『クローズEXPLODE』:2014、日本

鏑木旋風雄は幼い頃、母の風子によって児童養護施設へと預けられた。風子は「すぐに迎えに来るからね。強く生きるのよ」と告げ、施設を去った。高校3年生になった彼は、鈴蘭高校へ転入する。その朝、3年A組を仕切る小岐須健一と仲間の岩田五郎&桃山春樹は、喧嘩で退学になったという鏑木の話をする。小岐須は鏑木を引き入れ、強羅徹の一派を倒して鈴蘭をまとめようと目論んでいた。鏑木は彼らに声を掛け、鈴蘭への道を尋ねる。鏑木が生意気な態度を取ったので、小岐須たちは相手が誰なのか知らずに喧嘩を吹っ掛ける。しかし鏑木は「俺は喧嘩しねえんだ」と、相手にしなかった。
1年生の加賀美遼平を乗せた車が走って来たので、小岐須たちは慌てて飛び退いた。鈴蘭では強羅と高木哲次のタイマンが行われる。強羅は高木を相手にせず、一発でノックアウトした。学校に到着した鏑木は加賀美を捕まえ、謝罪を要求する。加賀美が「うるせえな」と冷たく告げて去ったので、鏑木は後を追った。後ろから強羅一派の五島劣闘に属する輪島が頭を掴んで来ると、鏑木は「いてえな」と一撃で殴り倒した。その様子を見ていた強羅は、「少しは楽しませてくれそうな奴が来たじゃねえか」と微笑した。
馴染みのライブハウスを久々に訪れた片桐拳は、牧瀬隆史に見つかって気まずそうな表情を浮かべた。彼は「俺はこの町じゃ死んだことになってるんだ」と言うが、「どっかの港町で漁師やってるって、みんな知ってますよ」と知らされた。牧瀬は自分が整備士を務める中古車販売店「中田オート」へ、片桐を案内する。社長が死んで店も閉める予定だったが、続けることにしたと彼は話す。手伝いを求められた片桐は断るが、社長の娘であるシングルマザーの中田あやに一目惚れする。片桐は営業担当として、店を手伝うことにした。
小岐須たちは鏑木を溜まり場に呼び、手を組もうと持ち掛ける。鏑木が「俺は誰にも指図なんかされたくないよ」と言うと、彼は「ここ鈴蘭てとこは、そう簡単に好きにさせてくれないんだよ」と告げて鈴蘭喧嘩偏差値の表を見せた。1位は強羅、2位は高木、3位は五島劣闘の寺島総司、4位は強羅一派のナンバー2である本多保、そして5位に鏑木の名前があった。しかし鏑木は「くだらねえ」と吐き捨て、その場を去った。
ちなみに6位は平修二、7位は七森工業からの転入生である山下甲兵だ。山下は平を見つけると、すぐに喧嘩を吹っ掛けた。そんな中、鈴蘭のアンタッチャブルであるリンダマンは「測定不能」という扱いになっていた。小岐須がダークホースと見ている加賀美は、ほとんど情報が無かった。下校途中、鏑木は施設の幼馴染である内田美枝がCDの万引きを店主に見つかる現場に遭遇する。鏑木は妹だと嘘をつき、警察への連絡を勘弁してもらった。彼は施設まで美枝を送り届け、職員の水嶋勝二に挨拶して立ち去った。
片桐が中田オートで働いていると、早秋一家大津組の連中がやって来た。牧瀬は片桐に、大津組が近辺の産廃業を仕切っていること、社長が生きていた頃は店の車を中国やロシアに流して荒稼ぎしていたことを話す。鏑木が小岐須に誘われてライブハウスに行くと、黒咲工業のトップである柴田浩樹が現れた。喧嘩しない理由を小岐須に問われた鏑木は、「親父みたいになりたくねえんだ」と告げた。柴田たちが岩田や桃山たちと喧嘩を始める中、小岐須は「ろくでもねえ親父なんだろ。親父に締められるのが怖いのか」と挑発するような態度で鏑木に告げた。
岩田が「黒咲にやられた」と頭の血を押さえて走って来ると、鏑木は幼少時代の出来事を思い出して顔を強張らせた。彼は黒咲工業の連中に殴り掛かり、小岐須も加勢した。パトカーのサイレンが聞こえると、柴田は鏑木に「場所変えようぜ」と促して一緒に店から逃げ出した。「続きやるか」と鏑木が訊くと、柴田は「今日はもういいだろう。それにお前とはまた会うしな」と告げた。彼は「お前、鈴蘭だろ。早くテッペン取れよ。その時、今日の決着付けようぜ」と言うが、鏑木は呆れたように「どいつもこいつもテッペンテッペンって猿みたいによ。俺は猿にはなりたくねえよ」と吐き捨てた。
片桐は大津組の新しい組長が奈良岡精三だと知り、挨拶に赴いた。片桐は恐縮した様子で、中田オートの店をそっとしておいてほしいと頼む。奈良岡は「なんでお前に指図されなアカンねん」と凄み、あやを騙して土地を売るよう協力しろと要求した。奈良岡は風俗ビルの建設計画を話し、年少を出たばかりの藤原一に声を掛けた。事務所にが来たので、片桐は「でっかくなったなあ」と懐かしそうに言う。かつて片桐は大津組の先代若頭の下で働き、その息子である加賀美のお守り役をしていたのだ。
