『ギャラクシー街道』:2015、日本

西暦2265年。ハンバーガーショップ「サンドサンドバーガー」コスモ店では、国土交通省の役人であるハシモトがパソコンでレポートを作成している。店があるのは、木星と土星の間に浮かぶスペースコロニー「うず潮」と地球を結ぶ幹線道路“ギャラクシー街道”だ。昔は賑わいがあった場所だが現在は閑散としており、コスモ店の客もまばらだ。そんな状況を観察したハシモトは、ギャラクシー街道を閉鎖すべきだと提言するレポートを作成している。
コスモ店を経営するノアは今の暮らしに嫌気が差しており、アースへの帰国申請書を本部へ出すことにした。パートタイマーのハナが作業をする中、ノアの妻であるノエが遅れて店に現れる。奥のテーブルでは、客引きのゼットがムタという客と話している。コールガールを買うことに迷いを抱いているムタに、ゼットは浮気の素晴らしさを説く。クロロン人のズズが注文に来ると、ノエは笑顔で応対する。だが、ノアはノエを呼び、ズズが来ると席が濡れるので帰ってもらえと要求する。ノエがズズを擁護したのでノアは渋々ながら認めたものの、ブルーシートを敷くよう指示した。
ノアはバックヤードへ行き、画面に写る堂本博士に相談する。ノアはノエの浮気を確信しており、見たことが無いネックレスや不審な行動について話す。店にレイとババサヒブという夫婦が現れると、ノエは驚いた様子を見せる。ノエは堂本の元へ行き、ノアの元恋人であるレイが来たことを話す。ハナはムタから商品の値段について質問されるが、分からなくなったのでノアを呼ぶ。ノアの説明を受けても理解できなかったハナは、パニックに陥って放電した。その影響で店が停電したため、ノアが電源室へ赴いて復旧させた。
レイはノアに気付き、声を掛けて再会を喜んだ。彼女はババサヒブを紹介し、アースへ帰るシャトルを待っていることを話す。そこへノエがやって来たので、レイはババサヒブを紹介した。ゼットは病気を心配するムタに、せっかくの機会を逃さないよう説く。郵便局員が店に来たので、ノアは帰国申請の封筒を渡した。警備隊のハトヤ隊員はトチヤマ隊長と共に店を訪れ、ハナにコーヒーを注文する。ノアはレイとの思い出話に花を咲かせ、ババサヒブは邪魔しないように姿を消そうとする。
リフォーム業者のメンデスが店に現れると、ノエは困惑する。迷惑そうな態度を示すノエだが、メンデスに「5分だけ」と頼まれたのでバックヤードへ連れて行く。メンデスはノエに恋心を寄せており、「もう僕たちは終わりなんですか」と訴える。ノエが「まだ始まってもいないんです」と言っても、彼は全く耳を貸さない。メンデスが店のリフォームについて「新しい提案を持って参りました」と言い出すと、ノエは他の業者に頼むと告げる。しかしメンデスが泣き出したのでノエは不憫に思い、提案を聞くことにした。メンデスの説明を聞いたノエはウットリするが、メンデスがキスしようとしているのに気付き、慌てて突き飛ばした。
ハトヤはトチヤマに、今月一杯で生まれ故郷へ戻ることを話す。それから彼は、自分の正体がキャプテンソックスだと告白した。ハトヤはカウンターへ行き、商品に関する質問をハナに投げ掛ける。またハナはパニックに陥って店を停電させ、すぐにノアが電源を戻した。ハシモトは風船を持った道化師に気付くが、立ち去ったので慌てて後を追う。ハトヤは告白を信じないトチヤマをトイレの個室へ連れて行き、変身して正体を見せた。ムタはゼットからコールガールの写真を見せてもらい、イルマという女性を選んだ。
ノアは堂本の部屋へ行き、レイと出会った頃のことを回想する。かつてアースにいた頃、彼は劇団のスタッフをしていた。ノアは看板女優のレイと交際するようになったが、ハンバーガーの食べ方が汚いのを知って幻滅した。そしてハンバーガーを美味しそうに食べるノエと出会い、彼女と結婚したのだった。ノアは堂本に、レイとヨリを戻したいとは思わないが、今の彼女が幸せには見えないのだと語る。一方、ノエはメンデスから、一生の思い出に別れの挨拶をさせてほしいと頼まれる。メンデスはノエの額に自分の額を密着させ、満足した様子で立ち去った。
ノエはノアが帰国申請書を出したことに気付いており、「アースに帰るの?」と質問する。ノアは申請を出したことは認めるが、ずっと先のことだと告げる。ハトヤは警備会社の今後を不安視するトチヤマに、来週から新しい正義の味方が来ることを教える。ハトヤは交際中のマンモも店へ呼んだことを話し、彼女の支えになってほしいと頼んだ。トチヤマが店を去るのと入れ違いで、イルマがやって来た。ムタが手を振って呼び掛けると、イルマはナゲット80箱の注文を要求した。困惑するムタに、彼女は弟に持って行くのだと告げた。
ノアがレイのテーブルにコスモセットを運ぶと、ババサヒブが脱皮を始めた。レイはノアに、彼は月に一度の脱皮があることを説明した。マンモは店に来るとハトヤのテーブルに行き、「私も話があったから」と言う。先に話すよう促された彼女は、別れを切り出した。動揺を見せるハトヤに、マンモはプロポーズしてくれなかったことへの不満を漏らした。ハトヤはキャプテンソックスだと告白するが、マンモは全く聞いておらず、プロポーズされたのでOKしたことを明かした。ムタは病気のことばかり心配し、いつ検査を受けたのかイルマに質問する。ムタは彼女を買うことに決めるが、ゼットから聞いていなかった金額を請求される…。

