ、従うしか無かった。
ハルパーソンが戻って来ないので、ランキンは出発しようとする。エリオットが「置いてはいけない。もう少し待ってくれ」と頼むと、ランキンは「君は前にもこれで失敗してるんだ」と口にする。そこへハルパーソンが戻り、スライムを採取した瓶を見せる。「動いてます。生きてます」と興奮した様子を見せるハルパーソンだが、ランキンは冷徹に「捨てろ」と命じた。ハルパーソンが抗議すると、ランキンは採取瓶を投げ捨てた。瓶が割れた際、スライムの一片がハルパーソンの宇宙服に付着するが、誰も気付かなかった。
ロケットがフローラを飛び立つと、ランキンはもっとスピードを上げるよう操縦士に告げる。「もう10Gだ。これ以上の加速は危険だ」とエリオットは反対するが、ランキンは「いいからスピードを上げろ」と声を荒らげ、立ち上がって自らレバーを操作する。宇宙服の一部が裂けてしまったランキンは、防護シールドを張るよう命じた。装置が作動してフローラは大爆発を起こすが、ロケットはシールドによって防御されていた。作戦は成功したのだ。
一行がガンマー3号に戻ると、ルイズ・ベンスンが駆け寄ろうとする。ランキンは「まだ消毒が終わっていない」と告げ、入らないよう指示した。彼はハルパーソンに、乗組員と用いた器具の消毒を担当させる。「少なくとも3度はお願いします」とランキンが言うと、エリオットは「消毒室をそう長々とは使えない。作業に差し支える。そんなことより、やるべきことはたくさんある」と反対する。しかしランキンは「任務を完了してガンマー3号を離れるまでは、全指揮権は私にある」と強硬な態度を取った。
ランキンたちがシャンパン・パーティーを開く中、マイケルは宇宙服や器具を消毒する。異変が起きたためにハッチを開けた彼は、何かに襲われて悲鳴を上げた。警報ブザーが鳴り響いたため、ランキンたちが消毒室へ行くと、マイケルが死体となっていた。彼は電気で焼かれ、抵抗したような形跡があった。消毒室の中には、動かなくなっているスライムがあった。ランキンがステーション内の調査を指示すると、Cブロックの送電室を担当した隊員が怪物に襲われた。
ランキンやエリオットたちが送電室へ行くと、隊員は電気で焼け死んでいた。動力室で怪物が発見されたため、ランキンはレーザー銃で始末しようとする。そこへハルパーソンが駆け付け、「貴重な生物標本です。何とか生け捕りにして下さい」と頼む。エリオットも同意するので、ランキンは任せることにした。ハルパーソンはガス銃とネットで捕獲する作戦を提案し、エリオットが部下に指示を出す。だが、怪物が電気でネットを焼き切り、隊員たちを攻撃してエリオットの肩に火傷を負わせた。
ランキンがレーザー銃で攻撃すると、怪物は換気シャフトに逃げ込んだ。彼は「今後は私のやり方でやる」と言い、エリオットに医務室で手当てするよう促した。ハルパーソンは床に付着している緑色の粘液を採取し、研究室に持ち込む。エリオットがルイザの手当てを受けていると、ランキンが来て「事態が解決するまで帰国を延ばすことにした」と告げる。エリオットが「ここは俺でやれる」と反発すると、「任せておけない」とランキンは考えを変えなかった。
エリオットが「また俺が何かをしでかしたと言いたいんだろう。今のことも俺の過ちだと言いたいんだろう」と怒鳴ると、ランキンは冷淡に「君は間違いが多すぎる。指揮官の器じゃない」と言い放つ。ルイザは「今まであんなに探して見つからなかった宇宙の生物が初めて見つかったんじゃないの。それがどんなに重要なことか分からないの」と意見するが、ランキンは「そいつは犠牲者の遺族に言ってくれ」と突き放した。
隊員が怪物の捜索を続ける中、ランキンとエリオットは研究室へ赴いた。するとハルパーソンは粘液の標本を見せ、「色は緑ですが明らかに血液です」と告げる。そして彼は、その細胞が電気を通すと異常なスピードで増殖することを説明した。そうやって増殖を繰り返して、あの怪物が誕生したというのだ。ハルパーソンが「エネルギーが一滴でもある限り、このステーションのどこででも繁殖します」と言うとエリオットは「動力室が一番狙われる」と口にした。
ランキンはエリオットに、マーチン大尉を責任者にして粘液を始末すること、ただしレーザー銃を使わないことを指示した。医務室で電子聴診器を使おうとしていたルイザは、怪物が潜んでいるのを発見した。マーチンがレーザー銃で攻撃するが、もちろんダメージを与えることは出来ない。そこへランキンが駆け付け、レーザー攻撃の中止を命じた。
ランキンたちは怪物を隔離室に閉じ込めるが、床に落ちた粘液は猛スピードで増殖する。ランキンがモニターで隔離室の様子を確認すると、怪物は自分の傷を治療していた。隔離室でも粘液は増殖し、医務室では新たな怪物が次々に誕生しようとしていた。エリオットは医務室の電気系統を遮断するように命令し、これ以上の増殖を食い止めようとする。ランキンはセンターに連絡を入れて状況を説明し、独断で地球との宇宙船航行を禁止する通達を出す。ルイザが「患者たちは地球へ帰らないと治療できない」と抗議すると、ランキンは「あの細胞が一個でも地球に持ち込まれたら、10人、20人の命では済まない」と告げた。
司令室に士官を集めたエリオットは、まずCブロックから退避して封鎖し、倉庫まで誘導して閉じ込める作戦を説明した。彼は士官たちに、Cブロックの電源を切ってサーチライト・カーで誘導し、小型ジェネレーターをエサにして倉庫に閉じ込めるのだと述べた。ランキンは館内放送を使い、Cブロックからの退避を指示した。ジェネレーターの設置は完了し、ランキンはリモコンの始動テストを行った。
ランキンたちは計画を実行しようとするが、怪物の群れは医務室を襲った。ランキンは自ら囮になり、医療スタッフと患者をBブロックへ避難させる。ランキンは怪物に包囲されるが、エリオットが駆け付けて救出した。ランキンはサーチライト・カーで怪物の群れを誘導し、倉庫へ閉じ込めた。だが、医務室に怪物が残っていることが判明したため、ランキンはエアロックを封鎖してCブロックを放棄することに決めた。その直後、ドアを突き破った怪物の群れが、ランキンたちに襲い掛かって来た…。