奈良岡は片桐に、組で加賀美を預かっていること、跡目を継がせる予定であることを語った。藤原が高校に戻るつもりの無いことを語ると、奈良岡は「遼平からも、こんな言葉が聞いてみたいわ」と口にした。柴田は仲間の高杉信吾から、「聞いたか、藤原が年少から出て来るって」と言われる。柴田は幼馴染である元ナンバー2の藤原が既に出ていることを知っていた。藤原は喧嘩で柴田に火を放ち、止めに入った警官の腕を負って捕まったのだった。
柴田は下級生の角住賢一と丸山健一から勝負を要求されているところへ、藤原がバイクで現れた。彼は「心配すんな、こんなトコ、もう戻ってこねえよ」と生意気な態度で言い、柴田を挑発する。「喧嘩ごっこはもう終わりだ。俺はな、もう大津組の看板しょってるんだ」と藤原が言うと、柴田は鼻で笑って「ヤクザにケツ持ってもらわねえと何も出来ねえのかよ。相変わらずダメな奴だな」と告げた。鏑木は母と共に、父の墓参りに出掛けた。プロボクサーだった父は試合で頭部から出血し、それが原因で死んだのだった。「親父、強かった?」と鏑木が訊くと、風子は「負けてばっかしよ。自分勝手で好き放題。だから旋風雄には、真面目に生きてほしいの」と語った。
小岐須は鏑木が風子と別れてバスを降りる様子を目撃し、声を掛けて銭湯に誘う。鏑木に父親がいないと知った彼は、自分も父親が借金を作って夜逃げしたこと、桃山の父親はアル中で岩田は母がいないことを話す。そして「お前だけじゃねえんだよ。みんな色々あるんだ。だからよ、そろそろ腹割って俺らと付き合ってもいいんじゃねえか」と告げた。ヤクザの連中が小岐須や桃山たちを殴り付けていると、銭湯を訪れていた片桐が割って入った。しかし牧瀬に加勢を求めると「喧嘩は止められてるんだ」と言うので、片桐は困惑した。その隙に鏑木たちは銭湯から逃げ出し、片桐と牧瀬も後に続いた。
後日、加賀美を訪ねて鈴蘭高校へ出向いた片桐は、偶然にも鏑木と再会した。加賀美が来たので片桐は馴れ馴れしく話し掛けるが、冷たい態度で「うるせえよ。ここもアンタの来る所じゃねえだろ」と言われてしまう。片桐は鏑木に、加賀美の父が自分の兄貴分だったこと、抗争に巻き込まれて死んだこと、加賀美が親戚中をたらい回しにされたことを話す。そして「あいつが鈴蘭に入ったって聞いて、心底嬉しかったよ。これでやっと、あいつにもホントの仲間が出来ると思ってな。俺は、それを見届けるためにこの町に戻って来た。俺はよ、遼平にだけは、自由に生きてもらいてえんだ」と語った。
加賀美が大津組の事務所に戻ると、奈良岡が若頭の真島修に藤原を暴行させていた。奈良岡は藤原に、「最近、ウチの名前出して、外で色々弾けてくれてるみたいやな。困るなあ。預かりの分際で」と言う。「チャンス欲しいか」と問い掛けられた藤原は、「はい」と即答した。奈良岡の後押しを受けた藤原は、バイクチーム「ODA」の織田政志たちと共に鈴蘭の連中を片っ端から襲った。奈良岡は彼に、暴れるのは自由だが、決して組の名前は出すなと告げた。そして、そのどさくさに紛れて中田オートを叩けと命じた。
藤原はバンダナで顔を隠し、ODAを率いて中田オートに乗り込んだ。店の外にいた片桐は一味と戦い、藤原の顔を見た。牧瀬が来て加勢すると、暴れていた藤原たちは逃走した。藤原は強羅の元に現れ、「お前を沈めたら、鈴蘭は俺のモンだ」と言う。強羅が戦おうとすると、一緒にいた高木と本多が制止して「ここは任せろ」と告げた。強羅はODAの連中を叩きのめし、その場を去った。山下は小岐須たちが喋っているところへ現れ、喧嘩を吹っ掛けた。小岐須は藤原の鈴蘭狩りが始まっていることを告げて「俺たちが潰し合ったら自滅だ」と説くが、山下は耳を貸さなかった。鏑木は襲って来る山下を面倒そうに蹴り飛ばし、その場を去った。
鏑木は加賀美に気付き、「じろじろ見てんじゃねえよ」と凄んだ。加賀美が「鈴蘭を制覇するの、強羅さんか、旋風雄先輩かって1年で噂してますよ。俺は旋風雄先輩に賭けてますけど」と話すと、「勝手に言ってろ」と鏑木は冷たく告げた。寺島は動こうとしない強羅に腹を立て、「テメエが動かないなら俺が動くぞ」と言い放った。鏑木や小岐須たちが学校を出ようとすると、柴田が傷付いた本多を連れて来た。柴田は「藤原がウチの学校に置いていった。鈴蘭は手え出すな。落とし前は俺が付ける」と告げた。
奈良岡は藤原に、中田オートを放火するよう命じた。加賀美と遭遇した藤原は、自分が暮らしている廃棄場に連れて行く。成り上がりたい野心を口にした藤原は、「アンタが羨ましいよ」と口にした。「俺は藤原さんが羨ましいよ。俺は自分の力だけで生きて行きたい」と加賀美は告げた。強羅はODAの連中を叩きのめし、藤原の居場所を吐くよう要求した。「加賀美ってのがいるだろ。あいつに聞きゃあ分かるよ」と言われた強羅は不意打ちを食らい、ナイフで背中を突き刺された。強羅は加賀美の元へ行き、藤原の居場所を吐けと要求する。返答を拒否した加賀美は、強羅が他の男を相手にしている隙を見て叩きのめした…。