脚本と監督は三谷幸喜、製作は石原隆&市川南、プロデューサーは前田久閑&和田倉和利&西原恵、ラインプロデューサーは森賢正、撮影は山本英夫、照明は小野晃、録音は瀬川徹夫、コンセプトデザインは種田陽平、美術は北川深幸、編集は上野聡一、テクニカルプロデューサーは大屋哲男、VFXスーパーバイザーは田中貴志、スクリプターは山縣有希子、衣裳デザインは宇都宮いく子、特殊メイクスーパーバイザーは江川悦子、音楽は荻野清子。
出演は香取慎吾、大竹しのぶ、段田安則、綾瀬はるか、山本耕史、石丸幹二、西川貴教、西田敏行、優香、梶原善、久世浩、小栗旬、阿南健治、遠藤憲一、浅野和之、吉田ボイス、田村梨果(ミラクルひかる)、秋元才加、シルビア・グラブ、矢崎大貴、佐藤浩市、岩本淳、屋敷紘子、龍輝、小野瀬侑子、工藤有史、鹿島夢斗、島田幸太郎、葛西大樹、伊藤結人、石井瑠音、橋本大輝、阿部カノン、古川真奈美、由井香織、宮腰茉莉、矢野清香、尾畑美依奈、今野貴之、瘤R弘平、アドリアナG、山田真央、ショー片島ら。
声の出演は山寺宏一。


『ステキな金縛り』『清須会議』の三谷幸喜が脚本と監督を務めた作品。
彼が撮った映画は、これで7本目。
ノアを香取慎吾、ハナを大竹しのぶ、ハシモトを段田安則、ノエを綾瀬はるか、ゼットを山本耕史、ムタを石丸幹二、ズズを西川貴教、堂本を西田敏行、レイを優香、ババヒサブを梶原善、ハトヤを小栗旬、トチヤマを阿南健治、メンデスを遠藤憲一、道化師を浅野和之、イルマを田村梨果(ミラクルひかる)、マンモを秋元才加が演じている。
佐藤浩市が『ザ・マジックアワー』の時と同じ村田大樹役で、終盤に1シーンだけ出演している。

店にいるノアやノエたち様子が描かれた後、カットが切り替わるとゼットとムタが話している。この時点では、その2人がどこにいるのか全く分からない。
その後、ムタがカウンターでハンバーガーを注文するシーンがあるので「ゼットと別れて店に来たのかな」と思ったら、ゼットとムタが話すシーンでテーブルにハンバーガーが置かれている。
ここで初めて「ああ、コスモ店の一角なのね」ってことがハッキリする。
そりゃあ、「そんなの何となく分かるだろ」と思うかもしれんが、分かりにくくしておくメリットは無いわけでね。
カメラワークやカット割り次第で、「ノアたちがいる場所とゼット&ムタのいる場所が繋がっている」と示すことは出来たはずで。

