『ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック』:2014、日本

2003年に始まったフジテレビONEの深夜番組『ゲームセンターCX』では、お笑いコンビ「よゐこ」の有野晋哉が扮する有野課長が様々な懐かしのゲームに挑戦している。時にはスタッフも協力し、収録時間内にゲームクリアを目指すというのが番組の内容だ。数々の過酷な挑戦の中でも、特に有野の心に深く刻まれたゲームソフトがある。それが1986年にテクモから発売されたファミコンのアクションゲーム『マイティボンジャック』だ。
2006年、有野は『マイティボンジャック』の全16ステージ攻略に挑んだ。彼は子供の頃にプレイした経験はあるが、ステージ1で断念していた。20年ぶりの挑戦となる今回も、なかなかステージ1を攻略できずに有野は苦労する。やられるとクリアしたステージの頭に戻されるシステムは、有野の気持ちを萎えさせた。それでも何とかステージ1は攻略した有野だが先へ進めず、プライドを捨てて説明書を見た。ステージ4までは進めるようになったが、そこが限界となった。有野が行き詰まったため、ADの井上は裏技を教えた。
1986年7月13日、日曜日。中学2年生のダイスケは『マイティボンジャック』をプレイするが、難しさに嫌気が差して終了する。翌日、ダイスケは友人のマコトとケイタに、土曜日に購入した週刊少年ジャンプの内容を話す。ドラゴンボールにアラレちゃんが出て来ると知り、ケイタは驚いた。クラスメイトのクミコに思いを寄せているダイスケは、彼女が手を振ったり笑顔を向けたりしてくれたことで、もしかすると自分のことを好きなのではないかと考える。しかしダイスケは、学校で「女に興味が無い男」として通っていた。
ダイスケが休み時間にファミコン雑誌を読んでいると、クミコが「私もファミコン好き」と話し掛けて来た。クミコが親戚の家でやった『マイティボンジャック』を好きだと知り、ダイスケは自分のソフトを貸すことで親しくなろうと考えた。彼が「俺、持ってるし。今度貸そうか。もうやってないし」と言うと、クミコは喜んだ。いつ貸せばいいのか考えたダイスケは、明日はあえて持って来るのを忘れたフリをしようと決めた。
2006年、有野は井上から、通路面を省略して先へ進む裏技を教えてもらった。ただし、この裏技を使った場合、王家の部屋でやられるとワープを始めた最初の部屋まで戻されてしまう。ひたすらワープを狙う作戦を進めた有野だが、ステージ8が最高だった。8時間が経過した頃、再び井上が現れ、5面に1upできるポイントが2箇所あることを教えた。つまり2機upした後、やられて戻されても、繰り返すことで1機upできるということだ。それは時間の掛かる無限増殖であり、最低でも1機増やすのに5分は必要だ。
有野は井上の協力も得て地味な作業を続け、2時間を費やして15機まで増やした。時間的にもラストチャンスとなるため、有野と井上は気合いを入れ直してゲームに挑んだ。しかし2人ともステージ8で失敗を繰り返し、残りは7機となってしまった。ステージ8を攻略した有野は、続くステージ9とステージ10でワープに挑んで成功する。ステージ11ではセーブを選ぶが失敗し、ステージ8に戻された。その後、井上の奮闘もあってステージ12までは到達したが、そこで全機を失ったため、挑戦は終了となった。諦めが付かない有野は、2日目の延長を直訴した。マネージャーと相談した結果、3日後の午後11時から挑戦を再開することになった。
1986年7月15日、ダイスケは『マイティボンジャック』を学校へ持参せず、「完全に忘れてた」とクミコに嘘をついた。放課後、彼はマコトやケイタと『マイティボンジャック』で遊ぶ。次の日、ダイスケは『マイティボンジャック』を学校へ持参し、クミコに貸そうとする。しかし不良の加藤に見つかり、「ちょっと貸して」と言われる。ダイスケは怖がって拒否することが出来ず、ソフトを差し出した。その様子を見ていたクミコの冷たい表情に気付き、ダイスケは絶望感に打ちひしがれた。
ダイスケは同級生がゲームソフトを加藤に借りパクされたと知り、不安になった。翌日、ダイスケは何とか上手い話し掛け方で加藤に返してもらおうと目論むが、軽く受け流された。次の日、借りパクだけは阻止したいと考えるダイスケは、ゲームソフトを返してほしいと改めて加藤に告げる。すると加藤は、先輩に貸したので待ってくれと軽く言う。どのぐらい待てばいいのかとダイスケが訊くと、彼は「分かんないから、直接先輩に言ってよ」と口にした。貸した相手が泣く子も黙るヤンキーの阿部先輩だと知り、ダイスケは動揺する。このままだと明るい未来は望めないと感じ、彼は呆然とした。
2006年、有野は練習を積んだ上で2日目の挑戦を開始した。井上は事前に無限増殖の作業を行い、4時間で26機まで増やしておいた。最初は順調だった有野だが、ステージ11の罠に落ちてステージ6まで戻された。何とかステージ12まで到達した有野だったが、そこから先へは進めない。井上が交代するが失敗が続き、そこで全機を失った。このままでは終われず、ついに挑戦は3日目へと突入する。ステージ12から32機の状態でスタートし、有野は残り18機でラストステージまで到達した。そこからは井上が協力せず、自力でクリアを目指すことになった。しかし思わぬ隠しステージの出現により、有野は全機を失ってしまった。その1ヶ月後、神保町の一ツ橋ホールで開かれたファン感謝デーの公開収録で、有野は番組初となる4日目の挑戦を行った…。