監督は豊田利晃、原作は高橋ヒロシ『クローズ』(秋田書店「少年チャンピオン・コミックス」刊)、脚本は向井康介&水島力也&長谷川隆、プロデューサーは山本又一朗、企画は濱名一哉、共同プロデューサーは佐谷秀美&岡田有正、アソシエイトプロデューサーは富田敏家&堀之内郁哉&矢部享祐、ラインプロデューサーは大里俊博、撮影は大塚亮、照明は水野研一、美術は橋本創、録音は柿澤潔、編集は村上雅樹、スタントコーディネーターは辻井啓伺、音楽は大坪直樹、音楽プロデューサーは古川ヒロシ。
出演は東出昌大、早乙女太一、柳楽優弥、勝地涼、永山絢斗、KENZO、岩田剛典、ELLY、高岡早紀、板尾創路、やべきょうすけ、高橋努、浅見れいな、深水元基、矢本悠馬、奥野瑛太、遠藤雄弥、柿澤勇人、柳俊太郎、一ノ瀬ワタル、山田健太、上松大輔、櫛野剛一、桜野裕己、有馬健太、三浦力、藤木修、野替愁平、丞威、渋川清彦、広瀬すず、仲野茂、松本雄吉、田中奏生、南出凌嘉、鬼丸、鈴木晋介、宇野祥平、松浦祐也、佐藤修、駒木根隆介、中山由香、中沢青六、笠松伴助、河崎賢一、升水柚希、大嶋宏成、村上正人、佐藤嘉希、手塚健人、兼近雄一、葛田徳之、原田麻由ら。