ハナはやたらとイライラしている様子なので、ただの不愉快なキャラになっている。
そんなハナが放電するシーンは、まず「頭が悪いので相手の話す内容が理解できず、すぐパニック状態に陥った結果として放電する」という設定が、やや分かりにくくなっているという問題がある。
それよりも厳しいのは、放電シーンに合わせたBGMが用意されていること。
それによって放電シーンを粒立て、「ここは笑うトコですよ」とアピールしているのだが、何をどう笑えばいいのかサッパリ分からない。

一発目の放電に関しては、まだハナのキャラ設定が全く分かっていないので、ただ唐突で戸惑うだけだ。
そのネタを繰り返すことによって、いわゆる「天丼」の笑いを作ろうとしている意識は感じられるが、わざわざBGMを付けて「笑って下さい」とアピールする演出が逆に笑いを遠ざけている。
そのBGMのせいでテンポが悪くなっているし、そもそもネタへの入り方も下手だし。
元々は喜劇畑の人間であるはずの三谷幸喜が、どうしたことなのかと思ってしまう。

ババヒサブはレイからノアを紹介されると、長い舌を伸ばして相手の顔をベロッと舐める。困惑しながらも席に座ったノアが「ウチにもアシヌス人は来ますが、ああいう挨拶は初めてです」と言うと、ババヒサブは「あんな挨拶は無いよ」と告げる。ノエが来てレイが紹介すると、またババヒサブは長い舌で顔を舐める。ノエが真似をしようと舌を出すので、ノアは制止する。
ここも、何をどう笑えばいいのか全く分からない。
まず「あんな挨拶は無いよ」と言うババヒサブの態度が、ノアを馬鹿にしているようにしか見えない。
ただ、ノエの顔も舐めているし、その時は馬鹿にした感じが無いので、どういうことなのかと。

っていうか、そこで笑いを生み出したいのなら、ノアが顔を舐められた直後に「ウチにもアシヌス人は来ますが、ああいう挨拶は初めてです」と説明するための台詞を入れるのは避けた方がいいんじゃないか。
で、ノエが来た時はババヒサブが普通に挨拶して、そこでノアが「さっきのはアシヌス人の挨拶では?」と問い掛けて、すました顔でババヒサブが否定するという流れにした方がいいんじゃないかと。
どっちにしろ、ババヒサブがノアを馬鹿にしているようにしか見えないので、そこが大きなマイナスになっている。
しかもホントに馬鹿にしているのかというと、その後の展開を見る限り、そうでもなさそうなんだよな。

ハシモトが仕事をする中、急にアニメーションで表現された犬や小鳥が登場するが、何の意味があるのかサッパリ分からない。少なくとも、それが笑いを生むことは無い。
彼が白塗りの風船男を見つけた途端、慌てて追い掛けるのも意味不明なだけ。後のシーンに用意されている台詞で、白塗り男が道化師ってのは分かるけど、だから何なのかと。
何の笑いも生まないまま意味不明な捜索が続くので、ハシモトのパートは邪魔なだけだ。
後半に入ると、アニメ映像や道化師に関しては「意志を持つギャラクシー街道がハトモトを接待するために出現させた」という一応の説明が入るが、「なんだ、そりゃ」&「どうでもいいわ」としか感じないわ。

メンデスがノエに付きまとうエピソードも、まるで笑えない。
迷惑そうにしているノエがメンデスの提案を聞くのも、どういう方程式で笑いを作ろうとしているのか理解不能。
「提案を聞いている内にノエがウットリする」ってトコで笑わせるつもりだったのかもしれんけど、彼女の態度に違和感を抱くだけだ。
メンデスが上着を脱ぐとボンデージ姿なのも、安いコントなのかと。しかもボンデージ姿になった後、そこから展開して笑いを作るんじゃなくて、そこで思考停止なのよ。だから、寒々しさを感じるだけだ。