監督は蔵方政俊、脚本は酒井健作&市川豊、脚本協力は岐部昌幸、企画・製作は菅剛史、製作は藤岡修、プロデューサーは高口聖世巨&東島真一郎&橋口愛、協力プロデューサーは木村有一&丸山文成&松井信樹&伊藤徳宇&伊菅寿之&長嶋大介&江尻教彰&永竹里早&小林昌生、ディレクターは藤本達也、撮影は阿部浩一、照明は吉澤一生、録音は西岡正己、美術は飯森則裕。
主題歌:「プレイヤーI」怒髪天 作詞:増子直純、作曲:上原子友康、編曲:怒髪天。
出演は有野晋哉、吉井一肇、平祐奈、阿部考将、松島海斗、吉田翔、遠藤雅伸、名越稔洋、鈴井匡伸、佐藤佑哉、東谷柊一、井田紋乃、西野栄子、鶴田亮介、久下恭平、高谷心也、武田一馬、林香帆、城川もね、千坂健介、鈴木悠馬、松浦紫苑、橋本一輝、笹野大司、浦川瞬、井上侑也、中山智明、渡邊優子、鶴岡丈志、江本紘之、田辺純江、須田祐一郎、菅崚斗、東島かれん他。


2003年から放送されているゲームバラエティー番組『ゲームセンターCX』の劇場版。
有野が『マイティボンジャック』の攻略を目指すパートと、ダイスケを主人公とするドラマを描く1986年のパートを交互に配置した構成となっている。
番組の企画・構成を担当している酒井健作と『渋谷』の市川豊が脚本を手掛け、『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の蔵方政俊が監督を務めている。
ドラマ部分ではダイスケを吉井一肇、クミコを平祐奈、マコトを阿部考将、ケイタを松島海斗、加藤を吉田翔が演じている。
ゲームクリエイターの遠藤雅伸、名越稔洋、鈴井匡伸が、それぞれ校長、阿部の父親、教師の役で1シーンだけ出演している。

まず最初に思ったのは、「そもそも『ゲームセンターCX』を映画化する必要性って何なのか」ってことだ。
まずバラエティー番組を映画化している時点で、「それは間違っている」と断言したくなる。
おまけに『ゲームセンターCX』は地上派で放送されている人気番組ではなく、フジテレビONEの深夜番組だ。フジテレビONEでは長く続いている人気番組だが、当然のことながら広く知られているわけではない。
悪い言い方をすると、「所詮は一部のマニアだけに支持されているカルト番組」に過ぎないのだ。

10周年を記念して映画化が企画されたらしいが、「なんでもかんでも映画にすりゃいいっもんじゃねえぞ」と声を大にして言いたい。言い含めたい。言いくるめたい。
番組の内容や立ち位置を考えた時に、10周年を記念して何かやりたいのなら、イベントやDVDで充分でしょ。それなのに、全国展開される映画の製作ってのは、どういうセンスなのかと。
企画したスタッフもスタッフなら、配給をOKした映画会社も映画会社だよ。揃いも揃って、全員がイカれている。
この場合の「イカれている」という表現は、残念ながら褒め言葉ではなく、混じりっ気無しの批判だ。

次に感じたのは、「これは誰に見せようとして作られた映画なのか?」ってことだ。
たぶん観客層の大半は、『ゲームセンターCX』を見ている視聴者のはずだ。この映画で一見さんを取り込もうってのは、あまりにも無謀な考えだし、絶対に不可能なことだ。
それならば、最初から「どうせTVシリーズの視聴者しか見ないんだから」と割り切って、そういう人たちだけが楽しめればOKという内容に仕上げるべきだろう。
ところが実際には、なぜか中途半端に一見さんを取り込もうという浅はかな意図が見えるのだ。