高橋ヒロシの漫画『クローズ』をモチーフにしたシリーズ第3作。
鏑木を東出昌大、加賀美を早乙女太一、強羅を柳楽優弥、小岐須を勝地涼、藤原を永山絢斗、高木をKENZO、柴田を岩田剛典、山下をELLY、風子を高岡早紀、奈良岡を板尾創路、あやを浅見れいな、岩田を矢本悠馬、桃山を奥野瑛太が演じている。
監督は前2作の三池崇史から、『モンスターズクラブ』『I'M FLASH!』の豊田利晃に交代。
脚本は『マイ・バック・ページ』『ふがいない僕は空を見た』の向井康介、プロデューサーでもある『クローズZERO II』『TAJOMARU』の水島力也(山本又一朗の変名)、『陽気なギャングが地球を回す』『猿ロック THE MOVIE』の長谷川隆による共同。

前作から1ヶ月後の物語という設定だが、実際には5年が経過しているんだし、そういうことでも良かったんじゃないかと思う。
1ヶ月後という短いスパンにしたことのメリットが、この映画には感じられない。むしろデメリットしか感じない。
前作から1ヶ月後なら、3年生だった奴らは卒業しても、1年生や2年生は在籍しているはずでしょ。それなのに、前作で1年生だった海老塚中トリオの桐島ヒロミ&本城俊明&杉原誠、鳳仙学園の漆原凌や美藤竜也が全く登場しないのは不自然でしょ。
一方で、前作では影も形も無かった奴らが急に喧嘩偏差値の上位へ食い込んでいるのも、すんげえ引っ掛かるぞ。
お前ら、前作では何をやっていたのかと言いたくなる。

前2作は小栗旬の演じる滝谷源治が主役だったが、今回は登場人物の大半を入れ替えている。前2作から続投しているキャストは、片桐役のやべきょうすけ、牧瀬役の高橋努、リンダマン役の深水元基の3名。
周辺のキャラクターを総入れ替えするだけなら、まだシリーズ続行の意味は分かる。ただ、主役からして交代しているのに、それでもシリーズ第3作を作る必要性がサッパリ分からない。
そりゃあ前2作はヒットしたけど、それは「監督が三池崇史」「主演が小栗旬」という部分も大きかったと思うのよ。その2人を欠いた状態で、しかも監督に迎えたのが娯楽精神の薄い豊田利晃って、それは無茶な企画だわ。
東出昌大がトライストーン・エンタテイメント(山本又一朗の創設した芸能プロダクション)に所属しているのなら、ちょうど映画『桐島、部活やめるってよ』やNHKの連続テレビ小説『ごちそうさん』への出演で人気も知名度もアップしたタイミングだし、さらにスター街道を歩ませるために主演作を作っておこうと考えるのは分からんでもないのよ。
でも彼は、トライストーンの所属じゃないわけで。
そうなると、ますます本作品の企画意図が分からないんだよな。

前2作が傑作だったとは思っていなくて、むしろ欠陥の多い出来上がりだという感想を持っている。
主役であるはずの源治が脇役キャラに食われているとか、ヒロインが邪魔なだけとか、ヤクザ絡みの話が要らないとか、色々と問題があった。
そういった問題は、この3作目に入っても全く解消されていない。
山本又一朗が引き続いて関わっているので、彼の意見が強く反映されているってことだと推測される。
そして、そのマタ山本が、前2作の欠陥を欠陥とは思っておらず、だから同じ間違いを繰り返しているんだろう。

まず「主役が脇役に食われている」という問題だが、今回の主人公は積極的にトップを取ろうとして行動するタイプじゃないので、周囲のキャラを動かして鏑木を輝かせる必要がある。
しかし、そういう作業が全くと言っていいほど見られない。それどころか、鏑木なんか無視して他のキャラクターを積極的に動かしている。
だから、「そもそも鏑木ってホントに主役なのか」と思ってしまうぐらいだ。
シリーズの裏主役である片桐の他に、藤原や加賀美の扱いがデカすぎて、その一方で鏑木の中身はペラペラなので、バランスが取れていない。