メンデスが思い込みでノエにしつこく付きまとうのは、ただ不愉快で嫌悪感を抱かせるだけ。
しかもメンデスは「別れの挨拶」とノエを騙し、両性具有の性質を利用して妊娠するのだ。それって、ようするにレイプみたいなモンでしょ。それに気付いたら、まるで笑えないよ。
いや気付かなくても笑えないけど、気付いたら不快感が増す。
あと、そこに限らず、この映画の下ネタは全て外している。全くフィットしておらず、「なぜ持ち込んだのか」と疑問を抱くだけだ。

ハトヤがトチヤマに「実はキャプテンソックスなんです」と告白するシーンは、「そもそもキャプテンソックスって何だよ」と言いたくなる。
それが事前に明示されていなかったら、「ハトヤが急に突拍子も無いことを言い出す」という笑いの数式が成立しないでしょ。
そのヒーローが「ハトヤが勝手に妄想した架空の存在」ってことなら、それは分かるのよ。
だけど、実際に活躍している正義のヒーローという設定であるならば、あらかじめ観客に教えておく必要があるんじゃないかと。

ムタが何名ものコールガールの写真をチェックするシーンでは、どの女性も人間とは容姿が全く異なる異星人ばかりだ。
しかしムタは顔をしかめることもなく、真剣に悩んでいる様子を見せる。そんな中で彼は人間と同じ容姿を持つイルマの写真を見つけると、彼女に決める。
だったら、他のコールガールを「人間の尺度で見ると怪物ばかり」という造形にした意味が無いでしょ。
それならムタは真剣に悩む様子を見せず、「どれも怪物なので困っていたら、イルマがいたので即座に決める」という形にしておかないと。怪物だらけのコールガールで迷う様子を見せるのなら、最終的に選ぶのも怪物みたいな奴じゃないとダメでしょ。

ノアという男は、ただ不愉快なだけになっている。
それは演者にも大きな問題があって、「例えば八嶋智人だったら?あるいはムロツヨシだったら?」と他の役者をイメージした時に、ノアの不快感を誤魔化せるんじゃないかという気がするのだ。
とは言え、根本的に不快感を醸し出していることは事実だから、キャラ造形や演出にも問題はある。
ただし、ノアに限らず、この映画で魅力的だと思えるキャラは1人も出て来ない。
綾瀬はるかでさえ、ノエを魅力的に感じさせてくれないんだから、よっぽどの状態だぞ。

ずっと物語の舞台をハンバーガーショップに限定して進めていたのに、ノアが回想するシーンで別の場所を画面に登場させてしまうので、その仕掛けを台無しにしてしまう。
そんな無造作なことをやっちゃうのなら、最初から舞台をハンバーガーショップに限定しなきゃいい。
どうせ、その設定が成功しているとは到底言い難いんだから。
それどころか、宇宙を舞台にしたSFという設定も、やはり成功しているとは思えない。

この映画がやってることは「田舎の店に色んな人がやって来る」というシチュエーション・コメディーで、その場所を宇宙に置き換え、人間だけでなく異星人が来る内容にしてあるわけだ。
でも、それによる効果は全く得られていない。
だったら、「日本の田舎にある寂れたハンバーガーショップ」を舞台にして、登場キャラを人間だけにした方がいい。
「宇宙なのに宇宙っぽくない」「SFなのにSFっぽくない」という形にすれば、そこの面白さが出たかもしれないが、中途半端にSFっぽさは盛り込んでいるのよね。
異星人が放電するとか、透明化するなどの設定も用意されている。ただ、そういうSF的な要素が、笑いに貢献することは一度も無いのだ。

魅力に欠ける登場人物ばかりが出て来るのだから、当然っちゃあ当然だが、会話の全てが不快感か退屈しか生んでいない。
終盤に入ると、バラバラだった登場人物を「メンデスの出産」というエピソードで1つにまとめようとしている。しかし、それは単に全員が集まっているだけで、物語として綺麗に収束しているわけではない。そして、そのエピソードに盛り上がりは全く無い。
そこまでもメリハリに乏しく、こっちの気持ちに至っては最初から最後まで見事に平坦なままだ。ユルい笑いがあるわけではなく、単純に緩み切っているだけ。
それでも、あえて良かった点を挙げてみようとしたが、どれだけ考えても思い浮かばないのであった。

(観賞日:2016年12月11日)


2015年度 HIHOはくさいアワード:第3位

 

*ポンコツ映画愛護協会