監督は深作欣二&田口勝彦、脚本は金子武郎&トム・ロー、企画はアイバン・ライナー&ウイリアム・ロス&扇沢要&太田浩児、撮影は山沢義一、録音は渡辺義夫、照明は梅谷茂、美術は江野慎一、編集は田中修、助監督は山口和彦、音楽は津島利章。
出演はロバート・ホートン、リチャード・ジェッケル、ルチアナ・パルツィ、バッド・ウイドム、ウイリアム・ロス、テッド・ガンサー、ロバート・ダンハム、ダビッド・ヨーストン、ジャック・モリス、ストロング・イリマイテイ、エンバー・アルテンバイ、ユージン・ヴィンス、カール・ベングス、トム・スコット、リンダ・ミラー、キャシー・ホーラン、リンダ・マルソン、スーザン・スケルジック 、リンダ・ハウゼスティ、パトリシア・エリオット他。


1966年の映画『海底大戦争』に続いて、東映がアメリカの映画会社ラム・フィルムと共同で制作した作品。
『一心太助 江戸っ子祭り』『大奥(秘)物語』の金子武郎が脚本を執筆している。
監督は『黒蜥蝪』『恐喝こそわが人生』の深作欣二と、田口勝彦の共同。
田口勝彦はTVドラマの演出家として活動した人で、これが初めての劇場用映画。
後に「ずべ公番長」シリーズや「女必殺拳」シリーズを手掛ける山口和彦が助監督を務めている。

『海底大戦争』のキャストは日米混合の顔触れだったが、今回はアメリカ人キャストのみとなっている。
ランキンをロバート・ホートン、エリオットをリチャード・ジェッケル、ルイズをルチアナ・パルツィ、トンプソンをバッド・ウイドム、ハルパーソンをテッド・ガンサーが演じている。
キャストはアメリカ人のみだが、スタッフは全て日本人で、撮影は全て東映東京撮影所のセットで行われた。
日本では4本立て興行「東映ちびっ子まつり」の1本として、日本語吹き替え版で公開された。

ロバート・ホートンは、1957年から1965年までアメリカで放送されたTV西部劇『幌馬車隊』のレギュラー出演者だった俳優。
リチャード・ジェッケルは西部劇映画に多く出演していた脇役俳優。
ルチアナ・パルツィは『007/サンダーボール作戦』で女殺し屋のフィオナを演じた女優。
ウイリアム・ロスやテッド・ガンサー、ロバート・ダンハムなど、他の日本映画で見掛ける外国人俳優たちが脇を固めている。
ようするに、配役にはそんなに金が掛かっていないってことだ。

ザックリと言うならば、これは「東映がテレビでやっていた特撮ドラマをオール米国人キャストでやってみた」というシロモノだ。
つまり、映画としては、かなりチープな出来栄えと言わざるを得ない。
「古い作品だから、今の感覚で鑑賞するとチーフに見えるのは当然」と思うかもしれないが、そういうことではない。
同じ年に『2001年宇宙の旅』が公開されているのだが、まるで比較にならない。
「そこと比べるのは無茶だよ」という意見もあるだろうが、同年に東宝が公開した『怪獣総進撃』と比べても落ちる。

近未来の設定だが、遊星フローラが地球へ向かって来るのが、あと10時間足らずで衝突するまで分からないという情けない科学技術しか無い。
しかも、もうギリギリの状況にも関わらず、そんなに焦っている様子も無い。関係者はもっと迅速に行動すべきなのに、移動一つ取っても走るべきなのに、ゆっくりと歩いている。
だから当然のことながら、緊張感も全く漂って来ない。
人類滅亡の危機が迫っているはずなのに、そういう切迫感は微塵も感じられない。