「主役が脇役に食われている」という問題は、「登場人物を無駄に増やし過ぎている」という問題とも関係している。
最初に「強羅が鈴蘭の喧嘩偏差値一位で、それを追う面々がいるという図式が提示される。
だったら、トップを目指す抗争が広がる中に鏑木も巻き込まれるという話で進めりゃいいのに、そこの筋が先へ進まない。それどころか、強羅は序盤で姿を消してしまい、後半に入るまで再登場しない。
山下は平に喧嘩を吹っ掛けた後、姿が見えなくなる。高木や五島劣闘も同様で、すっかり姿を消してしまう。

序盤で「鈴蘭のトップを目指す奴ら」として登場した連中が全て消えてしまう理由は簡単で、「鈴蘭のトップを目指す抗争」が描かれなくなってしまうからだ。
そこで話を進めるのかと思いきや、大津組という存在が出て来て、藤原を使って黒咲工業と絡ませていく。
そういう話になると、当然のことながら「鈴蘭のトップ争い」ってのは全く無関係だから、そこに関わる連中は登場できなくなるわけで。
つまり、単に登場人物が多いだけでなく、それが全て「鈴蘭のトップ争い」に関わる連中じゃないってのが大きな問題なのだ。

ヤクザを深く関与させることによって起きる問題は、「不良高校生たちの争いがチンケに見えてしまう」ってことだ。
藤原が「喧嘩ごっこはもう終わりだ」と言うシーンがあるけど、まさに「喧嘩ごっこ」にしか見えなくなってしまうのだ。
高校のトップになろうが、他の高校の連中を叩きのめそうが、所詮は学生レベルの「喧嘩ごっこ」でしかないでしょ。モノホンの悪党であるヤクザが本気を出したら、まるで話にならないわけで。
でも不良高校生を描く物語だから、そこは「喧嘩ごっこ」でもホントは構わないのよ。ヤクザさえ絡めなかったら、それが矮小化されてしまうことも無いわけでね。
つまり、本来は高校生たちしか登場しない「閉鎖的な世界」として構築すべきなのに、外の世界を持ち込んだことが失敗なのよ。ファンタジーなんだから、現実的な問題に近付けちゃダメなのよ。

鏑木の行動は、冒頭から支離滅裂だ。彼は小岐須たちから喧嘩を吹っ掛けられると、「喧嘩はしない」と言っている。
だが、そもそも小岐須を「ちけえよ」突き飛ばして喧嘩を売るような態度を取ったのは鏑木だ。
また、学校に到着すると加賀美を捕まえ、「車で人はねといて、すいませんの一言もねえのかよ」と詰め寄る。まるで自ら喧嘩を売るような態度ばかり取っているのだ。
それで「喧嘩はしない」と主張するのは、メチャクチャだとしか思えない。

そんで後ろから頭を掴まれると殴り飛ばしているが、それも大枠で言えば喧嘩みたいなモンだからね。ホントに「喧嘩しない」と決めているのなら、そういうことをされても我慢すべきでしょ。
ちょっと頭を掴まれただけでも我慢できずに暴力を振るうのに、そのくせ「喧嘩しない」とか言っても、説得力がねえよ。
それと加賀美の一件に関しては、「車で人はねといて、すいませんの一言もねえのかよ」はおかしい。まず、はねちゃいないし。
それと、責任は運転手にあるわけで。加賀美は乗っていただけだからね。そこは運転手に謝罪を要求すべきでしょ。
アホなのか。

そもそも「喧嘩はしない」と決めており、しかも「誰にも指図なんかされたくないよ」と主張するのなら、なぜ喧嘩のトップを決めたがる連中ばかりが集まる鈴蘭に転校して来たのか。
その理由がサッパリ分からない。
わざわざ「喧嘩のために行く高校」と言っても過言ではない場所へ転入しておいて、それで「喧嘩はしない」ってのは筋が通らないだろ。
前の高校を退学になり、他の選択肢が無かったのかもしれないけど、「だったら、そこまでして高校に通う意味は何?」と思っちゃうし。

「喧嘩はしない」と言いながら喧嘩したがっているようにしか思えない態度を取り続けるので、「喧嘩を望まない主人公が抗争に巻き込まれて云々」みたいな展開で盛り上げていくことが出来ない。
主人公を前2作と違って「トップを狙わない男」にするのは、別にいいと思うのよ。
ただ、それなら「売られた喧嘩は買うけど、巨大チームのトップになることは求めない」という程度にしておけばいいと思うのよ。
変な解釈でキャラクターを造形しちゃったモンだから、話が上手く進まないのよ。