浅はかな意図が見えるのは、もちろん言わずもがなのドラマ部分である。
一見さんを取り込もうとしていないのなら、ドラマ部分など用意する意味が全く無い。それは番組と何の関係も無い内容だからだ。番組のファンが期待するのは、有野がゲーム攻略に挑む内容だろう。
ただし、ではドラマ部分が一見さんを取り込む力を持っているのかというと、それは全く無い。「少年がゲームソフトを取り返す」というだけの、ものすごく薄っぺらい話を引き延ばし、ダルダルの状態で持ち込んでいるのだ。
「やる気が無いのなら、最初からやめておけよ」と言いたくなるぐらい、手抜き感がハンパない。

ドラマ部分には、漫画『ドラゴンボール』やゲームソフト『スパルタンX』、アニメ『北斗の拳』やドラマ『スケバン刑事II』、ガンプラやエチケットブラシなど、1986年という時代を連想させるアイテムを色々と持ち込んでいる。
しかし、「だから何なのか」と言いたくなる。
ただ無造作に持ち込んだだけであり、それを使って話を面白くしているわけでもない。ノスタルジーを喚起するほどの力があるわけでもない。
そして肝心のドラマは前述したようにペラペラなので、単なる時間の無駄遣いでしかない。

一見さんを取り込むために持ち込んだはずのドラマ・パートは、もちろん番組のファンからすると「要らない物」でしかない上、一見さんを楽しませる力も持っていない。
困ったことに、たぶん一見さんであっても、ドラマ・パートよりも有野がゲームに挑戦するパートの方が遥かに面白いのだ。
それは「それほどゲームが得意というわけでもない有野が根気強く攻略に挑む様子は、ゲームに詳しくない人も引き込む力がある」ということもあるだろうが、それよりは「とにかくドラマがつまらない」ってことの方が圧倒的に大きい。

そもそも有野がゲーム攻略に挑むパートってのは、映画のために新しく撮影したわけではない。
なぜ時代設定が2006年なのかというと、その年に番組で放送された内容の編集版だからだ。
第6シーズンの39回、40回、41回の3度の放送分を編集して流用しているだけなのだ。ようするに、こっちはこっちで手抜きなのだ。
それにしても、新しく映画用に撮影したドラマ・パートが、手抜きでしかないテレビ番組の編集版に負けてしまうってのは、相当なモンだぞ。

ゲーム攻略のパートは、本来なら「一見さんには厳しいが、番組ファンなら楽しめる」という内容のはずだ。
ところが前述したように、既に番組で放送された映像を編集しただけだ。つまり番組のファンからすると、全てが「以前に見た内容」でしかない。
スタッフとしては、『マイティボンジャック』の回は視聴者からの評判が良かったので、そこを軸にしようと考えたのだろう。
しかし、番組ファンに同じ映像を見せるて金を取ろうってのは、不誠実じゃないかと。
そもそも番組のDVDが出ているんだから、『マイティボンジャック』の回の興奮や感動を味わいたければ、そっちを見れば済むわけで。

終盤、阿部の家からゲームソフトを奪って逃走したダイスケは、シャッターの閉まった倉庫へ入り込む。すると彼はタイムスリップし、2006年のファン感謝デーの会場に移動する。ここで2つの話をリンクさせるわけだ。
そして有野が会場から助っ人を呼ぶ流れになり、彼はダイスケを指名する。しかし、あっさりと失敗し、無言のままステージを降りる。
その後は、また有野が挑戦する様子に切り替わる。そこは、番組で放送した映像に、新撮映像を挟み込んで編集している。
番組で観客の少年が謎プレーを見せた部分は残しつつ、それをダイスケがやった形にしてあるわけだ。

2006年と1986年のパートを交互に配置している以上、最後まで平行線のままで終わらせるわけにはいかない。どこかで交差させる必要はあるので、計算としては間違っていない。
ただし、ダイスケがゲーム攻略に参加する様子を挟み込むと、「有野の挑戦」のパートにおける流れが遮断されてしまう。
ゲーム攻略パートだけを見た場合、ダイスケの介入は邪魔なだけだ。一方で、ダイスケのパートだけを考えると、有野のパートは全て邪魔なだけだ。
つまり本作品は、それぞれのパートが互いのパートとの相乗効果を産んでおらず、互いに妨害しているだけなのだ。

番組の内容を考えると、ドラマ・パートはバッサリと削除してしまった方がいいのは間違いない。
そしてゲーム攻略パートに関しては、既に番組で放送した内容を流用するのではなく、新しく撮影すべきだろう。
ただし、じゃあ「有野がゲームを攻略する内容」を新しく撮影し、それだけで全編を構成すればOKなのかというと、それは絶対に違う。
そんなモンで1本の映画と同じだけの代金を搾取しようってのは、醜悪で唾棄すべき行為である。

(観賞日:2015年12月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会