ランキンがロケットに乗り込み、打ち上げが成功して引力圏を脱出するまでの様子を丁寧に描いているが、そんなところに時間を使うのは明らかに無駄だ。
彼が派遣されることを描写したら、すぐにシーンを切り替えて、ガンマー3号のエリオットたちを写し出せばいい。
ロケット打ち上げの様子を描いて時間を浪費することで、ますます「タイムリミットが迫っているのに、妙にノンビリしている」という印象を強めることに繋がる。
たぶんロケットや基地のミニチュア技術を見せたかったんだろうけどね。

ランキンがガンマー3号に到着しても、相変わらず全員が何の焦りも見せないで落ち着き払っている。
一方でトンプソンは、まだランキンがガンマー3号に到着してから2分しか経過していないのに、「何をグズグズしてるんだ」「早くしないとマズい」などと言っている。
それは焦りを表現するセリフなのだが、そういうことを言いながら紅茶かコーヒーをカップで飲んでいるんだよな。
そりゃあ喉も乾くかもしれないけどさ、すげえ余裕があるようにしか見えないぞ。

ランキンがガンマー3号に到着した時、ハルパーソンは「宇宙コンサルタントです」と自己紹介していたのに、博士であることが後で判明する。
科学者と宇宙コンサルタントでは、職業が全く違うだろ。
で、そんなハルパーソンも同行することに命令が変更されたらしいが、なぜ変更されたのかは分からない。爆薬をセットするだけが目なら、そんな奴の同行は不要なはずだ。
だから「実はセンターが別の目的を持っていて」という裏が後で明らかになるのかと思ったら、そんなとこは何も無かった。

ランキンたちがガンマー3号からロケットで出発する時も、やはり発射ドームのハッチを開けて発射される様子を丁寧に描く。
フローラの重力は完全に無視され、みんな普通に歩いたり走ったりする。
ガンマー3号に戻ったランキンが3度の消毒を要求すると、エリオットは「そんなことより、やるべきことはたくさんある」と抗議する。
で、その後にシーンが切り替わると、シャンパンを抜いてパーティーが開かれている。
やるべきことって、そういうことなのかよ。

ランキンたちが任務を終えてガンマー3号へ戻ると、やけに色っぽい格好をした女が掛け寄って来る。
「誰なんだよ」と思っていたら、そいつがルイザだった。
こいつはヒロインであり、「かつてはランキンとエリオットと3人の仲良しトリオだった」というキャラクターなのに、それは登場が遅すぎるだろ。ランキンが最初に到着した時に、さっさと登場させるべきだろ。
あと、この女って看護婦という設定なのね。登場した時の無駄に露出堂の高い格好からは、ただのビッチにしか見えないけど。
ただ、エリオットの手当てをするシーン以降は看護服なので、登場シーンの格好は観客へのお色気サービスってことなんだろう。

「遊星が地球に衝突する危機が迫っているから、それを防ぐために主人公たちが行動を開始する」という滑り出しだったのに、その危機は開始から25分程度で回避されてしまう。
そして前半の内に、「触手の怪物が襲ってくる」という全く別の話へと移行する。
だったら、もはや「遊星の衝突」という設定なんて、全く必要性が無い。
スライムの襲撃を描きたいのなら、「どこかの星の調査に出ていたグループが、ロケットにスライムを持ち込んでしまった」ということでも成立してしまうのだ。

ランキンがエリオットを責めていると、ルイザは「今まであんなに探して見つからなかった宇宙の生物が初めて見つかったんじゃないの。それがどんなに重要なことか分からないの」と言い出すのだが、今まで宇宙の生物を探していたのかよ。
そんなこと、そこまでに一度も触れていなかった設定だぞ。
そういう設定なら先に触れておくべきだろ。
そんなことを後から急に言われても、ピンと来ないぞ。

ランキンは常に冷静沈着な指揮官というよりも、単純に冷淡な奴にしか見えない。こいつに主人公としての魅力が全く感じられない。
彼が言う通り、確かに「常に仲間の人命を最優先する」というエリオットの考え方は、間違っていることが大半だ。
ただ、エリオットの方が苛立ちや動揺といった感情表現が豊かで、ランキンよりも遥かに人間味がある。
「ランキンとエリオットの確執」という構図は、ランキンがあまりにもクールでパーフェクトなマシーン状態なので、まるで盛り上がらない。

「怪物との戦い」という内容へ舵を切り、そこでの面白さがあるのかというと、「スライムのままの方が良かったのに」と感じてしまう。
スライムが増殖して怪物になると、まずキグルミ感たっぷりだし、そのデザインも怖さがイマイチだし、動きもモッサリしている。
それと、ステーションという限定された環境での戦いなのに、封鎖された場所が醸し出すべき緊迫感ってのが全く無い。
それは怪物のモッサリした動きよりも、演技や演出の部分に問題がある。
ひょっとすると、監督が2人も日本人なので、アメリカ人キャストに上手く演技指導できなかったんじゃないかという気もするんだが。

(観賞日:2014年6月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会