喧嘩したくない理由について鏑木は、「親父みたいになりたくない」と説明している。プロボクサーだった父親が試合で出血して死ぬのを幼い頃に見ているから、それがトラウマってことらしい。
ただ、それだと「死ぬのは嫌だから喧嘩したくない」ってことになっちゃうし、それだと主人公としての魅力に欠けるわ。
それと、前の高校では喧嘩に明け暮れていたんでしょ。
だったら、「幼い頃に父の死を見て云々」という説明だと筋が通らないぞ。

鏑木は岩田の血を見て幼少時代を回想し、いきなり喧嘩を始める。
だけど「血を見たら豹変する」って、ただのヤバい奴になってるじゃねえか。
あと、そこで彼の豹変を描くなら、登場シーンで輪島を殴り飛ばすシーンは無い方がいいでしょ。
そこまでは「喧嘩はしない」という言葉通りに何があっても争いを避けていたのに、血を見た途端に豹変して自ら喧嘩を始めるという形にした方が、そのギャップやインパクトは出るでしょ。

柴田はライブハウスで鏑木と対峙しても、喧嘩を始めようとはしない。それは「パトカーのサイレンが鳴ったから」ってのが理由ではなく、最初から鏑木を気に入った様子を見せている。店を出ても自分の煙草を吸わせて、「お前、鈴蘭だろ。早くてっぺん取れよ。その時、今日の決着付けようぜ」と告げている。
でも、なぜ彼が鏑木だけを特別扱いするのか、それが良く分からない。そもそも柴田のキャラ描写が皆無に等しい状態なので、想像の余地も無い。
「俺のダチそっくりだよ。年少に放り込まれちまったけどな」という台詞があるので、そこを理由にしているんだろうけど、ものすごく薄っぺらくて説得力に乏しいわ。
そこまでに「柴田が鏑木を気に入って特別扱いする」ってのをドラマとしてそれなりに厚く描いていれば活きる台詞だけど、そうじゃないから「理由を説明するための台詞」として不格好になっているし。

冒頭、風子が鏑木を児童養護施設へ連れて行き、「すぐに迎えに来るからね。強く生きるのよ」と告げて去る様子が描かれる。そこから現在のシーンに切り替わるので、「ああ、母親は迎えに来なくて、それもあって鏑木はグレちゃったのかな」と思っていたら、50分ぐらい経過すると鏑木が風子と一緒に父の墓参りへ行くシーンがある。
ってことは、ちゃんと迎えに来たのかよ。そこは無駄なミスリードみたいになってるわ。
で、じやあ一緒に住んでいるのかと思ったら、バスで別れちゃうし。どうなってるんだ、ここの母子関係は。
そもそも施設に預けなきゃいけなかった事情も分からん。父親が死んでも、だから施設に預けなきゃいけなくなるってのは腑に落ちないし。

銭湯から裸で逃げ出すシーンは、そこだけ急に鏑木がコミカルなパートに参加するので違和感が強い。
それなら、そこに限らず他のシーンでも喜劇テイストに関わらせるべきでしょ。でも実際には、そこは小岐須トリオと片桐&牧瀬だけに担当させているわけで。
それなら、鏑木を1シーンだけ参加させるのはバランスが悪い。
あと、片桐も鏑木たちに続いて逃亡させるなら、その夜の内に2人の関係を近付けておくべきだよ。ただ「銭湯でチラッと見掛けた」という程度で次のシーンに移るのは、どう考えても得策ではないぞ。
直後のシーンで2人を絡ませるけど、それは1つタイミングが遅いのよ。そして、たった1つのタイミングだけど、かなり大きなマイナスなのよ。

片桐は鏑木に加賀美の境遇を語り、「あいつが鈴蘭に入ったって聞いて、心底嬉しかったよ。これでやっと、あいつにもホントの仲間が出来ると思ってな」と語る。
だけど、この映画で描かれる鈴蘭ってのは「喧嘩トップを目指して生徒たちが激しい抗争を繰り広げる」という場所なので、「ホントの仲間が出来る場所」という位置付けで語られてもスンナリと入って来ない。
ホントの仲間を求めるなら、もっと治安のいい高校を選んだっていいわけだし。
あと、「それを見届けるためにこの町に戻って来た」と言うけど、そうだったのかよ。加賀美と再会した時に「まさかの再会」みたいな反応だったのに、そこは違和感が強いなあ。

藤原が鈴蘭や黒咲の連中を片っ端から襲うのは、「ドサクサに紛れて中田オートを叩け」という奈良岡の指令を遂行するためではない。
奈良岡の指令は、あくまでも「ついで」みたいなモンだ。
で、藤原は強羅に「お前を沈めたら、鈴蘭は俺のモンだ」と言うけど、彼のモンになることは絶対に無い。なぜなら、藤原は高校を辞めているからだ。
だから、藤原が暴れ回って鈴蘭や黒咲の連中を片っ端から襲う理由はサッパリ分からない。
「俺がぶっ潰したいのはな、お前らガキども全部なんだよ」と言うけど、まるでピンと来ないわ。相手がガキだと思っているなら、最初から相手にしなきゃいいわけで。
「ガキだと言ってるけどホントは羨ましくて云々」みたいに解釈できないことも無いけど、それはものすごく好意的に解釈して捻り出した答えであって、映画を見ていても答えは見つからない。

なぜ小岐須が鏑木に固執するのかはサッパリ分からないけど、ともかく鏑木には彼を仲間に引き込もうとする小岐須という善玉キャラが近くにいる。
だから彼を利用して、「他人を遠ざけていた鏑木が、小岐須と交流することで次第に心を開く。喧嘩を拒んでいた鏑木だが、仲間である小岐須たちが危機に陥ったり、あるいは暴行されたりしたことで怒りを覚え、他の奴らと戦う」という流れでも作れば、鏑木が常に受け身のキャラであっても、主人公として物語を動かすことは出来ただろう。
しかし最後まで、鏑木が小岐須たちに心を開くドラマなんて無いのである。
鏑木が積極的じゃないんだから周囲の連中が動いて抗争を展開させるべきなのに、そこの動きも全く進まない。
結局、最後まで「鈴蘭のトップを目指す争い」ってのは描かれないまま終わっているのである。

加賀美は鏑木のことだけ「旋風雄先輩」と「先輩」を付けて呼び、特別扱いしている。
だが、鏑木は転入して間もないし、加賀美が彼の生活風景を多く見ているわけではない。
だから、なぜ加賀美が鏑木を特別扱いするのか、それが全く分からない。「実は過去に」みたいな設定があるわけでもないんだし。
で、全く分からないまま、ラストバトルの直前に「俺が勝ったら、友達になって下さい」と言い出すので、呆れ果てるしかない。
「なんだ、そりゃ」という鏑木の言葉は、その通りだわ。

ほとんど接点なんか無かったのに、終盤に入ると鏑木は柴田や強羅と以前から親しかったかのように話している。強羅なんて、鏑木のことを「旋風雄」と呼んでいる。
いや、いつの間に、そんな関係になったんだよ。お前ら、そのシーンまで1度も会話してなかっただろうに。
そもそも鏑木って抗争に全く参加しておらず、序盤で輪島を殴り倒しただけなのに(山下の時は足を払ってプールに突き落としただけで、喧嘩に勝ったという印象は無い)、なんで一目置かれる存在という扱いになっているのかと。
最後は鏑木に強羅一派も黒咲の連中も付いて行くんだけど、なんでだかサッパリ分からんわ。

終盤に入ると、鏑木はリンダマンと会って「俺がテッペン取るまで待ってろよ」と言うんだけど、なぜ急にテッペンを取る気になったのかサッパリ分からない。
その前に柴田が「そろそろ本気出して向き合わないと、大事なモン失って気付いたら手遅れで、傷ばっかり増えていくだけだぞ」と説いているけど、それで気持ちが変化したのか。
だとしても、やっぱり「なんで?」という印象は変わらないぞ。本気出して向き合った結果が「鈴蘭のテッペンを取る」って、どういうことなのかと。
こいつの気持ちの移り変わりに全く付いて行けないので、残り30分ぐらいになってようやく戦う気になっても、こっちの気持ちは全く高揚しないのよ。
そもそも、「溜めて、溜めて、終盤に爆発する」という方法を取っているわけじゃなくて、単に「本気になるのが遅すぎてダレる」というだけだし。

(観賞日:2015年11月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会